幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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44.愛されて生まれ、愛して死ぬ

 

 

 

「ふんふんふーん♪」

 

「ご機嫌だな」

 

「なんだか身体の調子が良くてな…早寝早起きは大事ということか」

 

 

 バジュラは刀をクルクルと回しながら鼻歌交じりにそう言った。確かに状態はとても良く見える。数日前は運動が出来ず、かといって生活に困る程の弱りでは無かった状態で、致命的な何かを感じることは無かったが、それでも着々と時間は迫っている事を理解させられた。

 だが、俺の為に無茶をすることは無くなり、家族と過ごす時間が増えている。それは絶対に喜ぶべき事であり、俺達にとっても望む事だった。余命宣告通りいけばあと1週間。バジュラの精神面をよく考えながら接していかなければ。

 

 

「で、訓練はお預けだったな」

 

「ああ。だが、お前と戦ったお陰で少し…力についての自覚は持てた。充分だ」

 

「………なぁ」

 

「駄目だ」

 

「むぅ…………」

 

 

 言いたい事は分かる。バジュラは俺の力になりたいのだ。それも可視化出来る程の結果を伴って。だが、無茶は返って寿命を縮めかねない。

 

 

「それに…今の生活も悪くない筈だ」

 

「戦うのは好きだ。妹達と平和に過ごすのも好きだ。だが、お前の為になれないのは嫌だ」

 

「…どうしてそこまで」

 

「惚れた弱みだ。お前に我を刻みつけたい」

 

「言い方」

 

「"お前の記憶に残す"と捉えろ。単純に我は生まれた理由と意義を持って死にたいのだ」

 

「本音を言うとだな…」

 

 

 さらりと重い発言をされてしまったが、それでもバジュラの発言をすべて肯定してやりたいと思う程には俺もこいつの事が好きなのかもしれない。勿論、それは友愛だ。

 だが、友愛が恋に劣るなどと誰が言えるのだろうか。

 

 

「お前が生きられるなら何だってするくらいだよ」

 

「…………本気(マジ)?」

 

「…………」

 

「え、貴様結構我のこと好き?」

 

「うん」

 

「───」

 

 

 一旦思考を停止させたバジュラがだらしなく頬を緩める。

 

 

「でへへへへへ………そうかそうか」

 

「…」

 

「でもどーせラブじゃなくてライクの意だろぉ?それでも嬉しいが…………照れる」

 

 

 俺も人間だ。好かれる事は嬉しい。バジュラのスキンシップには照れを通り越して爆発したが、その純粋な恋心には尊敬すら抱く。

 スルトみたいに年上の美人にデレデレしたり、ルクス団長みたいにキャーキャー言われる様な人生とは無縁だったからな。

 

 これが俺を好いてくれた一人の人間の末路だと思うと…心底世界が憎いが。

 

 

「うん!気分が良くなった!折角だから言ってしまおう!」

 

「なんだ?」

 

 

 バジュラが刀を俺の膝に置いた。自らの得物を相手に渡すという事は…。

 

 

「我が死んだら、その刀を貰って欲しい」

 

「………ヴァジュラは?」

 

「姉として妹に託すのが武具では駄目だ。だが、貴様には力が必要だ。だから、我の力を託すという名目で受け取れ」

 

「…分かった。ありがとう」

 

「使わなくても良い。貴様は剣士ではあるが刀は専門外だろうしな」

 

「……凄いな。刃こぼれが全然ない」

 

「貴様につけられたそれ等が初めてよ」

 

 

 鞘から刀身を抜けば、騎士剣とは明らかに作りが違うという事が分かった。銀に光る刃は芸術品の様で、バジュラの髪の色と相まって一種の彫像の様な統一感。本当に、刀が似合う人間だと思った。

 

 

「お前は、強いな」

 

「なんでだ」

 

「死に向かっているというのに、今進んでいる時間を大切に思っている」

 

「失う事は確かに怖い。だが、余計に得る物が増える方がもっと恐ろしい。我は、今持っている物を大事に受け入れているだけだ」

 

「…そうか」

 

「家族だって、我しか持ち合わせない宝物。今更その尊さに気が付いたよ」

 

 

 血の繋がった家族、というものは俺には分からない。昔はトラモントの皆が家族で、リュミエールが家の様で、最近まではゾーイとずっと二人でいた。

 でも一ヶ月ここで過ごしてみて、バジュラの一家はとても理想的な家庭であると感じた。それは互いが互いを想い合っているというシンプルな物だが、誰もが望む簡単な理想な筈だ。だからこそ、失うのを見ているのが辛い。

