幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ボキッゴキッという生々しい音と共に放たれた一撃は雷と融合し、閃烈と共にショゴスのコアを貫いた。

 

 

「命中した……」

 

「という事は……サテュロス様!」

 

「うん……終わったよ!」

 

 

 ショゴスは最後までこちらを睨みながら、そして叫び声すら挙げず……だがしかしその破れた目はこの世への恨みの全てを語っていた。そう言えるほど凄絶な風貌だったのだ。

 

 やがてその身体は醜い素体に対し恐ろしく幻想的で……綺麗な粒子になって空中を舞い、その長い機能を終えた。

 

 

「……」

 

 

 サテュロスは笑いも涙も何も表さなかった。

 ただ、虚しみと、これで終わったという実感のみ。コーリスにとって、ショゴスの生き方には何か儚い物を感じたが、それだけだ。

 

 ショゴスは騎士の大半を殺した敵であり、そして今死んだ。

 それだけが、コーリスにとってのショゴスである。

 

 

「……サテュロス様。ロイスの痛みを和らげてくれますか?」

 

「もちろん。頑張ったね、二人共」

 

 

 折れた両腕の骨を直ぐに治すことはサテュロスにとっても難しい。彼女に出来ることは、治癒力を高めて少しでも回復速度を上げる事。

 

 

「あたり、ました……?」

 

「ああ」

 

「よかっ、た」

 

 

 ロイスは意識を手放した。

 その様子を見たサテュロスが慌ててしまうが、コーリスが止める。

 

「俺の魔力を貸したとはいえ、それを水に変換しながら溜めるとなると、相応の負荷がかかる筈です。今は、無理矢理にでも寝かしておくべきでしょう」

 

「死んじゃった訳じゃ無いよね!?」

 

「無いです」

 

 

 生き残った騎士は……数十人。

 彼の乗っている船の人間も終盤のダメ押しで何人かが犠牲になった。

 生存者は負傷者のロイスを中に運ぶ。

 

 これでリュミエールに着くまでの処置はできるだろう。

 操縦士が生きている事も大きい。

 

 

「……ごめんね」

 

 

 サテュロスが、唐突に謝る。

 

 

「なぜ、謝るのです」

 

「私達が彼を殺さなかったか─────」

 

 

 

()()

 

 

 

「──え」

 

 

 騎空艇が、傾く。

 

 

 その要因は3つ。

 1つ、長い戦闘で燃料が尽きかけていた事。だが、リュミエールに着くまでの分はあった。

 2つ、船を支える部分が終盤の襲撃によって軽く破損していた事。だが、致命的では無かった。

 

 

 

 そして。

 ──3つ、属性攻撃が飛び交う戦場に於いて、気流が乱れた事。運悪く、乱れた気流の部分にコーリスの船があった事。

 

 彼が、船の部屋にいなかった事。

 

 

「コー君!!」

 

 

 

 サテュロスがコーリスを掴もうとするも、片腕の彼はバランスを取れず落ちていく。

 

 それを、メドゥーサとナタクは見逃さなかった。

 

 

「っメドゥシアナ! 踏ん張りなさい!!」

 

 宙に浮ける巨大な蛇──メドゥシアナはその体躯を存分に使い傾いた船を下から押し上げた。

 

 

「っ……間に合え!!」

 

 

 ナタクは全速力で炎を噴射し、垂直に近い角度で落ちるコーリスを追いかける。

 

 

 コーリスは漠然とした顔で、静かに目を閉じた。

 やがて気流に振り回され、意識も喪失し。

 

 ふかい、ふかい霧に飲まれた彼は。

 

 不思議な夢を、見ていた。

 

 

 

 

 ─────────────

 

 

 

『コーリスは何処だ──あの祝福の子は』

 

『あの子に何の用?』

 

『■■■、お前の息子は卓越した素質を持っている。族長の決定で()を行う事にした』

 

『ッ…………まだ3歳よ。まさか……入神湯を飲ませるつもり……!?』

 

『それが我々──()()()()()の光明足り得るならば、是非もない』

 

『……外道が』

 

 

 

 

