戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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14話 守るべき世界

 

翌日——

 

陽が昇ってから少し、律は都市部の中にある公園の中を歩いていた。

 

「……少し早かったかな」

 

歩きながらスマホの時刻を見て、集合時間までまだ少しあった。

 

先日、響からお出かけのお誘いが来た。 何でも気分転換のため翼とのデートをするとかで、未来を含め4人で出かける事になった。

 

律の服装は灰色のTシャツに黒のジャケット、黒っぽいジーンズと、シンフォギアと似て黒一色のコーディネートである。

 

女子3人と出かけると言うのに、律はいつもと変わらぬ感性で服を選びこうして赴いていた。

 

「えっと……ここだよな?」

 

地図と時間を確認しながら響たちとの待ち合わせ場所である和風の橋の前に到着する律。 辺りを見回しても彼女たちの姿は見えず、やはり早く到着し過ぎたと軽く嘆息する。

 

少しどこかで時間を潰そうと、律はその場から離れようとした時、

 

「えっと……ここよね?」

 

ちょうど川を挟んだ対岸に、私服姿の翼がスマホ片手に立っていた。 変装のつもりなのか、頭に白いキャスケットを被っているが……それで変装しているつもりなら、かなりおざなりである。

 

「「あ」」

 

目と目が合った。 律と翼……同時にお互いの存在に気付くと、少し間抜けな声を漏らしてしまう。 そのまま、お互いに見つめ合ったまま石のように動かなくなり……先に硬直から解けた律が翼の元に歩み寄る。

 

「お、おはよう翼。 まだ時間前なのに、早いね」

 

「そ、それはお互い様だ。 こんなに早くにいるとは思っていなかった」

 

「時間前集合は当然ですからね」

 

そこで、会話が止まってしまう。 お互いに緊張してしまい、2人は微妙に距離を取りながら立ち尽くし沈黙が続く。

 

「……律、前に聞いたな。 何故、戦場に立つのかと」

 

その沈黙を唐突に破ったのは翼。 彼女は以前に問いただした質問をもう一度聞いてくる。

 

「ええ。 俺は自分のために……芡咲 律であるがために剣を取り、戦うと」

 

「そう言っておいてあれだが、私には……君のような心構えは持ち合わせていない。 私の剣は……国に捧げた。 己のために振るう刃はない……防人(さきもり)として、一振りの剣として生きてきた」

 

話しながら翼は少し横に移動して橋の上に乗り、手摺に手をかける。 その後に律も続き耳を傾ける。

 

「故に自分のために剣を振るえない……だが、君と出会って考えてしまった。 意志なき剣には誰も感謝などしてはくれない。 血に濡れ乾き切った刀身のように……容易く心も崩れていく。 今の私は——まさしく鞘を失った抜き身の刃のよう。 護るべき者すら斬り裂いてしまう……」

 

川を覗き込むように、寄りかかった手摺の上に額を当てる。 まるで行先がわからなくなった迷子のように……そんな翼を励ますように、律は彼女の隣に立つ。

 

「なら、俺がなりますよ。 翼の鞘に。 間違いを犯そうとするあなたを止め、導くために」

 

「……え…………、ッッッッ??!!」

 

少しでも翼の支えになるつもりで、律は本心からそう言った。

 

それに対して突然の、思わぬ事だったのか、翼はバッと顔を上げ律の顔を見つめ……みるみると顔を真っ赤にしていく。

 

「た、たたたた、確かに! あなたが共に戦ってくれるのは嬉しいわ! ええ! 剣には鞘が必要不可欠。 男と女、凹と凸が一つに合わされば完璧な布陣になれるでしょう!」

 

「慌てながら何口走ってんの!?」

 

「そ、そうね! 私が鞘になるべきね!」

 

「だから何口走ってんのぉおおおおっ!!」

 

