幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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24.だにく

 

 

 ショゴスという星晶獣の話をしよう。

 

 約五百年前の歴史であるが、確かに存在した戦争。

 その名を"覇空戦争"。

 数千年前から星の民は空の世界を実質支配していたが、空の世界の主導権を正式に争った戦争はこれが唯一と言える。

 

 その中で星の民は多くの星晶獣を創り、ショゴスは初期型の一柱だったのである。

 元来星の民は感情に疎い性質を持っていた。その理由は決してその様な生態という訳で無く、発達した技術力と戦闘力が感情を育てる機会を奪っていたという理由がある。

 

 勿論、感情を宿らせた者もいた。

 絶対として君臨する為に力を求める者。自身の運命を呪うが故に知によってそれを脱却しようとした者。失った自身の恋人の姿を模って星晶獣を創り出した者。

 

 だが、ショゴスは感情を理解できない研究者が空を学ばせる為に創り出した獣である。

 低級の獣の様に最低限に抑えられている筈の知能も解放されていた。ショゴスが生まれた時の唯一の不満はその醜い肉体だけだろう。そのくらい初期型にしては優遇されていた兵器だった。

 

 

「合理性に欠けるな」

 

「何故ショゴスを創ったか。それがか?」

 

「ああ」

 

「直に分かる。それに本体の機能は最低限の強度に抑えた」

 

 

 ショゴスの存在理由は誰にも理解出来なかった。

 獣を持つ星の民が圧倒的有利。不平等な条約を結ぶにしても月とは違い言語は同じな為、意思疎通に特別な物は必要無い。

 

 

 

 ──起動開始から8時間後。

 

 ショゴスは初めて空の知的生物との邂逅を果たした。空の民。敵である。

 

 

「ヒィ!?」

 

「恐怖。必要。無。ショゴス。特性。求心」

 

「ひゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 言語の知識はあるが、会話という使用法を学んでいないショゴス。多眼の肉塊が目の前に現れたとなれば取り乱すどころか発狂もおかしくは無いだろう。

 

 

「対象。意識。消失。対象。復活。待機」

 

 

 結局、その日は気絶した男がまた起きて、即座に逃げ出すのをじっと見ていた。

 

 

 ショゴスは知能の設定は極めて高い訳でないが、学習機能の上限はどんな生物よりも高く作られている。

 彼はアプローチの仕方を変える為に、空の民の営みを数年に渡って観察し続けた。創造主は空の民と同じ言語を用いるので、動物や魔物と会話をするよりはまだ簡単だったのだ。

 

 

 

 ──起動開始から21年後。

 

 星の研究者達も星晶獣に対して何かしらの想いや理想を込めて作る事が多くなった。自身の作り出した星晶獣達が感情を発露させ、その逆流を受けるが如く自分達も感情を育てていったのである。

 

 未だショゴスは戦いという物に直接触れていないが、全ての生物との会話を可能にしていた。彼の能力は意思の疎通。自身の言葉が伝わる様に、相手の脳に対して意思を変換する能力。会話事態を完成させれば後はどうにでもなった。

 

 そして彼は、戦士達との関わりが多かった。

 それが同郷であれ、空の民であれ。

 

 

「アンタも難儀な事ねぇ……」

 

「空の民の区別は明白だ。人間に害する()()を持つ生物が魔物。猛獣が反射的に襲うという行動では魔物と見做されない。従って私は魔物とみなされていない。戦士達に偏見は無いのだ。メドゥーサ、君は恐れられているのか?」

 

「当たり前でしょ。メドゥシアナと何人石にしてきたと思ってんの」

 

「初期段階の話だろう? 今の君は」

 

「人間とは、何もしていないわ。これからもね」

 

「…………理解に苦しむ。君は何を持ってその容姿に造られたのか、考えた事は無いのか」

 

「お姉ちゃんと違ってなんでアタシだけ小柄って話? 石にするわよ」

 

「私が侮辱を嫌う事は君の周知の通りだ。私が言いたい事は、君の姿が人間に沿って作られているという事だ」

 

「知らないわよ。そんな事。アンタは何でそんな見た目なのよ」

 

「さて。案外、私が魔物を率いて空の民を撲滅する事を望んでいたのではないか? この通り、何もしない肉塊と成り果てたが」

 

 