『……今夜、私とコーリスで島を抜ける』

 

『君は正気か』

 

()を飲まされた。子供を殺されるならこんな一族に従う理由はないわ』

 

『……逃げられると思っているのか』

 

『逃げに専念すればね』

 

『……分かった。俺も行く』

 

『死ぬかもしれないよ。貴方は私より弱い』

 

『……俺だって人の親だ』

 

『見直した。それで、逃げる島はトラモント』

 

『聞いたことがないな……』

 

 

 

 

 

『……なによ、あれ』

 

『おかあさん……?』

 

『喋っちゃ駄………………!?』

 

 

 

 

 

 

 

『貴様か。我々を吸収した空の民は』

 

『きゅう、しゅう……?』

 

『空の民は、生まれ落ちてその身体を育成するに少なくない時を使うが……貴様は、か弱き今が最も恐ろしい』

 

『だ、だれ……?』

 

『……穢わらしい無垢が。自覚も無いのか』

 

『こ、こないで、お母さんをかえして……!!』

 

『もぬけの殻だ。(そら)の偵察用に遣わした雑兵であったが、文字通り(から)になっている』

 

『ひ、やだ』

 

『──貴様。我々の()()()()()()()

 

『……?』

 

幽世(かくりよ)の天敵だ。今、殺す』

 

『や、やめてぇ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひっ……ぐす……』

 

『大丈夫かい? こんな山で一人。君の名前は……?』

 

『こ』

 

『……こ?』

 

『コーリス……』

 

 

 

 

 

『コーリスや』

 

『何? 義父さん』

 

『お主は、捨てられた時の記憶は無いのじゃったな?』

 

『……うん』

 

『なら、捨てられる前の記憶はどうじゃ。今思えば、聞いた事が無い』

 

『知らない』

 

『……はて。確か父は木を売りに、母はお前を捨てにトラモントに来たのだと言わなかったか?』

 

『それしか分からない』

 

『……それでは、お主はどうやって生きてきたのだ』

 

『…………育った記憶が、ない』

 

『────なんじゃと?』

 

 

 

 

 

 

『コーリスは、何で騎士なりたいんだ?』

 

『……()()()を、救いたいから』

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

「────」

 

 

 コーリスは、心地よい風と共に目が覚めた。

 ひんやりとしていて、揺り籠の様にぼんやりと意識を擽ってくる。そんな感触だった。

 

 

 

「……起きたようだな」

 

「あなた、は……?」

 

「ナタク。先程の戦いで助太刀に入った者だ」

 

 

 横になっている彼に近づいた男。

 コーリスはそれがスルトの近くにいた星晶獣で、落ちる自分を助けてくれた恩人だという事に気づいた。

 

 

「助けて下さり……ありがとうございます」

 

「構わない。元より俺達の怠慢が許した戦いだ。本来ならば、此方の咎だ」

 

「……?」

 

「その話は後にしよう。ひとまず……サテュロス!」

 

 

 直ぐに『なーあーに!?』という返事が帰ってきた。

 

「起きたぞ」

 

「ほんとぉ!?」

 

 

 此方に駆け込んでくる足音。

 

 

「コーくーん! ぎゃっ!?」

 

「怪我人に飛び付く者がいるか」

 

「ぶー! 傷は治したもん!」

 

 

 コーリスに飛付こうとしたサテュロスをナタクが足で止める。

 渦中の彼はまだ状況を把握できていなかった。

 

 

「今は……?」

 

「まず、先に言おう。戦いは終わった」

 

 

 思わず、彼は息を吐いた。

 

 

「だが、乱れた気流がこの破損した船を揺らし、運悪くお前が落ちた」

 

「……」

 

「刹那の瞬間ではあったが、間に合ったぞ」

 

「……感謝の言葉も、ありません」

 

「それで、腕を見てみろ」

 

「?」

 

「失くなった方ではない。右腕だ」

 

 

 言われた通り、コーリス自身の腕を顔に持ってきて、確認した。

 直ぐに、異変に気がついた。

 

 

「…………透けている? それに……何か、白い」

 