だが思わぬ方向に解釈されてしまい、2人——特に翼——は顔を真っ赤にし、しどろもどろになりながらも落ち着こうとする。

 

数分経って、お互いに息を切らせながらようやく落ち着き。 律は先程言った言葉の解釈を改めて説明した。

 

「と、とにかく……翼の力になりたい……そう言った意味で、言ったんです……」

 

「す、済まない……勝手に勘違いして……」

 

「いえ。 むしろ安心しました。 翼にも女の子らしいとこがあって」

 

「わ、私だって1人の女だ! それは、あまりそれっぽい事はした事は無いが……」

 

しばらくして落ち着いた頃、翼は手首につけていた腕時計を見る。 もう集合時間を30分過ぎようとしている。

 

「……あの子達、遅いわね……」

 

「こりゃ、いつものアレですね」

 

「アレ?」

 

「響の寝坊」

 

数分後……約30分程遅れて、ようやく響と未来が息を切らせながら走ってきた。

 

「す、すみません、律さん、翼さん!」

 

「遅いわよ!」

 

「申し訳ありません……! 御察しの事とは思いますが、響のいつもの寝坊が原因でして……」

 

「だろうと思ったよ」

 

軽く呆れながら律は「ほら」と買ってきた水を2人に差し出す。

 

「時間が勿体無いわ。 行きましょう、律」

 

「あ、ちょっと翼!」

 

「「……………………」」

 

さっさと行こうとする翼を律は追いかけ、その背を見ている響と未来は水を飲みながら怪しむ目でジーッと見ていた。

 

(なんか、2人の距離近くなってない?)

 

(いつの間にか名前で呼び合ってるし……)

 

(うーーっ、私もまだ立花で呼ばれているのにぃー!)

 

心の機微に鋭い女子。 律と翼が仲良くなった事を嬉しく思いながらも、どこか羨むように嫉妬してしまう。

 

「何をしている!」

 

「置いてくぞー」

 

「あ、はーい!」

 

「今行きまーす」

 

待ちきれなそうにウズウズする翼の大声で2人は慌てて駆け出し、ようやく今日のお出かけが開始された。

 

やる事と言えば雑貨を見たり、映画を見たり、アイスを食べ歩きしたり、服を見たり。 時折、ファンの人が翼に勘付いて探し回り、隠れたりもしたが……何とか機転を利かし、4人は休日のショッピングを楽しんだ。

 

そして次に、律たちはゲームセンターで遊んでいた。

 

「翼さんご所望のぬいぐるみは! 不肖、この立花 響が必ずや手に入れてみせます!」

 

「期待はしているが、たかが遊戯に少しつぎ込み過ぎではないか?」

 

「店にはいい顧客だな」

 

意気揚々に響はクレーンゲームにスマホの電子精算をしてから、クレーン移動の横ボタンを拳で思っきり押し込んだ。

 

どうやら翼はクレーンゲームにある青い鳥のぬいぐるみが気に入ったようで、響がそれを取ろうとしている。 因みに、既に10回目の挑戦である。

 

「キィェエエーーーッ!!」

 

「変な声出さないで!」

 

気合いのためか奇声を発する響。 しかし、その気合いとは裏腹に、掴みかけたぬいぐるみは落ちていく。

 

「ウガーーーッ!! このUMAキャプチャー壊れてる!」

 

「壊れてるのはお前の頭だ」

 

「ヒドイ!?」

 

ギャーギャーと喚く響をよそに……律がガラスに手を突っ込み、ガラスをすり抜けながらお目当てのぬいぐるみを掴んでいた。

 

「な、何してるんですか、律さん……?」

 

「ノイズの透過能力。 最近、素でも使えるようになった」

 

「だからって辞めなさい。 誰かに見られたらどうするの?」

 

「はーい。 暴走しかけた響を落ち着かせるためにやっただけですし。 それにちゃんと取りますよ」

 

