幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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8章 100年前の紡ぎ唄
81.恩を仇で返す


 

 

 黒騎士が移動していた。

 何処へだろうか?少なくとも、七曜の存在を認めさせる為には多くの国に訪問する必要がある。別に大層な挨拶をする義理は無く、真王の言葉を忠実に伝え、コーリス・オーロリアという人間を知ってもらう事が何よりも大事だ。

 しかし、今彼が向かっているのはその様な段取りが全く必要ない国である。

 

 そう──リュミエールだ。

 

 

「いやだぁぁぁぁぁ!!」

 

「現実逃避をしても仕方ないぞコーリス!」

 

「だって…黒騎士になるからには覚悟してたけど……こんな事って」

 

「清く聡く強かに育ててもらった国を権力で押し汚す心地はどうだ?黒騎士ぃ」

 

「悪辣だぞカリオストロ!」

 

「いっその事さぁ、霧で『ごめんなさい』って書けよ!お前島を出る時に魔力で文字書いてもらってたんだろ!?アハハハ!!」

 

「こいつの性格が畜生な事最近まで忘れてた。最早言い返す余裕も無い」

 

 

 ここにノアがいれば、すぐにでもカリオストロに仕置きをしていたであろう煽り。新たに細く作られた義手の見返りに霧の研究を進めていた彼は、恐ろしく上機嫌だった。機嫌がいい時ほど性格が悪く見えるのが嫌な点だが、こうしてコーリスが鎧を着れるのも彼のおかげである。

 一方ゾーイにも負い目はあるが、リュミエールへ再び訪れるわくわく感──主に食事に関して──を高めていたので、コーリスを励ますくらいの余裕が生まれている。寧ろノアの方がやる気が低い可能性がある。朝から落ち込む黒騎士の姿を見れば誰だって気分が沈む。

 

 

「コーリス、想像するんだ。最初は訝しげに接していた彼らだが…君が兜を脱いだ瞬間にホッとした空気を見せ、暖かく迎える瞬間を。プライベートを装ってグルシの寮に行くのもいいだろう」

 

「おばちゃんのとこ…?」

 

「ああ!それに、スルトとロイスも強くなった君を見て喜ぶさ!」

 

「いやいや!逆に兜を脱いだ瞬間にアイツら殺しに来るぞ!?聖騎士辞めた奴がさぁ!『うぃーす黒騎士でーす。今からリュミエールを蹂躙しちゃいまーす』なんて雰囲気で行ったら殺されるだろうが!聖騎士のプライド舐めんな!うあああああ!!!!」

 

「……コーリス。キャラが崩れている。それに今のリュミエールはどういうものか分からないだろう。君はもう聖騎士では無いのだから」

 

「け、結構言うなゾーイ。正直一番効いた」

 

「聖騎士から黒騎士って何か闇堕ちみたいだよな。『お前真王の犬じゃん』って言われるぞ」

 

「お、俺は希望なんだ…誰がなんと言おうと希望なんだ」

 

「お前ブロンシュと戦った時より焦ってるな」

 

 

 駄弁りもそこまでに、遂にリュミエールの城が見える。

 

 目的地に着いた頃には、とぼとぼと艇から降りる黒騎士の姿を心配げに眺めるノアが横に付いていた。こうなってしまったのだから仕方ないと前を向いて歩くゾーイ。見知った彼女の姿に周囲がざわめき出すが、一番目立っていたのは一人だけ明確に少女の姿を取っているカリオストロだ。祈望の騎空団が新聞などで広く知られる事となっても、錬金術を扱う少女という彼の存在は都市伝説の様なものだった。

 

 歩く限り、道にはある種のスペースが存在していた。

 国民へ伝達があったのか、黒騎士に必要以上に近づく者はいない。その鎧の中身がコーリスである事は皆理解しているだろうが、気軽に話しかける者もいなかった。

 コーリスにとって、それが何より心を抉った。

 

 

「大丈夫かい?いっそ黒騎士として振る舞うのを辞める手もあると思うけど」

 

「心配ありがとうございますノアさん…でも、このまま行きます。国を出てどう生きたか、少しでも見せないと」

 

