幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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89.金石の交わり

 

 

 "馬が合う"という言葉の意味は、乗馬の真髄から来ている。

 古来より戦争において、騎馬兵が驚異として見られてきたのは速度故だろう。歩兵を軽く追い越し、乗り手が槍を振るうまでも無く、相手は突撃を恐れ逃げ去ってしまう始末。

 また、位置的な利もある。馬に乗れば攻撃が届かない事が殆どで、騎馬兵は高所から一方的に敵を殲滅できる。

 

 その存在は確かに厄介なのだが、そう見られる為には気の遠くなる訓練が必要だ。

 何故なら、動物と連動しなければならないからだ。どこまで行っても動くのは馬自身なのだから、自分の意向を人語も知り得ぬ相棒に伝えなければならない。

 乗り手の呼吸も馬の呼吸が一つとなる──人馬一体の形。

 それこそが、相性の良さを示す言葉の語源となったのだ。

 

 コーリスとサンチラは、その言葉が似合う仲であった。

 両者とも人を助ける事を生業としており、その根源は異なるが、居心地の良い世界を求めているという考えは一致している。

 コーリスは迷える人間へ選択肢を与える為に七曜へ。サンチラは人々の恐怖を減らす為の奔走。

 救世主とは違って自己満足の動機だ。彼等はそれを自覚しているからこそ友となれたのだろう。

 

 

「サンチラをどう見る?」

 

「馬鹿で良かったと、心から思うね」

 

 

 一通りの話を終えて、コーリスとカリオストロは縁側で時間を潰していた。サンチラが依頼に対する報酬をヴァジュラと相談して考えているのだ。十二神将の存続に関わる話なので、当人だけの問題にはならず、自然と2人で悩む様な状況。

 

 そしてその時間潰しの最中、コーリスは小声でカリオストロにサンチラの評価を聞いた。答えは思ったものとは違ったようで、彼は少し驚いた。

 

 

「この馬鹿は、衝動的って意味だ。走る欲求で一族諸共考え無しになってやがる」

 

「俺が思う限り、頭は回るし勘も良い」

 

「加えて空気も読める。空気が読めるって事は相手の事情を察知できるって事になる。友達としてお前に接触したと言っていたが、十二神将としても理想的なアプローチだろうな」

 

「確かに、七曜と十二神将は互いに不可侵で空に必須の存在だ。最初から黒騎士と密接な関係を築くのは難しい。サンチラとヴァジュラはただの個人だった俺と関係を持った神将だから、その問題を解消出来る訳か」

 

「それでも、普通の依頼を頼めば、積極的に仲良くなろうしてる危険因子として見られる。騎空士はごまんといるんだ…態々オレ様達を選ぶ必要は無い」

 

 

 七曜と十二神将は成り立ちからして相反する存在である。

 この時代においても、過度な接触は混乱を引き起こす可能性が高い。真王の威信を揺さぶる事になれば空の統治が崩れ、十二神将が瓦解してしまえば、煩悩が人々に厄災を齎す。

 故に、接触する人間はサンチラが適任だったのだ。

 

 

「あの馬鹿馬は、神将が途絶えるという口実を持っていた。自分では探せない範囲の捜索を任せる事が出来るという説明も十分にしてな。元々友達同士だったから仲が良いって言い訳も出来るし、広く見れば世界の為だって威張れるんだ」

 

「…サンチラは自分の立場に察しがついていると思う」

 

「だろうな。十二神将の立場を盤石にする為に黒騎士と交流を結ばされてるのは上司の意向だ。犬娘の行動に対する詫びは、本来ならお偉いさんを連れてきても可笑しくない。真王の手足を襲ったんだぜ?」

 

「その上でサンチラだけが来たって事は…そういう事か。理由も全て切実なもので、嘘偽りは無いが…同時に十二神将としても都合が良い状況だからな」

 

「だから馬鹿で良かったんだ。腹黒い奴が来たら余計にゴタゴタして面倒事になる。あの割り切った性格なら、少なくとも喧嘩にはならないし、十二神将に恩を売ったこっちの利が上回ってる」

 

 

 口には出さなかったが、友達に高い報酬は望まないだろうという狙いも含まれているのだとコーリスは察した。

 察した上で、2人は何も不快に思わない。ヴァジュラの件で大きな損害は出なかったし、サンチラを通して穏便に済ませる意思を見せればそれも恩を着せる事になる。

 

 サンチラは無意識に、両者にとって理想的な行動をしていた。

 彼女の勘の良さは相当なもの。精神に対する深い知識が無いので、それを洞察力と形容する事は出来ないが、先程の会話の中でカリオストロがブレーンである事を見抜いていたし、未来を見据えるというコーリスの心境の変化を薄々感じていた。

