幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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68.調停の閃撃

 

 

 

──フロンティア号、居間。

 

 

「遅いな」

 

 

 カリオストロはそう不満げに呟いた。

 ソファーに寝っ転がって退屈そうに振る舞う彼の背後にはゾーイとノアが立っており、言葉は発さずとも思う事は一緒だった。

 

 コーリスの帰りが遅い、と。

 

 

「行く先々で変な奴に絡まれるからなぁ。迎えに行くか?」

 

「ふむ…」

 

 

 その言葉にゾーイが考えを巡らせた。

 常に危険を想定するわけではないが、何者かに襲撃され、ノアに被害が及べば艇の移動が困難になり、緊急時に逃げる事が出来なくなるからだ。

 対処出来るのはゾーイだけだ。カリオストロは新しい身体に魂を入れたばかりであり、激しい戦闘をこなすにはまだ慣れていない。

 

 

「……うん?」

 

 

 そんな中、ノアはある物を見つけた。

 

 

「…カリオストロ、来てくれるかい?」

 

「なんだ?」

 

「窓から見えるアレ…」

 

 

 酷く驚いた様相を見せたノアを珍しいと思いつつ、カリオストロはその窓から外を見る。

 

 

「………なんだ、あれ」

 

 

 それは、自然現象としては余りにも理外であり、魔法にしては余りにも美し過ぎた。

 言葉を失う2人にゾーイが声をかける。

 

 

「どうしたんだ?」

 

()が…出来てやがる」

 

 

 窓の外で見えた物。

 それは空中に発生した渦であった。

 

 

「…長年生きてきた中で、アウギュステを除けば水が浮く光景すら見た事が無いのだけど、ああいう現象は起きるのかい?」

 

「いや、浮力を利用しても横に滑り落ちる。ありゃ魔法か?」

 

「星晶獣の気配は感じないが…」

 

 

 奇妙な現象を目の当たりにした3人は次に音を感じ取った。

 

──ガタン。

 

 

「…艇に乗ってきやがったな」

 

 

 カリオストロの言葉によってこの場に緊張が奔る。

 渦との因果関係があるかは定かでは無いが、許可も取らずに艇に足を踏み入れ、気配を察知させない者がいるとしたら、それはもう外敵だ。

 魔物ならば荒々しい着地音を鳴らすが、これは初回の大きな音と、それに続く小さな音から推測して人間であると断定。

 ノアは対象の位置を特定した。

 

 

「甲板にいるようだ。少しだけ魔力を感じる」

 

「ノアは操舵室で離島の準備を。カリオストロはウロボロスにノアを守らせてくれ。必要なら君の錬金術で通路の構造を変えるといい。私は甲板に行く」

 

「分かった。コーリスの様子見は?」

 

「ディに向かわせる。二人とも、戦闘準備を」

 

 

 副団長としてゾーイは素早く命令を出した。

 彼女の存在が祈望の騎空団の絶対性を担っている事は事実であり、ワイバーンのディとリィを含めずとも最強の戦力として扱える。

 故に、彼女の敗北は騎空団の崩壊を表すと言っても過言では無いだろう。

 

 

「……ふむ。1人か」

 

 

 ゾーイは甲板に向かう中で敵の数が1人である事を感知した。

 属性の息を扱うリィを呼び出し、敵の位置を探る目を増やす。

 

 そして甲板に辿り着いたゾーイは背後に気配を感じ、即座に後ろを向いて剣を抜いた。

 

 

「さて、何の用だ」

 

「おや、貴女ですか。早いですね」

 

「…奇天烈な」

 

 

 敵は()()()を着ていた。

 鎧なぞ珍しくも無いが、問題はその面妖な様相。

 兜に馬の顔が乗っていた。いや、馬の顔そのものが兜の一部なのか──兎も角、チェスのナイトの様なデザインの兜がゾーイの目を驚かせた。

 

 

(声からして男…武器は剣。恐れるものではないか)

 

「祈望の騎空団の皆様に少しお願いしたい事がありまして、少々足を運んだのですが…調停者1人に当たるとは、私の運も尽きましたね」

 

 

 調停者、という言葉にゾーイの警報が鳴る。

 空の危機に際して役割を得る調停者としての在り方を知る存在など、この騎空団以外にあり得ない。

 礼儀正しくも何処か壊れた飄々さが相まって、彼女は会話を続ける気にはなれなかった。

 

 

「敵意があるのなら私が相手をしよう」

 

