幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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58.λάθος(過ち)

 

 

 祈望の騎空団2名は、防衛街に来訪して一週間と2日が経過した現在、フロンティア号から拠点を街の中枢に移す事にした。

 理由は、この依頼が長期の物になると分かり、街の内部での安全性が確保されたからである。そして、ゾーイが単独で空を飛ぶのにも限度があり、ノアにしか動かせない艇を用いる方が効率的であると判断した事も要因である。よって、現在祈望の騎空団は半分に分かれている。

 

 

「…んお」

 

 

 アテナとカリオストロの話し合いの元、少し頑丈になった壁の上には人々が偵察をする為に立つことが可能な足場が形成された。

 柱の様に各方向に配置された見張り塔で双眼鏡を覗いていたカリオストロが反応を見せる。

 

 

「アテナー」

 

「どうしました?」

 

 

 真下に佇むアテナに対しカリオストロは簡潔に述べた。

 

 

「敵襲ー」

 

 

 女神の表情が青くなった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

「何の為の弓訓練だよ」

 

「備えているのならまだしも…急襲されればやむを得ない」

 

「つってもな…まぁ雑魚とはいえ速ければ弓は当たらねぇし。しょうがないか」

 

 

 予兆なく迅速に攻めてきた魔物の群れに対し、アテナの下した判断は出陣。しかし街の人間は一切参加せず、アテナとエニュオ、そしてコーリスとカリオストロの4人のみである。

 理由は魔物自体は足が速いだけで弱い事。数が多い為、迂回される前に短期間で倒す必要があり、町の人間達が準備している暇が無い事。この2つが大きい。

 

 鎧等を使わないコーリス達は武器を持つだけで臨戦態勢に入れる為、直ぐに街の外に出て前方を伺うことが出来ている。2柱の女神も準備が完了する頃だろう。

 

 

「白い狼なんて余り見ないが、群れで襲ってきてるって事は明確な巣があるはずだ。エニュオに攻めさせれば力の一端でも見れるかもしれないぞ」

 

「どうせなら今見たい」

 

「まっ、いつも通りやろうぜ」

 

 攻めてきた魔物達は白い狼の群れである。数は20匹程であり、巨大で俊敏な様相。

 

 カリオストロが魔導書を開き、構えた。同時にコーリスが前方の群れへ駆け出し、上に飛ぶ。

 錬金術によって白狼達の足場が隆起し、群れの8割を上空に跳ね飛ばした。その先には先程飛んだコーリスの剣。

 

 

「ふっ!」

 

 

 微小の魔力を剣に込めて横に炸裂させ、目の前の魔物を全滅させる。これは破壊規模が大きいと批判を受けたコーリス達が考えた戦い方で、カリオストロ曰く『環境に優しい殲滅法』である。

 そして、残った2割の魔物はコーリスにではなくカリオストロに向かっていく。

 

 

「良い判断だ。オレ様以外ならビビったかもなぁ」

 

「ググッ!?」

 

 

 突如動きを止める白狼。当然である。自身の身体が棘状の大地によって串刺しにされているのだ。

 

 

「畜生に言っても解らないだろうが、錬金"術"だ。仕込んで遠隔で発動も出来るんだぜ。来世は空から攻めるんだな」

 

 

 ダメ押しと言わんばかりに貫通した棘を鞭の様に伸ばし、群れ全体を締め付け圧殺する。彼曰く、『効率的だが倫理的に優しくない殲滅法』である。

 

 

「匂いがする。2波が来るな」

 

 

 コーリスの予感通り、同じ魔物の群れが同方角から接近してくる。数は先程の2倍程度であり、攻め方も特段変わらない様に見えた。

 

 

「烏合だな。いっそオレ様が全部潰すか」

 

「いや──」

 

 

 彼等が空を見上げる。

 次の瞬間──木々を根幹から揺らす程の恐ろしい衝撃が大地に伝わった。

 

 

「遅れて申し訳ありません。逆方向を見張っていたものですから」

 

「エニュオさん」

 

 

 衝撃は上空から降下してきたエニュオによるものだ。地面に突き刺した大型の騎槍が波動を生み、目の前の群れを消し飛ばし──蹂躙した。

 

 