 総じて対人能力が高い。

 

 

「言っておくが、ちゃんと友達だぞ」

 

「さっきの見りゃ分かるよ…」

 

 

 少し暗い会話だったと、コーリスは雰囲気を戻した。

 

 

「そんな事よりゾーイどうにかしろ。オレ様が無理矢理ドア開けたらベッドで三角座りしてたぞ」

 

「心配だ…何を聞いても『大丈夫なんだ。すまない』って誤魔化すし」

 

「おいおい…やっぱり何か買っていった方が良かったんじゃねぇか?美味いものとかあっただろ」

 

「それもあると思って、以前報酬で貰った高級な飴を見せたんだ。好きなの全部食べていいって」

 

「あんなに落ち込んでんだ…食べる気すら起こさなかったんだろ?」

 

「全部食われた」

 

「滅茶苦茶余裕あるじゃねぇか」

 

 

 面白さを発揮してる内は、ゾーイに過度な心配は不要だ。しかし、塞ぎ込んでる本人が誤魔化す様に会話をするのは不安に思われる。態度は誤魔化せていないという事は、それ程までに精神的なダメージを受けたということ。

 そんなゾーイを見る機会は滅多にない。彼らにとっては1度だけだ。

 

 

「…確か、エニュオを倒した後にゾーイが帰ってきた時も、あんな雰囲気じゃなかったか?」

 

「ああ…今回ほどじゃないが、自分の間の悪さに凹んでたな」

 

「他に心当たりは…ないな」

 

 

 コーリス達はゾーイと真王の会話の内容を知らない。従って、彼女が最も心を乱された瞬間を見ていなかったのだ。

 彼女は荒む心を隠していた。隠し切れた。何故なら、真王の言葉を真正面から受け止めたとして、現実味が無かったからだ。自身がコーリスの人生を壊したなど、果たして言えるのか?

 そしてその現実を思い知ったのが、フィラとの会話だ。そこで彼女は理解したのだ。

──あれこそが決別。糸のほつれ。真心の廃棄。

 捨てさせたのは、自分(ゾーイ)だ。

 

 だが、団員にその背景を知る由は無い。

 

 

「上手くいかないものだ」

 

「だな。だがゾーイの良い所は本人が強すぎて付け入る隙が無い事だ。少なくとも外部からの口車に乗せられる事はない」

 

「錬金術の学会ではそういう事があったのか?」

 

「普通の組織な時点であり得る話だ。欲の皮が突っ張って馬鹿の口車に乗り、いつしか敵対組織に部下が集まっているってのは珍しくなかった。だから独自の存在理由を持ってる調停者は強いのさ」

 

「人が求めるのは救いと正義で、ゾーイが求めるのは安定と維持……確かに違うな」

 

「真面目で強いってのは罪なもんだよな。人類は味方と勘違いしちまうんだから」

 

 

 味方の定義は、道を共にする存在でなければならないのだろうか。少なくともカリオストロはそう考えているが、コーリスにとっては首を傾げたくなる考え方であった。

 他者との交流において、最終的な目標が重なる事は多いが、それに至る考え方や過程が重なる事は少ない。全てが一致しなければ味方として認知出来ないとしたら、窮屈な生き方を要求されるだろう。味方ではない者を常に疑わなければならないのだ。それはつまらなく、幸薄で、心を摩耗させる生き方だ。

 そんな生き方は超人でなければ成り立たない。一人でも道に迷わない優れた個人──それこそ、カリオストロの様な。

 

 彼はそんな万能な人間だからこそ、そう考えているのだと感じた。そしてその道には相容れない自分もいる。

 カリオストロに倣うなら、サンチラでさえも疑わなければならなくなる。その疑いを活かせるほど器用ではない。

 

 彼がゾーイの事を念頭に置いて思考を固めていると、遠く襖が開く音が聞こえ、足音が近づいてきた。

 

 

「報酬が決まりました!」

 

「ついでの形で果たす依頼だからな。特別気にしなくても」

 

「アタシが気にすんだよ。ルピと道具だったらどっちがいい?」

 

「……道具かな」

 

「金ならあるしな。それに…足りなければ増やせる」

 

「カリオストロちゃんはギャンブルもやるのか?それなら卯神宮の横に賭博場が…」

 

「あ?物理的に増やすんだよ」

 

「未成年ギャンブルよりヤバそうな響きなんだけど」

 

 

