戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
「はあぁ……はあっ……くっ、はぁはぁ……」
2人と別れた律は、息を荒げながら森の中を拙い足取りで歩いていた。 怒りに任せて戦ったため、律は完全に暴走状態になっていた。 加えてノイズも必要以上に喰らってしまった……かなり身体にガタが来てもおかしくはない。
「………………」
と、その時……視界にオレンジ色の物体が入ってくる。 それは、ノイズだった。
「……ノイズ……」
よく見かけるナメクジ型ノイズ……いつもの律なら無感情で倒すか見過ごすはずだが、律は怒気がこもった目でノイズを射抜き。 覚束ない足取りでゆっくりと、ノイズに歩み寄る。
「……消えろ……」
生気のない目で見下ろし。 慈悲もなく、無情に剣を振り下ろそうと手に力を込めた時、
「…………?」
不意に違和感を感じる。 目の前にいるノイズ……先程からまるで微動だにしない。 普通なら突撃やら弾丸特攻やら攻撃を仕掛けてくるはずなのだが……目の前にいるノイズは縮こまっており、微妙に逃げるように後退ってすらいる。
(このノイズ……攻撃も接触もしてこない。 それどころか、逃げて……震えて、怯えている?)
機械的に統率されて人を襲うノイズ……それがどうしてか、律が与えようとしている死の恐怖に怯えている。
「……はん……」
すると鼻を鳴らし、律は剣を地面に突き刺してドカッと地べたに座り込む。
シンフォギアが解除され、律はまるで興が削がれたような、毒気が抜かれたような顔をする。
「これが本当の“変異体”ってやつか。 機械的に人間を殺そうとはせず、死を恐れているノイズ……」
ノイズの攻撃は基本“神風特攻”。 人間のような有機物に接触して自身ごと炭にしたり、弾丸のように突撃したりして攻撃を行なっている。 まるで残りが大量に残っている故の捨て駒のように、湯水のごとく捨てるように……
「あぁ……だからか……ノイズが悲しい存在だって思ったのは……」
今まで感覚的な感想だったのが、ここに来て身に染みて実感する。
「……はあぁ……」
大きなため息をつく。 と、ノイズは殺されていないと、不思議そうな目をし顔を上げて律を見る。 顔と目があるかどうかは不明だが。
「……外れ者同士、だな……」
律は人として、目の前のノイズはノイズとして、どちらも異端な存在。 どこか共通点を感じてしまう。
何もしてこないと分かると、ノイズはキョロキョロと辺りを見回す。 それをしばらく見ていた律は立ち上がり、何となくノイズの前に手を差し伸べ、
「……一緒に、来るか?」
とんでもない事を口にした。 明らかにノイズを飼おうとしている……人類初、前代未聞である。
そんな言葉が伝わったのか、ノイズはその場をグルグル回った後、律に擦り寄り身体を律に擦り付ける。
「はは、よせよ」
くすぐったさを感じながら押し返そうとノイズに触れる。
(暖かい……ノイズって、こんなにも暖かいんだな。 それに柔らかい……)
その感触は、どこか生命を感じさせるような触り心地だった。
「そうだ。 名前を付けてやらないと……」
何がいいかなぁ、と律は顎に手を当てて考え込む。
「あ……」
すると、脳裏にリュートの顔が思い浮かぶ。 目の前のノイズとリュートは全く……いや絶対に似てはいないが、どことなくその姿を重ねてしまった。
「……ふふっ、そうだな。 リュート二世……リューツ……リューツがいいな」
指をさしながら命名すると、その名前が気に入ったのか、命名《リューツ》はポヨポヨと飛び跳ねる。
「そうかそうか。 気に入ったか!」
ノイズ……リューツの頭を撫で、律は少し心が晴れる気分になりながら笑顔を見せるのだった。
