遅れてごめんなさい。
話は思いついてるんですが、文章にするのが難しいです。
彼は『正義』に殉ずる人間だ。
白騎士、ブロンシュ。
彼はコーリスを許さない。
コーリスも、彼を許さない。
正義の為に生まれ、
正義の為に育ち、
正義の為に戦い、
正義の為に悩み、
正義の為に殺し、
正義の為に見捨て、
正義の為に嫌い、
正義の為に絶望し、
正義の為に信じ、
正義の為に託し、
正義の為に生き、
正義の為に生き、
正義の為に生き、
正義の為に生き、
正義の為に生き………
そしてからっぽとなる。
彼は白騎士として生きている。
─────────────────
とある一室にて、2つの声があった。
一方は揚々と聞こえる音にしては陰気で、隠し切れない憤怒と侮蔑が現れており、もう一方は口数が少ない分、その一言一言に殺意が宿っていた。
「なるほど、君が観測者だったか。それとも…傍観者と言った方がいいか?」
「それは互いにだろう」
「…」
「事が起きてから現れる調停者を名乗りながら、何一つ対処出来ず、ただ目の前の苦しみに対して歯噛みするだけの半端な機械」
「なら、君は自身の意義を他者の正義に委ねる以外の方法を知らない、仮初の騎士だ」
「黙れ」
「断る。はっきり言えば、
空気が歪む。
「正義に身を捧げたのだから、自分も正義に振り向いて欲しかったのか?」
「──お前は後悔する。あの男に世界の行く末を委ねた愚かさと、お前の創造主の遅れた知能に」
「正義がどんなものかを探るのが人間であって、正義という概念自体に依存するのは間違っている。感情を理解しない星の民ですら、君を愚かと断ずるだろう」
「お前は間接的にあの男を殺す。いや、直接手を下す事もあるかもしれない。そうならなければいいな…人形以下の調停者」
「会話が出来ていないな。君が嫌いなのは私か?それとも…」
「両方、と言いたいが。特段お前に興味はない」
「
もう一段、空気が歪む。否、軋んだという表現の方が正しい。
「
「逆恨みの人間が力を持つほど恐ろしい事はない。君がコーリスに何をしたいかは分からないが、世界の危機に繋がる可能性は捨てきれない」
「何が言いたい」
「言葉を、選べということだ」
怒りが増す。
島が揺れていると錯覚する程の圧が少女から発された。
「…下らん」
「何だと」
「何も知らず、何も見えず。ただ一介の騎士であった筈の男を唆し、更なる戦場へと連れ…命を脅かしたお前が、あまつさえ世界の命運を背負う
「嫉妬心は捨てるべきだ」
「だが正鵠を射ているだろう。お前の顔を見れば分かる」
少女の怒りに比例するように、男の声は、更に憎悪を増した。
「真王と違い、お前は予測でコーリス・オーロリアを利用した。今まさに何を成すかも図りかねているあの男に、お前達は希望を託すと言っているんだ。狂っている。背負うものも分かっていない人間に、何を背負わせるというのか。星の民がお前を作った事実を信じられん」
「コスモスは均衡を保つ。正義に触れる事も悪に染まる事も無い。しかし、世界が崩壊するのなら防ぐ。世界を守る事が正義ならば、君の意見は通るだろう」
「…どうやら、コスモスとやらも劣化が著しい様だな」
「──貴様」
「欠片のお前がその様な出来なら、本体の無能ぶりも伺える」
「なら、コーリスを超えてみろ」
「…何を言っているのか分からないな。どっちが下か、お前が読み取れない筈が無い。本当に壊れているのか……?」
「エヘカトル、バミューダ、リノア、タルヴァザ。彼等が既に良い影響を与えている。──真王の狙い通りな」
「ッ………」
「あと一週間もすれば君をも超えられるだろう」
「………傲慢、愚鈍としか言いようがない」
「だが、陰鬱な憎悪には勝る」
「その憎悪にすら勝てんぞ、あの男は」
「気になるなら真王に聞いてみるといい。未来が見えているんだ」
「……………消えろ。世界はお前を必要としていない」
それ以降二人が会話をする事は無かった。
──────────────────
コーリスにとって、その昼は鬱憤を溜めるものだった。
タルヴァザとの交流を終え、次に関わるのは白騎士のブロンシュ。エヘカトルが恐れ、タルヴァザですら人格に難を示す彼は、団の食事中に現れた。
