幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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88.足が速ければ何とかなると思ってました

 

 

──4年前、午神宮。

 

 

「……1人ですか?」

 

「はい。リュミエール聖騎士団、コーリス・オーロリア。貴殿らの要請に応じ、午神宮を死守します。隊に連絡は入れましたので、後続の隊は2時間もあれば間に合います」

 

「…夜分にありがとうございます。私は巫女のスカダと申します。見ての通り神将であるサンチラ様は明日への祈りに勤しんでいます。年の終始は煩悩が溜まりやすく、担当者は注視しなければなりません。魔物の襲来に対応できる戦士…巫女長は病にかかり寝込んでしまい、この様な急な要請に」

 

「空を救う意志は我等も同じく。どの様な状況であれ、人々の願いに背く事はありません」

 

「感謝します…若き聖騎士様。年の頃はどれほどでしょうか?」

 

「15です」

 

「サンチラ様と同じですね。若い身空で…本当に尊敬します」

 

「………ありがとう、ございます?」

 

 

○○

 

 

「あの…」

 

「魔物が来ましたか!?」

 

「いえ…彼女、何時間祈ってるんですか?」

 

「ああ…サンチラ様は今に至るまでに4時間の祈祷を終えています。あと1時間で年が明け、除夜の鐘を鳴らすのです」

 

「冬の夜で4時間も座りながら………」

 

「凄まじい御方です。幼少の頃より武術の研鑽を積まれ、心の所作を深く学び、その若き時間を空の為に捧げて………私達があの方に何を齎した訳でも無いのに」

 

「……辛そうなのに、笑ってますね」

 

「あの方にとって、誰かの為に身命を捧げる事は喜びなのです。苦行に対する反応に嘘偽りはありません。それでも心身に湧き上がる熱があるのでしょう」

 

「…すごい」

 

「私には、コーリス様も同じ様に見えますよ?」

 

 

○○

 

 

「かー!終わった終わった。30分は休めるぞー」

 

「お疲れ様ですサンチラ様。此方は神宮の防衛に協力してくれたコーリス様です」

 

「初めまして神将殿。リュミエール聖騎士団のコーリス・オーロリアと申します」

 

「既に名前を言われたが、午神宮のサンチラだ。こんな夜に付き合わせてごめんな?眠かっただろ。それに家族も…」

 

「年末を共に過ごす仲間はいますが、家族とは別れています。それに、俺は何かしらの役に立てることが嬉しい。仲間も来てくれましたし、皆同じ考えです」

 

「ふーん……所で、アンタ何歳だ?聖騎士にも若いのがいるのか?」

 

「コーリス様とサンチラ様は同い年なのですよ」

 

「マジか!アタシより小さいからもっと下だと思ったよ。だったら何でそんな喋り方してる?」

 

「空を守る神将殿に対し敬意を示さなけれ──」

 

「そういうのいいよ。面白くもない。アタシが好きで神将やってんのにさ、皆申し訳なさそうに尊敬してくるんだ。折角のタメなんだし、アンタくらいは気軽にしてくれよ」

 

「し、しかしそんな振る舞いは」

 

「いーから」

 

「………分かった」

 

 

○○

 

 

「なぁ、コーリス。魔物は来たか?」

 

「来なかった。この天候の中、餌を目的に飛び回る魔物は少ない」

 

「…分かってたんだ。もしもの事を考えなきゃならなかったから、迷惑をかけた。やる事もなくて寧ろキツかっただろ。ごめんな」

 

「そこまで他の組織に迷惑をかけたくないのか?」

 

「神将の事は神将でやるべきだ。アタシは人手不足の中、望まれた上で神将をやってるが、それは言い訳にならない。結局自分でもこの仕事をやりたくてやってるし、そう決めたなら責任を負うべきなんだ。アタシと似てるなら、分かるだろ」

 

「人を助けたいけど、自分の幸せを極端に求めようとは思わない。助け合う世界を望むけど、自分を助けるくらいなら他に回してほしい………とか?」

 

「そーゆうこと。だから聖騎士の人達には本当に申し訳ないと思ってるんだ。不甲斐ない」

 

「来たくて来た。それじゃ駄目なのか?」

 

「…ありがとな。アンタが真っ先に要請を受けてくれて助かったよ。駄目元だった。やり手の部下が急に倒れちまったからな」

 

