幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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7章 七曜のアウライ・グランデ
67.紫天の槍


 

 

 犬神宮本殿前。

 活気溢れる神社は静謐に導かれ、音を発するは3人の戦士。

 

 コーリスはノスタルジアを地に起き、刀の前に予備の剣を先に抜く。

 同じくヴァジュラも武器を手に取り敵を見つめる。

 

 敵はクラーレと名乗ったが、それよりも重要なのは七曜の騎士という肩書。

 七曜の騎士は全ての空域を含めた人間達の頂点に位置する存在と言われており、7つの空域を統べる形で君臨している。 

 騎士達に名を下す存在は"真王"なる者とされているが、騎士が不在なファータ・グランデにはそれ等の情報は流れず、人々の記憶には遠くなるばかりであった。

 しかし、空の要素たる国家や十二神将は彼等を認知している。

 

 ヴァジュラが抵抗の姿勢を見せた理由は島の人間達への狼藉を誅する為だが、もう一つ狙いがあった。

 それは、十二神将に牙を向いたという状況を作る事で相手に撤退してもらう事だ。

 十二神将は星の民といった外敵を観測する為に存在しており、如何に空の最高権力である七曜の騎士と言えど、重要な役割を持つ彼女達を一方的に排除する事は出来ない。

 

 コーリスが狙いであると分かったならば、七曜の立場を揺さぶり一旦引かせる。

 それが叶えば不調のコーリスを逃し、犬神宮を守り通す事も出来るからだ。

 

 

「別に彼を殺そうなんて考えてないのに、何故あなたも抵抗するの?」

 

「言った筈です。島の人間に手を出した時点で外敵と見做すと。それに、強硬手段を取る為に態々音を立てずに皆を眠らせたのでしょう?」

 

「話し合いは静かな方が良いと思った」

 

「話し合いは話が通じる人間とするものですよ、小人さん」

 

「あなた達は野蛮に見えないけれど」

 

「…あなたが、という意味ですよ」

 

「そう…心外ね」

 

 

 ヴァジュラは心の中で舌打ちをした。

 皮肉が通じず、心を揺さぶれない。何処か天然味を含んだ語り口調からは、行動に対する極限までの迷いの無さが感じられた。

 即断即決を是とする頑固者の片鱗さえ見える。

 

 紫の騎士の周囲には小さな球状の液体が多数浮遊しており、その色が鎧の色と同じ紫に変化した事から、コーリスとヴァジュラは無意識に近づけずにいる。

 ──紫は生物にとって捕食者から身を守る為の警告色なのだ。

 

 

「あれ…毒ですよね、色的に」

 

「闇属性かもしれんぞ」

 

「有り得ますね」

 

 

 二人が攻めあぐねていると、紫の騎士は暇そうに液体を指で撫で始めた。

 そして、突然顔を向けて語り出す。

 

 

「安心して」

 

「…?」

 

「ちゃんと毒よ」

 

「やっぱり!」

 

「ついでに言うなら、酸性よ」

 

 

 ネタばらしの反応を待つ事なく、彼女は指を差し向けた。

 

 

「回避しろ!酸なら話は変わる!!」

 

「はい!」

 

 

 球状に凝縮された酸が弾丸の様に襲いかかる。

 どんな猛毒でも触れるだけで死に至る物は少なく、大抵は傷口や喉を通った時に作用するものである。

 だが、酸は人体の細胞を容易く分解する。それが高速で飛来するとなれば、如何に弱い酸でも危険に値する。

 魔物が生み出した酸を武器で受け止め、飛び散ったそれ等が目に触れる事故も存在するからだ。

 落ちた酸は極めて薄っすらと地面を溶かし、跡を残した。人体を貫通する程の強さでは無いが、間違い無く苦痛に喘ぐだけの力はある。

 

 有毒な物質は、根源的な恐怖を与えるもの。

 それと同時に騎士は飛び立つ。

 

 

「──レイン」

 

 

 瞬間、高速の槍撃が雨の様に降り注ぐ。

 

 

(速い…エニュオよりも……!!)