ゾーイがイスタバイオンの美食を貪り、ノアとコーリスが普通に手を付け、カリオストロが茶を飲む。そんな長閑な時間を混沌な物に変えた。
「食事中、失礼する」
「……む」
白い鎧を着た彼の顔は兜で見えない。だが、ゾーイと数秒見つめ合い、彼女の表情が険しいものに変わった事から、以前に面識があったのかと周囲は察した。
腰には大剣と銃を装備している。大剣は七曜の武器だ。
「コーリス・オーロリア。来い」
「少し待ってもらえませんか?」
「断る」
一瞬にして場が凍り付いた。
「お兄さん、今ね?美味しいご飯をみーんなで食べてるのっ!だから…ちょっとだけ待ってくれるかなぁ♡」
「…」
「待ってくれたらカリオストロがぁ…その銃を可愛くしてあげる!」
「下らん。開祖の錬金術が飾り付け程度とはな」
「…………もっと凄いの見たいんだっ☆」
剣呑さが倍になり、ノアが既視感と共にため息をつく。
無礼なのは白騎士である事に間違いは無い。祈望の騎空団に特別な嫌悪を抱いている訳でないのなら、これは七曜の面々が言っていたブロンシュの人格という事になる。
確かに気難しい。癖がある人間よりも、純粋に冷酷で頑固な人間の方が厄介だと、彼は呆れた。
「急用なら仕方が無いけど…そうでないのなら予め時間と要件を伝えておくべきじゃないかな?」
「急用では無い。ノコノコと食事を取っていても良い要件でも無いがな」
「そういう事を言っている訳ではないよ」
「真王の前で無礼を働いた団に在籍している貴方が、礼儀を説くのか?艇造りの星晶獣」
「もういい」
コーリスが立ち上がった。
「今食べ切った。子供の様な揚げ足取りは止めろ」
「ならば行くぞ。時間が無駄になる」
ルピを起き、コーリスは苛つきを覚えながらブロンシュの後ろに着いていく。
それを見てカリオストロは大きく舌打ちをした。
「……小僧が。鉛に変えてブチ割ってやろうか」
「僕達に恨みがあるんじゃないかな」
「いや、違う。無関心でもないな…ありゃ蔑視だぜ」
「蔑視?」
彼は忌々しげに足を組み、吐き捨てる様に評価を下した。
「選別したのさ。オレ様達が世界に必要な要素かってのを。ノアは騎空艇の星晶獣…今の世界の根幹となる要素を作り出した重要人物だ。あの小僧にも少し敬意があったろうさ」
「…今は別に何もしていないよ」
「だからあの態度だ。オレ様は錬金術という世界は作ったが、奴の望む世界に作用するものじゃねぇ」
「七曜や真王が望む平和な世界に貢献してないから、要らない存在として見ているって事?」
「そうだ。しかも無意識かつ常にな」
「なる程…そういう見方もあるのか。私には違って見えた」
「ん?」
咀嚼を終えたゾーイがポツリと呟いた。
「朝方、話した」
「あの小僧とか?」
「うん。確かに、真王の望む世界を作ろうと躍起になっているから、あの様な振る舞いになっているのだろう。私も平和を成し遂げられない不良品と罵られてね」
「奴は大人だぞ。性格が悪いだけじゃねぇのか」
「間違いない。そもそも私は世界が滅びない様に保つだけであって、結果人々がそれを平和や正義と捉えようが勝手というものだ!今更だが理不尽な誹りと思わないか!」
「思う思う」
「八つ当たりをしているみたいだね」
「そうだノア!それが言いたかったんだ!」
段々と苛つきが募り、ヒートアップしていくゾーイは、珍しく声を荒げて白騎士に遺憾の意を示した。頭頂部に見える特徴的な浮き毛を揺らしながらプンプンと怒る様を、ノアとカリオストロが微笑ましげに見守っていた。
彼女はコーリスと同様、理不尽というものを嫌う。役割がそもそも理不尽に対する対抗装置である為か、本能的な嫌悪が絡むのだ。激情とは異なる、納得感の無さが彼女に新鮮な怒りを覚えさせた。
「ブロンシュは正義の為に生きている」
「ふん。小僧の正義の定義は真王と一緒か」
「一緒だ。覇空戦争の様に、外部からの侵略を防ぎ、あらゆる戦を止め、全ての人間が平等に人生を享受する。イスタバイオンは娯楽や教育、食糧…それに労働供給が計画的に成されている。それを全世界に広げようとしているんだ」
「小僧は、その為に力を使おうとしないゾーイやオレ様を軽視している…って訳か」
「理不尽な八つ当たりと思わないか!?」
「…それって、逆に八つ当たりするだけの苛つきを僕達に覚えているわけだよね。理由があるんじゃないかな」