パッと手を離して腕を引き、今度は律が挑戦するようで……100円を入れてクレーンを動かす。

 

「さっきから気になってたんだけど……あなたって現金を持ち歩いているのね」

 

「ん? あぁ、今時ゲンナマは珍しいですよね。 確かにスマホ一つで気軽に買物が出来るのは便利ですけど……俺にはこっちの方が性に合ってるんです」

 

「律さんの家にあるのも基本アナログっぽくて、なんかおじさんって感じなんですよねー」

 

「ひ、響……」

 

言いたい放題だが、そうこうしている内に律はうまくクレーンを操作し。 上手くタグに引っ掛けてお目当の鳥のぬいぐるみをゲットした。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとう……」

 

「「………………(ジーッ)」」

 

照れながらぬいぐるみを受け取る翼。 その光景を響と未来は怪しい目で見つめる。 その2人の視線に気付いた律だが、別の意味で解釈する。

 

「もう一回挑戦するか、響? どうせ無理そうだけど」

 

「(ムカッ!)ならとくと刮目してください! 胸に秘めたるこの激情を爆発させれば——シンフォギアで1発です!」

 

「やめなさい!」

 

「うおおおおぉ!! この勢いがあれば、アームドギアだって余裕で出せそうです!!」

 

「無理だろ、絶対」

 

「今の私に不可能はなーーいっ!!」

 

「現在進行形で不可能だぞ」

 

「律さんの裏切り者ーー! ナンドゥルルラギッタンディスカー!」

 

「いやどちらかと言えばそれ俺のセリフ!」

 

「もう、大声で喚かないで! そんなに大声を出したいのなら——」

 

と、言うわけで。 やってまいりました、カラオケ。 確かにここなら大声を出しても誰の迷惑にもならないだろう。 ……本当にシンフォギアを出さない限りは。

 

「おおおおっ!! 凄い! 私たちってば凄ーい! トップアーティストと一緒にカラオケに来るなんてー!」

 

「まあ、普通ならあり得ないかもな」

 

「ですね」

 

すると、唐突に部屋の明かりが消えて部屋の天井に設置されているミラーボールが回転を始める。その直後、設置されているスピーカーから渋い響きな和風テイストの音が流れ始める。

 

「「「ん?」」」

 

誰が始めたのだろうと響と未来、そして律は顔を見合わせて互いを指差すが……違った。

 

部屋にあったテレビには、今流れている曲の題名が表示される。そこには、“恋の桶狭間”という題名と作詞者と作曲者の名前が載っている。

 

この曲を入れたであろう人物に視線を向ける。その視線の先にいる人物こと翼は、1度微笑んでから机に置かれていたマイクを手に取って立ち上がり、少し広いスペースに移動してから3人に向かって深々と一礼する。

 

『1度こういうの、やってみたいのよね』

 

マイク越しにそう言い、歌い始めた。 かなり感情移入しており、とても様になっている。

 

「……渋い」

 

「性格まんまだな」

 

出だしは緩やかだったが、その後は大いに盛り上がり律たちは何時間も熱唱した。

 

そして、カラオケを出る頃には空は赤み出し、夕方になる頃……律たちは近くにあった丘を登っていた。

 

「3人とも、なんでそんなに元気なんだ……?」

 

「翼さんがヘバり過ぎなんですよぉ」

 

「今日は慣れない事ばかりだから」

 

「ほら、大丈夫か?」

 

「あ……うん」

 

軽く息を上げる翼に、律は手を差し伸べる。 やはり慣れないためか、いつも以上に疲労したのだろう。 律の手を借り、翼はようやく階段を登り切る。

 

「防人であるこの身は、常に戦場にあったから……」

 

息を整えながらそう言い、翼は風に揺らされる髪に手を添えながら夕焼けを眺める。

 

「本当に、今日は知らない世界ばかりを見てきた気分ね」

 

