幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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遅くなってすみません。



79.七曜攻略戦「ブロンシュ」

 

 

 霧は空を遮るものだ。

 その青は灰と共に暗闇に葬り去られ、人々は無意識の落胆を抱えて帰路に着く。

 

 

「…付け焼き刃とは言えないが」

 

 

 ブロンシュは目の前のエルーンを睨んだ。

 エニュオ戦で感じた溢れんばかりの魔力と同規模の力を感じてはいるが、混濁していた。霧に魔力を流しているのとは違い、コーリスと霧の両方から同質・同量の魔力──そして気配を感じるのだ。

 

 溢れ出しているのは蒼色の霧。

 毒霧にしては輝かしい。蒼という事は、紛れもなく彼が放出する光線と似た成分を含んでいるだろう。それを加味すれば、霧に魔力が込められているという結論に至るが、それだけとは思いにくい。

 これは魔力解放、新たな能力なのだから。

 

 

「それがあくまで()()()だという事を」

 

 

 ブロンシュが接近する。

 俊足ではなく瞬速。風圧すらも抜き去って、目の前の男に向かって剣を構えた。

 

 

「忘れるな」

 

 

 光を遮った霧が明けた先には、また光があるものだ。

 

 白騎士の大剣に光が凝縮されていく。七曜の騎士が七曜の武器を以て全力で振るう技──即ち奥義である。

 それに相対する黒騎士の片手剣にも魔力が込もる。毅然とした表情のコーリスは、既に回避という選択を捨て去っていた。

  

 

白鳳刃(はくほうじん)天照(あまてらす)

「ガンマライト・エクスキューション」

 

 

 ここに、白と黒の戦いが始まったのだ。

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「ああ、そういうことか」

 

 

 大爆発を起こした両者の奥義を眺めながら、カリオストロは言葉を漏らした。その言葉にゾーイは首を傾げつつも、コーリスの放つ蒼い霧についての事だと察した。

 しかし、彼女がアレを理解しているとは言い難い。覚醒する事は()()()()()が、どの様に能力を発展させるかは調停の力を以てしても不可能な事だった。彼女はコーリスではないからだ。

 調停の力が読み取れるのは世界に影響を与える可能性。現時点の出来る事は知れるが、どういうものかは理解できず、どの様に発展するのかも予測できない。つまり、蒼い霧の能力自体は既に分かっているが、何を起源にしたかは未だに測りかねているという事だ。

 

 そして、カリオストロはそれを理解したらしい。

 

 

「あの霧、魔力とは違うんだけどよ」

 

「む?」

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

 

 呆れた顔を見せた彼に対し、少し必死になりながらゾーイは弁解した。

 

 

「…霧については知っている。あれは何者かが与えた吸収の力が変容したもの。コスモスが直接見たのだからそれは間違いない。ただ、能力である以上魔力を流して発動させるものかと思っただけだ。知らない訳じゃない。うん、知っているとも」

 

「そ、そうか」

 

「ただ…あの蒼い霧はなんだろう。私から見れば、アレは元の霧よりも安全に見える」

 

「ほう?その心は?」

 

「奪うものに見えないからだ」

 

 

 ゾーイの言葉にカリオストロは感心した様だった。伊達に二人で過ごしてきていないと実感しながら、彼は自身の推論を述べる。

 

 

「あれはな、()()()()だ」

 

「……ふむ?」

 

「オレ様はずっと解らなかった。感覚器官の様な役割と、対象の精神に作用する妨害機能…そして、大気中の元素を奪って力とする捕食的な機能。魔法にしては多機能すぎるし、霧を媒体にする必要がねぇ。星晶獣の能力に近い突発性を感じていた」

 

 

 カリオストロは今に至るまで、それが概念を抽出したものと考えていた。

 

 

「やっと分かったよ…アイツが霧として現れてるんだ。身体を粒子にして、大気に溶かすみたいに」

 

「……実際にやってる訳では無いのだろう?」

 

「勿論。これイメージな」

 

「安心した」

 

「そうだな──もう勝ったからな」

 

 

 カリオストロは欠伸を漏らした。

 コーリスの霧は、彼の感覚や簒奪というイメージを具現化したものだ。

 しかし、今の蒼い霧はそうではない。あれは、彼そのもの。彼に出来ることは霧にも出来る。最早、同じ存在なのだから。

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

(相殺…?)