「…心当たりはある」
ゾーイは暗い表情で告げた。
その雰囲気に、二人も口を噤む。
「真王から聞いたことだが」
彼女は気まずそうに言った。
「──彼は嫉妬しているんだ」
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それは私が真王と個人的な交流を始めてから3回目の事だった。
真王の素質、能力については未だ不明瞭だが、それ以外の事については難なく聞き出す事が出来たのだ。例えば、覇空戦争からなるこの国の成り立ち。歴代七曜の在り方と従属関係。十二神将との差異も彼は知っていた。
それは知識なのか──実際の所、私は彼が
『時に真王』
『何だ?』
『七曜の騎士達の能力は私から見ても特異なものだ。覇空戦争時に作られた星晶獣でもあの様な複雑な物は少ない』
『ハハ、原始獣コスモスがそう言うか』
『空の民の可能性を否定している訳ではない。数は少なくとも、星晶獣を単身で屠る人間がどの時代にもいた。強者が集まった結果ならば説明もつくが』
『それでも納得がいかないと?』
私は頷いた。
空の民が使う魔法は単純なものであった筈だ。火球を飛ばし、土を操り、光を纏う。だが、リノアの能力は?コーリスから聞いたエヘカトルやバミューダの能力も怪訝なものだ。
まるで、その人間の感情と本質を概念と化して現実に引き起こしているかのような、細分化された異能とも呼ぶべき力を持っていた。
『君が数多く派生した未来を見ているのならば、理想の未来を掴み取る為に現在を変えれば良い話だ。私が聞きたいのは、この七曜達は偶然なのか、という事になる』
『ならば答えよう』
真王は何事もないかのように答えた。
『この時代に類稀な人材がこれほど生まれた事は奇遇と言える。私がした事はそれ等の可能性に接触し、能力を目覚めさせるきっかけを与えた事だ。その後は自然と七曜に集った』
『重ねて問わせてほしい。何故彼等に接触した?』
『重要なのはコーリス・オーロリアだ。
それは聞き逃すべきだったのか。否、問題ないから口に出したのだろう。
『……待て、初耳だ。リュミエールに関係があったのか』
『多くは語らん。だが、リュミエールから出る理由となったのは調停者…お前だ』
『私が、世界の邪魔をしたと……!?』
『それは曲解だ。彼奴は最早世界にとって重要な要素であり、寧ろ、守り育てなければならなくなった。だからこそ、七曜の騎士達と関わる事で安全圏での成長を促したのだ。決して世界に歪が生まれたから対応した訳ではない。別の運命に足を踏み入れたという事なのだ』
『他の未来に比べてどうなる!教えてくれ!』
『現時点で分かっている事は少ない。この未来は特異すぎる。似た未来が無いから外部作用の影響も予知できん。だからこそ、
私はようやく理解した。
真王が老けているように見えたのは、焦っているからだ。精神的な疲労と、先の見えない暗闇の様な不安が彼を貶めている。コーリスがリュミエールから去った事で、彼の言う未来は完全に独立したらしい。
彼が言うには、未来とは似たようなものが数多くあり、人の生死が変わるだけの未来もあれば、立場が変わっているだけ未来がある様で、その様な類似した未来を見る事で何が物事に影響を及ぼしたかを吟味出来るそうだ。
そして、自分の望む未来を選択する為、現在に介入する。しかし、独立した未来では何が何を引き起こすかを予測できない。
分かっている事は、コーリスは寧ろ
真王は七曜の面々について良く教えてくれた。
『緑の騎士は七曜としては日が浅く、経験に劣る様に見える。しかし、戦いでの専心は見事なもの。触れる物全てを愛し、真摯に向き合い──敵対すれば呵責なく切り裂く。見事なまでの覚悟。私はコーリス・オーロリアへの共感と導きを期待した』
『ふむ、優しい人間ではあるが、あの少年の思い切りは星の民の合理性を超える。思考の隙間が存在しない。迷えば死ぬという言葉を体現している』
緑の騎士、エヘカトル・カヌン。
彼の周囲では風が斬撃に変化し、刀からの斬撃は風を吹かせるという、ある種の循環機能を持っているらしい。
志のある若者だが、私でもあの少年は怖い──そう言ったらカリオストロに笑われたが、心外だ。自然体で過ごしているだけなのに、私も怖いのだろうか?