「ええ、ですが目的は既に達成しておりまして…私は人使いの荒い同僚にこき使われてる時間稼ぎ要因なんですよ。困りますよね」

 

「つまり犬神宮で何かが起きていると」

 

「ハッハッハ」

 

 

 ゾーイの推察に男はわざとらしい笑いで答えた。

 何を言ってももう遅いという事は分かったと、彼女は剣に力を込め、リィにブレスの用意をさせる。

 

 

「──押し通る」

 

「一応自己紹介を。聞いた事はあると思いますが」

 

 

 馬兜の騎士は剣を抜いて後退しながら語る。

 

 

「七曜が一、碧の騎士のバミューダと申します。よろしくお願いしま──」

 

 

 七曜の騎士の1人。

 しかし、その功名たるを知らしめる事なく…。

 

 

「先手──必勝!!!!」

 

 

 祈望の騎空団の最大火力が火を吹いた。

 

 

「ガンマ・レイ!!!」

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

「起きたわね」

 

(毒の効果は本人が一番分かっているか…寝たふりで不意打ちしても通じんな)

 

 

 コーリスは眠らされてから数分も経たない内に目が覚めた。

 悟られぬ様音を立てずに周囲を観察しようと目を動かした所、毒を打ち込んだ紫の騎士が起きた事に気付き、今に至る。

 

 ここは小型の騎空艇の中である。

 精々乗員4人が限界であろう狭さの中に、操縦者と紫の騎士、コーリスが詰め込まれていた。

 

 

「長距離に特化した自慢の艇よ」

 

 

 程なくして『操縦するのいつも私じゃないですかー』という声が操舵室から聞こえてきた。

 

 

「何のつもりだったんだ」

 

「あなたにアプローチをかける為に騎空団にアプローチをかけ、結果的に全員をどうにか抑え込む事にしたの」

 

「…貴女が取引を苦手とする事はよく分かった」

 

 

 コーリスにとって、突然襲いかかってきた相手とはいえ、七曜の騎士である彼女に過剰な敵意を向ける事は難しかった。

 リュミエールで学んだ歴史や、レイの経験によれば、七曜の騎士は空の抑止力となり、過去400年間世界を守っていたのだという。

 

 犬神宮へ明確な傷害を与えなかった事や、ヴァジュラへの謝罪の言葉も、彼女の人柄を思えば偽りの無い事実だったのでは無いかと思える程に──普通の感情が見えた。

 

 

「私に鎧を脱がせたのはあなたで57人目くらいよ。十二神将の子も入れれば58人……いえ、あなたとあの子で1カウントかしら?」

 

「数える必要あるのか…?」

 

「数えてあげると喜ぶのよ、皆」

 

 

 紫の騎士──クラーレは、既に鎧を着る気が無い様だ。

 鎧の脚部や胸部の上に取り敢えずで兜を粗雑に重ね、槍は彼女の背後には立掛けられている。

 

 ハーヴィンの鎧騎士で尚かつ槍使いという異色の立場だが、彼女を甘く見る事はもう出来ないだろう。

 

 だから逃げる事は───。

 

 

「………あっ」

 

 

 クラーレは唐突に立ち上がって槍を持った。

 その眼に映るのは。

 

 

「クルッ♪」

 

「ディか!!」

 

 

 援軍に小竜のディが飛来する。

 小型艇の外から高速で向かってくる影に、クラーレの部下である操縦者が怯えた。 

 

 

「クラーレさん!竜が飛んで来ます!」

 

「舐めない様に。あれは調停者の一部」

 

 

 久しぶりに暴れ場所を得て、ディは獰猛な笑みと乗り気な声を出しながら内部に侵入した。

 

 

「帰って」

 

 

 クラーレが槍の乱撃を繰り出す。

 この狭さでは満足に槍を振れないが、短く持ち、並外れた技術で効果的な攻撃を繰り出す事を可能にしている。

 

 だがディには当たらない。

 ゾーイの一部であるディとリィは、身体こそ小柄であるものの、戦闘力は星晶獣すらも凌駕する事がある。

 

 ディは全身を大きく震わせた。

 

 

「ゲウ、呼吸を止めて!」

 

「は、はい!」

 

 

 睡眠ブレス。

 ゾーイの持つ掠め手の中で最も理不尽な技と言える。

 人間であるならば吸い込んだ時点で確実に昏倒し、その場に充満する性質上、息を止めながら逃げ出すという選択肢しか無い。

 

 コーリスはそこで好機を得た。

 

 

「せいッ!」

 

「…!」

 

 

 クラーレに向かって槍の様な物質を両手から投擲。

 彼の武器は回収されていたが、これは魔力から作られたものである。

 

 

(防御魔法で作った棒に魔力を纏わせて貫通力を…彼の力なら刺さるし、防御魔法だから硬い…!)

