「内定祝いに私と戦わせてあげるわ」
「は?」
戦いが終わり、コーリスに投げかけられた言葉に反応したのはブロンシュだった。
「コーリ──いや、黒に余裕があるのは確かかもしれんがありえないだろう。誰かに冗談の言い方を吹き込まれたか紫」
「閉じておくといいわその口。勝ち筋を逃して負けた光り物は反省会が先よ」
「……何を怒っているクラーレさん」
「いつもの乱心か?」
ブロンシュは横たわりながら思考を続けた。
機嫌が良さそうに見えて言葉に棘と気迫が感じられるクラーレに対し、普段から見知っている彼が違和感を覚えたのだ。尋常ならざる雰囲気に心から疑問を覚えたが、その顔を観てすぐに合点がいった。
そのにこやかな顔に冷や汗が浮かんでいたのだ。
「焦っているのか?」
「なに?」
クラーレの口が噤まれた。
笑顔が消え、コーリスの前に立つ。
「分かって頂戴………」
「本気なのか」
「貴方よりも圧倒的に強いことを証明しないと…!!」
クラーレはワナワナと震えだし、後方で彼女を強く凝視する真王を指差した。
「クビになるのよ私……」
「なれよ早く」
ツッコんだブロンシュが救護隊の元へ蹴り飛ばされ、コーリスとクラーレは二人で向かい合った。
疲労を忘れていない彼はこの場を切り抜けようとしたが、脳味噌が思いの外動かない。クラーレの脳味噌が常人と同じ働きをすると思えないので、彼は何とか言葉を絞り出した。
「何故に突然…」
「今思ったのだけど…私って問題児らしいの」
「………」
言葉を選んで、コーリスは聞いた。
「今までどんな事してた?」
「命令は聞いてたわ…うん、ちゃんと聞いてたわ」
「過程は?」
「あ………」
「テキトー?」
「じ、自由にさせて貰ってたけど、最終的には」
「もしかして過程でかなりトラブル起こして…」
「っ……確かに、最近も犬神宮からの抗議文が毎日来るって王様に怒られて……返答はちゃんとしてるけど…あと3日経って貴方が帰れなければ神将自ら殴り込みにくるらしくて」
「ゔ、ヴァジュラ…?」
初耳にしては洒落にならない問題である。
十二神将の一角が空の最大勢力に喧嘩を売るとなれば、犬神宮は間違いなく滅びる上に、真王が十二神将を従える大義名分が生まれてしまう。
その発端となるであろうクラーレのディスコミュニケーションが毎回の様に行われている事実にコーリスは慄き、同時に七曜の面々が彼女を問題視している理由として深く実感した。
どうにかして宥めようと言葉を探したその瞬間、後ろから慣れ親しんだ気配が飛びかかってきた。
「やったじゃないかコーリス!」
「ああ、ゾーイ。やったよ」
「敗北からの即リベンジは君の得意技だな!私も鼻が高いよ」
背中に飛びついたゾーイに対し、コーリスはやっと一息つけると顔を綻ばせた。
続いてカリオストロとノアも彼の肩に手を乗せて労いの言葉を口にする。
「人間卒業おめでとぅー☆もうモルモットにしちゃってもいい感じだね♡」
「冗談だよね…カリオストロ」
「オイ待てノア幾ら何でも首は」
「問答無用だよ」
「ノアさん!?ゾーイ!ノアさん乱心した!!」
新たな霧に興味津々なカリオストロを咎めるように、ノアが絞め技で意識を落とそうと乱心する。
賑やかな空気が帰ってきて、コーリスの心は次第に日常に戻っていく。
「………え、私は?」
クラーレのリストラは妥当なのかもしれない。
