幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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69.オラつきゾーイ

 

 

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《『祈望の騎空団』についての報告》

 

──碧の騎士 バミューダ・ベルリック

 

 

 イスタバイオン王国真王陛下へ申し上げる。

 

 『コーリス・オーロリア』、ひいては『祈望の騎空団』について、当該作戦に関した報告を記する。

 

 『祈望の騎空団』の団員は団長のコーリス・オーロリア(以下『コーリス』とする)、副団長のゾーイ、操舵士のノア、団員のカリオストロの4名である。

 騎空団の活動方針は団長の意向によるものであり、数少ない団員を派遣する事も多い。

 戦闘の指揮は主にコーリスが執っているが、操舵室から離れる事が不可能なノアを除けば、カリオストロも含めた戦闘員全員が独自に行動を取る事が出来る。

 また、戦闘員はファータ・グランデ空域における普遍的な騎空団の団長が持ち合わせる判断力を十分に有しており、団長のコーリスを無力化したとしても動きが鈍化する事は無いだろう。

 

 当該作戦における戦闘では『祈望の騎空団』の騎空艇であるフロンティア号にて、私と紫の騎士が交戦し、団員の拘束に成功した。

 交戦時にはコーリスとゾーイの連携により、私と紫の騎士が一時的に戦闘不能となった為、強硬的な対処に当たる場合には相当の兵力が必要になるだろう。

 特に、ゾーイが持つ調停者としての力は七曜の騎士の総力に匹敵する可能性がある。

 また、フロンティア号に大砲等の兵器は一切備わっていないが、カリオストロの錬金術により自由に形を変えられる為、戦闘に際しては注意する必要がある。

 

 犬神宮での戦闘と、それに伴う被害への補填については紫の騎士の報告書を参照する様申し上げる。

 

 また、イスタバイオン軍が調停者であるゾーイに対して戦闘を避ける判断をしている事が認知されている、又は察知されているので、武力による刺激は今後一切行うべきでないと提言する。

 

 再三に渡り申し上げる。

 祈望の騎空団はファータ・グランデ空域の平常を保つ上で重要な要素である事は間違い無い。

 その上でイスタバイオン王国の領空とする事で更なる恒常的な管理を進める計画は中止するべきだと確信した。

 かの者たちが自由に行動出来ているのは空域の特性があってこそであり、黒騎士候補のコーリス、調停者のゾーイ、錬金術開祖のカリオストロを敵に回すリスクを負ってまで侵略を広げては、アウライ・グランデ大空域の調和を乱す惨事に発展する可能性が高い。

 

 よって、コーリスを黒騎士へ任命する案に強く賛成の意を示す。

 

 

 

 

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「暴れないでね。これから渡航が荒れる」

 

「…」

 

 

 騎空艇に囲まれたフロンティア号の甲板にて、コーリスは紫の騎士であるクラーレに手錠をかけられていた。

 周囲には銃を構えた異国の兵士達が立っており、此方の動向に対し常に目を光らせている。

 

 

(…何方かというとゾーイに対しての警戒か)

 

 

 横ではゾーイも同様に拘束されていた。

 ディとリィは碧の騎士、バミューダによって攻撃力の無い渦による無力化を受けていた。

 

 最も、コーリスとゾーイは無抵抗のまま甘んじて拘束を受け入れたのだが。

 

 

「いやーん!変なところ触らないでよ〜おじさんっ!」

 

「静かにして下さい」

 

「えっち♡」

 

「こんの……!」

 

 

 そしてカリオストロも同じくこの場に連れ出され、軍の騎空艇がフロンティア号を運搬する用意が出来た所でノアもコーリスの横に並べられる。

 

 4人は大罪人の様に膝をついて座らされ、クラーレとバミューダが目の前に立った。

 最初に口を開いたのはバミューダだ。

 

 

「突然の強襲、誠に申し訳ありません。質問は答えますよ」

 

「3つある」

 

「幾らでも」

 

 

 穏やかな声を発するバミューダに対して、コーリスは咎める様な声で問いかけた。

 

 

「1つ。俺達に対して害意ではない別の用があるの分かった。その上で何故武力行使を?」

 

「私達の要求は余りにも身勝手なものでして、それ故多忙な騎空団に"今すぐ"の依頼は不可能だと判断したからです。それに、あなた達はやむ得ない状況になって初めて投降しましたが、他の空域では七曜の騎士が来た時点で投降しますよ」