 

 

 ブロンシュの脳内は困惑に満ちていた。

 七曜の騎士の奥義は不壊という仕組みを活かし、その武器に魔力を凝縮させ、敵を跡形もなく消し飛ばすもの。魔力を解放した時とは異なり、単純な攻撃力が持ち味となるので、それを相殺されてしまえば、最高火力が通じないという事。

 加えて、相手に力の余地があれば、それは力負けだ。残されたのは駆け引きの末の勝利か。

 

 それとも、魔力解放状態で放つ奥義──"解放奥義"か。 

 

 

(来るな。破竹というやつか)

 

 

 この土煙が晴れずとも、コーリスは襲いかかってくるだろう。感知能力が消えているとは思えないし、何より進化した人間は無意識に増長し、万能感のまま行進を続けるものだ。

 

 一方で、ブロンシュに感知能力は無い。光を読み取る力もない。ただ、反応出来るなら回避は容易。依然として彼が身に纏う光は途絶えていないのだから。

 

 

(その慢心…若さを敗北の理由にするには──)

 

 

 ブロンシュは躊躇わず、煙の微小な綻びを察知して大剣を振るった。

 

 

「──致命的すぎるッ!」

 

 

 しかし、その剣は不細工な金属音と共に逸れた。

 

 

「!?」

 

 

 ブロンシュは目を見開いた。

 光が潰えている。剣は裸の様相で、敵の盾に弾かれていたのだ。

 そして、目の前には盾を纏いつつ突撃してくる灰のエルーンが──

 

 

(ならば!)

 

 

 コーリスの動きに対し、彼は横に飛ぼうと画策した。それは先程の盾から放たれる光線を危険と判断しての事だ。

 彼が纏う光の鎧は無敵ではない。削られれば補充が必要である。多少の無理は押し通せるが、完璧な勝ち筋が回避によって鮮明になるのなら、是非もない。

 

 

(オドス)!!」

 

「……な」

 

 

 そこで、彼が目にしたのは。

 

 

(ひか、って)

 

 

 周囲の全ての霧から放たれた──光。

 

 

「ぐ、──!!!!???」

 

 

 コーリスの魔力解放、蒼霧(グローリー)

 その一端である(オドス)は、霧から光線を発射するもの。

 盾からの物とは違い、霧の表面から高密度の光線がくまなく放たれる為、範囲も威力も桁違い。しかも、霧が囲っている状況では自動的に逃げ場を防ぐ攻撃となる。

 

 

(光が削られる──俺に届く気か!)

 

 

 光の鎧を削る光。鎧が消えれば移動速度も減少し、振り出しに戻る。

 だが、ブロンシュは冷静に弱点とも呼べる特性を見つけた。

 

 

(盾の光線が厄介なのは、不意打ちなだけでなく、その盾が壊れないからだ。一方的に撃てる砲台として扱うなら完璧。だが、今のこれは霧。晴らすに造作もない)

 

 

暁穿(ぎょうせん)

 

 

 刹那、彼の銃から十字の光が飛び出し、コーリスの霧を散らさんと薙ぎ払われた。

 暁穿。銃から光線を速射する白穿が魔力解放によって強化された技で、速度を保ったまま規模を拡大し、持続性も充分にある。

 着弾時に十字の柱を生み出す事から、その神聖さは真王の威光を高めるに至る。

 

 迫る厄災にコーリスは尚も突撃を続ける。

 

 

(クライス)よ!」

 

 

 (クライス)。霧から盾を出すという至ってシンプルな能力。それは純粋な守備範囲に加え、()()()()()()()()()()()という、明確な強みを持っていた。

 

 

「霧が自身を守るか!」

 

「これでやっと一撃打ち込める!!」

 

「驕るな!」

 

 

 しかし、如何に光線を集中させても威力がゾーイの物に届き得る事は無い。ブロンシュの鎧を貫く力よりも、光の供給は間に合っている。

 ならば、初めから想定していた魔力の強制解除を行うまで。

 

 蒼霧は(クライス)によって自身を守りつつ、他に生み出された物が(オドス)を放ち、ブロンシュの動きを縛り付けている。

 コーリスへの攻撃は一時的に止まり、彼は更に霧を出す事が可能となった。

 

 

「貴方を守るものは無い──(フーノス)!!」

 

 

 盾、光線と来て…コーリスに残った力はあと一つ。

 魔力を流して魔法を剥がす、ディスペルガ。

 

 語るに及ばず、霧がそれを行うのが(フーノス)

