幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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EX3.付喪犬神

 

 

「コーリス。わんわんわわんわん」

 

「どうしたゾーイ」

 

「生き物の声というのはそれぞれ違いがあるものだ。例えば犬……『わん』と鳴けばそれだけで彼等だと分かるだろう?」

 

「そうだな」

 

「では動物の声を模倣出来る私達のアイデンティティは何処へ向かっていくのだろうか。犬として鳴き続ければ私達は犬になれるのか」

 

「つまり?」

 

「声の分野においても人間は凄い進化をしたんだなと」

 

「へー」

 

「お前等の会話が低レベルすぎて死にたくなるんだが、オレ様がおかしいのか?」

 

「ふむ、会話だけで死を望むというのは確かにおかしい」

 

「ノア、叩き落とせ」

 

「喧嘩はやめなよ」

 

 

 どうも、コーリスだ。

 現在犬神宮を目標に進行中。操舵室にて駄弁っている。

 

 

「犬神宮って…前に聞いたバジュラちゃんと会った所だろ。墓参りか?」

 

「勿論するが、ヴァジュラに会うつもりだ」

 

「妹か」

 

「以前から思っていたんだが、犬神宮にある刀はどれも一級品でな。特に姉妹が持っていた得物はリュミエールの聖剣級だ」

 

 

 バジュラの刀は飛ぶ斬撃を主体として使う物だが、それを差し引いても素晴らしい強度を持つ。

 ダマスカス骸晶を使ったノスタルジアよりは劣るが、聖王から賜ったルクス騎士長の剣に匹敵する。

 

 つまり国宝級の武具を生み出せる人間がいるということ。

 一級品であった俺の剣と杖は既に使い物にならないので、駄目元で聞いてみようと思ったのだ。

 

 武具屋と鍛冶屋探し。それが今回の目的だ。

 

 

「もし当てがあればノスタルジアに残ったダマスカスの要素を利用して使ってもらおう」

 

「それは空戦後の報酬として貰った剣ではないのか?」

 

「…順当に使えば半世紀は持つらしいが、一度壊れたらダマスカスを見つけない限り代わりを作れない。せめて再利用を…」

 

「リュミエールに戻りづらくなってしまったね。かわいそうに」

 

「そういや妹ちゃんについてはあまり聞いた事が無かったな。どんなだ?」

 

「そうだな…」

 

 

 ゾーイに慰められながら俺はヴァジュラについて思い起こす。

 

 

「静かで品があったな」

 

「ロイスと似たような雰囲気か?」

 

 

 ゾーイがロイスを比較に挙げてくるが、そんな事はない。

 似てる様で在り方は全く違う。

 

 

「いや、あれは品がある振りをしてるだけの蛮族」

 

「本人が聞いたらどうなるか」

 

「俺の方が強い」

 

 それで…えーと、ヴァジュラの事だ。

 

「あまり怒る事も無かったが、我慢はしないタイプだと思う」

 

「俗に言うマジメちゃんか」

 

「そう。特筆すべき点は……極限まで負けず嫌いってところだな」

 

「負けず嫌い?」

 

「勝つ為なら死んだ振りから足首を掴んで自爆してくるタイプだ。勿論不意打ちもするぞ」

 

「………それは卑劣って言うんじゃねぇか?」

 

「騎士道は誇りと民の為に戦うが、ヴァジュラは尊厳の為に戦っている。負けたら舐められる──舐められるくらいなら殺す、という思考回路だな」

 

「ロイスちゃんは知らねぇけどよ、こっちの方がよっぽど蛮族じゃねぇか」

 

 カリオストロは早くも犬神宮にマイナスイメージを持った。

 

 

 とはいえ分別が出来る人間だ。

 俺も魔力が全快では無いからな。勝負を挑まれたりはしないだろう。

 

 

「ノアさんはお参りします?」

 

「魅力的だけど…やめておこうかな。十二神将の役割は空の外敵の監視だ。星晶獣の僕が変な見方をされたら困るからね」

 

「なら護衛が必要だ。私はノアの側にいよう」

 

「ゾーイとノアさんが待機。カリオストロは?」

 

「美少女はね?時に敵を作っちゃうの!だから──」

 

「行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃい」

 

「お土産は饅頭がいいな」

 

「了解」

 

「──殺す」

 

 

 いざ、犬神宮!