 

「…そっちの権威が空域を凌ぐかのように言う」

 

「事実ですから」

 

 

 あっけからんとした姿勢を崩さないバミューダに苛つきながらもコーリスは2つ目の質問を放った。

 

 

「2つ。この軍隊はこれから何処へ?」

 

「この軍はアウライ・グランデ大空域にあるイスタバイオン王国のものです。その王国を統べる真王はナル・グランデ空域、エクセ・グランデ空域を統括下に、他の4空域も騎士を介して実質の支配下に置いています」

 

「ファータ・グランデは支配されていないと」

 

「そうです。とはいえ、これから支配する気もありませんよ。主な説明の為にアウライ・グランデに来てもらいます」

 

 

 他の空域についてはファータ・グランデの国々も知るところではない。

 主な7つの空域の内、5つがアウライ・グランデに支配されている事は衝撃的だったが、コーリスは思考を切り替えて最後の質問に移った。

 

 無論、抵抗すればどうなるかという分かりきった事は聞かないだろう。

 

 

「3つ。お前等の目的は俺か、騎空団か」

 

「騎空団としての形を保った君が必要なんですよ。これは陛下がファータ・グランデを保つ上で祈望の騎空団という要素が重要であると判断した為です」

 

 

 真王とやらの裁量がどこまで信じられるのか。

 全空に羽ばたく七曜の騎士が一人の王の元で横暴を働いてる事にコーリスは少し失望した。

 しかし、この場は相手の言葉のまま動くのが最善か。少なくともカリオストロは此方の意向に沿って動いた事から、悪くない判断だったと彼は認識した。

 

 だが、ゾーイは口を挟んだ。

 

 

「君達の行動は世界を乱すものではない。私の権能が感知していない事からそれは認めよう」

 

「有り難いです」

 

「だが、私個人として君達の蛮行は気に食わない。もし仲間に深い傷を負わせていたのなら………」

 

「脅しが苦手な様ですね。すんなり諦めた瞬間を見ましたよ?」

 

 

 そう、これは脅しだ。

 バミューダが笑う様に、先程の状況を鑑みれば随分と粗末な脅し文句だろう。

 

 

「…私は口が下手なんだ」

 

 

 

 ゾーイは大きく目を見開きながら呟く。

 

 

 

「だから、身体が先に動く」

 

「………」

 

 

 バミューダの笑い声が消えた。

 

 

「最近ふと思う。私は随分と我儘になってしまったと。コーリスと過ごして美味しいものを沢山食べて舌が肥えてしまったのだろうか」

 

 

 ゾーイだけが喋る。

 

 

「我儘だから、苛ついたら暴れてしまうかもしれないなぁ」

 

(脅しの文言がなんかかわいい…)

 

 

 コーリスは漠然とそう思ったが、敵からすればこの脅しは空恐ろしい物に違いない。

 七曜の騎士、それも2人を無傷で退け、現時点でもあくまで島を人質に取って拘束しているだけで、実質の無力化には程遠い。

 人質の効力よりも先にゾーイが爆発しては全滅だ。

 

 不慣れな脅迫は、想定以上に敵を恐怖させていた。

 

 

「…バミューダ、黙って」

 

「クラーレより口が上手いですね」

 

 

 クラーレが軽くバミューダを蹴り、コーリスとゾーイの近くに移動する。

 下から見上げる彼女の姿を見て、何故かカリオストロが吹き出す。

 

 コーリスは思わず突っ込んだ。

 

 

「何故笑う…失礼だろ」

 

「コーリスはこんな小さな女の子に負けたんだね☆」

 

「俺の事を笑っていたのか…」

 

 

 無言を貫いていた筈のクラーレが眉をひそめてカリオストロと向き合う。

 この場の全員が、目と目を交差する稲妻を幻視した。

 

 

「あ?何だよチビちゃん」

 

「錬金術の開祖と聞いていたけれど…まともな会話を構築する事は出来ないのね」

 

「あんま上手くねぇな」

 

「………うるさい」

 

「お前みたいなガキが兵を率いて七曜を名乗るってのは…アレか。人手不足で強いだけの奴が偉くなっちゃう本末転倒パターンの現れか?」

 

「ガキじゃないわ。31歳よ」

 

 

