幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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52.才の品格

 

 

 カリオストロを抱えて空を走るコーリスとゾーイ。やがて街を抜け、比較的魔物が少ない森へ駆け込んだ。

 大木に身を隠しながら一息つく。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「無事に辿り着けたね。武器は私が回収している」

 

「っ…刀!刀は!?」

 

「無論」

 

「よかったぁ…」

 

「やけに大事に……ああ、そういうことか」

 

 

 カリオストロの言葉には答えず、コーリスは剣と刀を装備し、右手に杖を持った。寝間着なのでいつもより軽装だが、現時点で最重装甲である。

 

 

「目当てはカリオストロの様だから、俺とゾーイが牽制にビームを撃つ。裏や側面に回る奴等は霧の中で俺が倒す」

 

「そんな暗殺者みたいな動き出来んのか?」

 

「寧ろ──得意分野だ」

 

 

 コーリスが霧を出す。極めて低位置に充満した薄い霧は、相手の靴に触れ、正確な位置を割り出す。

 

 

「狙う組織に心当たりは?」

 

「どうせオレ様を封印した奴等だ。"ヘルメス錬金術学会"。オレ様が作った錬金術の為の組織だよ」

 

「……部下に封印されたのか!?」

 

「…なんだよ。オレ様が駄目上司だって言いたいのか」

 

 

 バツが悪そうに彼女は口を尖らせた。

 

 

「品格……あいつ等が欲しいのはそれだけだよ。さ、ボコボコにしてやろうぜ」

 

「…」

 

 

 カリオストロはこの状況を想定していたかの様に振る舞っているが、ほんの少しの悲しみを覚えている様に見えた。少なくとも、コーリスにはそう見えたのだ。だが、それは実質の部下に襲われている事に対してではなく、もっと本質的な何かもしれない。

 

 彼とゾーイは得物を構えた。

 

 

「なるべく真面目に撃とう。適当にやったら誘い込みがバレて面倒だ」

 

「了解した。では早速…」

 

 

 ゾーイの剣に光が灯り、光線が放出された。それはガンマ・レイの様に巨大な一つの物でなく、細かな光線が拡散上に広がるもの。殺傷力と貫通力は数段落ちるが、横の広がりと独特なうねりが特徴である──彼女の制圧技。

 

 

「アサルト・レイ」

 

 

 感知したコーリスの示す方向に向けて放った数多の光線は、傭兵達の手足を焼き、武器を砕き、それでいて一片の死傷者も出さずに大半を制圧した。

 

 

「もう私一人でいいんじゃないかな」

 

「まずい。ゾーイが慢心を覚えた」

 

「緊張感持てよオマエラー」

 

 

 会話をしながら弾幕の展開。真面目に撃つとは何だったのだろうか。結局のところゾーイが器用すぎるせいで、敵陣営の制圧は簡単に終わる。彼女が本気を出せば、彼女自身にディとリィが加わる3重弾幕が始まる。更に奥の手もあるので、本当に手が付けられない存在に変わるのだ。

 

 カリオストロもある種の理不尽であり、錬金術師による物質操作は一般的な属性魔法の用途と大きく離れる。

 確かに、土属性の使い手が地面に魔力を流し操作する光景は錬金術師と似ているが、彼女の場合は金属や木々の形も変えるのに加え、違う物質に錬金してしまうので、恐ろしく汎用性が高い。

 

 そしてコーリスは。

 

 

「裏の16人を倒してくる」

 

 

 いつも通り、霧による初見殺し。濃霧を局所的に設置し、敵にあえて警戒させる。

 

 

(剣剣銃杖槍槍ナイフ槍杖銃────剣5、槍3、杖2、銃5、ナイフ1)

 

 

 武具と位置の把握、そこから導き出せる各々の役割。牽制の小剣に遠距離の銃、火力の杖で相手の動きを封じ、その隙間に剣で追い詰める槍で止め。そういう構成だ。 

 コーリスは起点となる飛び道具持ちを優先した。

 

 

「っ…」

 

(1)

 

「…おい、大丈──」

 

(2)

 

「敵だっ!霧を晴ら──」

 

(3、4…これで5)

 

 

 銃持ちの顎を打ち抜き気絶させる。濃霧の中で急接近された傭兵達は、コーリスの姿を薄っすらと視認できても反応出来ず、霧を晴らすという解決策を思いつくにしても遅すぎた。

 

 

(杖は火と風か…傭兵らしい)

 

「ごっ!?」

 

「が?」

 

 