「…何だか僕までコーリスと話している気がしないね。鎧のせいかな」

 

「自分自身、そう感じています。もう嫌です。かえりたい」

 

「今日だけだよ。頑張ろう」

 

 

 唯一心を傷つけずに励ますノアの存在が神のように思えてくる始末。

 忘れてはいけないのが、コーリスは聖王から授かった"ノスタルジア"という剣を壊した事を言っていない。エニュオとの戦いを全て話せば問題ないだろうが、その前に襲われればたまったものではない。傍目から見れば黒騎士の剣を貰ったから捨てたようなものだ。

 

 

「クラーレさんみたいになれば楽なのかな」

 

「そうなれば3日以内に暗殺される事は確実だな」

 

「忘れてるなカリオストロ。俺は防御特化だ」

 

「うざ」

 

 

 何だかんだと街を歩き進めれば、聖騎士達が此方を出迎える用意をしていたのか、6名ほどのグループが正面に立っている。

 そして、彼等は空戦の勝利に憧れ入団した後輩達である事に、コーリスは白目を向きながら気付いた。その醜態を隠す兜に心から感謝しながら、彼は言葉を待った。

 

 

「祈望の騎空団団長、黒騎士コーリス・オーロリア殿。それにゾーイ殿、カリオストロ殿、ノア殿ですね」

 

「は、はい───そうだな」

 

 

 敬語を使った瞬間カリオストロに膝裏を蹴られ、コーリスは急いで言葉の訂正を行った。

 どんな年齢であれ、人を敬うのは正しいとされる行為だが、立場には相応の責任が伴う。少なくとも弱々しく下手に出る様な人間が七曜を担う事は出来ないだろう。舐められない風格が空域の主として求められるのだ。

 

 最早手遅れだが、ゾーイにとっては窮地ですらなかった。

 

 

「君はカブロじゃないか。かつて新米として一緒に仕事をしたね」

 

「憶えていただいて光栄です」

 

「敬語はいらないよ。少しの間だが旧知の仲でもあるだろう?」

 

「そういう訳にはいかないのです。貴方達は空の王が認めたファータ・グランデの最大戦力。私達にも相応の対応をさせていただかねば」

 

「ふむ」

 

(どういうメンタルしてんだゾーイ!?入団して即辞めて黒騎士の一味になってるんだぞ!?お前も十分ブチ殺される理由作ってるからな!)

 

 

 ゾーイの無敵の精神力に語彙をすり減らしつつ爆発させながら、コーリスは無口キャラを貫く事を決意した。

 

 と言っても、彼女が考えなしであった事は無い。天然気質だが、言葉の一つ一つは誠実で思慮深く──何より適格に相手の精神を怯えさせる。

 

 

「畏怖が見えるね。聖王に私の正体でも聞かされたのか?」

 

「ッ…」

 

「隠す必要はない。私も今日は隠すつもりが無いからね」

 

「カリオストロからも追加で言わせてもらうよ?」

 

「…はい?」

 

「試してるんでしょ?おにーさん」

 

「試してる、とは」

 

「前まで新米だった人を出迎えに使うなんて随分強気だけど…もしかして人間性とか確かめようとしてるー?優しくしてほしかった?」

 

「……二人とも」

 

 

 ゾーイの圧に、カリオストロの詰め。最後にノアが嗜める形で両者を咎めたが、2人の推測を否定しない事が更に圧を与える事態となってしまった。

 若き聖騎士達は黙して頭を下げるばかり。

 

 

「今はやめよう。聖王に会ってから探り合いをすべきだ」

 

 

 これはファインプレーと言えるだろう。

 悪くなった雰囲気を団長として収める事で、立場の優位性を黒騎士に寄せると共に、只者ではない団員を従えるリーダーとしての印象を与える事が出来る。

 元より七曜になった時点で空域全体を見定める立場である事は避けられないのだ。どんなストレスになろうが、黒騎士はルールの中心部で無ければならない。

 

──その時だった。

 

 

「何事です」

 

「!」

 

「副団長!」

 