 

 

「コー、リス!!」

 

「理不尽には理不尽を…これがゾーイから学んだ勝ち方だ!覚えて爆ぜろ白騎士!」

 

 

──ブロンシュの光の鎧が、弾けて消えた。

 

 

「白鳳刃・天照!!」

 

 

 しかし、そこは流石に七曜の2位。

 鎧への光の供給を即座に辞め、自身の大剣に力を込め続けていた。

 解放奥義に比べ、奥義の発動は比較的速い。コーリスが鎧剥がしに専念している隙を利用させて貰った。

 

 なら、それを塗り潰してこその覚醒だ。

 

 

(霧を剣に集中させ…(オドス)を中心に(クライス)(フーノス)を纏わせて──消し飛ばす!!!)

 

 

 それは奥義ではなく、ただの応用。

 紛れも無く、コーリスを理不尽に押し上げる歪みの光線。

 

 鎧が剥がれ、周囲の光線に生身で耐えながらブロンシュは剣を振るってくる。

 極上の斬撃が当たるその瞬間、コーリスの剣から放たれる歪みがその光を侵し、塗り潰す。

 

 

「トレース・エクリプス──!!!」

 

 

 その技は、束ねた光線による純粋な火力と、盾を纏う事による質量攻撃を兼ね備え、干渉した技に魔力を流して無力化する──まさに全てを無に帰す霧である。

 

 コーリスの魔力解放、蒼霧(グローリー)

 その能力は、コーリスが可能とする技を、霧にも行使させるというものである。霧が光を放ち、盾を生み、魔法を壊す。

 自身と霧を同一視したからこそ発現した能力であり、その特徴である蒼霧が生み出される限り、彼は無敵である。

 

 大地が霧によって抉れた、全てを静謐に帰した。

 

 

「はぁ…はぁ…ブロンシュ。まだやれる筈だ、まだ立てる筈だ。まだ否定したい筈だ…!起きるんだろう!」

 

 

 コーリスは窮地を捌ききった事による精神的疲労と共に叫んだ。

 彼の周囲には未だ蒼い霧が充満している。覚醒前のダメージが意識を遠のかせているが、それでも両の足は力強く大地を踏みしめ、剣の矛先は揺れる事なく敵を示している。

 

 

「く………ぁ、はぁ…」

 

 

 それに対し、明確に膝を付くのはブロンシュ。

 鎧が剥げ、速度と防御力を失った事に加え、リスクを承知で放った奥義ごと自身が焼かれたのだ。急拵えの防御で何とか耐え忍んではいるが、魔力の消耗も相まって圧倒的に不利。

 

 その彼に、コーリスは上から言葉を浴びせた。 

 

 

「光の鎧、理不尽すぎるし…その割に大技を放つ魔力の余裕があるから何か仕組みがあるんじゃないかって思ったんだ」

 

 

 魔力解放、聖依(クルセイド)

 光の鎧によって高速戦闘を可能にし、全ての技が強化される能力。その圧倒的な光量が魔力によって賄われているのなら、大技を何度も放つ余裕は無い筈なのだ。

 

 コーリスの考察に、ブロンシュは無言で睨んだ。

 

 

「その光、空のか」

 

「……ッッ!!!」

 

 

 そう、魔力解放は本人の気質の具現化。

 ブロンシュは自身で(未来)を創れない。他者(真王)の保証する未来という名の借物でしか光を見出せない。

 故に、解放された能力に使われる光は、全て空の──日光によるものである。彼が魔力を使うのは、受けたその光を鎧や技を放つ際の形状に変形させる際のみ。

 彼の魔力解放の弱点では無く、欠点。それは日光が無ければそもそも発動出来ないという点にあった。

 

 勿論、微弱な光であっても鎧を作る事は出来る。

 だが、夜はどうだろうか。外灯の明かりでは何も出来ない。その時ばかりは通常戦闘を強いられる。

 

──彼が未来を照らす事は出来ないのだ。

 

 

「貴様……ッ貴様はァ………!」

 

 

 自らの絶望を当てられたブロンシュは、自分が立ちあがっている事も忘れ、再び能力を行使した。

 霧によって自身の虚光を塗り潰し、道を開いたコーリスへ果てしない怒りを感じながら、鎧を形成せず、ただ周囲に光蔓延らせた。

 

 少なくとも、冷静に憤っているようだ。

 

 

曙白光(しょはくこう)──鎧を作っても…お前に近づけば霧に剥がされるだけだ」

 