『碧の騎士も七曜としては新参者だが、騎士としては歴戦。どの様な状況でも冷静さを捨てず、必ず生還する。重要な任務を与えるには好都合でな、攻撃性の高い紫と同行させれば対象の生け捕りも容易い。私は成長に必要な疑問の提示を期待した』
『私の光線を防ぎ切った騎士か。確かに優秀だ。彼に攻撃力が備わっていれば完璧だったのだろう。揺るがない精神性も目に見えたが……彼が見ている世界は何処か人々と乖離している様に感じる』
碧の騎士、バミューダ・ベルリック。
彼は静謐という平和を目指すべきだと疑わず、その精神を元に、魔力を停滞させる結界を作り出すと聞いた。人間は思い込みの力が実際に影響を及ぼすと言うが……俗に言う異端者が揃って強大である事の裏付けにもなっている。迷わない人間はいつだって厄介だ。
『黄金の騎士は私の姪。短気で融通が効かんが、それでも信頼の置ける騎士と言える。七曜の騎士として完璧な精神性を持っているが、七曜だけだ。だからこそ、今のままでいい』
『ともすれば私は…彼女に申し訳ない事をしていたな。君が無理矢理私達を連れてくるからだ、真王。彼女がコーリスにしてくれた事は大きいと思うが、仲が悪ければそれも無かった』
『あやつの信仰は筋金入りよ。私を裏切ることなどせん。だからこそ、コーリス・オーロリアの進化──その始発点として差し向けたのだ』
黄金の騎士、リノア・イスタバイオン。
彼女は紫の騎士に秒で制圧されていたからか強い印象は無かったが、後に能力を直接見て、複雑で理不尽なものだと感じた。大地に擬似的な不滅の要素を与えるなど、空の世界では革命的な効力を持つだろう。
何より優しいし、今後とも仲良くしていきたい。だが、少し前にコーリスが蹴り飛ばされていた。喧嘩はよくないものだ。
『緋色の騎士は万能で機転も効く。特に文句が無い騎士といえばあやつよな。期待したのは進化の手段と精神性を知らせる事』
『私も特に何も思わない。不安がないということだろうか』
緋色の騎士、タルヴァザ・ラダトス。
彼は強い。相性の問題もあるだろうが、戦闘面では間違いなくカリオストロを上回っている。その理由は、大半の星晶獣ならば一人で討伐できる彼よりも、タルヴァザの技の規模が大きいからだ。
私が言えるのは、人間の持つ火力では無いという事だ。敵でなくて良かったと思える。
『白騎士もまた、頼れる騎士よ』
『……』
黙した私に気がかりがある様に、真王は表情を固めた。
『異議がありそうだな』
『私情を交えれば、私とコーリスは彼に複雑な感情を抱いている』
『それは何故か?』
『君達は私達の情報を持っている。あくまで一部だが、コーリスが何からの力を行使する瞬間──主に戦場で』
『続けよ』
私には不慣れな推察だが、はっきりと言えた。
『彼だろう?私達を見ていたというのは』
『そうだ…何故気づいた』
『リノアと白騎士…ブロンシュだったね。君に謁見した後、二人が私達の話し合いの始終を見ていた。その時の視線がコーリスへ向けられていたのを思い出したんだ』
『それだけか?』
『いや…理不尽な事かもしれないが、私は世界に影響を及ぼすかもしれない力を見破る能力を持っている。それはざっくりとした物で、起源等は分からないが。世界への影響を持つ人間はエヘカトル、ブロンシュ…そしてクラーレだ』
『ふむ』
『そして、君達は全員が直接見たかの様に物を語る。何らかの手段でブロンシュの視界を共有していたんだ。彼の能力ならば可能だろう?』
私は空の民についての知識に乏しい。彼等が行う魔法の研究や術式の用意を見る度に、私達星晶獣が超常の存在であると気付かされる。
何事にも疑問を抱かずに、手を翻すだけで戦場を支配する。そんな被造物の私は、仕組みでは無く、引き起こす物を読み取る能力が備わっていた。
そして、ブロンシュは光の能力を持っていたのだ。
『正確に言えば、白騎士の視界と光を緋色の騎士が魔法で弄くり、私の持つ星晶獣シビュラが他の騎士と繋がる事で成し得た裏技の様なものだ』
真王は指輪を見せた。
