幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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83.祈望の櫂、スナップ!

 

(ノアさんがキレた……この後ヤバい!)

 

(誰この人……何かしてくる……怖い!)

 

(ノアが怒りに震えている……まずい!)

 

(ノアがキレたか………じゃあ逃げる!)

 

 

 立ち塞がるノアに対し四人の感情が一致した。

 相対する七曜の黒騎士、十二神将の闘神、影から覗く調停の星晶獣と錬金術の開祖──全員が息を呑んだ。

 

 

(俺悪くな……いや、そういえば何でヴァジュラに報告しなかったんだろう。馬鹿か俺は。ノリで何とかなる立場じゃないのに)

 

(私のせい……にしかなりませんよね。今思えば犬神宮ほっぽり出して友人の艇に突撃とか殺されても文句は言えない醜態………)

 

(……ヴァジュラがこうも緩い理性の持ち主とは。ノアを怒らせてしまったのは慢心した私のミスか。コーリスの食事が抜かれなければいいのだが)

 

(長い説教が……いや、いつもよりブチギレてるな。寧ろぶん殴られるかもしれねえ。触らぬ神に祟りなし)

 

 

 祈望の騎空団の中で、ノアの立ち位置は大変重要なものだ。それは移動手段を担う存在というだけで無く、精神的に成熟している面が大きい。

 コーリスの視野はまだ狭く、ゾーイはあまり世界を知らない。カリオストロの知見は誰よりも深いが、錬金術の可能性を広げようと敢えて傍若無人に振る舞っているので、400年の時を平穏に生きた彼が精神的支柱になる事は当然であった。

 コーリスにとっては破滅への一歩を踏みとどまらせてくれる存在であり、ゾーイにとっては世界の生き方を学ぶ為の指針で、カリオストロにとっては数少ない常識人でストレスが無く、騎空艇という健やかな環境を与えてくれた張本人なので、それなりの感謝をしている。

 故に、彼を怒らせたくない理由は純粋な罪悪感が大きい。誰だって優しい人間に迷惑をかけたくないものだ。

  

 各々が逃げる算段を立てたその時、ノアの持つオールの様な杖が"シュン!"と音を鳴らした。

 

 

(お仕置き!?全員か!?)

 

(全員な訳ねぇだろクソガキ!死ぬのはテメェと犬っころだけだよ!)

 

 

 焦るコーリスに対し、最早思考を看破するまでに慣れてしまったカリオストロが心中で突っ込んだ。

 

 明らかな攻撃体制。ヴァジュラは全身の毛を逆立てる様に後退したが、その動作を見てノアは目を動かすだけだ。

 生まれてから親族に怒られた経験の無い彼女は、形容し難い空気に頬をひくつかせながら一応刀を構えた。

 

 そこでようやく口が開く。

 

 

「一応、コーリスと深い関係のようだし」

 

「は、はい」

 

「騎空艇を襲うまでに至った理由というのを教えてくれるかな?」

 

「……ぐ」

 

 

 理由は言えるが、襲った理由にはならない事をようやく自覚したが故に、ヴァジュラは苦悩を漏らした。

 思い込みによる一方的な攻撃。コーリスの落ち度を許し、黒騎士と他の十二神将との交流を犬神宮が仲介すれば、煩悩の浄化という彼女等の仕事を円滑に進められたかもしれない。

 長く考えれば後世にまで十二神将という存在に影響を与える事が出来たかもしれない。少なくとも彼と友人関係であった犬神宮がすべき行為だった。

 未熟。反省すら遅れるその若さを彼女は憎んだ。

 

 

「……私は七曜の騎士という立場に懐疑的です。目の前で悠々と連れ去られた友が、真王という傲慢な人間の部下となった事──何事も無くこの空域で責任を背負わされている事が我慢なりませんでした」

 

「理由としては自然だね。コーリスに連絡させなかった僕も気が回っていなかったよ。それは僕の落ち度だ。ごめんね」

 

「い、いえ私も──」

 

「でもね」

 

(謝罪キャンセルされた!?)

