幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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77.七曜攻略戦「白」

 

 

 冴え渡る草原の中で、物々しい鎧達と王が集団を成していた。

 横には祈望の騎空団の面々。

 

 ここは数えられない孤島。自然だけは豊かに残るが、矮小さが名を付けられる事を許さなかった。破壊しても困らぬ点から、機能性を重視したアウライ・グランデ大空域では予備の訓練島として扱われる。

 

 

(…金色の髪に青眼。ルクス団長を思い出すな)

 

 

 コーリスとブロンシュの戦いが始まろうとしている。

 前者が鎧を着慣れていないという点から、互いに通常装備での決闘となるが、コーリスはブロンシュの素顔を初めて見た。

 その目は細く凛としているが、霞のように胡乱なぼやけが見て取れた。

 

 とても自身を否定した人間とは思えない。

 穏やかで──何かを諦めた目だ。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「ああ。落ち着いてる」

 

「なら、倒してしまえ。その方が後味もいい」

 

 

 ゾーイの言葉は彼が先日クラーレに言われた物と同じだった。死なずに抗え。寧ろ倒せ。その意志が自己の進化を引き起こす、と。

 

 横ではノアが心配そうに杖を握っており、カリオストロは始まるまでは興味が無いのかクラーレの方を見ている。

 そう、更に横には真王とブロンシュ以外の七曜が観客気分で見物しているのだ。

 

 真王を含め、3人の視線が交差し、コーリスとブロンシュは自然と向き合った。

 

 

「では、好きに始めよ。成果の見極めは七曜達が行う」

 

 

 それが合図だった。

 コーリスは黒騎士の剣を抜き、ブロンシュは依然として白騎士の大剣も、銃も持たずに立っている。

 

 

「──行くぞ、ブロンシュ殿」

 

「…」

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

VS 白騎士 ブロンシュ

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 先に駆けたのはコーリスだった。

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

『先手必勝、戦いが始まったら光を溜めさせる間もなく近接戦に移行する』

 

『白騎士は剣の達人でもあるんだろ?大丈夫なのか?』

 

『身体能力と守りには此方に分がある。我慢比べになるが…あちらが痺れを切らして大きな動作をする事が望ましいな』

 

 

 前日の夜、コーリスはブロンシュ戦の作戦を練っていた。

 ブロンシュは光を溜めてから纏う事で、超速での蹂躙を得意とする。溜めという明確な予備動作があるのならば、溜めにすら入らせない速攻は有効打になる。

 元より光を纏い終わった彼に魔力流しのディスペルガを用いた所で当たる筈も無く、事前に手を打つ事は最初から決めていた。

 

 あとは七曜達の情報によれば、銃撃すらも光の魔力を用いる事で速度と威力を強化しているらしく、態々飛び道具を用いるという事は、その銃撃は彼本人よりも速いと推測できる。

 

 

『我慢比べか一方的な蹂躙かは、最初の一手で決まると言ってもいいだろう』

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「先手必勝!」

 

 

 ブロンシュの溜めは手足の各部位ごとに2秒。

 それまでに彼の元に到達できれば意識を防御かカウンターに割かせる事ができ、その間に溜めは平行で行えるものの、時間は大幅に伸ばす事が出来る。

 

 その動きに、ブロンシュは素直に感心した。

 

 

(他の騎士が俺の能力を教えたのか…?自然に思いつく対抗策ではあるが、動きは出来ているようだ)

 

 

 だが、コーリスは彼の最高速を知らない。

 以前に体験した、認知すらも追いつかない速度は間違いなく彼の本領ではあるが、最速では無い。

 

 コーリスが到達する1.3秒よりも早く、彼は銃を抜いた。

 

 

白穿(はくせん)

 

 

 それはクラーレが言っていた、光の魔力で作られた銃弾を放つ技だ。

 細いレーザーとも言える直線状の光が高速で対象に襲いかかり、敵が唐突に転ぶなどの幸運が無ければ必ず当たると言っていい程の速度と命中率、そして殺傷性。

 高密度の光は人間の鎧に芸術的な穴を開ける事が相場と決まっているのだ。

 

 しかし。

 

 

(避けた…?本格的に助言をした奴がいるな)

 

 

 銃を視認した瞬間に彼は斜めに飛んで光弾を回避。

 相手の立場を考えた逆算によってある程度の攻撃は絞れている。

 

 

「悪くないな。教科書通りに動くのは慣れているらしい」

 

(鍔迫り合いに持ち込んだ…!剣か魔法が来る!)

