幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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26.魂の咆哮

 

 

 

 轟音が鳴り響く。

 咆哮と、炎と、金属の音が混ざり合って、血なまぐさい音を奏でていた。

 

 一人は、光が尽きながらも卓越した剣術で敵を殲滅している。

 一人は、炎を全身に纏いながら生命を溶解させている。

 一人は、希望を見つけながら抗っている。

 

 

 泥沼の様な身体、太刀筋のキレなど既に失ったが、コーリスは戦い続けていた。

 ルクスの様に全面に立って守る訳でも無く、スルトの様に殲滅する事で船を守っている訳でもない。コーリスの船の全員が死力を尽くして運命に抗っている。

 

 

「ハァ……ハァ!!」

 

 

 剣士は肉面が見えれば只管得物を振り回し、剣が折れれば銃を持ち込み撃ち込む。

 盾兵は盾を翼膜に押し込み、盾が無くなれば拳を目に突き刺す。

 魔法使いは力が無くなるまで魔法を使い続け、折れた杖が尖っていれば傷穴に刺し続けた。

 医療部隊は自身の寿命が縮んでいる事も気にせず、戦士達を癒やし続けた。

 

 コーリスも同じだ。

 口内、眼球、首元。脳髄に届きそうな部位を意地でも狙っていた、傷を付けたあとに魔力で作った盾を直接ねじ込む。殺せなくとも、動けなくすれば良い。勝手に落ちてくれるのだから。

 

 彼等の瞳は気狂いに等しかった。

 爪で体を抉ろうとも常に相手を睨み、最後の抵抗と言わんばかりに武器を振るう。龍の巨大な牙で身体が2つに引き裂かれようとも、その死骸は怨敵を永遠に見ていた。

 

 きっと、彼等は死んだ後も戦い続けるのだろう。

 そう思わせる風貌がそこにあった。

 

 

「コーリスさん……コーリスさん!」

 

「なんだ!」

 

「何でもありません生きているかの確認です!! 生憎後ろが見れないので!」

 

 

 背中を預け合う両者は既に傷を何度も経験していた。

 肩や腰に何度も切り傷を付けられ、その都度医療部隊が自らの命を絞り出して癒やす。ロイスは自分で回復魔法を使えるが、それでも限界があった。

 

 エルーンの耳が逆立ち、眼孔を獣の如く開き、低姿勢で戦う姿は、彼等が死に際にいる事を物語っていた。

 しかしそれでも、二人は笑っていた。嗤うのでもなく、嘲笑うのでもない。ただ、楽しんでいる訳でもないのに、笑っていた。

 

 

 ──たとえ私が死の影の谷を歩もうとも、災いを恐れない。あなたが私と共にいるからだ。*1

 

 

「ッ!」

 

「そこォ──!!」

 

 

 真横から介入した巨大な(アギト)

 ここに来てようやく二人は一緒の方角を見て──眼光を残像として残す程の流麗な動きで、その口内から喉めがけて両断を心がける。

 

 

「は、ァァァァァァぁ!!!!!」

 

「ぐぬぅあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 コーリスはその身体が秘める剛力で以て、ロイスは憤怒による自らの限界超越で以て、敵の血に変えた。

 

 だが──その代償は重く。

 

 

「っ……」

 

「あ……」

 

 

 二人の剣は、木の枝の様に儚く折れた。

 

 その刹那の時を、敵は逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 ○○○○○○○○

 

 

 

 

『私達は、相棒になります』

 

『……?』

 

『私は本隊。貴方は遊撃隊。それ等になんの違いもありません』

 

『…………?』

 

『何がなんだか分からないって顔してますね』

 

『いや、うん。意味が分からない』

 

『……だーかーらー』

 

 

 この日も私は、何時ものように彼を呼びました。

 遊撃隊に入ってから一層浮かない陰鬱な顔をしている彼を、休日偶然見つけたんです。

 

 彼は士官学校時代からそうでした。

 元の顔が関係している分もありますけど、ちょっとの事で抱え込んで悩むのです。そして、厄介なのは、彼の悩みにその『ちょっとの事』じゃない物が紛れ込む事。

 

