幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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コーリス君が飛ばしていきます。


42.灰の楔、或いは扉:②

 

 

 ずっと考えていた。

 

 この力、霧は何なのかと。ゾーイが言うには、元々持っていた吸収の力が霧の形に変質したらしい。

 

──じゃあ、吸収の力は何処から来たものなんだ?

 

 

 ゾーイにすら分からない俺の力の源。バジュラは、その何かに触れてきたのだろうか。

 

 意識が戦いに戻って来るとき、初代神将の力は言っていた。

 

 

『内側に干渉されたお前は、この後の戦いにおいて限定的にその力を引き出され、経験した事の無い自分を思い知るだろう』

 

『なに?』

 

『気張れよ、()()()()を背負わされた少年。飲まれれば、お前の中身が閉じこもってる意味が無くなるぞ』

 

 

 よく分からない事を言っていたが、俺の能力の理由は…バジュラと同じ物だということは分かった気がする。

 俺に巣食う存在。しかしその姿を感じさせる事は全くない。

 

 

──ならば、その要素も一人の『コーリス』として自身の力にするまで。

 

 

 俺が持つ時間など、文字通り腐り果てるまであるのだから。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 コーリスは右手を掲げた。また霧が起こる。忘却の霧、放浪の霧、そして認識の霧。

 

 灰の残光を残す瞳はバジュラを捉えながら、同時に蕩けていた。

 

 

(ああ…世界が灰に染まっていく。灰色に変わっていく……。そうか──)

 

 

 霧に触れた空気が光に変質し、コーリスの傷口に集まっていく。

 

 

(──世界は、こんなに要らないものが多かったのか)

 

 

 互いの奥義を直接ぶつけ合った二人は、少なくとも戦闘不能の傷を追うはずだったが、高すぎる威力が爆発を生み、互いが吹き飛ばされる事で逆に深手を免れた。

 

 それでもコーリスには切り傷が多かったが、どういう仕組みか──霧を介して得た光がその傷を完全に治してしまった。

 

 その光景はバジュラであっても目を疑う物であった。

 

 

「空気中の元素を……取り込んだ…?」

 

 

 自然に親しい精霊達をその身に降ろす事が出来るヴァジュラだけが、コーリスの行動に推測を立てる事が出来た。コーリス本人であってもその行動に理屈を立てる事が出来ない異常事態。

 

 アウゲィアス由来の吸収の力を以て、空気中に満ちる元素を取り込み、細胞に変換──再生。"楔"の力を一時的に引き出された彼は、無意識でありながらも全能感に身を包まれていた。灰の意思が混入しているのだ。

 

 

「ははは!随分あやつに似た雰囲気になったな。だが以前の貴様の方が目以外は格好良かったぞ!」

 

「あやつ…?」

 

「はっ…いかんいかん…。兎も角、我も貴様が触れたおかげで絶好調になってしまった!熱りが覚めるまで手伝ってもらうぞ!」

 

(アウゲィアスとの約束を破るとこだった…!)

 

 

 触発されたのはバジュラも同じだった。初代神将の力を十二分に発揮した状態の彼女は、ミタマ降ろしを行った神将に等しい。漲る神気は、本気のヴァジュラと同質の物だった。

 

 

(アウゲィアスの力……だがコーリスの使っていた力と性質は同じものだ。警戒するべきは出力の差か、応用力か…。まずいな、超常も超常……自然そのものを相手にしている様なものか)

 

(今なら何でも出来そうな気がする。風の元素を吸収・開放……………廃棄!!)

 

 

 彼を癒やしていた光の余剰分が右手に収束し──

 

 

「──Usabotihsek(消し飛ばす)!!

 

 

 ──灰色の光線となってバジュラに襲いかかる。

 

 

「芸の無い奴よ!」

 

 

 身体の一部が焦げているバジュラだが、動きに問題は無い。寧ろ力が万全に引き出されているからか身体能力にも磨きがかかっている。

 以前のコーリスでは有り得ない色の光線を躱し、自らも攻撃に転じる。

 

 

「大口真神…そして!」

 

 

 牽制として回転する斬撃を放ち、そして再び─奥義。

 

 

「猟砕犬戊!!」

 

 

 今度は炸裂させない二つの斬撃として襲いかかった。人体を真っ二つにする切れ味は持っているが、今のコーリスに放っても問題ないと彼女は判断した。何故なら、今の彼は恐ろしく強く、果てしない存在に変化したからだ。

 先程彼が撃った灰色の光線も、一瞬でも当たれば戦いが終わっていたかもしれない。

 

 その恐ろしい想定とは真逆にバジュラは微笑んだ。

 

 

(我が避けると分かって……いや、信用して撃ったな。全く過大評価が過ぎるぞ……もっと好きになるだろうが!!)