兎にも角にも、何がどうしてこうなったのかは律自身よく分かっていないが……しかし、飼う上で問題があった。 リューツはナメクジ型といっても当然、かなり大きい……こんなのを連れて歩いたら阿鼻叫喚は間違いなし、最悪逮捕は間違いないだろう。
「さて、先ずは……◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
対策を講じようと、律は再びシンフォギアを纏った。 “やっぱり殺す気!?”と思ったのか、リューツも再びビクビク怯え出す。
「落ち着け、少しイジるだけだ」
落ち着かせるように律は優しく呼びかけながらリューツの頭? を撫で、その状態で目をつぶり中を探るように集中する。
ノイズが危険視されている原因である人体の炭素転換と分解機能。 この機能を廃せば相手も自身も炭化することなく、時間経過による自壊も無くなる……はずである。
もしノイズ的なエサが必要であればシンフォギアに蓄積されているノイズを分け与えれば済む、はず。
「これでよし」
炭素転換と分解機能を破壊し、ついでに機械的に行動をとる機能を破壊した。 思考や感情は変異体故に問題ないと考えて、付け足す必要は無かった。
「後は、この図体をどうしたものか……」
ノイズはどうあってもノイズ。無害になったとはいえ、この見た目は人に害なす象徴……大きさゆえに簡単にここから運ぶことも難しい。
「……お?」
すると、そんな律の思考を読み取ったのか、リューツの身体がウニョウニョとうねりだし、形が変化していく。
大きさは徐々に縮んで行き、色も炭化のように黒く変化し、形が整っていくと、
「こ、これは……!?」
「——がう」
声帯が出来たのか、リューツは一声鳴く。 驚きを隠せない律の足元にちょんと座っていたのは……黒毛に白い模様が入った子虎だった。
「がーーっ」
「か……かわっ……!」
「がう」
抱きしめたい欲求に駆られながら両脇を抱えて持ち上げ、リューツはがうがうと鳴く。
「あぁーー、何だろうなー。 ノイズって分かっててもこの抱きしめたい欲求……抑えきれないーー!!」
「ぎゃう!」
今まで考え込んでいた複雑な感情が全て振り払われ、モフりたい……ただそれだけが頭の中を一気に埋め尽くした。
「あー、ごめんよリュート、ごめんよ……この感触には……抗えないんだよ」
天に飛び立っていったリュートに謝るも……リューツの腹にそのダラけた顔を埋めながら謝られても逆にリュートが困る。
◆ ◆ ◆
翌日——
「ぬはははーー。 可愛いなぁー、リューツは」
「がうーー」
アパートの律の自室……ナメクジノイズから子虎となったリューツを招き入れた律は、かなりだらしがない顔をして変なテンションでリューツと遊んでいた。
「「………………」」
そんな1人と1匹の戯れる光景を、お邪魔していた響と未来が居た堪れない気持ちで見ていた。
2人は昨日から様子がおかしかった律を心配して、朝早くにやって来たのだが……この光景を見て別の意味で心配になってきた。
「お労しいや、律さん……」
「痛々しくて見てられないよ……」
事情を知る2人には、リュートの死が受け入れられない律が、新しい猫(ノイズである)を拾ってその傷を埋めようとしている光景を見て心を痛めている。
実際は、ただ単に可愛いからデレているだけなのだが……
「……何だこれ」
と、そんな同じ部屋の空間でにこやかな空気と重々しい空気……2つの空気が真っ二つ別れている中で、律の部屋に奏が入ってきた。
「おい律。 報告の連絡が来ないから出向いてみれば……何やってんだよ、いやホント」
「あ。 よー、奏ー」
「いや、よーじゃなくて……」
「がう」
「うおっ?! 何だ、虎?」