シビュラという、道具型の星晶獣らしい。他者に声を与える事で、その口と意識を操り、自身の言葉を遠隔で伝える事が可能になるもので、繋がる能力を応用してブロンシュの視界を得たのだ。
あの監視には相応の努力が仕込まれていたようだ。
『話を戻すが、私達が彼に言いたいのは監視の善悪ではない』
『…』
『どの様な理由で
『それは防衛街の事か。破壊と蹂躙の星晶獣が齎した惨劇…その監視をしていた白騎士が民を助けなかった理由と』
『これは君にも言っているんだ、真王。理由はあるが隠す必要があるのならば理解は示すが信用は減る。経過観察のつもりでおずおずと見捨てたならば信用は皆無になる。…八つ当たりに聞こえるだろうか?』
『調停者よ、お前は突然試練を与えてくると…そう仲間に言われた事は無いか?』
『無いな。仲間には良くしてもらっている』
『……私の答えは、彼の力を伸ばす上で必要な戦いだったからだ。あの犠牲は見えていた訳ではない。彼と開祖がいれば負ける事はあり得ないと判断していたからだ』
『エニュオを過小評価していないか?』
『開祖の行動がイレギュラーとなった』
『…?』
『本人に聞くがよい』
カリオストロが何かミスをしたのか?いや、そんな事は無い。ならば、生存者の存在か。誰かを助ける過程であの傷を……そういう事か。一介の星晶獣が二人の全魔力を注いでようやく倒せるなど、おかしな話と思ったんだ。
そして、コーリスが進化の準備を整える為にあの戦いは必須で、犠牲や生存者の未来は見えていなかった事から、不干渉を貫いたと。
ふむ。少しだけ分かった気がするが、それでも怒りが消えない。それどころか増える。本当に八つ当たりになってしまうが、言ってやる。コスモスよ、お許し下さい。
『ブロンシュは君の意思に沿ったという事だね』
『ああ』
『それは思考停止では無いのか?』
『何?』
『いや、君なら分かっているだろうが、君が何を目的としていて、何を見ているのかを理解した上で従うのならば納得する。しかし、君は正しいだろうからと何も考えずに従うのは忠義なのか?穿って言えば、君に正義の責任を押し付けている行為にもなるぞ。正しいと思ったから従ったと』
『その様な愚物ではない』
『それは君が正しく背負えているからだろう。もしブロンシュに独断の行動を許していたら、彼は助けていたか』
『無論助けていた』
『ならば無理にでも命令を破って助けてほしかったぞ!』
『流石に八つ当たりでは』
『八つ当たりで結構だ。私は正義の為だからと犠牲を許容した人間を、現実に向き合っていると形容したくない。その割り切りは不安定の正義を夢見ているだけだ。犠牲を惜しみ、後悔し、己に絶望し、それでも引きずる事…これは血に塗れていて、在るべき姿では無いが…そうして進む者は正義を捨てつつも未来に進める』
『失念していた…。調停者よ、お前は元より正義の味方では無かったな』
『私と君の道は微妙にすれ違っていると、七曜は知らない』
『しかしそれも身勝手では無いのか?』
『なに?』
『私達がコーリス・オーロリアの人生を操作し、その過程でブロンシュの様な人間が与える影響を懸念しているのだろう?だが、彼の人生を変えたのはお前で、幸福な未来の可能性を端から消したのもお前だ。自覚はあるだろうな』
瞬間、私の拳にはかつて無いほどの物理的な力が加わり、首筋から眉間が過剰に強張るのを感じた。
──言った。言ったな、真王。
図星だった。
真王は分岐した多くの未来を観測し、現在の可能性を探る。しかし今のコーリスは未知。つまり、
幽世の討伐は理想であり、名目でもある。
だがコスモスすら戦ったことの無い世界の敵──私が一切の情報を持たない敵は、果たしてコーリスの人生を変える程の物なのか。絶対に必要なのか。
コスモスは彼を導けと言ったが、真王とやっている事は全く同じ……否、真王が見渡す世界を考えれば──駄目だ、考えるな。
調停者の自分を否定してしまえば使徒として存在できない。コスモスが私を消すのも時間の問題だ。
そうなれば私はコーリス達と共にいる事が──だからそれは調停者ではなくゾーイとしての個人的な欲求で、駄目なんだ。考えるな。考えるな。考えるな!
