幽溺の空、灰暮れに   作:湧棄俄

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カンソウモマッテルヨ(/ω・\)チラッ



騒なる旅路、静なる帰路

「どうした!?何かあったのか!?」

 

 

○○○が家に駆け込んだ事で異変を感じ取り、父親もといおじさんが様子を見に来たようだ。

だがおじさんは立派な大人。幾ら頼りない性格をしていようが俺をコーリスと気付いてくれる筈だ。

おばさんは温和な人だ。だが決して楽観的な思考の持ち主ではない。狼を見れば、即座に剣に滴る血も人のものでは無いと分かる筈だ。

 

大丈夫、大丈夫なんだ。

俺はコーリス・オーロリア!!

スルトを嘲り、人から頼られる男!

スルトを蹴落とし、騎士団長になる男!

 

『でもあいつに何時も負けてるよな』

 

シャラッップゥゥ!!

俺に勝ってから物を言え雑兵共!

俺がスルトに負けて悔しがってる時に何時もほざきやがってっ!!

こんな時まで脳内で出しゃばるな!!

 

 

「な、何だ君は!?強盗の類か!」

 

「ち、違いますよ!コーリスです!貴方の娘の見舞いに良く来ていた、そして貴方が拾った!というか貴方とも交流あったでしょう!?見舞いついでに料理をいつも食べさせてくれたじゃないですか!」

 

 

 

その目は俺の顔を直視しているのにも関わらず、殺人鬼を見ているようだった。

 

いや、俺が悪いのだがな?

 

 

「黙れ!コーリス君は誠実な男の子だ!、何より娘がコーリス君を怖がろうものか!その血塗れの剣…。やはり君は人を…!」

 

 

そう言っておじさんは護身用に持ってきたのか、ククリ状のナイフを構える。

…!?

洒落になってない!

本気で強盗か何かと勘違いしてるの!?若しくは快楽殺人鬼!?

 

弁明の舌を回さないと…!

 

 

「いや、あの、そ、そうだ!この白色の髪!そしてエルーンの耳!!ちなみに貴方に誘われた時期は3歳の時だと()()()()()()!!」

 

「聞いている…?」

 

 

3歳の記憶など定かでは無い。

村長に聞いた結果、当時の俺は3歳と言っていたそうだ。

俺を拾ってくれた当事者だ。ここまで個人情報を晒せば納得してくれるだろう。

俺は王手を打ったと心で微笑む。

更には狼の土産。狼の肉は基本狩りに生きるエルーン以外は食さない。というか都会に住む人間は例えエルーンでも食わなかったりする。

 

だが、森の住人にとってはご馳走。

若干の獣臭さは残ろうが、程よい油と肉厚な身が食欲を増進させる。

更に、俺が持ってるのは巨大な個体。間違い無く高級品のレベルだろう。

 

彼が俺を誠実な人間だと思っているのなら、この大狼にも合点が行き、コーリスだと気付いてくれる。

そう信じる。割と切実に。

 

 

「聞いただと…?まさか、お前、コーリス君に何を吐かせて…いや、もう何も言うまい…。刺し違えてでも…!!」

 

 

いやだからもういいんですけど。

何で殺人鬼が身元割るために拷問して情報吐かせたみたいになってんだよ。

怒っていいか?常時燃えてるスルトモードに入ってもいいか?霧で記憶失わせてもう一回玄関まで来たほうがいいか?

 

よし、逃げるか。

 

 

「すみません。出直してきます!!!」

 

 

そう言って島の入り口にまでガチダッシュをかまそうとした時。

暴徒(自分を棚に上げて)を止める者がいた。

 

「落ち着いてくれ父さん!あいつはコーリスだ!さっきはその剣に驚いただけだから!!」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「そうだそうだ!娘が言ってるんだから当たり前でしょう!俺はコーリスですよぉ!!」

 

「う、煩い!お前は逃げようとしただろうが!これ以上場を狂わせないでくれ!父さんを止められそうだから」

 

 

ここで思わぬ助太刀!

