幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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エニュオって何か書いてて楽しいです。
いや胸糞は嫌いですどね…分かりやすい悪って好きなんですよ。分かり合えないタイプの


60.どうして?

 

 

「なぁ…」

 

「ん?」

 

「2日くらい経ったけどよ、やっぱあの街気になるよな」

 

「………そうだなぁ」

 

 

 アテナの依頼を達成して2日の夜。

 コーリスとカリオストロはノアが操縦するフロンティア号の居間にて寛いでいた。

 ゾーイはかなり遠方の島にまで名を売っている様で、帰ってくるのは明日の予定だ。

 

 

「唐突に現れた魔物も気になるし…パラディオンがあれば大丈夫だろうけど」

 

「危機が去ったとは言いにくいだろうな。まぁそんな事もあろうかとオレ様が一つ手を加えてやったんだよ」

 

「なんだ?」

 

 

 カリオストロは指先サイズの光る球体を懐から取り出し、机に置いた。

 

 

「錬金術とは少し離れるが、土を媒介にした反応装置とでも呼ぼうかね」

 

「反応…?」

 

「あの街にはオレ様が堅くした壁があるだろ?内側のラインに沿って地面に何個か術を埋め込んだ」

 

「まさか情報の盗聴──」

 

「そんな都合のいいもんじゃねぇ」

 

 

 彼は一つだけ光ってない球体を指差した。

 

 

「埋め込んだ術に強い衝撃が当たると、その術に対応した玉の光が消えるだけだ」

 

「なる程。消え方で危機の有無が良く分かるな」

 

 

 一つ一つじわじわと消えたら侵攻、全部が一気に消えたら爆撃、大雑把だが少しの考察は可能。

 しかし、問題なのは必要な衝撃の度合いだ。

 

 

「どれくらいの衝撃で壊れる?」

 

「この前の白い狼が指標だな。走って大地がほんの少し揺れる程度…まぁ、人が暴れても意味が無いくらいの衝撃だ。それと、小さな揺れでも継続すれば反応する様細工してある。弱い奴らが群れで来てもいいようにだ」

 

「空からは?」

 

「無理だな。それはパラディオンと弓に頑張ってもらうしかねぇ」

 

 

 カリオストロは一つだけ光が消えた玉を指で転がす。

 

 

「これは実験用に使った物だからな。今の所あの街は無事だと言える」

 

「なる程」

 

 

 錬金術じゃなくとも、土属性が絡めば絶大な規模の魔法を発動出来る開祖に驚きながら、コーリスは玉を見続けていた。

 なんとなく。本当になんとなく。

 

 

「なー。なんか夜飯作ってくれよ」

 

「いいが…また夜通し研究するつもりか?」

 

「まぁな。ウロボロスに少し施しを───」

 

 

 ──消える。

 

 

 

「………マジか」

 

「いきなりか…」

 

 

 懸念していた状況が発生した。玉の光が2つ潰えたのだ。

 街の一部に魔物が侵入してしまったと推察できるが…次の瞬間──。

 

 

 

「は────?」

 

「─────」

 

 

 

 全ての光が、微小の時間差と共に消えた。

 

 

 

「──緊急事態だ。カリオストロ、行くぞ」

 

「分かってる。ノアに伝えておく」

 

 

 どうやら──街の平穏には程遠い事態が発生しているらしい。

 コーリスは剣と杖、そして刀を。カリオストロは魔導書とウロボロスを。

 

 

 ゾーイが不在のまま、二人は殲滅用の装備で街へ向かうのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 事情を察知したノアが艇を早急に出し、操縦に乗り出して数十分。

 艇から島が見える程には接近していた。

 

 

「ノアさん、この後は島の外縁で待ってて下さい。必ず帰ります」

 

「…僕も戦おうか?」

 

「いいえ。ノアさんにはもしもの時に街の人を乗せて逃げてもらいます。恐らくは…」

 

「うん…無事を祈っているよ」

 

 

 最終的に艇を降ろすには時間がかかる。だから、付近に近づいた瞬間にコーリスは飛ぶ事を決意した。

 船の甲版に立った彼はカリオストロを腕に抱えて大地を見下ろす。

 

 

「行くぞ。口は閉じてろ」

 

 

 カリオストロは無言で頷き、コーリスは足に力を入れた。

 

 

 

「──ッ!!」

 

 

 全速力で前方へ駆け抜け、一息で飛ぶ。

 足から魔力を噴出。風の抵抗を感じながらも槍の様な鋭さを以て前方へ降下していく。

 

 

「こ──これキッツ………!!」

 

「舌噛むぞ!!」

 

 

