「──リュミエール聖王。君に話がある」
「何奴……!?」
「私は調停の使徒、ジ・オーダー・グランデ。ここは君の夢の中」
「……これは現実か」
「安心しろ。起きた後の記憶は保証する」
「貴様……星晶獣か」
「その通りだ。そして、私は実際に存在する。今から言う言葉を信じてほしい」
「何の用件だ」
「コーリス・オーロリアを貸してもらいたい」
「貸すだと? 彼はこの国の騎士だ。決して物ではない……!」
「すまない、言い方が悪かった。私が行動する時に、彼と一緒になる様に計らって欲しいのだ」
「共に行動……だと? 貴様、一体何処に」
「リュミエール聖騎士団親米、ゾーイという名に聞き覚えは無いか?」
「っ……コーリスと共にあの光線問題を起こした騎士か」
「そ、それは……兎も角。私は世界の秩序を守る為に作られた存在だ。それにはコーリスの力が不可欠。君が許してくれるならば、夜にでも君の部屋に顕現する事が出来るが、そこで話すか?」
「信じられる証拠はあるのか?」
「なら、証明しよう。私は空を観測していた。君だけが知っているコーリスの霧の特性、あの空乱の始まり、助けに来た星晶獣の全てを余す事なく知っている」
「……」
「今すぐに信じるという事は無理だろう。その代わり、私が騎士として最善を尽くしこの国の助けとなろう。それで私の信用が得られるのなら何十年も、何百年も。そして、彼が死ぬまで」
「貴様は──」
「おっと……ここまでの様だ。私の権能では充分な時間を得られない。話は後日にしよう」
──────────────
「おーい。朝だぞ。起きろー」
珍しい事が起きた。
ゾーイが爆睡している。本来寝る必要の無い彼女は、何時も普通の人間が起きるそれなりの時間に扉を開けるのだが、今日は何度声をかけても起きてこない。
ゾーイの性質を知る俺だけが違和感を感じる由々しき事態だが、取り敢えず薄っすらと霧を入れて状況を確認する。
「……ベットにいる? 横たわっている……本当に寝ているのか」
しかし……研修を終えて疲れたという線はあるのかもしれない。面接の時に精神的な疲労が垣間見えた為、沢山の人間と接する場所では思った以上に辛い事があるのだろうか。
取り敢えず、ノックしてみる。
すると、予想に反して直ぐに返事が来た。
「……うん? コーリスか。すまない。すぐ開けるよ」
ドアが開いて、ゾーイが出てきた。
髪には寝癖も無いし、なんなら服装は固有の鎧。リュミエール聖騎士団としてでは無いが、正装のゾーイだ。ますます疑問が湧く。先程寝そべっていた気配は何だったのか。
「出るのが遅かったが、何かあったのか?」
「……聞かれる可能性がある。一端入ってくれ」
「ああ」
何か事情があるのかと察し、ゾーイの部屋に入る。
「慣れない事をしていた。集中の為に寝そべる形を取っていたんだ」
「それは……?」
「人の夢に顕現した」
「は?」
「コスモスがその様な能力を持っていて、それを少し参考にしたんだ」
「そ、そうか」
超常的存在は何でも出来るのか。
もう突っ込むのも疲れたが、それでも相手を聞かなければならない。ゾーイの行動には今の所不必要な物は無いのだから。
「誰の夢に?」
「リュミエール聖王」
「…………ァェ!!??」
「何だ。その声にならない声は」
王だぞ?