先程真っ先に逃げてこの問題の原因を作った本人からのヘルプ!

ブラッディソードを生成した落ち度は俺にあるが、お馴染みを裏切った君にも恨みはあるのだよ!

 

 

 

 

 

唐突だが。

…俺、ここ一年で多感になった気がする。

リュミエールに行く前は冷静沈着の自負が合った気もする。いや、士官学校でも無口だが俗に染まる愚行を犯してはいなかった筈。

 

幾ら都会人に囲まれて一年を過ごしたからと言って、ここ最近の横暴は目に余る。

煩悩に塗れすぎている。

 

…何だか悟りを開いてきた。

浮かれきっていた脳味噌が真夏に寒風を浴びる。

 

故に。

 

 

「申し訳ありませんでした」

 

「いやいきなりどうした!?」

 

 

俺は土下座をしていた。

許してくれ。唐突だがこれが最善手だ。

頭を地に付け、首を下げるという人間と獣の尊厳を同時に引き下げる行為。

エルーンとしては最上の謝罪…!!

 

 

「今までの俺は感情のまま生きる獣畜生…!!そんな愚行で騎士など笑止千万。今までの無礼、お許しを…!!!」

 

「…!!此方こそ済まなかった。君は間違い無くコーリス君だった」

 

「父さん!?」

 

 

俺の土下座は真摯に伝わりすぎてしまったのか、それはおじさんにまで誘発してしまった。

俺に匹敵する見事な謝罪体勢。

感服する他ない。

 

む?

何を遠い目で見ている○○○そ、そうか…。やはり許せないか。

でかい口を叩いて島を出た男がみっともなく帰ってきたのが許せないか。だが、今の俺にはこうするしかない。

 

 

「おじさん、おれが。不甲斐ない俺でも許してくれるか?」

 

「え、あ、その」

 

「…無論!此方こそ君を歓迎する!」

 

「おじさん!」

 

「コーリス君!!」

 

 

おじさんと俺は涙を流しながら握手を交わす。

そこから熱い抱擁を…!?

 

 

「っが!」

 

「ぐっ!!な、何奴!?」

 

 

 

ビシッ!!!

 

 

背中に熱い感覚。

張りの良い音と共に藻掻く俺とおじさん。

まるで縄か何かに叩かれたような感覚…これは?

 

 

「…………!!!!」

 

 

背後で俺が見た者は。

 

 

「もう…止めてくれ。これ以上………恥を晒すのは」

 

 

 

死んだ目で鞭を持つ○○○ だった

……。

 

 

いやいやいや!!

お前まで武器を持ち出すのか!?いつからこの一家は武装集団になったのだ!

まさかおばさんまでも武器を…?

 

いや、冷静に考えろ!

何故温厚なお前が!?

 

ま、まさか。

共感性羞恥心!!!!

父親と比較的身近にいた俺の会話が情けなさ過ぎて、羞恥心極まり武力行使に望んだと!?

だがあそこまで墜ちる必要も無い。というか何処から鞭を出したのだ?

 

もたもたしている場合では無い!

 

「はぁ!」

 

「くっ!!」

 

 

先の一撃で沈んだおじさんを差し置いて俺に鞭を振るう彼女。

まず打たれ弱すぎるだろう…。

それはさて置いて剣で受け止めるが…

 

 

「チィッッ!!血で滑る!」

 

「それが、その剣があったからっ!!」

 

最早先程の俺達と同じ様に涙を流しながら鞭を振るう。

その目は怨嗟に満ちており、如何に先の状況が不愉快だったかを物語る。

 

 

「だが、負けるかァァァァ!!!」

 

「……!!」

 

 

鞭をわざと剣に巻かせ、剣ごと引っ張ることで鞭を奪う。剣の強度が心配だが、手入れは欠かさなかった事で刃溢れから折れる事は無いだろう。

問題なのは鞭が奪えない事だ。

 

驚くべきは彼女の剛力。

その華奢な腕からは筋肉も何も隆起していない。だが、戦闘の為の訓練を施されている俺と互角以上。

 