「……それは、ある星晶獣の影響だ。お前の身体を変質させた」

 

「何ですって?」

 

「俺達はしばらくリュミエールにいる。お前の身体が落ち着いたら、説明をしよう」

 

 気になる前置きをされたので、コーリスは微妙な顔をするが、ナタクやサテュロスの表情が余りにも悲痛だったので、突っ込めなかった。

 

 

「それで、気流は」

 

「バアル──雷を落とした奴が無理矢理にだが戻した。この船はリュミエールへの帰路に着いている。無事に帰れるぞ」

 

「他の……人達は?」

 

「大丈夫。炎の子は精神的に疲れたのか寝ちゃったけど、それだけ。ロイスちゃんは安静にしてる。団長さんの船は全員無事。あれ以降、誰も死んでないよ」

 

「……よかった」

 

 

 良くは、ない。

 7割程の犠牲が出たのだから、決して良い結果では無い。

 

 

「俺達は重症者の方へ行く。何かあったら呼べ」

 

 

 そう言って、ナタク達は別の船へ移動し、それを皮切りにコーリスは一息ついた。

 

 

 と思ったら、今度は少女が彼に向かって歩いてきた。

 紫髪の少女、メドゥーサである。

 

 

「…………」

 

「……」

 

「…………あんた、まだ子供じゃない」

 

「え? ええ、お互い……?」

 

「……馬鹿。アタシは星晶獣よ。あんたの40倍は生きてる」

 

「……そうですよね」

 

「……」

 

 

 ぎこちない時間。

 メドゥーサの感情は哀れみの一言。その矛先が彼の腕なのか、耳なのか、それとも未知の透過なのか。

 

 コーリスは、困りながらも一言聞きたい事があった。

 

 

「長く生きたら、見えるものはあるのですか」

 

 

 彼は500年を生きる星晶獣が、兵器には見えなかった。

 恐ろしい武器や能力を用いているが、それでも動作や表情が、人間のそれと同じだったのだ。

 

 ……それはショゴスに対しても同じ考えだった。

 

 

「……いいわ。答えてあげる」

 

 

 無愛想な印象からは真逆に、彼女はコーリスの横で座って語り始めた。

 

 

「何年生きたって、何度人間の死を見続けたって、そう簡単に変われないわよ。私達は基本的な死の概念が無い……だからこそ同情は出来ても親身になれない」

 

「貴女は人に寄り添って生きてきたのですか……?」

 

「んな訳無いでしょ。サテュロスみたいな奴の事を言うのよ」

 

「……」

 

 

 コーリスは理解した。

 サテュロスが怪我をする度に喚き立てて、生死の確認を繰り返すのも、心配症なのもあるが……そもそも人の死が分からないからだ。

 

 どのくらいで死ぬのか。コアさえあれば修復する彼女達にとっては違う世界。知識があっても、不安になるだろう。文字通り、一撫ですれば簡単に砕け散る命なのだから。

 

 それを経験した事があるのか、メドゥーサは言い聞かせる。

 

 

「だけどね……長く生きると必ず()()が強くなる。どんな些細な事でも、それが過去の取り返しの付かない事であっても、生き続けている以上ずっと悔やみ続けてしまう」

 

 

 それは、妙に実感の籠もった言葉だった。

 

 

「サテュロスは、アンタ以上にアンタの腕と耳を悔やんでる。未だに腑に落ちないわ。アタシ達を作った奴が何で兵器に感情を入れたのか」

 

 

 話す事は話し終えたのか、メドゥーサはナタク達の元へ言ってしまった。

 返答する間もなかったコーリスを巨大な蛇が慰めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、帰還したコーリス達は街の人々の献身により、円滑な治療体制を受け、無事に傷を癒やした。

 

 遊撃隊は解散、聖騎士団の活動を休止。

 以後、入団試験の緩和を計画。

 

 このショゴスによる戦禍は後に『リュミエールの空乱』と名付けられ、平穏なファータ・グランデの風に一石を投じた。

 

 

 死亡者数──152名(アマルティア島へ向かったコーリス小隊29名を含む)。

 これを機に隣国フェードラッヘと同盟を結び、騎士団の援助を受ける。

 