 これはカリオストロなりの冗談である。

 錬金術で純金を増やすなど──大衆が望んだ錬金術の在り方はそういうものだったのだが、開祖は絶対にその手を使わない。

 

 

「仮に道具なら、何をくれる?」

 

「道具ってのは比喩で、まぁ…十二神将の武器を作ってる鍛冶師を紹介したりとか、そういう恩返し系の方向で」

 

「………武器か」

 

 

 彼は武器に困っていない。正確には、もう困っていない。

 七曜の騎士になる前なら、エニュオ戦で破壊されたノスタルジアと祓杖の代わりを見つけなければならなかったので、大変有り難い話だったのだが、今は壊れない武器がある。

 以前彼がヴァジュラに相談した際は、神将に武具を献上する鍛治師に対して個人的な依頼は出来ないという結果に終わったが、今回は神将の存続に関与した事に対する報酬なので、紹介が許されるという事だろう。噛み合わない需要だ。

 一方で、永遠に黒騎士として活動する訳ではない以上、黒騎士の剣をいずれ返上しなければならない事を考えれば、その際には強力な武器が手元にあれば困る事は無いだろう。

 ただ、そもそもこの依頼は達成できる確率が低いのだ。武器が手に入る事は無いと考えても良いかもしれない。

 

 

「…この黒騎士の剣、絶対に壊れない代物だ」

 

「え」

 

「絶対に、ですか?」

 

「絶対に、だ」

 

「………もしかして、武器いらない?」

 

「いらない訳じゃないが、今は困ってない」

 

「はへぇ」

 

 

 サンチラの脳が軽くなった。思考を放棄した結果だろう。 

 ヴァジュラは彼女の耳に手を当て、小声で話した。

 

 

「サンチラ様サンチラ様…寧ろ私達が欲しいですねその武器」

 

「あー…そうだな。コー、七曜の武器に刀ってあった?槍はヴァジュから聞いたんだけど、両手で使う奴らしいからアタシと合わない」

 

「緑の騎士は刀を持っている」

 

「……欲しいなぁ」

 

 

 サンチラの呆けをそっちのけに、ヴァジュラは壊れない刀に思いを馳せていた。

 コーリスは思わず口が開いたままの友に声をかける。

 

 

「何でそんなにショックを?」

 

「良い機会だと思ったんだ。バジュから貰った刀あるだろ?」

 

「ああ」

 

「メンタルで切れ味が変わる独特な武器だが、コーには合ってる性質だ。でも刀ってのは物心つく前から振ってなきゃ手に馴染みが出ないだろ?」

 

「確かに…使いこなせてるとは言い難いな。勿論これがなきゃ死んでたんだが」

 

「あのアホみたいな硬さの剣も壊れて、上質な金属の塊だけが残った訳だ。なら、いっそのことその剣とバジュの刀を一つにして、新しい武器にしてしまえば良いんじゃないかって……思ったんだが」 

 

「ノスタルジアの硬度と、バジュラの刀の性質を持った武器を?」

 

「それなら刀じゃなくても良くなるし……その刀を壊すのは勿論気が引けるが、コーにとって尚更役に立つ武器になるならそっちの方が姉も本望だろうと、ヴァジュが言ったからさぁ……バジュも喜ぶらしいからさぁ………!」

 

「……俺、責められてるのか?」

 

「お前が歯切れ悪く返事しちゃったからだろ、多分」

 

 

 顔から机に沈むサンチラを前に、カリオストロは半笑いでツッコんだ。

 

 

「あー上手くいかねぇ…」

 

「お前と同じ事言ってるぞこの馬」

 

「サンチラ。行き当たりばったりというのは大概報いを受けて終わるものだ」

 

「報いで止まれるほど利口じゃないんだよぉ……」

 

 

 走る本能──というより速く在るという本能だろうか。それを常人は持ち得ていないのだから、どんなに苦しむ姿を見せても分かり合うことは出来ない。

 

 

「ついでの依頼だって互いに分かってるんだ。後で考えたっていいだろ?」

 

「コー……」

 

「空にとっては、午の神将が健在な内に走ってもらう事の方が大事なんだ。しゃんとしろ!」

 

「コォ………!」

 

 

 最早ぐしゃぐしゃの顔でコーリスの名前を呼ぶだけのサンチラ。感情の動きすらも素早い。

 

 

「腑抜けていたら、いざっていう時に魔物が来ても身体が動かないぞ」

 

「そうだよなぁ…アタシってホント不甲斐なくてぇ…」

 

「そんな非常時に最も早く動けるのがサンチラだ。お前は先人達の積み上げた歴史をここに来て否定するわけじゃないだろう?走るのが誰よりも好きならそう生きなければならない!」