リュミエールで一番偉い人だぞ? この女……
「君の事はこれから話す予定だが、少なくとも私という存在は理解してもらえたよ」
「……一方的な会話じゃないだろうな」
「失敬な。短い時間だったが多分伝わった」
「多分」
心配だ。大方『信用を得るために働こう』とか大雑把で有無を言わさない言葉を使ったに決まっている。ゾーイはそういう生き物だ。
俺は未だにこいつが社会に染まれるのかが不安だ。なのに飯の頼み方とかを心得ているのが凄くムカつく。他も学べ。
「俺は今日剣を受け取りに行ってからガロンゾに行く。何か分からない事があったら周りに聞く事」
「心得た」
ビー厶事件の後からゾーイとの修行は苛烈さを増した。
彼女との戦いに2匹の竜が参加し、不思議な息で眠らせて来たり、凍らせてきたりするのだ。本人曰く、まだ力の3割も出していないと言っていたが、2割すら出していない気がする。
加えて習得したビームの使い方が対空かつ大きめの魔物しか無い。結局霧に頼らない回避方法を模索するだけの修行になりつつあるが、一応色々練習している。
剣に魔力を籠めて斬撃を飛ばしたり、ビームそのものを剣から出したり、盾を尖らせて攻撃に転用したり、本当に色々だ。
ゾーイ自身も騎士団として研修に励んでいる。新人に見合わない実力は過去に騎空士をやっていたというカバーストーリーを適用。活動自体もそこまで難航していないらしいので、恐らく大丈夫だろう。
俺は朝食を食べ終え、贔屓にしている職人の所へ向かった。
「コーリスです。剣を受け取りに来ました」
「おう、入れ入れ」
その鍛冶屋は聖騎士団へ武具の提供をしていて、俺の剣は一番の腕を持つ親方に作ってもらったのだ。
あの戦いで折れた剣の代わりに支給された剣を使っていたが、やはりオーダーメイドが良い。その為には功を立てる必要があり、団長は聖王から賜る事もある。今回俺とロイス、スルトは戦いに貢献した事もあって一流の職人3人に作ってもらう事が許された。特にスルトはハーヴィンであり、専用の剣無しでは戦うのが難しい。先にスルトの物を作り、ロイスに続いて俺が最後なのだが、何故か出来上がるのに時間がかかったのだ。
その完成品が目の前にある。
黒曜石を思わせる真っ黒な装飾が柄に埋め込まれており、それ以外は一般的な長剣……いや、刀身も薄っすらと黒い。
「これがお前の剣だ。長さは一般的な長剣、多少刀身の幅が広く、かつ重めでも構わないと言ったな?」
「はい」
「良し。弟子二人が作ったスルトの"パッション"とロイスの"クレッセント"よりも時間がかかった理由を教える」
親方はポケットからある結晶を出した。
黒く、四角い幾何学的模様が目立つ大きめの石っころの様な何かを。
「こいつはダマスカス骸晶。希少金属だ」
「ダマスカス……ですか」
「聞いたことがあるだろうダマスカス鋼。それを作る為の結晶と言ってもいい。今回お前の剣にそれを練り込んだ」
「……何故俺の剣に?」
「お前に合うからだ。守りに徹する戦いなら何より丈夫な剣がいい。ルクスからもそう頼まれてる。どれ、硬さを見せてやる」
「何を……」
親方は横においてあった巨大なハンマーを担いで剣めがけて振り下ろした。固定されていた剣の刀身にぶつければ間違いなく欠ける。それを咎める隙も無く俺は呆然とその行動を見守った。
だが、剣には傷一つ無い。
「結晶の状態を混ぜてこれだ。それどころかこのハンマーが痛んでるくらいだぜ」
「そんなものを……何処で?」
「アマルティアだ」
アマルティア島。ショゴスが封印されていた未開の島であり、かろうじて文明の跡が残る無人島である。
世界でも有数の希少金属がその場で簡単に見つかったとは信じ難いが……。
「俺は、一つの仮設を立てた。ダマスカスや伝説に残るヒヒイロカネは稀に自然に出来る鉱物ではなく、戦いの中で精錬された鉱物なんじゃないかってな」
「精錬、ですか」
「ああ。過去数回の記録で発見された場所は火山や深海。乱気流を抜けたら船に素粒子が落ちていたって話もある。自然が作り出した物とは思えねぇ」
「となると……あの戦いの余波で?」
「実際に拾ってきたのはルクスだが……星晶獣の力、スルトの炎、竜達の6属性。それ等のエネルギーがアマルティアの鉱石に何かしらの影響を与えた可能性がある」
「……」
「何はともあれ剣は無事完成した。紛失さえしなければ30年は使える筈だ。持っていけ」
「ありがとうございます。……結構重いですね」
「卓越した硬度でそこそこの重さがダマスカスの特徴だ。お前の力なら使いこなせる」
「剛力との兼用……」
「銘は"ノスタルジア"。大事に使え」
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俺は新たな剣を早速装備してガロンゾ行きの騎空艇に乗った。ガロンゾは交通網が発展した豊かな島であり、観光名所であるアウギュステに次ぐ需要を持つと称される島だ。
当然多くの人間がその島に向かう訳だ。
だからたまに変な人が船に乗っていたりする。現在俺の横に立っている小さな女性もそれだ。魔導士めいたフード付きの服装に、刺々しく枝分かれした杖。曲がった姿勢と低く響く陰気な笑い声。ハッキリ言おう、ヤバい人だ。
あ、こっち向いた……。
「ヒヒ、ねぇ君……不健全民だねぇ……」
「……」
お、俺に話しかけてるのか……?