 

 

 理由を説明し、改心した事を表明する為に謝ろうとしたかヴァジュラだったが、怒りが収まっていないノアに言葉を遮られた。

 光明ここに閉ざされたり。

 

 

「空を歩む為の足──それを攻撃するって、どれ程危険な事か分かっているのかな?」

 

「言い返す言葉も……」

 

「衝動的な行為を衝動的に悔やんだ所で、それが君の思考を変えるとは思えないんだ」

 

 

 ヴァジュラが下げていた頭を少し上げた瞬間、目の前で光が炸裂した。

 

 

(………………えっ)

 

「犬神宮に送り返す前に、学びを得てもらわないとね」    

 

 

 狙いは明らかに顔面であった。

 少女の顔面に炸裂する光を展開していた。あの物腰柔らかなノアが、そこまでに激怒していたのか。

 

 

──否。

 

 

「コーリス!」

 

「ッ……ああ!!」

 

 

 ゾーイがコーリスに構えろと叫んだ。

 ヴァジュラにとって、彼は怒りによって災いを齎すタイプの人間に見えていたが、騎空団の面々にとっては違う。

 普段ならば、冗談でもその様な行為を慎む筈である。

 

 つまりこれは非常事態。

 

 

「これは星晶獣の暴走だ!ノアさんは我を失っている!」

 

 

 信仰を失った時や危機が迫った時、存在価値を揺さぶられた時に発生する──星晶獣の暴走がノアに起きていた。

 

 艇を傷つけずとも苛烈な攻撃に晒されるヴァジュラを、コーリスは横から抱えるようにして庇い、目の前の星晶獣に相対した。

 

 

「元はといえばコーリスも、気遣いが足らなかったね」

 

「……すいません。説教は後で受けます」

 

「話は最後まで聞かないと──」

 

 

 会話は理性的に、行動は──

 

 

「駄目だよ」

 

 

──破壊的に。

 

 杖から発生した光弾が縦横無尽に空間を駆け巡り、コーリスの四方八方を取り囲む様に旋回している。

 これは笑える程に殺意の籠もった攻撃で、光そのものが撃ち落とされない様に動きながら、最終的に獲物に集まる形で爆発を起こし、無に帰すのだ。

 

 彼はそれぞれの光弾を囲うように盾を展開し、艇への被害を抑えつつ処理した。

 

 

(艇造りの星晶獣だからか、暴走してても艇へ危害を加える事は無いようだ。この空の中、ゾーイの攻撃は大規模過ぎるし…カリオストロは技を使うのに甲板の材料を使わないといけない。なら戦うべきは俺と器用なヴァジュラか)

 

 

 コーリスは抱えていたヴァジュラを降ろし、協力する様に首でノアを示した。

 理解した彼女は後悔の表情で腕を広げ、闘神の構えを渋々行う。

 

 

「…あの人、星晶獣だったんですか」

 

「ああ。峰打ちで頼む」

 

「……元は私のせいです。責任は取りますよ。貴方のせいでもありますが。姉さんなら許したかもしれませんが私は今後一生この件を墓まで持っていく勢いで恨み続けますからね」

 

「…墓まで持っていくってそういう意味だったか?」

 

「うるさい!」

 

 

 どうやら彼女は理性を取り戻したようだが、コーリスはかつてない程に緊張していた。

 全くの予想外。温厚な星晶獣であっても、些細なきっかけで暴走を引き起こすなど、そんな経験は無かったからだ。

 

 星晶獣の暴走は感情で引き起こされるものではない。

 島と契約を結んだ星晶獣ならば、その存在を住民から認められる事で力を維持する。信仰が最も効率的だが、時代と共に忘れ去られれば、存在自体が薄れ、力を乱す事で暴走する。

 今回のノアは、自身の存在価値そのものである騎空艇を否定するヴァジュラの飛行と、騎空艇が破壊される可能性によって命の危険を感じとってしまったことが暴走の原因である。