 

 

 クラーレは左手で口を抑えながら右手で迎撃を試みた。

 

──しかし駆け引きはコーリスの勝ち。

 

 

「なッ…」

 

「殺す気は無い!」

 

 

 意趣返し。

 殺意の投擲と思われたが、尖った棒の先端が二股に裂けた。

 開いた先端はクラーレの右手首を巻き込み、壁に突き刺さる事で一時的に身動きを封じた。 

 無論締め付けている訳ではないので、彼女が槍を離して手を抜けば問題は無いが、その間にコーリスは逃げれる。

 

 加えて此処は小型の騎空艇。 

 ディに抵抗する過程で破壊されてしまえばその後に待つのは操縦者を巻き込んだ爆発だ。

 

 

「逃さない…!」

 

 

 既に武器を回収して全力疾走を開始したコーリスに追いつく為、クラーレは周囲に満ちる吐息を晴らし、艇を抜けて全速力で駆け出した。

 

 コーリスは決して背後を見る事無く、最短で森を抜けて騎空艇に戻ろうとしていた。

 その動きを咎める様に、横に飛んでいるディが吠えた。

 

 

「クルルルルルルル!!!!」

 

「悪いが今の俺達じゃ嫌がらせしか出来ん!ゾーイの横で存分にた戦おう!」

 

「…クル?」

 

「ディには感謝してる!だが…彼女は生物にとって天敵だ」

 

 

 ハーヴィンの身体能力は低い。

 筋力は育ちにくく、速度を上げても矮小な体躯が足を引っ張る。

 

 それでもクラーレの速度はコーリスに匹敵する。

 犬神宮の縮地と同じく、魔力操作によって瞬間的な速度を上げているのだ。

 コーリスは防御魔法の形状変化の達人であるが、身体強化は魔力量の力技に頼る事が多い。

 その為、攻撃しながら高速で移動できるゾーイや、瞬間移動を可能とするヴァジュラには劣る。

 

 だから、飛ぶ。

 

 

「艇が見え──」

 

 

 森を抜け、足から魔力を噴出する事で空に飛び立ったコーリス。

 彼が自身の艇で目撃したのは──。

 

 

 

「無事じゃないか!」

 

「おやおや、クラーレが失敗しましたか。想定外ですね」

 

 

 ゾーイと、彼女に相対する鎧騎士──碧の騎士、バミューダである。

 

 

 

(もう一人だと……!?紫を連れてきたのは失敗だったか!)

 

 

 コーリスを視認したゾーイは安堵と共に、彼を受け止めようと意識を向けた。

 背後には槍を地面に突き刺し、そのしなりを利用して飛んだクラーレがいる。

 

 そこで、先程まで交戦していたバミューダが先手を打った。

 

 

「──ボルテックス」

 

 

 バミューダの剣先から大規模な渦が生まれる。

 その光景を見て、ゾーイは艇の周りに発生していた渦が彼の仕業だと言う事に気づいた。

 

 

「少し呑み込まれてもらいます。クラーレに来てもらった方が早いですからね」

 

 

 剣先の渦がコーリスに向かって飛来する。

 

 

(なる程、攻撃技では無く拘束技か。空中で渦巻く水…呑まれれば脱出は難しい。設置すれば艇の動きも止められるという訳だな)

 

 

 コーリスは敢えて自身での対応を諦めた。

 彼が行うのは空中で防壁を出し、それを踏んで方向を変える事だけだ。

 

 

「リィ!」

 

「ルルルル!」

 

 

 コーリスの呼びかけに答えたのはリィ。

 ゾーイの側にいたリィは即座に彼の元へ先回りし、氷の息を渦に向かって吐き出した。

 

 コーリスは予め回避していた事で余波を防ぎ、渦だけが凍結するという結果に終わった。

 だが、空中に留まる性質は依然として健在。それを媒介に新たな渦を作り出されれば厄介な置き土産となるだろう。

 

 

「いい判断だ!」

 

 

 そしてその氷をゾーイの光線が完全に砕く。

  