 また、解体された遊撃隊員は本隊への再編成が計画された。

 国王自らの説明により、遊撃隊への風当たりは弱くなった。

 

 中でもコーリスは復帰困難となっていたが、彼の魔力性質を治療過程で研究した科学者が義手を提供する事を決意。

 

 つかの間の平和が、訪れた。

 

 

 

 

 ───────────

 

 

 空戦終結から一ヶ月後。

 

 

 

 

「コーくーん! こっちこっちー!!」

 

 

 

 コーリスは、自身の身体に起きた異変について、ナタクから説明を受けに森へ来ていた。

 リハビリ中なのか、患者服にコートを羽織った装いで、片方の袖はゆらゆら揺れており、彼の道案内は意外にもメドゥーサだった。

 

 

「手を煩わせて申し訳ありません」

 

「左側に立ってるだけで何が疲れんのよ」

 

 

 棘が目立つも、メドゥーサの態度は明らかに気遣いを含んでいた。

 

 

「来たか」

 

 

 サテュロスと共に迎えたのはナタク。

 だが、もう一人の姿は見当たらない。

 

 

「バアル様は……?」

 

「アイツは……音探しと言っていたが、分からなくていい。俺にも訳がわからん」

 

 

 どうやら、気分屋の様だ。

 

 

「では、お前の身体の事だが」

 

「ナタク様。その前に」

 

「なんだ?」

 

「昼時ですので、ランチにしましょう」

 

 

 唐突にそう言い放つと、彼は手に持っていたランチボックスを開ける。

 中には芳醇香るサンドイッチ。ふわふわのパンに、水気のあるシャキシャキレタス。少し多めのハム。それが食事を必要としない星晶獣達の食欲を唆った。

 何故なら、どれも一級品の具材だからだ。

 

「わぁー……!」

 

 子供っぽいお手本の様なリアクションはサテュロス。メドゥーサは息を呑み、ナタクは表情を変えず。

 明らかに6人分作ってあるし。かと言って本当に食べるべきなのか。コーリスが大食いなだけじゃないのか。……6人分? メドゥシアナの分もか。と、ナタクは複雑に悩んでいた。

 

 

「ねぇ! これ食べていいやつ!?」

 

「どうぞ」

 

「アンタ……やけに大きい物持ってきてると思ったら……」

 

「メドゥーサ様もどうぞ。夜までは保つのでバアル様の分も」

 

「アタシはいらないわよ」

 

 

 メドゥーサが断るも、隣の友人は既にかぶりついている。

 目をキラキラさせながら顔を振り、如何にもご機嫌な所作を繰り返す。メドゥーサは何だかそれが微妙にムカついた。

 

 次にサンドイッチを食べたのはメドゥシアナだった。

 サテュロスの次にコーリスと仲がいい蛇。蛇の味覚に合うのかと彼女は疑問に思ったが、そもそも蛇の姿をしたメドゥーサの身体の一部の様な物なので、問題なかった。

 

 

「メドゥちゃん! これすごい! 美味いよこれ! ねぇ!」

 

「うるさいわね……」

 

「こんな美味しい物作れる人いるんだ!」

 

「俺が作りました」

 

「本当!? 凄いね!!」

 

「サンドイッチ以外の食べ物は全く作れませんが、これだけは譲れません」

 

 

 いや、サンドイッチが作れるなら色々派生するだろう、普通。とメドゥーサは突っ込みたくなったが、そんなに気安い関係じゃないので、プライドに免じて黙った。

 

 

「ふむ、美味」

 

 ついにはナタクも食べ始めた。

 

 

「……一口だけよ」

 

 

 ナタクが食べるならいっか、という一種の諦めを孕みながら、メドゥーサも口に入れた。

 感想は。

 

 

「…………悪くないわ」

 

 

 何というか、お手本の様なセリフだった。

 

 

 

 

 ────────────

 

 

 

「野菜は新鮮……肉も美味い。お前は農業でもやっているのか?」

 

「いえ、良い物を買ったのです」

 