「その人にも、神宮にも…何事も無くて良かったな」

 

「そうだな………さて、時間か。鐘を鳴らしに行くかね」

 

「最後か。頑張って、サンチラ」

 

「……………………なぁ」

 

「?」

 

「こんな時間まで付き合わせたんだ。特別にどうだ?」

 

「何を…?」

 

「除夜の鐘、鳴らしてみないか?」

 

「いいのか?」

 

「一般の参詣客は朝からだ。この機を逃すと後悔するぞ?」

 

「そ、そういう事じゃなくて…神将が鳴らさないと駄目なシステムとか、企業秘密の儀式だとか、そういうものじゃないのか?」

 

「除夜の鐘にそういうのは無いよ。文化的な意義の方だ」

 

「……ルールに背く感じが怖いというか」

 

「気になるタイプか……じゃあこうしよう」

 

「わわっ…!」

 

「二人で鳴らすんだ」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

──犬神宮本殿、客間。

 

 

 

「アタシはアホだった」

 

「聞こうか」

 

 

 目の前の黒い鎧と美少女はゆっくりと座った。

 友達のコーリス、略してコー。その仲間のカリオストロちゃん。同じ神将のヴァジュはこっちが気になって仕方が無い様だけど、父ちゃんの説教中に気を散らせちゃ駄目だよ。

 

 それで、何処から話すべきか。

 勿論、何処を話してもアタシ達が馬鹿である証明をする事になるんだが…隅々まで話さなきゃコーがいらない心配しちゃうからな。というかもうしてる。凄い深刻な空気作っちゃってる。

 そういうんじゃないんだよ。深い事情じゃなくて、深い現状になっちゃってるんだよ。学校の宿題忘れて寝てたとか、そういうノリなんだよ。

 

──そういうノリで神将が消えかけてるんだよ!!!

 

 

「例え話でもすっか」

 

「いらないかな。率直に聞かせて?」

 

「………外を走るのが遊びだと感じたガキンチョの頃を思い出してみてくれ」

 

「いらないって言った気がするんだけど…」

 

 

 ごめんなカリオストロちゃん。

 この例え無いと本当に混乱すると思うからさ。

 

 

「そいつらの注目を浴びる人気者って何だと思う?」

 

「んー…頭が良かったり、ものづくりが上手い人?絵もそうかなぁ…」

 

「優しい奴。頼れる奴。あと…素直な奴」

 

「もっと単純だよ。ほら、鬼ごっことかやるだろ?」

 

 

 勿論クイズを続ける気は無い。さっさと答えを出して納得してもらわなければこの依頼の真髄には辿り着かないんだ。

 男のコーなら分かると思ったが、そうでもないらしい。全空共通の話のつもりで例えたんだけどな。

 

 

「足が速い奴だ」

 

「……あー」

 

「…カリオストロちょっと分かんない」

 

 

 想定通りコーは納得したようだ。

 しかし、カリオストロちゃんの受けが悪い。小さい時に走って遊んだ事がないタイプなのは見て分かるが、リアクション的に理解すら出来ない感じだ。

 あー、遺跡っ子はそんな遊びしないのか。それなら納得だな。

 

 …さっきは流したけど、何で遺跡に女の子がいんだよ。

 

 

 

「足が速いと尊敬レベルで人気になれる。少しデカくなればどうでもよくなる話だが、子供にとっては大事なものだろ?」

 

「サンチラさんは速かったの?」

 

「ズバ抜けて速かったなー。午の神将がそういうもんだし」

 

「そうなんだぁ。それがこの依頼とどんな関係があるの?」

 

「午の神将にとって速さは強さで、存在を証明するもので、生き方なんだ。小さい頃から速さを自慢に生きてきたアタシはそれが人一倍強くてな。神将になってからもモチベーションの塊だ。走る事がまぁ楽しくて楽しくて」

 

 

 そう、速さこそ正義。

 島に強盗が出たなら何処までも走って捕まえる。迷子が出たなら島の隅々まで走り回って保護する。

 魔物も煩悩も速さで捉えりゃ何一つ取りこぼさない。手が届かない敵は弓が当たる位置まで走れば良い。硬い敵は速度を乗せた槍でも投げてぶち抜けばいい。

 

 神将の才能を普通に持ち合わせて生まれたアタシは、前の神将だった母ちゃんから午の神将に必要な全てを教えられ、楽しく覚えて、楽しく仕事をした。

 