 その動作の隙にバミューダはゾーイの背後に回り込み、空中からはクラーレが何故かコーリスを無視して彼女の頭上目掛けて降下していた。

 

 

「少々手荒に行きますが…」

 

「あなたは…邪魔……!」

 

「…!!」

 

 

 コーリスは空間に魔力が急激に満ちていくのを感じた。

 七曜の武器が大きく発光し、今にも内に秘めた力が解き放たれようとしている。

 

 そしてその標的はゾーイだ。

 

 

「ゾーイ!!」

 

「心配するなコーリス!造作も無い…!!」

 

 

 ゾーイは不敵な笑みを浮かべながら迎撃の姿勢を取った。

 全空最強の騎士が2人──その奥義を受け止めようとしているのだ。

 

 バミューダの剣が激流の如く荒立ち、クラーレの槍が毒々しく滴る。

 

 

深淵剣(しんえんけん)──」

紫瘢槍(しはんそう)──」 

 

 

 七曜の奥義。

 コーリスは発動の直前に思い知った。

 自身の持つ、どんな大技であっても…これ程までに瞬間的な火力は持ち合わせないと。

 カリオストロのアルス・マグナよりも濃密で、それでいて数秒後に恐ろしい衝撃を生むであろう御業。

 

 砲撃を彷彿とさせる程の水圧を含んだ斬撃と、恐らく対象の全てを侵し尽くす猛毒の破裂槍。

 

 

波濤(はとう)!!」

星触(せいしょく)!!」

 

 

 それと同時に思った。

 

 

「──舐めるな。調停の翼を」

 

 

 ゾーイの方が強い、と。

 

 

「そして、私達を」

 

 

 瞬間、騎士達に雷が降り注ぐ。

 その雷は艇に衝撃を与える事なく、正確に対象に流れ込む。

 

 

「……っ」

 

「ぐ、ぅ…!」

 

 

 だが、奥義は既に放たれた。

 ゾーイに当たるのは時間の問題か──否。

 

 彼女は行動を防ぐ為に雷を放ったのでは無い。

 ただ、自身が振るう技を──確実に当てる為に放ったのだ。

 剣を盾に差し込み、その全体が光の剣の様に輪郭を取り始める。

 

 そしてそれを、薙ぎ払う。

 

 

「ガンマ・スラッシュ!!!」

 

 

 それはガンマ・レイの光線を剣に纏わせて薙ぎ払う技。

 その絶大なエネルギーは七曜である2人の奥義を()()()()、ねじ伏せた。

 

 

(七曜の奥義が………潰された?)

 

 

 クラーレは自身を襲う光線の嵐の中、驚愕に満ちていた。

 相殺、圧倒的な火力。

 即興の奥義故に魔力の込め具合が順当では無かったかもしれない。

 

 しかしそれでも、調停者に1つの傷を与えるくらいの抵抗は出来るだろうと…そう、思っていた。

 

 

「余裕は与えん!」

 

 

 間髪入れずにゾーイは盾を地面に打ち付ける。

 

 

「レイストライク!」

 

 

 盾を介して地面に光が迸り、相手の身体へ噴き出す。

 逃げる事の出来ない地獄の攻撃に苦しむ騎士達を前に、ゾーイは悠々と歩みを進める。

 

 

「その鎧なら耐えるのに造作も無いだろう。だが、槍使いの君はどうだろうか。投降を勧める」

 

 

 七曜の鎧はゾーイの光線に耐える耐久性を持つが、クラーレはその鎧を脱ぎ去っている。

 速度を得る為と言えばそれまでだが、彼女を相手取るには余りにも無策であった。

 

 

「っ………ハァッ!」

 

「来るか」

 

 

 未だ身動きを封じられながら、クラーレは指先から紫毒を放つ。

 ゾーイは冷静に盾で防いだが──

 

 

「む」

 

「ゾーイ、それは酸だ!彼女はあらゆる毒を生成でき──っ!?」

 

「ネタバラしは辞めて下さい。私達が負けます」

 

 

 傍観者となっていたコーリスへバミューダが剣を振るう。

 ゾーイの3連撃を受けて平然と動ける事に驚きながらも、彼は刀を抜いて応戦した。

 

 一方、ゾーイの盾は…。

 

 

「危険だな」

 

「…どの口で」

 

 

 酸によってドロドロに溶けていたが、彼女が力を供給した事で瞬く間に再構築された。

 星晶獣の武具は身体から生み出される物が大半であり、破壊されても作り直せる利点がある。

 

 