 彼は捨て子で、つい最近育て親や幼馴染に二度と会えなくなりました。

 それはちょっとの事ではありません。深刻な苦しみです。

 

 だから、私は彼に言いました。

 

 

『頼れ、という事です』

 

『…………』

 

 トラモントという島が封鎖され、それでも立ち直った彼がまた悩んでいる。遊撃隊には黒い噂が多い。彼は雑用時代から頑張ってたから、皆さんからの評価は高かったのですが、それでも毎日疲れ果てて帰ってくるのを見ます。

 

 スルトさんと私は、それを見て鍛錬に望むのです。

 彼が苦しまないくらい任務をこなしてやろう、と。

 

 その意を汲み取ったのか、何時もなら余計なお世話と一蹴する筈の口は閉ざされていて、目からはほんの少しの涙が溢れていました。

 

『ありがとな。だけど、俺は()だ。守るなら、俺にやらせてくれ』

 

 

 私は、この時から正しい意味で人を守りたいと思ったのかもしれません。

 

 いつの間にか空で龍と戦って、何とか生き残っていますけど、本来なら一体倒しただけで勲章貰えるくらいの働きなんですからね? 

 皆、落ちて。もしかしたら、元クラスメイトもあそこにいたのかもしれませんけど……私達は最期のまで戦えます。

 

 

『はァァ!!』

 

 

 脇腹を左手で治癒しながら剣を振るった。

 その痛みを我慢する度に、貴方は此方を見ています。でも、それは杞憂です。私だって、強いんですから。多分……私の方が、痛みに強いんですから。

 

 

 だから、ほら。

 笑って下さいよ、コーリスさん。貴方には、皆がいます。

 

 変人の団長も、チャラ男な副団長も、馬鹿なスルトさんも、皆貴方を信頼しています。

 だから貴方も私達を──

 

 ───()を、頼って下さい。

 

 

 そう思いながら、折れた剣と共に自分の最期を、悟りました。

 後悔はありません。

 

 

 

 だって──()()()()()()()()()んですから。

 

 

 

 

 ○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 剣が折れた両者に向かって裂かれた口腔を向ける龍。

 

 最早二人に逃げ道は無い。

 だが、敵が想定している動きとは別に──ロイスが前に出た。コーリスを後ろに倒しながら。

 

 彼女は美しい慈愛の目をコーリスに向けて、彼を守った。

 

 そしてそのまま────コーリスは足を踏み出した。

 

 

「…………だから言っただろう」

 

 

 

 龍の口が、何かを詰め込まれたかの様に膨張した。

 

 

「俺は、盾だと……!!!」

 

「コーリス、さ」

 

 

 彼の左腕には多重の盾が纏わりついていて、その腕が龍の喉に突っ込まれていた。

 だが、即興で作られた防御魔法は脆い。

 

 加えて噛み砕きに特化した顎。

 コーリスの盾が破られる事は当然の帰着であった。

 

 

「やめっ」

 

 ロイスは先程の表情が嘘の様に消え、絶望一色に染まった顔を見せた。神に縋る信徒の如き動きで手をコーリスに伸ばした。

 

 ロイスに倒されたコーリスは自前の剛力を足に使って逆に彼女を後ろに倒した。

 噛み付きを防ぐ為に即効で作った脆い盾を重ねて、何とか一時は凌いでいる。

 

 つまり、ロイスを助けるという役目を終えた彼の盾は──

 

 

 

 

 

「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 ──彼の左腕と共に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 

 

 

「何処だ」

 

 

 炎が、語りかける。

 

 

「何処だと、聞いている」

 

 

 龍はその言葉に対する答えを持たない。

 

 

「根絶やしにされたいか」

 

 

 スルト・ヴァーグナーは絶えず飛んでいた。

 この戦闘における魔物の7割は消失した。しかし、此方の弾薬と兵力が尽き、フェードラッへの援護があってようやく壊滅せずに済んでいる。

 