足元に歩み寄って、軽く飛びかかるリューツを避けながら、奏は事情を聞くため座って傍観している響たちの元に歩み寄る。
「あ、奏さん」
「よお、響。 なあ、あれなんだ?」
「実は……」
未来は、自分と響が既に律が黒いシンフォギアの装者だと知っている伝え、さらにリュートについて説明した。
「あー、なるほど……そんな事が」
「はい……そんな事があったばかりに、心の傷を埋めるためどこからか拾ってきた虎の赤ちゃんにリュート二世……通称リューツなんて名前を付けて!」
「私と未来も寮で預かっていた頃はリュートの事を可愛がっていましたから……気持ちは痛いほど分かります。 けど……」
チラリと、2人はデレデレ顔で戯れる律とリューツを見て、
「「可愛いいぃーーッ❤︎」」
「お前ら病院行け。 頭のだぞ」
同時にキャーっと顔をニヘらせる2人に、奏はにべもなくそう告げる。
「それはそうと律。 もう昨日の報告は二課の情報で何とかまとめるからいいとして……明日の放課後、時間あるか?」
「ん? 明日は情報交換の日じゃないよな?」
「ちょっと別件だ。 いけるか?」
「まあ、一応は」
律はリューツが自分の元を離れたことで正気を取り戻し、何かあるのかと考えながら頷いた。
「きゃーー! 可愛いーー!」
「がう」
そんな中、辛抱堪らなかったのか、未来はリューツを抱きかかえるとそのテンションはうなぎ登りになる。
「私にも撫でさせて〜」
撫でたい欲求にかられ、響は抱きかかえられているリューツに手を伸ばすと、
「——ガブ」
「ガブ?」
リューツが差し出された響の手に噛み付いた。 さらに、
——カカカカカカッ!!
「カカカカカカ!!」
——カカカカカカカカカカッ!!!
「カカカカカカカカカカァ!!!」
何度も噛んでいくリューツに呼応して、響の口から似たような声が漏れる。
「ギャーーーーーーッ!!!」
「響ぃーーーーッ!!」
そして痛みが限界に達すると……乙女らしからぬ声で絶叫した。
◆ ◆ ◆
一悶着ありながらも律たちはそれぞれの学校に登校し、相も変わらない授業を受けていた。
まだ夢心地にいる律に、アルフと錦は危ない人を見るような目を向ける。
「……おい、何があった?」
「んーー?」
「こ、こんな律……見たことない……」
スマホを見ながらニヤついている律に軽く引きながら錦が遠慮がちに質問をし、律は間抜けそうな返事をする。
「この前のノイズ災害の時にな、リュートが死んじゃってよ……そんな時に、こいつが森の中にいたから拾ってきたんだよなぁ」
「おい、こいつサラッと重いこと言いやがったよ」
「リューツって言うんだけど、可愛いだろ〜?」
「リュートの死とこの子虎? の可愛さによる相乗効果でもう色々と壊れかけているわね、これ」
スマホの画面に映し出されている写真にはリューツが写っている。
「あはははー」
「くっ、見てられない……!」
「心の傷がかなりヤベェ事になってんな」
アルフと錦も先程リュートの事を知り、召された事についても話は聞いている。 その上で、今の律にはまともに目も当てられない。
こんな調子でも授業中は正気に戻って真面目に授業を受け、放課後になると……珍しく3人揃っての下校となった。
「今日はこの後、2人とも暇なんだよな?」
「ええ、特に予定はないわ」
「それなら久しぶりにどっかに行くか?」
「そうだなぁ……久しぶりに甘い物でも食べに行きたいかな」
ここ最近は主にノイズ等の事件が多くロクに休めなかった律。 たまの休みを取ろうと考えていると……進むごとにガヤガヤと辺りが騒がしくなってきていた。
「何だ?」
「騒がしいわね」
「正門からだな」
「ねぇ、あの人チョー美人じゃない!?」
「クールで、出来る女の人みたいな!」