それを暗に態度で告げ、コーリスはイスタバイオン王国へ戻っていった。
──────────────────
「傷が癒える間もなく呼びつけてすまないな」
「構いません」
小島から帰国したコーリスは身体を洗い、傷を処置した後に真王から騎空団ごと呼び出されていた。
周囲には鎧を纏った七曜の騎士が立っており、この国に初めて訪れた時と同じ雰囲気が漂っている。どうやらブロンシュも大事には至らなかったらしいが、ベッドに横になっていると聞く。少なくともタルヴァザが治癒魔法を使い、安静な状態に持っていった様だ。
(改めて鎧を見ると物々しいな。エヘカトルさんですら無機質な装置に見えてしまう)
無言で立ち並ぶ騎士達には圧がある。
それがこの場の重要性を証明していると感じ、コーリスは一層気を引き締めた。
「先の戦いは実に見事だった。私は七曜そのものを世界に対する影響や、イレギュラーを抑制する手段として見ていてな。力関係はそれ等をおおらかに見分ける為のものだ」
「序列は強さと同時に世界そのものに対する危険性をも表し、それ等を管理していると」
「そういう事だな」
クラーレが以前語った様に、真王は危険な能力を持つ人間を手中に置くことで、発生するかもしれない厄災を抑えようとしているのだ。
最も序列は殆どが強さに関するものだ。真王の見立てでは、危険性で注目しているのはクラーレとブロンシュくらいのものだろう。能力だけを基準としたゾーイの視点では、ここにエヘカトルも入ってくるが、彼が持つ魔力的な欠陥によってそれは永遠に訪れる事のない問題となる。
「白との戦い、正直に言えば勝つと思っていなかった。能力の覚醒だけで十分だったのだが……ここまでのものを見せられては」
「合格、と受け取っても良いのでしょうか」
「紫から聞いた通りだろう。文句の無しに合格だ。お前が黒騎士の任を受ける覚悟が出来ているのなら、今すぐにでも名乗る事を許そう」
真王が手を上げて合図を送った。
配下が運んでくるのは黒い鎧。刺々しくも威厳のある鉄人の鎧。白騎士と少々似ているが、黒の方が禍々しく映る。
「その剣と鎧を以て黒騎士は完成する。剣には慣れが必要だが、鎧は聖騎士時代からの名残があろう?」
「…そうですね。黒騎士、謹んでお受けします」
「即断か」
「話を持ちかけられたあの時から決めていましたので」
「なら、良い。恐らくファータ・グランデにて名乗りを上げる時期が一番混乱を齎すだろうが、国との関係は先に私が釘を刺しておく。お前達は国と繋がり依頼を受ける事が出来る一方で、一国が利を独占する状況には手を貸さず、戦争は寧ろ止めに動くとな」
「感謝します」
コーリスは目の前に現れた鎧を見て安心していた。
否、安心するどころか湧き上がっていた。
(当たりのデザインだ……!!)
若々しい感情に突き動かされるのは仕方がない。唯一の鎧を与えられるとなると、男子は舞い上がるものだ。
彼は聖騎士時代、団長ルクスの格好を見て羨ましげに口を開けていたハーヴィンの友を思い出していた。
(碧の馬面だけは回避したかった…黄金みたいに腹を露出させるのも嫌だし、緋色は明らかに重すぎる。緑はマシだが牛みたいで不思議と剣は合わない気がする。紫に至ってはバケツだろ……ハーヴィンサイズでもダサさが勝る。そう考えると一番まともな白の亜種で来てくれて本当にありがとう……!!)