 本来ならばショゴスを見つけていてもいい頃だが、一向に見つからない。それが、苛立ちを倍増させていた。

 

 生命を溶かす程の高熱。最早自然現象の範囲を超えた出力だが、依然として敵は抗戦姿勢を崩さない。

 ここまで来たら、他の国に兵力を回して着々と対応に追わせる筈なのだが、聖騎士団を壊滅させる事に拘っているようにも見えた。

 それがスルトの考察である。

 

 

 それは正しかった。

 魔物達を突き動かしているのは人間への怒り。"戦略"という概念に馴染める程彼等は人間に近しく無かったのだ。有利な筈の空中で数多くの同士を失えば、怒りで暴走し、騎空艇に飛びかかっても可笑しくない。ショゴスの会話の能力では、説得は出来ても意志の固定は出来ない。つまりは、統率が取れていない。

 かろうじて自分を守る陣形は保てているが、いつ目の前の炎に溶かされるのか分からない。

 

 人知れず、ショゴスは追い詰められていた。

 

 

(長らしき男の光は既に途絶えたか……ならば、外敵と見做すべきはこの炎の少年のみ)

 

 

 霧を使えば味方の視界も悪くなる為、コーリスの妨害は望めないし、何よりスルトは他の船の状況を把握出来ていなかった。

 ショゴスはそれを理解していたから、未だに生きている。

 

 スルトもまた、追い詰められていた。

 

 

(何とかして本体を焼き尽くさないと……!!)

 

 

 炎を噴出し、群れに突撃しようとした瞬間───

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 龍の群れで構成された竜巻に、一つの槍が突き刺さ

 った。

 

 

「なん……だ?」

 

「────§¥€€¶×!!!!」

 

 

 スルトの疑問と共に、謎の叫び声が木霊する。

 それは、ショゴスの声だ。

 

 そして、群れに突き刺さった巨大な()()()は、その勢いを増し、爆撃に近い衝撃を生み出した。

 

 

 

「うおっ!!??」

 

 

 堪らずスルトは爆風に晒されるが、その彼を一人の男が回収した。脇に抱えられたハーヴィンは直ぐに上を向く。

 

 

「良い炎だ」

 

「…………だれだ?」

 

 

 その男は、斧の様にも槍の様にも見える紅い武器と、青い鎧を着ていた。

 そして、最大の特徴は──浮いている事。

 

 

 

「よく耐えた。勇敢な戦士達」

 

 

 その男の名は──ナタク。

 

 

 

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 

「これは…………」

 

 

 騎士団長ルクスは人生で最も珍妙な光景を目にした。

 

 それは、此方に襲いかかった幾多の魔物達が()()()()()、空へ落ちていったのである。

 呆然とした表情で彼は生き残った部下に声をかけた。

 

 

 

「……だれか、すごい魔法使いでもいたのかい?」

 

「魔法じゃないわよ」

 

 

 その声は、部下の物では無かった。

 程よく透き通り、子供の声にも聞こえるソレは、自身が乗っている船から聞こえたものだ。

 

 彼は直ぐに振り向いた。

 

 

「行くわよ、メドゥシアナ。これは、アタシ達の責任なんだから」

 

「キシャァァァァァォァ!!!」

 

 

 そこには、独特な形状の装備を纏った紫髪の少女と、巨大な蛇。

 ルクスは聡く理解した。

 

 彼女は、星晶獣だと。

 

 

「私達は……失敗したんだから」

 

 

 その憂いを帯びた声と共に、空間から吐き出された光線は敵の絶望を表す石像を作り出した。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「死なないで……死なないでコーリスさん……」

 

「……に、げ」

 

「嫌です……いや、だ……!!」

 

 

 左腕に風穴が空いたコーリスは、出血と激痛による意識の混濁を引き起こし、かろうじてロイスの悲鳴で意識を保っている。

 

 だが、彼の腕を奪った龍がまだ此方を見ている。

 ロイスは崩れ落ちた彼を引き摺り、少しでも牙から逃れようと足掻く。

 