「…」

 

「ならば、聖依(クルセイド)はお前の霧と相殺させ続ける」

 

 

 それは合理的でもあった。

 霧を晴らす事が出来ないのなら、せめて自身に干渉させない様に立ち回る。ブロンシュは空の光を光弾に変化させ、只管周囲の霧にぶつけるつもりなのだ。そうすれば霧は盾を生まざるを得ず、動作を潰せる。

 その間、コーリスはがら空きという訳ではない。霧は際限なく生み出せるし、魔力がある内は能力を使える。

 

 つまり。

 

 

「回避もしない。防御もしない。お前をこの剣と銃で──光り壊してやる」

 

 

 ブロンシュは彼自身の光の魔力を以て、コーリス本体を叩くということだ。

 対抗策に見えて、コーリスの有利は覆らない。

 ここに力関係は明白となった。

 

 

 

「ノア」

 

「…どうしたの。ゾーイ」

 

「コーリスは既に、守る側に行ったんだな」

 

「そうだね。もう…コーリスは零さないだろう」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 紫の騎士、クラーレは目の前の五月蝿い戦いが始まったのを見て、溜息を漏らした。

 目を閉じて、真王に問を投げる。

 

 

「ねぇ、王様」

 

「何だ」

 

「これが見たかった覚醒…?」

 

「少なくとも、彼にとって理想の力が身に付いたと言えるな。紫よ、お前はどう思う」

 

「強さの事?」

 

「それを先に聞こうか」

 

「魔法を剥がす霧を沢山作れる時点で、タルヴァザはもう超えたわね」

 

 

 遠くから、タルヴァザのいじける声が聞こえた。

 

 

「でも、子供の戦いよ」

 

「子供…か?」

 

「ええ。さっき、ブロンシュは鎧を剥がされて痛手を負った。霧からの光線に対処しようとして、盾によって防がれたから。でも、霧は同時に2つ以上の技を使えない。この光から盾への切り替わりの一瞬、アイツは突撃してきたコーリスに気を取られて逃げるという選択を失った。一瞬でも後ろに下がっていれば、霧の射程範囲から出れたかもしれないのに。お陰で追加の霧から光線を補充されてその場に縫い付けられた」

 

「ふむ…初見故に気づかなかったか」

 

「いえ、霧を晴らすという選択を出来たにしては…それに、自分の強みを理不尽に押し付けるアイツが、なんでリスクを度外視してコーリスに向かい合ったのか」

 

「……私情か」

 

「それも含めて実力ね。魔力解放後の勢いで、まだ自分の弱点を把握しきれていないコーリスはまだしも、彼を叩き潰すという感情を抑えきれなかったアイツはガキよ。子供らしく調子に乗ったコーリスに比べて、意固地なだけ。子供とガキの戦い」

 

 

 クラーレは先程の攻防を未熟と判定した。

 コーリスは霧の万能性を無意識に過信し、恐れる事なくブロンシュに突撃してしまった。

 そしてブロンシュは、そんなコーリスに冷静さを失った。

 

 まだコーリスは能力を使いこなしていない。出来る事をひけらかしているだけで、応用も三つの技を組み合わせるだけに留めている。

 しかし、ブロンシュは自身の強みも弱みも知っている。もし回避を選んで、時間を稼いでから最大火力である解放奥義を放っていれば、盾を割って霧を散らせたかもしれない。

 彼は何故一つ一つ細かく対処しなければならなかったのだろうか。

 

 

「王様、ちなみに私ね」

 

「うん?」

 

「まだ、勝てるわ。まだね」

 

「……はは。そうか。それは善い事を聞いた。近い将来、安心してお前の首を七曜から絞め出せるというもの」

 

「冗談を言わないで。私も未知数のつもりよ」

 

「冗談などではない」

 

「え?」

 

 

 コーリスとブロンシュが激突する。

 

 ブロンシュの周囲に浮く光は、普段なら鎧に使われる筈のもの。それが数多の光の弾となり、周囲に展開された霧に盾を強制させ、封じている。

 その隙に本人はコーリスと剣を交え、彼が霧を展開するのを防いでいるのだ。

 

 今やブロンシュは剣と銃にしか光を纏っていない。足は高速移動を恐れたコーリスが全力で阻止している。戦闘状況は開始時に戻ったような物だ。

 それでも、いつかは終わりが来る。 

 

 