「ディ、リィ。氷と睡眠を同時に」

 

 

 2対のワイバーンが同時に息を吐く。

 クラーレは酸の壁を作ったが、それは物理攻撃の不可侵を意味するだけであって、ブレスを防ぐ事は叶わない。

 

 

「私は重役ですね」

 

「また君か──!!」

 

 

 クラーレが苦戦する度にゾーイへ技を振るうバミューダ。

 コーリスから一目散に逃げたと思えば次は彼女へ。彼の優先順位はゾーイの無力化が最上位なのだろう。

 

 

 

「片腹痛い!!」

 

 

 そこでゾーイは全身から波動を放った。

 星の力をただ放出するという、最早ヤケになったのかと疑われる行動だ。

 

 だが、彼女の強さは理不尽。

 バミューダどころか遠方に位置するクラーレすらも壁際に吹き飛ばした。

 

 

「余りに脆い!」

 

「ぐ、ぅ…!?」

 

 

 ゾーイは続けて盾を構えながらクラーレに突撃。

 ハーヴィンの弱点はシールドバッシュであるとコーリスから教わった彼女は、盾に力を注ぎ続け、溶かされても直ぐに対応出来るように備えた。

 

 一方バミューダの元へはコーリスが向かう。

 

 

「本当に元気ですね、コーリス」

 

「馴れ馴れしいッ!!」

 

 

 何度でも立ち上がる青鎧に対して悍ましさを感じながら、コーリスは防壁で巨大な槌を作り出す。

 

 

「おやおや、死にますよ私?」

 

「殺す気なだけで死にはせん!」

 

「その判断力は何より」

 

 

 軽口を叩きつつも彼は後退を始めていたが…。

 

 

「……ふむ」

 

 

 甲板が変形して彼の足に絡み付く。

 カリオストロが遠隔で仕込んだ罠である。

 

 

 

「鎧越しの衝撃は誤魔化せまい──圧撃ッ!!!」

 

 

 碧の騎士は渾身の振りかぶりを正面から受け、何も発さずに壁に突き刺さった。

 

 

「ゾーイ!」

 

「私は終わった!彼女の至近距離にディとリィが待機している」

 

 

 コーリスの元へゾーイが戻る。

 彼女が指差す先ではクラーレが項垂れて座り込んでいた。

 よく見ればディとリィを睨みながら唸っている。

 

 

「七曜の2人に勝つとは…さすがゾーイ」

 

「人の願いから生まれた故に、調停者に不可能は無い。当然の結果だ」

 

 

 ふふん、と胸を張るゾーイ。

 褒められて機嫌を良くしたのか、その口は平常より周り、言葉は軽くなる。

 

 

「…だが、あのハーヴィンを一撃で倒し切れないとは」

 

「どういう事だ?」

 

「私の光線を受けて平然と戦い続けたんだ。あの剣士の鎧は特別だと思っていたが、彼女は何も着ていない」

 

 

 ゾーイの火力はまともに受ければ消し炭になる。

 コーリスは焦がす程度、カリオストロが爆散と考えれば、人間が防御するには余りに遠い格差がある。

 

 それにも関わらず、クラーレは槍を振るった。

 ゾーイはそれが腑に落ちなかったのだ。無論、手加減はしたが、生存という状態を保たせる程度で、気合で耐えれるものではない。

 

 

「私が思うに、武器の方だ」

 

「何かされたのか?」

 

「彼等が同時に奥義を放った時…私は()()()()()()()()があった。彼等の武器には星の力を吸収する性質があるのかもしれない」

 

「七曜の座は覇空戦争時に服従の証として空に贈られたとレイから聞いている…星の技術で作られた武器ならばあり得ない話ではないな」

 

「私でない星晶獣ならば吸収した力を利用され、大打撃を受けていただろう。だから彼等は強硬手段とも言える急襲に必死になっていたんだ」

 

 

 ゾーイは空のあらゆる驚異に対抗出来るように力を与えられた使徒。

 力を奪われたのなら更に注ぎ込み、自身の力ごと薙ぎ払うだけなのだ。彼女に対して正面から挑む事こそ間違いだったのかもしれない。

 

 

──その上でコーリスとゾーイは敗北を理解した。

 

 

「…囲まれた。艇の周りに渦が仕込まれていた時点で詰んでいたのかもしれない」

 

「この渦の破壊は出来なかったのか?」

 

「剣士に時間を稼がれてしまった。すまない」

 