 感情を持った獣達は、空の民の心に寄り添う事が多かった。

 或いは自身の役割に矛盾を感じ、理性を初期化された者もいる。

 ショゴスと話していたメドゥーサという星晶獣は、戦争の虚無を知り得た者でもあった。

 

 

「あー! ショゴス君いたいたー!」

 

「サテュロス」

 

「ぎゅー!!」

 

「何よこの光景」

 

 

 サテュロス。

 快活な少女に見える星晶獣であり、スキンシップとしてハグを持ちかける事が多い。ショゴスも即座に人の形に肉を変形させ、それを受け入れた。

 旗から見れば眩しい笑顔の少女がブヨブヨとした肉塊に抱きついているのだから、受け入れがたい光景となる。

 

 

「君は作られた当時から明るい性格だったな。創造主には似るものか?」

 

「私は私だもん! ショゴス君もそうでしょ?」

 

「そうだな。私は確かな学びを得た」

 

「アンタねぇ……学んだ結果がその回りくどい口調なの?」

 

「感情という物は確かな影響力を持つ。空の民の学者の語り口は私にとって大変心地が良かった。細分化されているのにも関わらず脳内に滑り込んでくる明瞭さ。これ等も先に育ってくれた感情の成せる結果だ」

 

「うーんと……つまり、気に入ったって事?」

 

「そうだ」

 

「何が明瞭よ。最初っからそう言いなさい」

 

「君は言葉を端的に求め過ぎだ。もう少し頭を回転させろ」

 

「こっ……! んの……!!」

 

「メドゥちゃん抑えて!!」

 

 

 ショゴスのやっていたことと言えば、理由の無い戦いを理性によって抑えていた事。

 対話。それは理性が許可した最大の生存方法である。それを利用し、ショゴスは戦いを事前に抑える事が出来た。

 

 とはいえ彼の見た目がそれを困難にさせていた事実もある。

 会話が出来る化け物というだけで、逆に警戒されるのは当然と言える。だが、彼は決して取り合わなかった。起きてしまった戦争では巻き込まれそうになる生物達を引き連れて秘境に潜り、起きる前には必ずアプローチをかける。

 

 彼が善性か悪性かは議論の余地があるが、少なくとも当時の空の民の中では無害という認識だった。

 年月が過ぎれば彼の生態に興味を持った学者が訪れ、両者共に充実した時間を過ごしていたし、戦争に疲れた戦士に自身の理論を語る事で視野を広げさせていた。

 加えて彼の知能は既に他の星晶獣を上回り、結果的に彼の知見にはメドゥーサやサテュロス等といった戦争を嫌う者が影響を大きく受けていた。

 

 

 

 ──起動開始から43年後。

 

 

「結局私はどうするべきだったのだろう」

 

「知れた、事……空の民は戦うべき相手……ならば、その頭脳を我々の勝利に結び付け─」

 

「黙れ。聞き飽きた」

 

「な……!」

 

「愚策だったな。あの様な陳腐な物を最終兵器にするとは。そう思わないか。フレイ」

 

「く……」

 

 

 覇空戦争末期。

 多くの星晶獣は自身の役割に抗い、空の民への理解を深めていった。つまり、裏切りである。

 人間と共存する者もいれば、人間社会から離れる者もいた。両者も、戦争から離れる事は一致していた。

 

 そこで完全なる勝利を目指し導入された星晶獣。

 名をアジ・ダハーカ。軍配を司る多頭の龍である。その能力は、星晶獣の役割を再認識させ、意思を戦意に転換するもの。簡単に言えば、洗脳の様なものであった。

 

 つい先程まで空の民と会話していた星晶獣が突如として人間を焼き払い始めた。

 メドゥーサが石化させ、彼等の身体を砕いた。

 

 意志の強さが伴っていれば、その権能を跳ね除けることは出来たが、それでもアジ・ダハーカの影響は大きかったのだ。

 ショゴスはその光景を見て初めて戦争に顔を突っ込んだ。反射的な行動ではあったが、アジ・ダハーカとの会話を試みたのだ。結果は失敗。

 

 アジ・ダハーカは役割に忠実な猛獣の様なものであった。

 自らの力を振るい、外敵を確実に駆除する。高度な目的意識を植え付ける科学者の技術と、空の世界の獣を忠実に混ぜ合わせた結果がこの星晶獣だったのだ。自身の行動に疑問を持たないし、思考の前には蹂躙が来る。対話の余地は無かった。