 

 

「──さて」

 

 

 バジュラが立ち上がった。

 

 

「やるぞ、訓練」

 

「話を聞──」

 

 

 異議を唱えようとした瞬間投げられた。本当に体の調子は戻ったらしい。

 

 

「──"け"まで言わせろ」

 

「おー対策ばっちりだー」

 

 

 一ヶ月投げられ続けた事によって受け身だけは完璧だ。地に打ち付けられ、痛みを逃すだけの頃から成長した筈。少なくとも敵から離れながら体勢を立て直すだけの動作は出来た。

 …本当なら、投げられる瞬間にカウンターを決めるくらいの瞬発力が欲しいが、無理。

 

 ちなみに投げ技は俺でも出来るが、合気は別と考える。敵の重心を崩すのでは無く利用するのは新感覚であり、とてつもない難易度であるからだ。

 

 

 …そんな事より言わなければ。

 

 

「さっき言ったよな。ヴァジュラに怒られたいか」

 

「怒られたとしても我がしたい事なんだ。分かってくれ」

 

「…だとしても」

 

「ちなみに合気は無理だ。それは保証する」

 

「おい今までの修行なんだったんだ!?」

 

「まぁまぁ落ち着け。意味はある」

 

 

 だってお前…合気を授けるとかそんな事言ってただろ…?

 

 

「我やヴァジュラと戦って、明らかにトドメが決まりにくいと思わなかったか?」

 

「…確かに」

 

 

 俺が"とどめ"と思って放った攻撃は決まった記憶がないな…大技は当たるんだが…戦いが終わるまでに時間がかかる事が多い。特にヴァジュラには粘られた。戦いの相性ではないのか…?

 

 

「貴様も無意識に行っている事。相手の誘導だ」

 

「ふむ」

 

「但し、此方が不利な時に限る」

 

「…なるほど」

 

 

 不利な時に一定の逃げ方や防御の仕方をする事で相手の大技を誘発して隙を見つける、ということか。確かに、騎士時代の訓練でも相手の選択肢を奪う戦い方はしていたが、自分が不利な時にやった事は無かったな。

 

 

「貴様が投げられたとして、後に敵は勝負を決めにかかる。その時にどうする?」

 

「防ぐ」

 

「無難だな。他には?」

 

「ギリギリまで動かず、相手に突貫させる………お前達がやってた事だ」

 

「そう、死にかけの敵が最も恐ろしい」

 

 

 勉強になる。犬神宮の戦い方は本当に実践的だ。十二神将随一の武闘派という事が実感出来るな。

 

 

「…時間があれば、他の技術も伝えられるだろうにな」

 

「いや、貴重な体験をさせて貰った。自分の力の秘密、速度戦…そして今教わった事。大事にする」

 

 

 バジュラは、未だにやれる事を増やそうとしている。だが、俺にとってはリュミエールでの活動に匹敵する学びを此処で得た。だから、彼女が望む言い方で伝えようと思う。

 

 

「バジュラ」

 

「…なんだ?」

 

「俺の為に生きてくれてありがとう」

 

「………ははっ」

 

 

 本当はこんな言い方はしたくなかったが。

 

 

 

「最高の師匠だ」

 

「傲慢ちきな弟子もいたものだな、コーリス」

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 アイツは何時もオドオドしてて。

 フィラは何時もニコニコしてて。

 義父母は厳格で。

 伯母さんと叔父さんは温かくて。

 サレアさんはクールで。

 グルシおばちゃんは元気で。

 スルトはお調子者で。

 ロイスはイライラしてて。

 ルブロは努力家で…あの空戦で死んでしまったけど。

 エクシンダさんは……なんか卑猥な人だった。

 ルクス騎士長は優男で。

 サテュロス様は優しくて。

 ナタク様は勇猛で。

 メドゥーサ様は不器用で。

 メドゥシアナは気さくで。

 バアル様は謎が多くて。

 ゾーイは天然で。

 レイはリアリストで。

 ヴァジュラはしっかり者で。

 ナガルシャは優雅で。

 

 

 

 バジュラは───

 

 

 

    

 

「コーリス」

 

「なんだ?」

 

「あとどのくらいだと思う?」

 

「………宣告通りなら明後日」

 

「やっぱりそうなるのかなー」

 

「だが、今のお前は元気だ。だから医療の観念で予測された寿命など無関係な物かもしれない」

 