「コーリス…お前は自己犠牲が尊いと、諦めなければ全てが思い通りになると信じて疑わない!それは愚かという他無い!!」

 

「何を…!?」

 

「自己犠牲の行き着く先は他者の尊厳の否定だ…!捨てる事を知らないお前は各地に呪いを振りまく!他者はお前にしか光を見れない!」

 

「ッ…他を犠牲にして未来を創ったつもりか!お前はァッ!!」

 

 

 コーリスの脳裏に防衛街が浮かぶ。

 あの時だって彼の経験を重視せず、ブロンシュがただエニュオを討伐していれば、子供達は生き残った筈なのだ。その未来は、コーリスの強さに繋がらず、未来に負債を残すかもしれない。

 だが、それでもその犠牲を許容出来る筈が無い。

 

 

「そうだ…犠牲が無ければ成り立たない世界にお前は生まれてしまったんだ!」

 

「違う!お前は分からないから見捨てただけだ!人は守ろうとしても零れ落ちるから…零さない様に、拾える様に足掻き続けるんだ!!」

 

「理想論で人間と世界を知ったつもりか…!完璧を求めて足掻いた人間の末路は総じて絶望だ!」

 

「だから諦めるんだな!拾うつもりも無く大切なものを捨て続けるから、犠牲を許容する!!」

 

「これはお前一人が背負う犠牲への怒りでもある!何故分からない!?」

 

「空っぽなお前に言われても怒りしか湧いてこないからな!色々な場所で捨て過ぎて、何が自分に必要なものなのかも分からなくなったんだろ!?」

 

「幽霊が…夢を見た気かぁッ!!」

 

 

 最早、会話になっていなかった。

 互いの感情を吐露する事しか考えていなかった。

 戦いにおいて理不尽を押し付けるという思考回路、人を導くという欲求──どこか似通っていた両者だからこそ、一度敵意を抱けば平穏に終わる事は無い。

 

 コーリスは剣を大きく振るう。速度が消えているブロンシュは大剣で防ぐが、純粋な力では押し負ける。

 

 

「お日様浴びただけで図に乗るから勝ちきれないんだよッ」

 

「なら粘られてるお前は不良品という事だ!」

 

 

 鍔迫り合いで稼いだ時間を使い、ブロンシュは足に魔力を溜めて高速移動を図る。各部位ごとに2秒、そして膨大な魔力を使うが、このチャンスを逃す事はありえない。

 無論コーリスも警戒はしていた為、口からの光線で脚への妨害を試みたが、前者の溜めの方が速かった。

 

 

(所詮増長した小僧──!!)

 

 

 しかし、高速移動に反応できないとしても。

 

 

(2秒、だろ?)

 

 

 2()()()()()()()()ならば対応は可能。何故なら、攻撃が来るタイミングを読めるからだ。

 光の鎧を纏っている状態であれば日光から供給される光によって持続的に行動出来るが、現時点では彼自身の魔力を使う事しか出来ない。莫大な速度を生み出す為には莫大な魔力が必要であり、その移動時間は1秒にも満たない。

 速度重視なら尚更である。

 ならばフェイントを仕掛ける隙も無く、敵は純粋に有利を狙うだろう。

 

 

理解(わか)ってるんだよ光ジジイッ!!準備(2秒)も、持続(1秒)もッッ!!!」

 

 

 背後に回ったブロンシュの肩が、魔力を纏ったコーリスの蹴りによって沈む。

 短すぎる移動時間が、背後に回るという選択肢を強制してしまった。回避と攻撃を合わせた渾身の蹴り落としによって、大きく地面が歪む。

 

 

「があッ!!!」

 

 

 しかし、ブロンシュはここに来てある種の転換期を迎えた。

 腕から拳──指先に至るまで光を行き届かせ、地についた手の力だけで空中に飛び、蹴りで隙を見せたコーリスの頭上を陣取った。

 その左肩は外れていた筈だが、飛び上がる衝撃を利用して無理矢理嵌めた様だった。

 脚にしか使用していなかった白光を、ここに来て細部にまで応用し、爆発的な可動を見せていたのだ。

 

 

糞霧餓鬼(殺す)──!!!)