怖いな……む、無視。
「そこのエルーンお兄さん、ちょっといいですか……ヒヒ」
よーく見たら彼女の横にはもう一人エルーンがいる。
俺じゃない筈───
「おっすゥ!!!」
「どわぁ!?」
急にデカイ声を……というか声が高い。子供なのか?
「無視はいけないよね……でも分かるよ……陰気な奴に話しかけられた時って相手がこっちの顔見ないくせに無視されたって一方的に被害者ぶるから質悪いっすよね。でもこっちだってワザとやってる訳じゃないしなんなら空気変えようも頑張って声出してるわけでその結果にもうちょっと救いがあっても思うって事なんだよね……あ、健全民は別」
「ご、ごめんなさい」
何か急に喋りだした。
やっと此方を向いたが、綺麗な顔付きに反して不健康そうな顔色と隈……特に目がイってる。
「不健全……というか死人な君に聞きたいんだけどさ」
「は、はい」
「仲良くしてた人間に裏切られるってどういう気分だと思う?」
「裏切り……ですか」
深刻な表情で問いかけた彼女の目には一種の後悔が見えた。きっと、並々ならぬ思いでこの問いを投げかけたのだろう。言葉を選ばなければ……。
「好きだった人間がいたの」
「はい」
「同じ図書館に通ってて……私ってほら、体がちっこいから……取ってもらった時……恋に落ちたんだよね」
「……はい」
「それ以来よく話す様になってて……充実した日々を送ってて、ああ、楽しかったなぁ」
「……はい」
な、何か綺麗な話だぞ?
「ついに私が彼に告白したら……」
「……」
「フラレた」
「……」
「彼はただの常連。舞い上がってたのは私だけ」
「…………」
「ひ、ヒヒ……所詮健全民と不健全民は交わらないって事だよね」
ヤバい……また目がイった……!
「でもさァ……わざわざ私達不健全民と関わり持っている癖にそこまで興味ないって……これ裏切りじゃない?」
「……はい?」
「健全なんだからさァ……私の気持ちくらい察せるよねェ。それなのに分かってて振るってさ……そういう事だよね」
「……如何に健全で優れた人間だとしても、他者への理解万能では無いと思いますよ」
「不健全民らしい答えをドーモ少年……」
雰囲気が明らかに変わった。
この人は振られてこうなったのか……? 少し顔色を伺ってみる。
──瞬間、彼女は俺の胸倉を掴んだ。
「だからさァ! 片方から一方的に気持ち押し付けちゃうと私とジェームズみたいになるから結局の所同族しか仲良くなれないって訳なんだよォ!! 少年は私を裏切らないよねェ!!??」
「ヒッ……!?」
血走ったガン開きの目で俺に意味の分からない言葉の羅列を叫ぶ。
怖い。此方の正気まで失う。背筋が凍り足が震える。左腕の感覚まで無くなってきた。今思ったら義手だからそもそも感覚ないわ。なんだ、俺は死ぬのか。てかジェームズって誰だ。
「なんだ! 健全民は強引な方が好きなのか!? チューか!? チューすれば恋人になれるのか!? 答えろ少年!!」
「ご、ごういんなのは、だめで──」
「早く答えろォ! おなか殴るぞー!!」
「ひ、ヒィィぃぃ!?」
あまりの恐怖に──思わず身体が透けて。
「あ」
「ぶけぇふ!?」
目の前の少女は思いっ切り甲版に顔面を叩きつけた。
周りの人間は見て見ぬふりをした。
だから俺もそうした。
──────────────
「……ヒヒ、頭が物理的に冷えたよ」
「ジェームズさんの気持ちが分かりました」
「やめろォ!!」
ガロンゾに着いた俺はフィラが来るまで時間を潰すことにしたのだが、俺の足を掴んでまで少女が着いてきたので、一先ず撒く事を念頭に会話を始めた。
「失恋中でちょっとあたまこんがらがっちゃった」
「ちょっと……?」
「相談できる友達は一人しかいないんだけど森に籠もってるからねぇ」
「友達……」
