「説明しましょう。古戦場とは、覇空戦争時に激戦区となった島の事です。その島にはかつて戦った多くの星晶獣達が眠っており、目覚めた彼等を倒す事で島を守るという行事になります」
ポート・ブリーズで依頼をこなし続け、商人との関わりを得たコーリス達は古戦場というイベントについて詳細を聞いていた。
目の前の理知的な若いハーヴィンは眼鏡の位置を整えながら彼等に情報を伝える。
「騎空士達はそこで貢献に応じた豪華な報酬と名声を得、幅広く空に飛び去っていくのです」
「…いろいろ聞きたい事があるんですが、何でそんな危険な島に人々が住んでいるんですか」
「1つ目の理由は、空の民の勝利の証として島を維持していた事です。そして2つ目の理由は、星晶獣の覚醒が周期的な物であるということです」
「分かるんですか?」
「はい。属性毎に復活する時期が分かれていて、対策も容易です。気軽に参加できるイベントではありませんが、腕に自信があるのなら問題無いでしょう。何より苛烈な戦いなので、報酬目当てに足の引っ張り合いも起こりません」
「…なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ…それで、ゾーイさんはどうしたんですか。横で固まったままですけど」
「それが…古戦場の話題になるといつもこうで」
ゾーイは知っていた。古戦場は、かつてコスモスが星晶獣と人間との力のバランスを整える為に相互に力を与えた事がきっかけの行事だという事に。
かつては武具の素材目当てに狩られる星晶獣の嘆きを聞いたコスモスが力を与え、その獣を狩る人間も強い武具を得る、という均衡が保たれていたのだが…やがて人間達に偏ったのか、一気に星晶獣を倒しすぎて彼等に休眠期が訪れるという事態に陥ってしまった。それが現在の祭りのような体裁の原因である。
「それで主な報酬はどんなものですか?」
「古戦場では希少な鉱石取れる事があるので、活躍した者は多く受け取る権利を得ます。ですが、やはりルピを大量に交換するのが常道ですね」
「確かに…」
「依頼に左右される騎空士達にとって、安定したルピの供給は望むところ。船を買い換える人もいれば、戦いの縁で仲間を増やす人も多いです」
実力派の騎空士達が古戦場等の大規模な戦いに身を投じることは多い。相手は強大であり、生物としての格が違うとしても、連携や知恵で戦うのは空の民の特権だ。通用するかは
「近くの開催日は今月末にあります。決して油断しなければ生還することは簡単です。体験気分で行ってみては?」
「考えてみます。ゾーイ、行こう」
「ああ、うん……」
二人は仮の住まいである宿にて、人生の作戦会議を行うことにした。
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「古戦場、行ってみるか?」
「………うーん」
「…あ、すまん。ゾーイは一応星晶獣だったか」
「侵略の為に作られた訳じゃないが…立場的にはそうなるのかな」
「理性を失ってても同族だしな…悪かった」
「それは気にしなくていい。人間と星晶獣、どちらの側にも私は立っていないからね。世界そのものが対象だよ」
「なら、どうして気まずい顔をしてる?」
「…本能的に嫌なんだ。均衡の崩れたものは」
アホ毛が垂れ下がったゾーイはうんざりとした顔で語る。
「役割を全うする為に戦う星晶獣、そして空を守る為に戦う人間達。お互い拮抗していた戦いが遂に人間に傾き──古戦場の様に効率的なイベントが生み出された、が」
「星晶獣の側が救われないと?」
「救われなくてもいい。ただ、人は次代に意思を受け継がせていくのに対し星の命は不変だ。昔から狩られ続けた星晶獣の無念は、この空にどう作用するんだろう」
「ただ、世界そのものに影響が無ければ関わる必要性が無いのもゾーイの性質だろ」
「……そうだ。でなければ君の腕は今頃無事で、私は激情のままショゴスを消し飛ばしていただろうね」
