「まず、皆さんは魔力と言うものをどのように見ていますか。人に宿る便利な力か。戦う為に使う力か。ただの個性的な特徴か。ま、結局間違いも無く正解もありません。魔力というのは存在が解明されていない物質でしてね……使い方も様々です。日常で使ったり戦闘で使ったり武器に纏わせたりとね。なんなら剣や斧、鞭でさえも魔力で象れば作ることも出来るでしょう」
「ですが、何故傭兵や騎士達は剣を使うのか? 正誤関係なく言ってみてください」
入学してすぐ次の日の今、士官学校としての授業……いや、講習と言ったほうが正しいか。ともかく、戦の心構えから学ぶ必要があるという事で、魔力と武器の使い方について学んでいる所だ。
教師は前日の気怠けリエスさん。
あと数カ月したら鉄製の武器を持たせてくれるらしい。無論、最初から武器を持って訓練なんて脳筋な指導は無い。そんな事はスパルタにしか通用しない。
そして、物心つく前から身についている魔力。
スルトは炎。その力を行使するのに何のリスクも必要無く、歩く事と変わらない感触。それで物は燃えてしまう。無論人も都合良く例外になる訳がなく、炎の影響を受ける。
何にでも干渉する力、そのような便利な物を何故全力で活かさないのか?
と言うものを聞かれている。
補足として説明すると、人に器用不器用があるように、魔力にも才能がある。
魔力の量が一般人少ない者や、魔法の行使が覚束ない者。また、魔法属性が
なら……
「はい」
「コーリスさん」
「才能に左右される面が多く、剣や銃を主戦法とし、魔力は武器に纏わせ威力を増長させる形にした方が効率が良いからです」
「……なる程。模範的で理想的な解答です」
自分の答えは間違ってはいないらしい。
(露出狂のレッテルを挽回出来そうだな……)
何においてもスルトより最適解を繰り出す事で優位に立ち、有能と思わせる事で印象を180度変える……!
今日の俺のIQは200と思え……!!!
「ですが」
あ、違うパターンですね。
悲しいなぁ……。
そしてスルト、笑ったな? 潰す。
「それだけで理由付けするには少ないですね。単純な事です。現代において戦う職業を選択する人間は少ない。尚かつ魔力が少なく、相当な努力をしてまで傭兵などになる人間は余りいないでしょう。才能というのは人の未来を決定付ける。希望を見失わず夢を追い続けることは難しい事です」
良く考えれば分かることだった……反省点だ。
……しかし。
この教師、最初は気怠けな見た目相応に余り喋らないタイプかと思ったが、淡々と言葉を述べるだけで正しい事しか喋っていない。
指導者としては当たり前なのかもしれないが、頭にスッと入り込んでくる。このような授業はモチベーションが上がる。そう、周りも。
だが、皆思っていた事は同じなのか挙手する人間が少なくなっていた。
「はい!」
「スルトさん」
ただ一人は、違う
ハーヴィンとして注目された存在は独立した答えによってさらに格好の的となる。
三種族の視線が矢となって小さな肉体に突き刺さるが、スルトは動じなかった。
それだけ、確実でいて自信があるのだろう。
(気になる)
奴は馬鹿だ。
それは周知の事実。だが、馬鹿は時にその場の最適解を導き出す。深読みしすぎて近くの物が見えないと逆で、馬鹿には近くの物しか見えないのだ。
きっと、俺達の思考を超えた答えを導き出してくれる筈だ。
信頼の裏返しというやつだ。
さあ、言ってみろ。
「魔力に耐えきれないからです。俺みたいな天才型では特に!!」
きっとそれは、間違いでは無いのだろう。
奇怪な目を向けたクラスメイトへの意趣返しだったのかも知れない。
だが、
そもそも魔力が全ての世界ではないだろう。あくまでも便利な力と言うだけだ。結局鍛え抜かれた力と技術だろうに。
魔法使いでもやりたいのか? お前は。
キラキラした目で天才アピールするな。
「……まあ、剣も腕も炎の影響は受けますね。出力を間違えれば何もかも灰と化すでしょう。ですが、やはり技術で補える。武器を使う理由は、肉体による直接攻撃が一番効率が良いということです」
結局、努力が物を言うということだ。
そして……
先生は何故スルトの属性を知っている?
