幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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3章 邂逅のファータ・グランデ
28.ゾーイだぞい!:①


 

 

 

「覚悟はいいかい? この義手は身体の魔力系と繫がるから痛いよ」

 

「……5カウントでお願いします」

 

「分かった。落ち着いたら声をかけてくれ」

 

「…………すゥ────お願いします」

 

「じゃあ……行くよ?」

 

「…………はい」

 

「5、4」

 

 

 

 

「ゼロ!!!!!!!!」

 

「ぎゃぁァァァァァァァァ!!!???」

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

「こういうのって案外不意打ちが安心するんだよ」

 

「……ゆるさ、な」

 

「取り敢えず動かしてみなよ」

 

 

 

 どうも、コーリスだ。

 あの戦争が終わって、遊撃隊が解体された後には長い休暇が待っていた。と言っても、無償の見回りくらいはしなきゃいけないけど。

 

 フェードラッへの援助も得て、何とか騎士団の体制は保てている訳だが、どうもあっち側の研究者が俺の身体を調べたいらしくて、セレストの件を誤魔化そうとしたが、遂には看破された。

 そして、魔力容量を確認した後、フェードラッへ協力の元、義手を提供してくれる事になった。

 

 肘下を覆う黒いガントレットの様な義手は、鎧の役割も果たす。逆に言えば、日常生活では外さなければいけない物だ。

 その仕組みは、ガントレットの中の魔力受信物質と、俺の身体にある魔力系(魔力を司る神経のような物)を繋げさせるというもの。

 勿論物理的に神経を繋いでいるわけじゃない。あくまでも俺の魔力と義手の機械がリンクしているだけ。つまり、魔力の放出口を増やしたのだ。自身の神経に異物をねじ込まれて繋がれた様な不快感があったが、効果はどうだろうかと動かしてみる。

 

 

「……うわ」

 

「指の一つ一つに至るまでに線を敷いている。そこに触覚は無くとも、腕を動かす感覚のまま動く筈だ。左手だから、慣れるための訓練をすれば戦闘もこなせる。なんなら、見回りくらいなら今から出来るぞ」

 

「これ……外したらまたあの痛みが……?」

 

「あれは拒絶反応だよ。神経を繋げるならそれに限らなかったけど、魔力を通すなら一度適応した君の身体は苦しまない。既に君の身体自身が一部と認めているからね」

 

「すごい……」

 

「魔力は内で循環させているから放出はしていない。だが、それを動かすのに少なからず君の魔力を借りている。だから戦闘に用いれる上限は減った。君にとっては豆粒程だろうが……」

 

「軽さも、頑丈さも良さそうです。剛力で殴ったら壊れますか?」

 

「勿論。だが、君の盾を纏えばそれなりに守れるだろう」

 

 

 正直、剣を両手で振るときの練習は必要だ。

 感覚がない分、目でカバーしなければならない。

 

 

「我々もセレストについての研究が出来た。礼は必要無いよ。何より、君の妹分に頼まれたからね」

 

「……フィラが迷惑を」

 

「泣きながら頭まで下げて君の腕を願った少女に対する言葉か? 僕達は研究者である前に人間だよ。彼女の懇願は心を動かす意志があった」

 

「腕を見て……随分泣かれまして」

 

「痛々しさは耳の方が強いけどね。ともかく、あの子は大事にするんだよ」

 

 

 フィラは空戦の終結後直ぐにリュミエールに渡ってきた。

 いや、確か安全確認の為に騎空挺の渡航制限がかかってたから、正確には直ぐじゃないか。

 ともかく、俺が生きている事は伝令鳥の手紙で伝えていたから、来るとは思っていなかった。結果、腕と耳を見られた。

 

 ワンワンどころかこの世の哀しみ全てを体現したかの様な表情で静かに泣かれたものだから、場所を急いで変えた。

 フィラを泣かせてしまったのだ……アイツに殴られても文句は言えない、なんて思ってしまった。

 

 

「この後はどうするんだ?」

 

「ひとまず団長に復帰の目処が立ったと報告します。見回りから慣れなきゃですね。片腕生活は不憫でしたし」

 

「ロイス女史よりは上等だろうね。両腕が使えないと動かせるのは口だけだ。まぁいつも通りか」

 

 

 な、なんという皮肉。

 

 

「……未だに入院中ですからね」

 

「あの戦いの決め手は彼女なのだろう? 復帰後はそこそこの地位を約束されそうだね」

 

「……副団長含め大半の騎士は亡くなりましたので、穴埋めとしてはあり得ます。ですが、団長は副団長を二人にすると言っていました」

 

