「──今より、決闘を行う。双方、準備は良いか」
「コーリス・オーロリア、元より」
「ルクス・ベルバレク。元より」
「よろしい。では──始めッ!!」
───────────
──1日前の事だった。
スルトがコップを落としたのは。
「お前、今なんて」
「聖騎士団を抜ける」
「なんで」
「夢の為には騎空士にならないと駄目なんだ」
「……ああ、そういう事か。愛想尽かしたのかと」
「リュミエールには懇意にするよう団長から言われた」
「うんそれは良い事だ。他の奴には言ったか?」
「団長から伝わってる。ロイスに会うのが怖い」
「タマキンは守れよ。アイツはすぐ蹴る」
「……ああ。あと、ゾーイも一緒だ」
「はぁ? 騎士になってまだ2ヶ月くらいだろ。辞めたくなったにしても……何でお前と」
「ま、色々あるんだ」
ボロを出すまいと、多くの事を語らない様に意識しながらローストチキンにかぶりつく。
そう、今日はクリスマスなのだ。
勘のいいスルトは疑わしくコーリスを見つめるも、自身も目の前のチキンを手に取った。
数口咀嚼し、彼は気まずそうに言った。
「……デキてるのか?」
「消すぞ」
「すまん。お前の好みは静かな年上の女性だったな」
「まったく失礼だな」
「はは、すまんすまん」
嘘である。
この男、遠い故郷の幼馴染の事しか考えていない。
「……それで、年は明かすのか?」
「勿論。だが、それまでにやらなくてはいけない事がある」
「なんだ?」
「力を示し、俺の行動に覚悟を求める。団長との決闘だ」
「──なる程な。年が明ける前に戦うのか」
「ああ」
「全く……急すぎるだろ。お前」
「タイミングが難しくてな」
「しかし……お前が消えたら俺はボッチでクリスマスと年末を過ごす事になるな」
「国が許すなら遊びに来る」
「それはいいな」
クリスマスや大晦日等といった日は家族と過ごす人間が多い。
普段寮を取り仕切るグルシは家に帰り、子や孫達と共に過ごす為、自動的にコーリスとスルトだけになる。片や故郷が消失、片や勘当紛いの住み込み。当然過ごす場所は静かな寮だ。
ゾーイの咀嚼音さえなければ。
「何をしみじみと二人とも。チキンは変わらず美味しいというのに……雰囲気は大事だろう?」
「5分前までクリスマスの日程を知らなかった女のセリフか?」
「好きなだけ美味しい鶏肉を食べていい……なんて素晴らしい日だ」
「……」
「ゾーイ。クリスマスは別にチキンを貪る日じゃない……いや、一応食う日なんだけど……子供にとっての大イベントなんだ」
「それくらいは理解しているとも。子の純粋な願いが叶う日だろう? だがチキンは何なんだ?」
「一説によると、開拓者達が新たな世界を発見した時、何時も食べていた牛や豚が無く、その土地にあった鶏を食したらしい。謂わば、開拓者達にとっての記念日に鶏肉を食べるようになり、それが日常に浸透したという事だ」
「ふむ……では、そもそもクリスマスとは何なんだ」
「それについては分からない。何故か全空の文化として残っているが、起源についての情報はこの世界に残っていないらしい」
「謎だな」
「だが、開拓という言葉にはとても力を感じる。コーリス、君の夢はある種の開拓であると言えるだろう。同じ様にスルトも種族の壁の開拓を望んでいる。これは人間にしか無い能力だ」
ゾーイは真摯な眼差しで二人に言った。
「──私には、それが許されていないからな」
────────────
(開拓、か)
剣を天に構えながらコーリスは考える。
道を切り拓く事が人間としての特権だとするのなら、何故現状を守り通す聖騎士の在り方が美徳とされるのか。
長い歴史の中、世界を本気で救おうとした者は少なくない筈で、尚かつコーリスよりも圧倒的に優れていた者の方が多い筈だが、それが成される事も無く、国家という縮小体の中でそれぞれを守る事に尽力した。
ゾーイが提示した道が正しいとは一概に言えない。
彼女の存在そのものを疑う気は無いが、幽世の存在に関しては何処か急な話に思えたのだ。無論、それは幽世が実在していないという疑いでは無く、あくまでコーリスがそれを打破できるという憶測について。
もしかしたら、危険溢れるコーリスの能力を制御する為に理由を用意する事で自身の監視下の元、力を付けているのかもさしれない。
(どの道、感謝はしなければな)
チラリと横を見れば、見覚えのある聖騎士達が決闘を見守っている。
