幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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評価ほしいなーチラッチラッ


63.エニュオの薄暮

 

 

 

 分かっていたはずだ。

 

 

『おいガキ。オレ様を仲間にしたといっても顎で使えると思うなよ。無償の人助けなんてやらねぇからな』

 

『そうか』

 

『…本当に分かってんのか?』

 

『そういう言い方をする人間には沢山会ってきたんだが…皆、最終的には人を助けてしまう』

 

『くだらねぇ。そこら辺のツンツンキャラと一緒にすんじゃねぇよ』

 

 

 カリオストロは優しい奴だって、分かってたはずだ。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「あははははははは!」

 

 

 

 廃墟の空に悪魔の愉悦が響き渡る。

 

 

 

「そんなものですか!?」

 

「舐めるなァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 一点に突撃するエニュオに対し、剣でその槍を弾き飛ばそうと振りかぶるコーリス。彼はアルミスを庇ったカリオストロをこれ以上壊させない為に、戦場に空中を選んだ。

 現時点で、彼は盾を足場にして展開しているという事。

 

 しかし、設置型の技や後出しの初見殺しで対応出来ていたカリオストロと違い、コーリスは正面からエニュオと相対しなければならない。

 最終手段として記憶を奪う霧、濃霧(オブリビオン)があるが、星晶獣に使った場合、その一部であろうとも数百年に渡る濃密な記憶を取り込みかねない。そうなった場合に待つ運命は廃人化。

 

 やはり物量対物量の戦いになってしまうのか。

 

 

「キュドイモス!」

 

「っ…ハァ!」

 

 

 エニュオはコーリスの剣に触れる間際、キュドイモスを召喚して刃を噛ませた。

 一瞬動きが止まるコーリスに対し、彼女は背後に回り込んで右腕と背中の服を掴む。

 

 

「いっきまーす、よッ!!」

 

 

 彼女はコーリスを地面に向かって投げた。

 

 

 

「…こふ」

 

 

 勢いがつく前に盾によるクッションを作ったが、衝撃を殺しきれず吐血。

 全身に伝わる衝撃が彼の意識を弱らせ、その間にもキュドイモス達が包囲を開始する。

 

 

 

(召喚さえできれば無尽蔵…馬鹿げてる)

 

 

 魔力を込めて薙払えば蹴散らせる存在ではある。しかし、隙を作る度にエニュオに攻められるのであれば絶対に勝てない。ジリ貧どころか一回で消し飛ばされてもおかしくは無い話だ。

 

 

(…時間を稼いでカリオストロだけでも、いや、エニュオをここで殺せなければ全てが終わる!)

 

 

「ごめんなさい、アテナさん」

 

「心配せずともアテナは悲しんでくれますよ」

 

 

 コーリスは覚悟を決めた。

 死んでもエニュオを倒す。彼の持てる全ての魔力と技術を使う。

 

 

 その為には…街を更に壊してしまうだろう。

 

 

 

(…!今まで感じたことの無い魔力の高まり…本気ですね?それが貴方の選択ですか)

 

 

 エニュオも同じく槍に力を込めて構える。数十のキュドイモスと共に駆け出す準備は出来ている。

 

 

 

「破壊と蹂躙の星晶獣──エニュオ」

 

「殺戮者に名乗る筋合は無い──征くぞ」

 

「連れない人…その顔を歪ませてあげましょう」

 

 

 

 矛と盾。破壊者と守護者。

 

 

──これが『守護と破壊のモノマキア(決戦)』と呼ばれる戦いの始まりであった。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「ぐ、はぁ、はぁ……あ!」

 

「カリオストロさん!」

 

 

 

 地上にて、カリオストロは這っていた。

 エニュオの槍から放たれた光線、その直撃により彼の左腕は根本から抉れる様に消失していた。他にも左側の腰、脇腹、ほんの少しの頬が消し飛ばされており、身体の強度を度外視した被害を受けたのだ。 

 

 

「私の、せいで」

 

「んな事…いって、る場合か…!!」

 

 

 カリオストロは自分でも分からなかった。たかが弓が上手いだけの子供を無意識に助ける自身の人間性が。

 故に、その解らない事を考えている暇を捨て、コーリスが相対するエニュオの事を第一にした。

 

 

(破壊の力…オレの身体の硬さでも消し飛んだなら概念系……いや、ダメージの段階に差があったな)

 

 

 カリオストロの身体は急所である程固く、対魔力も優れる様作られている。頭部や胸部、首は剣で貫けない硬さである。

 先程食らった光線は、腕の付け根は一瞬で削ったものの、胴体付近は少しの時間を要した。

 

 

 そこから導き出される答えは──

 

 

()()()()()()()()…!エニュオの"破壊"は触れている物を最終的に破壊する攻撃!対象の硬度によって時間差はあるが、技を浴びている限り森羅万象尽くが壊される…!)