 リュミエール聖騎士団副団長、ロイス・モラクレルが悠然と姿を現した。

 音を発さず、声が響くまで知覚すらさせない恐るべき潜心。若くして星晶獣を率先して討伐する技量の一部が伺える動きに、ゾーイは感心し、コーリスは吐き気を催した。

 

 

(ロイスか。成長している)

 

(ロイスか…面倒だ)

 

 

 後者の減退を察してか、ロイスはゆっくりとコーリスの方を向いた。

 

 

「これは黒騎士殿…お久しぶりです。以前騎空団を作ると話されて以来ですね。活躍は全空に轟かんばかりの様で、こちらとしても是非お話を聞かせていただきたいと思っている所です」

 

「…手厚い歓迎に感謝する」

 

「此方こそ若輩が迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。まるで昔の私達の様で微笑ましくもありますが、昨今の時流を読む限り、そう気を抜かしてもいられない様子。何故ならファータ・グランデに久しく見ない黒騎士が復活した時代なのですから」

 

 

 思ったよりもギスギスしていない。だが、違和感と気持ち悪さが透けている会話である。

 ゾーイ達の圧と組み合わさって皮肉を言っているようにしか思えないコーリスと、彼を黒騎士として見たいのか友として扱いたいのか分からない様な話題を出すロイスのおかげで、空気は極限まで濁っている。

 特にロイスの表情は笑顔だが、誰が見ても分かる程に青筋が浮かんでいる。黒騎士を歓迎する使命と、コーリスを鏖殺する意思が組み合わさっているのだ。率直に言ってしまえば、頭がおかしくなっている。

 

 

「城で騎士団長と聖王がお待ちしています。団員の皆様方も、案内させていただきます」

 

「お願いするねおねーさん♡」

 

「はい。なんなりと!」

 

「ところでその額の血管……どこか具合悪いの?高血圧?」

 

「ッ…………」

 

「カリオストロ」

 

「はぁい!ごめんなさい団長さん……カリオストロ気になっただけなの…」

 

「カリオストロ」

 

「おねーさん!ごめんなさい!カリオストロ世界を知らないの!」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。ほんと、大丈夫です」

 

「ならよかった!」

 

「申し訳無い。ロイス殿。俺が甘やかしすぎているようです」

 

「構いません。可愛い子には旅をさせろと言いますしね!」

 

「そうなのぉ…カリオストロ世界一カワイイの!」

 

「あはははは」

 

 

 カリオストロがどうにかして人を馬鹿にしたいのか、団長に迷惑をかけたいのか定かではないが、少なくとも彼を従えるコーリスは、真王を見習ってリストラの仕方を学ぶべきかと考え始めた。

 だが、ロイスは成長している。瞬間湯沸かし器であった彼女が成長してこんなに我慢強くなっている。これがリュミエール聖騎士団副団長。

 鋼鉄の意思とはこの事である。

 

 

「………メスガキが。ブチ殺しますよ」

 

 

 この事である。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「黒騎士殿、率直に聞かせてもらっても構わないか。真王陛下はファータ・グランデに何を求める?」

 

「この空域の持つ、自由な平和という特性を更に堅固なものにしたいと考えています。ご存知の通り、ファータ・グランデは他の空域に比べて軍の権力はその国にのみ存在し、騎空団が依頼を受けて島の平和を保っている。他の空域では違う」

 

「ふむ…それ程までに異なるか」

 

「ナル・グランデは主権国家の戦争が日々行われています。カルエス・グランデは国による軍事的な統率が主流であり、アウライ・グランデはそれ等を収めるために定量的な幸福を与える選択をしました。それに比べ、騎空団というなんでも屋が多数存在し、文化を支えているこの空域は、まさしく自由と言えるでしょう。それは世界の恒常的な平和を望む真王からしてみれば、もう一つの理想なのです」

 

「つまり黒騎士殿が任を受けた理由は、その自由をこれから発生するであろう戦禍によって乱されない様、睨みを効かせるという事と見受けるが…」

 

「その認識で間違いありません」

 

「ならば此方としても言うべきことは無い。リュミエールは元より争う為に存在している国ではない。黒騎士殿との契約を喜んでお受けしよう」

 