 魔力によって霧を晴らさんと杖を構えた者達の眼前に移動し、念入りに力を込めた殴打。

 

 

『槍は振り回してもらって同士討ちも望める。次はナイフだ』

 

 

 一番弱いが、かと言って無視しても邪魔になるだけの小剣持ちを気絶させ、情報源として捕縛。

 既に半数を制圧された傭兵達は、遠距離支援を行う味方が無力化された事に気がついていない。

 

 

「──解除」

 

 

 そんな中、霧が一瞬にして消えた。無論コーリスがやったのだが。

 

 

「──あっ」

 

「ガンマライトォ…」

 

 

 円陣を組むようにして警戒していた傭兵達。だが、既にコーリスは円陣の中心部に頭上から侵入していた。

 

 

「エクスキューション!!」

 

 

 横凪の魔力放出は残りの傭兵達を平等に吹き飛ばし、木々や大地による厚い抱擁を受け気絶した。

 

 

「傭兵しかいなかった…あっち側が錬金術師の本隊だな」

 

 

 早々に仕事を終えたコーリスはカリオストロ達の戦場に戻った。

 

 

 

 

─────────

 

 

 

「終わった。捕虜も捕まえた」

 

「おかえり」

 

「早ぇな。出来る奴は好きだぜ」

 

「そっちはどうだ?」

 

「逃げてはいないが、立ち向かってきてもいない。此方も撃ち続けている。だが…」

 

 

 ゾーイが指を指した方向には、白い旗が大きく揺れていた。

 

 

「あの旗はどういう意味を込めて振られているのだろう?」

 

「…………!?」

 

「大規模な術の用意だろうか。それとも他の部隊がいて、合図を送っているのか?」

 

「ぞ、ゾーイ…」

 

 

 コーリスはその旗の意味を知っている。そして、ゾーイがどれ程恐ろしい事をやっているのかも理解し、思わず敵へ同情の念を抱いてしまった。

 

 

「カリオストロ!止めなかったのか!?」

 

「あーオレ様の時代には無かったからなー」

 

「白旗は空において戦争という概念が生まれた時に作られたものだぞ!嘘をつくな!」

 

「チッ、半端に学のあるガキはすぐひけらかしやがる。あーそうだよ。う・そ」

 

「こんの…!」

 

「大体さー、カリオストロ思うんだよね」

 

 

 焦るコーリスに対し、カリオストロは可憐で最も恐ろしく笑いかけ、自らの拳を固く握った。

 

 

「封印解けて、人が()()()()()()で研究しててね?いきなりお部屋を爆発させたり、研究成果を全損させてくる様な悪い人達にー」

 

「……お、おい」

 

「慈悲なんて必要ねぇんだよ!オラッ──アルス・マグナ!!!!」

 

 

 アルス・マグナ。それは以前コーリスと対峙した際、わざと暴発させて不安定に解き放った彼女の奥義。ウロボロスのエネルギーと、4属性の元素を錬金術によって一つの形に束ね、黄土色の(いかずち)を生み出す技であり、その衝撃は大気が割れたと錯覚するほどである。

 

 

「錬金術が攻撃に使えねぇとでも!?いつまでも金属捏ねてばっかじゃ開祖様に追いつけねぇぞ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 跋扈する悲鳴。裏回りしてきた傭兵達とは違い、正面にいるのは学会の人間たち。彼女を封印した者達の遠い弟子に当たる筈なのだが、コーリスやゾーイが想定していたよりも格段に弱かった。

 

 だが、まずはカリオストロを止める必要がある。

 

 

「そこまで。死ぬぞ」

 

「こういう奴はしぶといんだよ。生き汚いったらありゃしねぇ」

 

「一人くらい意識があればいいんだが…」

 

「それなら問題ない。ウロボロスが確保してきた」

 

 

 ウロボロスが口を開けると一人の錬金術師が吐き出された。リーダー格の男で、コーリスの部屋を吹き飛ばす様命令し、傭兵をけしかけた張本人。

 

 

「カリオストロを狙った目的は?」

 

「え、え?」

 

「目的は?」

 

「そんなもの…言う必要が──ギッ!?」

 

 

 コーリスは男の足を全力で踏みつけた。

 

 

「次は砕く」

 

「あ、貴方のような剣にしか脳がない人間に、錬金術を解かろう筈がぁぁぁぁぁ──!!??」

 

「次、膝」

 

 