(なんつー馬鹿力。やっば単純な攻撃特化が能力か。今までの星晶獣に比べて攻撃性能が群を抜いてやがる)

 

 空の民を退けてきたカリオストロからしても、エニュオの攻撃力は目を見張るものだった。

 コーリスにとってはバジュラの斬撃という爆速理不尽即死攻撃を相手取っていた為か、多少は見慣れている様子。

 

 

「地形を乱さないように。エニュオ」

 

「分かっていますよ。数が多かったのでそうしたまでです」

 

 

 アテナも合流し、この街における最高戦力が揃った形になる。

 彼女の肩に乗っている使い魔のグラウクスが声を張り上げる。偵察の結果を報告しているようだ。

 

 

「…なる程。分かりました」

 

「何かありましたか?」

 

「この先の群れは100匹にも及ぶ数です。散開されて街に攻め込まれる前に此方から叩く必要があります」

 

「……この狼は目撃されていなかった筈ですよね?何処から湧いて……」

 

「細かい事は良いではありませんかコーリスさん。私達が元を根絶してしまえば問題はありません」

 

「の、のうきん」

 

「何か言いました?」

 

「いえなにも」

 

 

 やはり、静謐な淑女が巨大な槍を持って大地を揺らすという行為はギャップもあるのか、コーリスは恐怖していたようだ。無意識だが、エニュオの顔を直視出来ていない。

 

 アテナの咳払いが場を戻す。

 

 

「魔物とはいえ種の根絶は避けて下さい。知能があるのなら攻めてきた群れを還付なきまでに討伐する。それで数週間は恐怖心を植え付けることが出来るはずです」

 

「街の危機だぜ?少し優しすぎるんじゃねぇか?」

 

「問題ありません。皆さんがいますから」

 

「……ほんと、お前は清いよな。どっかの学会にも見習わせたいもんだぜ」

 

 

 カリオストロが鋭い石を作り出す。

 

 

「二手に分ける。百と正面衝突は無茶だからな」

 

 

 3人が頷き、群れの足音が聞こえる程に接近している事を感じ取る。

 カリオストロの声が響いた。

 

 

「コーリス!」

 

「せぃッ!!」

 

 

 生み出した石をコーリスが全力で蹴り飛ばす事による投石攻撃。その石は先頭かつ中心部の頭に突き刺さり地面と接触した。そしてカリオストロの指鳴らしに反応して大地と融合し、縦に大きな壁を作り出した。

 中心から割られる様に分断された白狼達は、そのまま二手に分かれ街を目指す。

 その先に立つのは──

 

 

「多勢に無勢…守ってくださいね?コーリスさん」

 

「多分必要ないと思いますが…はい、心がけます」

 

 

 コーリスとエニュオ。そしてもう一方。

 

 

「なんか攻守のバランス悪くねぇか?」

 

「私もそう思います。ですがエニュオがコーリス殿の方に行ってしまったので…」

 

 

 カリオストロとアテナ。

 3通りある2人の組み合わせの中で、最も偏った組み合わせを引いてしまったと言えるだろう。現在防壁が使えないアテナだが、本来は守護の星晶獣である為、程よく攻めることが出来るコーリスかエニュオとのペアが理想だった。

 しかし、この懸念は街に侵入されることであって、この魔物達を相手取る事自体は造作もないのだ。

 

 

 この小さな街の外で苛烈な戦いが始まった。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

「行きますよ…!」

 

 

 エニュオが両手で槍をかち上げるかの様に振り上げる。斬撃を思わせる衝撃波が敵陣を縦に両断し、後方に位置していたコーリスでさえも強い風圧を感じた。

 

 

「ハァッ!」

 

 

 そしてコーリスは槍の一撃後にすかさず自身の技で以って、炙れた敵を薙ぎ払った。時間差はあるが、十字状の攻撃によって相手の回避は難しくなる。

 しかし先程の分断攻撃と同じ光景故か、相手は斜め前方に低く飛び、懐に潜り込む様な動きを見せた。

 先頭の狼がそう動けば、後方の狼がその動きを模倣するかの様に動くのだ。統率された軍隊を思わせる動きに、コーリスは何故か不快感を覚えた。

 

 

(範囲攻撃にも限界があるな……なら!)