 

「母ちゃんはアタシの小さい頃からよく言ってたよ。『人の為に走れる人になりなさい。あんまりはしゃいで走ると馬鹿になるよ!』って」

 

「…それで?」

 

「気を付けてたよ。神将たるもの自分勝手じゃ駄目なんだって。それに、誰よりも速く走って人を助けると、その人の心を守れる気がして嬉しいんだ。窮地に陥ってる人の恐怖は短い方が良いだろ?」

 

「そうだな。同意する」

 

「…でもなぁ。母ちゃんの言葉の後半、抜け落ちてたんだなぁ」

 

 

 はしゃいで走ると馬鹿になるって。

 今思うとアレだ。馬鹿だからはしゃぐんだ。

 

 しみじみと語っていると、カリオストロちゃんが虚無を携えた真顔になって急に話しかけてきた。

 

 

「…もしかして。走りながら仕事をするのが楽しすぎて、後継者について何も考えてなかったとか……いや、黒騎士との身の振り方を考えた時…後継者の見込みが無い事に初めて気付いて焦りだした──って話じゃないよね?」

 

「ハイその通りデス」

 

「帰るぞコーリス。茶番は終わりだアホ馬」

 

「……ごめんサンチラ」

 

「ちょっと待ってよコォォォォ!!アタシほんとにこのままだと母ちゃん泣かせちゃうんだって!!」

 

「泣きたくなるのはお前のアホさに対してだよ」

 

 

 カリオストロちゃんのキャラ変更に物凄く驚いたが、そんな暇も余裕も無いのでアタシはコーの肩にしがみついた。

 いや痛ッ!?何だこのトゲトゲしい鎧!?物理的にも精神的にも壁を感じるぐらいの拒絶感!アタシら本当に友達か!?

 

 

「確か…十二神将って血統だったか?」

 

「初代様が持ってた力を元にシステ厶が作られてるから……直系じゃなくてもいいんだけどぉ……」

 

「兄弟いないもんな。お母様は?」

 

「母ちゃんも一人っ子…てか皆一人」

 

「サンチラが頑張る必要がある訳か…」

 

「どうにかしてくれよ七曜ぅ………」

 

「何焦ってる。その若さなら良い男の一人でもさっさと捕まえてみやがれ。オレ様の妹なんて………あ」

 

「ん…カリオストロちゃんの妹?」

 

「なんでもねぇ」

 

 

 咳払いをしたカリオストロちゃんは呆れ果てている。

 十二神将ってのは案外替えの効かない存在だ。初代様達は全空から選別された単純な実力者だったのに、その独特な力から組織を作った結果、血筋オンリーの激狭環境になっちゃってるんだ。

 しかも、その血筋の中で才能がなきゃ神将になってもやっていけない。空に散らばる煩悩を12人で抑えるのが神将としての役目。400年前の戦争に比べて平和になった今でも、個としての力が求められる訳だ。

 だから、本当は親戚なり遠縁なりをまとめて匿っておかなきゃ組織が崩壊するのは目に見えてるんだが……どうにも、年月の限界とやらが来たらしい。

 

 そして、午神宮はここに()()が来てる。

 

 

「…生まれつきでね。アタシは子供が作れないんだ」

 

「……………」

 

「…そうか」

 

 

 空気が凍った。

 コーはかろうじて返事をしてくれたけど、カリオストロちゃんは自分の身体を見て、もう一度アタシの顔を見た。

 

 言う機会が無かっただけだ。別に気にしてない。

 いや寧ろ気にするべきだったな?分かってんなら何で他の手を打たなかったのかって話だ。

 

 

「そんなリスクもある訳で、何で一人っ子ばっかりだって言うと…アタシの血筋な?馬鹿ばっかりだったらしい」

 

「サンチラみたいなのが沢山いたって事か?」

 

「コーさ?その言い方結構考えるべきだったんじゃないか?事実だけど思った以上に言われて嫌だったぞ?」

 

「ごめん」

 

「うん。それで、母ちゃん以外の神将達みーんな、速く走りさえすれば神将やれるって思ってた訳。さっさと後継ぎ作って仕事。さっさと子供に役目教えて仕事。走れなくなったら子供に託す。午の神将って身体能力重視だから、才能の為に子供沢山作る必要ないんだよ。ただでさえ自由な時代なのにさ、そんな感じだったら一人っ子連発になるだろ?」