「……翼、これが世界だ。 戦場なんてちっぽけな枠の中じゃない、どこまでも広がっている。 知らない世界を守るなんて、そんなのはとても虚しい。 でも今日、守るべき世界を知ることができた」

 

翼が今日感じた気持ちに応えるように、律は手摺に寄りかかり夕日を背にする。

 

「俺たちはこの景色を……今日の出来事を当たり前のようにするために戦っている。 そうだろう?」

 

「……うん。 その通りだ」

 

翼も、響と未来も律の隣に歩み寄る。

 

「守るべき物がある……それだけで、心の支えとなり、強くなれる気がしてくる。 防人と言いながら、今まで私は何も背負っていなかったのだな……」

 

「何もないわけじゃないと思うけど、軽かったのは否めないかな」

 

「ふふ、そうね。 ……これが、奏が見ていた世界なのね……」

 

「私にとっては、いつもの光景ですけど」

 

「そのいつもが当然と思えるここを、守りたいんですよね?」

 

翼は姿勢を戻し、前に数歩だけ歩き、

 

「奏が戦えなくなってから、私は1人でも戦い抜くと誓った。 そのせいで意固地になってしまい、誰の言葉にも耳を貸そうとはしなかった……」

 

ヒラリと踵を返し、律たちと向かい合う。

 

「だが今は、背中を預けられる友がいる。 私はもう、1人ではない。 共に、これからも戦ってはもらえないだろうか?」

 

「当然!」

 

「ええ、モチのロンです!」

 

「私も、微力ながらお手伝いしますよ!」

 

言うや否や響は駆け出し、律たちを急かすように手招きをして呼ぶ。

 

「さあ、最後はバイキングでいっぱい食べて、英気を養いましょう!」

 

「それ響がただ食べただけでしょう」

 

多少呆れながらも、響の後に続こうとする。

 

「あっ……そうだ、翼。 はいこれ」

 

ふと思い出した律は荷物を漁り、何かを取り出し翼に差し出したのは……長方形のケースだった。

 

「これは……」

 

「開けてみてください!」

 

ケースを受け取った翼はゆっくりとケースを開けると、そこには水色の縁取りの眼鏡が入っていた。

 

「眼鏡?」

 

「度が入っていない伊達眼鏡です。 今日何度かファンに気付かれた事もあって、3人で選んだのです」

 

「これを掛ければ印象が変わって、変装になると思います」

 

「……ありがとう。 とても嬉しいわ」

 

早速、翼は眼鏡をかけ「どう?」と顔を振りながら律たちに感想を求める。

 

眼鏡をかけた翼はいつものクールな雰囲気に磨きがかかっており、理知的な雰囲気すら感じられる。

 

「翼さん、よく似合ってますよ!」

 

「これなら、早々に気付かれないだろうな。 ……多分」

 

「ふふっ、でも本当にお似合いですよ」

 

「あ、ありがとう……大切に使わせてもらう」

 

褒め慣れていない翼は顔を薄っすらと朱に染めながらお礼を言うのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

10日後——

 

アーティストフェス当日を迎え、ここで風鳴 翼の復帰ステージが行われようとしていた。 そしてその会場は……2年前で事件が起きた会場。 律や響にとっても因縁深い場所である。

 

「ンーー、フフフ〜〜ン。 んーーー?」

 

そして律は、会場内にある音響スタジオにいた。 急なステージという事もあり人手が足りなく。 急遽、律が音響機器の調整の仕事が舞い込んできた。

 

どうやら律の活躍は音楽界でも幅広いようで、信用されこうして調整を任されている。

 

「《FLIGHT FEATHERS》か……いい歌だな」

 

ヘッドフォンから流れてくる曲を聞き、ここに翼の声が入った場合の曲を予想しながら手を進めていく律。

 

そうこうしている内に妹が来る時間となり。 律は静香と合流するため、一度会場前に出た。

 

(もう、2年か……)

 

