幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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6章 守護と破壊のモノマキア
55.αμυντική πόλη(防衛街)


 

 

「壁に囲まれた街…いや、壁と言うには薄いか。魔物の侵入を防ぐには充分だが」

 

「……」

 

「どうしたコーリス。ソワソワして」

 

「いやだって…アテナだぞ?」

 

「その名前に何の意味がある」

 

「"守護と平和"を司る星晶獣の名前なんだ…」

 

 とある島に付いたコーリスとカリオストロは、防衛の依頼を出した街を発見し驚いた。

 その街の外郭は壁の様に反りたっており、二人は依頼分に書いてあった通り、その街が防衛の為の形を取っている事を理解した。

 

「リュミエールの図書館には覇空戦争終結時に書かれた記録が少しだけ残っているが、その中の星晶獣図鑑ではアテナの名前があった」

 

「強いのか?」

 

「曰く、"アテナは騎士と戦士の両面を持つ星晶獣であり、その盾による防壁は全ての攻撃を無効化し、相手に降伏を訴える。その勧告を無視し抗った相手は、無情にも炎の槍によって貫かれるだろう。"」

 

「"平和"って敵を殺す事で得られる平穏の事かよ。それに防御と火属性の使い手か。いや…忠告に反発した敵に対して火を使えるようになる感じの概念系能力の線もあるな。それで、お前はそいつの事をどう思ってるんだ?」

 

「星晶獣である以上、人間を数多く殺した可能性は高い。でも、文献でのアテナは()()()()()()()()記述があったんだ」

 

「…騎士としての防衛本能、戦士としての殲滅本能。二重人格の線は?」

 

「……あり得る。最終的には空に寝返った様だが」

 

 コーリスが自身の魔力量を活かして盾を作る戦法を思い付いたのは、アテナについての文献を軽く読んだことがきっかけである。この事は身近な人間であっても知らない事だった。

 

「ゾーイを連れてくるべきだったか?」

 

「いや、長く街に滞在する可能性が高い以上、素早く空を移動できるゾーイには頑張ってもらうしかない」

 

 ゾーイは届いた大量の依頼を処理する為に奔走している。ノアがいなくても空を自由に行き来できる彼女だからこその別行動であり、案は本人のものだ。

 そして、ノアは戦争時のアテナの()()()()は知っていた。その為、もしもの事があった場合にコーリスとカリオストロが逃げ込み、すぐに島から脱出出来るよう艇に留まっている。

 

「研究は暫く打ち止めだが、大丈夫か?」

 

「ああ、構わないぜ。もしアテナが本物の星晶獣で、尚かつ話が通じるタイプなら貴重なデータになる。それだけでもここに来た価値があるってもんだ」

 

「そうか。ありがとう」

 

 正面に小さな門があり、そこが唯一の出入り口になっている様だが、一切中身が見えずに閉まっていた。定期的に侵攻してくる魔物達の影響か、住民達は外に出ないのかもしれないと推測した。だから自給が可能な土地ごと囲んだ街にしたのだろう。

 

 そして数歩踏み込んだ時──コーリスの嗅覚が親しい匂いを嗅ぎとった。

 

 

「…血の匂い」

 

「おいおいおい…」

 

「獣臭さもある…十中八九魔物だろう」

 

 臭いの元は彼等から見て右方向。

 

「人影も見える。遠くにある花畑から臭うぞ」

 

「って事は街を守る為に魔物を倒してる奴だな。一旦会ってみよう」

 

 二人はその花畑に向かって進み始めた。段々と見えてくる光景には、小型かつ大量の魔物の死骸と、その中心で大型の騎槍(ランス)を持って立ちつくす女性が写っていた。

 

(…槍!)

 

 槍。そしてドレスと鎧を混ぜ合わせた様な白い装いに、乾鮭色(サーモンピンク)の髪を持っている女性。

 コーリスは彼女がアテナでは無いかと推測し、ほんの少しの警戒を示した。

 

「…旅の方ですか?この島は魔物が多く危険です。特に子供は魔物を凶暴化させるので早めに街に入る事をおすすめしますが……」

 

 透き通った声と上品な所作は、花が似合う淑女という印象を彼らに与えた。

 そして話の内容から此方に敵意が無い事が分かり、二人は姿勢を通常時に戻した。

 

「俺達はあの街の『アテナ』という人物から防衛の依頼を受けた騎空団です」

 