(ああ…こいつホッとしたな)
コーリスの心中を察したカリオストロが呆れて息を漏らす。
次にはゾーイが好奇心からか発言をしていた。
「真王、聞きたい事がある。剣と同じく鎧も不滅の特性を有するのか?」
「いや、限りなく高い硬度で作られた産物だ。最先端かつ最高の技術で作られた故に現代まで受け継がれているのだ。武器は服従の証として星から送られたもので、鎧はそれに見合う立場を確立する為に作り出したものだからな」
「では、星の力を吸収するといった特性は、鎧には存在しないのだな」
「しないな。鎧の存在意義は立場の主張だ。イスタバイオンに連なる国々ではそれが身分証明となる」
ここに立つ七曜の面々の鎧に傷が見当たらないという事は、それだけ優れた鎧という事なのか、優れた騎士達だという証明なのかは分からないが、生半可な攻撃ではびくともしない代物と言える。
新人聖騎士時代に兜まで被りきっていたコーリスにとっては何一つ不自由はない。強いて言えば防御魔法を使いこなすようになって不要になった事はあるが、本体を守る面で言えば今も需要はある。
「でもどうすんだ?」
「む?」
「お前の左手。オレ様が新調したから細めの義手になってるけどよ、そのままじゃ篭手付けれねぇだろ。左腕だけ何か細い騎士とかダサいぞ」
「………」
予想外かつ致命的な問題に言葉を失ったコーリスに対し、カリオストロは口を歪めた。その目は一方的な取引を行う時の意地悪気な雰囲気と合致している。
「新しいの欲しいか?うん?新しい義手」
「普通の腕レベルのやつ……作れる?」
「そりゃあ作れる。美少女錬金術師を舐めてもらっちゃ困る。だがなぁ…それなりに疲れる。見返りがあるとモチベーションが上がると思うが…………?」
「こ、小遣い増やす」
「この団の財布持ちはオレ様だぜ?」
「施設を増やすとか…」
「それは満足してるし部屋も狭い。オレ様が欲しいのは知識なんだよ。知識を詰め込む頭には広さの限界が無いからな」
「…く」
「蒼い霧……いや、霧を本格的にじっくり調べてやるからなぁ?身体の隅々まで確かめてやるよ」
まるで淑女の弱みを握った下劣な
咳払いをして止めるのはノアの役目だが、今回は真王が先んじた。話を止められるのは別に構わないが、伝えておく要件はもう一つある。さして重要では無いが、コーリスが七曜の一員となった以上は必要不可欠な問なのだ。
「悪いがもう一つ言わなければならない事があってな」
「はい」
「紫を七曜から追放すべきかどうか。見解を聞かせよ」
「…クビの流れは続いていたのですね」
「冗談などではないぞ」
コーリスの返答よりも先に紫の鎧がガタガタと揺れだす。ブロンシュ戦の後で見せた振る舞いと同じなので思わず吹き出しそうになる口を抑え、彼は率直に言葉を繋げた。
周りの騎士達は微動だにしないが、黄金の騎士であるリノアが何処か嬉しそうだと、コーリスは確証のない実感を得た。
「クラーレさんが何をしたのかは……いや、犬神宮についての事は分かりますが。兎に角、過去にどんな問題を起こしたのですか?」
「ふむ。まず就任したてにワーヌーン・グランデで傭兵として一定の地位を築いていたウラリ族の次代へ続く毒素を問答無用で抜き取り、強硬的だと空域単位で軽い顰蹙を買った。農耕を司る星晶獣によって維持されている島では、その獣の暴走の鎮圧に向かったが、倒した後に紫が酸を使ったせいで出来た穴にコアが落ちてしまってな。星晶獣が空の底に落ちて戻ってこれなくなったのだ。島そのもののシステムが壊れる事態になってしまい、黄金と緋色を向かわせて大地の再生を行わなければならなかった。呪いの星晶獣の分体と戦った際にはその地区が丸々禁足地に指定されるほどの毒素を溜めた。槍で倒せたものを…毒で呪いを上書きできるかという遊び心でその土地を汚染してしまった。無論犠牲者もいないし、今は浄化済みだ。あとは…対立する島の戦争を終結させる為に赴き、最終的に6つの島が絡む大戦争を引き起こしかけた話でもどうだ。しかも与えた任務ではなく、碧と緋色に勝手に着いていった結果だ。加えて──」