 

 

 

────────────────────

 

 

 犬神宮までの道のりは短い。

 年明けの行列が無ければ尚更だ。

 

 この島は神社以外特筆すべき点はない。十二神将が取り仕切る神社の為に用意された島だからだ。

 といっても、変わった食べ物や菓子が多く食べられる為、案外楽しい。

 売れ残った犬グッズも押し売りされてるし、雪が溶けた景色も趣があっていいものだ。

 

 

「…誰かいないのか?」

 

 

 小さな階段を登って犬神宮本殿。

 いつもなら巫女達が掃除をしていたり、巫覡達が修行をしているのだが、いつぞやの時と同じく姿が見えない。

 

 そして──気配が背後に。

 

 

「──随分と気配が小さくなりましたね。コーリス様」

 

「少し前に魔力を使い果たしてしまってな」

 

 

 振り向くとヴァジュラが笑みを浮かべていた。

 俺が犬神宮にいた時よりも格段に素早くなっている。

 

 

「黒剣はどうしたのですか?その安物では不相応です」

 

「魔力伝々も戦いだが、そこで壊れてしまった」

 

 

 ノスタルジアの代わりに普通の剣を持ち歩いているが、彼女にとっては不相応らしい。

 

 

「という事は姉さんの刀を使いましたね?」

 

「見るか?」

 

「失礼します」

 

 

 頷くとヴァジュラは俺の腰から刀を抜き、銀色に煌めく刀身を観察した。

 

 

「刃こぼれなし、鞘も削れていません。短刃も健在。お見事」

 

「飛び道具として使ったからな」

 

「…ですが」

 

「うん?」

 

「私の髪飾りがありませんね」

 

「──あ」

 

 

 犬神宮を去る時に受け取ったヴァジュラの髪飾り。

 刀の鞘に付けられていたが、戦いの余波で外れてしまってからは部屋に保管している。

 

 紛失はしていないが、ヴァジュラはじっとりとした視線を向けてくる。

 

 

「左様ですか左様ですか。武具に飾りは邪魔ですかぁ」

 

「その…戦いで吹き飛んじゃって、回収したんだけど紐が」

 

「括り付ける暇も無いと…『祈望の騎空団』は随分と多忙なご様子」

 

「あまりいじめないでくれ」

 

「…失礼、度が過ぎましたね。姉さんの所へ行きましょうか」

 

 

 俺達は本殿の裏にある霊園へ向かった。

 そこにはかつての十二神将や親族達が眠る墓が並んでいる。

 

 バジュラは母親と同じ場所に埋葬された。

 俺達の文化とは異なり、犬神宮の人間は親族単位で墓を作るらしい。

 その墓が並んでいるという事は、十二神将は一つの家系では無いのだろう。実力次第で他が選ばれる事もある様だ。

 

 そして、目の前の巨大な墓には毒抜きされた一輪の水仙が供えられていた。

 それを見てヴァジュラは破顔する。

 

 

「この島には花屋が無いので買いに行かなければならないんです。姉さんは色が良ければ雑草でも褒めますが、母さん達に申し訳が立ちませんから」

 

 

 水の残量を確認し、俺達は軽く周辺を掃除した。

 掃除が終わればバジュラ達の墓に水をかけ、線香と呼ばれる物に火を付けた。

 

 そして数秒間手を合わせる。 

 その後は手で火を消し、古い供え物を回収して終わりだ。

 

 

「同じ幽霊として姉さんも会いに来ればいいのに」

 

「はは。いいジョークだな」

 

 

 駄弁りながら本殿前の広場に戻れば、ヴァジュラは俺の方を向いて刀に手を添えた。

 すぐこれだ。滞在してた時なんて毎日食後に挑んで来たくらいだ。予想はしてた。

 

 

「久しぶりに一戦。どうですか?」

 

「ヴァジュラとやるのは疲れる」

 