 尋問の経験はあまり無いが、遊撃隊時代に教わった技術であった為、順序に問題は無い。元より命を狙う相手には容赦をしないのが彼のやり方だ。同じくゾーイも理不尽な敵対者には慈悲を持たない。

 

 錬金術師の男に味方はいない。

 

 

「か、開祖の再封印で、す…」

 

「何故そこまでして…」

 

 

 錬金術の開祖が生き続けているのならば、新たな弟子などを作って派閥を広げたり、現代の人間が到達できない古代の技術を盗もうと思うはずなのだが、街を襲撃してまで封印を望む理由が分からない。

 

 

「開祖は、我々錬金術師の品格を貶める存在なのです…彼がいては錬金術が下劣な物に見えてしまう!」

 

「───は?」

 

 

 品格。

 

 

(品格……本当にそれだけなのか?地形を操作し、現代の技術を一瞬で解析して使いこなすカリオストロを……それだけで封印するのか?こんな簡単な理由で……………?)

 

 

 コーリスは思う。もし自分が悪で、カリオストロを利用しようと画策したとしても、彼女に付け入り技術をしゃぶり尽くす様動くだろうと。

 また、出来るとは思えないが、彼女を唆して裏から操り人形にするといった行動も考えられる。

 それが、彼の思う敵の思考だった。

 

 だが、目の前の男が言うには、錬金術師が自分達を高尚なものだとした上で、そのプライドを保つ為に開祖を封印するという動機だ。

 

 

「カリオストロの技術に既に追いついている、という事か…?」

 

「そんな筈無いでしょう!?」

 

 

 男は狂った様に叫び始めた。

 

 

「我々は彼の研究の一端すらも理解していない!生体錬成?魂!?そんなものを何故理解しろと!?錬金術はみすぼらしい小石を黄金に変える高貴な術だ!彼の様に好き勝手に振りかざしてこの世の理を変えていいはずがないのです!!」

 

「おい…?」

 

「そうだ!錬金術は猿に知られることすら憚られる!!開祖!貴方がしているのは錬金術ではなくただ自分の命をこねくり回した奇術にすぎない!そうでなければ我々誇り高きヘルメス学会が貴方に追いつけない筈が無い!はは、はははは──!」

 

 

 コーリスは悟った。彼が以前所属していた遊撃隊と同じく──組織の腐敗が起きているのだ、と。

 そして、プライドの高さと同時に、カリオストロの技術を理解出来ないコンプレックスを組織単位で含んでいる。その醜悪な狂気に気圧された。

 

───だが、背後で憤怒の表情を浮かべている開祖を見て、彼は冷静さを取り戻した。

 

 

「街を破壊したのは事実。牢屋行きだ」

 

「黙れ!猿──」

 

「これ以上喋るとカリオストロがお前を殺す」

 

 

 男を気絶させ、一応捕獲した傭兵に聞く事も特に無いので、ポート・ブリーズの掟に従って裁いてもらうよう街へ連行した。

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

「宿の修繕費は傭兵達から取るそうだ。学会に関わると危険そうだし」

 

「なら…」

 

「ああ。ポート・ブリーズを出なければならない。カリオストロを狙い続ける可能性がある」

 

 

 学会の人間と傭兵達を牢屋に入れ終わった彼等は、これからの動向を話し合っていた。

 

 

「カリオストロは?」

 

「苛つきながら外を見ているよ」

 

 

 ゾーイの視線の先には椅子に座っているカリオストロ。貧乏ゆすりをしながら時々舌打ちをして草原を見つめている。

 自警団から帰ってきたコーリスを見ると、此方に歩いてきた。

 

 

「悪いが、オレ様と旅をするって事はこういう事だ。……それでも続ける気か?」

 

「構わない。ゾーイは?」

 

「構わない」

 

「少しくらい構ったほうがいいと思うんだがなぁ…」

 

 

 ため息を付いた彼女は少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

「学会というのは昔からあの様な形なのか?私はとても君が設立した組織には思えない。腕はともかく、意識までも別物だ」

 

「数百数千年経てばああもなる…と言いたいが、そうだな。昔はマシだったぜ」

 

 

 ゾーイの問いかけに彼女は答えた。

 

 

「錬金術を開発した当初は周りも信じなくてな、目の前でスプーンを純金に変えてやってもペテン師だと言って信じねぇ。まぁその分優秀な弟子は多かったよ。見極めが出来ていた」

 

「ある程度の人間の数が増えると認知が広まり…より一般的な人間がその技術に触れようとする。だから今はこうなったのか」

 