「…いや。しぶとそうだったから、そうなるか」

 

 

 フロンティア号を取り囲む数多の騎空艇。

 国家権力の総動員とも呼べる物量に、彼等は抵抗を諦めた。

 

 まず、20を超える艇──その大砲が全て此方を向いている。

 砲撃から逃げるのはゾーイの力を以てすれば容易だが、その場合犬神宮を人質に取られる事は明白だった。

 

 そして、全ての騎空艇を破壊する事も難しい。

 頼りのゾーイがここを去ってしまうと、七曜の2人がいつ復帰するか分からないからだ。

 

 

(ディに七曜を眠らせてもら──いや、怪しい動きで直ぐに砲弾が撃ち込まれるな)

 

 

 バミューダの渦でフロンティア号の動きを封じ、ゾーイの足止めをする事で渦自体の破壊を防ぐ。

 恐らくはクラーレがコーリスを捕獲した時点で任務は完了の筈だったのだろうが、ディの働きでそれは回避された。

 そして甲板での戦闘でクラーレの呼んだ騎空艇の包囲が完了。

 

 練られずとも急襲作戦とは対応が難しいものである。

 例えゾーイが最強であったとしても、犠牲無しに敵を蹂躙する事は叶わない。

 

 

「すまない、コーリス」

 

「…これだけ約束してくれ」

 

 

 投降を呼び掛ける文言が拡声器によって木霊する。

 だが2人は手を上げながら全く別の事を話していた。

 

 

「連れてかれた先で、俺やカリオストロ、ノアさんが殺されそうになったら」

 

「うん」

 

「滅茶苦茶暴れてくれ。軍だろうがなんだろうが録でもない奴等に違いないから」

 

「了解した」

 

「あ、でも一般市民に手を出さない様に」

 

「私を何だと思ってるんだ…」

 

 

 その呆れとは裏腹に…

 

 

「まぁ…でも──」

 

 

 ゾーイは怪しげな笑みを浮かべていた。

 

 

「──彼等は私が怖いようだね」

 

 

 それは悪巧みであった。

 

 

 

 

 





ゾーイが早速七曜の騎士をボコボコにしましたが、自分の中では力の差を大きくは付けてません。
火力勝負ではゾーイが圧倒的に強いので、その土俵に相手が踏み込んだからこうなったって感じです。

多分コーリスの捕獲とか抜きに殺し合いしたら、結構いい感じに戦えると思います。


紫の騎士
・自分の艇を持ったは良いものの操縦出来ず、専属を雇って操縦させている。
・部下からはダメな人と思われている。

紫瘢槍(しはんそう)星触(せいしょく)
・七曜の武器を用いた奥義。
・星の力を吸収しつつ、凝縮された猛毒の波動を放つ技。


碧の騎士
・名前はバミューダ。
・コーリスとゾーイが声から感じ取った印象が『優しく穏やかなおじさん』なので、戦闘中気味が悪くて仕方が無かった。
・クラーレと比較して非常に防御よりな騎士。純粋な水属性使い。

ボルテックス
・空中戦では最高級のクソ技。
・触れたら中心に呑み込まれる渦を発生させる技で、空中に配置する事も出来る。
・攻撃性能は任意で設定でき、水圧を高めた渦に騎空艇が触れるとズタズタになって空の底に落ちる。

深淵剣(しんえんけん)波濤(はとう)
・星の力を吸収しつつ、剣に激流を纏って振るう技。
 

ゾーイ
・副団長としてちゃんと命令が出せる。偉い。
・火力だけの脳筋という訳ではなく、火力が目立つだけで様々な戦法を取れる万能攻撃手。
・空中に浮きながら移動するので、格ゲーのコンボみたいな戦い方をそのまま出来る化け物。

サンダー
・雷をピンポイントで降らせる技。痺れ重視。

ガンマ・スラッシュ
・剣と盾を合わせて光を纏い、薙ぎ払う技。
・光線と違って破壊規模が少なく、威力が凝縮されている。

レイストライク
・剣や盾から光を地面に流して敵を狙い撃ちする技。
・速度重視で範囲は極めて狭い。
・雷で動きを封じ、ガンマ・スラッシュで薙ぎ払った後の起き攻めとして使える為、ゾーイお気に入りの技。


コーリス
・魔力がまた空になりそう。
・地味に碧の騎士を防壁ハンマーでぶっ飛ばすファインプレーを披露。
・最近カリオストロのサポートタイミングを直感で測れるようになった。
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