「逆に言えば、今突然死ぬ可能性もあるということか」

 

「……やめてくれ」

 

「悪かった悪かった。しかし嬉しいものだ」

 

「…なにがだ」

 

「我の死を、我以上に憎む人間がいる事…そして、その人間と触れ合えることにだ」

 

「……」

 

 

 勇敢で。

 

 

 

「…負けたよ、完敗だ」

 

「純粋な剣の勝負。今のお前にすら勝てなくてどうする」

 

「ハンデがあると思っている様だが…身体の調子はお前と出会った時に比べ遜色ない」

 

「…本当か?」

 

「ああ、本当に強くなっている。嬉しいぞコーリスっ!」

 

「うわっ!飛びつくな!?」

 

 

 快活で。

 

 

 

「コーリス。頼むから寝てくれ」

 

「…何を言っている」

 

「今日になってやっと気付いた………毎回我が起きる時に側にいるだろう」

 

「それはお前が一緒に寝ろと言うからだ。先に俺が起きているだけだろ?」

 

「嘘をついてくれるな………如何に冷たき身体のお前でも」

 

「…」

 

「僅かな温もりが無くなることに我が気付かないと思ったか」

 

 

 困るほど察しが良くて。

 

 

 

「昼寝だ。それくらいならいいだろう」

 

「……なぁ、バジュラ」

 

「嫌とは言わせんぞ」

 

「昼にまで一緒に寝る必要は…正直お前の父にどんな目で見られるか」

 

「嫌かー?」

 

「そう言わせてくれないんだろ」

 

「よく分かっているな」

 

 

 横暴で。

 

 

 

 

「なぁ、コーリス」

 

「……なんだ?」

 

「ありがとうな!」

 

 

 すぐに欠けてしまう、遠い存在で。

 

 

 

 

「ヴァジュラ……」

 

「───どうしました」

 

「バジュラの意識が……朧気に」

 

「ッ!!」

 

 

 一度行ってしまっては、二度と還ってこない。

 

 

 

「家主様、ヴァジュラ。今日で最後かもしれません………悔いの無い様に」

 

「………そう、か。コーリス君。辛い事をさせてすまない。ずっと一緒にいてくれたんだろう?」

 

「はい。ですから貴方達に」

 

「駄目です。コーリス様。共に見送りましょう」

 

「家族だけで話す事もある筈です。だから……」

 

 

 …俺は。

 

 

「だ、だから…」

 

 

 

 …。

 

 

「……その、後に。話したいです」

 

 

 俺の感情を切り離す事は叶わなかった。バジュラと最後に言葉を交わす事を、どうしても…例え彼女が傷つくとしても望んでしまった。

 

 

 …嫌だ。

 

 

 

──────────────

 

 

 

 横たわるバジュラは、俺の足音を聞いてこっちを向いた。

 

 

 

「……コーリス、か」

 

「ああ」

 

「もう一つ…気付いた事があったのを言い忘れていた」

 

「…もう一つ?」

 

「昨日くらいまで……我がかつての活力を取り戻したのは」

 

「…」

 

「コーリス、貴様が寝ずに魔力(ちから)を分けてくれていたからか…」

 

「バレない様にやっていたんだがな」

 

「寝なくてもいい体だと、そう言っていたのにな。何故か朝に疲労が見える貴様がいた。………我も鈍いものだ」

 

「お互い様だ。俺も、お前の察しが良い事なんて分かってたはずなのに…」

 

「そう、なのか?」

 

「するべきじゃないと、お前が俺に何もしてほしくない事くらい分かってたのに………無理だ」

 

「…コーリス?」

 

 

 

 

 

 

 

「死なないでくれ……バジュラ」

 

「…はは、水漏れでもあるまいし、男が泣くものじゃないぞ」

 

「まだ、温かいのに……!」

 

「そういう貴様は冷たいな…。なぁ、コーリス」

 

「…なに」

 

「きさまは、これから長い旅をするのだろう」

 

「…そうだ」

 

「長く、永く…生きていけば、挫けることもあるだろう」

 

「………ああ」

 

「いずれ……精魂尽き果てて死にたくなる事もあるかもしれない」

 

 

 

 

「でも、きさまは我を救ってくれた」

 

「…!」

 

「この呪うしか無かった名を、母を奪った名を…きさまを想う我として認識する事がやっとできた」

 

「バジュラ…」

 

「名を呼ばれることが嬉しくなったのは、きさまが来てからだ」

 