 

 

 概念攻撃ではある。だが、あらゆる物を一瞬で壊すものでは無く、硬度に左右されるものである。

 例えば、恐ろしく硬い鉱石は壊せるが時間はかかるし、逆に人体程度であれば紙屑と同じく一瞬だ。

 

 

(コーリスに必要なのは盾の量じゃねぇ…硬さと厚さだ!それさえあればあの光線から逃げる時間を稼げる……あいつの魔力量なら受けきれる可能性もあるが……)

 

 

 コーリスなら対策は出来る。しかし、問題は彼が能力の仕組みに気付くかどうかだ。

 多数の盾で威力を分散などと考えた瞬間に全てが終わる。纏めて貫通し、風穴オブジェの出来上がりだ。

 

 カリオストロは死に体に鞭打って力を行使した。

 

 

 

「ウロ、ボロス…操作権をお前自身に返す」

 

「■■……!!」

 

「その、ガキを…ノアの元へ連れて行った後……コーリスの元へ行け…!」

 

「■■■■!!」 

 

「分かってる……死にはしねぇよ……だが、コーリスが……コーリスが、だ」

 

「待って…!カリオストロさんは!?」

 

「どの道お前には何も出来ねぇよ…。黙って祈ってな、アルミス」

 

 

 ウロボロスは主の命令を遂行する。尾でアルミスを縛り早急にノアの元へ移動する。

 

 

 死にはしないと断言したが、カリオストロは根拠の無い断言が一番嫌いだ。

 らしくない事をしてしまったと溜息をつく。

 

 

「……は、は。こんな事……しなけりゃもっと楽に勝てたのに……」

 

 

(馬鹿だ。ガキを助けて戦いを窮地に追いやる事も、ガキを見捨ててそのまま勝つのも。くそ、クソ)

 

 

 カリオストロは今の自分が出せる力を振り絞って術を行使する。

 

 

「わりぃなアテナ…街の奴ら…。死体のねぇとこ使うからよ……」

 

 

 指先から土元素へ。土元素から大地へ。大地から空へ。

 

 

 

「お誂えの戦場だ…暴れろ、コーリス」

 

 

 その瞬間、防衛街の大地が膨れ上がる。

 

 

 

 

「…お前は強い子だからな。頑張れよ」

 

 

 

 そうして、カリオストロの意識は消えた。

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

「…!」

 

「これは…」

 

 

 大地が、街が地上から削り取られている。

 空中で戦っているコーリスとエニュオの元へ浮上する広大な地は、まるでそこで戦えと言っているかの様に、彼等の足元で止まった。

 

 

「足場…?」

 

「カリオストロ……」

 

 

 コーリスは意図を察した。()()()、と。

 

 

「………了解」

 

「……!」

 

 

 コーリスは大地に魔力を流した。 

 足元からのガンマレイ。戦いの初めに使った意識外からの攻撃。

 当然エニュオは避けようと後ろに飛ぶが…。

 

 

「…………」

 

 

 足元──否、そんなものでは無い。 

 大地そのものが魔力を吹いている。活火山の様に、彼等が踏みしめる大地全体が攻撃範囲。

 

 

「くっ……!」

 

 

 エネルギーの奔流に身を焼かれながら、更にキュドイモスを焼いた光も彼女の元へ合流し、光線の標的は一点に集中する。

 

 

「が、あ………」

 

「ハァ!!!」

 

 

 槍を振って攻撃を消そうとしていたエニュオに迫るのは剣と杖。手数の差はコーリスに軍配が上がる。

 当然防ぐのは剣。ならば杖をどうするか。

 

 

「シィ──!!」

 

「させません…!」

 

 

 灰の祓杖は高重量の杖。鈍器としても使用できる様作られたコーリス専用のメイスとも言える。

 その打撃は敵の頭蓋を砕かんと襲いかかったが、エニュオは杖の持ち手を左手で受け止め先端を止め、足でコーリスの腹部を蹴る。

 

 しかし──。

 

 

(───鉄?)