「ああ、アテナが言っていた…!貴方達の事だったのですね。失礼しました。私はエニュオ。街を守る為に魔物と戦っていたのですよ」

 

 エニュオ。アテナでは無かったのだ。

 

「街へ案内します」

 

「…その、エニュオさん」

 

「なんでしょう?忘れ物ですか?」

 

「いや…死骸を放置すると魔物が寄ってくるのでは……というか返り血が凄いです」

 

 むせ返る程の血の匂いは死骸どころかエニュオからも発せられており、花畑に美女が血塗れで立っているという恐ろしい光景が広がっている。

 思わずカリオストロは鼻を塞いだ。

 

「あら…まぁ。これは失礼を──そして」

 

 エニュオはコーリスの目の前に立ち笑顔──の様な物を見せた。エメラルド色の瞳が彼を萎縮させる。

 口を開くと──

 

 

「私が本当にあの街を守っているとお思いですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、冗談です。驚きましたか?」

 

「おい、(たち)(わり)ぃぞ姉ちゃん。さっさと案内して早く身体を洗いやがれ」

 

「そうですね。面倒ですし、新調しましょうか」

 

 

 コーリス達が疑問を呈する前にエニュオは自身の胸に触れると、たちまち身体から血が消え、鎧は再生成された。

 

 

「これで大丈夫ですね?」

 

「どういった魔法…いや、憶えがある感じだ」

 

「コーリス、今のは星の力による身体の保存と再生成だ。てことはお前……」

 

「隠す気はなかったのですが鋭いですね。私は星晶獣エニュオ。司る物は──」

 

 

 意味有りげにエニュオが笑みを深めた瞬間──

 

 

「エニュオ!」

 

 

 凛とした声が響いた。 

 街の方向から歩いてきたその姿は、紅い鎧にエニュオよりも小柄な槍を持った金髪の女性。肩には梟が乗っている。そして最もな特徴は、大盾。

 

 

「アテナですか。どうしてここに?」

 

「一人で街を出ない様言った筈です。貴女が一人で殲滅してしまったら街の防衛力が育たない」

 

「良いではないですか。小柄で数だけ多い魔物は素早く、弓で討ち取るのは困難。さして驚異にもなりませんから、面倒事の始末と思えば…」

 

「いえ、群れを成す魔物にこそ万全たる対応が必要」

 

 二人の女による小さな口論が始まり、コーリス達は呆気に取られる。

 

「何か始まったぞ。この女がアテナか」

 

「恐らく。如何にも火を使いそうな色の鎧だしな」

 

「話が通じるどころかそこらの人間より責任力がありそうだ。安心したぜ」

  

 やがて口論が終息し、アテナが二人の方へ頭を下げて礼を示す。

 

「遠方から御足労頂き感謝します、騎空士殿。私はアテナ。あの街に防衛の戦術を教えている途中なのですが…」

 

 アテナはエニュオを横目で見ながら語った。

 

「戦術なら可能にしても、人間が行える最善の防護を教えるには至らず、防衛戦に特化した貴方達に協力を依頼しました。……何分、私達は星晶獣なもので。エニュオに至っては攻撃は最大の防御と言わんばかり」

 

「あら、人を攻める事しか脳の無い様に言って」

 

「そうは言っていません」

 

「…依頼は完遂します。取り敢えず目の前の死骸を」

 

 魔物の死骸は新たな魔物の発生源となる。同族を殺された怒りを買うか、その死骸を漁りに来た別種が襲ってくるか、単純な血の匂いに反応した種か。

 だからこそコーリスは先程から注意するよう呼びかけているのだが。

 

「いえ、構いません。この島の魔物は珍しく多少の知能を持っています。残酷ですが、彼等はこれを私達からの警告として受け取る事も出来るのです」

 

「…なるほど」

 

「私からもよろしいでしょうか?騎空士殿」

 

「はい」

 

「防衛に優れている団という評価しか聞いた事が無いのですが、団の規模はどのくらいなのですか?お二方は使者として来られたのだと思いますが」

 

「4人です」

 

「ん?」

 

「戦闘員は3人。騎空艇の操舵士で1人です」

 

「堅苦しく無くて楽しそうですね」

 