 

(やばい…流れでバジュラを消し飛ばすところだった。しかし何だあの言語は……まあ、いいか)

 

 

 目の前に斬撃が迫って来たにも関わらず、防ぐ動作も見せないコーリス。いつの間にか剣を鞘に収め、今度は左手を前に出した。

 

 

(…なんだ?掌を上に……)

 

 

 すると彼の掌に、霧が竜巻の様に渦巻く球体が出現した。

 

 

(…!!!!)

 

 

 バジュラは自身に対し、人生に於いて最も危険な状況であると警報を鳴らした。

 

 次の瞬間にはコーリスが球体を上に放ち──

 

 

塵灰(じんかい)のガーベイジ」

 

 

 

──全てが飲み込まれた。

 

 

「ヴァジュラ!!絶対に結界を維持しろ!!!」

 

「はい!!」

 

 

 その球体は、空間に漂う火、水、土、風の元素を、そしてバジュラの斬撃に加え──酸素までも飲み込んだ。

 

 結界外とバジュラの周囲に影響は出ていないが、彼の周囲は世界の要素が消え、色が抜けていた。文字通り、灰色の世界。そして──

 

 

Uretus(廃棄)

 

 

──その言葉と共に、空へと虹の極光が解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 コーリスが生み出した球体が、小規模ではあるものの範囲の全てを飲み込み、廃棄の理の力で空に放出された。

 

 程なくして灰色の空間に色が戻るも、バジュラは思わず言葉を失った。

 

 

「我の奥義を受け止めるだけの為に……馬鹿!やり過ぎだ!」

 

「……自分でもヤバいと思ってる。なんだこれ」

 

「一応人を巻き込まない様に調節出来てるのが呆れるが……見ろ!」

 

 

 

 バジュラが指を指した先には雲。

 

  

……虹色の雲。

 

 

「雲に色が付いちゃっただろうが!!!」

 

「あー絵本みたいですね」

 

「ヴァジュラ!?現実逃避はいかん!」

 

(くそ…このままでは何でもありのコーリスに負けてしまう。我も気を引き締めねば!)

 

 

 アウゲィアスの理不尽さに辟易としながらも、バジュラの戦意は衰えない。何故なら、彼女は切り札を使っていないから。

 

 そう──彼女自ら生み出した究極の剣術。

 

 

「かかってこい」

 

「行くぞ!!」

 

 

 逆転した立場の中でバジュラが駆け出す。

 しかしそこに一つの光が現れる。

 

 

「…ゾーイ!」

 

「今度はなんだ!?」

 

 

 結界の中に侵入した光の中から現れたのは、ゾーイだった。だが、彼女らしくない焦燥とした表情は、コーリスの瞳を見た瞬間に更に膨れ上がった。

 

 

「コーリス!」

 

「どうした」

 

「君は………………」

 

 

 突然の乱入に驚きの声が上がるも、ゾーイはただ一点…コーリスのみに対し問いかけた。

 そしてその顔は、恐怖に満ちていた。

 

 

 

「君は"コーリス"か?」

 

「ああ。詳しくは分からないが、俺の中にいる存在を刺激された事によって力が表に出たらしい」

 

「内にいる存在だと…そんな筈は!君は過去に幽世と交戦してしまっただけで…!!」

 

「悪いが、今はバジュラと戦っている。安心してくれ。その幽世からの干渉は感じていないから」

 

「………」

 

 

 ゾーイは無言でバジュラを見た。バジュラは戦いに水を差されたからか、苛つきを抑えられていない。未だに勝つ気でいるのだ。

 だがそれよりもゾーイにとって驚いた事があった。

 

 

(彼女も力が増している?コーリスとバジュラの間に何があったんだ……?)