「軽い慣らし運動の様なものです。攻撃に魔力を用いるのは禁止で」

 

「それならいいか」

 

 

 俺の言葉を聞いたヴァジュラは怪しげな笑みと共に──

 

 

「──縮地」

 

「ッ!」

 

 ──俺の背後に回った。

 縮地とは、一瞬にして甚大な魔力を足に纏わせることで高速移動を可能にする犬神宮独自の技だ。

 弾ける様な音と共に瞬間移動を錯覚させる程の速さで敵の懐や背後に回り込む。

 

 なる程。攻撃魔法でもなんでもない移動手段だ。

 さっきの条件には抵触しないだろう。

 だが…。

 

 

「品が無い。姉にそう言われただろう──!」

 

「勝負に品格不要!これはリベンジです!」

 

「ッ──分からず屋!」

 

 

 慣らし運動とは何だったのだろうか。

 彼女は受け手に回った俺に向けて刀を振りかぶる。

 

 

断骨(だんこつ)!!!」

 

「はぁ!?」

 

 

 断骨。刀と腕に魔力を纏わせ、振りかぶりの速度と力を増強させて一刀両断する技。

 縮地と同じく犬神宮に伝わる技だ。

 

 だが、問題なのはこれをまともに喰らえば普通に死ぬという事だ。

 正気を失ったバジュラですら使って来なかった対魔物用の超攻撃技。

 そもそも攻撃に魔力を使わないと言ってたのに…。

 

 俺は剣を折られては困るので、身体を全力で横にずらして回避する。

 

 

「高速で背後を取って一撃必殺…流石に怒られてもいい戦い方だぞ。ましてや自分で決めた条件を破ってまで…」

 

「気づいているでしょう?」

 

「…確かに。断骨の際、本来刀と腕に流す魔力が腕のみに留まっていた。手加減という事か?なわけ無いだろう。十分死ねる」

 

「手加減ではありませんが、刀に流さず腕に流したのならそれは身体強化。攻撃そのものに魔力を使ったとは言い難い」

 

「は?」

 

「つまり、私は普通の素振りをやったに過ぎません」

 

「鬼畜が………」

 

 

 ルール違反をしていないと言い張る気か。

 ロイスはルールを守る代わりに日常的に血気盛んな性格だが、ヴァジュラは戦闘になると卑劣上等の勝利マシーンに変わるからな…。

 カリオストロの言葉は間違ってはいなかったか。

 

 ならば…!

 

「生き汚いぞ」

 

「む…!」

 

「こんな安物の剣を持った俺に勝っても実力の証明にならないだろう。ましてや壊れたノスタルジアを重しの様に持っているのだから……これでは一般人を襲っているのと一緒だぞ」

 

「……」

 

「バジュラも言っていただろう。人間性で負けるな、と」

 

「────」

 

 説得。尊厳を重視するならそのまま刺激してしまえばいい。

 この様な戦いで勝っては寧ろ品格を落とすだけだと知らしめればいいのだ。

 

 俺の言葉が響いたのか、ヴァジュラは下を向いた。

 俺は状況を仕切り直す為、一旦横を向いて会話を切り出した。

 

「こんな戦いをしに来たんじゃない。俺には用事が──?」

 

 

 あれ、さっきの位置にヴァジュラがいない。

 

 

「おま──」

 

「好機!」

 

 

 頭上から声が聞こえたと思い顔を上げると、日光に反射した刃が俺の目を(くら)ました。

 

「兜割り──!」

 

 兜割り。シンプルに頭を割る技だ。

 仕組みとしては断骨と相違ないだろう。

 

 はは、コイツ……目を逸らした隙に空中へ飛び、刀を振り下ろしていたのか。

 

「ふ、ざけんなぁっ!!」

 

 真横へダイブ。

 着地後の隙も防御もかなぐり捨てた命がけの回避。

 

「逃げますかコーリス様!」

 

「くそ…が!」

 

「尊厳の話ではありません!ただ勝ち逃げした貴方が案外早くに訪れたものですから、修行の成果として打ち負かしたく!」

 

「嬉しそうな顔を…」

 

 