 コーリスは、自分は助からないと悟った。

 

 

 

 

 

 

 だが、運命は常に偏るものだ。

 

 

「きゃぁっ!?」

 

 

 目の前の龍の頭部に、青紫色の硝子の様な、それでいて巨大な剣が3本、煌めいた。

 

 

 

「大丈夫。二人共助けるからね」

 

 

 それは、慈愛に満ちた優しい声だった。

 ロイスはその声に途方もない安心感を覚え、コーリスは無意識に母を思い出していた。

 

 

 彼等の目の前に、一人の少女が振り立った。

 快活で、母性的という矛盾を抱えた風貌は、人外のソレだった。

 愛くるしい見た目をした少女が手をかざすと、二人の傷は忽ち塞がっていった。

 

 

「な……」

 

「これは……コーリスさんっ! 腕!」

 

 コーリスが驚きの声を上げるも、少女は申し訳なさそうに彼の腕を撫でながら説明をする。

 

 

「ごめんね。私は癒やしの星晶獣じゃないから、人間の回復力の限界を超えられないの。だから……傷も残るし、君の腕は……」

 

「……いえ、感謝します」

 

「…………良い子、だね」

 

 千切れかけの内側の傷が塞がる事で、外側の腕は肘下から弾き剥がされるように落ちた。

 彼に痛みは無かった物の、その光景は痛々しい物であった。守られたロイスは、砕けんばかりに歯を噛み締めながらも、一時の激情を抑え目の前の少女に問いかけた。

 

「救援感謝致します……それで、貴女は……」

 

「私はサテュロス。安心して、もう死なせないよ──!!」

 

 サテュロス。

 そう名乗った少女は巨大な剣を出現させながら叫んだ。

 

 

「コーリスさん……サテュロスって」

 

「ああ、文献で見た事が……」

 

「……凄い」

 

 

 戦場には炎、光線、巨剣が入り混じり、圧倒的な攻撃力で敵を殲滅していく。騎空艇も無しに飛ぶ事が出来、大砲や至近距離での大火力でしか下せなかった龍を一薙ぎで撃墜。

 

 

「さぁて!」

 

 

 此方に迫る龍を一網打尽にしたサテュロスがロイスに向かって呼びかける。

 

「そこの水属性っぽいキミ!」

 

「はっ……はい!」

 

「あと横にいる魔力たっぷりの良い子!」

 

「はい!」

 

「これから炎と蛇と私の剣があちこち外周している龍を倒した後に、中心へ()()()()から、その後に出たギョロギョロ目玉を狙い撃ちしてくれるかな!!」

 

「へ? 雷?」

 

「私の友達! ともかく、雷でビリビリしてる敵に水でビューンって当てれば倒せると思うんだ!」

 

「は、はぁ……」

 

「そこの魔力たっぷりな子に借りればいける! がんばれ!」

 

 

 何という無茶振り。

 ミス無しで敵を狙い撃てと彼女は言うのだ。だが、ひと目でロイスの属性とコーリスの魔力性質を見極めた為、決して考えなしの発言では無い。

 

 

 

 それに──コーリスが貸し与え、ロイスが撃つというシチュエーションは、戦いの前に既に想定していた。

 

 

「まさか……死ぬ時の最後っ屁の技を要求されるとは……」

 

「……えーと、アレ、凄く腕痛いんですけど」

 

「そう言うな。俺なんて腕無いんだぞ」

 

「そーゆうブラックジョークはやめようね!?」

 

 

 緊張感のない会話に思わずサテュロスが声を上げる。

 

 

「適応力高くない!? 一応子供だよね……?」

 

「あと一年で大人になります! サテュロス様!」

 

「貴女のおかけで大人になれます! サテュロス様!」

 

「何か凄い感謝されてる〜!!」

 

 

 命を救われ、国を救われた相手なので真面目に腰を曲げ感謝の意を示す両者。彼等の中でサテュロスへの感情はリスペクト100%だ。

 

 