 

 

 少し考えて、自身の知識では分からないということを分かったゾーイは、この戦いが均衡への脅威となる事を視野に入れ、見張る事を念頭に置いた。

 

 

「すまない…邪魔をした。あまりにもさっきの虹が異常だったからね」

 

「悪かった。少し興奮しすぎた」

 

「……じゃあ、また後で」

 

 

 その異常な力に疑問すら覚えていないコーリスに違和感と疑念を抱きながら、ゾーイは身を隠すという体で空から彼等の戦いを見届ける為に権能を使った。

 

 

 またもや、二人になる。

 

 

「あやつも規格外の様だな」

 

「やり過ぎたか…すまん。待たせた」

 

「構わん。さて、やろうか」

 

 

 先程に比べ、コーリスの意識が戻って来ている。アウゲィアスの権能に意識を飲まれかけていた結果が先程の吸収攻撃だが、ゾーイによる乱入が意識を反らし、彼の心を戻した。

 

 

「──」

 

「ハァァァァァ!!!」

 

 

 

 コーリスは愛剣を右手に、そして左手に小剣の様な武器を創り出した。盾を作る際の魔力の応用で、剣の形をした凝縮体となる。

 

 

(…やはり魔力だけでは切れ味の再現は難しいか。形だけだが、それはそれで使いやすい)

 

 剣として使うのならば、精巧な金属の仕組みまで再現するのが理想だが、魔力を固めた物にそれは不可能だった。

 

 

「シッ──!!」

 

「──おっとッ!」

 

 

 しかしその小剣を振りかぶれば、衝撃波が大地を揺らした。

 

 

(金槌か!?以前のコーリスならば形だけで鈍器の使い方になっただろうが………これも楔とやらの力か!先程空に放った力の余りを再利用……!)

 

 

 だが、バジュラは同時に好都合と感じた。

 

 

(近接に切り替えてくれるのなら…本望!!)

 

 

「はぁッ!!」

 

 

 第二撃として振りかぶる黒剣に、バジュラは敢えて刀を合わせに行った。

 

 そして──

 

 

「度肝を抜かすなよ?」

 

 

 蠱惑的な笑みと共に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 …否、彼自らが地面に突っ込んだ。

 

 

「がぼッ!?」

 

 

 想像を絶する苦痛がコーリスを襲う。高所から叩き落されたかのような衝撃。そして、受け身を取れなかった事による直撃。"転んだ"と形容できる程度の低さであるのに、彼が受けたダメージは計り知れないものだった。

 加えて目立った外傷では無く内側への衝撃が痛手だったので、楔の力を使った再生も不可能となる。

 

 だが、何とか彼は立ち上がった。

 

 

(剣越しで俺を投げたという事は……柔術の様な技術を武器で応用したというのか…!?だが、刀は柔らかくない……人体の様に幅広く相手に絡められる物では無い筈…)

 

 有り得ない技であった。しかし、コーリスは思い出した。初めてバジュラと遭遇したとき──暴漢達は彼女に()()()()()()()()()のだと。

 

 

「……まさか、出来るのか?」

 

 

 刀で相手の剣を捉え、そこから相手の力の重心を抑えて投げ飛ばす。奇跡的に噛み合えば、理論上は出来るのかもしれない。無論バジュラは狙ってやったのだろうと彼は考察する。

 

 そうなってしまえば、剣での打ち合いそのものが無意味となってしまう。

 

 

 彼が攻め手を変えようとした時には遅かった。

 

 

「行くぞォ!!」

 

「──あ」

 

 襲いくる刃に対し、胴を反射的に剣で守ってしまった。また、刀と剣が当たった。

 

 

(不味──!!)