 

「クソ!怒りとはこれ程までに強力か!」

 

「今更被害者顔するなぁぁぁぁ!!!」

 

「く、ガァァァァァ!!!!」

 

「いや何やってんのあなた達」

 

「「あっ」」

 

 

 

俺の劣勢だった綱引きの結果は、様子を見に来たおばさんの声で無に帰した。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

「コーリス君とフェリは思春期だし…そういう事は可笑しくないけど。貴方は流石に見過ごせないわ…」

 

「「いっそ馬鹿にしてください…」」

 

 

ここに項垂れている人間は三人。

愚人第一号のコーリス。

愚人第二号のなにかの父親。

風評被害にあったできた

三者ともかなりの絶望が見られる事から、正気に戻った言える。

 

ちなみに『フェリ』とは○○○の妹、フィラが付けたあだ名である。

わざわざ姉をあだ名で呼ぶ理由は分からないが、フィラ自身と近しい存在でいたかったのか。

ともかく、この場ではコーリス以外は皆彼女の事をフェリと呼ぶ。

今は場に従いフェリと記す事にしよう。

 

先程冷静になった様に見えたコーリス達だが、皆場の雰囲気に当てられたのか非常に変質していた。

コーリスは喜怒哀楽が激しい情緒不安定者に、フェリの父は流れに飲まれる哀れな男に、フェリは極度の羞恥心によるストレスで豹変。

無事だったのは現在コーリスが狩った狼を捌いているフェリの母だけである。

 

 

「まぁ、何はともあれコーリス君!先ずはお疲れ様!こんなに大きい狼まで持ってきてくれて、ありがとうね」

 

「いえ、別に買った物でもありません。先程襲われたので倒したのですが、流石に放置という訳には行きませんので…」

 

「あら!この大きさのランドウルフを狩れたの!?強くなったのねぇ…」

 

「一年間鍛えましたから。それより、俺としてはさっきの鞭術の方が気になりますね」

 

 

コーリスは純粋な疑問を持ってフェリに視線を向ける。

そこには悪意も何も無く、ひたすらに先の剣の手応えに理由があると思い聞いたまでだ。

だが、話題を向けられたフェリはぎこちなく視線を反らす。

 

「別に何も…」

 

「ああ、フェリね。この子コーリス君が居なくなってから急に自分で身を守る術を身に着けようとしたのよ」

 

「ちょっと母さん!!」

 

「…?理由は」

 

「いや、昔からコーリス君の霧のおかげで森で遊べてたわけでしょう?危険な生物がいたら避けられるから。でもコーリス君がリュミエールに行ったら森から安心して出られないじゃない。だから君ほどじゃないけど、それなりに本人は練習してたのよ?」

 

 

「…当たれば相応の威力が出せる鞭は効果的だが、決して簡単な武器では無い」

 

「それが……どうしたんだ」

 

「いや、お前が強いと思っただけだ」

 

「………」

 

 

フェリの沈黙はどんな意味を持つのか。

本人にとってはコーリスが居なくなった後の気休めの様な物。率先して魔物を狩るわけでもないし、森の中心に赴き従来のコーリスの様に鍛えていた訳でも無い。

ただ、自分が集中出来る事をやりたかっただけだ。

そうで無いと、退屈で仕方が無かったからだ。

 

だが実際、自分の力を認められたのだ。

果たして素直に喜ぶべきか、本当に自分は嬉しいと思っているのか、悩ましい所なのだろう。

だから、彼女は母の証言に恥ずかしみを覚え、頬を膨らます事しか出来なかった。

 

 

「何だその顔は」

 

「コーリス君コーリス君!女の子が言ってほしい言葉は『可愛い』『可憐』『美しい』『見惚れた』などなどetc…」

 

「母さんはもう黙ってて!!」

 

「あの目で可愛いは無理が」

 

「お前もだ!!」

 

 