「二人……?」

 

「片方はスルトかロイスだと思います。他はベテランの方で」

 

「君は?」

 

「自己評価を語るのは恥ずかしいので、言いません」

 

「副団長は指揮力の問題だ。君は兵を動かせていたじゃないか」

 

「義手、感謝します。この礼は必ず」

 

 

 俺は逃げた。

 もう夜だったし、寝たかった。あと恥ずかしい。戦いの後は街の人に死ぬほど褒められたから、もうお腹いっぱいだ。

 

 

 

 

 

 ──翌日。

 

 

「みてみてーコーリスに腕ついてる」

 

「辞めなさい! そういう冗談は……え!?」

 

 

 何時も散歩中に遭遇する親子に腕を驚かれた。

 義手の定着は夜だったし、誰にも見られずに帰ったからな……。

 

 

「コーリス君……それ」

 

「義手を貰いました。鎧型で違和感もありません」

 

「動くのー?」

 

「ああ、動くぞ」

 

 子供の目の前で少しだけ動かす。ガチャガチャと音が鳴るだけだが、この子にとっては面白いらしい。玩具にでも見えたのだろうか。

 

「ねぇ、コーリス」

 

「どうした?」

 

「──よかったね!」

 

「……ああ!」

 

 賢い子だ。喪失の苦しみを理解している。

 

 

「では、お二人とも。お身体に気をつけて」

 

「ばいばい!」

 

 

 昨日団長とほんの少し話し合って、復帰して見回りに加わるのは一週間後、戦闘は俺が戦えると団長が判断してからという事になった。

 

 その期間、何をしても休暇になってしまう。

 騎空挺の交通状況が以前に戻ったから、観光客の案内をしてもいいし、屋台の手伝いをしてもいい。

 なんなら森で寝てもいい。サテュロス様達は何処かへ言ってしまったが、再開を誓ってくれた。良い夢も見られるだろう。

 

 俺は安息に思いを馳せた。今の俺は安息に程遠い存在だからだ。

 寿命では死ねない身体になってしまったし、セレストの養分対象だからトラモントに行けば真っ先に死ぬ。ナタク様によると、俺を吸えばセレストの力は増し、暴走を引き起こすらしい。それは、ファータ・グランデの混乱を引き起こす。俺は、故郷に手出し出来なくなった。

 

 セレストが能力を解除すれば、俺は人間に戻れるらしいが、失った老いは取り戻せないらしい。

 この身体にどう付き合うか、考えておく必要が出た。

 

 

 

 俺は答えを探している途中、無意識に街の門へと歩いてきてしまった。

 

 

 ──そこで、■■に出会った。

 

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 リュミエールの門には、蒼を基調とした鎧を身に包んだ白髪の少女が立っていた。紅い瞳に褐色の肌。一級品の装飾品を思わせる重厚な盾に、水晶の様な(つるぎ)

 サテュロス様の力で構成された大剣を思わせるソレと、彼女の眼は浮世離れした──超越した存在を思わせた。

 

 彼女は俺に気付いて、先程の子供の様に表情を明るくし、近づいてくる。

 

 星晶獣……? 

 サテュロス様と似た雰囲気を感じるが、微妙に違う。超越者という言葉か似合う見た目とだけは言っておく。

 

 彼女は口を開いた。

 

 

「探したよ。意外と早く会えたようだ。コーリス」

 

「……?」

 

 

 知人では無い。

 だが、彼女は俺の顔を見て明確に『コーリス』と言った。同名の人物と間違えた可能性はゼロ。ならば、フェードラッへの者だろうか。あの国の騎士団の鎧は統一性があるので、この少女の様なデザインは無いと思っていたが……。

 

 

「フェードラッへ王立騎士団の人ですか?」

 

「いや、違う」

 

「……リュミエール聖騎士団入団希望者ですか?」

 

「違う」

 

「…………」

 

 

 騎空士にも傭兵にもこの様な人物はいなかった筈。

 ショゴスが人に化けた……否、ありえない。ロイスが撃ち抜いて消滅した。俺の親戚か? それならばまだ分かる。髪の色は似てるし、俺は父と母と過ごした記憶は無いからな。

 

 

「堅苦しいのは止めにしよう。敬語はいらない。私と君との関わりは初めてだが、今は私を信頼してくれて構わない」

 

「何故俺の名前を知っている」

 

「ずっと、見てきたからな」

 

「いつから」

 

「君が()()()()()()()()

 

「何故」

 

「君が幽世の兵を倒したからだ」

 

 

 かくりよ……? 

