「……やっぱりな」
どうも、コーリスだ。昨日カリオストロという女の封印を解いてしまって襲われた。錬金術という不思議な魔法を使うのだが、何とか撃退できた。彼女曰く、同業者に勘づかれるのが面倒で、自らの情報の漏れが無い様に俺達を殺そうとしたらしい。
それで、今は俺の霧の解明に勤しんでいる。生半可な時間では無理らしいので、騎空団として仲間に入る事を彼女から提案してきた。これについては俺も意外だった。
ゾーイは断固拒否の姿勢を崩さなかったが、寿命の制限が無いため、増やそうとしていた仲間に最適だったからか、俺の説得に頷いてくれた。
そして目の前の当事者は、俺の身体と変わり果てた義手を交互に見て溜息をついている。
「やけに細かく動く義手だったから良く出来ていると思ったが……使えねぇな」
「俺が聞いた範疇だと、これは俺の魔力とリンクさせて循環させる事で擬似的な神経として稼働させる仕組みらしいぞ」
「その循環がどれほど無理難題か分かってるだろ?人間少しでも魔力を使えば疲れるんだよ。例え戦いに無縁な奴でも、腕にソレを回し続けて過ごすなんて苦痛だ」
「一定量を流し切れば常に回るのだから便利なものだと思ったんだが…」
「お前の魔力量がデタラメだからだ。常人なら半分は持ってかれるぞ」
ゾーイから放出の概念を教わったおかげで、この魔力量は非常に便利な道具として機能している。ビームとして放つも良し、足から噴出して高速移動するも良し、格闘に使うも良し…とにかく幅が広い。
本人からしてみれば空の民は属性に囚われすぎているらしいのだが、星は違うのだろうか。
「で、幽霊ねぇ…」
そして、カリオストロの戦い方には効率的な物を感じた。俺と同じ力を持っていたとしたら、もっと上手く使いこなすだろうと思う程に、洞察力・応用力が優れている。熟練した戦士の様な物だ。
「…カリオストロは封印される前、何をしていたんだ?」
「理想の身体の為に色々やったさ。魂の移動、人体を再現しながらの硬度調整……可愛く見える角度の模索もな」
「可愛く…」
「だが、やはり錬金術師としては真理の追求が最優先だ。この世界の元素の成り立ちや生命の起源。誰だって気になるだろ?」
「錬金術師とは、研究者の様な存在なのか?」
「簡単に言うのは癪だがそんな所だな。これでも星の奴等に部下になれって勧誘されていたんだぜ?」
「星の民に…!?」
「ま、侵略活動真っ只中でオレ様に目を付けたのは褒めてやりたいが、"軍門に下れ"なんておこがましいったらありゃしねぇ」
「まさか…追い返したのか」
「まぁな」
彼女にとっては自慢する事でもないのか、早々に会話を切らして茶を飲んでいる。
彼女は何だか悠々自適に過ごしているが、昨日の夜から俺は身体を弄られて調べられた。ゾーイが星由来だという事もバレた為、大人しく俺達は目的や来歴を全て話した。本人の反応は存外良かった物で、トラモントの異変や十二神将については特に興味をそそられていた。
はっきり言って、我が恐ろしく強い人間だ。
「それで、義手の話だが…こんなのはどうだ?」
カリオストロは指を鳴らして霧を出した。
「これは外の空気を水と風の魔力で霧にしたもんだ。だがお前は霧そのものを簡単に出せるんだろ?」
「触覚にもなる」
「なら話は簡単だ。義手に触覚を付けてやるよ」
………?