身も蓋もない母の言葉を全力で遮るフェリ。

真面目に悩んでた所を純情乙女に仕立て上げられても困ると言うもの。かと言って女っ気が無いと言われてもムカつく所。

父親は数十分間無言なのでフォローも望めない。

疲れが溜まっていく様だと頭を抱えている。

 

 

「さて、ここの空気も温まってきた頃だし、少し早いけど夕飯にしちゃいましょう」

 

「…!!」

 

「コーリス君ったらあからさまに目を輝かせて喜んでるわね!楽しみだったのかしら!」

 

「はい!あっち(リュミエール)の食事も好きなのですが、こっち(トラモント)の味が忘れられなく…」

 

「やっぱり都会の味は違うの?」

 

「それはもう調味料ガンガンと…。あ、そういえばリュミエールにラーメンという大変美味な物の屋台が来ているのですが、これがまた最高に美味いんです。もし他の島に行く機会があったら食べてみて下さい!」

 

 

自然な流れでラーメンを布教する男。

彼は何故かラーメンに好き嫌いが通用すると思っておらず、ラーメンが最高級の食物と捉えているようだ。

 

 

「へぇ…どんな食べ物なの?」

 

「まぁ短的に言うのならば熱々のスープに浸る龍の如き長さの麺というものが入っていて更に野菜細かく言うのならばもやしやねぎなど大変食べやすい物、肉は大変肉厚で少し甘みがあり満足感があります大将曰くチャーシューと言うそうです。更に更にメンマと言う名のなんとも形容し難い深みのある味と食感の食べ物も食欲を増進させます。そして多種に渡る味があり味噌醤油塩、豚の骨の出汁を取る豚骨まであるのですここでメニュー選びを楽しみラーメンが届くまでどんな味か期待に胸を踊らせます食べる前から幸福感が凄いこれがラーメンですどうですか?」

 

「う、うん。コーリス君がすごく気に入ってる食べ物だってのは分かった」

 

「というかお前…夏に熱々のスープって…」

 

「?ラーメンに時期関係ないぞ」

 

コーリスはこれ程の情報を凡そ7秒で言い切った。当然常人には聞き取ることは出来ず、その歪んだ愛情に引くのみだが、ここで驚くべきはフェリ。

一言一句聞き漏らさずに内容を理解し感想を述べる。

幼馴染力が成せる聴力なのだろうか。

とにかく幸せな男である。

 

そうしている間で料理は完成している。

 

 

「はい、お待ちどうさま!ランドウルフのお肉を出汁に鍋にしてみました。新鮮だからそんなに臭みは無いわ」

 

「うわぁ…!美味しそうです」

 

「確かに美味そうだ…!ほら父さんも起きて、ご飯だ」

 

 

ここでようやく起こされるフェリ父。

鞭が痛かったというより娘に手加減無く痛めつけられたという事実が辛いらしい。

 

 

──いただきます。

 

 

エルーンの風習と言うより本能だろうか。

食前の号令は感謝、そして形は祈りに近い。多くの者が声に出し料理を口に運ぶが、生命への感謝に密接に関わってきたのはエルーンだ。

口には出さず、心から届くように。

ここに居る四人とも、目を瞑っていた。

 

 

「うん。美味いよ母さん」

 

「でしょ?美味しい野菜と美味しいお肉。合わせて不味い訳無いもの!」

 

「だね。それでコーリス君、どうかな?」

 

「……………美味しいです」

 

 

少し間を空けて答えたコーリスは、ひたすら静かに料理を口に運んでいく。

その表情、虚無。

食事を楽しみにしていた時の輝かしい目は無く、不機嫌までに行かずとも、エンジョイ精神の欠片も無い表情だった。

 

それを見かねてか、感想を聞いた父親は尋ねる。

 

 

「…く、口に合わなかったかな?」

 

「いえ、美味しいです」

 

「そ、そうか。何か、思い詰めてる事でもあるのかな?」

 

「いえ、特に」

 

「や、やっぱり僕が居ると邪魔かな?」

 

「そんな事はありません」

 

「何さっきから質問攻めしてるのよ。コーリス君なら何時も通りじゃない」

 