「いえ、分かりました……想像以上に害ですね」
端的に言えば、空域との関係を悪化させ、土地を汚染し、島を機能不全にしたのだ。戦争も起こしかけるし、昨今の神将問題を加えれば完全な害獣。
指示しか聞かない人間ならば相応の任務を与えればいいが、勝手に動き出すものだから歯止めが効かない。強さだけで見過ごせる境地は初手で通り越した。
コーリスもこれには唖然とせざるをえない。少なくとも七曜の座から降ろすのは妥当ではないのかと感じる。
味方の線が存在したコーリスの動揺を感じ取り、クラーレは大いに焦りだす。
「お、王様…私をクビにしたら多分困ると思うけど…」
「貴様に発言は許されていないが?」
そこでリノアがいやらしく言葉を遮り、稀に見る上機嫌で紫のハーヴィンを完封した。
「黙れ…………殺すわよ……!!」
「マジで余裕ねぇんだな」
最早暴言で言い返すしか出来ない憐れなハーヴィンに対し、リノアは喉元の鎧を動かしながら嗤った。
可哀想に思えてきたコーリスはふと思った事を口に出した。
「そういえば、クラーレさんは何故七曜に固執する。その力なら世界中で活躍出来る筈だ」
「…壊れない槍が便利だからよ。私が本気を出す上で壊れない武器は必須」
「………どうしたものか」
コーリスにとってクラーレはブロンシュ戦で背中を押してくれた存在だ。正直に言えば、諍いを正当に解決してもらいたい気持ちはある。解雇によって野に放たれるのは忍びない。
「と言っても私に考えがある。黒騎士よ、数年後…紫と共にある群島に行ってもらう。6つの島に6匹の星晶獣。かつて星の民の実験に使われていた場所だ」
「6つの島…?」
「場所はワーヌーン・グランデとカルエス・グランデの境界線付近だ」
急な勧告にしては数年の後に行う任務のようだ。
しかも、七曜が2人必要なレベルとなると、かなりの大仕事。コーリスが黒騎士としてファータ・グランデに定着するのを待ち、功績を与えつつ、クラーレの価値を測るというのが趣旨となる。
「クビじゃない!?私っクビじゃないのッ!?」
「何故そこまで槍に…」
「黒よ…私が思うに、こやつは目の前に立ち塞がるものを障壁と見なし破壊する。自分の行動、精神を妨げるものを許せないからこそ、不自由への移行は大きなストレスとなる。槍を奪われれば戦闘にて手加減が必要となり、立場を奪われ、行動に自由が無くなる事を恐れているのだ」
「…難儀な」
「その気質だけは同情に値するものだ。こやつは不自由を感じる度に目の前の全てが敵に見えるのだろう。そう育ったが故に」
猶予を与えられれば飛び上がって喜ぶクラーレ。
彼女は自らの運命に抗い、生を勝ち取ったが故の気質を持っている。障壁に対する恐ろしいまでの敵意、失墜に対する憎悪。それ等が八つ当たりの様に振るわれる事はないが、力の増強を招けば、真王が許容できる毒素を超えてしまう。
現在の立場から追放してしまえば、彼女の趣味である食事も質素なものになる。そのストレスも看過できないほどに、彼女は世界にとって危険な存在なのだ。
コーリスが持つ、記憶を奪う霧にすら情報量というストッパーがあったのに対し、クラーレが放つ毒には規模の限界が無い。魔力が続く限り何処までも侵す。
解雇は粛清の言い換えという可能性もあるのだ。
「犬神宮で引き起こした問題は看過できませんが、住民に外傷を与えない様に立ち回っていた事も忘れていません。俺はクラーレさんと一緒に働きたいです」