 

 

 彼はピクリとも動かない。エニュオの身体能力は彼と同程度の筈だったのに、だ。

 

 

「砕けろ!」

 

「!」

 

 

 虚を突かれたエニュオの腹部に剣と杖の柄頭が突き刺さる。

 

 

「ガフッ………!!」

 

 

 衝撃に耐えきれずエニュオの身体が高速で吹き飛ぶ。

 それに並行して追撃を試みるコーリスは彼女を更に蹴り飛ばす。

 

 

「ァ…!!」

 

 

 大木に激突して動きを止めるエニュオ。

 彼女の左右に巨大な盾が出現する。

 

 

(まさか…!!!)

 

 

 そう、挟み殺すのだ。

 

 

 

「ウ、オォォォォオォァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 両手で杖を握りしめ、全力の魔力を注いで盾を動かす。2つの壁の様なソレは、エニュオに立ち上がる隙を与えず押し殺しに迫りだした。

 

 

「ぐ、が……ううう!!」

 

 

 当然エニュオも槍の側面と肘で迫りくる盾を受け止める。恐るべき力。魔力で更に強化された素体がコーリスの盾と競り合っている。

 だが、長くは続かない。

 

 だからこそ、遂に──エニュオは切り札を切る。

 

 

「ハァァァァ!!!」

 

 

 先程カリオストロに放った光線──破壊の光線を槍から放出し、薙ぎ払う事で壁を消した。

 

 

(…見せたな、破壊の能力!)

 

 

 コーリスは既に破壊の能力を疑っていなかった。カリオストロを一撃で倒す威力なのだ。元より完全防御など考えられない。

 ならばどうするか。回避か、盾で時間を稼いでその間に回り込むか。

 

 

(いや…回り込みは駄目だ。槍の全方位刺突がある)

 

 

 コーリスの魔力量は一般的な魔法使いの32倍。彼は霧の放出と共に元素を吸収し、上限を超えさせると共に魔力を蓄えている。

 彼の人生、魔力を使い切った事は無かったが、この戦いはその勢いで無ければ生き残れないと判断した。

 

 

(盾を作るにしても、薄氷を何百枚作ったところで壊される。いっその事最高硬度を量産する勢いでなければ防げない。なら避けるべきか)

 

 

 2つの選択肢の中、彼は決めた──

 

 

 

(いや、撃たれる前に殺す)

 

 

──どちらでも無い選択を。

 

 

 

(……末恐ろしい)

 

 

 激戦の最中、エニュオが密かに感じたのは意外にも感心だった。

 

 

(あの甚大な魔力量を満遍なく使えば、肉体強化は勿論魔力の壁によって此方の攻撃は通らない。加えて盾の強度は素の私では少々手こずる……キュドイモス達なら或いは…)

 

 

 そして彼女も頭を横に振って考えを捨てた。

 

 

(…もう蹂躙とは言えませんか。仕方ありません。避けられる前に私の能力で貫くとしましょう)

 

 

 奇遇にも、両者の戦法は同じものだった。

──殺られる前に殺す。何処までも似た戦闘思考。この二人はこの戦いが起きる前からそうだった。性格は合わないのに、戦いが関われば通じ合う。

 

 それは互いが殺し合うとしても変わらなかった。

 

 

「…」

 

「──」

 

 

 沈黙。何方が先に攻めるのか。

 速度に秀でているのはコーリス。破壊の能力を解放した今、攻撃の一挙手一投足に利があるのはエニュオ。

 

 

「──ァ!!」

 

「ッ……………!」

 

 

 先に動いたのはエニュオ。槍で頭を貫く必要は無い。破壊の力を纏った槍は、触れるだけで対象の肉体を削り取る。故に狙ったのは胴体。

 

 

(霧を出しましたね…!目くらまし以外にも用途があるのは分かっています!)