「じゃあ準備が出来てきたって訳だね! 皆、最後に頑張るよ!!」

 

 

 その声と共にロイスは両腕に魔力を集中させ、コーリスは彼女の肩から魔力を注ぎ込む。

 

 

「……っぅ……」

 

「ロイス、掌に極集中だ。限界まで溜めて方角が絞れたら一気に前に押しだせ。それで暴発はしない」

 

「分かっていますけど……うっ、コーリスさんの魔力やっぱりおかしいですって……血管の中を活力が暴れ回ってる感じ……で」

 

 

 彼女は苦しんでいる訳ではない。

 単純に過剰に元気が湧いてきて怖くなってきている状態だ。人の疲れをふっとばす程の活力が彼の魔力にあった。

 

 その間にもサテュロスは腕をふるって剣を操る。

 

 終着まで、後少し。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

「サテュロス……なる程。そういう事か」

 

「……どうした、ナタク?」

 

「少年、お前の名前は何だ」

 

「スルト」

 

「よしスルト。これから俺はお前を離す。出来る限り外側にいる魔物を焼き続けろ」

 

「構わないが……巻き込まれないか?」

 

「俺の炎よりお前の方が熱い……それは認めねばなるまい。だが、範囲と精密性は俺の方が手慣れている。避けるのには造作もないさ」

 

「……分かった。外側だな。中心は?」

 

「中心に固まっている龍は俺の仲間が落とす。うまく躱せ。その後はどうやらお前の仲間がやる様だ」

 

「な!?」

 

「安心しろ。お前の仲間の側にいる者は信用できる」

 

「う、うん……」

 

 

 そう言ったきりでナタクは手を離し、空中で二手に分かれる。

 

 

「機動力が違う……!」

 

 火力そのものはスルトの方が上なものの、速度、範囲、精密性は完全にナタクが上だ。彼の何処にその様な推進力があるのかは不明だが、空を泳ぐ様に高速飛行をこなしていた。

 

 

(……任せた方が良さそうだな)

 

 

 少し周りを見渡せば、巨大な蛇に乗って石化の呪いを振りまく少女、爆発する水晶の剣を操る少女もいる。

 彼の星晶獣への見方が少し変わった。

 

 

「勝てるぞ……!」

 

 

 退路、兵力、反撃、全てを奪ってリュミエールは勝利に近づいている。

 

 

「……ん?」

 

 

 希望を抱いたスルトはある一点へ視線を向けた。

 上空に黒雲が集中している。

 

 察しの良い彼は気づいた。

 

 

「ロイスとの相乗効果か!!」

 

 

 雷と水。

 彼は詳しい科学的現象は分からないが、水に雷が広がる事は理解していた。

 

 

「と言う事はもう一人いるのか」

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「どう? えーと……君の名前は」

 

「ロイス・モラクレルです!」

 

「も、もられ、もらく? …………ロイスちゃん! いけそう!?」

 

「(ゴリ押しした……)最大限の威力を出す為なら……もう少しです」

 

「サテュロス様。ショゴスは硬いですか?」

 

「君は」

 

「コーリスです」

 

「コー君! 君は良い子だからコー君だ!」

 

「(基準がわからん)それで……」

 

「ショゴス君はねぇ、凄く脆いよ」

 

「見た目通りですか」

 

「そう。でも、星晶獣だからコアを破壊しないと時間かけていくらでも復活できちゃうんだ。だからコアを撃ち抜いて欲しいの」

 

「……逃げ足が早いのですか?」

 

「……ううん。私達が倒せなかった。殺してあげられなかった」

 

「……」

 

 

 コーリスは何かを察し、会話を切り上げロイスへ集中をした。

 

 

「コー君……それ、大丈夫?」

 

「え?」

 

「身体、光ってるけど……」

 

「……なんだ、これ」

 

 

 サテュロスによって直された無数の傷の跡、それが青黒く発光していた。

 

 

「……多分、コー君の魔力って人の何十倍もあるから、多すぎて外から見えちゃってるのかも。傷になると皮膚が薄くなるから」

 