「よかろう。紫…次は無い──命もな」
「り、了解。あとコーリスありがとね…」
「いえ」
大きな舌打ちが聞こえたが、周囲は当人の尊厳の為に無視する事を選んだ。
「明日、ファータ・グランデのラビ島に向かう」
「ラビ島…エルステ王国のメフォラシュですか?」
「そうだ。ファータ・グランデは数々の国が独立して久しいが、星との関わりが密接だったのはエルステ王国だ。そこで黒騎士の存在を認めさせ、あらゆる国へ伝聞を送る」
「…知名度が不安ですね」
「国ならば七曜と真王の知名度に問題はない。全空最強の存在がこの空域では空席……その認識は広まっている筈だ。ならば、真王の私が国に圧を与え、統治領に情報を届かせる事で黒騎士を不動の存在とする。黒騎士に害あれば七曜が直接叩きに行くとな。懸念すべきは下らん野盗に襲われることだ。時間の無駄は避けたい」
そして、祈望の騎空団は黒騎士が持つ個人的な戦力として扱うので、軍隊と区別して今まで通り活動が可能だ。
今までと変わりないといえば、大いに変わる。国と個人とで関係を結ぶ必要が出る上に、上下関係で言えばコーリスの方が上と言える場面が多くなるのだ。激務に忌避感は無いが、騎空団としてマトモに活動できるのかが、如何に信頼を得るかも含めて重要になるだろう。
何より、一般人からの依頼が少なくなることが予期される。これは彼にとって悲しいものだ。
いっその事、民に支持された騎空団が七曜の戦力にのし上がった…というストーリーで誤魔化したいくらいであった。
「…若手のエリートが人間関係で苦労するのは、結局偉くなるプロセスを認知されていないからなんだっていうのを実感した気がする。スルトも居づらかったのかなぁ」
「オレ様も苦労したよ。何せ可愛くなったのがガキの頃だしな。時代も時代…頭がガキのまま女として振る舞ってのし上がるのは正直堪えた。女とガキは舐められる要素しかねぇからな」
「…え。身体変えたのって子供のときなの?大人になってからじゃなくて?」
「この身体じゃねぇけどな。大人の身体だ」
「じゃあカリおっさんじゃないじゃん」
「お前そんな風に見てたんだ」
「…」
「言い訳しろや!!」
いちいち喧嘩が始まっては仕方がないので、真王はこの場を一旦断ち切る事にした。
「取り敢えず、同業者としてこれからよろしくお願いします」
コーリスは、治療の為に休んでいるブロンシュを覗いた5名に頭を下げた。
反応は様々だ。
緑のエヘカトルは深く頭を下げ、碧のバミューダは握手を申し出る。黄金のリノアはコーリスと同じ姿勢を取り、緋色タルヴァザは『おう!』と返事をした。そして紫のクラーレは彼の両手を取って縦にブンブンと振り出した。
『クビ宣言から遠ざけてくれてありがとう』とは彼女の言だ。
ここに改めて、黒のコーリスが誕生した。
────────────────
──そして、ファータ・グランデのラビ島にて黒騎士の宣誓が行なわれた今日、予め用意されていた伝書鳩が各島、各国に渡った。対象は国王とその国の最大戦力。そして…十二神将に。
中身は、多少の名は知られていた祈望の騎空団団長コーリス・オーロリアを、アウライ・グランデ大空域の真王の元、七曜の黒騎士として任命するというもので、ファータ・グランデに対する強行的存在にはなり得ないが、侵略を目的とする戦争には干渉し、国との契約を可能とする騎空団として存在する事となった。
反響は様々だが、国からの依頼が減るという痛手を懸念し、村や街単位での契約を急ぐ騎空団の存在が大いに目立っている。
また、平穏とともに存在している国は真王が突然干渉してきた事に危機感を覚え、黒騎士と早急にコンタクトを取る事で信頼を得ると共にその人物を見定めようと動いた。