 剣呑な空気が流れる。

 兵達はクラーレが怒る事に気を張り詰めているのでは無く、初めて聞いた年齢に戦慄しているのだ。

 

 ポジティブに言えば、31歳と思えない程には見た目が若いという事だ。

 ハーヴィンは小人というだけで、老いの早さは他の種族と変わらない。

 

 

「ちなみにオレ様を殺すと錬金術の恩恵に預かれないと思った方がいい」

 

「錬金術師はあなた以外にも沢山いるじゃない」

 

「大半は野良の魔法使いにも劣るノータリン共だ。オレ様は戦闘、建築、不老不死、治療…それ等を錬金術の応用で行える。その技術が一生手に入らねぇってこと」

 

「自惚れね」

 

「どうせ大国。錬金術を学ぶくらいの施設はもうある筈だ。で、活かせたか?」

 

「…」

 

「ヘルメスと手を組んだ所でオレ様の作った構築式はオレ様の頭ん中にしかないんだよ。なんにも役に立たなかっただろ?」

 

 

 ゾーイに乗じて煽るカリオストロ。

 クラーレは歯を噛み締めて会話を諦め、コーリスの前に再び移動した。

 ニヤニヤと悪辣な笑みを浮かべる開祖を横目に彼女は、溜息を吐いて告げる。

 

 

「これからあなた達をアウライ・グランデ大空域へ連れていく。真王に会って、話を聞いて…用が済んだら帰れると思う」

 

 

 返答はしなかった。

 コーリス達は先程よりも幾分かマシな気分で留置場に運ばれたのだった。

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 留置場。

 特に不都合も不自由も無い客室の様な場所で、コーリス達は駄弁っていた。

 窓を見るコーリスと、椅子に座るゾーイとカリオストロ。

 そして、何処か哀愁が漂うノアが立っている。

 

 

 

「瘴流域って…渡れるんだな」

 

「七曜パワーってやつ?」

 

「何方かというと瘴気が捌けてないか?」

 

「ノアー、教えてくれ」

 

 

 空域を隔てる瘴気──瘴流域。

 人体に有毒な瘴気、それによって魔物は活性化し、更に大群を成す。

 また、嵐の様な気候が騎空艇の移動を妨げる事から、そもそも通れないという認識が正しい。

 

 しかし、窓から覗けば瘴気が艇を避ける様に動いていた。

 その露骨な動きにカリオストロはノアの知識を求めたのだ。

 

 

「…瘴流域は星の民が敷いたのものなんだ」

 

「空域として分ける事で統治を円滑に…か。移動制限で敵戦力の分散にもなるしな」

 

「でも、いくつかの星晶獣が持つ『空図の欠片』を集めれば星の力で瘴気を晴らす事が出来る」

 

「…空図?」

 

「星の民が遺した情報の塊みたいなものだよ」

 

「つまりアウライ・グランデの奴はそれを持ってるってことか」

 

「…いや、これは違う。何か裏技を使ったんだと思う」

 

 

 ノアの言葉によると、空図の欠片を用いた時の反応とは異なるらしい。

 瘴気そのものが消える訳ではなく、動いているからだ。

 

 七曜の武器と同じく、何か特別な力を行使しているのか。

 考えても予想の範疇を超えないと分かり、各々は会話を続けた。

 

 

「それにしてもいい演技だったぞゾーイ」

 

「そうか?」

 

「シンプルにビビらせんのが一番いい。なぁコーリス?」

 

「脅しは言葉を強くするよりも、力を見せた後に念を押す方が効果的だ。確かに上手だった」

 

「…そうか!ならば今後も──」

 

「いや、無理はしなくていい。俺達が命の危機に瀕するなら暴れてもらいたいが、今の所敵戦力の全貌が見えない。怯えようからしてゾーイを上回る兵力を持つとは思えないが…念には念を」

 

「ふむ…暴力的な気分も悪くなかったのだが」

 

 

 さり気なく危険な発言をするゾーイに触れず、コーリスは無表情を貫くノアに声をかける。

 

 

「フロンティア号が心配ですか」

 

「うん…それもある」

 

「…軍の騎空艇はあんなものです」

 

「だとしても、良い気はしないよ」

 

 

 カリオストロが会話を聞いて眉をひそめる。

 ノアと出会った時、騎空艇の様式を決める際に彼の表情が変わる瞬間があった事を思い出したのだ。

 