 

 

 騎士時代にロイスという突きの達人がいた影響か、槍や細剣への対応に秀でているコーリスであっても、空から降り注ぐとなれば回避に支障が生じる。

 それでもと軽い霧を出して酸の攻撃範囲を探る。

 

 しかし…。

 

 

「させない」

 

(霧の特性がバレている…!?)

 

 

 霧によって視界が塞がれたからでは無く、彼が霧を出した瞬間に騎士は槍で切払った。

 霧の対応は文字通り霧を吹き飛ばすだけなので難しくも無いが、技の性質を知られているとしたら大きな問題となる。

 

 明確な格上相手に少ない魔力量かつ、霧を封じられながら戦う。

 コーリスにとって苦戦を強いられる闘いである事は確定した。

 

 

「大口真神…ハァッ!!」

 

 

 そこでヴァジュラが槍と酸を回避しつつ斬撃を放つ。

 姉程では無いにしろ、十二神将随一の攻撃力は鎧に対しても有効。

 

  

「……」

 

「防ぎましたね…!」

 

 

 加えて、高速の斬撃は物体に触れた瞬間に炸裂し、対象は小規模の粗刻みによって痛手を負う。

 防御自体によって突きが止み、酸の残弾も尽きた事で紫の騎士に隙が生じる。

 

 

虚仮威(こけおど)しね」

 

 

 そこで彼女は後退しつつ炸裂する斬撃を()()()()全て弾き落とし、前後から迫る二人に対して大きく手を翻した。

 

 

「!?」

 

 

 先に気付いたのはコーリス。

 地面から何かが噴き出すと察知し、真横に飛ぶ。

 

 立っていた地面を抉り飛ばす様に発生したのは──

 

 

「水、だと…!」

 

 

 槍の形をした水だった。

 ヴァジュラもコーリスの動きを追う形で回避しつつ、紫の騎士を睨む。

 

 

(彼女は水属性……いや、学んだ魔法ですか?)

 

 

 魔法は生まれつき備えた属性に依存する訳ではない。後天的に学べば習得できる物なのだ。

 しかし、人体に刻み込まれた属性の魔法は魔力さえあれば容易に使用できるが、他の魔法は複雑な術式等を用意し、少なくない時間を要する事によってようやく発動する。

 加えて術式のみによって発動する魔法は威力規模共に拙い。

 故に人々は武器や杖に術式を仕込み、簡易的な魔法発動装置として扱うのだ。

 カリオストロが魔導書を持つ理由も、彼の錬金術の発動を更に加速させる為である。

 

 一方、才能というべきか…世には複数の属性を持つ人間や、比重の差異はあれど、2つ目の属性に高い適性を持つ者も生まれてくる。

 ヴァジュラは、毒魔法が紫の騎士が持つ何らかの属性から派生した技であり、水属性は武器に仕込まれた物ではないかと考察した。

 

 

「小細工はそちらも」

 

「別に、水を撒ければいいもの」

 

 

 湧き上がった水は周辺を満たすが、高所である犬神宮でそれが溢れる事は無い。規模も水害には程遠い物であり、距離的に民家への被害は薄いと考えられる。

 

 ただ、この水の真髄は。

 

 

「今」

 

 

 紫の騎士は水がコーリス達の足首の高さへ到達した瞬間、槍を振り払い、彼等に水を浴びせた。

 口には入らないが、胴体から下が大きく濡れた。

 

 

「こ、嫌がらせですか!!」

 

「ヴァジュラ………」

 

「なんです…?」

 

「まずいかも、しれない」

 

 

 たかが流水を浴びた程度で何を怖がっているのか。

 ヴァジュラは疑念と共にコーリスを見るが、数秒後に彼女の顔は同じく青ざめた。

 

 先程の毒は液体の球が紫色に変化してから放たれた物。

 もし、毒をそのまま放出する魔法では無く、()()()()()()()()()()()()だとしたら──

 

 

「やば───」

 

