幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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22.儡々の歎き:②

「ポート・ブリーズには騎空艇の離陸が見られなかったとの報告」

 

「フレイメル島、アウギュステ列島、ルーマシー群島も同様」

 

「分かりました、報告感謝致します」

 

 

 現在、逃亡した元遊撃隊隊長を追う為に様々な島を虱潰しに巡っている。その報告を受けているところだ。

 3日前に起きた魔物の侵攻。あれは逃亡する為の目くらましに等しい。出来るだけ俺達に時間を使わせたいのか、広範囲に渡り一定の魔物が配置されていた。加えて、こちらの情勢を見極めて配置のパターンを変えてきた事もあった。

 しかし、倒せない強さでは無かったし、何より攻めるにしては意欲的では無かった。

 こちらの戦いに合わせ、様々な対応をする魔物達。俺には戦い方を模索して楽しんでいるようにしか感じられなかった。

 

 本来なら俺も積極的に追いたいのだが、島にいきなり霧が充満してしまったら島の民の混乱を招くし、何より俺がいるとバレてしまう。

 だから場所を特定し、追い詰めるまで霧は使えない。逃げの一手を潰す為に使うくらいだ。だから、遊撃隊隊長の素顔を知る者として司令官として任命された。

 

 ポート・ブリーズは腕の立つ騎空士が多い。見慣れない騎空艇が離陸したならば気付く者も多いはず。

 フレイメル島は工業の発展した国だ。正式な離着陸場以外で着陸する事は難しいし、見逃す事は無いだろう。

 アウギュステ列島は観光地で、海の危険が少なくない。だから警備体制は万全だ。

 ルーマシー群島の民は無干渉を貫いている。だからこそ俺達に嘘をつく道理は無いし、自然豊かな土地で生活しているからこそ、騎空艇の気配にはすぐに気付くだろう。

 

 

「アルビオンも無し。ガロンゾはありえない。メフォラシュには行く必要が無いし、ノース・ヴァストに行くには命を賭ける必要がある。ダイダロイトベルトには行く事が出来ないと推測。目立つ島はこんな感じです。どうですか? 聖騎士長、副聖騎士長」

 

「おおよそはそれで良いだろう。だが人が住んでいない島の捜索はどうする? 人が住んでいないだけで一人くらいなら住める可能性があるぞ」

 

「おいおい忘れんなよルクス。島だって領域だ。その辺はメフォラシュの国家が睨みを効かせてんだろ。無人島に価値は無いが、領空で好き勝手やられんのはムカつくってな」

 

「確かにな。だがコーリス……残る島はアマルティア島だぞ」

 

「アマルティアは豊かな島ですが何分特徴に乏しい。逃亡先候補としてワザと調査をしていません。ここで賭けに出ても良いかと」

 

「コー坊。他の候補は?」

 

「奴が使役している可能性があれば、ショゴスが眠る島でしょう。本に書いていなかったらしいので場所は不明ですが、個人的にはアマルティアの線を推したいです」

 

「その心は?」

 

 

 聖騎士長が厳しい顔で問う。

 当然だ。国の未来が掛かっているこの状況で、半端な理屈をこねても時間の無駄だからだ。正当な理由が必要だ。

 

 

「ポート・ブリーズには風、ティアマト。フレイメル島には火、人工星晶獣コロッサスの戦禍。アウギュステ列島は水、リヴァイアサン。ルーマシー群島は大地、ユグドラシル。アルビオンは契宿、名前は不明。メフォラシュは星の民との戦いで使用されたゴーレム技術。これらの島は全て星の力を拠り所として発展しています」

 

「逆に言えば今の世界、星晶獣なくして島は成り立たないと?」

 

「少なくとも、文化は一歩遅れるでしょう。今ですら星晶獣の解明は出来ていない。別の世界の物体みたいな物です」

 

「コーリス。お前は星晶獣と戦った事は無いだろう? 俺とエクシンダはあるが、大星晶獣以外はそこまでの強さじゃない。多種多能な権能さえ見抜ければ、強力なモンスターと考えてもいいだろう。理解出来ない境地に存在するが、力は常識の範疇だ」

 

「確かにショゴスは大星晶獣ではありませんが、本体は不定形の肉塊と聞きました。権能の形式上本体が雲隠れして時間をかければ大星晶獣を超える被害を出せるでしょう」

 

「だからこそ安全策を取るべきだ。目星をつけて絞るよりも、まだ詳細が不明な島へ各部隊を立ち上げ、当たりが出たらそこに援軍として駆けつける。ショゴスを使うとしたら広く魔物の布陣を作る可能性もある」