 騎空艇はノアが繁栄させた事物であるが故に、その存在を揺るがす事は彼の存在をも揺さぶる事となる。

 

 最も、これは彼が操縦士としてフロンティア号と直接繋がっているから起きたイレギュラーでもあり、普段ならば各地の艇が被害を受けた所で影響は微塵もない。

 寧ろ彼が操縦する事自体想定されていないのだから、ゾーイが事前に防ぐ事も叶わなかったし、彼自身も体験したことのない事であった。

 

 

「ゾーイ!手は出さなくていいから!」

 

「ディもいらないか!?眠らせられるぞ!」

 

「俺達も巻き込まれる可能性があるからディは大丈夫だ!カリオストロも!」

 

「カリオストロぉ…最初から何もする気ないよ♡自分のケツは自分で拭けや!」

 

「了解!」

 

 

 叱咤激励を受けたコーリスは、剣の峰が前方に来る様に構え直し、目の前の星晶獣を見た。

 

 

(ノアさんの本気は分からないが……星の民が重要視した文化面の星晶獣である以上、アクシデントから生還する為の力は備わっているだろう。寧ろ強めに造られてても可笑しくないな)

 

「右から行きます」

 

「艇の損害に気を遣う。盾は合わせられないかもしれん」

 

「弾幕は避けるのでお気になさらず」

 

 

 ヴァジュラは右へ駆け出し、一度屈んでからノアへ直角的に突撃した。縮地による高速移動は一度静止して方向性を定める必要があるが、初見では必ずその速度に面食らう技である。

 

 

「…っ」

 

 

 光弾がいくつ飛来しようが速度で振り切って懐に潜り込める様に動いた彼女は、自身の正面が光りだした事に驚き、反射的に刀でそれ等を斬り付けた。

 

 

(追尾性能は予想してましたが…後ろからついて来るどころか先回りしてくるとは。敵ながらいい動き──いや敵じゃないですけど。なんなら私が……)

 

「ヴァジュラ、そこ!」

 

「分かってます!」

 

 

 膂力が無い以上、ノアが持つ杖自体に攻撃性能は無い。放たれる技のバリエーションも少なく、優れた追尾性能と軌道が独特な光弾が激しく降り注ぐに留まっている。

 ならば、此方の武器でその杖を封じてしまえば攻撃手段は無くなる。その隙に無力化してしまえばすぐに終わる。

  

 

「杖は止めました!」

 

「君も人の話を聞けないんだね……!!」

 

「本当にすみません!私が悪いんです!」

 

(黒騎士の剣を振るうなら今!!)

 

 

 加えて、七曜の武器は星の力を吸収する事が出来る。

 星から与えられた忠誠の証にして、星晶獣に対する優位性を持つ矛盾。

 

 光が放たれている最中にノアの力を吸収してしまえば、光の制御が消えて艇を壊してしまうかもしれない。その懸念が取り払われた今なら戦いを終わらせる事が容易。

 

 

「ノアさんごめんなさいっ!」

 

「コーリス……」

 

 

 峰打ちで剣を密着させ、力を絞り取る。そうすれば意識を刈り取らずに暴走を収束させられるかもしれない。そう踏んだコーリスは彼の背中へ向けて振るった。

 

──それに対しノアは、哀しそうに目を閉じた。

 

 

「──聞き分けがないね」

 

 

 ぐらり。

 

 

「ッ……!?」

 

 

 全員が足元に違和感を覚えた。

 揺れた。体制が崩れる程の揺れでは無く、それでいてうねりを確実に感じさせる力強さがあったのだ。

 

 巨大な生物だ。

 それはまるで、大きな生き物の腹の上に立っているかのようだった。気付かずに休息を取っていた旅人が、目覚めた巨躯に振り落とされるような感覚。

 

 その振動は、彼等の動きを止めるには十分だった。 

 

 