 俺に勝てる様な修行の結果が速度と火力で潰す事か。

 確かに盾の1枚くらいは簡単に斬れるだろう。

 

 しかし頭は使っていない。

 ヴァジュラは俺が受け手に回る事しか考えていないのだろう。

 

 

「縮地!断骨!」

 

「くっ!?」

 

「縮地!」

 

「舐めるな!」

 

 

 背後に回られる事は分かっている。

 ならば姿が消えたと同時に剣を振ればいい。

 

 

「どうだ──!」

 

「甘い!兜割り!!」

 

「またか……!」

 

 

 くそ、今度は上に逃げて兜割り派生!

 コイツ味を占めているな…。

 

 困るのでもう終わらせる。

 

 

「縮地───か、断こ」

 

「もういい」

 

「ガッ────!?」

 

 

 あまり魔力は使いたくなかったが仕方ない。

 空に盾の壁を作る事でジャンプを封じた。お陰でヴァジュラは一瞬動揺してから断骨へ切り替える。

 なら俺の蹴りのほうが早い。

 

 渾身の回し蹴りが腹部に当たり、ヴァジュラは森の木々に吹っ飛び激突した。

 

 

「さて…」

 

 

 どの様に反撃してくるか警戒しつつ、かつてバジュラを無力化した森へ入る。

 予想では木に隠れながら不意打ちだ。

 

 

「…?」

 

 

 しかし、いくらゆっくり歩いても攻撃が来ない。

 我慢比べなら困った。用事は短く済ませたいのだが。

 

 

「……ヴァジュラ?」

 

「……ぅ」

 

 

 予想外。目の前には項垂れるヴァジュラ。

 よくその顔を観察してみると…。

 

 

「ぅ、うう……!」

 

「えぇ…」

 

 

 な、泣いてる…。

 

 

「お、愚かすぎて……家に帰りたいです……ぅ!」

 

「尊厳が…壊れた」

 

 

 確かに修行と不意打ちまでして、一回の反撃で吹き飛ばされてはプライドも無くなるか。

 だが、初めて会った時の方が強かった気がする。

 あの時は俺の剣を軽々といなし、更にはソレを踏んで懐に潜り込む技術さえ見えた。

 

 先程ではそのキレが見えなかった。端的に言えばバジュラの様な戦い方になっていた。

 高火力高速度の斬撃を浴びせ続けるあいつの戦い方だ。

 変な影響を受けているな?

 

 

「持久戦にすればよかったのに。断骨の魔力消費は激しいだろう」

 

「だってぇ…理不尽を押し付けてみたかったんですぅ…!」

 

「何故そこまで意地汚く…」

 

「か、髪飾りも付けてくれませんし……少し困らせてみたくなって……!」

 

「子供か」

 

 

 …いや、そもそも15歳の子供だった。

 ロイスも言っていたが、俺の戦い方は本気でムカつくらしい。盾はどんな攻撃も防ぎ、重い剣を凌げば霧で意識を乱される。

 ヴァジュラもあの時、そんな苛つきを溜めながら俺を見送ったのだろうか。

 

 彼女が泣き止むまで俺は頭を抱えていた。

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

「鍛冶師、ですか?」

 

 本殿に戻った俺は縁側に並んで座り、ここに来た目的についてヴァジュラに説明していた。

 

 

「ああ。ダマスカスって知ってるか?」

 

「はい。神話の鉱石と呼ばれるヒヒイロカネには劣りますが、武具に組み込めば恐ろしい強度を得ると」

 

「俺のノスタルジアはダマスカスの小片を使った剣だったんだが、先の戦いで壊されてしまった」

 

「その剣を壊す……どれだけの攻撃力を」

 

「破壊の星晶獣だ。話を戻すぞ。この剣を再利用して新たな武器に出来る鍛冶屋は無いか?」

 

「…確かに私と姉さんの刀は一級品です。ですが十二神将の武具は私達の持つ神力も織り込むもの。祈りに使用する祭器としての側面もあります」

 

 

 それはつまり、一般的な武器とは異なる特別な作成方法を用いているという事か。

 腕の良さは勿論あるだろうが、俺が頼み込んでも無駄な立場なのかもしれない。

 