入り口を出て、目の前の景色を見ながらそう心の中でごちる。

 

2年前、自分はよく分からないライブを見にあの列に並んでいた……そう思うと時の流れを身をもって感じる。

 

と、そこへ勢いよく律に向かってくる小さな影が、

 

「お兄ちゃーーーん!!」

 

「おー、静——グフォウッ!!」

 

小さな影……律の妹である芡咲 静香は走った勢いのまま律の腹部に激突し、律は肺にあった空気を全て吐きながらそのまま静香に押し倒されてしまう。

 

「ライブだよライブ!! 早く行こうよーー!」

 

「……なんでお前はいつもタックル喰らせてくるんだよ……」

 

お腹の上に跨る静香を退かし、ヨロヨロと立ち上がりながら律は質問する。 だが静香はサッサと会場に入ろうとする。

 

「ほら早く早くーー!」

 

「そんなに慌てなくても会場は逃げないぞ」

 

急かす静香き手を引かれながら、前へと進む。 律たちのチケットは通常とは別の入り口を通る必要があり。 長蛇の列を並ぶファンたちの横をスルスルと抜け、ゲート前に立っていた黒スーツにサングラスの警備員にチケットを見せ通してもらい、2人は会場の上層にあるボックス席に到着した。

 

「うわぁ……! 凄っい眺めーー!」

 

「さすがロイヤルボックス。 ちょっと気を遣わせたかもな」

 

とはいえ、特等席からの観戦は微妙に距離が離れている感じがあるため。 ステージ下からの直近の観戦には劣るだろう。

 

と、そこで扉がノックされ、律が「はーい」と返事をすると、翼が入ってきた。 静香は突然現れたトップアーティストに、目を見開いて言葉を失う。

 

「あれ、翼?」

 

「お邪魔するわね。 今日は来てくれて本当にありがとう」

 

「いいよ。 妹も来たがってたし。 それよりこんなとこに居ていいのか? 準備の方は?」

 

「リハーサルも既に済んでいる。 だが、何より驚いたのは律が音響機器のチューニングに関わっていたことだ。 いつの間に話をつけたのだ?」

 

「このライブは無理矢理に入れたものだろう? 急な話だったんで音響担当が別件でいなくて。 急遽、俺に仕事が回ってきたんだ」

 

「色んな音楽機器の整備に携わっていると聞いていたが……なら、今日の音楽は完璧と言っていいだろう。 なにせ律が整備したのだから」

 

「完璧じゃないよ……そこに翼の歌が無ければね」

 

「ふふ、そうだな」

 

そこで、翼は少し放心気味の静香の元に歩み寄り、腰を落として目線を合わせる。

 

「初めまして。 君の兄君、律からは話は聞いている」

 

「うわぁ……! 風鳴 翼さんだぁ!!」

 

ようやく正気に戻った静香は嬉しそうに声を上げ、その場で飛び跳ねたりクルクルと回ったりして喜びを表現する。

 

「今日は私のライブに来てくれて、本当にありがとう。 最後まで私の歌、聞いてはもらえないだろうか?」

 

「うん!」

 

(翼……)

 

そこで律が翼の背後から……色紙とペンをさり気なく渡した。 どうやら妹に書いて欲しいとの事で、喜んで受け取った翼は自身のサインと、静香のフルネームを描いて静香にプレゼントした。

 

「わぁ……! ありがとー!!」

 

大切な宝物のように静香はサイン色紙を抱きしめ、そんな静香の頭を翼は優しく撫でる。

 

「律、今日のライブを最後まで見ていてくれ。 私は最後に、答えを出したい」

 

「ああ、頑張ってこい」

 

2人から送られる応援に応えるように翼はニコッと微笑み、ステージに立つためボックス席を後にした。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!! 一体いつ翼さんと知り合ったの!?」

 

「調律の仕事で何度か鉢合わせになったことがあってな。 その時の縁で」

 

当然、静香から翼との関係を追求されるが、慣れたもので律は差し支えない説明で納得させた。

 

後は、ライブが始まるまで待つだけ。 そう思っていると、

 

——ピリリリリッ!