 

「しぶとい…!」

 

 

 覚醒によって高揚しているとはいえ、コーリスはカウンターの判断が取れなかった。

 頭上から最小のモーションで行われる切込みには、盾以外で反応できなかったからだ。鍔迫り合いは白光の猶予を与えてしまう為に愚策と切り捨てた。

 

 

「霧はどうした!?使わないのか!」

 

(…煽り返す余裕は生まれてるが、依然として俺が有利。それに()()()もある)

 

 

 コーリスが霧だけを曙白光によって封じてられているのに対し、ブロンシュは高速移動という一番の強みを封じられている。新たに霧を生み出せずとも、光線と盾という武器は失っていないコーリスに軍配が上がるのは当然と言える。

 

 

(ならブロンシュが見始めた勝ち筋、可能性、希望を、全部…全部──)

 

 

 コーリスは剣を防いだ盾を腕ごと前面に全力で押し出し、空中にいたブロンシュの体制を大きく崩した。

 

 

(──壊してやるッ!!!)

 

 

 蒼霧の覚醒によって視野が広まったコーリスは、普遍的な盾や光線の扱いすらも研ぎ澄まされ、その身体能力を活かして敵の抗戦を粉砕する行動を無意識に行える状態に至っていた。

 

 しかし、この戦いにおいて成長しているのは彼だけでは無い。

 

 

「しッ───」

 

 

 ブロンシュは地面に触れた右手だけに白光を使う事で、弾かれる様に盾の圧から抜け、空中の時間を足の強化に使う事で着地と同時に再度加速し、コーリスの懐に潜り込んだ。

 

 

(腕を足の代わりに…調子に乗ってきてるな)

 

 

 彼は最早コーリスに立ちはだかる試練ではない。

 希望を否定する絶対的正義の化身。自身の限界を突かれようとも、倒れるまで否定を続ける事で得た境地。

 高速移動に足だけでなく腕を利用し、立体的かつ不規則な機動を見せる様になっていた。

 しかし、腕を用いて望む方向へ飛び回るのは至難の業となる。魔力の精密操作や身体の微弱な調整を一か八かでやってのけるブロンシュもまた、感じた事のない興奮によって覚醒していると言える。

 

 一度撤退されては再度の聖依(クルセイド)発動を許してしまう為、コーリスは接近戦へ自ら足を運んだ。

 

 

「増長の代償は重いと見えたなコーリス」

 

(自分の進化に酔って相手に時間を許した馬鹿が!おかげで霧を出せた!)

 

 

 (オドス)

 時間を得たのはコーリスも同じだ。生み出した蒼霧から光線を放ち、ブロンシュの動作を大きく阻害する。

 

 

「否定してみろ()()()……!!」

 

「口の減らない自然現象風情がァ!!」

 

 

 コーリスの剣に大きく魔力が宿る。

 ブロンシュに防ぐ手は無い。回避する手はあるかもしれないが、今と同じ状況を招く事は明白だ。

 

 

「ガンマライト・エクスキューション!!!」

 

 

 横凪ぎ。

 

 

(ブロンシュ…避けるか?)

 

 

 選択肢。

 

 

(鎧無しに食らったら今度こそ無理だ…どうする)

 

 

 回避か防御か。

 

 

(避けろよ…!)

 

 

 防御はジリ貧。魔力量に余裕があるコーリスの手からは逃れられない。

 回避は後手。再び霧を生成したコーリスが大規模に攻撃してくるだけ。

 

 

(どうする…どうすれば!)

 

(もう一発分溜めてあるんだよ…!避けた後に逆方向から叩き込んでやる!!)

 

 

 そもそも防げるかどうかの不明瞭な選択を取る気はない。回避が妥当だろう。

 回避した後に先に技を打ち込めば──

 

 

(技──技!!!)

 

 

──解を得たのはブロンシュだった。

 

 

「避けたか馬鹿がァッ!!!」

 

 

 一撃目の斬撃を躱したブロンシュの足元を狩るように、もう一度斬撃が飛んでくる。

 ガンマライト・エクスキューションはジリジリと魔力で焼く持続的な攻撃。見た目に反して溜め込む技ではなく、魔力を撃ち続ける技。逆に言えば、無駄に溜め込んで撃ち、好きなタイミングで中断する事が出来るのだ。

 読み通り、コーリスの技が当た──

 

 

「光を舐めるなァァァァァ!!!」

 

 

 ブロンシュは咆哮と共に大剣を突き刺した。武器を手放す愚行とコーリスは狼狽えた。 

 だが、すぐにその意味に気がついた。

 

 

(七曜の武器を盾に…!!)