『…』
言葉が出ない。自己崩壊とはこの事か?
いや、単に言葉で打ち負かされただけだ。真王め…君は何なんだ。何を見ているんだ。
きっと君は、世界に対するコーリスの必要性を薄っすらと理解しているんだろう。愛が無くとも、私より正しいのだろう。だから、私は、ゾーイじゃない調停者は、分からなくなるんだ。
言葉に詰まると、真王は目線を上に向けた。
『…だが、隠しきれぬものよな』
彼は苦笑していたのだ。珍しく、困ったものだと。
『お前が絞り出した苦悩、それも人間の様な矛盾。それに免じて一つ教えてやろう』
そして、彼は言った。
『白騎士は憤怒や憎悪を私の許可無しに出す事は無い。だが、お前達に理不尽を見せる事になると確信している』
『……?』
『妬んでいるのだ』
真王は笑っていた。からからと。
『調停者よ、折角だから知っておけ。妬みとは怒り、憎しみに似ていると感じるが…』
『なんだ』
『存外、混沌としていて理不尽であり、何故か同情も誘い……笑えるものでもあるぞ』
『……それはする側、される側?』
『何方もだ。簡単に言えば、白騎士の嫉妬はお前が私に向けるソレと全く同じだ』
『帰る』
『学ぶのだぞ、調停者』
『帰ると言った』
『別に止めてはいないが…くく』
そういう事だ。私の気持ちはそういう事だ。
私は子供じゃない。彼の言ったことも分かるさ。いちいち異を唱えて怒る事はしない。ただ、怒っていない訳じゃない。私は反省する必要がある。だから無言で去るのだ。
去ってやる。帰る。部屋に戻ってコーリスの顔でも見れば落ち着くのだろうか。いや、この会話が回想されればまた…。それは避けたい。ならばどうするか。
『…嫉妬か』
呟けばこのモヤモヤは晴れるのだろうか。この怒りを今すぐあの失礼な王にぶつけ………ぶつけ?
この感情はブロンシュも持っているのならば。
『ブロンシュはコーリスに八つ当たり……?』
まさか、いや。
私でも我慢出来──いや、そもそも怒っていないが。
調停者に私情など無いが。
『困るかもしれない』
私の変な言葉遣いに、すれ違ったタルヴァザが吹き出していた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
委細を語ったゾーイに対し、カリオストロとノアは腕を組んで唸るのみ。問題点は、想定以上に彼女が悶々としていた事だろう。コーリスは七曜と親睦を深めていたが、彼女は反比例する様に剣呑としていたのだ。
調停者とゾーイ個人の感情、その乱れをも吐露されてはどう対応していいか分からず、2人は冷や汗を流しながら無言で食事を進めた。結局、悩める程度には絶望していないらしいので、自分で考えさせるのが良いのだろうという判断だ。
しかし、白騎士の謎は深まる。謎の嫉妬と、強い事しか分かっていないのだ。有無を言わさず連れて行かれたコーリスが心配だと、3人は忙しなく指を組んでいた。
──そして、その夜。
「ただいま……」
「だ、大丈夫だったかコーリス!?イジメられなかったか!?痛いことされなかったか!?」
「お前は母ちゃんか。このガキが黙ってやられるかよ」
「念入りにイジメられた……」
「やられてんのかよ!?」
「食後で痛む横腹を言い訳に逃げてきた…」
「雑魚か!?」
腹を抑えながら帰ってきたコーリスの肌には浅い擦り傷が見えており、彼の言う通り、本当に暴行を受けた様に感じられた。
しかし、ノアは慌てふためく両者を横目に絆創膏を取り出し、落ち着いて彼と目を合わせた。
「はい。洗ってから痛いところに貼るんだよ」
「ありがとうございます…」
「それで、何があったの?突然殴られたとかではないんだよね?」
「何が出来るのか見せろって言われて、見せたら弱いと文句を言われて、抗議したらじゃあ戦ってみるかってなってボコボコに…」
「………子供の喧嘩?」
「多分俺が不十分って事を示したかったんだと思います」