「おれはまだ…何もお前に」

 

「いてくれるだけで、幸せだったよ……コーリス」

 

「おれ、は…」

 

「ひとは、完全ではない。だから、きさまは全てを成し遂げられなくても…」

 

「…あ」

 

「確かにひとり、ひとりは救った事をおぼえていればいいのだ。きさまは無名の幽霊ではない……コーリス。バジュラという女を救ったコーリスだ」

 

「分かった…………胸に刻む」

 

「顔を、ちかくに……目がかすんで見えん」

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「……ああ。また、その顔を見れた。泣くな…2つも上だろう…………まったく、童顔に似合う泣き顔だ」

 

「まだ、いくな」

 

「いずれ会えるさ……そして、ゆめ忘れるな」

 

「……!」

 

「きさまを愛し、きさまに救われたから」

 

「おい、バジュラ……?」

 

「われは、バジュラとして……在れ、た」

 

 

 

 

 

 

 

「だいすき、だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

「こんな事、本当は滅多にないんだ」

 

「…薄情、という訳でもないんだろ」

 

「ちげーよ…十二神将は自分の陣地から離れるとあんまし良くねぇんだ」

 

 

 バジュラは逝った。言いたい事を言うだけ言って、眠る様にひと呼吸置いて、そのまま止まった。

 実感が無かった。だが、ヴァジュラ達の事を思うと急に手が震えて、冷たくなったバジュラの手を暫く握っていた。

 

 

 …後ろで見ていたヴァジュラ達が声を出したのは、そこから5分後の事だった。

 

 

「ヴァジュラが今年の担当って事は、一応は自由って事か」

 

「いや。(いのしし)は来年に向けて準備しなけりゃだし、アタシに至っては当分先だが…神社から離れるのは駄目だ。それでも……友達が死んだとなりゃ葬儀の日だけでも無理矢理腰を上げるのが人情ってもんだろ」

 

「十二神将が揃い込み……か。バジュラは大物だな」

 

「それよりコーはいいのか?バジュの顔見てこなくて」

 

「…」

 

「…悪い。いらん質問だった」

 

「構わない」

 

 

 

 ここに来るまでに出会った十二神将で唯一の友達である(うま)のサンチラと共に、俺は近くの岩場で犬神宮を見つめていた。

 訪れるであろう知人は十二神将全員と来ており、悲しみの中で確かな驚きがあった事は否定できない。全員が涙し、ヴァジュラへの励ましを忘れなかった事からも、交友関係は深かったのだと分かった。

 

 

「バジュはホントに強えんだよ。年長の(たつ)を凌ぐ程でな」

 

「ああ、俺も負けた。追い詰めた筈だったんだがな」

 

「あちゃあコーでも勝てねぇのか……………地味に追い詰めてんじゃねぇよ」

 

 

 サンチラは溜息を吐いて空を見上げた。

 

 

「バジュラの顔を見ないのか?十二神将の面々と仲が良かった事は知らなかったが…」

 

「もう見たさ。相変わらず美人で真っ白だった」

 

「そうか」

 

 

 ニコリと切ない笑顔を見せるサンチラを見て、俺も少し気分が明るくなった。

 

 

「ヴァジュは強えから大丈夫だ。どっちかといえばアタシはアンタが心配だよ」

 

「俺も一緒だ。サンチラは影で泣くタイプだからな」

 

「馬が合うとはよく言ったもんだ。いっそ二人で泣くか?」

 

「……いや、いい」

 

「だな……今日くらいは、冥福を祈りながら一人で泣きてぇ」

 

 

 そう言っておきながらサンチラは密かに涙を零した。その感情に水を刺さない様に俺はバジュラと過ごした日々に思いを馳せた。

 

 途端に、あいつが恋しくなった。

 

 

「此処にいましたか、お二人」

 

 

 だが来客が一頭。ナガルシャだ。すかさずサンチラが涙を拭った。

 

 

「十二神将の皆様が心配しておられましたよ」

 

「ほら、俺といるからそんな事になる」

 

「…るせー」

 

「コーリス殿もです」

 

「何故」

 

「……実はバジュラ様は影でコーリス様の事を言いふらしていたのです。"完璧番(ぱーふぇくとつがい)"だの、"一心同体(べすとおぶまいふれんど)"だの」

 

「笑わせるじゃねぇの。なぁコー」

 

「鼻で笑うのやめろ。ナガルシャ、俺は問題ないと伝えてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

 その了承と反して、ナガルシャは俺達の間に座った。

 