「ヴェノムハザード」

 

 

 掲げられた槍が光ると同時に、周囲の水──コーリス達が浴びた細かな粒に至るまで、全てが毒と化した。

 地面は未だ濡れている。下へ流れた水は効果の範囲外だが、この戦場の足場は毒が支配している。

 

 

「ああッ!!!?」

 

 

 酸に溶かされる己を想像したのか、ヴァジュラは上擦った悲鳴を上げた。

 

 だが、齎された結果は異なる。

 

 

「あ、れ…痛くない」

 

「殺しはしないって言ったじゃない」

 

「でも…これ」

 

「酸は危険だから違う毒にした」

 

 

 紫の騎士は淡々と話す。

 彼女の目的はコーリスに尽きる。出来る事なら十二神将に害は与えたく無いし、戦いの発生すら嫌う。

 

 発言を読み取れば酸の沼にする事も可能という事だが、兎も角、ヴァジュラは彼女に殺意が無い事を漸く認めた。

 かといって、コーリスをみすみすと明け渡す事は無いが。

 

 

「でも、傷が出来れば毒は入る」

 

「…!」

 

 

 紫の騎士が突進の構えを取った。

 

 

 

「──かすり傷でも命取り…初めてでしょ?」

 

 

 二人は相手が鎧の奥で笑ったのを理解した。

 

 

「フッ──!!」

 

 

 槍の矛先はコーリス。

 ハーヴィンの体躯に似合わない勇猛な突撃が彼を襲う。

 

 

(身体自体は思ったより遅い)

 

 

 コーリスは横では無く後方に身を引き、その突きを避けた。

 

 

(ならば槍を狙うッ!)

 

 

 回避と同時に穂先が腹部に到達しない位置を取りつつ、右肘と右膝で槍の持ち手を挟み込む。

 そして動きが止まった隙に左腕で槍を更に掴み、万力を込めて背後に振りかぶる。

 

 

「ッらぁっ!!!」

 

 

 槍を持った騎士ごと背面にぶん回し、地面に叩きつける。

 飛び散る毒を防壁で防ぎつつ、剣で槍の持ち手を斬りつける。

 

 無論、槍の持ち手が木製でない限り簡単に折れる事は無いのだが、その衝撃が武器に負担を与える。

 槍の安定性を崩しに行ったが、コーリスは直ぐに諦めた。

 

 

(この槍は壊せない……ノスタルジア以上の物を感じる)

 

 

 七曜の騎士の武器は特別であると彼は察する。

 だが、動きを止める事は出来た。

 

 

「お見事!次は私が!」

 

 

 ヴァジュラが縮地を用いて背後に回り込み、鎧の隙間を狙って刀を振るう。

 

 紫の騎士はその刀を右足で蹴り付け軌道を逸し、続いてコーリスの腹部へ貫手を放った。

 その手は酸を纏っている。

 

 

「くっ…」

 

「正直に離れてくれるのね。しつこいけど、殺す気は無いって言ってるのに」

 

「敵の言葉を簡単に信じられるか!」

 

「誠実さが馬鹿を見る…悲しいわ」

 

 

 片手間で対処されたヴァジュラは、苛つきながらも二人の会話で生じる隙を伺っていた。 

 そして結論、隙は無し。

 

 

(この人は恐らく…平常のまま戦っている。手加減しているのでは無く、戦いこそが平常だと言わんばかりに)

 

 

 常在戦場の人間とは少し異なる。

 想定よりお喋り好きで、想定より恐ろしい戦いをする。

 彼女が殺す気ならば、一言も言葉を交わす事なく死んでいるだろうと、そう思わせる恐ろしさが無機質な鎧に現れていた。

 

 次の一手も、相手の動きから決めるだろう。

 二人は行動への恐怖を植え付けられているのだ。

 

 

「でも、ここまで冷静に対処されるとは思わなかった」

 

「…」

 

「だから脱ぐわ」

 

「え?」

 

「脱ぐわ」

 

 

 紫の騎士は兜を脱いだ。

 