「でも……どこかで見たことあるような?」
周りから微かに聞こえてくる話し声から、どうやら正門前に誰かがいるようだ。
「どうやら正門付近に目立つような人がいるみたいね」
「有名人でも来てんのか?」
(まさか……)
思い当たる節がある律は怪訝な表情を見せ、そのまま正門前へと向かう。
そこには黒塗りの車のフロントに寄りかかるように、黒スーツにサングラスを掛けた美女が缶コーヒーを飲んでいた。
「うお、何だあの美女は!?」
「それに車内にも誰かいるみたいだけど……」
「やっぱり」
「あ、おい律!」
女性の元に向かおうとする律は、アルフと錦に「ごめん、また今度な」と一言謝った。
視線と言う名の槍が全身に無数に刺さる中、その女性の前に出ると、
「何やってんだ、奏?」
「お。 よっ」
車の前で待ち構えていたのは変装中の奏だった。 奏は律を見つけると軽く手を上げて呼びかける。
変装と2年の月日の成長のお陰で天羽 奏だと気付かれてはいないようだが、そもそもこの状態で黙って佇んでいれば奏はかなりの美人……という事だけは隠しようもない。
「どうしたんだ、今日は集まる日じゃないよな?」
「いやぁ、それがよぉ……」
「——私がお願いしたの」
後部座席の窓が降りると……そこには風鳴 翼が座っていた。 突然の有名人の登場に、辺りは騒然となる。
「か、風鳴 翼!?」
「うそ、本物!?」
注目の的の状態からの登場……周りは一気に騒然となる。 流石にマズイと思った奏は運転席前に移動する。
「ほら乗れ。 さっさと行くぞ」
「了ー解」
奏が乗り込んですぐ律も助手席に乗り込み、針のむしろの中、車は発進した。
しばらく走行した後、律は自分に用件があるという翼に話しかける。
「それで、風鳴さんは俺に何の用なんですか?」
「貴方が黒のシンフォギアの装者だということ、そして裏で奏が手を貸していたことについて……問い詰めたい」
「………はい?」
「あ、あははー……済まねえ、言い逃れ出来なかった」
運転をしながらダラダラと冷や汗を流す奏。 そんな奏を見た後、ゆっくりと後部座席の翼に視線を向けると……翼は無言で頷いた。
◆ ◆ ◆
腕を組む翼の対面に座るように、律と奏が顔をうつむかせて正座していた。 不機嫌そうな翼と対象に、お通夜のような雰囲気である。
何故こうなったかと言うと……簡単に言えば、懺悔の時間である。
律の正体を知った翼は、その裏で奏が繋がっていることにも気が付き……実際に問い詰め、奏が律を巻き込んだようだ。
「……それで、君は何者で、何が目的で、どうして奏と手を組んでいたのか……説明してもらえるか?」
「え、ええっとぉ……」
チラリと、隣に座る奏に視線を向ける。 視線を受け取った奏は、仕方ないなとういうような顔をし、無言で頷いた。
「実は……」
それを話しても良いとと受け取った律は翼に説明した。 律のシンフォギアや特異な体質について、奏との協力関係、そして2人が行なっている二課にいる密告者の捜索と逮捕……
全てを無言で聞いていた翼は、ゆっくりと腕を組み直す。
「なるほど……大体の事情は理解した」
「……それで、翼はどうする気だ?」
「どうする、とは?」
奏の質問に答えながらお好み焼きを口にする翼。 その質問に対して律が答える。
「いや、この事を二課に報告して、俺をどうこうするのかなぁ……と」
「どうこうって何だよ」
「実際、俺ってどんな立場かよく分かんないだろ。 ノイズに触れられる上、シンフォギアの装者だからデータを取りたいとかで実験を受けさせられたり。 風鳴さんや響のように二課に所属できるかどうか……」
仮に二課に所属した場合の懸念を口にする。心配して当然の事に、翼は腕を組んで考え込む。