 

 

 ブロンシュは銃をホルダーに収納し、白騎士の象徴たる大剣でコーリスの斬撃を受け止めた。

 彼の光は動作にも速く、一つの隙を突けなければ放たれる技によって即座に倒れ伏す。その懸念もあって、剣を振るう事しか叶わなかった。

 

 

「だが、焦りが顔を出しているぞ」

 

「グっ!?」

 

 

 コーリスの鍔迫り合いに臆する事もなく、彼は右足に魔力を集中させて大地を踏み抜き、敵の重心を剣諸共に大きくずらした。鍔迫り合いは解除されたのだ。

 そして踏み抜いた衝撃で身体を半回転させ、その遠心力で剣を振るった。

 

 

白閃(はくせん)

 

 

 光を纏ったその斬撃は、剣そのものに強力なエネルギーを宿すが、同時に高速の斬撃を飛ばすものでもある。

 速度と切断力は秀でているが、その代わりに範囲は狭く、飛来する斬撃は剣の軌道と一致している為、それが見えれば光穿より回避は簡単である。 

 

 故に、回避される事を前提に彼は銃を再び抜いた。

 

 

「白穿。次は逃さん」

 

「ケーニヒシルト!」

 

 

 保険というべきか、コーリスは予め3重の盾を構えておき、光閃を回避した後の追い打ちを防いだ。

 

 

(上手い。速度が無くても剣技、光の応用、銃の使い方がどれも冷静だ。依然として俺を優位にさせるつもりはないか…)

 

 

 コーリスは素直に称賛した。

 そして、それは相手も同じことだった。

 

 

(守りの技術で言えば既に黄金に匹敵している。以前に比べれば瞬間的な動作も申し分無いが……かと言って俺に勝つ要素はゼロだ)

 

 

 ブロンシュは銃を向けつつ剣を握る拳に力を入れた。

 彼はコーリスの戦いを盗み見ていた張本人であり、その力の真髄と弱点を同時に看破している。

 

 

(お前は防壁による圧倒的な物量と広範囲の光線で一定範囲を制圧し、直に触れれば魔力流し(ディスペルガ)で相手の魔法を消す事が出来る。一度守りに入れば突破は困難、長期戦の最中で此方が臆せば光線によって焼かれ朽ちる。だが、それはあくまで敵が下である事が前提だ)

 

 

 コーリスの強さは理不尽と言ってもいいが、この世界には不思議とその理不尽が満ち溢れている。その者達がぶつかり合った場合には──。

 

 

(自身の技に対抗できる敵が現れた時──お前は後手に回って相手の綻びを待ち始める。それが致命的な弱点だ。拮抗状態で隙を待つ行為は、諦めと同義…相手が常に冷静であれば容易に敗北する) 

 

 

 エニュオとの戦いが顕著な例である。

 ウロボロスの助力とエニュオの慢心が無ければ間違いなく負けていた戦いであり、勝利を掴み取った時点では既に、敵は力を満足に使えない"格下"になっていた。

 

 決定打に欠け、慎重にならざるを得ない戦いでは、皮肉にも過剰な防御性能が彼の思考に足枷を付けていた。

 

 

白光(びゃっこう)

 

(…()()か!!)

 

 

 視界から軌道も見えずに消えたブロンシュ。

 コーリスはその光景を、先日に自身を叩きのめした技であると理解し、即座に身を投げた。

 白光。それは足に光の魔力を極限まで凝縮し、解放と共に異次元の速度で接近する移動技だ。原理としてはヴァジュラが用いる"縮地"に近いが、それよりも速く、加えて静かだ。

 大抵はこの移動技から派生して白閃が放たれ、運良く躱したとしても白穿によって高速の追撃が訪れる。この連撃を受けつつも戦える者は、間違いなく空の世界で上澄みの実力者だ。

 

 高速の移動から繋がる高速の斬撃に、高速の射撃。移動にて反応を潰し、斬撃にて回避を促し、射撃にて希望を散らす。

 運という逆転要素を尽く否定するのがブロンシュという人間の能力なのだ。

 

 

(種は分かっている。移動後に銃を使うにはその場所に留まらなければならない!ならば剣を使って回避させた後に銃を使う方が効率的──!)