 だが、あえて会話には参加せず耳を傾けた。

 

 

「騎空艇は空の人間にとって未来そのものだった。島を見つければ人に出会い、絆が繋がれば物流が生まれ、技術が進歩する。今の人達は兵器としか思っていないんだろうけどね」

 

「…しかし、守る為でも必須です。リュミエールも護国の為に兵器として扱いました」

 

「そうだね…。でも、僕は艇作りの星晶獣だから…戦いに価値を見出されてる艇達を悲しく思ってしまうよ」

 

 

 ノアは騎空艇を移動の道具だと認識している。

 騎空艇の技術を仕込む為に作られた星晶獣であるが故に、元来の用途が頭に刻まこまれているのだ。

 

 だが、技術の発展によって騎空艇の在り方は多岐に渡り、国に必要とされている用途は戦闘。

 人々の祈望を担う存在が血みどろの戦争兵器に変わった事を、ノアは許せなかった。

 

 それと同時にカリオストロは小さく息をついた。

 戦闘兵器として改造される事は自然であり、合理的とも言える。その事を分かっていながら感情を吐露するノアに驚いたのだ。

 

 思ったよりも人間らしい、と。

 

 

「コーリスは悪い事、してないよね」

 

「…え?はい…恐らくは」

 

「きっと、イスタバイオンという国も悪事の為にコーリスを襲ったわけじゃないと思うんだ」

 

「過程が悪事なら、結果で目を瞑ることは出来ません」

 

「そう。どんな理由であっても、例え味方を守るために騎空艇の砲撃で敵を殺めたとしても、僕はそれを正義とは認めたくない」

 

「…ノアさん」

 

「僕はきっと、戦いそのものが嫌いなのかもしれない」

 

「…」

 

「ごめんね」

 

 

 ノアは精神的に疲弊していた。

 身に覚えのない理由による敵襲や戦闘が相次ぎ、自身は帰る場所を守らなければならない責任感。

 何より、コーリスが何らかの思惑によって振り回される光景を見たくなかったのだ。

 

 その意に、ゾーイが無意識に唇を噛んだ。

 

 

「入るわ」

 

 

 瞬間、扉が開いた。

 

 

「ノックしろ」

 

「あなたに用は無い。開祖」

 

 

 クラーレが突然プレートを持って入ってきた。

 ティーカップが4個乗っている。

 

 不意打ちの入室に思わずコーリスが問いかけた。

 

 

「…何のつもりで」

 

「機嫌を取りに来たわ。バミューダが失礼したから」

 

「本当に聞けば答えるんだな。普通言わないだろうに…」

 

「正直者は救われるから」

 

 

 犬神宮にした仕打ちを棚に上げた彼女に苦笑いしながら、コーリスは誰かがカップに手を付けるのを待った。

 クラーレが首を傾げる。

 

 

「紅茶は嫌い?」

 

「いや…その、少し警戒を」

 

「美味しいわよ。淹れたの私じゃないから」

 

「んん…?」

 

「私が淹れるとコーヒーみたいな味になるの」

 

 

 ゴクゴクと片手で紅茶を飲むクラーレ。

 1つのカップが安全だからといって、他の安全が保障されるわけではないが、此処で飲まないのも申し訳ない気がしてくる。

 そう考えたコーリスとゾーイはカップを手に取った。

 遅れてノアも手に取る。

 

 ちなみに紅茶の配給から除外されていたカリオストロは青筋を浮かべていた。

 

 

「…美味しい」

 

「ふむ…紅茶を初めて飲むが、匂いに反して甘くないのだな」

 

「手前にある角砂糖とミルクを入れれば甘くなるよ」

 

「おお、ありがとうノア」

 

 

 一級の茶葉なのか、淹れた者の腕がいいのか。

 3人は警戒心など忘れたかの様に茶の味を楽しんだ。

 

 

「…苦い」

 

 

 一人だけ多めのミルクとを用意されていたクラーレは、躊躇うことなくそれを全投入し、ガブ飲みと形容できるほどの速度で飲み干した。

 その動きに品は無かった。

 

 

「…真王とは、何なんだ?」

 

 

 コーリスは聞いた。

 真王に仕える七曜の騎士本人が目の前にいるのだ。もし自分達に対して害意が無いのなら、大雑把な人物像くらいは教えてくれる筈だと思った。

 

 