 

「初代の考えがそうだったのか?そうなら走るのも意志として引き継がれてもおかしくないな」

 

「多分そういうことだと思う。そこで唯一おかしいと思ったのが母ちゃんだ」

 

「才女だな。お前も見習うべきだった」

 

 

 カリオストロちゃんさ、怖いよ。

 何で会って初日にこんなメタメタに言われなきゃいけないんだ。アタシって神将の中だと比較的コミュニケーション取れる方って言われてるから、アンタと他の神将と出会った時の事を考えると恐ろしいよ…?

 

 

「母ちゃんは馬鹿やってるばあちゃん達を見て、午神宮の未来を不安に思ったんだ。でも、母ちゃんの身体はそこまで強くなかった」

 

「病弱だったのか?」

 

「アタシを産んでから弱っちまってね。いや、生きてるよ?戦闘以外なら神将としての役割も果たせてたし……ただ、憂慮の意味が無くなっちゃったから、凄く焦ってた」

 

「で、お前の母ちゃんは何かしてたのか?」

 

「アタシの身体の事で詰みが確定したから、お(かみ)に掛け合って対策を練ったらしい。煩悩を集める装置を作り、欠けた神将の代わりにするっていう結論も出た」

 

「解決はしてるじゃねぇか。じゃあ俺達に何をして欲しい?」

 

 

 そう。そこからが依頼だ。

 十二神将は少なくとも初代の血を引く存在でなければ後継者足り得ない。身内にいないのなら、存在するかも分からない遥か昔の遠縁を探す必要がある。 

 そしてその捜索は勿論終えている。

 

──アタシが許される限りの土地で。

 

 

「七曜になってから接触したのは他でもない。コーが権力を得たからだ。午神の血を引く人間を見つけて欲しい」

 

「権力?無理矢理引っ張って来いと?」

 

「違う。只でさえ瘴流域を跨ぐにはお上の許可が必要で、その許可は殆ど降りない。加えて真王の支配下を彷徨くなんて無理な話だ。だから黒騎士として何処にでも行けるコーを頼りたい」

 

 

 七曜と十二神将の起源は対極だ。

 星に服従する証として賜った役職と、星を殲滅する為に募った戦士達。歴史を重視するアタシ達にとって、気軽に干渉するべき存在では無い。

 だからヴァジュの行動はアタシでもビックリするくらい異常だったし、この依頼だって…コーと個人的に友達だったから許されるくらいだ。いや、コーがファータ・グランデの七曜というのもあるから、もっと細い綱渡りか。

 

 

「この通りだ!頼む!ついでと思ってこの依頼、受けてくれ!」

 

 

 アタシが頭を下げる間際に見えたのは、チラリとカリオストロちゃんを見るコーだった。

 …もしかして、その美少女が実質的なリーダーって事は無いよね?今までの会話の流れもこの子が操作してた気がするし……。

 

 

「依頼は受けるが、期限の確約は出来ない。仮に血統持ちを見つけられたとしても、神将の後継者として扱えるかはそっちの言葉次第だ。俺達が出来るのはサンチラの存在を伝えることだけだからな。それでいいか?」

 

「勿論!寧ろ、こんな厄介事を引き受けてくれてありがとな!」

 

 

 コーはアタシの想定していた通りの依頼内容で引き受けてくれた。これよりも上を望む事があるだろうか?

 出会いがあっても無駄だと諦めていたアタシだが、まさか偶々知り合った人間がここまで出世するなんて思ってもいなかった。運命に好かれたのはバジュだけでは無かったらしい。

 

 

「それで」

 

「ん」

 

 

 コーは聞きたい事があるようだ。

 

 

「煩悩を集める装置を作ってしまえば何とかなる話では無いのか?完成さえすればこの依頼も無効に出来ると思うんだが」

 

「…そうだね」

 

 

 その疑問は最もだ。

 カリオストロちゃんの言っていた通り、神将が欠けた時の対策は既に考えられているし、それが叶えばアタシの憂慮も不要のものとなる。

 だけど、やっぱり神将ってのはそうなるべくして400年も存在しているのだ。

 

 