 

「そうですね……。その方向で行きますか」

 

 

 結局の所、透明にする魔法でも使わなければ何処かの国の領土を侵してしまう事は明白。

 俺はアマルティアだと思うんだが……。

 

 

「取り敢えず、隠密に秀でた騎士達を率いてアマルティアに行ってみます」

 

「何かあったら直ぐに駆けつけ……いや、事が起きる前に対処したい。他の騎士は真横の島に待機を」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「アマルティア……やはり何か妙だ」

 

 

 星晶獣が感じられる程の特徴は無い。

 かと言って歴史に沈んだ廃棄物の様な外見でもない。これは明らかに近代的な遺跡。森が茂っている。

 

 

「何だよ。これ……」

 

「……これは破壊痕ですか?」

 

「最近のやつっぽいぜ。しかも……血も何も付いていない」

 

「微妙に違和感を感じますね……」

 

 

 近くにいた仲間がひび割れた地面と瓦礫を見付けた。

 魔物というのは元来凶暴な物で、獣とは違い明確に害あるものと区別されている。だが、その性質故に生物しか襲わない。争った形跡の中で黒ずんだ血すら見つからないのは逆に不自然。

 そして人が争って出来る痕跡とはサイズが違う。巨大生物が歩いた跡だと言われても納得出来る。

 

 

「……陣形を」

 

「「「応!」」」

 

 

 ここにいる騎士は皆俺より年上だ。

 年上の中でもベテラン。この様な危険性を察知する任務においては隊列が何より。

 即座に盾兵が盾を構えて周りを囲む。魔法部隊は内側で掩護。剣士は切り込み兼監視。

 

 

「森へ向かいます。薄い霧を出しますので、上空からの奇襲に備えてください」

 

 

 剣を抜いて霧を出す。

 本来ならば勘付かれる為、これは得策では無いと思っていた。

 蓋を開けてみればどうだ。警戒するなと言うほうが無茶である。ならば不測の事態を感知した上でねじ伏せる。

 

 

「魔物が出たら即対応。元遊撃隊長には国家転覆罪の疑いがあります。気絶させた上で捕縛か死を」

 

 

 任務の再確認をした。

 当然皆命を奪う覚悟は出来ている。国を守る為なら身を汚す事を避けはしない。

 

 俺達は森へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

「7時の方向飛翔体! 3時の方向地中に潜航あり!」

 

「了解!」

 

 

 急に魔物の数が増えた。

 しかも強力では無いが対処に時間が掛かる物ばかり。戦略性を持って襲ってきていると感じる。

 

 50体を超える魔物を倒したが、未だに一定の間隔で襲いかかってくる。王国に迫ってきた時と同じだ。

 そして──

 

 

「──」

 

「どうした!?」

 

「皆さん。100m前方に元遊撃隊長がいます。投擲物の警戒と……信号弾を打ち上げて下さい」

 

「団長を呼ぶんだな? 了解」

 

 

 いた。

 見付けた。

 諸悪の根源。

 

 

 

 ──許すまじ。

 

 怒りを滾らせ前進しようとした時……

 

 地面一帯から巨大な竜が現れた。蛇の様な輪郭を持つが、動きは遅い。

 目の前に現れた竜の目玉に剣を突き刺し、脳を掻き混ぜ撃破する。

 

 

 

「地の竜!? チッ……逃がすかァ!!」

 

「間を突っ切ります! 盾兵3人ほど着いてきて下さい!」

 

「コーリス! お前は!?」

 

「居場所が分かるのは俺だけです!」

 

「分かった! 健闘を!」

 

 

 俺が倒したのを含めて地竜は残り5体。

 問題ない相手だ。

 

 

 ……しかし何を考えている。

 今の布陣で理解した。奴はショゴスの権能で魔物達に俺達を攻めるよう促し、また戦略までも教えている。

 

 だが、地竜は巨大であれど強大では無い。

 地面を潜るために硬い甲殻を持っているが、その重さ故に動きは遅く、更には弱点が明確。

 そんな魔物をけしかけた所で大して時間稼ぎにならない。加えてあの距離まで接近しておきながら今更逃げる。その事から察するに……誘われている? 