 やはり、即興の技術とは拙い物であるのが定石らしい。彼はゾーイが行う高速飛行を参考に行ったのだが、出力のバランスを誤ると体が崩れ、加減を誤ると空気圧に潰される。

 空中に魔物がいない事は幸運だが、カリオストロにとっては島に着く前に死ぬ心地だった。

 

 そして、焦った甲斐もあり、既に馴染みのある防壁が視認できる程近づいた。

 だが──足りないものが一つ。

 

 

(……パラディオンが消えている、だと)

 

 

 恐ろしい硬度の壁を量産出来るコーリスだからこそ感じ取れた、絶対的な防壁。それを魔物が破壊できるとは思えない。ましてや数が関係せず、絶大な破壊力を持った一撃が必要なら尚更無理な話だ。

 自然に生まれた生命体には不可能と断言できる程に。

 

 

(つまり…壁の素となる球体──パラディオン本体を壊された可能性が高い。それか、アテナさんが再起不能になっているケース)

 

 

 パラディオンを展開している球体は厳重に保管されております、その場所は"神殿"と呼ばれている。

 アテナやエニュオの許可が無ければ絶対に立ち入る事ができない聖域。侵入されて壊されるという状況を彼女達が許す訳が無いと、コーリスは考えた。

 

 

(エニュオさんが出張している隙と言っても、パラディオンと街の防壁を抜けて、更にアテナさんを相手取れる訳がない。やはり内側から………)

 

 

 一瞬。ほんの一瞬だ。

 

 

(…………………)

 

 

 奇遇にも二人の頭には、エニュオの顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 島が、街が近づく。

 言葉は無かった。二人は見たのだ。家屋が破壊され、森が薙ぎ倒され、血が滴り落ちている戦場を。

 街の隅々まで蹂躙している大量の白狼を──。

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 着地と同時にコーリスは盾を展開。カリオストロはウロボロスを周囲に巡らせ感知の役割を担わせている。

 空中から直接街に降下した彼等の周囲には、既に白狼達が取り囲む様に位置を取っている。

 

 

「こいつ等…やはり突然現れるな。星晶獣か?」

 

「にしては一体一体が弱過ぎる。かと言って魔物にしては特異すぎる。召喚物や能力による付属品と思った方が良さそうだ」

 

「つまり、だ。こいつ等を生み出した奴がいる」

 

「……それだけなのか」

 

 

 不可解な点が大量にある。

 まず、防壁を壊された形跡が無いこと。次に、家や施設、監視塔に至るまで殆どの建物が壊されているのに対し、人間の姿が見つからない事。声すら聞こえない。

 だが、後者の疑問は直ぐに解消された。純粋に生きている人間がいないのかもしれないからだ。

 

 

「血の匂いも薄い…只の破壊活動か」

 

「何方にしろ殺す。それだけだろ?」

 

「ああ」

 

 

 二人が戦意を滾らせる。それに呼応して白狼達が一斉に襲いかかるが──

 

 

「お待ちなさい、キュドイモス」

 

 

 その声によって一瞬に動作を中止し、その場に待機した。

 

 

「……………どう、して」

 

 

 先程の声は、いつも聞いた声だ。

 コーリスにとっても、カリオストロにとっても、何処か安心出来ない声であったが、ここでの日常を過ごす内に慣れていった……透き通る声。

 戦よりも、武器よりも──花が似合う。そんなイメージを抱かせる程の清純さ。決して、今の様に荒廃した花畑に立つ人物では無かった。

 

 

「エニュオ、さん………」

 

「はいっ!」

 

 

 エニュオが、血塗れの花畑で踊っていた。

 

 

 

「思ったよりも早くに来て頂いて嬉しいですよ。コーリスさん」

 

「……最初から、こうするつもりだったのですか?」

 

「おや、現実逃避をしないのですね。あちらの街では私の逆鱗に触れたと勘違いした村長が生贄を──」

 

「話を逸らすなッッ!!!」

 

 

 コーリスの目にやっと映った人影。それは、エニュオの足元に転がる小さな物体。

 ()()()()()()()()()()子どもの身体。

 防御魔法を教えた子供の内の一人だった。

 

 

「ええ、そうですよ。最初からアテナの作ったこの街を壊す予定でした。大きく育ちましたからね、それなりに時間はかかりましたが」

 

「子供まで…ニコロを殺してまで………!!!」

 

「子供達だけではありませんよ?皆、逃さず殺して差し上げたのです」

 

「何故そんなにも楽しそうに…っ!」

 

「人を快楽殺人者の様に言わないで下さい。私の目的の為には街の人々に死んでもらわなければならないのです。ああ…いえ、そうですね…目的達成というには語弊がありますが、より良い効果を見込めると思ったので、という感じです」

 

 