「子供のうちはあんまり無駄遣いしちゃ駄目だよ〜」

 

「キシュゥ……」

 

 

 少女と蛇に注意されるコーリス。

 端から見れば、星晶獣との会話は親戚を思わせる親しみがあった。

 

 ちなみにメドゥーサは空気に耐えられないのか何処かへ言ってしまった。

 

 

「一応5年は働いてましたから……ルピには余裕があるのですが」

 

「うーん……どうも騎士団のイメージが違うなぁ……最近は子供の内から戦わせられるの?」

 

「いえ、ほぼパトロールです。魔物や危険人物は相手にしません」

 

「その割には、お前もスルトも、そしてあの少女も一流に近い動きをしていたがな」

 

「俺達3人は特別でして……」

 

「ほう。なら、スルトの火力は何だ。人の子が出せる物ではないぞ」

 

「あれは感情が炎になるという特異体質です。魔力は一切使っていません。暴力的な感情ほど生物にとって害のある炎になると言っていました」

 

「……星の力も感じられなかった。突然変異というやつか」

 

「おそらく」

 

「して、お前は? 俺が見る限り技術は優れるが特別な何かを感じない」

 

「ふむふむ。ナタク君はわからないか〜」

 

「お前には分かるのか?」

 

「コー君とロイスちゃんは私が見たからね。性質は分かるよ」

 

 

 サテュロスは、一目でロイスの水の力とコーリスの魔力量を見抜いた。感知系の能力というよりは、魔力というものに対しての慣れ。炎と武術を合わせるナタクとは違い、魔法主体の戦い方をしているからだ。

 

 

「俺は魔力の量が現時点で常人の12倍程です。成長と共に上限が増えているようです」

 

「え! 増えてるの!?」

 

「軽く研究室に通いまして。そこで、量を測ったら……6年前は7倍くらいだったので」

 

「……道理で。あの威力の水圧線が作れる訳だ」

 

 

 あの戦闘で一定の期間を生き残れたのは、間違いなくスルトとコーリスが攻めと守りを担っていたからだ。

 加えてロイスに貸すだけの魔力を彼は残していた。奇妙な話であるが、事実だ。

 

 

 

「後は……霧出せます」

 

「それは」

 

「人の集中から記憶まで奪う霧です」

 

「記憶……」

 

「調整すれば一部分の記憶を消すだけに留まりますが、この霧本来は記憶を奪って俺に還元する性質を持っています」

 

 

 ナタクとサテュロスは、絶句に近い感情を表したものの、直ぐにそのデメリットに気がついた。

 

 

「人の身には持たんな」

 

 脳への負荷は耐えられるものではない。

 遊撃隊長は誰とも関わりを持っていなかったから、少ない情報で負担が大きくなかったが、ショゴスの記憶を取っていたら、間違いなくコーリスは植物状態に陥っていただろう。

 

 

「だが、お前の身体は既に人ではない」

 

「……あの後、時々身体が透ける様になりました。肌の色は以前よりも白く、体温も低くなりました」

 

「……」

 

 

 サテュロスはナタクの率直な言葉に心を痛めた。

 だが、それ以外に表しようがないのも事実。

 

 

「これでは、死人ではないかと。思ったのです」

 

「……半分は当たっている」

 

「それは、星晶獣の能力ですか?」

 

「そうだ」

 

 

 ナタクは一息つけて、続けた。

 

 

「"星晶獣セレスト"……何を司るか俺達には分からない。巨大な騎空艇の様な形をしている。権能を役割のまま行使する……自我の薄い獣だ」

 

「能力は……」

 

()()()()能力……だよ」

 

 

 コーリスの問にサテュロスが答えた。

 

 

「正確には、死の要素を奪うといった形かな。死んじゃった人の体の腐敗を止めて、一時的にゾンビにしたり、死ぬ直前の人の死を奪えば、限りなく死体に近いまま動く身体に出来る。人の死の要因は病、老い。死体なら腐敗だからね。そのどれかを奪えるの」

 

「絵面は良くないですが……生存に繋がるのでは?」

 

「ううん」

 

 