 

「十二神将の武器を作る特殊な鍛冶師ですので、空の中心部に住んでおり、直ぐに会える位置ではありません。私達は作成の初期段階で立ち会い、そこで神力を注ぎます。完成品はそれぞれの神宮に送られますので手間はありませんが…兎も角、貴方個人の依頼という形は難しいですね」

 

「そうか…」

 

「姉さんの刀を黒剣のダマスカスにて補強するのなら可能でしょうが、コーリス様には剣の方が合っています。なので黒剣を作った人間を頼る方が良いのでは?」

 

「……騎士として聖王から賜った剣でもある。ボロボロになった状態をリュミエールに晒すのは…その、なんというか」

 

「コーリス様は奥手ですね」

 

 

 ヴァジュラに溜息を吐かれた。

 情けないのは事実………。

 

 

「巫覡達の武器は基本的に本人が選んだ物ですからね…十二神将とて先代から受け継ぐか、先程の鍛冶師から受け取るかの2択です。申し訳ありませんが…」

 

「いや、いいんだ。自分で探すか腹を括ってリュミエールに行くよ」

 

「素直に行くべきだと思います」

 

「俺ヘタレだから…」

 

「堂々たる気迫は必要なものです。舐められては要らぬ戦いを誘いますよ」

 

「気を付ける」

 

「コーリス様は押しに弱いんですから」

 

「そうだそうだ!全く…」

 

「そうか?」

 

「ええ」

 

「きっちりしなきゃ、だぞ」

 

「分かってるがそこまで言わなて、も……?」

 

「…………」

 

 

 ───────。

 

 

「「………え?」」

 

 

 今、何か会話に違和感が。

 しれっとヴァジュラの口調が緩ん……いや。

 

 …いやいや、イヤイヤイヤイヤ!?

 

 

「え?」

 

「あ、あれ…」

 

「なんか、変?」

 

「流れがおかし…いや、会話内容に支障は」

 

「ヴァジュラ、小声で何か言ったか?」

 

「私じゃないです」

 

「小さな声に聞こえたよな」

 

「はい…ですが他の人間は中で訓練を」

 

「……」

 

 

 どういう事だ。

 会話が成り立っているが、明らかにおかしい。空耳にしてもはっきり混じってたぞ。

 

 というか…静かすぎる。

 この島には俺たち二人しかいないのでは無いかと疑わせる程に。

 

 

「変だ、やっぱり変だ」

 

「やめてくださいよ…怖くなってきました」

 

「だって物音とかも聞こえないし……寂れてる街でも足音くらいするぞ」

 

「確かに…修行の声も聞こえなくなりましたね…」

 

 

 

 俺とヴァジュラは耳を澄ませて現状の異質さに気が付いた。

 まず、人の気配が無い。そして、音も聞こえない。

 神社内の人間が修行中だとしても、木剣や足の音は響いて然るべき。

 

 先程の変な会話を鑑みても不気味だ。

 

 

「嫌な静けさだ…」

 

「そうですね…」

 

「──そう?私はこの方が良い」

 

 

 ──────!!!

 

 

「誰だ!」

 

 

 今度は聞き逃さない。

 森の方から湿った様な声が聞こえた。

 

 …だが、先程とは違う声だ。

 まさか、ヘカテーの様に人を脅かす存在が住み着いていたのか?

 とても人間の技とは思えない気配の消し方。

 

 

「姿を見せねば斬りますよ。ここが犬神宮と知っての嘲りならば、相応の代価を支払ってもらいます」

 

「見せてるわよ。後ろ」

 

「っ…!」

 

 

 森では無い…?