「何時も通りでは無いだろう。さっきより悲しげな雰囲気じゃないか」

 

「だから何時も通りっていったじゃない。ね?フェリ」

 

「そうだな。コーリスは変わってないよ」

 

 

父はぐぬぬ…と唸る。

 

(それなりにコーリス君の事を見てきたが、これと言って特別な特徴は無い。何時も平坦な顔をしていて、態度も崩す事は無い。娘はコーリス君の鍛錬を見に行くが、帰って愚痴を漏らす事も無かった。かと言ってここまで露骨に静かになる人間でもない筈だ…さっきのは久し振りの再開でお互い舞い上がっていたのもあるだろう…)

 

 

「あ、すみません…。食事の際には状況関係なく黙って食べる様にしているんです。食べる事は好きなので、味に浸る時間が欲しくて…」

 

「…そうなのかい?」

 

「そうなのも何もコーリス君はいっつもこうだったじゃない。貴方コーリス君を気にかけてきた割には余り見ていないのね」

 

 

妻の率直な言葉で少し胸に傷を負う夫。

コーリスは月に一回は必ずこの家の食事に誘われて来たので、家族にも周知の事実だった筈なのだが、この父親は違ったようだ。

 

フェリの父は地理学者。

トラモントの霧の起源を探る為に住み込んできた男だ。それ故か観察眼はそれなりに鋭いのだが、如何せん空気が微妙に読めないという点があり、更に学者として致命的な『他人の意見に流されやすい』という性格も相まって意思が弱い。

更には幼少期のコーリスに嘘を付いた事が後ろめたく、無意識にコーリスの深層の追求を避けていたのかもしれない。これは本人にもコーリスにも知る由は無いが。

 

「美味しかったです」

 

 

鍋に盛られた料理の味を一通り堪能し、数が減りすぎない程度に食したコーリス。

手を合せて、満足げな微笑みを見せながら料理の感想を口にした彼はまた真顔になった。

そして、何故か次は耳が垂れ下がった。

 

エルーンの特徴的な感覚器官。

獣を思わせる大耳は感情的に動く事が多い。

喜ぶなら多少の振り、落ち込みは下に垂れ下がる事が多い。

それから察するにコーリスは落ち込んでいる。

と、フェリの両親は考察する。

 

「コーリス君、悩みがあるんだろ?話してみなさい。親身になって聞く事は出来ないが、経験から君に教えられる事もある筈だ」

 

「そう。私達もコーリス君の落ち込む姿は見たくないわ」

 

「…………」

 

聖人の提言と言えるまでにコーリスへの気遣いを見せるが。

これに対しコーリスは口を閉じるまま。

いよいよ深刻だなと二人は心配するが、

 

 

「ああ、違うよ二人共」

 

 

フェリはそれを否定する。

コーリス自身の問題をフェリが遮る。

 

「この耳の垂れ具合は…食事を取った後は眠くなるだろ?コーリスはその眠気と今戦ってる」

 

「いや瞼動いてないよ!?耳で眠気表現出来るのか!?」

 

「…?そんなに可笑しいかな…」

 

「耳の垂れ具合で読み取る貴女も凄いわね…」

 

 

フェリはコーリスに詳しい。

しかも身体的特徴にまで。

この事実は両親を非常に驚愕させ、フェリも少し変わり者なのかなと考えさせられたという。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

「早いもんだね…2日経つのも」

 

「結局前と余り変わらなかったわね」

 

 

コーリスが滞在して二日が経ち、三日目の今日はコーリスが村を回る日。

この二日間は特に変わりが無かった。

 

フェリ一家がコーリスの学校生活などを聞き、コーリスはトラモントの生活を聞いた。

伸びた身長の比較、新聞によるファータ・グランデ空域の情報を元にする口論など、他愛もない事で彼らは楽しんだ。

 

今はコーリスとフェリが何やら話し込んでいる様子。

 

 

「しかしあれだな…あの二人が離れる姿が想像できないな。いや、恋人の様な間柄には見えないけどさ」

 