 

 

 コーリスは薄い霧を展開し、エニュオの動きを事前に感知する事で回避に力を回した。

 

 彼は知っている。リュミエールには彼女よりも突きの速度に優れた騎士がいた事を。その騎士との競り合いに比べれば巨大な槍など恐るるに足らず。

 

 

「キュドイモスッ!!」

 

「ぐぁっ…!?」

 

 

 避けられるのならば、エニュオは単純に考えた。

 少しでも気を逸らせば良い。何時もやっていることだ。

 

 召喚されたキュドイモスはコーリスの手首に食らいつき、腕輪状に展開された盾によって未然に防がれるもその牙は離れない。

 視界と動きが制限され、破壊光線を通す間合いが空く。

 

 

「ッさせるか!」

 

 

 コーリスは腕に食らいついたキュドイモス諸共エニュオに突撃し、破壊の能力を受ける肉壁として振り回す。

 

 

「甘い!」

 

 

 しかし彼女は光線を出さず、力を纏った槍をそのまま薙ぎ払った。

 上体を反らして避けるコーリスに次の手が差し迫る。

 

 

「行きますよ…!!」

 

 

 ポリスクラスト。剣で言う斬撃の様に突きの衝撃を飛ばす技。

 破壊の力が乗った今、その突きは一突一突が人体に風穴を開ける魔技である。

 

 

(死っ───)

 

 

 死の予兆。今までの戦いから生み出された警報が彼の全身に冷たい圧をかける。

 

 コーリスは後退せず、あえて上空に飛んだ。本来ならば隙だらけの無防備を晒す愚かな策となるが、上空に盾を作れる彼ならば、立体的な動きによって問題なく敵から逃げる事が可能。

 

 

「おいでなさい!」

 

「雑兵を呼んだところで──!」

 

 

 エニュオは反撃の隙を与えない。攻撃を完了させたキュドイモスを上空に召喚し、コーリスの全身に群がる。

 カリオストロとの戦いで彼を分断した様に、この攻撃は足止めに有効だ。

 

 しかし今のコーリスは違う。魔力を総動員させ、自身を覆う檻を作り、キュドイモスが激突して怯んだ所を光線によって処理する。

 

 そして次の瞬間にはエニュオが背後にいる筈だと、そう思っていた。

 

 

 

 

「───」

 

「…?」

 

 

 しかし、エニュオは動かない。

 目を閉じ、槍を天に傾け、何かを祈っている。

 

 

(…………まさか)

 

 

 

─────それは、奥義。

 

 

(阻止しなければ!!)

 

 

 大技を感じ取ったコーリスだが、キュドイモスの召喚は止まらない。奥義の溜めと共にキュドイモスの召喚を並行して行い、相手の攻撃を阻害しているのだ。

 

 そして──遂に。

 

 

「…………は」

 

「──これで、終わりに致しましょう」

 

 

 

 目を開けたエニュオの付近にキュドイモスが並ぶ。

 彼等は吠えている。敵の終わりを告げている。主の攻撃を待ち望んでいる。

 

 彼等は、月夜の号令をかけている──

 

 

 

「貴方の全てを蹂躙させてください」

 

 

 

──乱戦(キュドイモス)の始まりを。

 

 

 

 

「ルースレス・タイラント!!!!!」

 

 

 

 

 光が全てを抉る。

 カリオストロを倒した光線とは比較にならない速度と範囲を持った極光が、コーリスの全てを塵にせんと奔る。

 

 

「あ───」

 

 

 盾、展開できたが無意味。

 迎撃、不可能。

 

 

 

 回避───

 

 

 

(避けろ避けろ避けろよけ────)

 

 

 

 走馬灯すら流れない確定の死。

 コーリスが取れる行動、それは空中で惨めに手を動かす事だけ。

 

 

(防げ、防げ…なにか)

 

 

 刹那の時…彼の目に映ったのは。

 

 

 

(……ノスタルジア)

 

 

 

 右手に握られた、愛剣だった。

 

 

「すまん!」

 

 

 

 コーリスは剣に魔力を集中させ、その腹を思い切り踏み込んだ。

 

 

(ダマスカスを練り込んだノスタルジアなら或いは…耐えてくれ…!!)