 

 

 コーリスは静かに掌だけを天に向けた。

 彼の喉元に数十匹の白狼が飛びつかんと脚に力を入れたその時──手元に杖が出現した。

 エニュオが驚きを隠せず目を見開く。

 

 

(よし、通じた!コスモスさんありがとう)

 

 

 杖は携帯に困った為、ゾーイがコスモスの座標に送り込んで任意で取り出すという手段を取っていたが、常に彼女がコーリスの側にいるとは限らない為、その手段を簡略化する事にした。

 それは、コスモス自身がコーリスの合図に応じて杖を送り出すという物。はっきり言ってしまえばパシリである。調停者として彼から目を離す事が出来ないコスモスの立場を利用したもの。

 余談だがこの方法を考案したゾーイは数日の後に拳骨を食らった。

 

 

「──ケーニヒ…ゲフェングニス」

 

 

 出力と精密性を増強する杖によって構成された防壁の大群は、白狼達を外から押し込み一つの檻としての形を取った。圧殺には及ばないが、身動きが取れない程度の圧力を継続させる捕縛技だ。

 

 

「今です。打ち込んでください」

 

「──良い的ですね、これは」

 

 

 エニュオが大きく足を踏み込み、槍を短く持つ。

 穂先には暴風の如きエネルギーが渦状に脈動を続け、先端に収束した瞬間に彼女は肩を振るった。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 一突き。それだけでコーリスの魔法ごと敵の群れは消滅し、背後には風穴が空いた森と倒れ付す木々。生命の軌跡も残さずに粉砕する破壊力──周囲を荒れ果てた自然へと変貌させる一撃がその威力を物語っている。

 

 

「ひ…」

 

 

 コーリスは杖を両手で抱えながらその光景を見る事しか出来なかった。

 明らかに人外魔境。自身の盾が何枚割られるか想像しただけで鳥肌が立つと、引きつった頬で目を逸らした。範囲は兎も角、貫通力に関してはゾーイ超えもあるのでは無いかと疑う程には理不尽な物だった。

 そして彼に近づくエニュオ。

 

 

「え」

 

「この杖…防御魔法を更に高める用途ですか。面白いですね」

 

 

 コーリスの手を巻き込んでガッシリとエニュオの右手が杖を掴んだ。

 

 

「え、え…なんです急に」

 

「突然現れたので驚きました。何処からこの杖を持ってきたのです?」

 

「秘密です…」

 

「あれ、来た時はあんなに私を疑っていたのに……」

 

 

 彼の耳元で囁く。

 

 

「貴方も隠し事をしてしまうのですね……?」

 

「怖いです」

 

 

 案外、エニュオはコーリスをからかう事を気に入っているようだ。

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

「あ、森だからお前火使えねぇのか」

 

「はい」

 

「パラディオン作ってる途中だから防壁も使えないのか」

 

「はい」

 

「帰れ!!!」

 

「理不尽な!?」

 

 

 案外カリオストロは焦っていた。アテナは能力が使えず、現在は身体能力が高いだけの人間と変わらない。加えてカリオストロの戦闘スタイルは地形の操作による足止め。火力はあるものの自然そのものによる防御では強度に限界がある。

 殲滅戦にも防衛戦にも対応出来るが、秀でているのはその両方ではなく、敵への撹乱なのだ。

 

 

「ちっ…仕方ねぇ。コーリスに頼むか」

 

 

 大地の棘、槍と盾でチクチク応戦している二人は火力不足を痛感した。何故ならカリオストロの奥義は溜めがあり、ウロボロスと自身の錬金術を併用していても隙間を通してしまう可能性があるからだ。

 だから、彼はコーリス側の地面に合図を送った。祈望の騎空団は錬金術によって様々な形の物体を作り、それを信号として使う。

 

 待つ必要も無く、壁越しに数本の光線が正確に魔物達を貫いた。

 カリオストロは気持ちのいい笑顔を見せる。

 

 

「やっぱオレ様コーリスがいい。一家に一人」

 

「壁抜き……音で感知したのですか」

 

「さあな」

 

 

 そういえば霧のことを言っていなかったと思いつつ、頭上に飛んだ残りの一匹を見上げるカリオストロ。対空には周囲を利用した錬金術の使用が困難な為、贅沢だが小規模のアルス・マグナの使用を考えた。

 