ブロンシュに対してフォローはしつつも、釈然としない表情を見せるコーリス。噛み締めた歯で口元は歪み、目はギラつき、不貞腐れた声で語り始める。怒っているのだ。
「リノア殿から聞いたことですが、俺は七曜の弱い順から共に過ごすようになっているらしいです」
「という事は…白騎士は上から2番目?」
「は?マジかよ。じゃ、あのチビが最強か?」
カリオストロは『ありえねー!』と足を振りながらゲラゲラ笑い、同時に『他の騎士情けねー!』と愉快気にもう一度笑った。ハーヴィンが戦闘に向いていないのは共通認識であり、その概念を打ち破ったクラーレの可能性に興味を抱いたのだ。
「実際、強かった?」
「反応できませんでした」
「速いのかな」
「身体が反応しないとかそういう次元じゃなくて、気づいたら攻撃を食らってました」
「お前の霧みたいに阻害魔法使ったんじゃねぇのか?」
面白くなさそうにカリオストロがコーリスに問いかけた。自身との初邂逅、そしてエニュオとの戦闘を経て、彼の身体能力を高く評価しているからこそ、負けたのがどうにも気に食わないのだ。
「いや、本当に速すぎなだけだ。薄っすらと光が見えたから、今思えばそれが攻撃の合図だったのかもしれない」
「なるほどな。ま、今日は休めよ。胃腸と脾臓が荒れてんだろ」
「そうする…」
椅子に座り込むコーリスと、取り敢えずの安堵を見せる2人。だが、1人だけ猛烈に震える存在がいた。
「……ゾーイ?」
「カリオストロ。留守は任せた」
「何処に行く」
「理不尽には理不尽を。ブロンシュは私が誅する」
「オイコラ調停者。調停の意味図書館で調べてこいや」
「無論、これはゾーイとしての意志だ。ジ・オーダー・グランデとしての役割ではない。故に問題なし」
「アイデンティティ崩壊の悩みを開き直りで解決してんじゃねぇぞ。戻れ」
「何かあったら文句はコスモスに頼む。私の創造主だ」
「部下のテンプレやめろや。オレ様も昔よくやられたわ」
最早驚くツッコミも出来ず、カリオストロはゾーイを座らせた。
「……ゾーイ」
「釈然としない」
「やってくれ、必要だろ」
「よし任された」
「冗談はここまでにして…ゾーイ。聞いてくれ」
コーリスは膨れる彼女を諌めた。
「コーリス。七曜は君を進化させる為にそれぞれ役割があると真王に聞いた。だがブロンシュは君に因縁をつけ、手荒く扱っただけじゃないか。正当性はない。せめて王に抗議に行こう」
「確かに、4人と行動してみて…丁度良く俺に力が加わっていった事は自覚できた。だが、ブロンシュにも役割はあると思う」
「呼び捨て」
「あんな奴呼び捨てでいい。話を戻すぞ。彼奴の役割は多分……俺とぶつかる事だと思う」
「何故そう考える?」
「なんとなくだ。だが、面白いほど俺と噛み合わない。人を守る時とか、魔物を倒す時の優先順位の考え方は似通っているが、それでも何故か合わない」
「ふむ」
「多分ブロンシュにも抱えているものがあるんだろう。互いに衝突させる事で双方の痼を解消する。そういう狙いがあると俺は思った」
「…君が言うなら、行かないが。むぅ…」
「それにな」
ふと、カリオストロがコーリスの拳を見た。
面白いくらい震えていた。
「あの匹夫は俺がこの手で粉砕する」
数日後、祈望の騎空団+ブロンシュを除いた七曜の面々で、『白騎士を粉砕するの会』が開かれ、徹底的に対策の議論が繰り広げられた。
そう、真王がコーリスを黒騎士と認める為に、ブロンシュとの決闘を命令したのだ。
ブロンシュの人となりや、コーリスとの会話は後々掘り下げます。主人公が黒騎士になる為に欠かせない人物なので。
取り敢えず今はキツめの男って感じの性格ですかね。
コーリスは七曜と仲良くなっていきますが、実は一番ギスギスしていたのはゾーイだったってオチ。
真王の方が世界を知っているので、複雑な感情を抱いています。何せ、空の世界の存亡という視点でコーリスを連れ出したのはコスモスであり、ゾーイなのですから。