 

 

「う、おおおお!!!!」

 

 

 薄皮程度の盾に剣を当てる形で足場とし、自らは他の方角へ飛び込む。

 全身を飲み込む光を相手にするには心許ない防御面だが、最初に盾を展開できた事だけは幸運だった。

 

 

「がぁっ!!!」

 

 

 盾が豆腐の様に霧散し、剣が削られる歪な音が鳴り響いた。

 だが───

 

 

 

「…!?」

 

 

 コーリス、健在。

 ノスタルジアを犠牲にした、奇跡の生還である。

 

 

 

 

「押し殺す…!!」

 

 

 コーリスが杖を天に向ける。

 奥義後の隙は万人の共通点であり、ましてやエニュオの技は未だ撃たれている最中。

 未だ形を保ってはいるものの、剣の強度を犠牲にしたコーリスが放てる攻撃技は光線か霧、そして刀である。

 

 

 そしてコーリスが選択した技は───

 

 

 

「出力最大…!」 

 

 

 

 ──盾であった。

 

 

 

 

 

「ケーニヒ……エルガー──!!!!」

 

 

 

 

 ケーニヒエルガー。

 リュミエールが誇る防御魔法ケーニヒシルト。コーリスはその防壁を様々な形で応用してきた。時には柱型、時には檻の様に。

 それ等は守る為に形を変化させ使用してきた。

 

 ならば、この技はどうなるか──。

 

 

 

「やってくれますね……!!」

 

 

 

 この技の狙いは───圧殺。

 杖によって、魔力が許す限り高速で防壁を作り続け、球状に重ねる事で巨大な球体を形成。

 

 その絶大な大きさは、小島程度であれば容易く飲み込む。

 

 

 

「行け!!!」

 

 

 

 そしてその巨塊に魔力を乗せ、推進力として扱う事で指向性をもたせる。

 コーリスが持てる技の中で最大の質量攻撃。

 

 

「……!!」

 

 

 エニュオが再び槍を構える。

 カリオストロの術によって持ち上げられた島に影が被さる。防壁の巨塊が隕石の様に空中から降り注ぐのだ。

 

 街中であること、人間が住む事、それ等の状況故に通常時では魔力を全開放出来ないコーリスが、初めて破壊規模を無視して全力を出している。

 

 エニュオはようやく死に瀕したカリオストロの狙いを理解した。

 

 

 

「ルースレス……タイラントォォ!!」

 

 

 エニュオ、二度目の奥義。

 このままではこの大地諸共彼の技で押し潰されてしまう。しかし巨塊を落とす為に彼が離れられないという事は、逆にこの技さえ受けてしまえば問題ないという事。

 

 破壊の槍か、守護の殺意か。残った方が勝利に繋がる。

 

 

 

(大きさに惑わされてはならない…彼の防壁を打ち崩せば勝機は此方に…!!)

 

(ここで耐えれば確実に次の手を打てる…!!)

 

 

 

 

 光と質量が激突した。

 

 

 

 

「うおおおおおおおおぉ!!!」

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

 

 単純な押し合い。これまで錬金術、召喚、不意打ちによって構成されていた戦闘が、火力と防御力によって決されようとしている。

 

 しかし、エニュオのルースレス・タイラントは全てを破壊する光線。

 彼女の最強の技であるソレを抑え切れた者は400年間存在しなかった。それどころか、この技を撃つ前に敵は朽ちていった。

 何処か味気ない戦いの味に、彼女は失望していた。

 

 

(…案外、悪くないものですね)

 

 

 だからこそ全てを出し切れるこの戦闘は、彼女にとってほんの少しでも娯楽の感情を見出すのに充分だった。

 

 

(ですが…これに勝てればもっと楽しい事があるんです…!!)

 

 

 しかし、蹂躙の快楽には程遠い。

 やはり戦いは下らない。彼女は最終的に今の愉悦を消し去り、これから起こすであろう災厄に思いを馳せた。

 

 故に、コーリスは最早不要。邪魔な敵。 

 

 

(これ以上長引かせるのなら…死んで下さい)

 

 

 エニュオは冷静、冷徹に、それでいて情熱的にコーリスを消し去ろうと出力を上げた。

 

 

「くっ…!」

 

「この技に数秒耐えた事は褒めて差し上げます。けれど、それだけ」

 

 

 エニュオとの戦いで重要なのは、火力で勝ることではない。彼女の破壊の力は技そのものを崩壊させる。故に、押し合いで必要なのは受け皿の硬度と厚さ。

 コーリスの巨塊の推進力を向上させたとしても、それそのものが壊されては意味が無い。

 