「感謝します」

 

 

 コーリスの不安は杞憂だった。

 真王が黒騎士を復活させた理由の説明と、騎空団単位で契約を結ぶ事が目的の来日だったが、恐ろしいほど早く事が進んだ。

 契約を結ぶ理由は、ファータ・グランデの平穏を守る為、これから他国と争いが起きた時に問題解決策として、黒騎士が真王の権限を盾に動く為だ。戦争を望まない国としては断る理由がないし、そもそも真王の兵を邪険に扱う事は出来ない。

 一番の課題はコーリスへの信頼だが、聖王の懸念は最初から無かった。この国に収まらない渇望が、騎士時代から見えていたからだ。それが黒騎士なら果たせるという判断ならば、彼に止める理由はない。

 国を救った騎士の一人をどうして排斥出来ようか。

 

 

「黒騎士殿と真王の御心に感謝を申し上げる。ファータ・グランデの特色を守ってくれるのならば、この度の七曜復活に異存はない」

 

「聖王…」

 

「そして、久し振りだな。コーリスよ」

 

 

 そして、初めて聖王は黒騎士をかつてのコーリスと重ねて認識した。はっきり言ってしまえば、リュミエール国民は皆コーリスのファンである。騎士団の一部が彼を暗殺しようと企んではいるが、聖王から見れば黒騎士としての振る舞いも必死に背伸びをしているようにしか思えない。

 王族と一般市民の差は大きいのだから。

 故に、彼は未だにリュミエールの宝なのだ。その扱いにコーリスの涙腺が決壊した。

 

 

「せいおぉ…」

 

「多くの偉業を成してきたと見える。聞き及んだ限りでは古戦場の異物をゾーイと共に撃退した事が有名だな。だが、それ以上の経験をしたのだろう。七曜に選ばれるに至った話が聞きたい」

 

「…アウライ・グランデ大空域にて白騎士と一騎討ちを行い、勝利した事がきっかけです」

 

「………想定以上だった。ルクスよ、どう見る」

 

「なら白の鎧を着てほしかったですね。リュミエールに似合いますし」

 

「ルクス団長…お久しぶりです」

 

「ああ。特別驚く事も……いや、驚いたが。兎も角、白騎士はどんな奴だった。強さで聞きたい」

 

「光属性の使い手で、異常な速さと凝縮した光による貫通力が強みです。はっきり言って視認できません」

 

「俺の完全な上位互換か。聞かなきゃよかったな」

 

「はは…」

 

「しかし安心したぞ。ゾーイ以外にも仲間が増えているじゃないか。しかも子供ときた」

 

「………連れてきたことを後悔しています」

 

 

 どうやら、リュミエールでの心配はカリオストロに向けるべきだったようだ。

 あまり平和な場所に連れて行った事がないので、彼が基本的に周囲を見下している事を失念していた。聖騎士のような清らかな存在を煽り散らかす生き物なのだ。

 

 

「貴族に子供の世話でもせがまれたのか?錬金術の才能があるから経験を積ませろと。そういう話なら納得できるが」

 

「錬金術と『カリオストロ』…」

 

「勿論名前も新聞で知っている。開祖と同じ名前を付けるとは…相当期待された子だな」

 

「その開祖本人なんですよ」

 

「……?」

 

 

 ルクスはその言葉を、コーリスが立ち去っても理解する事は無かった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「お話はどうでしたか黒騎士殿」

 

「問題なく終わった。今後他国に戦争を仕掛けられたら此方で対処する」

 

「それはそれは。心強いです」

 

 

 謁見の間を去ったコーリスを出迎えたのはロイス。

 ゾーイ達も彼を待っていたが、旧友との会話に専念させてやろうと空気を読み、一時的に見守っている。

 

 

「……強くなったそうですね」

 

「互いにな」

 

「何が互いですか。どんな出世してんですか。新兵達が怖がっていましたよ。あれ舐めてるわけじゃ無いですからね?」

 

「そうだったのか。ところで地が出てるぞ」

 

「貴方も出せばいいじゃないですか。その暑苦しい兜でも脱いで」

 

「そうだな……」

 

 