 聞いたこともない。何だそれは。

 

 いや待て。この子は俺をずっと見てきたと言ったな。俺は幼少期から現在に至るまでストーカー被害にあっていたのか? プライベートも食事から入浴、睡眠までもが見られていたと? 

 とんだ変態少女だ。

 

 ……そうじゃない。明らかに俺より年下な見た目なのは何故だ。やはり人外の者か……! 

 

 

「一つ聞かせてくれ」

 

「何だ? 答えられる事なら何でも答えよう」

 

「君は……何年生きている?」

 

「ふむ。空の世界で過ごした期間に当てはめるなら……今日で3ヶ月程か」

 

「空以外に住んでいた事があるということか?」

 

「目ざといな。君は」

 

「生まれて何年だ」

 

「……そうだな。()()は2000年程か」

 

 

 やはり星晶獣……! 

 

 だが星晶獣は覇空戦争に於いて作られた存在であるはず。戦争は400年前……この子は更に昔から存在している事になる。

 

 剣は持っていないが──やむを得ん! 

 

 

「お前──何だ」

 

「拳を収めてくれ。誤解させてしまったな。私自身はここ数百年の目覚めだ。それに……君を害する気は無い」

 

「星晶獣か?」

 

「そうだが、君の知る者達とは起源は違う。私は分化した存在に過ぎないよ」

 

 

 敵意は無い……だが此方が霧を出そうものなら不信感を抱かせる。それは良くない気がする。ナタク様よりも強い力を感じるからだ。

 

 構えた拳を下ろして、アプローチを続ける。

 通行人達は少しだけ此方を見ていたが、彼女を旅行者だとでも思ったのだろうか。俺の腕をチラ見して直ぐに去っていく。二人だけの空間がここに作られているのを感じた。

 

 

「君の住む世界をこの目で見たい。案内してくれないか?」

 

 

 感じる力とは反対に穏やかな雰囲気だ。

 俺は彼女の善性を信じる事にした。

 

 

「おいしいご飯があると個人的に嬉しいのだが……」

 

「……分かった。案内しよう」

 

「それは楽しみだ」

 

「君の名前は」

 

「個体名か。確かに空で生きるには必要だ。うん……ジ・オーダー……いや、コス……ううん。何にしようか」

 

「……」

 

「そうだ、これが良い。空の生命──」

 

 

 

 

 

「──ゾーイにしよう」

 

 

 

 

 

 ──1人目。

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 

「しかしよく入る物だな」

 

「空の食べ物はおいしい。体を持たないと味わえない幸福だ」

 

 ゾーイと名乗った──というかさっき考えた名前の少女は黙々と、食い意地を張らず……それでいて多量の食事を摂っているのだ。栄養よりも味を目的としていのだろうか、店員に一言一句感想を伝えているのも彼女の幸福を感じさせる。

 

「次は何処へ行く?」

 

「む……私としてはずっとここに居ても良いのだが」

 

「食べるだけじゃリュミエールの魅力は伝わらない。ここのお子様ランチ(大人用)は絶対一級品だが、この国はそれだけがトレードマークでは無いからな」

 

「では、何が有名なんだ」

 

「聖騎士だ」

 

「昔から思っていたのだが……騎士と聖騎士との違いとは何だ?」

 

 少し定義が難しいが……。

 

 

「何方も国と民の為に存在している事に違いは無い。だが、聖騎士は救うという行動を重視しているのだと思う。守るのか、救うのか。結論は同じでも、道中は違うと思わないか?」

 

「守る……救う。私には少し難しい」

 

「そうか?」

 

「私は結果的に救う行為をしていたのかもしれないが、本来の役割は調停だ」

 

「調停……中立という事か」

 

「そうだ。世界の危険を無くしたうえで空の生命に委ねる。決して過度な肩入れはしない」

 

「先程から言葉の裏を突く様で悪いが……ゾーイが空に顕現している時点で世界に危険性があるという事にならないか?」

 

「危険は過ぎ去ったんだよ。少し前にね」

 

「なに?」

 

「星晶獣ショゴスによる蜂起。あれは世界に及ぼす要因としては微弱すぎる程に粗雑な物だったが、限り無く可能性の低い未来では、空の崩壊を招いていた」

 

 

 …………ショゴス。

 アイツが何をしたかったかはどうでも良い。腕と耳の恨みもあるが、それも置いておく。だが、あのまま放置しておけば……そこまで()()()()

 

 