「そうね…何処を見ているか分からない人、かしら」

 

 

 クラーレはひと呼吸置いて話し始めた。

 

 

「先の事を考えてる人は、物事が及ぼす影響を長い目で見るでしょ?」

 

「為政者の考え方だな」

 

「でも、彼は過去に何が起きていて、現在にどう繋がるかを常に反芻している」

 

「…歴史の前例から結果を予測する事は自然ではないのか?」

 

「現時点で全く関わりの無い国、それか個人を常に監視する事だってある」

 

「それこそ未来を見越しての事に思えるが…」

 

 

 歴史を学び、戦争等の前例から未来への導線を敷く事は珍しい話ではない。

 遥か未来の事を考えるのは大国として当たり前のことでは無いのか。

 コーリスは特段疑問に思わなかった。

 

 

「彼は『点』を付けているの」

 

「点?」

 

「ある時代、ある国、ある人間。歴史上に存在する出来事の一部を切り取り、注視する。それこそ、ファータ・グランデに存在する何の変哲のない田舎島に、星晶獣も英雄もいない島にだって…」

 

「…目星か」

 

「だから私が七曜の座を受けて、初めて謁見した時に聞いてみたの。何の為に世界を見てるのかって」

 

 

 クラーレはしみじみと語った。

 

 

「『全ては百年後の為に』って言われたわ。意外だったのは、それが口癖の様に扱われてる事。彼は遥か先にある何処かの『点』で起きる戦いに備えているの」

 

「そんな未来予知者みたいな」

 

「歴史書の様に世界を見るの。未来も含んだ全ての」

 

 

 この場にいる全員が思った。狂人であると。

 妄想じゃない方がおかしい。もし真王に未来を含む全てを見通す能力が備わっているのなら、たった一人の人間に大役を任す世界も狂っている。

 

 ゾーイでさえも、均衡という一条件に限って現在を見通す事が出来るのであって、過去から未来に渡る空の軌跡を辿るなど、神の御技としか言いようがない。

 

 

「貴女は…信じたのか?」

 

「全く」

 

「…なら何故」

 

「『今』を犠牲にしている訳じゃないなら、それでいいから」

 

 

 それっきり、コーリス達は無言のまま長い時間を過ごす事となった。

 何故か、クラーレが目的地に着くまで退室しなかったからだ。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

──イスタバイオン王国、謁見の間。

 

 

 

「いきなり?」

 

「陛下が命じたんです。当然でしょう?」

 

「いつの間にか手錠も外されている。私達も側に居て良いという事だな?」

 

「構いません。ただ話を聞いてくれればそれで」

 

 

 騎空艇が到着し、コーリス達はアウライ・グランデの情景に浸る間も無くイスタバイオンの宮殿に連れられ、廊下を抜けた先は謁見の間。

 目の前に映る玉座には誰も座っていない。

 

 そして、この場にはクラーレとバミューダ以外に兵はいない。

 門番すらも外で構えているだけだ。

 

 恐らく、これから真王が姿を表すのだろう。

 鎧を身に纏ったクラーレがそれを証明している。

 

 

「ノアさん、跪かなくてもいいですからね」

 

「するつもりは無いよ」

 

「無論、私もだ」

 

「カリオストロもぉ〜」

 

「貴方達は本当に怖いもの知らずですね」

 

 

 少し引きながら小声で咎めるバミューダ。

 ここにいるのは敵意丸出しのコーリス、脅迫調停者のゾーイ、大国舐め腐り開祖のカリオストロ、不機嫌なノアだ。

 

 ノア以外まともに話を聞かないだろう。

 祈望の騎空団に怖いものはないのだ。

 

 

 

 

 

「──よくぞ来てくれた、祈望の騎空団」

 

 

 そして、束の間。

 カツン、という音と共に一人の男性が現れた。

 

 種族はエルーン。年の頃は40から50と言った所か。

 容姿は何処にでもいる国王の様で、童話から抽出したかの様な立ち姿。

 貴顕紳士な振る舞いに、これでもかと飾り付ける王冠。

 

 その顔を見てコーリスはクラーレの話を思い出した。

 

 

(疲れた顔───そして…)

 

 

 彼は()()()()()()()()()()視線を向けてくるのだ。

 その人間の奥を見通すように。

 

 

「ファータ・グランデでの活躍は耳にしている。当然、直接見てもいるがな。紫に聞いた筈だ」

 