そして戦争を始めた数少ない国は、その威光に怯え、即時停戦か──或いは敵国の過失をでっち上げる準備に取り掛かっていた。
最早、悪影響の方が大きい事態となっている。
何せ、間接的に行動を抑える上位存在を一方的に配置するなど、圧政に変わりないからだ。各国への圧を隠しきれていない。ファータ・グランデに混沌が訪れた。
──リュミエール聖王国にて、騎士は。
「だんちょー!!!!」
「どうしたスルト」
「だんちょー!!!!!!!」
「煩いですよスルトさん。コーリスさんが帰ってきたんですか?」
「ろ、ろいす!聞いてくれ!いや、見てくれこれ!いやいやいや……えと、知ってくれ!知れよ!!」
「イカれてますね」
「…その紙、ゴーレムを象徴する土塊と城壁の印章。ラビ島から来たものか。メフォラシュの古臭い人間達がリュミエールに何の用────」
「…団長。どうしました?というかそれ聖王に届いてましたよさっき。これは貴方宛ですけど」
「──見ろ。ロイス」
「はぁ………ん?」
「デマか?これデマか!?」
「いや…メフォラシュの印章は本物だし、アウライ・グランデの事は知っている。空の中心だぞ。名を騙れば即座に罰られる」
「くろ……きし?コーリスさんが?え?なに?」
「コーリス…ファータ・グランデを支配する気か?」
「な、やばいだろこれ?やばいよな?」
──ガロンゾにて、フィラは。
「…皆が騒いでる。何かあったのかな?」
「掲示板?何処かが戦争でも…始めたのかな」
「むー…見えない」
「あ、とちょっと、で……と」
「すいません、ちょっと見せてください」
「…………コーリスさん?」
「黒騎士って…なんだろう?」
「……………?」
「コーリスさんとノアさん…大丈夫かな」
「また、死にそうになってないかな」
「あ、こんちにはおじさん。この七曜の騎士ってなんですか?」
「空の世界の最強の騎士……?空域の支配者………?」
「それに…コーリスさん、が……?」
「………???????」
「──なんで?」
──とある島にて、呪いは。
「珍しくどこもうるさいなぁ。りっちょにはキツイのよ……」
「紙切れで騒ぐなんて皆暇で仕方ないんだね。りっちょいつも忙しいからわかんないや…全く、不健全民を馬鹿にする割にコイツラ余裕ないんですよホント……」
「まぁちょっと気になるから盗み見ちゃいましょ」
「…………」
「あれ、同姓同名かな」
「適当に知り合った子が意味わかんないくらいの名声得てるんだけど?は?七曜ってあれでしょ?りっちょ作られた時からあったあの…今じゃ一番強い7人でしょ?」
「いや同姓同名だよね。パツキンの女連れて一度裏切ったんだから少年に2度目はないはずって分かってるよね」
「………あの少年。また裏切ったね」
「コロス」
「……いや待て。いい事考えたぞ」
「ヒヒ…利用させてもらうよ少年。同族のよしみだよねぇ?」
「フヒヒ…サーセンってやつだよ」
──とある街にて、母は。
「……そう。コーリスがそこまで…」
「正直、危険な存在です。ママが彼から再び干渉を受ければ……少なくとも我々は」
「確かに、ほかのマフィアが潰れてくれないと損しか無いものね」
「どうすべきでしょう」
「……本当に、馬鹿な子ね。コーリス」
──犬神宮にて、神将は。
「よし準備OK。これよりコーリス様奪還に向けて私が切り込みを行います」
「ヴァジュラ様!正気を保ってください!」
「何がです?コーリス様は姉さんの大事な人。それに島を害されたあの蛮行を許せるものですか」
「確実に殺されます!!どうか気を確かに!そこのナガルシャ様も気を揉んでいますから!!」
「ナガルシャ…そこの腑抜けをつまみ出して」
「主よ。ご冷静に」
「冷静だよ。至極真っ当一直線にね」
「これをお読み下さい」
「そんな時間は……?」