「私は、どんなに微小でも空の危機の可能性が生まれた瞬間、顕現する。事後であってもだ。だが、君に会いに来たのは別の理由だ」

 

「結論から言うと?」

 

「君を鍛える」

 

「……ごめん。やっぱり最初から説明してくれ」

 

「幽世という者達が地の底に存在している。彼等は空の世界とは別次元の力を扱うのだが、その中でも力の弱い偵察が空に度々訪れる」

 

「地の底……まさか、空の下には大地があるのか?」

 

「元より、そこを世界と呼ぶべきだったのだが……一先ず置いておこう。その偵察を君が倒した」

 

「……どんな奴だ」

 

「残念だが、君の失われた記憶での事だ。言っても記憶に無いと思う」

 

「嘘だ。記憶が無いのは3歳より前だ……」

 

「少なくとも、私が見た君は幼子だったよ」

 

 

 俺が剣を振るい始めたのはトラモントで義父が死んでからだ。その前までは俺に戦う力は無い。

 

 

 ……いや、まさか。霧を───

 

 

「正解だ。霧を使って記憶の全てを奪った君は、その情報に脳が耐えきれなくて自身の記憶ごと飛ばした。偶然残ったのは恐らく君の母と父の生活の一部だろう。私が見ていなかった時の……」

 

「なら──父と母が何処へ行ったか、知っているか」

 

「知っている」

 

「俺を捨てたのか?」

 

「断じて、違う」

 

「……」

 

 

 確かにある。暗闇の森の中、母が料理を作って父が木を斬っていた記憶。……トラモントの景色と似ているが、それは俺達が元々住んでいた場所の記憶という事か。

 

 バッサリ記憶が無いから、俺を捨てたのかと思った。

 ゾーイを信じるのなら、それは事実では無かったという事。受け入れられない程に急な話だが、依然として父と母は消えた。その謎は。

 

 

「君に全てを伝える事も出来るが……」

 

「……いい。それよりも俺を鍛えるとは、どういう事だ」

 

 

 それを知るには、まだ覚悟が足りない。

 俺はまだ自身の存在に疑いを隠せないからだ。

 

 

 

「幽世の力には抗えない摂理がある。ただ、君の力は彼等に相性が良い。その性質は唯一無二だからな」

 

「霧が……か?」

 

「正確に言えば、君の能力は霧では無いよ」

 

 

 なんだって? 

 

 

「君の力の本来の形は『吸収』。何かを吸って自身の力に変える。その性質が何らかの要因で霧の形を取っているに過ぎない」

 

「……そんな筈は」

 

「霧に魔力を込めれば込める程奪う力が強くなり、最終的に君に還元される。意識から記憶へ。更に、大気中に満ちる元素でさえも取り込んでいる」

 

「どういう事だ」

 

「君が何故人外すらも超越する魔力量を持っているのか。それは大気に溢れる魔力を吸い上げて自身の糧としているからだ。本来ならば人の上限がある筈だが……」

 

 

 ゾーイは悩む素振りを見せて、最終的に言わない事に決めたのか、言い淀んだ。

 

 情報が完結しない。

 つまり、俺の体質は全て吸収の副産物と言えるものだったのか? 

 俺はただの人間な筈だ。

 だが……ゾーイの話を聞けば……化け物じゃないか。人の記憶を食らう生物なぞ、自然の摂理に反している。

 

 まるで無意識に吸収を求めているかの様な─────

 

 

「……待て」

 

「なんだ?」

 

「ナタク様は……セレストが瘴気を以て死を奪うと言っていた」

 

「そうだ」

 

「本来セレストは眼前の敵に対して、更に命令を下す者がいなければ能力を発揮しないとも……」

 

「合っている」

 

 

 

 

 

 

 

「──俺は自分から人間を辞めたのか」

 

 

 

 






──幕間:店に行くまでのトーク。


ゾ「私は、君の何たるかを知っている」

コ「俺はコーリスだ。それ以下でもそれ以上でもない」

ゾ「だが、寝ている君は自身を自覚できない。その分私は全てを文字通り見てきた。君だけを見るのがゾーイという調停の使徒に課された役割だからな」

コ「退屈じゃないのか?」

ゾ「人の体は流動的だ。幼子の君から随分と成長した。大きくなったな…私は成長を見てるだけでも心躍る物があったよ」

コ「面識の無い関係だったからか、凄く気味が悪い」

ゾ「そこはすまない」

コ「…………………風呂とかも覗いてたか?」

ゾ「…?言った筈だ。成長したなと」

コ「」 
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