 

「……そうかなぁ」

 

「オイ。適当言ってるから疑問持たれてるぞ」

 

「え?コー今適当言ってたの?純粋な励ましじゃなくて?」

 

「純粋に助けたいという気持ちで適当な励ましをした」

 

「コイツ…………!!!」

 

 

 これ以上気だるげな会話に進展が見られないだろうと、コーリスとサンチラは互いに口を閉じようとした。

 

──その瞬間、犬神宮の巫女が転がり込んできた。

 

 

「ヴァジュラ様!魔物です!」

 

「ウオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」

 

 

 そして、その警鐘の後には叫びが待っていた。

 

 

「………………?」

 

「あ?」

 

「………ああ」

 

 

 魔物の襲撃に、謎の叫び──あまりにも急な出来事なので、誰も反応できなかった。

 察したのはただ一人、コーリスだけだった。

 

 気がつけば一人減っていて、今思えばあの野太い叫びはサンチラの声と似ていて、一瞬だけ凄い勢いの風が通り過ぎたような──そんな淡い認識で。

 

 

「サンチラがもう行った。全く腑抜けてなかったな」

 

「はっや」

 

「……今思ったんですけど、魔物の『ま』の音どころか、巫女…私の部下のカイネが顔を見せた時点で行きましたよね?武器も持ってってますし」

 

「巫女の焦燥感で察したんだろうな。あと20秒もあれば帰ってくるからヴァジュラもそのままでいいと思う。どうだカリオストロ…速いだろサンチラは」

 

 

 何処か自慢げに速さを紹介するコーリスの言葉に、カリオストロは首を垂れ下げてから渋々呟いた。

 

 

「……………つかれた」

 

「俺もあのノリにはついていけない」

 

 

 常識を破壊している存在である筈の開祖と幽霊は、一般的な人間の視野で以て、午の神将を異常だと判定した。

 やがて聞こえてきた『ただいま!』という声は、ここにいる異常者達に正気を取り戻させる程の効力を持っていた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「という訳でコー!今後ともどうかご交友の程をお願いしますと同時に、午神宮をご贔屓に!」

 

「担当の年は結構先だな。こっそり行かせてもらう」

 

「依頼の報酬はその時のコー達が欲しいものに沿う形にするよ。その方がお得な気がするだろ?」

 

「多分武器だな。参拝も報酬も楽しみにしておくよ」

 

「ふふ、じゃあな!」

 

 

 魔物を秒で狩り尽くしたサンチラは、手早く午神宮の参拝を売り込んだ後、ヴァジュラにひと声かけて帰っていった。

 あまりの気の変わりように、カリオストロは暫く目を点にしたままだった。

 

 

「…凄い上機嫌で帰りやがったな」

 

「沢山走れたからだろう。それに、誰よりも速く魔物を倒して誰よりも速く帰るわけだからな」

 

「あんな血走った目で走られると普通身構えるだろ。あの気合の入れ方とか蛮族じゃねぇか」

 

「ああ見えて人思いの良い奴なんだ。あの暴れ方と良い奴である事は矛盾しない。十二神将でもバランサーの筈だ。そうだろう?ヴァジュラ」

 

「そうですね…サンチラ様は神将としての経験は中堅の位置ですし、若年の私達にとっては精神面も実力面も頼れるお人です」

 

 

 言外に『お前は大人しく見えるのに問題児だしな』と言われてる様な気がして、ヴァジュラはムスッと口に力を入れながら答えた。

 その被害妄想をコーリスは察して、機嫌を取るように流れを変えた。

 

 

「実際、あいつは責任感も凄い強い。初めて会った時に聞いた悩みはかなりのものだったが、犬神宮ではそれを忘れてはしゃいだくらいだ。ヴァジュラの事は後輩として全く心配してないからじゃないのか?」

 

「私には…私が気を遣わなくて良い様に、快活に振る舞っていたと見えました」

 

「そうかもしれない。少なくとも俺にはそういう気遣いが出来ないから、分からない」

 

「そんな事はありませんよ」

 

 

 卑下したコーリスを即座に否定したヴァジュラ。

 その否定には自身の憧れを朽ちさせたくないという無意識の我儘が垣間見えた。

 

 

「ある。ヴァジュラ、精神面で憧れるならサンチラの方がいい。戦闘最中の精神を見習うならバジュラが最適だが、自分の欲求にそれなりに正直で、他人が絡むなら一度冷静になれる。単純に生きやすい考え方だろう?」

 

「…それはコーリス様にも言える事です」

 