 ならば、盾を足すしか無い。

 

 

「ぐあ、あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 魔力は未だ尽きない。だが、大量の魔力を一瞬で行使する事で起こる身体への負担は計り知れない。

 巨塊に盾を追加し、硬度が増した所でコーリスの意識が消えてしまえば意味が無い。それは敗北を意味する。

 

 だが、それでも彼はやらなければならなかった。

 

 

 その献身に──悪魔が微笑む。

 

 

「手応えが……!?」

 

 

 

 激突していた筈の光線が弱くなっている。

 その違和感に気が付いたその瞬間──

 

 

 

「何故いつまでも私が火力勝負に付き合わなければならないのです?」

 

 

 

 背後から、破壊者の嗤う声が。

 

 

 

「がぁ───!?」

 

 

 

 身を捻ったコーリスの脇腹に、破壊の光線が突き刺さる。

 

 

 

「貴方もカリオストロさんと同じです。私が真面目に相手をすると思ってしまった。本当に、ふふ…下らない」

 

 

 

 エニュオは初めからこれを狙っていた。

 自身の技でコーリスの巨塊を削り、盾を追加させる事で疲弊させる。

 自身が回り込める──その隙を。

 

 

(どう、やって…?)

 

 

 コーリスはその疑問に対する答えをすぐに目撃した。

 

 

(狼に……自身を投げさせていた、だと……)

 

 

 コーリスが自身の技によって視界が狭まるその一瞬、エニュオは召喚したキュドイモスに自身を噛ませ、彼の背後まで投げたのだ。

 

 皮肉にも、カリオストロを投げたウロボロスの動きによって着想を得た掠め手だった。

 

 

「ばか、な…」  

 

 

 コーリスの巨塊が落ちる。大地が震撼する。

 しかし、その技は最後の最後まで無意味であった。

 割れた大地の破片が防衛街の中心部に落ち、術によって持ち上げられていた足場が元の場所へ戻っていく。

 

 

「原型を留めていただいて大変助かります。お陰で蹂躙する機会が作れますね…はぁ…楽しみです」

 

 

 質量攻撃によって凹んだ足場にコーリスは落ちた。

 脇腹が抉れたとて、内臓に届く程では無い。その点では彼の回避能力は健在だったと言えよう。

 しかし、止血をした所ですぐに動ける傷ではない。エニュオはそれを良く分かっているのだ。

 

 だから、彼の元へ歩みだす。

 

 

「刺し殺しましょうか、消し飛ばしまょうか、噛み殺しましょうか……それとも」

 

「はぁ…ぁ………な」

 

「起きたアテナの目の前に、首を置きましょうか…?」

 

 

 絶対的な破壊者の前では、全ての生物は頭を垂れるばかりなのか。

 少なくともコーリスは、これ以上抵抗できる気力を失った。その姿を見てエニュオが身悶えするかの様に震える。

 

 まさに、恍惚。

 

 

 

「貴方の事は好きでしたよ。では、さようなら」

 

 

 

 悪魔が、槍を振り下ろす。

 

 

 

 





コーリス
・魔力量が洒落にならないくらい多いので本気を出すと怪獣バトルになる。

ケーニヒエルガー
・コーリスの防壁応用で最大規模の技。
・球状に盾を重ねてぶつける技。
・分かりやすく言うと隕石落とす技みたいな感じ。
    

カリオストロ
・自己犠牲は嫌いでは無いが、自分がやるとは夢にも思っていなかった。
・力を振り絞って大地を持ち上げ、風によって浮遊させる術を使ってコーリスが本気を出せるようサポートした。



エニュオ
・滅茶苦茶身体張って、負けそうにもなるけど何だかんだ能力が強すぎて勝ててしまう星晶獣。

破壊の力
・"蹂躙"に当たるキュドイモスに加えてもう一つ備わる"破壊"の力。
・それは力に触れた物を最終的に必ず壊す概念的な能力。しかし、対象の強度に左右される。
・この破壊の力は光線や、槍に纏う形で使用するが、後者はとある理由でリスクが大きい為に、彼女は光線を好む。

ルースレス・タイラント
・破壊の光線を最大の出力で放つ奥義。
・シンプルに相手は死ぬ。
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