「人の夢の老廃物──煩悩さ、機械では抑え続けられるとは思えないんだ。空の世界に訴えかけ、異物として形を取り、人の精神を蝕む概念を、機械が辛うじて集めた所で、どうやって廃棄できる?」

 

「12人と言いながら毎年1人ずつで煩悩を払ってるのは…そういう事か。各神宮で行われる儀式は正確でなければならず、他の11人が圧をかける事で煩悩の被害を反らし、纏めて払うのは担当者と」

 

「そうでなきゃ、少しでも煩悩に対する力を持つ人間全員を集めて、物量で何とかしてるさ」

 

 

 我ながら厄介な存在だと思っている。

 七曜もそうだけど、空の世界に必須の役目ならば、その存在は広く周知されるべきだ。知られる事で増える煩悩もあるだろうが、此度の様な問題を起こさなくて済むかもしれない。少なくとも、管理されれば途絶える事も無いだろうし。

 勿論、そんな体制の中で仕事をしたいとは思わないが。どうにも噛み合ってないんだよ、時代と需要が。

 

 

「何としてでも見つけないと…100年先に禍根を残しちゃうかもしれないだろ?」

 

「…」

 

「いやね?分かるよカリオストロちゃん。『いきなり焦った馬鹿馬の割に殊勝な事言うじゃねーか』って顔してるけどね?」

 

「いきなり焦った馬鹿馬の割に殊勝な事言うじゃねーか」

 

「……………ぐすん」

 

「泣かすんじゃない」

 

「勝手に泣いた」

 

 

 いや、アタシだってこうなるって分かってたならちゃんと動いてたよ?子供が産めない身体だってお医者さんに言われて、母ちゃんも体調的に子供が産めなくなったんだから、そりゃ考えるよ。

 その後……もっと馬鹿らしい事件が起きたんだ。

 

 

「じゃあこれ聞いてくれよ……午神宮には、後継者がいないという問題を抱えた時のみ閲覧する事を許されるうっすい書物があったんだ…。しかも、歴代の神将が死を察した時にだけ内容を書き加えるっていう変なしきたりの。それがあったから大丈夫だと思ってたんだ…」

 

「へぇ。どんな内容だ?」

 

「………内容は、島の名前がひたすら、歴代神将の数だけ書かれてた」

 

「何の島だ?」

 

「ユディスティラ、ラビ…ログノスとか、他も同じような島」

 

「何も特別な島じゃないな」

 

「アタシと母ちゃんは最初にこれを見たとき、昔の午神の遠縁を見つけた場所だと思ったんだ。でもおかしな話だ、そうなると全ての午神が血統を探し出して見つけた事になるし、そもそも同じ血を引く人間がそんなにいる筈がないだろう?」

 

「でも、後継者に困った事があれば使えって言われたんだろう?何かヒントは無かったのか?」

 

 

 正確に言えばあった。

 というか、神将が死ぬ間際に書き加えるシステム上、内容の意味が分かってなきゃ駄目なんだ。当然、説明も次のページに書いてあったさ。

 でも…母ちゃんはそれを見る前に気付いた。

 

 

「…ばあちゃんはまだ生きてるから、最後に書いてあったのはひいばあちゃんのやつだ。母ちゃんは面識あったから、ひいばあちゃんが書いた島の名前から意味を理解しようとしてた」

 

「……どうだった」

 

「気付いたさ……恐ろしい事実に」

 

 

 そう。鳥肌が立つ事実。

 こんな物が存在しなければ、もうちょっと上手くやったものを。

 

 あの母ちゃんが、優しくて、ちょっと頑張っただけなのに死ぬ程褒めてくれる母ちゃんが──キレた。

 

 

 

「書いてある島全部──夫を捕まえた場所だった」

 

 

 

 そう、重要なのはアタシがアホな事じゃない。

──()()()()がアホだった事だ。

 

 

 

「えーと、つまり?お前の先祖は、『良い男が見つからないんなら、自分達の経験を参考に探してね』っていうアドバイスを、わざわざ変な縛り付きのしきたりで重く演出して、文化を気取ってたわけ?」

 

「そうなるな」

 

「ハァ…………………」

 

 

 カリオストロちゃんは天を仰いで口を閉じた。

 コーも一緒で、腕を組んで下を向い──おい今ちょっと笑ったな?余りにも馬鹿すぎてちょっと笑っただろ。

 頭に浮かぶからなその口角。兜越しでも透けてるぞ。

 