彼等は士官学校での同級生。あの空戦に参加し生き延びた者、戦いを辞退し街の避難に努めた者、数が減っている様に見えるのは……恐らく戦いで死んだ者もいるという事。
他の聖騎士が存在しないのは、これは私闘であるからだ。
あくまでルクスが一方的に挑んだ戦いであり、その責任を見届ける為に最も誠実とされる立場の聖王が立会人となる。
聖騎士にとって決闘は邪とされるべきものなのだ。
試合ではない。
だから、相手が倒れるまで戦う。
それが現在だ。
「───ふッ!」
先に仕掛けたのはルクス。
様子見の横凪ぎは回避を誘発しにくい先手であり、当然相手は逸らすか受け止めるかの二択になる。
コーリスは黒き剣で以て斬撃を逸し、金属同士の接地面に火花が散った。
(知っている。私はこの戦いを知っている)
側で見ているロイスは6年前の試合を思い出し、今の展開に既視感を覚えた。
自らが攻め、コーリスが守りに専念し、結果隙を突かれ敗北した。今では体力もキレも前以上だが、それでも彼の守りを崩すには魔力が必須。
だが、ルクスは剣も魔法も高水準。
その剣は瞬く間に相手を切り刻み、光の魔法は相手の肉体を塵に変える。
(……後悔だけは許しませんよ。勝つんです、コーリスさん)
ロイスは、リュミエールを去るコーリスに無意識の怒りを向けながらも、友としてエールを送った。
「……」
言葉は無い。
決闘に於いては戦闘の最中。軽口なぞ以ての外。
だが、それでもルクスは一声与えたかった。
(……掠め手を考えるのはよせ。お前は既に遊撃隊ではないんだ)
コーリスに染み付いた敵の裏を取る戦法。
対人に疎いゾーイには効果的であったが、コーリスの強みを活かせていない。
彼の強さは、崩しづらい防御に加わった膂力。
今の彼は、虚を突く事に専念しているだけである。
(下らん攻めを繰り返すなら──終わらせるぞ)
ルクスは剣と足に光を纏わせ、速度と剣撃の力を倍増させ、一息でコーリスの懐に潜り込んだ。
彼の右手を掴み、腹に向けて柄を打ち込んだ。
「ごっ……は」
腹に速度が加わった打撃を食らい思わず後退るコーリス。
その隙にルクスは追撃に渾身の斬撃を繰り出す。
「っ」
かろうじて盾で防いだコーリスの頬に又もや拳が突き刺さる。
光の魔法は決して人間を光の速さに届かせる事はしない。だがしかし、速度を上昇させる事に於いては風属性にも劣らない。それに加え出力の上昇。
火の出力と風の速度を合わせた様な光に加え、ルクスの剣術が混ざる事で驚異的な肉体の稼働に成功していた。
謂わば、反応する前に叩く動作。
「──!」
だが、目の前にいたコーリスは消えていた。
霧による記憶飛ばしの影響と考えたが、直ぐに別の正解を理解した。
(……なる程。噴射か)
脚から魔力を噴射させる事でその場から立ち退いたのだ。
防御魔法を習得してから重い鎧を外したコーリスにとって、速度戦は多少得意なものであったが、それでもルクスの速さには叶わない。虚を突く前に行動される。
ならば、力で勝たなければならない。
コーリスは集中した。
目を閉じ、剣を中段に構え───
「ッッッッッッ!!!」
歯を噛み締めて飛んだ。
「更に速い……!?」
ルクスが腕を動かした瞬間にコーリスの長剣が激突する。
振り切る前に当てられた為、当然彼の肩と腕は後ろに弾かれる。
彼の剛力を以てすれば常人を超えたスピードは実現出来るが、技術は補えない。故に追撃の数発はルクスに見切られ回避される。
……だが、げに恐ろしきは彼の攻撃回数。
強化された身体によって、重さを伴う長剣をナイフを振るうが如き速度で繰り出す事が可能。加えてダマスカス骸晶が使われた武器な為、受け止めるルクスにはかなりの重さがのしかかる。
エルーンのしなやかな瞬発力、剛力、丈夫な剣。
全てが噛み合っていた。
「……帰ってきた」
「……はい」
「これが、コーリス・オーロリアの戦い方だ」
スルトとロイスは彼の姿を見て懐かしそうに目を細めた。
騎士団に入団して町を守っていた……聖騎士コーリスの戦い方が戻ってきた。
コーリスは完全に闇から帰還した。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
VS リュミエール聖騎士団団長 ルクス
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「ハァァ!!」
(この力……受け流すしかあるまい……!)