 

「!」

 

スマホに着信が入る。 律は静香に一言「ごめん」と言いながらボックス席を後にし、通話に出る。

 

『ライブ前に悪いがノイズだ。 行ってもらえるか?』

 

「タイミング悪いな……と言いたいが、行くしかないだろう。 このことを翼には?」

 

『まだ連絡してない。 ライブを中止にするわけにも行かないが、本当なら翼にも出撃してもらいたい……』

 

「いや、翼には気兼ねなくライブに集中してもらいたい。 出動はするご、このまま静香を1人残しておくわけにも行かない」

 

『それなら問題ない。 何故なら——』

 

「…………奏?」

 

そこで、いきなり奏からの応答が無くなった。 通話は切れてない事を確認していると、

 

「アタシが相手をするからな」

 

背後からスマホを構えた奏が現れた。 ライブで人が集まっているためか、一応サングラス等の変装はしている。

 

「奏!? どうしてここに?」

 

「一応、アタシは翼のマネージャーの補佐もしてるんでな。 ここにいて当然だろ? 妹はアタシが見ておいてやる。 行ってこい!」

 

「ああっ!」

 

しのごの言ってもいられず、後は奏に任せて律は走り出す。 と、そこで目の前にあるボックス席の扉が開き、

 

「?? お兄ちゃん——」

 

静香が出てきた。 静香は走り去る律の背を見つめ追いかけようとすると、奏が静香の頭を撫でるようにして止めた。

 

「ごめんな、お前の兄ちゃんは大事な用が出来たんだ」

 

「お姉ちゃんは?」

 

「お前さんの兄ちゃんの、友達さ」

 

どこか納得して無さそうな感じはするが、とにかく奏は静香の背を押す。

 

「ほら、兄ちゃんの代わりに、姉ちゃんと一緒に翼のライブを見ようぜ」

 

「ん〜〜? ……うん!」

 

元気よく頷き、2人は仲良くボックス席に入って行った。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」

 

そして、律は会場の裏手から外に出て走りながら聖詠を歌い、シンフォギアを纏うと同時に飛翔。 現場へと飛んでいく。

 

その途中、地上では先に連絡を受けた響がシンフォギアを纏って走っているのが見えた。 律は高度を下げ、自分の姿を響に認識されるとその手を差し出す。

 

「響!」

 

「はい!」

 

跳び上がった響の手を取り、律は響を掴んだまま空を飛び、ノイズ発生現場に向かって飛翔する。

 

すると、進行方向にあるノイズ襲撃現場から爆煙が上がる。

 

「あそこだな……行くぞ、響!」

 

「はい!」

 

「「ここからは俺(私)たちの戦場(ライブ)だ(です)!!」」

 

被害を最小限にし、かつ迅速に事態を収束させるため、律と響は大きく意気込む。

 

そしてすぐに現場に到着すると……そこには無数のノイズと、城塞のような巨大なノイズがひしめき合っていた。

 

加えて既にクリスも交戦に入っており、弾丸やミサイルを発射して殲滅しているが、ノイズの数が余りにも多く苦戦していた。

 

「クリスちゃん!」

 

「危ない!」

 

数に押されたクリスが体勢を崩し。 その瞬間、地上のノイズがその身を捨て突撃と、要塞型ノイズによる砲撃が無防備にクリスに向かって行く。

 

律は咄嗟に……手に掴んでいた響を振りかぶり、全力でクリス向かって投擲した。

 

「って、えええぇ!!?」

 

直撃する瞬間……飛んできた響の蹴りがノイズを撃ち落とし、砲弾は先回りした律が斬り落とした。

 

「お、お前……」

 

「ちょっと律さん!! いきなり酷いじゃないですかー!」

 