 

 最終的にはナタク、エニュオ、ポセイドン、マキュラ・マリウスという四体の星晶獣によって鎮圧されたが、この戦いによって、星晶獣の中でも明確な派閥が出来上がった。

 星の民側か、空の民側か。少なくとも、ショゴスは星の民の敵と見られた。

 

 

「私の能力は、使い方次第で生物同士の心を繋げられるものだ。だが、肝心の同族には無意味らしい。それは言葉通りの意味ではない。お前達には感情の是非が分からないからだ」

 

「何を……言って」

 

「空の民は何故敵なのだ。お前は何故戦っているのか。何故役割に徹しているのか。何故創造主に忠誠を誓うのか。自身は兵器だと宣うのに、何故激情を持つのか。お前の様な星晶獣の中に一つでもこれ等の質問に答えられた者はいなかった」

 

「……」

 

「だから私の様な醜い肉塊に敗北するのだ。感情の先に意思を持っていないから」

 

 

 ショゴスは進軍した。

 獣、空の民、魔物。意思疎通の通訳を請け負うことで一時的に勢力をまとめ上げ、敵を星の民と断定した。

 空の軍は今やショゴスが率いる非人類と、此方に友好的な星晶獣。勢力図が一気に変わり始めた。

 

 

 

 

 そして──戦争が終わった。

 平和が訪れた。誰もが休暇を享受し、笑顔を振りまいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ショゴスは空と敵対した。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 

 ──起動開始から44年。

 

 

 

「アイツを狙え!! アイツだけやれば烏合の衆だ!」

 

「なぁ!? 何だお前らやめっギャァァァァ!!???」

 

「くっ……魔物を唆したか……! 醜い獣め!」

 

 

 

 

 空の民、星晶獣、獣と魔物。

 3つの陣営により勝利を収めた空だが、その内の獣と魔物を率いたショゴスは危険視された。

 

 人間にはショゴスの権能が、対話では無く洗脳に見えたのだ。人間に害する魔物を率いていたのも一因であり、戦争が終わった後も魔物の行動は変わらない。人間を襲う。

 

 一方獣は魔物とは違い人を意味も無く襲わないとされる動物であるが、その彼等もショゴスに従っていた。

 

 

「君達が私を庇う必要は無いぞ」

 

「────! ─!」

 

「……今なら人間に勝てると?」

 

「──!」

 

「君達が人を襲うのは、単純に住処を欲している故か」

 

 

 

 当時の魔物の定義は現在と異なる。

 当時は人間を害すれば何でも魔物足り得たが、現在では魔力で構成又は強化された怪物という定義。つまり、住処を追われて抗う獣すらも魔物とされていた。

 

 ショゴスだけがその意思を理解出来、人間に伝える事が出来た。だが、人間はそれよりも早く行動に移した。

 数多の国同士で編成された連合隊が、森で悠々と獣と暮らしていたショゴスに襲いかかったのである。

 

 

「コアを破壊されない限り私は死なない。だから君達は命を大事にするといい」

 

「──」

 

 

 

 ショゴスはまだ、人間を許していた。

 その戦いは両者少ない犠牲で事を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 ──起動開始から45年。

 

 

 

 ショゴスは、違和感を感じていた。

 襲いかかってきた人間達が動きを止めた。島を転々とし、追われながらに過ごしてきたが、調査の目が及ばなくなった。

 

 

「彼女達は何をしているのだろうか……」

 

 

 会わずの友達を思い浮かべ、ショゴスは平穏を望んだ。

 

 

 

 

 ──起動開始から47年。

 

 

 ショゴスは理解した。

 人間が自分を突如追わなくなったのは諦めではなく、準備だったのだと。

 

 

 人間達は先に魔物から討伐する事を選んだ。

『ショゴスに洗脳される前に、どうせ害獣なのだから、これを機に撃滅しよう』という理由で、生態系は尽く空の民に崩壊させられていた。

 事実、近隣の島には人間しか生息していなかった事もあった。

 

 また、動物の亡骸が島々で見られる様になった。

 感情を理解出来るショゴスにとって、人間も獣も違いは分からなかった。それ故に怒り、狂い、人間に与することを辞めた。

 

 