ショゴスの危険性により顕現したゾーイだが、ショゴスが間接的に与えるコーリスへの攻撃には、世界の危機は存在しない。もし腕の欠損が世界の危機に繋がるのなら防いだだろう。しかし、実際は彼が生きていればそれで良かった。
──ナタク達が来た時点で、ゾーイは不可侵を強いられたのだ。それは幼少からコーリスを見てきた彼女からしてみれば、耐え難い光景だった。
「勿論役割に反する事は出来ない身体だ。だが、最近は融通が効く。君と一緒にいるという条件でのみ、自由に行動できるんだ」
「俺がお前の目的に必要な一部だからか?」
「そうだ」
「……割り切れるのか?本当に。感情は豊かだろう」
「…もし私が要らなくなったら、違う使徒が来るんじゃないかな」
「俺は嫌だぞ」
コーリスはその後何も言わず、窓の外を見続けた。ゾーイには勿論それが照れ隠しの行動だという事は分かっており、無意味で温かい愛おしさを感じた。
「私も、君といるのは楽しいよ」
小さな翼竜と戯れながら、彼女はニコリと笑った。
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──古戦場当日。
「はいはーい!参加する騎空団の方達は名簿をお願いしまーす!!」
賑わい。だがこの場にいるのは歴戦の戦士達だ。
「申し込み終わった。後は戦うまで待つだけだ」
「本当に戦うしか無いイベントなんだね」
戦場の痕跡が残る大地は赤黒く染まっていて、炭も被っていた。恐らく、前回復活した星晶獣が火属性だったのだろう。
「チラシに書いてある情報だと、今回の敵は風属性。能力は暴風や風の斬撃に天候操作。雷は降らないが雨は降る。数は多め」
「シンプルな能力だ。盾を使えば問題ないだろう」
「だが、気になる事があってな」
「うん?」
受付に貰ったチラシの下部には、大きな赤字で注意事項が書かれていた。
「"眠りに誘う
「その書き方だと星の生物ではないのか」
「周期で分かるから、何処からか湧いた魔物と判断したんだろう。大方キノコ型だ」
「きのこ……じゅる」
「………今夜はキノコスープでも飲みに行くか」
「やった!!」
若干のキャラ崩壊もしつつ、二人はリラックスした気分で戦場を待つ事が出来ている。
そして、鐘の音が響いた。
「行くぞ!」
「了解した!」
二人は騎空士の大群に混ざり、戦場へ駆け出していった。
────────────
「砂利粒に消し飛ぶがいい!!」
理性を失った生物ほど危険な物は無いと言うが、それでも星の獣には完全性が伴っている。極限まで高められた空への害意は、技の出力の向上に留まり、自我の崩壊までには至っていない。
曇天の空からは常に大量の雨が降り注ぎ、暴風と共に騎空士の視界を阻害する。
「斬撃来るぞ!避けろ!!」
「岩石飛ばします!離れてください!」
「足撃つぞォ!!」
"北風"を司る星晶獣ボレアースは、翼の生えた老人である。左手をかざす事で雨を降らし、右手の方向に風が吹く。元来から粗暴な人格であり、空の世界に害意を持った危険な獣。
此度の復活は6回目であった。
「北風よ!」
風の魔法は避けられ、銃による脚部への集中砲火により動きを奪われ、土属性の魔法による投石で攻められる。
この戦い方は、先人達によるボレアースの対抗法の一つだが、騎空士の連携が優れているという事でもある。
「砂利共め……ならば」
しかし単純な能力ほど火力は高い。ボレアースの最も危険な技は、雨を槍のように圧縮させて降らせる事。その前に削り倒すのが今回の作戦だったが、視界の悪さが攻撃の通りを遅くしていた。
「串刺しになれい!!」
老爺の邪悪な笑みが戦士達の目に映るが──
「──ケーニヒシルト」
古戦場初参戦のコーリスが防ぐ。頭上高くに配置された盾が全ての雨槍を防ぎ、その天蓋が一つの塊に凝縮していく。
そして、彼は右手を下に振るった。
「圧壊!」
それは槌であった。
「がはぁ!」
質量攻撃で叩き落されたボレアースは、痛みに悶えながらも両手で風と雨を操作し、先程まで雨に触れていた者に向けて極低温の風を吹き付けた。
ボレアースの能力は単なる風ではなく、冬を齎す北風なのだから。
(凍らせてくるのか…多才!)