(揺れ…ノアさんが艇を動かしたのか?いや、遠隔で操縦する能力は無い筈。ノアさんは"操縦"ではなく"艇造り"の星晶獣だ)

 

 

 振動によってぶれた剣を避けたノアは、人間の手の及ばない上空にまで飛び、一際強力な光を放ち始めた。

 その所作に反し、攻撃は一切飛んできていない。

 

 その様子にカリオストロが声を掛けた。

 

 

「コーリス。何かおかしいぞ」

 

「揺れか?」

 

「風でも生物の突撃でもない。ノアには艇を操る力は無いし、艇の燃料も足りている。あの場面での極端な揺れは変だ」

 

「……星晶獣の能力に進化は無いんだったな。有り得るのは元々封じられていた本来の力が…今現れたとか」

 

「助太刀は?」

 

「カリオストロはまだしも…ゾーイは目立つからな。あまり目立った問題にしたくない」

 

「いや…もう手遅れだろうね」

 

「…何がだ?ゾーイ」

 

 

 疑問に対しゾーイが下を向きながら突っ込みを入れた。

 ヴァジュラも下を向いている。ノアは上空で光っているというのに、彼女等は下を向いているのだ。

 何かがおかしい。

 

 

「ヴァジュラも…どうした?下には何もないぞ」

 

「………」

 

「…ヴァジュラ?」

 

「来ます」

 

「へ?」

 

 

 コーリスが間抜けな声を上げたその時。

 

 

「なんだあっ!?」

 

「うおおおおおおおおあああ!?」

 

 

 彼とカリオストロは地鳴りの様な音を何故か空で聞き、思わず耳を塞いで叫んだ。

 ゾーイとヴァジュラは何かを感じ取っていた様で、後者は前もって耳を塞いでいたが、前者はただそこに立ち、()()()()()()を見た。

 

 

「もう…全員、説教だよ」

 

 

 ()()()()()()()()

 騎空艇の更に下──雲から巨大な鯨の様なモノが出現し、空気を揺らしながらノアの元へ合流した。

 その巨大な身体は鉱物の集合体の様に見え、節々に光の筋が通っていて、人工物である様に見えた。しかしそんな事はどうでもいい。肝心なのはそのサイズだ。

 

 端的に述べよう。

 

 

「は、あああああああ!?」

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

──島より大きかった。

 

 

(なんか召喚した!?!?!?)

 

(なんだあのデカさ…!?こんな力持ってたのかよあの非戦闘員は!!)

 

(ノアもまた星晶獣……か)

 

(バケモノ動物園ですかこの艇は!!!)

 

 

 ノアがヤケクソで何かを召喚した。

 光る鯨。その大きさは付近のガロンゾを上回る。暴走によって最大限の力が引き起こされた今、彼の力は覇空戦争時の厄災と遜色ないレベルだ。

 これは副次的な力なのだろうか。アテナやエニュオが能力と関係なしに槍を扱っていた様に、星晶獣には戦う為の力が素で備わっているものだ。戦士として、魔法使いとして、猛獣として──様々な姿を持っているのが兵器としての本懐。

 ノアもまた、獣なのだ。

 

 

「どうします」

 

「壊すしかないな」

 

「斬撃が届かないんですが」

 

「空を割った姉がいたな。妹はどうだ?」

 

「無茶を言わないでください」

 

「今こそ覚醒の時だぞ妹」

 

「犬は地を駆ける生き物なんですよ!!」

 

 

 無茶振りをしつつもコーリスは鯨を無効化する手段を考えていた。

 

 

(時間をかけ過ぎて他の島の軍隊や自警団が来てしまっては迷惑すぎる。早めにノアさんを止めるならゾーイに協力してもらうしかないな。カリオストロには……休んでもらおう。ヴァジュラの方が可能性はある)

 

 

「ゾーイ」

 

「ガンマレイの準備なら出来ているよ」

  

「ノアさんを巻き込まずに壊せるか?」

 

「問題ないが…」

 

「破片がガロンゾに落ちるか」

 

「………」

 

 