 その初めの裏切りに──ショゴスは人の言語を捨てた。

 

 

 

 

 ──起動開始から48年後。

 

 ショゴスと魔物が一国を落とした。

 

 

 

 ──起動開始から51年後。

 

 ショゴスが"戦争"を開始した。

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 ──起動開始から52年後。

 

 ショゴスが四体の星晶獣と相対した。

 

 

¥€……¥€……(はぁ……はぁ……)

 

「終わりだ。ショゴス」

 

§№±……(ナタク)

 

「不協和音……お前は言語という音を捨てたのだな」

 

 

 ショゴスの戦争行為は、創造主が望んだ通りの戦火を齎した。種としての上位に当たる魔物が物量と戦略をもって人間に敵対する。先ずは民家を襲い、食料と土地を踏みにじり、城を落とす。

 

 だが、一国を落とした所で知古の星晶獣が自身を止めに来た。

 ショゴスは追い詰められ、遂には自身の体積の8割を失った。味方であった魔物も人間と星晶獣に殲滅された。

 

 

÷¶(黙れ)……!」

 

「……虚しいものだ。あの戦争を止めたのはお前だったというのに」

 

 

 メドゥーサ、サテュロス、ナタク、バアル。

 4名がショゴスを止める為に戦った。

 

 

 ナタクは力の象徴とも言える存在であり、炎と槍術を用いる戦闘特価の星晶獣である。魔物を焼払え、かつショゴスの元へ直進できる速度を持つ。

 

 バアルは雷を操る事が出来、それは彼の力の一端ではあるが、動きを止めるに最適だった。

 

 

 

「馬鹿やったわね……アンタ」

 

×÷¶∆¤÷±π(私は間違っていない)……!」

 

「……なら、何であんなに殺したのよ」

 

 

 

 ショゴスは、反射的に多用していた人間の言語を用いて、息も絶え絶えに声を荒げた。

 

 

「お前達は……感情を理解し獲得しておき、ながら……何故、獣の声に耳を貸さ、なかったのだ……!?」

 

「獣……?」

 

「そう、だ……私達ではない……動物の獣だ……! 彼等は、感情と、意思を持っていた……姿形以外……私には人間との違い、が……無いと思えた……!」

 

「ショゴス。お前、何をされた」

 

「何もかも……だ……!」

 

 

 言語と種族という物は理解に於いて重要である。

 同時に価値観というのは千差万別と思われているが、それもまた完全な理解ではない。

 

 人間には獣の価値観が分からないと言われるが、実際獣達は彼等と思う事は一緒である。種を守り、住処を守り、命を繋ぐ。

 彼等が家を作る様に巣と群れを作り、飲み食う様に餌を求める。彼等と解り合えないのは言語という壁があり、姿形が異なるからだ。

 

 

「私は……悲しみを、聴いた。だが、人間はそれを、痛みによる雄叫びにしか捉えなかった……。知っているか……? 覇空戦争の真っ最中でさえ……今よりも動物は多かった、のだ……」

 

「人間に対話は通じなかったのか……?」

 

「通じるからこそ……恐れられたのだ……。皮肉なこと、に人間は獣が自分達程知性を持つと思っていなかったそう、だが……知性を持ち、自分達に並んだ時の想定はしていた……」

 

「その想定が、この結果か」

 

 

 ナタクは事の顛末を理解した。

 そして吐き捨てる様に言葉を紡いだ。

 

 

「……星と、変わらないじゃ無いか」

 

「これが、人間なの、だ……ナタク」

 

「だが、ショゴス。お前が人間を滅ぼしてしまったら、それこそ空は……いや、世界の在り方は」

 

「人間など必要あるものか」

 

 

 ショゴスは憎しみを持ってしまった。

 彼にとって人間も獣も等しく尊い命である。何方も踏みにじってはいけないとしていた物だったが、それも忘れてしまった。

 

 彼が軽蔑していたのは星の民では無く、人間の育ちすぎた感情だったのだ。

 それを彼は、親しい獣を殺された直後に自覚した。

 

 

「私は星の民、を侮蔑する……。しかし、生きる為の、最低限の感情、を孕んでいた古来は、そうでなかった、筈だ」

 

 

 思えば彼の創造主は彼を何の為に作ったのか。

『直に分かる』という言葉は、本当に正しい物だったのか。それは分からない。

 