「クリスが無事だったんだからいいだろう」

 

「ならよし」

 

「いいのかよ!?」

 

自分の事やりクリスの身の無事を優先した事に、クリス本人が驚いた。

 

そして律は響の真後ろに降り立ち、2人は背中合わせにかかりながら、響は左手で右腕部のユニットをバンカーを引きしぼり。 律は腰に佩刀している長剣の柄に手をかける。

 

「せいっ!」

 

瞬間、抜刀と同時に一転、周囲のノイズを斬りはらい、

 

「でやっ!」

 

次いで、胸の傷から光が輝きながら響は拳を握りしめ、目にも留まらぬ速さで奥にいたノイズの軍団に飛び込み、一掃した。

 

「大丈夫か、クリス?」

 

「……何しに来やがった」

 

「人を助けるのに、理由が必要?」

 

ニコリと笑いながら手を差し出す律。 クリスは「ケッ」と悪態吐きながらもその手を取り立ち上がった。

 

すると……いきなりクリスは両手のガトリングを律に突きつけた。

 

「ちょっ!?」

 

「退け!」

 

言われるがままにその場を退くと同時に発砲し、響を狙っていた砲弾を撃ち落とした。

 

さらにミサイルを周囲に拡散させ、疎らにいたノイズを完全に一掃させた。

 

「これで貸し借りは無しだ!」

 

それだけを言い残すとクリスは飛び上がり、この場から離脱して行った。

 

律と響はクリスの行動を見て、それから2人は顔を見合わせると……フッと笑った。

 

「さぁて……一気に終わらせるぞ!!」

 

緋血(ブラッド)昇天(ライジング)

 

斬り上げにより放たれた紅い斬撃はノイズの群団をかき分けた直進し、要塞型のノイズに直撃する。 が、その外郭に傷はつかない。

 

だが、狙いはそこではなかった。 地面にできた斬撃の跡から地面が割れ……要塞型ノイズは地割れした地面に落ちていく。

 

「行け、響!」

 

「はい!」

 

斬撃の道を一直線に走る響。 飛び上がって拳で殴り、間髪いれず勢いよく引き戻すバンカーの追撃をお見舞いした。

 

拳打とバンカーによる2連撃。 それによりノイズは頭上に打ち上げられ、

 

「律さん!」

 

「ふぅ……ッ!」

 

打ち上げられたノイズ……律はその先にある天に向けて剣を構え、両翼を大きく広げ紅い閃光が迸る。 そして剣を上段に構え、

 

飛翔(シューティング)(スター)

 

「おおおおおおおっ!!」

 

突きを放つと同時に自分自身が紅い閃光となり、流星となって発射され……城塞型のノイズに向かって急降下、真上から大きな城壁に刃を入れ、真っ二つに斬り裂いた。

 

「やった——って、うわあっ!?」

 

しかし喜んでいたのもつかの間、頭上から降り注いできた砲弾の雨に打たれて響は走る。

 

辺りを見回すと……海の上に先程のノイズより一回り大きい要塞型ノイズがいた。

 

「どこからこんなのが!?」

 

「海中に隠れてたんだろう!」

 

どうやら海中に隠れていたノイズが浮上し、攻撃してきたようだ。 奇襲をかけられたとはいえ、あの巨体ではよく当たる的……律と響は同時に飛び出し、剣と拳を振り下ろす。

 

「ッッッウゥーー!! 硬過ぎ!!」

 

「チッ!」

 

しかし、その2つの攻撃は硬い外壁によって弾かれてしまい。 外壁からせり出ていた砲門が一斉に2人に向き……一斉掃射を開始した。

 

響を抱え、砲撃を避けながら後退する。

 

「あそこまで硬いとどうしようもありませんよ……」

 

「……いや、あそこを見ろ」

 

ノイズのある一点を指差す。 そこはノイズが砲撃を行っている正面にある砲門。

 