入学して訓練もまともに受けていない俺達の属性を知る術は無い。
何もかも気になって仕方が無い。
「──先生は何故馬鹿の魔力を知っているのですか?」
「馬鹿は辞めなさいコーリス君。スルト君の事ですか……」
「何気に馬鹿で俺に絞られるの酷くないですか!?」
「あ、すいません……。で、何故知っているのかでしたね」
「はい」
「なに、このような職業に就いたら人の魔力の訓練に立ち会う事が多いですからね。人の魔力の種類も感じられる訳ですよ。特別何かが優れているわけでもなく、誰でも時間を掛ければこの感覚は習得できます。例えばそこのシリクさんは風。ドレイルさんは土、ですかね」
例として先生は近くの席の人の魔力を言い当てた。
本人達は「合ってる……」と、反応を示したため間違いは無いだろう。
この技術があったからこそ、魔物との戦いで命を落とす者が少ないのだろう。属性による対策が幾らでも練れる。
思案に浸っていると、先生がこちらを見据えて口を開く。
「……ただ。君だけです」
「……?」
「君だけですコーリスさん。君の魔力だけは
「そう、ですか……」
そうか。
やはり俺は
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例え話だが、周囲が見えない程の暗闇に覆われている森に入って、普通の人間は正しい方向に足を進められるだろうか?
答えは──否。
ひたすらに真っ直ぐな道を進むなら子供でも可能だが、如何せん森は真っ直ぐな道が存在するほど整ってはいない。加えて風向きなども変わり、土地勘と言うものは欠片も無意味な物となるのだ。
では、具体的な話に入ろう。
もし、幼児が霧立ち込める森に迷い込んだらどうなってしまうのか?
勿論、帰れなくなるだろう。
偶然歩いていたら家に着いていたという幸運話はあるが、自分から動いて望む到着地点にたどり着く事は不可能に近い。
大人の捜索を待ちながら泣き喚くのが関の山。
だが、霧立ち込める小島に偶然捨てられていた子供。
名をコーリス、と名付けられた。
その者だけは何かが違った。
「今日は霧が濃いな……」
霧の島、今日のトラモントは少し危険だ。
余りにも濃い霧によって遮られる視界。迷った魔物が町に入ってくる可能性も否めない。
眼鏡をかけ、頼りな下げな雰囲気を出しながらも優しそうな男は村外れの森から聞こえた子供の泣き声を頼りに歩く。
事の発端は霧だ。
突然濃い霧が湧き出したので、娘達を森へ行かせないよう家に入れた矢先、自分は人間の泣き声を聞いた。
エルーンの優れた聴力は例え深い森の中にいる音すらも見逃さない。
村から外れた山の方に家を建てているので、森の環境にも慣れている。
──大丈夫、何の問題も無い。
自分は耳が良い。森の地形は理解している。もしもの為に斧と弓も携帯している。死ぬことは無い。
そう自分に言い聞かせながら男は歩く。
もうかなり深い場所まで来た。
子供の泣き声も目の前に等しい。
自分の耳に従い、数歩歩いた結果鳴き声までたどり着いた。
そして、目の前に居たのは傷一つない幼児。
獣のように生えている耳からしてエルーンなのだが、この村には他の島から来た自分達以外にエルーンは存在しない。
と、なると。
──捨て子、か。
事情を察するのに時間は不要だった。
簡単な話だ。大きな街に捨てれば直ぐに保護され、親元を特定されるか預けられるか。
だが、トラモントは霧が立ち込めている為、捨てている姿を見られずに済む。加えてこの3歳程の幼児は精神が未発達な為に親の顔を忘れるかもしれない。
酷い話だと思うが、筋は通る。
そこまで我が子が疎ましかったのか、邪魔だったのかは本人にしか分からない事だ。
男は戦士でも英雄でもないが、無垢な命を侮辱する行為には怒りを覚えた。
「ひっ……ぐ……す」
その熱は子供の嗚咽で冷まされた。
先ずは保護が優先。
「どうしたんだ? こんな所に一人で……」
「母さんとはぐれちゃって……手までつないでたのに……!」
──可哀想に。
人が来たからか少し落ち着いたように見える幼子は、捨てられた事に気付く筈も無い。ただ逸れたと思い込むのみだ。