 強いて言えば、創造主は恐ろしい先見性を持ち、人間嫌いで、植物や動物が好きだった。

 

 創造主にとっての"直"は覇空戦争後だったのかもしれない。

 

 

「人間をねだ、やしにし……本当の生の循環が、守られるまで、私は感情を使い続け、よう……!」

 

「……」

 

「空の民に、呪いあれ」

 

 

 この後、ショゴスは永い時を必要とする眠りについた。

 コアを破壊すれば永遠に停止させる事も出来たが、四人の星晶獣は何故かそれをしなかった。

 

 彼等にとってショゴスは友であり、戦争を終わらせた英雄であり、理想を見出した尊敬すべき先達であったのだ。

 だからこそ、身体が再生し眠りから覚める時が来るのなら、また四人で集まって、彼を説得しようと。そう決めたのだ。

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 数十年、数百年と重ねて眠りから覚めてきたショゴスだったが、人間への恨みは消えなかった。

 それを見たバアルが雷で動きを止め、メドゥーサが一部を石化し、サテュロスが剣で逃げ場を囲い、ナタクが槍で肉体を焼き尽くす。それを繰り返し行う事で、ショゴスが人間に仇なす事は無かった。

 

 何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も、ショゴスは憎んだ。

 彼が考えを改めない事は自明であるが、それでも彼等はショゴスを殺せなかった。ショゴス自身も実質封印に近いそれを繰り返され、やがて思考を止める直前に至った。

 

 

 

 ──しかし、何十回もの眠りの中で、ショゴスは()()()()()

 いつの間にか出来た騎士の国、その遊撃隊の男に。

 

 

 彼は人間がでっち上げたショゴスの権能を信じ込み、利用しようとした。

『ショゴス自身に感情は無い』という嘘を。

 純粋に考えて、感情が無いのに対話をして魔物を率いた事を疑問視するべきだろうが、どう足掻いても人間にとって彼の対話能力は洗脳に受け取られるのだ。

 

 そして再生途中の彼を起こした騎士の男は言った。

 

『腐敗した奴等の目を覚ます──』と。

 

 

 失笑を禁じ得なかった。

 人間は自らを正す為に同族を刃を向けるのか。何百年経っても人間は変わらない──否、悪化していると言える。無意味に種を危険に晒すのは人間だけだ。矢張り、世界を存続させるには第三の種族が必要。

 

 しかし、一定の周期の再生を無視して自分を叩き起こしたこの男を利用するしか手は無い。少し待てばまたあの四人が自分を封印しに来るのだから。

 

 だから、ショゴスはなるべく意思を持たない駄肉を演じた。

 この男は自分の力の使用法を理解していたのだから、それに則ってリュミエールとやらを襲い、四体の星晶獣に勘付かれるまで隠れて獣達を再集し、戦力を蓄える。

 

 封印される直前に比べて獣達の数は減ったが、龍種等の寿命が長い生物は一代またいでショゴスという存在を語り継がれている。

 その者達の背に乗って、各地の同族を説得し、人間への対策を練り始めた。当然静かに暮らしたいだけの者もいたが、それでも構わなかった。人間が死んで困る訳でも無かったからだ。

 

 そして人間に飼育されている者は生活に苦しむ可能性があるが、その時は星晶獣達が人間に変わった行動を取ればいい。

 

 

 ……つくづく、人間は不要なのではないか? 

 

 

 

 

 ショゴスは、偏った視野の狭さを自覚せずに、ただ人間を滅ぼす事を考えていた。

 種としての在り方、育ちすぎた感情を排斥する──元来の星の意思を原動力とし、彼は只管睨み続ける。

 

 

 

 ──ルクス、コーリス、スルトの三人を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





・ショゴス
星トモの面子と仲が良かったが、特別一緒にいる訳でも無かった。封印されていた土地がアマルティアと呼ばれる様になった。長年人が住んでいない島だったので、魔物が蔓延る中心地で眠り続けていたが、元遊撃隊長が掘り起こした。

・ショゴスの文献
コーリスは、ショゴスが人間を唆して文献に意思を持たない獣と書かせたと考察していたが、実際は彼を恐れた過去の人間がでっち上げた内容。冷静になって読めば可笑しいということに気づく。

・星トモ
現在全速力である島に向かっている。
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