ルクスは敢えて剣を受け、その軌道を滑らせるカウンターを考えた。
だが、彼は動きを止めるべきでは無かった。
「ぐはっ……!」
義手に展開された大盾がルクスの身体を吹き飛ばした。
シールドバッシュである。
「く……!」
すかさず体制を立て直し、コーリスに対する防御は寧ろ悪手だと考えたルクスは目にも止まらぬ速度で連撃───しかし防がれる。
「なっ!?」
これは、見切りでは無い。
コーリスの剣には霧が纏わせられていた。つまり、打ち合いの最中、どの方角から攻撃が来るかを感知できれば、魔力の荒使いが可能な彼にとって防ぐ事は難しくない。
方角。それだけ分かれば巨大な壁で防げるのだから。
やり方は出来ているという訳だ。
無表情のままルクスを追い詰めていくコーリス。
そう、彼は対人において絶対的な強さを持ち合わせている。空戦の様に大火力が必要であったり、一方的に空で囲まれた状況では活躍は難しいものの、ゾーイやレイといった実力者は既に彼に対し"完成した強さ"という評価を下していた。
彼を打ち崩すにはスルトの様な人智を超えた力か、
「レイディアン・レイ!!」
「……!」
だが、ルクスとて優れた騎士。
光の雨を降らせコーリスの頭上を一時的に支配した。
降り注ぐ光の槍を回避するには中心に近すぎるので、彼は敢えてルクスに接近し被撃回数を減らそうと試みた。
この魔法の狙いは霧の引き剥がしであり、自身の攻撃をコーリスに通す一助として用いた。
回避に意識を誘導されたコーリスに斬撃が襲いかかる。
「ぐぁっ……」
盾の構成には間に合わず、上体を反らしたものの傷を負ってしまった。
(……脇腹か。激しく動けば血が出過ぎる)
ならば、どうするか。
動かずに倒すしかない。
───瞬間、ルクスの顔面付近に青い光が通過した。
「え」
誰かが思わずに零した困惑の声。
限りなく短い間隔の後、背後から落下音が響いた。
それは、風穴が空いた瓦礫。
コーリスは剣を持った右手を向けていたのだ。そして、地面に得物を突き刺すと、周囲を囲う様に透明の壁が構築されていく。
「ケーニヒマウアー。ケーニヒシルトの応用で余波を防ぐ領域を作りました。ここから先は大火力を以てお相手します」
その言葉と共に彼の傷が光り始め、薄い霧が充満した。
この空間こそが、コーリスの戦場そのものと化してきたのだ。
一挙手一投足が感知され、やがて濃くなる霧によって思考が乱され、記憶までもがリセットされる。
その間に打ち込まれる光線は相当な威力。
一対一で戦うのならば、やはりコーリスが最強であるとルクスは再確認した。
「望むところだ……!」
大量の魔力を剣に纏わせ、ルクスが駆け出した。
戦況──コーリスに傾き始める。
○○○○○○○○○○○○
俺は普通に負けそうだ。
お前はいつも変なタイミングで強くなるな?
だが、誰もが知っていた筈だ。
コーリスの防御魔法と霧をフル活用すれば、
人智を超えた火力は俺の人生経験上スルトしかいない。
星晶獣でさえ、純粋な破壊力を持つ奴は少ない。何故なら、獣達は概念系の能力が多いからだ。感情を持つ時点で霧の餌食になるのは確定。
あの戦いが空中でさえなければ難なく勝てていたと言えるほどにコーリスの影響は大きい。
そして、変わった。
後々ロイスに聞いた話だが、コーリスは死ぬ寸前に星晶獣の助けによって命を紡いだらしい。それからだ。
──お前が焦りだしたのは。
余裕が無い。
本人は夢の為には幽霊の身体が好都合と言っていたが、ならば何故そこまで生き急ぐ?