 

 俺に不意打ちは悪手だというのは理解している筈。

 

 

「……彼は止まりました。そして周囲に3体魔物が急接近してきます」

 

「種類はなんだ?」

 

「鳥類です。恐らくデカイだけなので剣でも捻込めば倒せるかと」

 

「……ムカつくな。何か」

 

「わかります」

 

 

 煽っているのかと疑うレベルで攻めてこない。

 だが、それが間違いだと言うことに気づいた。

 

「……なっ!?」

 

「コーリス!?」

 

 

 足に何かが絡みついている。

 これは……いや、()()()ショゴスか……! 

 紫色のブヨブヨした不定形の肉塊。その肉に埋め込まれた数多の

 

 まさか鳥の肉体に同化して触手を伸ばしてきたとは……! 

 クソっ! 油断した! 

 肉塊の姿をしているとは聞いていたが……スライム型の生物とは……

 

「離せッ!」

 

 

 剣を突き刺し離そうとするが遅かった。

 万力のごとく締め付けた触手を振り回され、丁度奴がいた場所まで吹き飛ばされた。

 

 

「すいませんッ!」

 

「気にすんな! こっちは任せろ!!」

 

 

 

 直ぐに体制を立て直して視点を切り替えると、奴が剣を構えて俺を斬ろうとしていた。

 

 

「シィッ────」

 

 

 

 鍔迫り合いが、その場に金属を音を響かせたのだった。

 

 

 

 

 

 ○○○○○○○○

 

 

 

 

「ハァっ!」

 

「……」

 

 

 鍔迫り合いが終わった。

 元遊撃隊長の剣は折れ、コーリスは健在。

 

 

 立ち姿には静寂が宿っていた。

 

 

 

「その剛力、使いこなしていたか」

 

「俺は拳術が不得手です。だからこそ剣を持つ手で斬撃に伝播させる」

 

「……なる程」

 

「……話、あるんでしょう」

 

「そうだな」

 

「彼等を魔物で殺すつもりも……無いのでしょう?」

 

「ああ」

 

「なら何故……国を出る時に二人殺したのです」

 

「騎士団に俺を敵と認識させる為だ」

 

「……」

 

 

 コーリスは思った。

 自殺願望ならばそれでも良かったと。だが、相手は確固たる意思を持って現状を作った。覚悟を決めた人間というのは厄介なもので、何かしらの結果を齎すのである。

 

 

「聖騎士は腐ってしまった。最早腐肉を貪り汚れ役を行うだけの組織に過ぎない。そこに意思や胸に掲げた使命は存在せず、今や行政機関の傀儡と変わらん」

 

「だからこの一件で皆の団結力を高め、騎士としての本懐を遂げさせようと」

 

「そうだ」

 

「結論は得ました──やりましょう」

 

「……ああ」

 

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

VS 腐敗聖騎士 遊撃隊隊長

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 お互いに剣を構えた。

 コーリスは両手で相手の攻めを待ち構えている。もう一方は右手で小剣を逆手に持ち、左手で腰に下げた何かを探っている。

 

 その瞬間、ナイフがコーリスの眉間に飛来する。

 それに驚く事もなく彼は手でそれを掴んで投げ返した。だが既に敵は彼の懐に入り込んでいる。

 

 狙われたのは首。

 彼は防御魔法で壁を貼り、遂にはその小剣は届かなかった。

 

 斬り合いは続く。

 

 

「これは相手の裏を掻く暗殺術の一種だが、今の遊撃隊の技術でもある」

 

「……?」

 

「知っているか? 遊撃隊は本来尖兵の役割を果たす物。本隊がどれだけ順調に任務を果たして人を助けられるか、そのサポートを熟す者」

 

「それは今も同じでしょう」

 

「否」

 

 

 元遊撃隊長の踵や手首に仕込まれた暗器がコーリスの急所を的確に狙っていくが、全て剣術により無効化されていた。

 

 

「今や国の邪魔者を排除する部隊でしかない。無論俺以外に暗殺を経験した者は存在しないがな!」

 

「それは引き受けたと言う事ですか!」

 

「それが前団長から渡された使命(呪い)だった! 俺は自身の死を持って共通の敵と成し、聖騎士本来の在り方を思い出させる!!」

 

「ならばもう十分だろう!」

 

「いいやまだだ!!」

 

 

 コーリスの斬り払いを躱した彼は魔法を発動する。

 風の魔法。斬撃に特化させた風圧は容易く人体を切り裂く。

 

 だが盾を裂ける風は存在しない。

 コーリスの盾はスルトやルクス以外には切裂けない代物なのだ。

 

 

「国には魔物の9割を向かわせる! その襲撃を経験した後、本当の意味で奴等は自身の役割を回願する事になるだろう!!」

 