「こんな色が……?」

 

 以降コーリスが魔力を巡らせている最中は身体の一部が不気味に光るという事になる。

 人によっては、禍々しく見える色である。

 人から、離れた様にも見える。

 

 

 ぎこちない空気が流れた瞬間、ロイスが顔を上げた。

 

「そろそろいけます」

 

「分かった。照準は俺が合わせる。痛みに備えろ」

 

「……え、痛いの?」

 

「……? まぁ、高圧レーザー出す様な物ですから、腕は痛いですよ」

 

「ロ、ロイスちゃん……どのくらいの怪我に……?」

 

「運が良ければ肩が外れるくらいで済みますが、今回の規模になると両腕は間違いなく折れます」

 

「おれっ……!? ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」

 

 

 即座に土下座をするサテュロス。

 

 

「頭を上げてください! 別にキレイに折れますから治りますから!」

 

「怖かったら止めてもいいよぉ!?」

 

「ここまで溜めた以上放出しないと暴発して船が壊れます……」

 

「ヴェッ!!??」

 

 

 今度は人間が出さない声で飛び上がった。

 周囲の騎士達も放心状態だが、サテュロスの慌てようを見て我を取り戻した様だ。

 

 

「な、なんで先に言わないのぉぉぉぉぉ!!!」

 

「最適の選択だから、です……」

 

(だ、駄目だこの子達……覚悟が違いすぎる!!)

 

 

 片腕に慣れ始めたコーリスを見てもう一度戦慄し、彼女は騎士への見方を改めた。

 

(そういえば……あの時(覇空戦争)もそんな感じだったな……人間さん達って…………)

 

 仲間が倒れても、何度でも立ち向かう人間の姿は何百年も前に見ていた。当時はまだ体系が確立していない医療魔法を必死に振るう少女、若いながらもリーダーとしての責任を全うしていた少年、その二人に絆された騎士の星晶獣。

 

 ならば──

 

 

「なら…………任せたよ! ロイスちゃん、コー君!!」

 

 

 

 そして、サテュロスは口を精一杯開いて大声を上げる。

 

 

「バアルくーん!! 準備おーけー!!!」

 

 

 すると、それに応えるように黒雲に雷が見え始める。

 その場に似つかわしくない電子音の様な、不思議な音域が展開された。

 

 

「Calling! この戦いの終止符を今こそ打とう!」

 

 

 拡大された音声は、この戦場全ての生物の耳に届いていた。

 少しして、ギターの様な楽器を持った青年が顕現した。

 

 

「あれは……楽器ですかね……?」

 

「音楽の星晶獣……?」

 

「二人共、バアルくんの演奏で雷が降るから! 今の内に狙ってね!」

 

 二人は『マジかよ』と思った。

 星の民は何を血迷って楽器で雷を降らす兵器を作ろうとしたのだ、と。

 

 

「ショゴス。最早お前の意思は統一性の無い不協和音に堕ちてしまった。ならばこの空に共鳴を取り戻すのが先決!」

 

「chjjijjddddb!!!」

 

 

 何処からか、またショゴスの声が聞こえた。

 コーリスが感じた様に脳に意味が伝わる訳でも無かったが、あの肉塊が抗議をしている事は何となく分かった。

 

 きっと、遊撃隊長の様に道を踏み外した獣だったのだろう。

 星晶獣達との浅からぬ縁を彼は感じた。

 

 そして彼は無言でロイスの手首を掴み、標準を龍の集合体の中心部へ向けた。

 

 

「雷で恐らく身動きが取れない。ゆっくり狙えば行けるはずだ」

 

「はい」

 

「噛む物はいるか?」

 

「……いえ、一瞬で終わる痛みですので」

 

「分かった」

 

 

 ロイスの手には、凝縮された水の玉がはち切れんばかりのエネルギーを伴って脈動している。

 

 雷が、唸った。

 

 

「さらば友よ──無量の天恵に溺れるが良い!!」

 

 

「ラウダー・レゾナンス!!!」

 

 