「おバカさんのコーリスには分からなそうだから、カリオストロが説明してあげるねっ★」
「………………………頼む」
あー……ムカつくモードに入った。
カリオストロは偶にぶりっ子みたいなキャラを演じる事がある。恐らく口が悪い方が本来の性格だが、趣味なのだろうか。1000年以上生きた
彼女はウィンクと共に指をわざとらしく傾けて話し出した。
「えっとぉ…前の義手さんみたいな仕組みがいいんだよね?」
「そうだ」
「じゃあ、少し脆くなるけど空洞化しちゃうおうよ」
「中身をスカスカに?」
「そう!そこに最低限の装置と導線を敷いて、霧を充満させちゃえば簡単っ★」
「おお…!」
確かに考えもしなかった。俺にとって霧は何よりも鋭い感覚器官。それを義手の内部全体に行き渡らせれば、外部からの振動で擬似的な触覚を獲得出来る。関節の曲がりでも霧が動く事で腕代わりにはなりそうだ。
だが…慣れるのに相当な時間が掛かりそうだし、本来の腕の感覚との解離性で気持ち悪そうだな。
「でも、一つ裏技があってぇ……」
「裏技?」
「うん。聞きたい?」
「聞きたい」
「カリオストロに…お願いして?」
「ッ…………お願い、します」
…なんか、俺って簡単な男なのかな。こうまでプライドが無いと哀しくなってくる。
言い訳だが、ゾーイはコスモスとしての知識を俯瞰的に得ているのに対し、カリオストロは長年に渡り蓄積されてきたもの。図書館の様なものだ。
数百年間封印されていたとしても、かつての空を永く生きてきた知恵者。そんな彼女の生き方を参考にしたいという気持ちが存在する。今や騎空団として活動する以上、空に対して上手く立回る必要があるし、無知では論外だ。
認めたくは無いが…カリオストロは俺達が求めている物を全て持っている。
それを理解しているのか、彼女は笑った気がした。
「腕を創るんだよ」
「…カリオストロの身体と同じ様にか」
「だが超本格的な医療はオレ様の専門外だ。仕組みは分かるが移植なんてもんは簡単には出来ねぇ。オレ様は1から身体を創ってそこに魂を入れたが、お前の場合腕を身体と錬金術で同化させる必要がある」
「……いや、さっきの義手で頼む」
「まぁ、それでいい。生体錬成に関してはオレ様も自分の身体しか信頼できねぇ」
答えを知っていたかの様に聞き流して、カリオストロは机に向かってしまった。この二人部屋が次々と占領されていく。ゾーイの沸点は近い。
「ま、明日の朝にはマシな生活をさせてやるよ。義手の亡骸は再利用させてもらうがいいな?」
「ああ。ありがとう」
「感謝しろよ?オレ様がタダで動く事なんて無いんだから。じゃ、次はゾーイだ」
カリオストロの研究はまだまだ続く。
どうやら夜通し机に向かうつもりらしい。探究においては非常に真摯だから心配は無いが、俺達への興味を失ったらどうするんだろう。
取り敢えず明日から3人部屋を取っておくか。宿代が増えるが…今日は寝る。
────────────────
──翌日。
「…ん」
今日はいつもとは違う感触と匂いで目が覚めた。
横を見ると、俺の頬を突きながらニヤニヤと笑うカリオストロがいた。
「おはようさん。美少女に起こされる気分はどうだ?最高だろ」
「人によってはな…」
「なんだよ、男色か?」
「びっくりするって事だ」
「じゃ、次からは安心して喜びな」
カリオストロは何かを取り出した。
それは完成した義手だった。以前より細く、薄く、軽く作られた物だが、彼女が機能性を無視するとは思えない。
「お前らが古戦場とやらで貰った属性石を使った。オレ様が暴れてた時代と同じ組成だったから驚いたぞ」
「属性石を…?」
属性石。基本四元素、レア物の光と滅多に見ない闇の6種類がある。それ等を使う事で武器に属性の力を付与したり、その属性の力を一気に増幅させられるアイテムだ。
そして、石自体に精霊が宿ったり魔力が過剰に込められると、エレメンタルという魔物になってしまう。
だが、俺には基本属性が無い。使い道は無かったのだが…。
「軽量化の為に元の義手は7割しか使ってないが、属性石を合間にねじ込む事で層として機能させた。以前よりも属性攻撃に対する硬度は上がってる筈だ」
「物理面は…」
「大人しくお前の盾を使うしかないな。さて、付けてみろ」
「…」
ベッドから降りて義手を受け取り、肘を入れる。
……完璧な入れ心地だった。
「凄いな」
「霧を入れてからがお楽しみだ」
「うん」
肘の先から霧を出す感覚で…あれ。
──
「あ、これ…腕だ」
「代替的な神経の役割を果たす導線。魔力で伝達を補っているのなら、その線に同じく霧を充満させれば良い」
温度もなく、痛み・痒みもない。だが、確かに存在する五指の輪郭。紛れもない左腕そのもの。あの空戦で失った感覚が、少し歪な形で戻ってきた。
「…ありがとう、カリオストロ」
「これで封印の借りは返した」
カリオストロは無言で右手を差し出してきた。
「改めてよろしく頼むぜ?祈望の騎空団さん」
「此方こそ」
この瞬間、彼女は明確に俺達の仲間になったのだと理解した。
───────────────
早朝の散歩から帰ってきたゾーイを迎え、俺達は早速騎空団として会議を始めた。
「まずオレ様が聞いた話だと…未来に現れるであろう幽世とやらに対抗する為にお前らは旅をしている。幽世に対抗する手段は