「……あ、もしかしてガチソロ専の方? ねぇねぇソロ? もしかしてりっちょより下がいましたァ……? 友達全くいない系……!?」
「……はぁ」
友達がいない様に見えたのか、気味の悪い笑顔を絶やさず俺を煽る少女。名前はりっちょか。変な名前だ。
何となく俺は聖騎士団のエンブレムを見せてやった。
「へ、何それ?」
「リュミエール聖騎士団に所属する事を証明するエンブレムです」
「聖、騎士団…………?」
「はい」
「健全民……だと?」
聖騎士団という単語を聞いた瞬間、りっちょさんは手をワナワナと震わせて目を覆い隠した。
「ひ、ヒヒ、アハハハ……信じてた同族が段々変わってって健全民になる光景は沢山見てきたけど……そもそもの勘違いは初めてだなぁ…………」
「……」
「でもさァ……騎士団って青春とはかけ離れた感じで努力一本、辛そうだよねェ。異性もいなそうだしね……寮とか男ばっかりなんでしょ?」
「寮には1人女性の騎士がいます。騎士団全体にもそれなりに」
「…………青春よござんすねぇ」
ほんの少し不貞腐れた態度を見せた。
もう何が正解か分からない会話になってきた。
「所で、何故ガロンゾに?」
「んー……まぁ、ちょっと各地を回らなきゃいけなくなって、ここ経由で色々やりくりすんのよ」
「なるほど」
「少年はー?」
「幼馴染と会いに」
「ハイハイ健全健全しょーもな。私幸せそうな空気吸うと身体が拒絶反応起こすんだよね」
「そうですか」
「あ、船きた。じゃあの」
「お元気で」
やっと消えてくれたか……。
彼女は唯の陰気な女性に思えない。俺という存在を見透かす様に自然と話し掛けていた。加えて透けた身体に対し何も驚いたリアクションを取っていない。
不健全とは、もしかしたら俺の身体を……?
加えてあの少女は途中から俺を少年と呼んだ。年齢も名前も何も教えていないというのに。
彼女は……まさか……。
俺の思考はフィラの声によって掻き消された。
○○○○○○○○○○○○
少女はひたひたと歩く。
満足した表情にも見えるし、卑屈さを煮詰めている様にも見える様相で船に乗り込む。
側の誰にも聞こえない、か細い声で彼女は呟いた。
「あそこまで不健全なのは久しぶりかも」
身を外に寄せ、風を浴びながら彼女は追憶する。
(生き長らえるのは偶にいるけど、生き
戦争の記憶、呪いの記憶、死の記憶。
それ等を彼女は覚えている。
「ボンビーを解決できたら、ちょっと助けてあげようかな」
気まぐれな感傷で彼女は未来を見据えた。
「折角だし……ストーキングしておきましょか」
彼女はコーリスの片足にしがみついた瞬間に術を仕込んでいた。
彼女の司る物は呪い。呪いの星晶獣"リッチ"は軽度の呪いを使用し彼の居場所と状態を常に把握し続ける。その気になれば遠隔で呪殺する事が出来るが、彼女は事情により本調子ではない。本調子でもやらないだろうが。
(ちょっと顔いいしね。ジェームズ程じゃないけど)
自分の行いを正当化しつつ、今の彼の状態を見ようとした瞬間。
「──」
無言で目を見開いて、直ぐに目を閉じた。
冷や汗を流してその行いを後悔したのだ。
「あちゃあ…………」
心底、後悔した。
「……人外の方でしたかぁ」
ゾーイですら気付かないコーリスの秘密を、人知れず彼女は知ってしまったのだ。
・コーリス
ダマスカス骸晶ソード獲得。剣の耐久力向上に伴いビームが出しやすくなった。リッチとの会話では動揺しすぎて自分が死人と呼ばれた事に気づいてない。
・ゾーイ
まだコミニュケーションの取り方が下手。
・リッチ
一般通過リミテッド星晶獣。コーリスの全てを見抜いた二人目の人物。一人目は…?
・フィラ
毎回コーリスに無茶をしないよう注意するが、一向に頷いてもらえない。もし彼が頷くとミスラとの相乗効果によってガロンゾでの永続デバフが成立するので非常に危険。