 

 

 そう、七曜の武器は壊せない。大剣の表面積を活かし、斬撃を防ぐ盾として扱ったのだ。

 奇しくもそれはエニュオとの戦いで愛剣を犠牲にしたコーリスの行動と似ている。戦いを見ていた彼がインスピレーションを得たのだろうか。

 

 

(カンニング野郎──が!!!)

 

 

 だが、剣を捨てたブロンシュの元へ詰めて叩けば問題ない。コーリスが冷静さを失うにはまだ速い。

 …否。

 

 

「…まさか!!」

 

 

 ブロンシュは盾として突き刺さる大剣を蹴り、後方へ大きく飛び退いたのだ。

 それは逃避に非ず。彼が武器として持ち得るのは大剣の他に──銃がある。

 

 

(撃ち抜いてやる……コーリス・オーロリア!!)

 

 

 全ての魔力を銃へ蓄積。

 弾という概念を捨て、全てを貫く光を撃ち出すイメージを以て新たな奥義を創生。

 七曜の武器で行う奥義を、銃で放つ──!

 

 

白鳳銃(はくほうじゅう)天津神(あまつかみ)

 

 

 それは、七曜の奥義と同じく範囲を極限まで絞った一撃。

 余波も波動も存在せず、命中した際に初めて敵を焼き焦がす技。

 圧縮された光は対象に命中するまで、決して消えない。

 

 

(どうせ死なない男だ…ならばせめて折るッ!!)

 

 

 微笑むのはブロンシュか。

 コーリスの眼前に光が迫る。

 

 

(あ…)

 

 

 罵りを含んだ戦いを静観していた仲間達が、声を大きく荒げた。

 

 

「コーリスッ!!!」

 

「避けろコーリス!!」

 

「その光は駄目だ!!」

 

 

 子供の戦いを見ていた七曜の面々が、零した。

 

 

(これは白殿の勝ち…見事な戦いでした。エヘカトルは感激で泣きそうです…!)

 

(コーリスの覚醒は成った。十分でしょう)

 

(お前はここでは終わらないだろう)

 

(うん、やってるなアイツ)

 

 

 最後に、クラーレと真王が。

 

 

「これが終わりか…」

 

「…王様」

 

「どうした」

 

「私の考えは合っていたわ。子供とガキの戦い」

 

「どういう事だ?」

 

 

 クラーレは笑った。それはもう、至極のしたり顔で。

 

 

「ブロンシュは我を忘れてガキになった」

 

 

 真王もまた、笑った。

 

 

「なら調子に乗ったコーリスは?」

 

「勿論、そのままね」

 

 

 そう。コーリスはそのままで戦っていた。

 やれる事は増えても、戦う姿勢に変化はない。最適の手を理解した上で手放す事などしなかった。

 

 それが、勝敗を分けたのだ。

 

 

「あ、ああ」

 

 

 ブロンシュが嘆いた。

 霧の生成を曙白光で防ぎつつ、接近戦を繰り広げる事で敵の動作を封じた。

 最も恐るべきなのは霧を介した魔法の解除。しかし霧がなければ直接触れるしか無く、それを戦闘の最中に行うのは至難の業。だからこそ彼はコーリスに激しく近づいたのだ。

 

 だが、忘れていた。

 敵の干渉を受ける事なく霧を発生させる事ができ──尚かつ溜めることが出来る場所があったのだ。

 

 

「く、ち」

 

 

 口である。

 コーリスは口の中に霧を発生させ、溜め込んでいた。

 

 それが隠し玉。

 霧を封じたつもりになっていたブロンシュの希望を打ち砕く──物理、魔力、魔法解除。

 口からの光線を事前に知っていたからこそ、コーリスが撃たないと驕っていたからこそ、気づかなかった仕掛けであった。

 

 

「トレース・エクリプス!!!」

 

 

 二度目の日蝕が、光を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「終わりか」

 

 

 コーリスは横たわるブロンシュにその言葉を投げかけた。

 

 

「……終わりだな」

 

 

 コーリスを散々否定していた彼が、何処か納得したかのように目を瞑り、頷いた。 

 それを見たコーリスは目を逸らしながら言った。

 

 

「…なんだ。その、なんか楽しかった」

 

「ほざくな。楽しいものか」

 

 

 ブロンシュも軽く笑った。

 

 

「多分、俺はお前の人生で最も強い敵で、最も簡単に勝てた相手だろうな」

 

「…ああ。そうだった」

 

「悔しいよ。俺が未来を創れないと証明された様なものだろう」

 