 

「ふぅ…」

 

「……」

 

「攻めて…いいんですかね」

 

「無駄な気がする…」

 

 

 紫の騎士の素顔はやはり女性のものだった。

 紫と白が混じった髪を細く結んでおり、表情は気怠げなもの。

 

 そこから彼女は更に鎧をのそのそと脱ぎ始めた。

 

 

「まだ脱ぐのか…」

 

「自由ですね…」

 

「頭だけじゃ空気の通りしか変わらないじゃない」

 

 

 そこで二人はようやく、彼女が"重さ"について話していたのだと理解した。

 粗雑に扱われる鎧に同情の念を抱きつつも、身軽になったであろう紫の騎士に警戒を強める。

 

 

「やっぱりこの方が動きやすくていい」

 

 

 その姿は槍を持った一般人の様で、コーリスと同じく旅人を連想させる軽装だった。

 

 油断を誘うつもりか、はたまた重量重視か。

 

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 

 紫の騎士は先程と同じく突撃の体制を取った。

 

 

(来る…!)

 

 

 狙いはまたもやコーリス。

 カウンターは2度も通じないだろうと想定し、防壁による完全な防御体制を整える為に剣を持たない左手に魔力を込める。

 

 ──それは過ちだった。

 

 

「速──ッ!?」

 

 

 彼の防壁が展開される前に騎士は既に懐に潜り込んでいた。

 長物の理を活かさず、槍を至近距離で振るう戦い方に虚を突かれ、対応が一歩遅れる。

 

 

「せッ!」

 

 

 紫の騎士はコーリスの義手に槍を引っ掛けながら正面を通過し、遠心力を活かしてヴァジュラに向けて投げ飛ばす。

 

 

「う、おお!?」

 

「すみません!ご容赦を!」

 

 

 受け止められる余裕も無かったヴァジュラは、飛来するコーリスに対して右側に回避する。

 人体で塞がった視界が開けた頃には既に──

 

 

「な──」

 

「あなたからよ」

 

 

 回避の先には既に敵が佇んでいた。

 槍の矛先がヴァジュラの肩に迫る。

 

 

(避けられ、ない…!)

 

 

 苦痛を覚悟し、傷を最小限に抑える為に上体を逸したヴァジュラ。

 だが、紫の騎士は対象を貫く為の刺突では無く、傷を付けるための刺突を繰り出していた。

 

 それは緩慢で尚鋭く、優れた戦士こそ時間差に混乱するまどろみの槍撃。

 

 

「オミノストキシン」

 

 

 ヴァジュラは、ほんの少し──蚊が刺す程度の傷を肩に受けた。

 苦痛は無い。チクリとした奇妙な感覚が肩を伝っただけで、何一つ攻撃を食らった実感が湧かなかった。

 

 これは好機か。

 ヴァジュラはすかさず刀を振るおうとして──

 

 

「────ァ??」

 

 

 ──その場に倒れた。

 

 

「ヴァジュラ!!」

 

 

 コーリスが目撃したのは、突然糸が切れた様に倒れ付すヴァジュラの姿。

 毒を食らったのは明白。

 しかし、その起点が脆弱な刺突である事に驚愕した。

 

 そして同時に。

 

 

「ぁが………!?」

 

 

 自身の背中も槍に刺され、毒に侵された事を悟った。

 

 

(既に後ろに回られていた、か……)

 

 

 二人は突然行動不能となり、立っているのは紫の騎士のみとなった。

 彼女は放られていた鎧を回収しながら語り始める。

 

 

「オミノストキシンは私が作れる色んな毒が一つになったもの。動けないのは麻痺毒のせいね」

 

「何故…私の回避先が」

 

「運よ。上か右か左か後ろか…4分の1ね。頭を使っても見返りが少ない状況では運に任せる様にしてるの」

 

「く、この……!」

 

「動かない方がいい。痺れもそうだけど、そもそも力が入らないでしょう?」

 

 