ちなみに、話し合いの場に選ばれたのはお好み焼き屋《ふらわー》。 以前、響から行きつけの店という事です奏が安易に選んだ店である。
律と奏、翼の間にある鉄板には先程からお好み焼きが焼かれており、そろそろ食べないと焦げる頃合いだ。
「——お話もいいけど、そろそろお好み焼きが焼きあがるわよ?」
「あ、すみません」
それを見兼ねたてたのかおばさんが割って入り、お好み焼きを取り分けてくれた。
「「「………………(モグモグ)」」」
無言が続く沈黙の中、お好み焼きを食べて咀嚼する音だけが鮮明に聞こえてくる。
その様子を……少し離れた別の席から、2組の集団が覗き込んでいた。
「マジで風鳴 翼じゃねえか。 しかも隣に座ってんのは天羽 奏!?」
「《ツヴァイウィング》と知り合いだなんて聞いてないわよ……」
一つは律の後をついてきた錦とアルフ。 律がトップアーティスト2人と知り合いだった事に驚いていた。
「つ、翼さんにもバレてたみたいだね……」
「ど、どうしよう……律さんと奏さん、すごく苦しそう」
「うわー、あんな空気アニメでしか見たことないよー」
「というより《ツヴァイウィング》と一緒にいる方は一体……?」
「な、なんか凄いところに出くわしちゃったよ……」
一つは今日、このタイミングでふらわーに来店した響と未来。 そしてリディアンで仲のいい、
この2組が重々しい空気でお好み焼きを食べている律たちを見ていた。
事情を知る響と未来はともかく、それ以外の者は3人の関係に訝しんでいた。
当然、律と奏はこの視線に気付いているが……どうやら翼は話し合いに集中しているのか、気付いてはいなかった。
「えー……とにかく、特に俺は野望とか計画とかそういうのは全く考えてませんし。 風鳴さんや奏、二課と事を構える気はありません。 それだけは分かっていただけますか?」
「……うん。 それはまあ、いいだろう」
「ホッ……」
「だが」
ホッとしたのもつかの間、続けざまに翼は問いただそうとする。
「これだけは聞かせてほしい。 ——君は何のために、
なぜ戦場に立とうとするのか、理由もなくなぜ戦おうとするのか……その質問に対し律は少し間を置いたて考えた後、口を開いた。
「人々を助けたい、誰かを守りたい……そんな在り来たりなもので戦おうとは思っていません」
「じゃあ、何のために戦ってんだ?」
「——自分のために」
「何……?」
自分のためという余りに勝手な理由に翼は眉をひそめるが、律は胸に手を当てて続ける。
「なんか俺の胸の中って……いつもなんかポッカリ穴が空いたような感覚があるんですよ。 何かが欠けているのか、それとも最初からないのか……それを満たそうとして音楽の勉強をしたり、ノイズと戦おうとしたり……でも、それが全く分からないんです」
「……………………」
「風鳴さんと響と比べたらどうしようもない理由でしょう。 でも、それが俺の……それが芡咲 律の戦う理由です。 斬るべき相手、斬るべき剣は——自分で決めます」
最後まで言い切り、少し長話をしたため律は冷たい水を飲んで喉を潤す。
それから翼は箸を置き、口元を拭いてから少しの間思案した後……ゆっくりと首肯した。
「戦士としては未熟もいいところだが、君が振るうその剣には確かな意志を感じる。 私も戦場に立つ君と、日常で子ども達を笑顔にする君を見た……根拠もない、感覚的だが……」
スッと、話の途中で翼は右手を律の前に差し出す。 話を聞いていた律は少しだけ気恥ずかしそうに頰をかくと、その手を握り返した。
「私は風鳴 翼だ。 改めて、よろしく頼む」
「芡咲 律です。 こちらこそ、翼さん」
「呼び捨てで構わない。 奏の事もそう呼んでいるのだろう?」
「それはまあ……じゃあ、翼」