剣士達は一旦引き、後方の魔法使いの元へ居場所を固めた。
「凍結が来ます!火を起こしますので集まって下さい!」
熱源によって温度を確保した戦士達だが、このままではジリジリと凍らされていくのみ。星晶獣の権能に限界はない。単なる魔力とは別物の構成だからだ。
だが──そこでゾーイの参戦。
「頼むぞ、リィ!」
「クルルルル!!!」
ゾーイの側に寄り添う2匹の小さな翼竜。その片割れであるリィが体躯に見合わない広範囲のブレスを吐いた。
冷風による凍結に対し、絶対零度の吐息。
「獣畜生めぇ…!」
「失礼な」
「クルッ!」
人間を巻き込まない様敢えて調節されたブレスが北風を相殺し、そこでゾーイがボレアースの腕部を斬り込んだ。
「ぐ…」
「コーリス!決めよう!」
「ああ!」
退避している戦士達は後方に、目の前の敵は苦痛に動きを止め、コーリスとゾーイが揃っている。これ程二人にとって力を出せるチャンスは無い。
二人は剣を交差させ、魔力を一気に纏わせる。大地を震撼させる程の蒼い閃光が周囲の目を晦ました。
そしてその剣の矛先はボレアースの胸部に。
「「極光を
「空の民どもめがぁぁぁぁぁ!!」
ゾーイの光線をコーリスが更に加速させる合技──
「「ガンマバースト!!」」
一つの核を残し、ボレアースの肉体は粉々に消滅した。
──────────────
「1日目は終了です!お疲れ様でした〜」
ハーヴィンの商人が拡声器で終了を告げた。古戦場の一日が終わったのだ。思わずコーリスがその場に座り込む。
「中々疲れる…」
「てっきり星晶獣だけかと思ったのだが…戦場の影響で凶暴化した魔物も沢山いるとはね。どちらかと言うと魔物の方が大変だったな」
「しかしコアが勝手に地に埋まるとは…本当にこの島に根ざしているんだな」
「明日は別の獣が復活するらしい。備えよう」
4日間に渡る古戦場の戦いは、大規模な騎空団でなければ疲労困憊に陥る事間違い無い。だからこそ序盤に貢献度を稼ぐをだけ稼いで確実な報酬を得る人間も多い。
コーリス達は早速一番の目玉である星晶獣を倒し、大量発生する魔物達に対する盾やゾーイの翼竜を用いた防衛戦が評価された事により高い貢献度を獲得した。
古戦場に出現する魔物は巨大なものが多く、質量攻撃は場合によって星晶獣よりも危惧するべき事なのだ。
「戦う前に色々な団と作戦会議をしたが…何処も俺達を馬鹿にしなかったな」
「商人の推薦は信頼が大きい様だね」
古戦場の本質は島に住む人々の防衛であり、報酬に欲が眩まず防衛を重視したコーリス達は同業者からも高い好感度を得た。
ボレアースの能力は対処自体は簡単だが、技の威力そのものは単純な分恐ろしく高いものであり、大量の降雨や暴風はこの島の天候を変える影響があった。
「うえ…血なまぐさい」
「早く身体を洗ってテントを張ってしまおう………む?」
「にく…だよな」
芳しい香りの正体は、労いの肉。
「早く洗おうコーリス!骨つき肉だッ!!」
「あーはいはい」
専用の俗場では水を用いて身体を洗う事が出来るが、風呂場でない為、豊かな環境でのサバイバル生活の様な物である。性別の分別は最低限行われているが、水の質は川よりはマシな程度なのだ。
そうして一応身体を綺麗にした二人は、屋台で焼かれている労い品の骨つき肉を受け取りに並んだ。
「コーリス、何本食べたい?」
「20本」
「え」
「冗談だ」
「そんなに少なくていいのか…?」
「そっちかよ」
「50本は食べたい」
「迷惑だからやめろ。ガチで」
一先ず二人は10本貰ってテントに戻った。
ちなみにゾーイが食すのは8本である。彼女にとっては少なすぎるが、そもそも大量に食す必要のない身体なので涙ながらに耐え忍んだ。
肉に噛みつきながらゾーイは問いかけた。