 しかし、次の瞬間にはその魔物の身体は手足の先端を残して消し飛んでいた。

 

 

「…………は」

 

「あれは…」

 

「何か見えたのか?」

 

「エニュオの槍…ですね」

 

 

 何も見えず、魔物が突然弾けたかの様に見えた。

 実際は巨大な風穴が空いた故であり、恐ろしい速度で槍が空へ飛んでいったのをアテナは辛うじて視認した。

 続いて四人を隔てていた壁が崩れ、支援した二人が歩いてくる。

 

 

「どうやって魔物達の位置を把握したのですか?気になります」

 

「企業秘密です」

 

「秘密ばかりですね。そんなに隠されると心が傷付いてしまいます」

 

「じゃあ能力教えて下さい」

 

「秘密です」

 

「…」

 

「実際見ての通りですよ。それに、秘密を持つ女性は魅力的だと聴きますし…」

 

「それはミステリアスな雰囲気の女性が人気なだけであって……普通に人に誠実な方が性格的に好かれてますよ。男も一緒です」

 

「ふふっ。では貴方はモテていないのですね」

 

「ッ……………………」

 

「そこまで落ち込むとは思いませんでした」

 

 

 掲げられたエニュオの右手に槍が戻る。

 先程の一撃は、空中の魔物を槍の投擲で以って撃破したという事である。

 それを察したカリオストロは死んだ目で息を吐いた。

 

 

「オレ様の周りにはゴリラしかいねぇのか」

 

「彼女は攻撃特化ですから」

 

「いやお前も3体くらい一気に薙払ってたの見たからな?まさか物理でゴリ押すと思わなかったわ。普通小出しでいいから火を使うだろ」

 

 

 魔物の気配が感じられなくなった事を確認し、4人は駄弁りながら街へ戻った。

 

 

 

 

──────────────

 

 

───その夜。

 

 

「アテナさん。話が」

 

「コーリス殿にカリオストロ殿。どうしました?」

 

「今日の魔物の出処についてだ。改めてオレ様達が森の深部に至るまで捜索したんだが……どうにも、昼の狼どころか他の魔物の巣の痕跡が無くてな」

 

「魔物自体はいたのですか?」

 

「街へ行きそうな奴はいなかったが、まぁそこら辺で見る様なのはいた」

 

「……その割には大群の白狼でしたね」

 

「何か不可解な事象です。警戒しておきましょう」

 

「そうですね…捜索、感謝します」

 

 

 昼から夕方にかけて二人が行った捜索では、魔物こそ発見すれど…大規模な群れが生活した痕跡は無く、遠くから攻め入った際に見られる荒れも少なかった。

 百を超える巨大な狼が、それ程までに穏便に生きているのだろうか。

 

 続けてカリオストロが話す。

 

 

「それと、エニュオの能力ってなんだ?」

 

「彼女の能力ですか。名と戦闘の通り、尽くを破壊する圧倒的な火力と身体能力ですよ」

 

「…そうか。分かった。サンキュ」

 

 

 指令塔を後にしたカリオストロは唸った。

 

 

「…どうした?」

 

「いや…何、エニュオは破壊と蹂躙の星晶獣だったな」

 

「うん」

 

「……星の奴等が、星晶獣の能力に対してそんな表現をするかね」

 

「どういう事だ?」

 

「あいつ等は合理的で感情を理解しなかった。エニュオが攻撃性に特化した星晶獣なら、"力"とか"戦闘"を司る星晶獣にする筈だ」

 

「…?」

 

「少なくとも、戦闘風景を見て"蹂躙"って言葉を態々当てはめる程の表現力はねぇ。破壊は兎も角…蹂躙ってのは星にしては単純に悪辣過ぎる」

 

 

 星の民を知らないコーリスにとっては理解に困る話ではあった。

 だから、彼はただ…これ以上誰かを疑うのは疲れると自覚しただけに留めた。

 

 

 






アテナ
・パラディオンに守護の力をほぼつぎ込んだ為、力は発揮されず、現状は炎しか使えない。もしパラディオンが完成すれば防壁も使える様になるが、本来の力とは程遠い強度である。


エニュオ
・圧倒的な攻撃力を持つ。
・コーリスに対しては、アテナの次にからかいやすくて気に入っている。
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