 ○○○○○○○○○

 

 

 

 

 私は、決して失敗する筈が無かった。

 

 

 落ちてしまえばどうにもならない空中戦を仕掛け、更には龍達や巨獣を集め完膚なきまでに叩きのめした。

 船の半数を沈め、騎士達を奈落へ葬った。

 

 あの憎き星晶獣共に実質の封印を繰り返されていた私は、偶然とはいえ起こされた。

 一定の周期の復活の数ヶ月前であった為、まだ彼等は私の復活に気づいていなかった。

 

 私の戦い方を彼等は知っている。

 だからこそ、短期決戦でリュミエールを滅ぼし、兵力を集めるつもりだったが、イレギュラーと言うべきか、炎の少年、霧の少年、光の騎士……それ等の要因が重なって時間がかかり、最終的に4体が駆けつける時間を許してしまった。

 

 最も戦闘力が高いナタクは一方的に此方を蹂躙し、メドゥーサの石化は空でのアドバンテージを捨て去る即死技。サテュロスも攻撃手段と回復手段を併せ持つ万能型の戦闘能力を持っているし、バアルの雷は総じて生物に有効。

 

 つまり、負けに等しい結果に追われている。

 

 

 ──許せるものか!! 

 

 

 くだらぬ情で私を殺せず、この戦いで犠牲を増やした貴様等が今更何をしようというのか! 

 

 愚か、愚物、愚鈍。

 

 ナタク、君の槍は何を貫く為にあるのだ。

 メドゥーサ、君の魔眼は誰を止める為にあるのか。

 サテュロス、君の優しさは現実性を伴っていた筈だ。

 バアル、君は不協和音を嫌っていた筈だ。

 

 

 

 そんな憎しみを吐露している間にも此方の手勢は削がれていく。

 

 騎空艇に仕向けていた者はナタク、サテュロス、メドゥーサ、炎の少年に削がれ、私を守ってくれている者達はバアルが狙っている。

 

 

 ──私は、逃げるべきか? 

 

 

 

 逃げて、どうできるのか? 

 ナタクのスピードに勝てるのか? メドゥーサの光線から逃げられるのか? 

 

 

 わから、ない。

 私は詰んだのか。

 

 それともまた半端に倒して封印を仕向けるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 それとも───私を殺すのか。

 

 

 

 

 

 

 

 ○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 目の前に降り注ぐ雷鳴は龍の飛行機能を奪い、奈落へと突き落とされていく。

 

 だが、本命は中心への痺れ。

 伝導した雷は落とすほどでは無いにしろ生物の身体を痺れさせる。

 

 

 そうして開いた群れの中心部には───

 

 

 

「今だよッ! 撃って!!!」

 

 

 龍の背から剥がれたショゴスが驚愕の視線で此方を見ていた。

 

 

 

「ッッッッぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 それは、怒り。

 彼女の、万全で満遍で凝縮された憤怒。

 

 

 仲間の死、コーリスの腕と耳。 

 かけがえの無い物を奪った敵に報いを。

 

 掌の水球が、敵を求めて蠢く。

 

 そして遂には激流の水圧となって。

 

 

「──トライデント・オブ……!!!」

 

 

 

 天をも穿つ魂の水槍。

 

 

「アニマァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 音と空気を割る程の速度を迎えた彼女の一撃は、正しくショゴスの眼球内の──コアを撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
旧約聖書 23遍4節






・ナタク、メドゥーサ、バアル
ショゴスを殺さなかった事によるリュミエール騎士団の犠牲に申し訳無いと思って、爆速で空を飛んできた。

・サテュロス
良い人。コーリスの命の恩人。

・トライデント・オブ・アニマ
コーリスの魔力を貰った時だけ撃てるロイスの必殺技。バカみたいな速度と射程の水圧レーザー。相手は死ぬ。

・コーリス
左腕が無くなったが、痛みを感じる前に意識が半分吹っ飛んでいて、更にサテュロスの治癒のおかげで余り苦しんでいない。その為か気が楽になっている。






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