「星晶獣と正面から戦ってみて、どうだった?」
「…正直に言うと、
「そうだろう。君が強くなったのもあるが、一体一体は現実離れした強さではない。恐ろしいのはあれ等が徒党を組んで攻める事。強力な獣を量産する事が出来なかったのは、空にとって幸運だった」
「自我の問題か?」
「うん。能力によっては人格と紐づく者もいる。基盤を作る事は出来ても感情と記憶そのものを定形にする事は出来ない。だから序盤は人型が少なかった」
「なるほど。今回のは人型ではあったが単純な能力な上に怒りに支配されていた。サテュロス様の様に色々な力は持っていなかったしな」
「能力の幅を増やすほどその権能に見合う人格が育っていく。感受性に乏しい星の民には難しいものだった」
旧型の星晶獣は単純な能力と魔物の様な姿形が多く、比較的後期に作られた星晶獣は万能型や概念系の能力が多く、人型や戦士の姿である事が多い。
しかしゾーイは戦争時よりも遥か昔に作られたコスモスという存在の一部である為、それ等の法則は当てはまらない。
「未だ空に恨みを持っているという事は旧型の獣が多い。凶暴さに臆さない様明日からも油断せずに行こう」
「分かった」
「では、いつもより早いが寝ようか。きのこスープは残念だけど…」
「ああ──────」
ゾーイが寝袋に入って横になろうとしたその時──コーリスが違和感に気づいた。
「──静まったな」
「……みんな考える事は同じ、と言いたいが。給仕達の足音も消え去った」
「魔物の遠吠えは?」
「私も聞こえなかった。ここは安全だ」
「…外に出るぞ」
「了解した。私が先に出よう」
ゾーイが先導しテントから出る。周囲の警戒と共に2頭の翼竜に索敵を命じた。その姿を見たコーリスは彼女の後に続くが、何故か目の前の足は止まってしまった。
「どうした」
「………コーリス」
「…なんだ、これ」
周囲を見渡したコーリスが見た物は静寂。人々が倒れ付し、絢爛を感じさせない祭りの名残。悍しい異物感。
だが命の気配を存分に感じる場ではあった。何故なら倒れている戦士や商人達は
「…生きてる」
「気持ち良さそうに寝ている。私なら地べたは嫌だ」
「ッ!?」
「どうした!」
「………この男の腰が急に動いてビックリした。しかも仰向けから急に上に」
「腰……?不思議な寝返りだな」
「痙攣にしか見えん…不気味だ」
気の抜けた会話をしながらも二人は剣を構えて周囲を警戒する。
「これ、チラシに書いてあった睡眠の魔物か…?」
「その割には姿も胞子も見えない。だが、明らかな魔力を感じる」
「星晶獣か?」
「……いや、違う。だから私にも分からない」
ゾーイですら全く事態を読み込めない異常事態。眠りこけた戦士達は恍惚とした表情で眠り、度々身体を動かす以外に起きる気配が無い。
だが、その状況もまた変わる。
「取り敢えず皆を起こそぅ……………────?」
「ゾーイ…!?」
剣と盾を構えていた筈のゾーイと龍たちが頭から地面に倒れていった。
「まずい…!」
自分一人になったコーリスは焦燥に駆られてゾーイの手を掴む。
(ゾーイが全く抗えず眠った。世界にとって危険な存在を探知する能力…その発動の兆しすら見せなかった。つまり相手は格下……いや、イレギュラーはあり得る…!)
最悪の状況にコーリスが歯を食いしばると、何処からか彼の耳に声が聞こえてきた。
「ふふ………」
「何奴ッ!」
舌なめずりと共に聞こえたそれは、蠱惑的で、成熟的、艶麗的であり──
「食♥べ♥ご♥ろ♥」
──
行け
R-15とはこういう事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
次回、「ヘカテー死す」!
という事で比較的最近プレイアブル化したあの人の登場です。