「砲撃の間隔にほんの少しの間がある。 あそこを狙って攻撃すれば、あるいは」

 

「あ、あそこを狙うんですか……でも、私の拳じゃあ、ちょっと間に合いませんね」

 

「試してみるか……」

 

律は策を試みようと、響を離れた場所に置き。 ノイズの真正面に降り立ち長剣の剣先を向けながら顔の位置まで構え、口を開いた。

 

「——刹那に(はや)し 矢風のさまに そこり開き」

 

しかし、そこには旋律は無く。 詩だけを口ずさんでいる。

 

その律の行動に、響と現場の映像を見ている弦十郎は眉を潜める。

 

「これって……」

 

『歌だと? だが彼はノイズの影響で……』

 

「むくつけしき すまいにて……」

 

律は周りの音も聞こえないくらい集中し、唄いながら一歩前に大きく踏み出し、

 

「すずどけなく過ぐさ!!」

 

()

 

神速の如き速度で放たれた突き。 そこから突きと同じ速度で刃のように鋭い紅い閃光が放たれ、海上要塞のようなノイズを刹那の間に貫き、灰とかした。

 

「——コフッ!」

 

攻撃が止むと……突然、律が吐血する勢いで息を吐き、バタンと倒れてしまった。

 

『おい、どうした!?』

 

「律さん!!」

 

響は急いで駆け寄り、律を仰向けにして様子を確認する。律はどこか放心しており、生気のない目で虚空を見つめている。

 

そこへ秘匿回線で弦十郎が通信を入れてくる。

 

『やはり無理があったのか! おそらくバックファイアだろう、直ぐに救護班を——』

 

「あ、いや大丈夫ですよ。 恥ずかし過ぎて身悶えているだけですよコレ」

 

『……何だと?』

 

急いで救援を向かわせようとする弦十郎に対し、響はあっけらかんと説明する。

 

「今の歌……というか詩は、律さんが中学2年の時に作ったものでして。 その時作った詩を歌うと律さん、こうなっちゃうんですよねえ」

 

『な、何だそれは……』

 

「律さーん、死んでますー? 黒歴史に呑まれましたかー?」

 

「……か、勝手に殺すな……」

 

言葉も出ない弦十郎を余所に、ペシペシと頭を叩く響。 その手を振り払いながら律は足をガクガク震えてさせて立ち上がろうとする。

 

「フ、フフフ……出来ないことをやろうとするから痛々しい目で見られるんだ。 だが、今のは現実に出来たんだ。 実際に手から(はー)! 何が出れば、精神的ダメージは軽減される……」

 

「それでも自爆なんですね……」

 

当時、意気揚々に作っていたとはいえ、実際に口にすると……今となっては悶死する程恥ずかしいものである。

 

「と、とはいえ……効果は実証できた。 これならノイズによるシンフォギアの出力不足を補える」

 

「結局、今後も自爆覚悟で使うんですね……」

 

新たに見つけた戦法は精神的に諸刃の剣……そして、数分経ってようやく復帰した律。 これで本当に何も出なかったら瀕死は間違いなかっただろう。 ある意味命懸けである。

 

「……もう間に合いそうにありませんね」

 

「いいさ。 これからも特別戦場(いくさば)ライブを間近で見られる機会はいくらでもある」

 

「ですね」

 

翼のライブを逃したのはとても残念に思うが、律は気にしてない風に空を見上る。

 

「——翼。 大きく羽ばたくんだ……思いのままに!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「——あぁ、ようやく思い出したわ」

 

月が真上にある深夜……どこかの山奥にある古びた洋館、そこには妖しく微笑んでいるフィーネがいた。

 

彼女は服一つ着ていない裸体のまま、パソコンの画面に表示されていた文面を見ていた。

 

「生き延びてたのね——米国から」

 

月夜は怪しく、真実を照らしていく。

 

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