「はい」

 

 

 どんな手段であれ、エニュオとの戦いは視認されていた事が分かっている。

 コーリスは粛然と答えた。

 

 

「あの戦いを見て確信したのだ。影響力に地力が追い付きつつある、と」

 

「話が見えないな真王。君は私達に何を求める」

 

「では、本題に入ろう」

 

 

 無礼と咎められる筈のゾーイを見過ごし、真王は腕を小さく上げた。

 横から数人の騎士が姿を現す。

 

 この場にいる騎士は──七曜だけだ。

 真王は名を呼んだ。

 

 

「紫の騎士、クラーレ」

 

 

 紫の鎧、携えるのは槍。

 

 

「白騎士、ブロンシュ」

 

 

 白の鎧、携えるのは大剣。

 

 

「緋色の騎士、タルヴァザ」

 

 

 緋の鎧、携えるのは剣。

 

 

「黄金の騎士、リノア」

 

 

 金の鎧、携えるのは細剣。

 

 

「碧の騎士、バミューダ」

 

 

 碧の鎧、携えるのは長剣。

 

 

「緑の騎士、エヘカトル」

 

 

 緑の鎧、携えるのは刀。

 

 

 …総数6名。

 

 

 

「信頼のおける配下。武に捧げた忠実な騎士達。だが…」

 

「…」

 

「七曜とは名ばかりで、一人足らん」

 

 

 真王は騎士の一人一人に目を向け、再びコーリスを見た。

 

 

「祈望の騎空団団長、コーリス・オーロリアよ」

 

「……はい」

 

「この六人の騎士を糧とし、ファータ・グランデを統治する七曜──黒騎士となれ

 

「───!」

 

 

 コーリスは声を出せなかった。

 七曜の騎士が各空域の代表として選出されている事は分かっている。

 しかし、ファータ・グランデで名を広めたと言って、最強になった訳ではない。

 

 それこそ、ただの騎空団の筈だ。

 抗議と疑問の声を上げようと口を開いた瞬間──

 

 

 

「それが人にモノを頼む態度かァッ!!」

 

「そうだそうだ!」

 

「私は断固反対する!抗議する!その態度にだ!!」

 

「年の功ならオレ様がトップだぞ!」

 

 

 

 ──ゾーイとカリオストロが爆発した。

 

 ゾーイは未だ脅しの演技が残っている可能性が捨てきれないが、カリオストロは完全な愉快犯。

 コーリスの全身が震え、ノアは彼を連れて逃げる準備をし始める。

 

 七曜の騎士達は明らかに固まっている。

 毅然とした態度では無く、純粋に驚いている。

 そして、黄金の騎士だけが怒りに震えるように鎧を鳴らしていた。

 

 

 

「こやつ等め、ハハハ」

 

 

 

 真王は軽く笑った。笑っただけだ。

 

 

 

「………フッ」

 

 

 

 コーリスは土下座の準備を完了させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《任務についての報告》

 

──紫の騎士 クラーレ・ピソラ

 

 

 真王へ。

 

 コーリス・オーロリアの捕縛につき、犬神宮での交戦が発生した為、十二神将ヴァジュラへの弁解と補填を提案する。

 犬神宮へ齎した被害は毒による睡眠であり、対象は全島民。

 

 捕縛目標は話し合いに応じる気がなく、私はそれを察したのでやむを得ず戦闘に発展。

 これは本当である。嘘ではない。

 

 彼なら鍛えれば七曜を名乗れると思う。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 




紫「ごめん犬神宮に喧嘩売った。これ報告書」

真王「ふざけんなよボケが」


みたいなノリをいつもやってる。




コーリス
・ゾーイを調子に乗らせた。

ゾーイ
・役に立って嬉しかったからか調子に乗りすぎた。

カリオストロ
・完全に調子に乗った。

ノア
・まともだがゾーイに対して『もっとやれ』と思ったりもした。
・騎空艇は移動手段、これは譲らない。

クラーレ
・31歳ハーヴィン。
・仕事が出来る大人。
・部下に紅茶を淹れさせて客人に持っていくなど、人への気遣いも出来る!

バミューダ
・サイコパスだと一方的に思われてるおじさん。

真王
・原作よりおよそ百年前の真王。
・老人では無いが、疲れた目と老け込んだ印象を与える表情が特徴的。
・寛大。



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