「やっぱり、お前は…」

 

 

 コーリスは言えずにいた事を、伝えた。

 

 

「何かの当事者になりたかったんだな」

 

「…」

 

「事象を監視する正義の目は、希望を育てる為の物でしかなかった」

 

「そうだ。犠牲なんて踏み倒して、全ての理不尽を洗い去ってやりたかったよ。でも、仕方ないだろう。未来は違うんだ…俺の力が未来の世界に繋がらないんだ。だから自暴自棄でお前を…」

 

「お前は現在を守るべきだった。それだけで、良かったんだ」

 

 

 ブロンシュは言葉を失った。

 

 

「俺が未来を託されたのは、運命とかじゃないんだ。ただ、遠い未来でも生きてるから…希望という意志を教えられただけで」

 

「──」

 

「七曜の騎士は、今を守る希望である事に間違いは無かったんだろう」

 

「……負けた。光を失ったのは俺だけだったか」

 

 

 彼は不貞腐れた様に横に顔を向けた。

 簡単なことだった。未来に執着して現在での価値を捨て、勝手に絶望し、嫉妬し、暴れていただけだ。

 自分達は現在の騎士。ならば、現在を守り続ければそれだけで未来への希望ヘ繋がる。既に死んでいるであろう未来での世界を背負うつもりなのが可笑しな話だったのだ。

 コーリスは幽霊として生き続けるからこそ、持つ影響が大きかっただけで、未来の担い手が生まれる可能性は他にもある筈だ。

 

 

「ま、何はともあれ」

 

 

 熱りが冷めたところで、クラーレが割り込んで場を収めに来た。

 

 

「二人とも、お疲れ様。見てて面白かったわよ」

 

「命がけの戦いを劇のように…」

 

「あの感情の入り具合を考えれば間違いでもないわね」

 

 

 口を尖らすコーリスを躱しながら、クラーレは黒騎士の剣を指差した。

 

 

「王様が言ってたわよ」

 

「…?」

 

()()、ずっと使ってていいって」

 

「これを?」

 

「ええ」

 

「という事は…」

 

 

 紫のハーヴィンは怪しく笑い、コーリスの手を取って無理矢理握手をした後に告げた。

 

 

「内定おめでとう、黒騎士コーリス。2位の座を最強の私が保証してあげる」

 

 

──この日、新たな騎士が生まれた。

 

 

 尚、本人よりも何処ぞの調停者が拍手喝采の声を上げたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コーリス → 小僧 → 糞霧餓鬼
ブロンシュ → 光ジジイ → 白いの



コーリス
・覚醒によりハイになる。ストレスフリーな戦いで楽しかったらしい。決め手はやっぱりゲロビ。

蒼霧(グローリー)
・コーリスが魔力解放によって使用できる能力。
・至ってシンプルで、コーリスの技を霧も使用できるというもの。その代わり蒼霧を生み出す際に魔力を含ませる必要がある為、普段の霧と違って生成に限界がある。
・感知能力は健在。一部分が同時に能力を使用する事は出来ないので、様々な能力の霧を随時生み出す必要がある。

(オドス)
・霧から放つ光線。
・拡散状に放つ為、霧で周囲を囲めば自然と包囲網に変わる。

(クライス)
・霧が展開する盾。
・風圧等を防げば、霧が払われる事を回避できる。

(フーノス)
・霧が解除する魔法。
・霧が触れた魔法に魔力を流し、大破させるもの。

トレース・エクリプス
・上記3つの能力を合わせて放つ大技。
・多くの霧を凝縮させ、物理と魔力の2種類の波動を撃つのに加え、当たった魔法を解除する。



ブロンシュ
・魔力解放には弱点があり、日光がないと光の鎧を作れない事。これは彼自身が希望の光を生み出せないというコンプレックスから発現した仕組み。長所でもあり短所でもある。
・未来を見るあまり、今の自分の存在価値を忘れた。

暁穿
・銃から光線を放つ白穿が魔力解放によって強化されたもの。
・光が大きくなり、着弾時に炸裂する。

曙白光
・光の鎧に使われていた光を弾に変えて細かく撃つ技。

白鳳銃・天津神
・土壇場で生み出した2つ目の奥義。
・大量の魔力を小さな光に凝縮させて放つ、全てを貫通して届き得る銃撃。



なんかレスバみたいになってますけど、二人ともハイになって好き勝手喋ってるだけです。
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