……突然現れた銀髪の女も気がかりだ。
あいつの周りだけが急速に動いている。俺達は蚊帳の外なのか。
それならば──せめて……せめてだ。
ほんの少しでもリュミエールでお前の理解を深められれば……助けになるかもしれない。
俺が勝てば、お前に余裕を与えられるかもしれない。
ロイスとスルトも喜んでくれる筈だ。
……エクシンダも報われる事だろう。
「次で終わる」
「……はい」
霧が深まれば徐々に俺の自意識や記憶を一時的に奪われる様になる。そして、霧が充満したこの場においてはそれが連鎖的に続き、実質の無力化となる。
ならば、奥義で以て霧ごと払うのみだ。
一度腕を振り下ろしてしまえば記憶の遮断など無意味。
一撃で決める。
「ならば、俺も奥義で──」
俺の剣に光が集まると同時に、コーリスの剣にも魔力が込められていく。
白く黄色い光に比べて、蒼く薄暗い色。
なる程。前のビーム事件はそれの練習か。
「陛下……御下がりを」
「うむ」
この規模では壁が壊れるか……?
いや、コーリスの事だ。二重構造にはしているだろう。
なら、安心して大火力を放てる。
「……行くぞ」
「行きます」
──この一撃、リュミエールの意思と知れ。
「ノーブル・エクスキューション!!」
「ガンマライト・エクスキューション!!」
──はは。嬉しいことをする奴だ。
……リュミエールの奥義から着想を得ているとは。
○○○○○○○○○○○
光と光がぶつかり合い。
霧で遮断されていた視界が明け、エネルギーの衝突が地を揺らす。
ノーブル・エクスキューションはリュミエールの秘技の一つであり、極めて凝縮した魔力を剣に滾らせ放つシンプルな破壊技である。光の属性を扱える者だけがその技を習得する事が出来たのだ。
そして、今放たれたコーリスの技は秘技のイロハを踏襲した極大威力の斬撃。
剣から大砲のように放つビームとは違い、斬撃として
一度に放出できる魔力量が互角だとしても、凝縮された光を放つルクスと光を放ち続けるコーリスでは質が違う。
つまり、一度でも突破されればルクスの負けとなり、拮抗状態を打破されればコーリスの負けが近づく。
駆け引きも何も無い、破壊の押し付け合いが始まっていた。
「リュミエールの秘技……! この程度で打ち負かせると自惚れるな……!!」
「……強い……!」
ファータ・グランデでも極めて規模の大きいリュミエールの軍事力。そのトップに立つ男の力は桁違い。
だが、コーリスはレイとゾーイとの邂逅によって自身の力の解釈が広げられた。
レイの眼に操られた時は放出の概念を知り、ゾーイとの戦いでは推進の意味を悟った。
コーリスは、溜め続けた。
剣の先に斬撃と、もう一つ。
剣の根本に魔力を溜め続けたのだ。
「が……ぐ」
光には熱が伴い、火とは違い直接触れなければ熱も感じない。だが、コーリスは既に光の奔流に飲まれかけていた。
しかし未だ──溜める。
「……終わりだ」
ルクスが腕に力を込めるた瞬間──コーリスの溜めが完了した。
「今ァ!!!!」
恐ろしい密度の蒼光が音も視界も飲み込み、ルクスの光を打ち消していく。
「何……!?」
「属性の無い魔力はただそこにあるエネルギー! 俺はそこに速度を加えた……!!」
「速度──」
「つまり……溜めるだけならば手元に置いておいても不利は無い───俺の勝ちです……!」
「……見事」
属性は時に自らの肉体を害する。
何故なら、自然現象の顕現そのものであるからだ。故に空の民は武器を媒介して力を放出していた。
コーリスの魔力に属性は無い。
エネルギーとしての力を推進力で押し出しているだけ。つまり本質は物理攻撃に近しいものだ。
手元で溜め続けても自身に害はない。
ルクスの光が絶え、爆発と共に壁が解除された。
「……勝者は」
聖王が煙の中に立つ影を見据える。
彼は、剣を天に掲げていた。
「コーリス・オーロリア」
コーリスの道は、ここから始まった。
ルクスとかスルトとか、ぶっ壊れた強さの人間が沢山出てますが、原作通り最強のリュミエール聖騎士はシャルロッテです。
グラブルvsで極太ビーム出してた団長見て「あれ強くね?」ってなったのでもし登場したらメッチャ盛ります。
他の騎士達もビームは出せませんからね。