 

 

「もう一本!」

 

 

 今度は寸前で剣をズラしたが、逆にその力を利用されてしまい身体を打ち付けてしまう。だが先程と違い受け身を取れた。コーリスは距離を取って光線を放つ。

 

 

「それはもう見た!」

 

 

 直線上に飛んでくるのなら斬り伏せるのみと、彼女は光線を正面から真っ二つにしながら彼に直進していく。

 

 

「ならばッ!」

 

 

 刀越しに投げられてしまうなら、バジュラの刀を避けつつ剣を振ればいい。カウンターを狙ったコーリスの剣が彼女に当たる寸前に至った。

 

──それは過ちだった。

 

 

「阿呆め」

 

 

 バジュラは刀を一旦捨て、素手でコーリスの両手首を掴み、背中に回した遠心力を以て大地に顔面を叩きつけた。

 

 薄れそうな意識の中、彼は自戒した。

 

 

(馬鹿か俺は…!?武器で応用した投げ技を使えるなら、元より身体を用いた技術を使えない筈が無い…!クソ!)

 

 

 しかし考察は忘れない。

 

 

(俺の力が曲げられている……?いや、剣を振る力そのものを利用して投げているのか。そして重心崩しの技──)

 

 

「合気か!」

 

「ご明察!だが訂正すると──」

 

 

 バジュラが落ちた刀を拾い肩に担ぐ。

 

 

「──合気剣だ」

 

 

 合気道。相手の重心を乱し、相手の力を利用して相手を崩す柔の技。身体能力の不条理を解消する、弱者の為の技として捉えられてきた技術。

 

 

「我が唯一、自ら鍛錬し生み出した境地。神将として才能も関係ない、唯一人の人間の身技」

 

「何故隠していた…」

 

「恐ろしく疲れるからだ」

 

「なに?」

 

「初代の力がある限り、斬撃等は呼吸をする様に生み出せる。だが、これは魔力も何も関係ない…我の頭と身体で行うもの。極度の集中と律心が必要だ」

 

「…」

 

「だが、貴様によって最大限引き出された初代の力のお陰で身体自体の動きは活性化している。だから、コーリス」

 

 

 バジュラが目を大きく見開いた。

 

 

「空の明け方まで、我は戦えるぞ」

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

VS 金色犬神 バジュラ

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 今度はコーリスが溜息をついた。

 

 

「手加減とか、そういうのは必ず勝てる相手にするべきなんだもんな」

 

 

 敢えて向けない様にしていた楔の力を再び全開放する。互いが現状発揮できる最大限を叩きつけんと吠える。

 

 

「──Aros()ezak()iah()……」

 

「詠唱か──!」

 

 

 目を閉じ、コーリスが楔の言語で以て無意識の詠唱を唱える。再び球体が生み出され、周囲の気流が一気に収束していく。

 

 

「な……!?」

 

 

 ただ、一つ違うのは……球体が3つある事だった。

 

 

「──Aharos(空は)irijamotihsoh(星と混じり)

 

「させるか!」

 

 

 一つの球体が鳴動する。発動前にバジュラが向かうも身体そのものが吸い寄せられて上手く動けない。

 

 

「──Ezak()eowiikoyut(強き意を得)

 

 

 二つ目の球体が風を生み出す。

 

 

「──Iah()urusnakikiroyiem(迷より帰還する)

 

 

 

 三つ目の球体が霧を生み出す。

 そして、全ての球体が呼応し混じり合おうとしている所で──

 

 

「猟砕ィ──犬戊ォ!!!」

 

 

 彼女は自らの奥義を3度打った。合計6つの斬撃が均等に球体の元へ吸い込まれていく。だが、吸収されてしまえば寧ろ糧となり、廃棄される瞬間にコーリスの攻撃に変えられてしまう。

 

 それを彼女は理解していた。その上で。

 

 

「吸収して廃棄!その仕組みさえ分かれば…吸収を打ち切った瞬間に当てて先に爆発させられる!!」

 

「──チィ」

 

 

 アウゲィアスが持つ廃棄の能力は、空の世界に害あるもの、又は不要な物を吸収し捨てる事。その過程で吸収だけを選び自己再生に使う事が出来るが、あくまで捨てる事が本懐。

 しかし吸う状態から捨て去る状態へ移行する合間には無防備な隙間が存在する。それは、吸収した物を一つにまとめる為に変換している時だ。

 

 バジュラはその瞬間を狙い、先に攻撃を加えて反応させる事で、開放される筈だったエネルギーを破裂させた。

 

 

「そう何度も見ていれば野良犬でも仕組みに気付くわ!自身の能力に理解が及んでいない証拠だな!」

 

「くっ…」

 