「………………!」
照れながらも律は翼の名前を呼ぶと……いきなり翼はソッポを向いてしまった。 少し見えるその頰は赤くなっているのが見えてくる。
と、そこで奏が律の肩を叩く。 何となく意図を察し、律と奏は顔を見合わせ……頷いた。
「……それじゃあ、いいか?」
「ああ、俺はいいぞ」
「?? 2人とも、一体何を話しているの?」
「「え……」」
「え?」
何を言っている? という顔で2人は翼を見る。 本当に分かってなさそうな翼はコテン、と首を傾げる。
「まさか、気付いてなかった?」
「おいおい、有名人としてそりゃないぜ」
「だ、だから一体何のことを……」
何も気付いていない翼に、「ハァ……」っと、2人揃ってため息を吐く。
次いでスゥ、っと律は息を吸い込み、
「アルフ、錦、響、未来!! 後そこの3人も!」
『!!(ビクッ!!)』
集中して聞き耳立てて所を呼ばれたためか、全員が一瞬ビクッ、っと肩を震わせる。
それからソーっと、全員が律の方に顔を向ける。 律はニコッと笑いながら片手を上げ、手招きをして呼び寄せる。
みんなは少し申し訳なく思いながらも、律たちの前に来た。
「えっと……そのぉ……」
「これには訳があって……」
「ぐ、偶然ここに出くわしてだけで……」
「アルフと錦は完全に追いかけてきただろう」
「に、錦が行こうって言ったから、つい……」
「お前もノリノリで着いて来たろ……!」
しどろもどろになりながら弁明しようとするが、その前に律と奏がクックックと、少し小馬鹿にするように笑い出す。
「別に怒っちゃいねえよ。 こんな所で喋ってればそりゃあ目立つってもんだ」
「とはいえ、盗み聞きはあまりよろしくなかったけどな」
「ご、ごめんなさい……」
少しだけ声色を強めて叱る律に、全員がシュンとなって落ち込む。 一部始終を見ていた翼はクスクスと笑い、奏が「さて」と呟きながら腰を上げ席を立つ。
「奏さん?」
「アタシと翼はこの後ちょいと予定があってな。 ここいらで失礼させてもらうぜ」
「呼び出しておいて、本当にごめんなさいね。 また、話す機会があったらその時に……」
奏は財布から少し多めのお札をテーブルに置き、翼と一緒に店を後にした。 後に残された律と響たちは……初対面の人もいたのでとりあえず簡単に自己紹介をした。
「へぇー、ビッキーとヒナが言ってた先輩ってサキのことだったんだー」
「まあ、一応な……って、サキ?」
「うん!
自身有り気にそう命名する創世。 そんな彼女の代わりに詩織が律に頭を下げる。
「すみません……創世はアダ名を付けるのが好きで」
「いや、少し驚いたけど気にしてない。 呼びたいのなら好きに呼ぶといい」
「ありがとございまーす!」
「因みに、錦に付けるとしたらなんだ?」
「おい、巻き込むな」
「んー………………シキ?」
「なんで疑問形?」
「ピンとこないから」
ともかく、全員の自己紹介が済み。 律たちはおばさんの好意で店の奥にある座敷に座り、鉄板を囲みながら早速お好み焼きを焼き始める。
因みに、今朝リューツに噛まれた響の手の怪我は聖遺物融合症例の影響か、既に完治している。
「さあ、食おうぜ。 今日は響の奢りだ」
「え……えええっ!?」
『ゴチになりまーす!』
「えええええええっ!?」
突然の律の奢り発言に、驚きのあまり響は絶叫する。 他のみんなはそのノリに乗り、手を合わせて響に合掌をする。
「稼いでいるんだろう、二課で?」
「だからって酷いですよー!!」
「冗談だ。 だろ?」
「そうそう! 冗談冗談ー♪」
「そう本気にならないで」
「うぅ……みんながイジメる……」
その後は多少ふざけながら楽しく、律たちはお好み焼きを焼いて食べながらワイワイと談笑するのだった。