 

 どうやら3人での慰め合いになりそうだ。

 

 

「……私は3人に仕えました」

 

「ヴァジュラと神将時代のバジュラ……だったよな」

 

「はい。そして、彼女達の母にも」

 

「……!」

 

 

 そうなると…ナガルシャは愛する人間の死を2回も経験したという事になる。その感情は俺に推し量れるものでは無いだろう。

 

 

「だからこそ、私は主様と家主様の心を案じ…なるべく遠くから見守るようにしていたのですが…」

 

「ナガルシャ…」

 

「少々、辛く。ここでなら、涙を流してもよいでしょうか」

 

「………バジュラは、愛されたんだな」

 

 

 ナガルシャが言葉を発さなくなる。それは俺に対する肯定だった。

 続いてサンチラが口を開いた。

 

 

「愛され気質のわんぱくだ。最期まで気丈に生きやがって………そして」

 

「…」

 

「アンタを愛して、死ぬなんてな」

 

 

 俺は頷いた。

 

 

 

「……バジュラ。ありがとう」

 

 

 遺品である刀を抱きかかえると、何故か心が寂しく、空になっていくのを感じた。

 

 

 

 

 目の水分は、まだ残っていたようだ。

 

 

 

 

──4章、完。

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

──小話:知らないおじちゃん②

 

 

 今日もわしは胡座をかくおじちゃんの膝の間に収まって、甘えながら過ごしている。だが、言いたい事ははっきり言うべきだと思ったのだ。

 

 

 

「わしは悲しい」

 

「どうした。何かあったのか?」

 

「船に乗せてくれないおじちゃんの冷たさにだ」

 

「………なぁヴァジラ」

 

「…ふーんだ」

 

「騎空士というのは、十二神将の仕事と同じくらい危険なんだ」

 

「わしは強いぞ」

 

「分かるよ。ヴァジラは強い。だけど」

 

「乗せるまで聞かんぞ!」

 

「色々な場所に行って、色々な依頼を受け取って…色々な事をして人を助ける。行き当たりばったりな旅はそれなりの覚悟が必要なんだぞ」

 

 

 分かっている。おじちゃんはわしを心配しているのだ。それは、わしが半人前だからだ。臆する心を見透かしているのだ。

 

 でもわしは覚悟している!人を助けるために十二神将になったのだ!

 

 

「それにヴァジラは子供だ。これからすくすく成長していくのに危険な場所に連れて行ったら皆心配するだろ?」

 

「うぐ…でも」

 

 

 確かにそうだ。村の皆はわしを案じている。

 

 

 ……だが、おじちゃんはずるいぞ。だって、おじちゃんの仲間の三人………その内の一人は──

 

 

「おじちゃんの仲間には金髪の少女がいるじゃないか──!!」

 

「!!!!!」

 

「見た目が被ると駄目なのかー!」

 

「ヴァ、ヴァジラ…!何処でそれを……!?」

 

「何処でも何も!たまに船から降りて来ては興味深そうに神宮を回っているぞ!」

 

「あ、アイツ…!!余計な事はするなと…!!!」

 

 

 何やら動揺しているおじちゃんだが、子供を連れているのを隠しているのか…!?

 それは許せん!ずるいぞ!

 

 

「わしと同じくらいだぞあの子!依怙贔屓(えこひいき)か!」

 

「待ってくれヴァジラ…アイツはその、事情があって」

 

「なにー!」

 

「子供なんだけど…えーと、取り敢えず俺よりよっぽど年上だから」

 

「馬鹿にするなー!!」

 

「うわっ!?」

 

 

 

 煙に巻く様な発言に苛ついたわしは、おじちゃんの肩に噛み付いた。

 

 

「似てきたな…随分」

 

 

 …まだまだわしはおじちゃんの事を分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 






バジュラ
・享年17歳。愛された人生だった。


ナガルシャ
・バジュラ達の母の代から仕えていた犬。かつて仕えていた主を二人失った彼は、少し疲れてしまった。


サンチラ
・ちょっと前に名前だけ出した午神宮の神将。19歳。
・コーリスの友達で、人を助けるのが生きがい。それ以外は特に趣味は無い。
・槍と弓使いで、十二神将最速の異名を持つ。


ヴァジラ
・100年後の犬神宮での神将。原作キャラ。
・コーリスの事を"おじちゃん"と呼ぶ。
・顔はバジュラとよく似ている。



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