「どうやら、コーリス殿も上手くやったようです」
「ふむ…?」
「主の心配は杞憂に終わったようです。もう良いのでは?」
「何が?」
「は?」
「いや、何が?」
「主…?」
「いやいや、ナガルシャ。おかしいよ。コーリス様…懐柔されちゃってない?あいつらが私を弱みとして握らない時点で人質の線は消えてるし…これ内容的に騎空団諸共あいつらに下ったって事だよね」
「…お労しやコーリス殿。妹までも問題児だとは」
「墜ちましたねコーリス様。良いでしょう。貴方の迷い──私が斬り捨てて見せます。迷う姿も姉さんの好みですから、口惜しくはありますが」
──午神宮にて、友は。
「サンチラ様、出陣する必要はありません。あの程度の煩悩、私達でも」
「馬ァ鹿。神将の力持ってんの私しかいねぇんだぞ。ちょっくら行ってくっから待ってな」
「しかし貴女の身に何かあれば…十二神将の存続が」
「仕事やんねぇと話にならねっからな。それによ」
「?」
「さっき面白い話が入った。コーが黒騎士になりやがったのよ」
「コー様ですか…懐かしいですね」
「そう…コーが幅効かせんなら少しは午神宮もそっちに絡んでみていいかなって!」
「犬神宮にも関わりが深いと聞きました」
「バジュとヴァジュだな。あの面倒姉妹とよく仲良くなったもんだ。だが、今後は私もご贔屓にしてもらう」
「しかし、裏があるようにしか見えないのですが」
「裏が分かりやすい男だから良いんだよコーは。表の立場がでか過ぎて、案外不安に苛まれてるだけってのがオチだ」
「そうなのですか…?」
「精々国に圧力がかかって、少ししたらいつもの騎空団に戻ってる。そん時にゃあウザがってるのも戦争やってる小せえ国だけだよ」
「それならば依頼として関わるのはどうでしょう。旅のついでに神将の才能を探してもらうというのは」
「いいね!採用だな!」
──ポート・ブリーズ群島にて、盾と弓は。
「久し振りですね、アルミス」
「アテナ様、元気?」
「ええ、元気です。相変わらず魔物の驚異から逃げ切れていない街が多いですから、あまり貴方達の成長は見に来れませんが」
「大丈夫だよ。皆元気」
「ならよかった…」
「…アテナ様。先生のアレ知ってる?」
「コーリス殿の……アレ、とは?」
「掲示板に書いてたんだけど…」
「何かあったのですか!?」
「しちようの…黒騎士になったって」
「……!?」
「どうしたの?」
「い、いえ…何でもありませんアルミス。少々驚いただけです」
「凄いよね。最強の騎士って」
「知ってるのですか!?」
「家でおばあちゃんが言ってた。昔一回だけ黄金の騎士さんを見たんだって」
「……そう、ですか」
「でも、そんなに偉くなって先生…何するんだろ」
「そうですね……コーリス殿。貴方は何処へ行って──何を知ったのですか?」
齎したのは今の所、混乱だけだ。
──7章、完。
7章が終わり、次章からはコーリスがファータ・グランデに戻って暴虐の限りを尽くします。
本編でも黒騎士は色々やらかして疎まれていましたし、そういう運命の鎧を彼は着てしまったのです。
ちなみに午神宮のサンチラは度々言及されていた十二神将の友達です。これから出ます。
※おまけ、七曜に対する感情。
・コーリス
エヘカトル→優しい先輩だけど心を許すには刃が軽い人かも。それでも彼が作ったおにぎりは美味しかった。また食べたい。
バミューダ→普通に良い人。ただ、自分の感情を無視できる人でもあるので、なかなか怖い。
リノア→仲が結構いいし、苦労人だから同情もする。しかし完璧主義者の側面が見えてきて、自分から苦労している事もあるのではと思い始めてきた。
タルヴァザ→下ネタを敵の挑発に使うのは本気で辞めてほしい。マーズと戦ってた時に下手したら死んでたと思うと結構憎い。ただ、このくらい弱点がない男になりたいと思っている。