 そういう雰囲気なのかと、コーリスは昔に戻ったつもりで兜を脱いだ。その行為にゾーイとノアが口を出す事は無い。精々一息つく為に脱いだのだろうと思っただけだ。

 

 だが、唯一カリオストロだけが大きく反応した。責任を伴う立場を経験している彼だけがそのリスクを知っている。

 

 

「オイ馬鹿ッ!」

 

「?」

 

 

 敵地で立場を捨てる様な行動を取れば──

 

 

「しゃあッ!死ねコーリスさん!」

 

「待ち疲れたぞ馬鹿がァ!」

 

 

──袋叩きにされるのは当たり前の話である。

 

 音速の如き抜剣で細剣を繰り出すロイスと、何処かに潜んでいた炎のハーヴィン──スルトが頭上から剣を振り下ろした。

 

 

「お前等…」

 

 

 旧友達の蛮行に懐かしいものを感じながら、薄々そんな気はしてたとコーリスは黒騎士の剣を抜いてスルトの攻撃を防ぎ、ロイスの突きは左手で掴むことで止めた。

 

 

「久し振りだな」

 

「止めましたか……!」

 

「コーリスお前…!」

 

「お前らの事だから、破竹の勢いで成長していると思ってたが。案外そうでもないか?」

 

「ッッッッッッ殺す!!!」

 

「クソエルーンが!ハーヴィン舐めんな!」

 

「私もエルーンなんですけどね!」

 

 

 じゃれ合いのつもりか、魔法を使わずに剣を振り回す旧友達。ロイスとスルトにとっては国を乱した恩知らずに対する仕置きのつもりだろう。

 前者が首筋を狙っている事に目を瞑れば、これはただの遊びだ。遊びに違いないのだ。たった今2人の剣に魔法が付与された事も知らない。知るべきでないのだ。

 

 スルトは剣に炎を纏わせて撒き散らしを図り、ロイスは遠距離から水の斬撃を飛ばすつもりだ。

 しかし、それを黙って見ている団員は存在しない。

 

 

「久し振りだねスルト。一応火力は抑えているのか」

 

「ゾーイか…!久し振り!」

 

 

 スルトの剣をゾーイの盾が難なく防ぎ。

 

 

「爪楊枝か?」

 

「メスガキ…!!!」

 

「おっと。動くと下から聖なる光が吹き出すぜ、なぁノア?」

 

「何でこう…問題ばかり起きるのかな。コーリスにも説教だね」

 

 

 ロイスの剣を手掴みで止めたカリオストロと、真下から光柱を出そうと脅すノア。

 止められた両者は友の仲間が予想以上に強者であると悟り、剣を収める選択を余儀なくされた。どうやら恩知らずに一撃食らわすのは不可能らしい。

 

 

「…どの面下げて帰りましたか」

 

「ほんとだぞ」

 

「………色々あった。いや本当に悪気も何もないし黒騎士そのものが混乱の証だからもう今だけ許してほしい」

 

「そもそも少数精鋭にしてもおかしいですからね。普通七曜って軍隊持ってくるんですよ?」

 

「ファータ・グランデと言えば騎空団だからかな。黒騎士になったのは多分俺が一番強いって事なんだ」

 

「この戯言を鼻で笑えなくなったのが悔やまれるな」

 

「ホントですね」

 

 

 そうして両者は溜息を付いてからコーリスの目の前に立ち、改めて軽く笑った。

 

 

「おかえり、とは言いませんが。会えて嬉しいですよ」

 

「普通におかえりだろ。こだわるな」

 

「……ただいま。ロイス、スルト」

 

 

 聖騎士団のホープとして扱われていた3人組が揃い、唯一関係性を知っているゾーイが安心してその光景を嚥下した。

 想定以上の問題児にカリオストロは引いていたが、ノアは既に慣れたようだった。

 

 ロイスは謁見の間の入り口で待機する役割を任されている為か、そのまま後方へ下がって職務を遂行するようだが、スルトは休日らしい。指で出口を指し、コーリスとゾーイに呼びかけた。

 

 

「おばちゃんのとこ行くぞ。ゾーイも」

 