 巨大な生物を一撃破壊する事は可能。

 だがそれは全てを消し飛ばすのでは無く、中心を撃ち抜いて機能不全にするという事だ。その場合、巨大な岩石がガロンゾに降り注ぐ事は確実で、今のノアがそれを取り止める判断が出来るかも不明な中、リスクが大きい。

 ゾーイの巨大なガンマレイを以てしても、鯨の全体を飲み込む事は不可能で、それを連発する事も難しい。

 コーリスは自身の盾で蓋をする事も考えたが、島の全体をカバーする程の盾を作れば、空中から加速して落ちる破片を防ぎ切る程の硬度は期待できない。

 

 ならば逆の発想をしようと、コーリスはヴァジュラを見た。

 

 

「ゾーイ、逆で行く」

 

「ん?」

 

「俺とヴァジュラがあの鯨を破壊するから、その破片を綺麗に処理してくれないか?」

 

「は!?」

 

「うんいいよ。ノアは?」

 

「うーん……あ、主にヴァジュラが鯨を壊すから、俺はサポートしつつ最後にノアさんを無力化しよう」

 

「それがいいね」

 

「無茶のグレードが上がってるんですが!」

 

 

 いつの間にかヴァジュラが巨大な鯨を破壊するという計画が生まれていたが、拒否するのは本人だけだ。

 無茶を乗り越えてきたコーリス、存在自体が別次元のゾーイにとってはこの程度の苦境など些事。食事に嫌いなものが出てきたが如き感触に過ぎないのだ。

 

 

「ヴァジュラ。無茶に対して足掻ききった時、人は成長する。俺はしたぞ」

 

「無茶にも段階があるんですよ!?」

 

「いやない。無茶はその人間にとっては何時でも最大の試練になる。何せ不可能だと思い込んでるからな」

 

「それはそうでしょうね!不可能を不可能だと理解出来る脳味噌がなければ人間なんてとっくの昔に絶滅してますよ!!」

 

「あー言えばこう言う。姉を超えたいと思う事は無いのか」

 

「姉さんに対するコンプレックスはその思い切りの良さですよ!私達は力に執着しない健全な姉妹なんですぅー!というか私の事分かってて言ってますよねその煽り!」

 

「思い切りの良さなら……俺を森で襲った姉と、空で襲った妹か。後者の勝ちだな」

 

「むきぃーーー!!!私は浅慮で悪い結果を引き起こしちゃうからこそのコンプレックスなんですよ!!!」

 

「むきぃーー!!って……」

 

「笑うな!」

 

「笑ってない」

 

 

 ゾーイとカリオストロは思った。ヴァジュラは精神が成熟している様に見えて幼いと。

 カリオストロには常に馬鹿にされ、何かあったらノアに頼り、天然さではゾーイに負けるあのコーリスが、飛びつく犬をあしらう様に可愛がっている。  

 否、あれは友人が持つわんぱくな妹の相手をしている感覚だ。

 

 騒いでる内に彼は分析を済ませていた。

 

 

(……ノアさんは喋れてるが、正気がどんどん失われていってる。さっきまでは艇を傷つけない様に攻撃していたのに、今は鯨を召喚した余波で艇を揺らして、終いには直接ぶつけようとしてる。俺の見通しだとヴァジュラは充分にやり遂げてくれる筈。思い切りは良いのに…変に自信が無いな)

 

 

 そこでコーリスはゾーイに助けを求めた。

 彼女は視線で求められたものを理解したが、どうすれば良いか分からなかった。取り敢えず会話を試みるようだ。

 

 

「戦いとしてはバジュラの方が強かったが、神将の才能は彼女よりあるんだろう?」

 

「寧ろ姉さんは有り過ぎたからあんな身体に……いえ、兎に角、私もある方ではありますが」

 

「この艇に飛んできた時の力は使えないのか?」

 

