戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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13話 雨の日の密会

とある雨の日……放課後、律はリューツを外に連れ出していた。

 

ノイズの災害に見舞われた地区にあるマンション……ここはおろか付近の住宅にも人は住んでいない。

 

「美味しいか、リューツ?」

 

「(プルプル)」

 

律は人通りが少ない場所と天気の日に、学校の終わりにリューツを連れてここに赴き、ギアを通して元の姿に戻っているリューツにノイズの力を与えていた。

 

お腹を空かせて律を探しに来ていたようだが、どうやらリューツは生命維持にノイズの力が絶対に必要という訳は無かった。

 

だが生きる上では力は必要……元は弱攻撃でも死んでしまう無双ゲームの雑魚キャラのような存在。 律はシンフォギアに蓄積していたノイズの力を分け与えることで(レベル)上げをしていた。

 

「……これくらいかな。 これ以上は次の戦いにきたすし」

 

保有しているノイズの7割を渡したところで止め、見た目は変わらないリューツの背を撫でる。 少し実験観察の意味合いが強いが、それでも必要なことだ。

 

「これでだいぶ強くなったかな。 まあ、必要最低限の自衛のためだけどな」

 

「(プルプル)」

 

「ん? 何だリューツ?」

 

「(プルプル)」

 

「上に、誰かいる?」

 

何か言いたそうなリューツは身体の振動で律と会話をし、言いたいことをの理解していた律は頭を上げ上を見上げる。

 

「まだこの付近の避難警告は解除されていない筈なんだけどなぁ」

 

そんな状況でここに人間がいる事を不思議に思いながら、リューツの道案内でマンションの階段を上る。

 

数階程上がり、しばらく歩いた後リューツはマンションの一室の前に止まった。

 

「ここか?」

 

「(プルプル)」

 

扉を指差して確認をすると、リューツは震えながら肯定した。

 

「お邪魔しまーす」

 

取手に手をかけると鍵はかかっておらず、扉を開けて中に入り。 リューツが先に進む中そのまま居間に向かうと、

 

「お」

 

「なっ、ノイズ!?」

 

「何っ!」

 

そこには無防備に座る風鳴 弦十郎と、警戒しながらパンを食べている雪音 クリスがいた。

 

すると、目を鋭くさせた弦十郎は目にも留まらぬ速さで拳をリューツに向けてきた。

 

(しまった! 条件反射で……!)

 

座った状態から放たれる右フック……だが、相手が思いがけないノイズという事を失念しするも、放ってしまった拳は止まらない。

 

(さらば、俺の右腕……!)

 

この手がノイズに接触した瞬間、手の自切も覚悟し……弦十郎はそのままの勢いで拳を振り抜こうとした。

 

「——ぬああああああっ!!」

 

「むうっ!?」

 

瞬間、律は野太いような叫びをしながらリューツを持ち上げ……弦十郎の右フックはリューツを空振りし。 律の腹部スレスレを通り、空振りとなった。

 

弦十郎とクリスが目の前を見る。 そこには目を見開かせて驚いている律がおり、リューツを両手で頭上に持ち上げていた。

 

「あ…………ああ……あっっっぶねぇええぇ!! 今のストレートだったら内臓破裂確実だったわぁ」

 

人並み外れ過ぎている弦十郎の拳に、かなり遅れて身体が震えだし死への恐怖が律に襲いかかる。 ……が、その割にはケッロした顔をしている。

 

「ノイズに、触れている……だとぉ?」

 

拳を引いた弦十郎がまず注目をしたのは律が抱えているノイズ……まるで炭化が起ころうともしてない律に、鋭い眼光を放つ。

 

「や、クリス。 久しぶりー」

 

「り……律……」

 

軽いノリで挨拶をする律。 それに対してクリスは複雑な心境で、身体ごと顔を背けてしまう。

 

次に律は、一緒にいた弦十郎の方を向く。 以前、シンフォギア正体を隠して対面した事はあるが、こうして素顔で対面するのはこれが初めてになる。

 

「あなたは……」

 

「まあまあ。 今、俺の事はいいだろう。 それよりも……」

 

ガサガサと、そばに置いていたビニール袋に野太い手を入れ、何かを取り出すと、

 

「一杯、どうかね?」

 

「……は?」

 

律の前に差し出されたのは未開封の牛乳パック。 いきなりの事で呆けた声を漏らすが、律は恐る恐る牛乳パックを受け取る。

 

「……………………」

 

よく分からないがとにかく一杯、封を開けてゴクリと牛乳を一飲みすると……横から掻っ攫うようにクリスの手が伸び、律の手から牛乳を奪い取ってしまった。

 

「え、クリス!?」

 

「うっせえ!」

 

一喝してから、クリスは牛乳に口を付けようとした時、飲み口を凝視し少し躊躇した後……一気に牛乳を飲み干した。 息を止めるほどだったのか、少し息を荒げており顔はもう真っ赤だった。

 

チラリと、律は弦十郎を睨みつける。 その視線に気付いた弦十郎は笑みをこぼしながら軽く謝る。 悪気は無かったようだが、どうやらクリスに飲ませるために律に毒味をさせたようだ。

 

律は“騙したな”という顔をして少し弦十郎を睨み、リューツを真後ろに起きいて彼の正面に向き直る。

 

「初めまして……でいいでしょう。 アイオニア音楽専門学校2年、芡咲 律です」

 

「特異災害対策機動部二課・総司令官の風鳴 弦十郎だ。 よろしく」

 

今までの事を出さず、何事もなかったかのように2人は握手を交わす。

 

「奏からは何も聞いていないが、奏の行動から君と組んでいたことは予想できた。 君が黒いシンフォギアの装者だな」

 