ブロンシュ→晴れの日に調子乗ってるだけの光ジジイ。希望を持とうとしてないのに絶望する気持ちが分からない。
クラーレ→腫れ物扱いする程か疑問に思っている。少なくともブロンシュより会話が出来る時点で何も恐れるものはない。
・ゾーイ
エヘカトル→能力が危険すぎる。一番怖い。
バミューダ→しつこかった。貴重な人材。
リノア→気性が荒い。八つ当たりはよくないね。
タルヴァザ→ある意味自分が目指すべき精神の持ち主かもしれない。
ブロンシュ→恵まれているのに視野が狭い。
クラーレ→努力家。
・カリオストロ
エヘカトル→相手にしたくない。
バミューダ→人を知った気になってる奴。
リノア→錬金術を教えてやってもいいくらいには勤勉。
タルヴァザ→ある意味マインドが似てるかも。魔法の可能性を広めたのは上出来。
ブロンシュ→情けねえ大人。
クラーレ→真王のミスそのもの。
・ノア
エヘカトル→純粋な子。
バミューダ→何を考えてるんだろう。
リノア→苦労してるんだと同情する。
タルヴァザ→命を粗末にするべきではない。
ブロンシュ→彼と同じ感情を覚える人間は多いと思う。そう考えると嫌いにはなれなかった。
クラーレ→大人として振る舞うべき。
・エヘカトル
バミューダ→唯一相談できる先輩。心の余裕が羨ましい。
リノア→怖い。いつもイライラしてる?
タルヴァザ→忙しそうだから邪魔したくない。
ブロンシュ→怖い。本当に怖い。
コーリス→巻き込まれ体質の後輩。思ったよりも普通の人。
クラーレ→シンパシーを感じない事もない。
・バミューダ
エヘカトル→緊張している若者。優しい。
リノア→自他ともに厳しい若者。高貴。
タルヴァザ→飄々としている若者。鉄人。
ブロンシュ→苦悩している若者。迷い人。
コーリス→道を拓く若者。強い。
クラーレ→抗い続ける若者。強い。
・リノア
エヘカトル→甘い面がある割に殺す時に手が軽いのはやめろ。
バミューダ→あまり自分の思考を普遍的だと考えないでほしい。変な事言って相手に悩みを植え付ける事が多い。
タルヴァザ→真面目なのか適当なのか分からないからせめて戦闘時と分けろ。いつも分からん。
ブロンシュ→言葉に棘がありすぎる。コミニュケーションを大事なものだと思うべき。
コーリス→天然だが純粋に頑張れる人間。何度も窮地から勝利してきたので尊敬に値する。
クラーレ→死ね。
・タルヴァザ
エヘカトル→自身がない割に結構やる。
バミューダ→温厚な割に結構言う。
リノア→理不尽と思わなくもない。
ブロンシュ→悩みやすい性格だからこそ、長い時間をかけて向き合うべきなのではないかと思う。
コーリス→普通に考えてもっと現状に不満を持ってもいい。そんくらいの事を自分達はやってる。
クラーレ→そろそろ大人になるべきか?
・ブロンシュ
エヘカトル→危うい。
バミューダ→頼れるかは分からないが、安定している人間と思う。
リノア→七曜の見本として扱ってもいい精神性だと思う。
タルヴァザ→魔力解放の恩がある。馬鹿になれない自分からしたらその思い切りは羨ましい。
コーリス→霧で生き残ってきた糞霧餓鬼。絶望する割に希望を持ち続けられるのが理解できない。
クラーレ→問題児。クビなら早めに。
・クラーレ
エヘカトル→オドオドしてちゃ何時までも利用されるぞ。
バミューダ→保護者面。
リノア→いつも五月蝿い犬。
タルヴァザ→何かとバランス良く生きている男。正直生きやすそうで羨ましい。
ブロンシュ→プライドが中途半端に高いから困る。一肌向けたらマシになるんじゃない?
コーリス→自分と似てる部分もある。ただ、同じ化け物としてはあっちの方が人間に向いてると思う。