「グルシか。私も会いたかった」

 

「カリオストロ、ノアさん。騎空艇で待っててもらえますか?」

 

「手短にな」

 

「ゆっくりしてていいからね。これから大変になるし」

 

「手短にね♡」

 

「カリオストロの言う事は気にしなくていいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 そうして、コーリスとスルト、ゾーイの3人がかつて住んでいた寮に行く事となった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「出世したねぇコーリス」

 

 

 開口一番はそれだった。

 寮のおばちゃんであるグルシに言われなければ嫌味にも聞こえる言葉だったが、コーリスには落ち着く一時だ。

 

 

「今はどれくらい住んでるんです?」

 

「8人」

 

「多いですね」

 

「2人が旅に出て、スルトも自分の家を建てて完全に空白の時期もあったね。でも、空戦後に志願者が増えただろう?他の島から来た見習いがここに住むことになったんだ」

 

「なるほど。見習い達は元気ですか?」

 

「思ったよりも暇そうだよ。何分リュミエールは平和だからね。身内で諍いを起こさない限り警備で済んでるようだよ」

 

「いい事です」

 

「平和ボケには気をつけないとな。俺も最前線の部隊を任されてるが…やる事は遠征ばかりだ。星晶獣が相手の事もあるが、その時は団長とロイスも一緒に行く。基本的に俺が一人で暴れる事は無い」

 

「良かったな。魔物であれ炎で溶かすのは気分が悪いと言ってただろ」

 

「そうだな……もう子供の時とは違うって事だな」

 

「…やけに大人しいな。ロイスの方が問題児と見える」

 

「そういう事なんだよ」

 

 

 スルトが以前に比べて精神的に成熟した様に見えたのは、きっとコーリスだけではない。ゾーイにもそれが感じられるほど──いや、彼女の方がそれを強く感じていた。

 先程彼の炎を防御した際に感じたのは、優しさだった。少なくとも、昔は加減しても十分に危険な火力であったのにだ。

 

 

(…スルトは感情の強さで火力が変わる。もしかして──)

 

「どうしたゾーイ。腹でも痛いのか?」

 

「何でもないよスルト。寧ろお腹は空いている」

 

「私が腕を振るうかい?」

 

「いや、遠慮す──」

 

「よだれが出てるぞ」

 

「遠慮──なく頂こう」

 

「…そんな気はしてた。おばちゃん。俺も少し貰っていいですか?」

 

「折角なら俺もおばちゃん!」

 

「任せな!」

 

 

 ゾーイの心中に少しの不安が立ち込めたが、ロイスとルクスがいるならば問題は無いし、それでも困るなら祈望の騎空団が力を貸すのだ。この国に心配はない。

 

 

「懐かしい匂いだ」

 

「ああ、腹が鳴り止まない」

 

「俺の分まで食ってもいいぞ。ハーヴィンだし」

 

 

 あの時の若さを取り戻す様に、3人はご馳走に舌鼓を打つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





黒騎士
・リュミエールに混乱を齎しに来た不埒者。
・恩知らず、恥知らず。
・結局悪いのはコーリスじゃなくて黒騎士とかいう七曜のサボりポジション。

ゾーイ 
・図太い。

カリオストロ
・機嫌がいい時の方が性格が悪い。

ノア
・苦労人。
・メンタルケアの達人。

ロイス
・リュミエール聖騎士団副団長。
・今はフットワークを鍛えており、相手の虚を突く戦い方を模索しているよう。
・モチベーションの塊なのでこれからも強くなる。

スルト
・近衛隊隊長
・かなり精神的に落ち着いた様で、頼れる先輩ポジションを獲得し、ロイスよりも支持が多い。
・感情の強さが火力に繋がる能力を持っている。

ルクス
・団長。
・ブロンシュの下位互換とは言い切れない。少なくとも攻撃範囲は彼に軍配が上がる。しかし、ブロンシュは光の威力が高すぎて爆発が起こるので、結局負けるかも。

聖王
・リュミエール聖騎士団に所属した者を誇りに思っているので、何があっても見捨てる事は無い。寧ろ黒騎士がコーリスで良かったと思っている。

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