「まあ、一応は。 報告書とかレポートとかは奏に出してあるので、事情を説明して後で見せてもらうといいですよ」

 

「そうさせてもらう」

 

初の対面は落ち着いたもので、お互いに友好的のようだ。 だが、本当の話し合いはここからである。

 

「君の活躍は見ていた。 何度も窮地に駆けつけてくれて、本当に感謝している」

 

「いえ、褒められることではありません。 ほとんどが気まぐれですし、最近のは奏の要請で出ているだけです」

 

「——ああ。 だが、こうして正体を知った以上、君を野放しにしてはおけない」

 

「…………!」

 

その発言に、律は自然に身構えてしまう。 弦十郎がどんなに優しい人間であっても、彼は国を守る組織の総司令……奏の言う通り、確保できる戦力を野放ししてはおけないのだろう。

 

「……俺を、どうするおつもりですか?」

 

「二課と……俺と協力してもらえないだろうか? 内容は基本、奏が提示したもので構わない」

 

条件は基本、奏と提示したものとほぼ同じ。 情報源が増え、かつ奏が二課内でも動き易くなる……特に断る理由はない。 だが、

 

「……分かりました。 しかしあなたを信用する上で、条件があります」

 

「なんだね?」

 

律は後ろにいたリューツを掴んで弦十郎の前に差し出すと、

 

「リューツに……このノイズに触れてください」

 

「なっ!?」

 

「………………」

 

そう告げた。 普通に考えれば弦十郎を殺そうとしているようにしか見えないが……律の表情は真剣そのものだ。

 

「この子は俺がノイズに潜り込んで徘徊していたのと違って本当の変異体ノイズです。 森で怯えていた所を保護し、俺のシンフォギアの力で炭化能力を消しています」

 

「だ、だからってなぁ……」

 

「いいんだ、クリス君」

 

律の言葉を、律自身を本当に信用するなら触ることが出来るはず。律は何一つ嘘はついていないのだから。

 

クリスは無茶苦茶な律の提案を止めようとするが、逆に弦十郎が止め、臆せず一歩前に踏み出す。

 

「俺はこの子の炭化能力を消していると断言できます。 その上で触れてもらいます。 俺を信用しているのか、否か……」

 

目を瞑り、少しの間考え込んだ後……目を開け、頷く。

 

「……分かった、触れよう」

 

「お、おい!」

 

「大人が子どもの事を信じなければ、子どもは誰も信じられなくなってしまう。 俺は彼を……律君を信じる。 それが……」

 

大きく息を吸い込み、リューツの前に立つと右手を振り上げ、

 

「男同士の会話ってやつだ!」

 

「いや勝手にそんな事言われてもぉ!?」

 

迷いのない動きでリューツに手を振り下ろした。 弦十郎の右手はリューツに触れ……ボヨンっと、跳ねた。

 

「お、おおー……結構、面白い感触をしてるんだな」

 

「結構癖になるでしょう?」

 

手が炭化しない事を確認してから、弦十郎はリューツをポヨポヨと撫で回した。

 

その一部始終を見ていたクリスは、ウズウズしながら律に擦り寄る。

 

「お、おい……アタシにも触らせろよ」

 

「ん? ヤダ」

 

「はぁ!?」

 

にべもなく断られたクリスは当然のようにキレるが、律はどこ吹く風のように流す。

 

「クリスには……」

 

リューツに指をかざしてから振るうと……その身体を変化させていく。 突然の変形に2人は何事かと思い警戒する中……徐々に小さくなり、子虎となったリューツを抱きかかえてクリスの前に突き出した。

 

「こっちをオススメします!」

 

「がう」

 

「か、かわっ!」

 

「これは……」

 

差し出された子虎のリューツ。 クリスはワナワナと震えながら徐々にその手でリューツを掴もうとすると……「ゴホン」と、弦十郎の咳払いにより我に帰り、バッと距離を取りあからさまにソッポを向く。

 

「これはリューツの動物形態です。 この姿なら珍しい目で見られても、誰も怖がらないでしょう」

 

「なるほど、ますます興味深いな」

 

弦十郎は顎に手を当て興味深そうにリューツを観察した後、視線をクリスに向ける。

 

「それで、クリス君。 君は……」

 

「! アタシは信用しねえぞ、大人なんか!!」

 

「なら、俺は信用してくれるんだろう?」

 

「!? う、うう、うるせぇ!!」

 

すると、クリスはイライラとしながら窓に歩み寄って開け放った。

 

「まだアタシは誰の下にもつかねえし、誰も信用はしねえ! アタシはアタシで勝手にやらせてもらう!」

 

それだけを言い残すとクリスは手摺に足をかけて乗り上げ、止める間もなくそのまま飛び降りた。

 

「Killiter Ichaival tron」

 

重力に引かれて落下する前に聖詠を歌いシンフォギアを展開し、無事着地すると同時に飛び上がり屋根伝いでクリスは去って行った。

 

「あーあ、行っちゃった」

 

「がうぅ……」

 

「仕方ないさ……」

 

まだクリスは自分自身に折り合いがつかないのだろう。 考える時間はまだまだかかりそうだ。

 

「それじゃあ俺もこれで。 本格的に貴方達に協力するのは奏とこの件を片付けた後……それで構いませんね?」

 

「ああ、それで構わない。 今後とも、よろしく頼む、律君」

 

協力関係を結んだとはいえ、やる事は奏から来る要請を受けて行動する……やり易くなっただけであまり変わってはいない。

 

律はリューツを肩に乗せると弦十郎と別れ、傘をさしてマンションを後にした。

 

今日の夕飯は何にしようかなぁ、とリューツを肩に乗せて考えながら歩いていると……スマホに着信が届いた。

 

「響? ——はい、もしもし」

 

『あ、律さん? 明日って暇ですか?』

 

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