 言葉の通り、声が聞こえた背後を振り返ると──そこには()()()()()()()

 

 顔を覆い隠す兜と紫の鎧に白色のマント。

 右手に持っているのは鎧と同じ色の槍だ。

 

 だが、最も目立つ点は体躯。

 それは───。

 

 

「ハーヴィン……」

 

 

 戦闘に劣る種族。

 スルトの様に特殊な能力が無ければ、物理戦闘において圧倒的に不利な小人。

 そんな彼等が杖以外の武器を取る事は非常に珍しく、目の前の人間は更に鎧を着て槍を持っている。

 

 極めつけは性別か。

 先程の声は兜でくぐもっていたが、憂いを帯びた女性の声を感じた。

 

 そんな例外の騎士は、俺達へ槍の矛先を向ける。

 

 

「十二神将と争うつもりは無い。私はコーリス・オーロリアに用があるだけ」

 

「人畜無害を装った所で意味はありませんよ。ここら一帯に人の気配が無い理由…それは貴女ですね」

 

「殺しはしない。眠ってもらっただけ」

 

「犬神宮の人間だけでなく島全体にまで及んでいる影響を見過ごせはしません。その言葉を信じるとでも?」

 

「…………ほんとなのよ?」

 

 

 心外、と言った風に騎士は項垂れた。

 

 

「さっき会話に割り込んで驚かせてきたのもお前か」

 

「…それは知らないけど?」

 

「ぇ……」

 

 

 じゃあさっきのは何なんだ…?

 いや、話を戻そう。

 

 

「…何故俺の名前を知っている」

 

「言っても信じてくれないなら、言わない」

 

 

 ……俺のプライバシーはどうなってる。

 いや、祈望の騎空団の名前が売れてきたのか…?

 

 それなら嬉しいが…そんな雰囲気には見えない。

 というか微妙に会話がズレてる。

 

 

「だから、付いてきてくれる?」

 

「断る。知らない人間には着いて行かないだろう?」

 

「そう…?未知を進むのが騎空士なのでしょう?」

 

「それが未知ではなく驚異だとしたら?」

 

 

 俺とヴァジュラは武器を抜いた。

 この騎士の口調から、恐らく実力行使に出るつもりだ。

 

 安物の剣で無力化出来るのならいいが…ヴァジュラがいるなら最悪の結末にはならない筈だ。

 

 

「驚異、ね……なら尚更経験しておいた方がいい」

 

 

 騎士が槍を構えた。

 

 

「任務は滞るけど、一応腕試しもしておけと言われたの。良い機会だからやっておく」

 

 

 命令を受ける立場か…。

 何処かの国家か?騎士としての体勢があるのなら名乗りの段階で分かるだろう。

 

 

「祈望の騎空団団長、コーリス」

 

「十二神将、ヴァジュラ…参ります」

 

「名乗り…?そうね、私もやる」

 

 

 何処の人間だ…?

 見た事の無い鎧だが…。

 

 

「七曜が一、紫の騎士クラーレ。行く」

 

「な……」

 

「七曜、ですか」

  

 

 七曜の騎士……!

 全空で最強の力を持つとされる7人の騎士。

 それぞれが空域を統べているらしいが、ファータ・グランデは黒騎士の筈だ。

 

 そして、黒騎士は現在空席。

 支配の担い手がいないからこそこの空域は様々な国家が存在し、自由に生きている。

 つまり彼女が本当に紫の騎士ならば、これは侵略行為の可能性もある。

 

 

「不味いな」

 

 

 立場面でも戦闘力面でも強敵。

 俺は絶好調には遠く、ヴァジュラには相棒のナガルシャがいない。

 その焦りを読んでか、騎士は魔力を解放した。

 周囲に紫色の粒が出現する。

 

 

「少しだけ苦しむけど、後を引かない様にする」

 

 

 俺達の武器を握る手が、軽く震えた。

 

 

 

 

 

──間章1、完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ヴァジュラ
・負けず嫌いを極めすぎて卑劣に片足を突っ込む。ちなみに勝つのも大好き。
・縮地や断骨は犬神宮で伝わっている技ではあるが、十二神将としての技術では無い。
・『勝ちたいゲージ』が溜まると脳死で強い技を擦る残念な戦い方になる。


紫の騎士
・名前はクラーレ。
・原作から100年前の七曜の騎士。
・何処か天然さが垣間見えるお姉さん。
・種族はハーヴィン。


ヴァジュラとの会話に入ってた声は誰の声なんでしょう?
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