 エニュオが能天気に呟いた事も露知らず、アテナは口を開けたまま呆け、冷や汗をかいた。

 本来、防衛戦に長けた騎空団は大規模な物であり、様々な島に拠点を作り自警団と融合する形を取るものだ。しかし、彼等は少人数で毎日島を飛び回っているという異常な立ち回り。

 

「俺は防御専門で、かれ…いや、彼女は比較的防衛が得意な戦闘員です。もう一人は全く得意ではないので他の島に行ってもらっています」

 

「その子も…!?というか子供では」

 

「で、こいつが団長でオレ様が金庫番な。今なら回復薬も格安で売ってやるよ」

 

「彼が団長…?」

 

「はい。コーリス・オーロリア。コーリスと呼んでください」

 

「オレ様はカリオストロ。普通に呼べ」

 

 

 苦労人気質を見せながら、アテナは2回の握手を行った。

 

 

 

───────────────

 

 街に訪れたコーリス達は、アテナとエニュオの案内の元、街の中枢である指令塔の様な建物に入った。 

 

「アテナさん。依頼内容は街の防衛と、防衛戦術の指導で合っていますか?」

 

「はい。この街の防壁は身を隠しながら敵を迎え撃つ為に作ったもの。しかし最近、エニュオが倒していた様な小型の群れが多く…弓矢で相手取るのも困難になっていまして。物資を無駄に浪費したくないのです」

 

「なるほど。探る様で申し訳ありませんが、規模に劣る俺達が何故防衛に優れていると評価されるのか。どう考えますか?」

 

 アテナはその質問ついて少し考えた。

 逆にエニュオは目を閉じて頷いている。既に結論を得ているようで、彼女の思考回路はコーリスに近いのかもしれない。

 

「…少人数だからこその隠密行動。攻められる前に敵陣を叩く、という動きでしょうか。カリオストロ殿は魔法が得意な様に見えますし、気配を隠す魔法等を使って…」

 

「アテナ、違いますよ。たった3人、その内1人は防御が不得手と言うのなら単純な話です」

 

「…エニュオ?」

 

「コーリスさんは盾を持っていない事から、恐らく得意とされる防御魔法を。カリオストロさんは支援でしょうか…その隙にもう一人の方が殲滅といった形。少数の強者による力押しというのが妥当ですよ」

 

「何故そう言い切れるのです?」

 

「感じ取ってみてください。特に、コーリスさんの力を」

 

「…コーリス殿、失礼します、」

 

 アテナはコーリスの目を見た。次に手、足、胸。そして耳。最後にまた目を見て──今度は瞳そのものを覗き込むように観察して、()()()()()()()()()

 

「コーリス殿…その、貴方は」

 

「魔力量によるゴリ押しの防御。絶対死ななくてオススメです」

 

「私が言いたいのは…そうではなくて」

 

 アテナの依頼の目的は、人間の力…それも戦士ではなく街の住民が実現可能なレベルの戦術を学ぶ事である。彼女の盾は星の力であり、魔力も絡む為に技術として伝える事が不可能。だからこそ防衛に長けたコーリス達が選ばれたのだが…。

 結局コーリス達も星か空かと区別出来るだけで、才能的な力による防御という戦術に違いは無かった。

 

「アテナ。人選ミスですよ」

 

「エニュオッ!!」

 

「…防御魔法は教えるというか、そもそも魔力を固めるだけの物なので、街の人達に教えられます。しかし効率は悪いです。結構魔力を使う上に、盾として形を構築してしまえば使い捨てになってしまう」

 

 アテナは人選ミスをしてしまった。人間達が行える手段で街を守る為に防衛特化の騎空団を頼ったのだが、祈望の騎空団はメンバーそれぞれに固有の戦い方がある。防御が得意なコーリスとカリオストロが偶然いるだけで、広義的な防衛とは物が違う。

 ちなみにゾーイは戦い方が基本的に攻めというだけで、盾の硬度はかなりものである。

 

 落ち込むアテナにカリオストロが話しかける。

 

「この街の壁を見ていたが発展途上だな。理想は侵入や敵の飛び道具を完全に防ぐ事か?」

 

「はい。今のままでは物量で圧壊してしまいますから、せめて薄くとも城壁の様な構造にしたいのです」

 

「なる程な。いいぜ、オレ様が少しこねてやる」

 

「こねる…?」

 

「カリオストロの錬金術は大地を操っていると錯覚する程に広範囲で正確です。素材さえあれば直ぐに壁を強化できると思います」

 