「確かにそうね。昨日の鍋、コーリス君が皿洗いを申し出て…台所に立ったとき。いつの間にかフェリが横に立ってたのよ。喋りもしないでずっと二人で何かしてる姿を見るのも久し振りね」

 

「うん…魂のパートナーって奴なのかな?」

 

「そうなのかも知れないわね!」

 

 

両親は二人を見て微笑む。

彼等は仲違いはすれど、最終的には必ずよりを戻す。

フィラが仲裁に入る事もあったが、仲直りの一歩を踏み出すのは二人同時同じタイミングだった。

恋仲の様に初々しい物ではない。親友のように日々語り合ったりなどもしない。

それでも、彼等が縁を切る風景が想像できない。

 

(だってほら、)

 

(また笑顔で話し合ってるじゃないか)

 

満足げに彼らを見る両親に気付かず、コーリスとフェリ

は温かい雰囲気で会話をする。

それはきっと、別れの挨拶では無い。リュミエール行きの騎空艇に乗る時、フェリはまた送りに行く予定だ。

 

 

「船は何時に来るんだ?」

 

「15時40分だな」

 

「次はいつここに?」

 

「そうだな…来年は忙しくなりそうだからな。最低でも三年後くらいにはなるだろう」

 

「そうか…」

 

「まぁ、安心しろ。フィラが近い内に帰る筈だ。あと半年もしたら完全復帰出来るらしい。楽しみにしておけ」

 

「そう、だな。うん。楽しみにしておくよ!」

 

「その鞭術。フィラに何と思われるんだろうな」

 

「う、まあ…荒れたと勘違いされるかもしれないな。取り敢えず、お前が次来る時は剣を破壊できる程の威力にしておくか」

 

「どんな威力だ」

 

 

二人はけらけらと楽しそうに笑う。

寂しさが全くないわけでは無いが、また会う楽しみに比べれば些細な物。

 

コーリスの硬い拳と、フェリのか細い拳が合わさる。

コツン、と。小さな音を立てるが、それは何よりも硬い絆で結ばれていると確信している。

 

「またな」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

 

 

コーリスは迷う事なく村へ行き、まずレルフ一家を訪ねた。

無論文通で顔を見せに行くと言っておいたので驚きこそされないが、一年間顔を見ていなかった義息が来るのは大変嬉しいものだったらしい。

 

特に叔母のコーレはコーリスに抱き着いてはおいおいと泣く為、今日中に帰る彼に罪悪感を湧かせたくらいだ。

人間誰しも年寄りの涙には逆らえないのだ。

 

去らないというわけにはいかず、先に何か会話をしようと思ったがレルフが遮る。

 

『騎士になる過程の話は騎士になってから存分に聞くから、村を回って来い』と。

 

 

本人達ももう一回息子と別れるのは辛いもの。

ならば帰ってきた時の楽しみを増やせば良い事。

コーリスはその気遣いに甘え、村を周った。

 

 

幼児に発見され、剣を触れさせないようしながら面倒を見た。

 

年齢が近しい者には近況を聞かれたが、『まだまだ遠い』としか返せず、目を丸くして驚かれていた。

どうやらコーリスは超人か何かと勘違いされているのかもしれない。コーリスの怒りに触れれば何処にいてでも見つけ出してくる事を思えば確かに頷けるだろう。

 

大人達には成長した姿を喜ばれ、果物等を次々と渡していく。コーリスの好物を的確に渡していく姿は感動的だ。思わずコーリスも涙が出てしまった程に。

トラモントの民度は全空一。コーリスはそう確信したのだ。

 

そうこうしている間にも船が来る。

 

 

名残惜しげだが、コーリスは去年と同じ様に激励を受けながら乗り込む。

フェリ一家、レルフ一家を含め皆が再会を確信してコーリスを送り出す。

 

 

──鎧が似合う男になって帰ってこい!!

 

──はい。吉報を届けられる様にします。

 

 

レルフの叫びに返すようにコーリスは小さく呟き、トラモントを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが今世の別れになると知らずに。

 


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