 コーリスは魔力を魔法に流し込む技──ディスペルガーを用いて毒魔法を弾き飛ばそうと考えたが、魔法の起点となった部位の毒を無効化した所で、全身に回った毒は対象外である為に無意味となった。

 背中だけでは何も出来ない。

 何より、先程から力が抜けていく感覚があった。

 

 

「筋肉への信号を断絶する毒。強すぎると呼吸も出来なくなるけど大丈夫。弱くしたから」

 

「ぐぅ………ぬぬぬ……ぁ!!!」

 

「あと、何回も言う。動かない方が良い。力が入らない身体で無理に暴れれば全身が傷つく。出血毒も入っているから血が出るわよ」

 

 

 ヴァジュラは騎士を激しく睨んで歯を食いしばった。

 屈辱。明確な毒の手加減によって生かされている現状を認めたくは無かったのだ。

 

 

「地面に付着した毒が傷口入っても同じ事。コーリス・オーロリアは分かっているようね」

 

「……は──」

 

「………?」

 

 

 無言となったコーリスに騎士が疑問を持つ。

 こんな程度で諦めると思わなかったのか、はたまた歴戦の勘か。

 

 紫の騎士は彼を観察しようと振り向いた。

 そして──

 

 

「がァァァッ!!!!」

 

 

 コーリスの口から光線が放たれる。

 

 

「ッ──!」

 

 

 光線は紫の騎士に激突した後に爆発し、土煙が周囲を満たした。

 口腔から光線が放たれるその凄絶な光景に驚いたヴァジュラだったが、発案者は自身であった事を思い出し、笑みに変わる。

 

 

「やはり出来たんですね!」

 

「動けない事には変わり無い…なんとかこの場を脱しなければ」

 

「生身の不意を突いた筈です。少しは猶予が──」

 

 

 猶予、なし。

 土煙が開け、先程の立ち位置から紫の騎士は一歩も動いていなかった。

 無傷で光線を弾いたのだ。

 

 

「その攻撃は知ってるわ。知ってても驚くけど」

 

「出鱈目な…」

 

「ありがとう。そう言われるとここまで強くなった甲斐がある。それと…」

 

 

 紫の騎士は再びヴァジュラの方を見た。

 

 

「犬神宮に危害を加える形になって本当にごめんなさい。タイミングが重なっただけで、あなた達の営みを邪魔する気は無かったの。全面的に謝罪するわ」

 

 

 彼女は頭を下げて謝罪した。

 だが、目的にそぐわない被害に対して謝罪したのであって、必要ならば攻撃するであろう。

 その認識のズレをヴァジュラは噛み締めた。

 

 

「毒は少ししておにぎりでも食べていれば収まる筈よ」

 

「……コーリス様をどうするつもりです」

 

「話がしたいらしいから連れて行く。危害は加えない」

 

「巫山戯るなァ!私が許さ───な、ぁ……」

 

「話は終わり」

 

 

 再び身体を動かそうとしたヴァジュラが眠りにつく。

 任意で発動する睡眠の毒すら仕込んでいたのだ。

 

 意識を失ったヴァジュラを犬神宮の入り口まで運んだ紫の騎士は、予想通りコーリスの元へ近づいてくる。

 

 

「……」

 

「睨まないで。私だって悪いと思ってる」

 

「勝手に襲っておいてか?」

 

「どうせ聞いてくれそうにないから、仕方なかった」

 

「事前に知らせたら話に応じるくらいの常識はある。祈望の騎空団は勝手に動くわけじゃない」

 

「…ファータ・グランデがここまで平和と思っていなかったから武力行使前提で来てしまったわ。私のミスね」

 

「事実を認めれば何でも済むと思ってないか…?」

 

 

 身動きも取れない。霧と光線のタネは割れている。

 仲間が助けに来てくれる以外に打開策は無く、コーリスは時間を稼ぐしかなかった。

 だが、大声を出そうものなら黙らされる。

 せめて先程の光線で戦闘の気配を察知させ、ゾーイ辺りに加勢してもらうのが理想とだと考えた。

 

 すると紫の騎士は突然小さな機械を耳に当てて声を出し始めた。

 

 

「…こちらクラーレ。うん、紫の騎士。ごめんなさい…次から役職名で言うわね。目標は何とかなりそうだから待機してた艇を全部こっちに」

 

「…?」

 

「あと鎧脱ぎ捨てたから回収する人が欲しい。身分証明に着るけど重いのよ…アレ」

 

(独り言じゃない…これは通信機というやつか?)