 会話は成り立っているが理解は及んでいない。

 少なくともコーリスが感じたのは、エニュオが確固たる意志を持ってこの凶行に及んだという事と、そもそも人の命に何の価値も見出していないという事だった。

 

 

「真面目に答えるとすれば…性質のせいでしょうか」

 

 

 コーリスが剣と杖を構えた時、エニュオはひとりでに語り始めた。

 カリオストロはそんな彼女を強く睨む。

 

 

「破壊と蹂躙の星晶獣。私は何かを壊し、蹂躙し、踏みにじる事こそ本懐でした。かつてはそんな自分は正しく無いと思って、色々良い事をしてみましたが…つまらないのです」

 

 

 辛い過去を吐露する様に、彼女は両手で胸を抑えて語り続ける。

 

 

「だって、幸せな人間や魔物が態々生きる事を辞める訳が無いでしょう?だから私は星晶獣の性に従って、全てを蹂躙する事を認めたのです。食欲や生存本能と一緒ですよ。私は他者を嬲る事で生きているのです」

 

「…途中で踏み留まれた筈です」

 

「躊躇うも何も、壊す為に育てていたので」

 

「…………そうですか」

 

 

 人の言葉を話す害虫。彼は、そんな表現を使う日が来るとは夢にも思わなかった。

 

 

「とはいえ、壊すだけの為に何年も我慢する程無欲ではないですよ」

 

 

 言っている意味が分からない。

 

 

「アテナです」

 

「は?」

 

「アテナの為に街を育て、壊したのです」

 

 

 周囲の狼──キュドイモス達は動く気配は無い。

 自我はあるが、動作はエニュオの支配下にあるらしい。直接操る物ではなく、服従しているという事だ。

 

 もはやエニュオの語りは誰の耳にも届いていない。否、耳には届いていても、理解されない。理解を求めていない。

 今まで自分は我慢してきたのだという自慢に近い。

 

 

「私に破壊と蹂躙の性がある様に、アテナにも味方を守護するという性が備わっていました」

 

「…」

 

「まぁ、見ての通り生真面目なので…人間の為にならないだとか、過干渉は良く無いとか、色々言っていましたが、最終的には罪滅ぼしのつもりだったのでしょうね。今無駄になりましたが」

 

「楽しいですか………!」

 

「はい。楽しいですよ?だって、アテナの望みは何百年もの積み重ねです。そのパラディオンによって成就された街の救いを……私が見事破壊して差し上げたのですから!!」

 

「オイ──」

 

 

 ここでようやく、カリオストロが口を開けた。

 

 

 

 

「テメェ死んだぞ、サイコ女」

 

「──!」

 

 

 元よりコーリスとカリオストロはエニュオの話など聞いていない。この惨状を引き起こした張本人という情報が確定した瞬間、既に用意していた。

 

 

(出力最大──(フォグ)!!)

 

 

 コーリスの杖から瞬きする間に霧が充満する。その速度は、風と勘違いする程に洗練されていた。

 第三段階の霧。それは敵の記憶を飛ばすという代物。霧の弱点であった、相手の強固な意思で弾かれるという部分は初見殺しの後に仕留める事で補うしか無かった。

 そして、その対策の為に鍛えた霧の放出速度。霧そのものに()()()()()()()()()速度特化の魔技。

 その効果は、相手が反応出来なければ必ず通る。意思を固める余裕を齎さないからだ。

 

 

「──?」

 

 

 エニュオとキュドイモス達の思考が止まる。その一瞬は彼女の足元に隙を作った。

 

 

「ウロボロス!!」

 

「なっ──!」

 

 

 地中から彼女の足元に出現したウロボロスが、エニュオの胴体に齧りつく。腕ごと拘束された彼女は、傷は負わないまでも槍を振れない。

 周囲の狼も即座にコーリスに襲いかかるが──

 

 

「座標特定──」

「四元集中──」

 

 

──両者の奥義が既に発動していた。

 

 

「ガンマ・レイ!!」

「アルス・マグナ!!」

 

 

 霧によって、ピンポイントに標的を特定し、杖を用いてその足元から魔力で焼き焦がすガンマ・レイ。

 そして、4元素のエネルギーを炸裂させるアルス・マグナ。

 

 普通の星晶獣ならば既に再起不能になっている規模だ。現に狼達は跡形もなく消滅している。

 だが───

 

 

「──少し、評価を改めましょう」

 

「…チッ。ウロボロス!離れろ!!」

 

「私を簡単に壊せるとお思いですか?自らの弱点は把握していますよ」

 

 

 エニュオは防御についての特殊な能力は持ち合わせていない。

 ただ圧倒的な破壊力と──そして。

 

 

「私にも壁くらいは作れます」

 