「だがそれも良し!理不尽は我も嫌いだ!弱点があってこその人間だろう!?魅力も増すしな!」

 

「何を言っている!?」

 

(とど)めだァァァ!!!」

 

 

 球体を破壊された余波を防御する事で精一杯なコーリスは、正面から飛びかかるバジュラの斬撃を受け流さなければならない。だが、冷静さを欠いていたのは彼女も同じ。

 

 楔の権能に目が行き過ぎて、コーリスが持つ盾の力を忘れていた。

 

 

「がっ!?」

 

 

 バジュラに斬られる盾でも、走っている本人に直接当てれば動きは止まるのだ。

 

 コーリスが展開した壁に身体をぶつけたバジュラは、空中で弾かれて動きを止めた。そして──

 

 

「ハァ!!!」

 

 

 彼の渾身の回し蹴りが直撃した。

 

 

「がはっ…、!!!」

 

 

 五臓六腑に染み渡る灼熱の痛み。結界の壁に激突するバジュラを、コーリスは更に追撃する。

 

 

「シィィアアァァァァ!!!」

 

 

 声にならない叫びと共に彼の剣が結界に突き刺さる。恐るべき速度でバジュラ目掛けて繰り出された突きは、楔の力をも退けていた結界に穴を開けた。

 

 しかし間一髪、バジュラは避けた。

 

 

「決める…!!」

 

「…!」

 

 

 合気剣を以て今度こそコーリスを沈めんと刀を振るう。鍔迫り合いを決めた彼女は彼を投げ飛ばそうとした。

 

 

「…な、に?」

 

「はぁ…はぁ」

 

 

 しかしその手首が動かなかった。

 

 

「手首を止めれば刀は細かく動かせん。流石に投げられないだろう……」

 

「これは…空気が固まって…!?」

 

「お前の言う通り、俺の力は吸収して開放するものらしい……開放する為に一旦一つに固める事も今気づいた。だが…」

 

「まさか…!」

 

「固めると言う事は、吸収した物の形を操るということだ……さっきの絞りカスだが、利用させてもらったぞ」

 

 

 吸収から廃棄に移行する段階で、吸収した物を一つに纏めるのならば、それは形を変える為に操っていると同義。先程吸収し、バジュラによって散らされた空気が彼女の手首を固定している。

 皮肉にも、バジュラのお陰で気付かされた性質を利用した一手だった。

 

 

 そして、純粋な鍔迫り合いならばコーリスの力が勝る。彼はこのまま押しきろうと魔力を全開にした。

 

 

「ガンマライトォ───!!」

 

 

 バジュラは横に、コーリスは縦に得物を構えて鍔迫り合いをしている。手首を固定された彼女は肘や腕の角度を変えることでしか刀を動かせない。詰みである。

 

 

 

 

 

 

 

 ……笑ったのは、バジュラだった。

 

 

 

「一手、此方が多才だったな」

 

「な──」

 

 

 そう。バジュラの刀は横に構えられている。そして双刃刀は二つの刃が上下に付けられており、全体的なシルエットは()に似ている。

 

 

そして──以前森でバジュラと戦った時、ヴァジュラがコーリスに語った言葉。

 

 

 

『初代十二神将…バサラ様が使っていたとされる、武具の形を取る魔力です。ですが、姉さんの魔力は私と同じ神将としての祈りの能力だった筈…魔力のコントロールも精々刀から斬撃を飛ばす程度』

 

 

 初代の魔力は武具の形を取る。それは、刀だけでは無い。

 

 

「弓────」

 

「楽しかったぞ、死んでもいいくらいに」

 

 

 バジュラが持つ双刃刀のそれぞれの刃の先端──その裏に、弓の弦のような魔力が接続されていた。そして彼女の左手には矢とも槍とも呼べる巨大な矛。

 

 

 手首が動かせなくても、ボウガンの様に糸に固定すれば一応の発射は出来る。ましてやこの至近距離。コーリスの被弾は免れない。

 

 バジュラは思いっ切り腕を引絞った。

 

 

 

犬釼祕躬(けんけんひきゅう)

 

「くそ──」

 

 

 

 次の瞬間、コーリスは今度こそ爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

「負けた、のか」

 

「おう。ま、初見殺しはお互い様だしな」

 