 

 

 先進国ですら数個しか保有していない希少品であると、リュミエール時代に聞いたことがあったコーリス。

 空の最大権力である七曜の騎士が持たぬ道理はない。

 

 だが、それよりも重要なのは内容だ。

 紫の騎士単独では無く、騎空艇を待機させていたのだろうか。

 

 

「犬神宮で大丈夫。皆眠らせたから。それよりも調停者の方が厄介。下手に刺激すると撃ち落とされるから、取引が上手そうな人をなるべく喋らせて。錬金術の開祖は問題無い。今なら無力」

 

(調停者…………ゾーイの事か?)

 

「私?コーリス・オーロリアを人質として扱えば………駄目ね。単騎じゃ勝てないから他の七曜を二人くらい寄越してもらわないと。うん、損害が大きくなると困るわね」

 

 

 コーリスの情報が割れているのなら、同じく団員が割れていてもおかしくは無い。

 

 

(騎空艇を犬神宮に……まさか俺達の艇に差し向ける気か…!!)

 

 

「させるかッ!!!」

 

「……!」

 

 

 コーリスは再び光線を放つ。

 だが、標的は紫の騎士では無く通信機の方だ。

 騎空団への攻撃命令と思われる言葉を防ぎ、命令を中止させられればゾーイ達への被害は食い止められる。

 

 

「……また」

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 だが、依然として警戒を解いていない彼女は持ち前のスピードで躱し、コーリスに対して睡眠の毒を発動した。

 

 

「ぁ…」

 

「今は寝てて。アウライ・グランデのベッドは気持ちいいわよ」

 

 

 薄れゆく意識の中で、コーリスは自身が持ち上げられる感覚を味わい、同時に耳元で囁かれた。

 

 

「きっと上手く行くわ。誰も死なない」

 

「く、そ………」

 

 

 通り魔に会ったような理不尽な心情を、コーリスは吐かざるを得なかった。

 せめて仲間が無事に切り抜けられる事を祈るだけだ。

 

 

 

 

 

 

──ここから、彼の旅で最も()()()出会いがやってくる。

 彼がこれから永く生き続けるには、ここで負けておく必要があったのだ。

 

 幽世、ノア、ゾーイ、カリオストロ。

 全ての出会いは彼の道筋に繋がっている。

 

 

 次に出会うのは──七曜だった。

 

 

 






紫の騎士
・水属性と毒属性?の使い手。
・槍術はハーヴィンが行える最上の技術であり、鎧を脱いだらスピードが増す。
・この戦闘で使った毒は酸、麻痺毒、出血毒、筋弛緩毒(仮称)、睡眠毒(仮称)の5種類。
・使える毒はまだまだあり、強弱を自由に操作する事で無力化から即死まであらゆる手段が取れる。

レイン
・突きを空中から雨の様に降らせる技。

ヴェノムハザード
・自身が出した水を毒に変化させる技。
・任意の毒に変化させられるが、混ぜる事は出来無い。

オミノストキシン
・自身の生み出すあらゆる毒を任意に選択し、一つに凝縮した物。
・槍の矛先から相手に打ち込む。
・弱点は効果時間が短い事(本人曰く、毒達が互いに喧嘩するから)。


コーリス
・魔力が足りない。
・霧の初見殺しが通じず、届いた所で紫の騎士の精神力を突破出来ない。
・ゲロビを防がれた瞬間薄っすら諦めた。


ヴァジュラ
・とばっちり。
・ナガルシャがいて、尚かつ森の中で戦っていれば善戦出来たかもしれない。
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