 

 

 コーリスは予め"剣を当てにくい位置と体制"で飛んでおり、移動の速度が合わさった白閃を見事に避けてみせた。

 

 

「悪手…というよりも、最善の手が無いな」

 

 

 だが、彼の奮闘を嘆く様に、黄金の騎士であるリノアは呟いた。

 

 白閃の回避後に更なる斬撃が来るか、銃撃が来るかは分からないが、来る事自体が予測できているのであればチャンスがある。追撃に来るという事は、その位置から攻撃し続けるという事になり、カウンターを当てられる可能性が生まれるからだ。

 

 しかし、ブロンシュは自身を客観視出来ない男ではなかった。

 

 

(ッ!?その場にいない!)

 

 

 回避した後に彼が迎撃体制を取っても、先程の位置に敵は立っていなかった。

 白光という移動技に必要な魔力は多く、込める時間も他の技に比べて長いが、敵が全力で回避している最中に溜めてしまえばその弱点は消える。

 

 

「あー…」

 

 

 カリオストロが目を覆い隠した。

 後ろに立っているタルヴァザも引きつった顔でコーリスを見ていた。

 

 

「後手に回らせた時点で高速のコンボが決まるって訳か……つまり奴に勝つ為に必要なのは…」

 

「速度に負けず、馬鹿真面目に武器を交わし合う事だな」

 

 

 そして、それは七曜最強のクラーレにすら不可能な対処だった。

 

 "正義"の白騎士ブロンシュ。圧倒的な速度への攻略法は──正面から叩き潰す事だ。

 その攻撃を恐れ、回避を選択した者は無限に続く3つの技の応酬に苦しめられる。逆に掠め手で反撃した場合には白光によって視認してから避けられる。敵に正面突破を強制しつつ、自身は先制攻撃と後出し回避を行える理不尽。

 それが出来ないなら負け、という単純な理由が叩き込まれ、敵にミスは無い。成熟した戦士であるブロンシュが、自身の弱みを見せる瞬間など来ないのだ。

 

 

「ならば防ぐ!」

 

 

 悪手を悟ったのか、コーリスは血相を変えて自身の周囲に高密度の防壁を貼り、ブロンシュの攻撃が激突するのを待った。

 敵の姿が見えないのなら全方位を守るしかない。

 

 

「…っ!」

 

 

 衝撃は重く、防壁は凹んだが、それでも健在であった。無論、それを解除して反撃する猶予などありはしない。コーリスは依然として後手にある。

 だが、再び高速の移動を開始しようとしたブロンシュが顔をしかめた。彼もまた、彼が防壁に仕込んだ策を吟味している。

 

 

(全方位の防壁に霧を纏わせて…目で追えないから感知で位置を割り出す気か?しかし光線で反撃する場合にも防壁の解除が必要だ。光線分の穴を開けても硬度に影響が出る。そのリスクをみすみすと負う筈が無い)

 

 

 その時、彼が目を見開いた。

 盾から光線が放たれたのである。

 

 

「見事!一撃入れるとは!!」

 

 

 エヘカトルが称賛の声を上げた通り、ブロンシュの頬に光線が掠り、その肌の色を変えてみせた。

 それを自覚した彼は、目を細めて多大な警戒を表した。

 

 

(…盾から光線が出るとは知らなかった。以前に使っていたか…?それとも、七曜と関わる内に技の使い道を拡張したのか。何方にしろ、次は食らわないな)

 

 

 顔面に当てるつもりの光線が当たったのにも関わらず、顔を反らして頬の掠り傷に抑えられた。転んだ擦り傷の方がまだ痛々し気な雰囲気だ。

 防御、感知、反撃──防壁と霧、光線を用いた連携技を容易くいなした彼に、コーリスは歯噛みを隠せなかった。

 マーズ戦で習得したこの技は、初見殺しで決着をつけるべきだったのだ。

 

 

「来るか」

 

 

 コーリスは間髪入れずに走り出した。

 最早距離を取ることが自殺行為。そして、彼は先程使用したの盾光線の利点に気づいた。

 それは、予め設置して放つ──置き技として使える事。

 

 

(正面から剣で攻め──)

 

 

 ブロンシュが剣を受け止める。

 

 

(背後から光線で不意を突き──)

 

 

 背後からの盾光線。無論躱される。

 

 

(──回避先を絞り出す!!)