 老いを止めれば戦士は長い戦いを乗り越えられる。

 病を除けば人は幸せを享受できる。

 

 だが、サテュロスは首を横に振った。

 

 

「セレストの本領は能力に当てられた人を使役すること」

 

 

 コーリスは全てを察した。

 

 

「そして、その人達を養分に自身を強化できる」

 

 今度は彼の予想を超えた。

 

 

「目の前で死んだ仲間がゾンビになって襲いかかる。死にそうな仲間で傷を癒やされる。これがセレストの齎した戦争。精神的にも、空の人達を苦しめたんだよ」

 

「う……」

 

「でも、瀕死か死後の人間しか能力の影響が及ばない。セレスト自体を使役する誰かも必要だった。なのに」

 

「……」

 

「コー君は私が回復した……セレストも近くにいなかった……!! なのに……!!!」

 

 

 瀕死のコーリスはサテュロスによって癒やされ、落下地点にはセレストの滞在する島が無かった。

 

 なのに、コーリスは生きながらにして死を、老いを奪われた幽霊としてその身を顕にしている。死を奪うという芸当はセレストにしか出来ない。少なくともナタク達は見たことが無い。それが恐ろしかった。

 

 

「本来、セレストは瘴気を放ち死を奪う。回収する直前、確かにお前の身体に瘴気が残っていた」

 

「……瘴気?」

 

「灰色の、濃い霧の様な瘴気。かつて奴はそれを戦場に充満させた」

 

 

 コーリスは、何か違和感を覚えた。

 それは、こじつけに等しい何か。

 

「瘴気……霧……灰色……?」

 

「……コーリス?」

 

「ナタク……さま、セレストは今、どこに居るのですか」

 

 

 彼の思う場所にさえいなければ、いなければそれだけで良い。

 ナタクは、コーリスの様子を不審に思いながらも答えた。

 

 

「より一層霧が濃くなった場所。恐らくは、元々は()()()として知られていた場所だ」

 

 彼の最悪が的中した。

 

 

「トラ……モント」

 

「む?」

 

「トラモント…………その霧の島の名前です。そして……」

 

 

 彼は、絶望を紡いだ。

 

 

「俺の……故郷(ふるさと)です」

 

 

 ナタクとサテュロスは、自身の心が凍りつくのを実感した。

 

 

 

 

──2章 完。

 

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「こんな所にいたのか。メドゥーサ」

 

「……アンタ。音を探すなんて下らない嘘をついてまでアイツを避ける必要あった?」

 

「俺なりのケジメでもある。それに、避けているのはお前の方だろう」

 

「……わけ、わかんないのよ」

 

「何がだ」

 

「ナタクとサテュロスは気づかなかったけど…………アイツ……セレストの霧を自分から()()()()……!!」

 

「まさか……奴の住処とは程遠い筈だ」

 

「アイツの身体に瘴気か集まってた……アタシは確かに、見たのよ……」

 

「…………どういう事だ」

 

「アイツ、今はもう幽霊よ。でも、それを受け入れてる様にも見えた」

 

 

 

 

「それが………………怖いのよ」

 

「……お前は彼が怖いのか」

 

「魔力の色だって……人間の色じゃない……」

 

「彼は怪物か?」

 

「それは……違う。でも……これからどうなるか……アタシは分からない」

 

「そうだな。だが、一つ言えることがある」

 

「……なによ」

 

「怪物はサンドイッチをこんなに美味く作れない。そうだろう?」

 

「……バカみたい」

 

「彼は誇りある騎士だ。今はそれ以上でもそれ以下でもない。それを忘れるな。裏面を見ようとするのはお前の悪い癖だ」

 

「アイツ、アタシの事を子供って言った」

 

「表面も裏面も見えているじゃないか」

 

「アンタ……どういう意味よ……!!」

 

「コーリスは聡明だな、と」

 

「殺すッッッッ!!」

 

 

 






サテュロス作った星の民の性癖を疑う。
いいぞもっとやれ。

ちなみにカルム一族ってのはシスと同じ種族です。
『こくうしんしん』で触れられてる筈です。詳しくはそちらを
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