「あれは"カミ"に意思を明け渡すので技術を重視する斬撃は放てません…飛んだのは"カミ"に空を飛びたいという欲求があったからで、私は場所の指定しかしてませんし……というか、"哀"という純粋な感情があったから彼等を一時的に視認出来てただけですので」

 

「ほ、本当に君は衝動的だな」

 

「……………はい、申し訳ありません」

 

 

 ゾーイですらその行き当たりばったりな行動に冷や汗を流した。哀しみではなく怒りや敵意を持っていたなら、直接艇を壊しに来そうなレベルだ。

 どうやら説得は難しい様なので、コーリスは恥を知りつつ、その名を口に出した。

 

 

「サンチラが来てくれたらなぁ……」

 

「──は?」

 

 

 午神宮のサンチラ。

 コーリスが最初に友となった十二神将であり、疾風迅雷の健脚と、事件を把握する嗅覚、急所を貫く弓矢が特徴の武闘派である。

 だが、犬神宮は戦闘にて最強故に闘神と呼ばれているのだ。その彼女を前にして他の武闘派を語るなど……。

 

 

「──何でサンチラ様の名前が?」

 

「……この状況が厳しいからな」

 

  

 ヴァジュラは誇りで動く生き物だ。

 姉との格の差に挫ける事は無いが、彼女を取り巻く犬神宮の環境を背負ったのならば──。

 

 

「──やります。闘神の名が廃るので」

 

()し」

 

 

 話は終わったと、カリオストロは二人にせめてもの情報を与えた。

 

 

「双眼鏡で確認した限りだが、あの鯨は空に漂う小さな石とか岩石の集合体だ。核も無い。光の筋がノアの力だとして、あれを巡らせる事で形を固定するっていう仕組みだ。つまり、一回でも大きくぶっ壊せば問題ねえ。力が拡散して再構築に時間がかかる」

 

「なるほど。一度でいいそうだヴァジュラ。なら俺も参加して壊す方が早いか」

 

「いえ、私一人でやります。ノア様ですね?彼も独立して動けるようですし、コーリス様に任せます」

 

「心強いな。闘神」

 

 

 ゾーイは待機し、艇への攻撃や後の破片に備えて力を溜めている。直接相対するのはコーリスとヴァジュラで、二人は此方を見下ろすノアと鯨を見た。

 

 

「──話し合いは終わった?」

 

「すみませんノアさん。今行きます」

 

「抵抗するんだ。それってつまり……」

 

 

 ノアは表情を見せないまま、杖を翳して叫んだ。

 

 

「人類が持つ艇を壊すってことかな!?」

 

 

 急激な豹変。やはり理性は徐々に磨り減っている。

 

 

「行くぞヴァジュラ」

 

「はい、コーリス様」

 

 

 これより、二人による罪の精算が始まった。

 

 

   

 

 





ノア
・星晶獣の暴走によって豹変。アニメで何か出してた鯨を召喚する。
・暴走の理由は"危機"。艇と深く繋がっている状態で襲撃を受けた為、無意識に艇の危機を自身の命の危機と同一視してしまい、会話が出来るまま力が暴走した。
・普段ならば絶対に暴走する事は無い。

コーリス
・ヴァジュラに無事報告をしていればこんな事にはならなかった。
・本人が理不尽を許容してしまうタイプなので、ヴァジュラには後々説明する機会があると思って放置していた。
・ヴァジュラはバジュラの妹として可愛がっている。
・ノアを怒らせると杖で尻を叩かれる。

ヴァジュラ
・冷静さが異常に足りない妹。
・純粋無垢な人間しか視認できない"カミ"の力を借りれたのは、コーリスへの感情が一色になって、一時的に純粋な状態になったから。
・姉へのコンプレックスは強さではなく、何だかんだ良い結果を齎す思慮深さと、思い切りの良さ。それに倣って迷わず行動するようにしているが、感情的なタイプなので結果がついてこない。

ゾーイ
・ノアを怒らせると食事が減らされる。

カリオストロ 
・ノアを怒らせると人としての倫理観を問われて言い返せなくなる。
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