「だから俺を狙ったのですか!」

 

「そうだ。お前が計画の要! お前の存在がこの計画に悪影響を及ぼす! だがもうこれで終わりだ……!!」

 

「ッ!?」

 

「ショゴスは求心の獣! 魔物との対話で各島の魔物を根こそぎ懐柔した! 最早既にリュミエールは囲まれているぞ!」

 

「……………………」

 

「今こそ実行の時! やれ! ショゴ───────…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───終わりです。元遊撃隊長」

 

「……コーリス? ここは何処だ」

 

「貴方はもう何も分からないし」

 

「何を言っている……?」

 

「そして──」

 

「な」

 

「俺を憎む事しか出来ない」

 

「が、は──!」

 

「今は、ただ俺を憎んで下さい」

 

「きさ、ま……コ──り……!!」

 

「もう、お休み下さい」

 

 

 

 コーリスの霧は4種類ある。

 感知の霧。茫然自失を促す霧。記憶を一瞬飛ばす霧。

 

 

 

 

 そして…………

 

 

 

()()()()()()である。

 

 

 

 

 

 ─────────────

 

 

 元遊撃隊長の首から鮮血が舞う。

 コーリスの剣の切っ先にはドス黒い血がこびり付いて、生臭いナニカを充満させていた。

 

 コーリスは虚ろな目で死骸に語りかける。

 

「人を憎みながら死ぬ事は、ある種上等だと愚考します」

 

 返答は無い。

 

 

「勿論安らかな死や、死に怯えることもなく一瞬で死ぬ事も楽でしょう。しかし……」

 

 

 静寂が痛い。

 

 

「無念も苦悩も無く、只憎悪という感情に身を任せられるのは……ある種楽と言えるのでは無いでしょうか」

 

 

 血の匂いが漂う。

 

 

「貴方は、本気で国を思っていた」

 

「遊撃隊が腐り始めて、団長を任されても尚、自身の身体のみ汚し続けて……壊れた」

 

「国王の命令でも無く、組織の横行でも無く、ただ役割に徹した結果腐った遊撃隊を……貴方は正そうとした」

 

「国を危険に陥れて、魔物を退けた後には人々は真の平和を追求すると」

 

「…………でも、終わりです」

 

「アマルティアに眠るショゴスは求心を司る獣。契約者のアプローチが無ければ動かないと文献に書いていたそうです」

 

「貴方は死んだ。後は、私が身を汚します」

 

「……お休み下さい」

 

 

 

 記憶を奪う霧とは、読んで字の如くである。

 相手の記憶の一部分を切り取って取り込む。奪った記憶は自身で閲覧でき、その情報を組まなく理解できる。

 但し他人の記憶を自身が喰らうということは、相応の負荷が存在する。人格面での影響を考慮すれば乱用は望めないし、コーリスの道徳観念上でも拒まれる。

 

 

「ショゴスはこれで眠りに付くか……。国の魔物も自身の島へ戻るだろう」

 

 

 コーリスは遺体を回収し、踵を返して盾兵の元へ歩いた。

 

 

「……終わった。帰ろう」

 

 

 その時だった。

 

 

 

「……?」

 

 

 目の前にショゴスが突如現れた。

 

 

「ショゴス……?」

 

 一応剣を構えるが、ショゴスは身動ぎもしない。

 ゆっくりと触手を広げて、目玉はコーリスをじっと見ている。

 

 

「何が目的だ……?」

 

 眠る体制かと思われた矢先───

 

 

 

±※÷‾¶※‰……(矢張り空は愚かだ)

 

「!?」

 

 

 コーリスの脳裏に言霊が過ぎった。

 

 

「これは……!」

 

☆×‾¶∆※π‼¤⁄÷‰(星を未だに理解していない)

 

「お前……まさか!!」

 

 

 コーリスの誤算。

 それは、ショゴスは確固たる意思を持っている事である。

 

 

 

「が──!」

 

 

 大地が鳴動し、空が裂ける程の衝撃。

 コーリスの意識はそこで途切れた。

 

 

 

 最後に彼が聞いたのは───

 

 

 

 大量の翼音だった。

 

 

 

──1章 完。

 

 





遊撃隊
・サポートチーム。
・国のサポートという側面を重視していた結果、ある時を堺に腐っていった。もう何十年前もの話。


元遊撃隊隊長
・37歳。男。
・暗殺任務を一身に請け負い、隊員の精神的崩壊だけは防いでいた。
・ある日、彼自身が壊れた。



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