 

「素直に笑えよコー。なぁおい。神将の断絶を笑ってみろよ」

 

「ご、ごめん……ちょっと」

 

「ちょっと馬鹿すぎって?アタシの不幸が嬉しいか。泣いて欲しいのか」

 

「サンチラの幸せは後継ぎ問題の解決だけなのか?」

 

「違うけど神将途絶えたら詰みだろ。もう泣くぞ」

 

「神将代わりの装置が出来て、それでも不完全だから…限界が訪れるのは何年後か分からないけど、その間にも次の世代の神将達は対抗策を考え続けるだろ?今はまだ深く話し合っても無いのに、絶望が早すぎないか?」

 

「…禍根を残したくない老婆心を分かってくれよ。今泣くぞ」

 

「……笑ったのは許してくれ。泣き脅しが凄い」

 

 

 本当に笑ったんだなこの野郎。

 でも、絶望しすぎなのはそうかもしれない。途絶えたら駄目な存在ならば、そもそも初代以前はどうしていたのかって話になるし。神将自体が不要になる時代にだって進む可能性があるんだ。

 だけど…もやもやする。

 

 コーだって自分で何もかも解決したいタイプの筈だ。未来を良い物にしたいから、過去として全てを解決しておく。少なくとも、今まで話してアタシはそう思っていた。

 ……なんか、吹っ切れたか?

 

 

「先祖だって、自由に恋をして欲しかっただけじゃないのか?」

 

「そう…かもな」

 

「いや、後継者問題を色恋で片付けた恋愛脳の馬鹿共だろ」

 

「……カリオストロちゃんさぁ、今コーとアタシいい感じに落しどころ見つけて終わろうとしてたよね。何でそんなこと言うの?」

 

「えへっ♡」

 

 

 笑顔は可愛いなぁ。

 お姉さんちょっとイライラしてきちゃったよ。

 

 

「まぁでも、幽霊の俺より未来があるから。サンチラも諦めるな」

 

 

──この男。なんて事を会話にブチ込んでくるのか。

 見ろ。ヴァジュ達が滅茶苦茶大げさに振り向いて……ああ、凄い目だ。というか途中から説教止まってたし…。

 

 これは流石のアタシも時が凍る。

 コーが身体に絶望していない事は知ってるし、寧ろ都合が良いと思ってる節すらあるんだ。心配はしてない。

 それでも、他人に同情される立場なのは理解しておくべきだと思う。 

 

 

「コーリス。幽霊ジョークはウケが悪いって気づけ」

 

「開祖ジョークはどうなんだ?」

 

「何千年もずっとカワイイ少女なんて、存在がジョークみたいなもんだからな。もはや伝説と呼べる代物だろ?」

 

「カリオストロはとっくに伝説だろう」

 

「ハハッ!そうだな」

 

 

 何ちゃっかり会話楽しんでんだよこいつ等。

 

 そうだ…コーはずっとこんな奴だ。

 すぐに病みそうなツラしておいて、アホみたいに固い上にすぐ回復するメンタル。腕を失った事すら忘れてそうなハート。

 最初は十二神将のアタシの方が明確に上だった。同じ目線で語り合う友達が欲しかったから、こうなってもらったけど…今思えばとんでもない出会いだったわけだ。

 

 

「……はは」

 

 

 コー、気付いたほうが良いよ。

 バケモノだって思われたその瞬間の度、人を狂わせてるからさ。

 

 少なくともその被害者である闘神を見て、アタシは今年一番の引きつった笑みを浮かべた。

 

 

 






サンチラ
・初めてコーリスと出会った時は彼より身長が高かったが、今では逆転している。
・頭は回るし勘も良いが、馬鹿。
・美人なので滅茶苦茶告白されたりナンパもされるが、子供を産めない身体を理由に全て断っている。本人的には恋の幸せよりも走る幸せを追求したいのだ。

サンチラの母
・歴代午神の中で一番頭が良いとの評価。
・後継者についての懸念を持っていたが、サンチラを産んだ後に身体が弱ったので、それ以上子供を作る事が出来なかった。
・先祖の色ボケ本を解読した結果、ブチギレてビリビリに引き裂いたらしい。人生初の激怒だった。

歴代午神
・サンチラと一緒で走る事しか考えて無かった馬鹿共。
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