 そこでカリオストロは人差し指を立てて怪しく笑った。

 

「そこでだ。オレ様が堅い壁を作ってやるから、報酬を少し高めろ」

 

「…カリオストロ」

 

「以来の内容は防衛術の指導。だが、今の話はそれに加えて街の防御力そのものを強化するもんだ。追加で貰うぜ?構わないだろ、平和の女神さん」

 

「…仕方ありません。街の為です」

 

 エニュオは話に乗ったアテナを見てから数回頷き、机に入っているルピを確認した。その後彼女は溜息を付き、微笑を浮かべて口を開いた。

 

「カリオストロさん。情けない話ですが、私達は貧乏なんです。お手柔らかに頼みますね」

 

「なんでだ?人間達に自衛手段を教えて自立させたいんなら、お前等は常に同じ場所に滞在する事は無いって事だ。行く先で色々助けてきたんだろう?何で金が無い」

 

「私達は特別何も受け取っていませんよ」

 

 二人は純粋に驚いた。空の民に寄り添う星晶獣達は興味の対象として社会に関わるが、この2体の星晶獣は人間達を守る為に行動し、その見返りも求めないのだ。

 

「ほう。平和を司るってのは眉唾じゃねぇわけか」

 

「…」

 

「そっちにも色々ありそうだ。仕方ねぇ。金はいい。珍しくオレ様がボランティアで活動してやる」

 

「感謝します。カリオストロ殿」

 

 "結構無償で人を助けるけどなー"という心の呟きをコーリスは抑えた。

 単純な人助けと思えば今までの依頼と変わらない。二人はいつも通り周囲の視察を行おうと動いた。

 

「島の地形は分かりますか?地図等が無いなら此方で把握しますが」

 

「持っています。私が書いた物ですが」

 

 机に地図を広げたアテナは、指で様々な場所の特徴を説明した。

 

「近隣の森には多くの種が住んでいますが、どの魔物も獰猛で人間に敵意を持っています。特にゴブリンは武具を持つ事があり、数が揃うと対応に困難です」

 

「他に村や集落はありますか?」

 

「あるにはあるのですが…遥か遠方です。魔物達の危険が及ばない程に」

 

「だからこの街に集中して……不運な立地ですね」

 

 

 

 地図に没頭する二人をよそに、カリオストロはエニュオの方を見た。

 気になったのだ。アテナの善性は垣間見えたが、その仲間であるエニュオの性質をまだ理解していない。アテナを支える立場なのか、ただ付き添っているのか、はたまた気まぐれか。

 

 ──別の目的もあるのか。

 

 

「エニュオ。聞かせろ」

 

「はい、なんでしょう」

 

()()()は好きか?」

 

 毒がある質問であったが、解答に動揺は無かった。

 

「空に生きる私達にとって今や空の民こそ()()。彼等の営みは私にとって好ましい物ですよ。特に豊かな感情も」

 

 カリオストロは故意に空の民という聞き方をした。戦争時代では星晶獣にとって星の民こそが人間であり、創造主。敵である空の民に寝返ったとしても、過去の認識を忘れられない獣も存在する可能性がある。

 そして今の答えを聞く限り、エニュオは空に長く根付いており、特別穿った感情を持っていないと分かる。それが本音であればの話だが。

 

 次の質問が生まれた。

 

「じゃあ戦いはどうだ?武の高め合いじゃねぇぞ。命の摘み合いだ」

 

 またもやスラリとエニュオは答えた。

 

「殺し合い自体は好きではありません。武力の試しもそれほど。私にとって、戦いは何時も容易い物でしたから」

 

「それは、お前が強いという意味か?」

 

「はい。私は少々強く造られたんです。なので──」

 

 

 エニュオは横を見る。

 

 

「──戦いによって何が生まれるか、それを強く熱望します」

 

 

 彼女の純粋無垢な瞳は、ある一点に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






コーリスとカリオストロ
・戦力的にペアになる事が多く、相性も良い。
・ただ、色々な意味でツッコミどころがあるので、依頼者には先ずカリオストロについて誤魔化す事が多い。

ゾーイ
・最近ぼっち。

ノア
・二人まだかなー(*´ω`*)
・ディとリィに懐かれている。

アテナ
・"守護"と"平和"を司る星晶獣。
・善人で真面目。
・強い。

エニュオ
・■■と■■を司る星晶獣。
・問答において、嘘は言っていない。
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