「俺が冷静に見えるのは焦りを敵に悟られない様無口になっているだけだ。戦闘中は煽り以外に敵と会話をしないのが普通だから、何とかなっているが……熱くなる自分を誤魔化すのは、本当の冷静沈着とは言えない」

 

「ですが……」

 

「それを含めて、すまなかったと思う」

 

 

 コーリスは突然頭を下げたので、ヴァジュラは慌てて顔を上げるよう促したが、カリオストロの『聞け』という無言の圧によってその場に縫い止められた。

 

 

「俺も勘違いをしていた。ヴァジュラの事を、都合よく解釈していた。七曜としての俺が話をすれば何事も上手くいくと……お前が抱えているはずの怒りを無碍にしてしてまった」

 

「──」

 

 

 彼女は天を仰ぎ、一息入れて、ようやく言葉を紡いだ。

 自身の過ちを、上手に受け入れた顔だった。

 

 

「父さんとナガルシャの方が…正しかったのですね。私は姉さんを助けた貴方を見ていただけで、貴方という人間を全く知らなかった。知ろうとしなかった。自分の理想だと追い求め、解釈が違えば剣を向ける──愚かなことをしました。申し訳ありません」

 

「本当に、すまなかった」

 

 

 2人は軽く笑って、握手を交わした。

 

 

「ですが、憧れというのは至極自分勝手なものです」

 

「…?」

 

「改めて理解できた貴方を、自分の理想を見つめ直した上で夢に見たい」

 

 

 その言葉は丁寧に装飾されていたが、かつて看取った姉の情熱に近いものを感じさせた。

 だが、恋ではなく憧憬。

 

 コーリスがかつて騎士に感じた憧憬と近いものだ。

 彼女は自分の後を追うのだと、彼は複雑に感じた。暖かくも、暗い未来を想像させる。

 

 

「これからもよろしく頼む」

 

「はい。闘神の犬神宮を、ご贔屓に」

 

 

 その言葉を最後に、コーリスとカリオストロは横に並んでフロンティア号に向かった。

 

 

「何だかんだ良かったじゃねぇの。犬娘との関係は修復できて、馬鹿馬に十二神将との関係を上手く取り持ってもらった。上々だよ」

 

「カリオストロが来てくれて助かった。会話が素早く進んだからな」

 

「なんで?」

 

「え?」

 

「……結果を齎したのはぁ、団長さんの過去の頑張りがあってこそでしょ?おバカなお馬さんも、騒ぐわんちゃんも……カリオストロは初対面だったんだよ?自分の活躍は最低限認めないとねっ☆」

 

 

 褒められているのだろうか。

 いや、疑問に思う内容ではなくちゃんと褒められている。あのカリオストロが人を素直に褒める事があるのだろうか。

 

 

(……いや案外あるな)

 

 

 コーリスはくすりと笑った。

 

 

「……なんだよ」

 

「いや。これから頑張らなきゃと思って」

 

「そうだぞ。解決したのは犬娘の事だけでやる事は増えてるんだ。神将後継者探しも、ゾーイの事も、早い方がいい」

 

「今日みたいに、手伝ってくれるか?」

 

「…お前がつまらなく無い内は、オレ様も団員だよ」

 

 

 "仲間"という言葉を露骨に濁したカリオストロに、コーリスはまたもや笑った。

 どんな立場になっても、一度堅く結ばれた友情は消え難いものだ。

 

 

 カリオストロは、一段成長したコーリスを見上げた。

 見た目は変わらないのに、何処か瞳が前を向いた気がする。

 

 

(やっとの成長は得てしてうんざりするもんだが、早い成長ってのも味気ないもんだ)

 

 

──つまらなくは無い。

 そう心の中で吐露して、彼は鎧に見合うその歩みを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 





サンチラ
・割とナーバスになりやすい。責任感が強めなので、馬が合うと分かれば初対面のコーリスにも悩みを漏らす。
・自分の足が活かせる場面になると雄叫びと共に走り出し、上機嫌になって帰ってくる。ちなみに祈る姿は静かで美しいらしい。
・十二神将の総意として、"有り難い存在"。

ヴァジュラ
・十二神将としての苦境に立たされた事はないので、のびのびと神将をやっている。コーリスへの憧れを止める気は無い様だ。
・ちなみに祈る姿は神々しいらしい。
・十二神将な総意として、"頼りにはなる存在"。

コーリス
・今一番心配してるのはゾーイの事。自分が納得する人生を歩めているのは彼女のお陰なので、どうにかしたい。

カリオストロ
・コーリスに対しての心配は殆ど無い。変な奴に絡まれて死なない事を祈るだけ。
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