「じゃあ、お父さんは?」
「きょうはおしごと……。木を売りにいったの」
「そうか……。取り敢えず、ここは危ないから安全な屋敷に行こうか!」
母の独断かはどうでも良い。この危険な状況から脱する事を優先した結果─ミスに気付いた。
ここに来るまでは幼子の声を頼りにした。だが帰りはどうだ? 手がかりが全くない。
来るまでの道に印を付けておくべきだったのかも知れない。冷静さを失いすぎた。
「……ねえ、おじさん大丈夫?」
突然の質問。
子供の不安を煽らないためにも平然を装おうとするが、冷や汗は止まらない。
「大丈夫、大丈夫。直ぐに温かい場所に連れて行ってあげるからね」
「ねえ?」
「なんだい?」
「おじさんの家の形はどんな形?」
問題ない。
これは精神の安寧を保つ質問。答えてあげるだけで安心するなら幾らでも応えてあげよう。
「そうだね……少し大きめで、尖ってて、ぽつんと建っている家かな」
「ひとりぼっち……」
「そう。独りぼっちさ」
子供は少し考える素振りをして目を閉じる。
疲れて寝てしまったのか。
なら、気持ちの良い目覚めにして上げなければならない。
霧で途切れた視界を記憶でカバーし、魔物の匂いを感じたら即座に身を隠す。
そう思い来た道を引き返す。
眠っているだろう幼子を背負いながら朧気な記憶を蒸し返す。
「……?」
何故だ。先程通った道を思い出せない。
それこそ、頭の中が
忘れたなどという下らない理由では無く、森に入ってからの道のりの記憶が綺麗に消え失せている。
無論、今やるべきことは分かっている。
だが、違和感を覚えるほどに記憶が──
「ねえ」
こちらの焦りを諸共せず、悠然とした態度で急に問いかける。
起きていたのか。
「どうしたんだい? お腹が空いたのか?」
「ちがう」
「おじさんの背中じゃ眠りづらいと思うけど辛抱だよ。絶対に家に届けるからね」
脳機能を全回転させ、風向きや足元などで帰り道を探る。
歩くなら正しく。間違ったなら滑らかに。
幼子を不安にさせないよう歩き方に気を付ける。本当はこんな気遣いが出来るほど余裕のある状況では無いのだが、子供を泣かせ、魔物を呼ぶよりはマシだと考える。
「ねぇ──あっちだよ」
「──は?」
「おじさんの家、尖ってておおきい。ひとりぼっちにぽつんとたってるんでしょ? あっちに坂があるから……」
混乱していた。
だがこの幼子は至って真面目に、そして冷静にこの場の状況を支配したのだ。
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「そこは水に濡れてすべりそうだよ。きをつけてね」
「そこに木があるからえだに刺さらないようにしてね」
「あのお犬さんもはぐれちゃったみたい……おびえてる」
「もうちょっと右に行って……この坂の上にあるお家でしょ?」
「うん……ここも右」
信じられない物を感じた。
視界が白に巻かれる中、見えない筈なのにこの幼児は口を開けば周りの環境の形を理解している。
地面の草木が雨により濡れていたら滑らないようにと注意。
大木が倒れているならば、枝に刺さらないようにと注意。
正しい方角の指定。
見ず知らずの今日知り合ったばかりの人間の家の場所を特定。
この子に第六感が働いていると言われても頷いてしまう程の察知能力。
従えば、自分の家の下の坂まで着いたではないか。
一昔前、一目を見ただけでその場の景色を脳内に記録し、様々な角度での視覚を脳内で再現できる天才がいた。その天才はその類まれなる記憶力と変換力により、一度見た場所で迷う事は無かったようだ。
だが、この幼子は違う。
魔力か? 空気か? 匂いか? 風向きか?
視覚に頼らず場所を知る方法はいくつかあるが、どれも根強い経験が必要な訳で、今日初めてこの島に来た幼子が取る行動ではない。
では……何をした?
思考を鈍らせないように平然を保つ。
今は魔物が襲って来ないよう警戒をする事と分かっている筈なのに、霧がかった記憶と不理解が思考の余裕を無に返す。
今分かることは
この子が──異質だって事だ。
気づいたら一月に一話投稿になってました…すいません。