 

 召喚したキュドイモスによる数の暴力──蹂躙

 

 

(やはりオレの読みは間違ってなかった。星の奴等が適当な二つ名を付ける筈がねぇ。そこそこの強さと大量に召喚できる特性から、蹂躙か)

 

 

 エニュオは破壊と蹂躙の星晶獣。

 破壊とはエニュオの槍、蹂躙とは召喚されたキュドイモス。彼女はアテナと同様、2つの能力を持ち合わせていた。

 先程の攻撃を防いだのは、召喚された群れによる肉壁である。

 

 

「……あら?」

 

 

 エニュオは背後を見る。しかし誰も立っていない。

 彼女の疑問は一つだけだ。

 

 

「コーリスさんは何処へ?」

 

「さーな」

 

 

 どの段階の霧にも付随する感知能力、それによりコーリスが感じ取った物は──数名の生存者。

 エニュオが放った皆殺しにしたという言葉は、彼女の目の届く範囲で直接やった事だろう。現に、街の全てを覆い尽くすキュドイモスが逃げた人間達を殺している。

 無論死体も感知したが、今のコーリスはその事実を封殺して噛み殺し、救出に向かっている。

 エニュオやキュドイモスが気付かない場所──家屋の下敷きや、瓦礫の裏へ。

 

 

「さて、と」

 

 

 カリオストロが前方を見据える。

 その表情は複雑で…口角は上がっているが、瞳孔は開き切っており、目は笑っていないという表現を使う事すら憚られる程の気迫。最早威嚇に近い。

 

 

「こうなった原因はオレにある訳だ。お前と初めて会った時の疑いを捨てて、アテナと一緒に信じちまったんだからな」

 

「恥じる事はありませんよ?長年付き添っていたアテナも気付きませんでしたから」

 

 

 彼は下を向き、乾いた笑いを浮かべた。

 

 

「……"街の事を想っている"、"アテナの目的の成就を願っている"…お前はそんな事言ってたよな。まさか壊す為に育ててたなんて……はは、確かに嘘は言ってねぇもんなぁ…」

 

「随分喋りますね。私としてはコーリスさんを曇らせる方が楽しいのですが…。アテナよりは現実を見ていますが、若々しい夢が砕ける瞬間というのは趣がありますし」

 

「…」

 

「カリオストロさんは…冷酷という訳ではありませんが、何かに屈する事は無いでしょう?そうなってしまえば私と貴方の間に起こるのは只の戦いです」

 

 

 エニュオは暗に、カリオストロなぞ相手にならないが、蹂躙に値する悲痛な表情が見れない事への退屈を吐露している。

 だが、コーリスも含め、カリオストロの本気を誰も知らない。

 

 

「勝った気でいんなよ──糞虫風情が」

 

「…!」

 

 

 カリオストロの魔力がうねる。

 土を主体とし、周囲の元素との共鳴を果たした彼の力は相当な物であり、その空間は揺れ響く。

 彼の怒りに呼応する様に、ウロボロスが叫ぶ。

 

 

「ウロボロス、そいつは食わなくていい──潰せ」

 

「……ふふ!」

 

「潰された蟻みたいに、砂利みたいに殺して……この世にいた痕跡を絶対に残すな」

 

「まぁ、そこまで怒ってくれるなんて」

 

 

 エニュオはキュドイモスを再び呼び出し、共にカリオストロへ駆け出す。

 それに対し、彼は足で大地を()()()()()

 

 エニュオは眼前に迫る地盤を槍で切り裂き、目の前のウロボロスと相対する。

 

 

 

「──悪いが、形振り構わず消させてもらう。死ね」

 

「可愛いお顔が台無しですよ?」

 

 

 

 開闢の錬金術師、カリオストロ。

 都市の破壊者、エニュオ。   

 

──両者、激突。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






コーリス
・エニュオの本性には心の底から動揺したが、子供の死体を見た瞬間スイッチが入り、その時から既に殺す為の動きをしていた。
・アテナの安否だけは分かっていない。
・ブチギレて発狂したい気分を無理やり抑えて救助に望む。次にエニュオと対峙した時には弾ける。

カリオストロ
・一番真っ当にキレてる。
・エニュオを疑い切れなかった後悔もある。
・コーリスが来る前にエニュオを殺す気。

エニュオ
・最初から街を壊す為に街を想い、アテナの夢を砕きたいが故に手助けをしていた。
・アテナは主菜。コーリスは副菜。街の人々は香辛料。カリオストロは口直し。

キュドイモス
・以前街の外にも現れた巨大な白狼の群れ。身体能力は高め。
・エニュオが任意で召喚し、使役できる。
・自我はある為、霧は効く。
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