「幽世に勘付いた者は見つかれば消されてしまう。当然それは分かる。だが、諦める事が何故駄目なのかが分からないんだ。私が持つコスモスの知識は空の世界だけだからな…」
「現時点では空に現れていないのも事実。だからそれまでに空の世界を平和にしておく必要があると考えた」
「ふーん…で、お前個人の意思は?」
「幽世が実在するなら止めるしかない。俺自身は迷う人間を助けたいだけだ」
実際、人を助ける事が平和に繋がる…単純な事だ。戦争をしている国ではその様な理論は通らないが、少なくとも魔物に苦しんでいる街を救えば騎空団としての名前も広まる。
名が広まればもっと多くの人間を救うチャンスが訪れる筈だ。
「現時点で私はコーリスの動きに従っている。主な活動は探索と討伐。封印されていた君を見つけたのも依頼によるものだ」
「なら団長はコーリスだ。意思と目的を共有するならゾーイが副団長。これでいいな?」
「…意外だな。君は仕切りたがると思った」
「オレ様は好きに研究出来る環境さえあれば構わねぇ。ああ、一応金をどう使うかも教えてくれ」
出費………ほぼ飯代かな。ゾーイの。
「歳出の7割は食事代。残りの2割は宿、1割は服だ」
「………食ってんの誰だ」
「ゾーイ」
「…コーリス。何故、そんな顔をする。カリオストロも」
「お前さ、娯楽だけの食事にそう金を使うべきじゃないぜ?控えろよ」
「!?」
「その分で回復薬とか作るから。余ったら研究の材料を買ってもいいか?」
「どんな研究だ?」
「肉体の補強、元素還元による解明…あとはウロボロスの修復とかだな。まぁ、お前等の利になる結果にはしてやるよ」
「構わない」
「なっ!?」
ゾーイの食事が少なくなるが今までが食い過ぎだな。心を鬼にして食費を削減する。
「オレ様は基本的にお前らと一緒に行動するが、金の管理は任せて欲しい」
「いきなり財布を握らせるのは…」
「だってお前ら飯を抜きにしたら何に使うんだよ。商売っ気もねぇし…貯まるだけじゃ野盗に絡まれて面倒だぜ?」
「…」
だからと言ってカリオストロに任せると研究施設とか欲しがりそうだし…信用以前に見ている世界が違い過ぎるのではないかと思う。
「あとはな────」
カリオストロが続けて何かを言おうとした時──
「えっ」
「な」
「はぁ?」
…部屋が爆発した。
────────────────
「げほ…」
へ、部屋が吹っ飛んだ。
火薬の匂いはしないので魔法攻撃だろうか。しかも俺達の部屋だけをピンポイントで狙撃している。恨みを買った記憶はないが…。
いや待て。カリオストロは同業者である錬金術師に封印されていたんだったな?力を行使すれば身体を削る封印術も重ねて使われていた。その術は彼女の魔力に反応するわけだ。
……じゃあ、カリオストロの封印が解けた事も当然知られているし、追跡もするだろう。それにしても態々部屋ごと消し飛ばすとは恐れ入る。
「ってそんな場合じゃない!」
カリオストロを回収して早急に街から出なければ、不味い状態になる。不味い状態にする様な相手な気がする。
丁度近くで仰向けに倒れていた彼女を抱えて走る。目指す先は出来る限り森林だ。魔物のいない場所なら既に探索で知っている。
「おい!何処行きやがる!?」
「街の破壊や人質を取られる前に!敵に認識される前に俺達から先に逃げるんだ!」
「待て!やっとエリクシールハーフの量産体制が…!!」
「たった一日で経済を壊すつもりか!?」
貴重品として知られる薬を一晩で分析・量産していた事にゾッとするが、兎に角走らなければ。幸いポート・ブリーズの街はそう大きくはない。
「ッ!」
目の前から焦げた匂い、そして機械的な音を感じた瞬間に抜剣。2回の衝撃が刃越しに伝わった。
「銃か」
「飛び道具だぁ?奴等は錬金術以外見下してる
「いや、これは多分傭兵…?」
「はぁ…何が何でもオレ様を消したいらしいな」
「カリオストロは昔何をしたんだ…?」
「えへ、わかんなーい」
悪辣なトラブルメイカーめ…!
「自分で走れるな!?」
「運んでくれないのー?まぁ、冗談はこれくらいにして…ウロボロス!食っちまいな!」
カリオストロの背中からいつぞやの赤龍が出現する。しかし何だか身体がひび割れている様で、動きが随分と鈍くなった様に感じる。
「やはり本調子には遠いが…雑魚には充分だ!」
「何かあったのか?」
「テメェが壊したんだろうが!?」
そうだった!
「仕方ない…!無茶するぞ!」
「ああ?ぐむ──!」
カリオストロをもう一度抱えて盾を大量展開。側面や斜めに配置し、ピンボールの様な立体的な動きで空中を駆け巡る。
横を見るとゾーイが飛んできていた。
「何だか私達は襲われているみたいだ」
「ゾーイ!街の被害は大丈夫か!?」
「宿を襲った魔法使い達は倒しておいた。剣や銃を装備している者達は私達を追ってきている」
「なら森へ誘導して待ち伏せする」
カリオストロを仲間に引き入れた事は、何らかの派閥を敵に回す事だと、俺は心から思い知った。それも当然だ。彼女は教科書に乗るような偉人なのだから。
「もっと丁寧に運べ!髪が乱れちゃうだろうが!!」
…偉人?
コーリス
・義手獲得。新しく買った部屋爆破。
ゾーイ
・食費削減。新しい部屋爆破。
カリオストロ
・研究没頭。研究成果爆破。