 

 

 剣で敵の動きを止めている間、背後から光線を撃ち、回避を誘う──これこそが狙いであった。横に回避するか、斜めに潜り抜けるか、飛ぶか。

 その全ての移動先を焼き尽くす、四方八方の光線がブロンシュに向かって放たれた。

 

 

「…!」

 

 

 魔力をその身に集めて防御するブロンシュ。

 その背後からコーリスが飛びかかる。

 

 

「ダメ押しだァッ!!」

 

 

 渾身の魔力を纏った剣の峰。

 斬撃ではないが、打撃は当て方を問わずに安定した威力を出す事が可能である。速度に優れるブロンシュを相手にするにはその方が向いていると判断した為だ。

 

 しかし、それは誘いだった。

 

 

「焦ったな。防御した事に違和感を持つべきだった」

 

 

 ブロンシュは敢えて攻撃を防御する事で、自身が後手に回った事を演出し、敵が攻撃に転じる事を強制したのだ。

 論理的に考えれば予想できる行動だった筈だが、コーリスの焦りがそれをかき消したのだろうか。

 光の大剣が瞬く間に背後に回る。

 

──コーリス、微笑む。

 

 

(かかった!)

 

 

 コーリスは全力で身体を捻じり、剣を回転させる。

 

 

(俺の剣に合わせるだと…?反射にしては速すぎる。最初から背後に振るうつもりだったのか!)

 

 

 速さの理不尽は存在するが、その動き自体は単調である。背後に回り続ける戦術を、コーリスは見逃していなかった。

 

 

「吹き飛べぇぇぇぇ!!」

 

 

 魔力量の暴力が、光の騎士に満遍なく襲いかかった。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 一息付く間に襲いかかって来ないという事は、少なくとも体勢を崩す事が出来たという事だ。しかし、今距離を詰めて欲を出せば、煙幕から銃撃が飛んでくる可能性も捨てきれない。調子に乗ってお陀仏なぞ洒落にならない。

 

 

(衝撃だけで言えば過去最高の一撃だったが……熱量は無かったな。吹き飛んでいる事を祈るか)

 

 

 コーリスは慢心する事なく剣を構えた。

 ノスタルジアに比べてリーチの短い片刃の剣。峰がある事が功を奏したのか、存分に破壊力を伸ばす事が出来たのだ。

 

 だが…見据えた先に、光が一柱。

 

 

「なる程強い。賭けに強い男だとは思っていたが……合わせてくるとは思わなかったぞ」

 

 

 力強い声が称賛と共に響いた。

 

 

(…やはりか)

 

 

 特段驚く事もない。

 七曜の2位がこの程度の努力で負けたとなれば、この空の世界は可能性に満ち溢れすぎているというもの。理不尽とは覆せないものを言うのだ。

 

 

()()()()()()()()だが、共に歩むには十分だ」

 

「何を…」

 

「黒騎士として認める、という事だ」

 

 

 ブロンシュはあれ程こき下ろしたコーリスを黒騎士として認めたのだ。しかし、その声には抑揚がない。

 晴れた煙幕から現れたのは──

 

 

──魔力解放、聖依(クルセイド)

 

 

──まさしく、光そのものだった。

 

 

「だが、王が求めるのは黒騎士では無く、それ以上のものだ」

 

「……」

 

「加減は無い。躊躇も無い。時間も掛けない」

 

 

 コーリスの試練が遂に始まったのだ。

 

 

「潰すか潰されるか。お前が選択しろ」

 

 

 眩い光の鎧を纏ったブロンシュが、凝縮された地平線の様に変化した大剣を此方に向ける。

 

 

「触手、竜、(いぬ)の姉妹…破壊の獣と来て、次は光か………」

 

 

 コーリスはやけくそな笑みを浮かべて、理不尽を告げる光源に向かって再び走り出した。

 戦略ではない。これ以上強くなった相手に何をすべきか分からなかったから、走ったのだ。

 

 

「……ふむ」 

 

 

 その光景を、真王は満足げな笑みを浮かべつつ、不満げな瞳を以て静観していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ブロンシュ
・光属性を速さという点で極めた男。
・不意打ちを見てから避けられる人間なので、読み合いをする必要が無い。それを弱点と捉えられるかがポイント。

白閃
・高速で放たれる光の斬撃。
・範囲は狭いが、切れ味は恐ろしい。

白穿
・白閃よりも速い銃撃。
・光の魔力で弾丸を作る為、溜めが必要。

白光
・白穿よりも速い移動法。
・脚に光の魔力を溜める必要がある上に、その溜めは光穿よりめ長い。
・相手が回避をする事で、白閃→白穿→白光→白閃or白穿のコンボが決まる為、上記の弱点は解消されている。


コーリス
・アドリブに滅茶苦茶強い男。


真王
・「ほーん、いいんじゃない?」、「それでいいんか?」という2つの心情を秘めている男。
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