「そうだ。少し有名になった途端にアホが増えた。錬金術の有り難みを知った奴等は私腹を肥やそうと俺に懇願してきたよ。だがそんな奴等は真理どころか一端にすら近づけねぇ。自在に操るオレ様が憎かったんだろう」

 

「だが、錬金術どころか通常の戦闘でもカリオストロには勝てない」

 

「オレ様が苦手とするのは破壊と分解だ。だが大火力を放つ人間はそうそういないし、分解するには錬金と同じく物質を分析する能力が必要だ。まぁ、最終的には分解の術式で弱らされて封印されたんだがな…」

 

 

 ありゃ人生唯一の大失敗だったなーと、自嘲するように呟いた。

 

 

「少しでも錬金術を修めた結果、変なプライドを持ち始めてな。いつしか選ばれた人間にしか扱えない物だと騒ぎ始めて…品位を求めた」

 

「それが今回の動機か。錬金術の独占」

 

「つまらなくて狭い奴等だよ全く。世界の成り立ちを解明しようなんてちっとも思ってねぇ」

 

 

 コーリスが相槌を打っている最中に、ゾーイは考え込む様に顎に手を当てていた。

 

 

「カリオストロ。少し気になったんだが、先程の男は君の事を"彼"と呼んでいた」

 

「ああ。そうだな」

 

「君が生体と魂に錬金術を用い、それを理解出来ないと取り乱していたりもしていたな」

 

 

 カリオストロはにっこりと口を閉じたままコーリスを見つめる。 

 それに対し彼の表情は絶対零度。

 

 

「長い年月を生きているのにも合点がいった。君はその身体を作って魂を入れたんだね。つまり元々は男か」

 

「正解」

 

「発想が狂人のソレだ」

 

 

 絶句したのはコーリス。感心したのはゾーイ。

 

 

「ちなみに何故女の身体に?それも少女の」

 

「何でって…考えてもみろよ。次の人生、生まれ変わるとしたら恵まれた容姿が欲しいだろ?少しだけでも得して生まれたいだろ?チヤホヤされたいって思った事あるよな?」

 

「…」

 

「承認欲求だけじゃねぇ。こっちだって色々可能性を探ってんだよ。どんな服を着てどんな喋り方がいいかってな」

 

「まさか…」

 

「生きやすさも華やかさも完璧だぜ?カワイイ女の子ってのはなぁ…!サイコーってやつだ」

 

「狂人を軽く超えた……誰もカリオストロを止められない」

 

  

 衝撃のカミングアウトを乗り越えたところで、話を戻そうとする。魂だの生体錬成だの聞きたい話は彼等にもあったが、話されたところで理解出来ないと察した。

 

 

「他の島に行くのは決定事項だが。俺の中で一つ決めたことがある」

 

「なんだ?」

 

「宿を取るのは追われる立場として良くない。だから」

 

 

 カリオストロの目が光る。彼が唯一不満に思っていた現状が解消されるのだ。

 

 

「騎空艇を入手する」

 

「やったぜ!そりゃそうだよなぁ!金払い続けるのも不憫だよな!」

 

 

 大いに喜ぶ開祖。彼が欲していたのは研究の環境だが、宿を転々とするにつれて部屋に道具を移動させなければならないし、そもそもスペースが限られている。 

 そこで、騎空艇の個室を研究室として作ってしまえば、移動式のマイホームが完成するのだ。便利度は格段に上がる。

 

 しかし、素朴にして根本的な原因がある。

 

 

「操縦者はどうするんだ?」

 

 

 彼等の旅を思えば、永い時を共にする関係上寿命が存在しない人物を仲間にしたい。この空においてその様な生物は星晶獣だけなので、操縦士を探すのは手間だ。

 

 

 

「ノアさんに聞いてみよう。次に行く島はガロンゾだ」

 

 

 船造りの星晶獣、ノア。ガロンゾにて気まぐれに姿を現す青年。彼等の次の旅が決まった。

 

 

 

 

 

 そして、このガロンゾの旅が……コーリスに一つの爆弾を落とすきっかけになった。

 

 

 

 

 

 





ヘルメス錬金術学会
・遠い過去では錬金術を学べる最先端の組織だったが、現在では情報が隠蔽され、非道な実験や他の組織への牽制を欠かさない高圧的な立場を取る。
・典型的な腐敗組織。

コーリス
・カリオストロを女だと思っていた。

ゾーイ
・後に白旗の意味を聞いて泡を吹いた。

カリオストロ
・"ヘルメス"潰すゾ!!!

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