 

 辛うじて意識を保っているが、立つ事は出来ない。横倒れのままコーリス。その近くに膝をついて座っているバジュラはニンマリと笑う。

 

 

「覚醒したかと思いきや普通に負けた気分はどうだ?悔しいのう悔しいのう……ぶふっ!」

 

「……良く分からないけど、あの時は只管気持ちよかった」

 

「………!?」

 

「変な意味じゃない。あと煽ったの忘れないからな」

 

 

 彼は未だに壊れない義手に対し逆に畏敬の念を覚えつつ、バジュラの顔を見た。

 

 

「お前の中にある力に会った後、戦いに戻ってきて俺が見た物は、全てが灰色に染まった世界だった」

 

「そりゃあ、目が灰色に光ってたんだから視界が灰色になったんじゃないのか?」

 

「じゃあお前は世界が金ピカに見えたか?」

 

「いや」

 

「それに…余剰な物が沢山見えた」

 

「余剰?」

 

 

 それはアウゲィアスの見ていた世界なのか。

 

 

「いらない物…そんな漠然とした感覚が俺の行動を決めていた」

 

「難儀だな。ある意味戦いづらかっただろうに」

 

 

 灰色の世界なぞ、色の抜け落ちた視界の強制に他ならない。溜息をつき、コーリスは目を閉じた。

 

 

「……なぁ、お前は俺の中の力を見たんだろう?」

 

「ああ。話もしたし、騒ぎもした」

 

「教えてくれないか?どんな物、いや…どんな()か」

 

「…ふむ、しかし約束でな。お前に伝えるなという内容だ」

 

「困るな…ゾーイですら知らなそうとは」

 

「何故ゾーイが知らないと困るんだ?」

 

「ある意味、平和を望んでいるからな……未知は一番恐れるべきものと言うし」

 

「ほう……」

 

 

 バジュラは言葉を選ぶ。確かにアウゲィアスの事を伝えてはならないが、それはそれとして彼にその事とどう向き合うのかは委ねられた。

 

 何より、強い男にすると明言したのはバジュラであった。

 

 

「ただ、言える事はある。その力は貴様を害することは無い。そして…力を使うのは貴様自身だ」

 

「……だな。そう思うことにする」

 

「頭が空っぽの方が生きやすいだろうしな!はは!」

 

 

 荒れ果てた戦場に似合わず、二人はヴァジュラが様子見に来るまで笑い合っていた。

 

 

 

 

「そういえば、何故透けなかったんだ?」

 

「ああ……幽霊の身体は自分を認識しない様に、空っぽな頭で否定しなきゃいけないんだ。今回はずっとハイになってたからな」

 

「ほえー」

 

 

 空は、未だ蒼いまま。

 

 

 

 

 

 





アウゲィアス「なんで勝てるの……怖」


灰の楔コーリス
・宿ったアウゲィアスの権能を一時的に使用できる状態のコーリス。
・元素や物質を吸収して凝縮し、廃棄の名目で開放する事が出来る。ただし、概念的な物は吸収出来ない。
・副作用として、全てが灰色に見える視界を得、世界にとって過剰で不必要なものを見分ける事ができる。

塵灰のガーベイジ
・アウゲィアスの権能が刷り込まれた球体。コーリスが使用すると霧が纏わりついた見た目になる。
・一度放てば周囲の全てを吸収する。


闘神バジュラ
・宿った初代の力を全て引き出す事が出来る状態のバジュラ。
・身体能力の向上は勿論、斬撃等の切れ味も上昇している。
・しかし生来の視力や聴力は変わらない。

合気剣
・バジュラが唯一オリジナルで生み出した技。合気道の動きを武器で応用した。

犬釼祕躬
・魔力を糸の様に変え、双刃刀にくくり付けて使用する技。刀は弓になり、矢は槍を用いて放つ。
・炸裂させるかそのまま撃つかが選べる。


ゾーイ
・アウゲィアスの事は知らない。何故なら、楔はコーリスが産まれた時から宿っていたが、ゾーイが彼を観測したのは幽世を撃退した3歳の時がきっかけであるから。



ちなみにコーリスの謎言語は六龍のセリフと同じ仕組みです。逆ローマ字とか読みづらそう。
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