戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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17話 真実を照らす月

数分前——

 

東京スカイタワーにいたノイズを一通り一掃した後、技の勢いのまま律はすぐにリディアンに向かっていた。それは《東京スカイタワー》に向かう前の奏からの通信で、

 

「——それと、ノイズを倒したらすぐにリディアンに来てくれ。 なるべく早く、ノイズも5体いるうちの1体だけでもいい。 残りは翼が何とかしてくれるだろ」

 

律は当然、この命令を疑問に思っていたが、奏が無為な事を言わないのは分かっていた。 律は大型の飛行型ノイズと、このノイズがばら撒いた大元となるノイズを狩って補給した後、現場を3人に任せ。

 

今だに名も分からないシンフォギアの力でその身を光となって飛翔、わずか数秒でリディアンに到着した。

 

「何!?」

 

しかし、そこは先程と変わらぬ……戦場であった。 数種類の大型のノイズがリディアンを襲撃しており、逃げ惑う生徒、戦う自衛隊で学校は大混乱だった。

 

奏と合流すべきだが、彼らを見捨てる事は当然律には出来なかった。

 

「とにかくデカブツだけでも!」

 

先程と同様、ノイズを増やしているのは大型のノイズ。 とにかくそれだけでも倒そうと剣を抜く。 全身を光に変化させるには体力をかなり使う……律は謳で一気に決めることにする。

 

「——心の隈 薔薇(そうび)の息差し」

 

巨大ノイズに向かって急降下しながら謳を紡ぎ、いつもはなりを潜めているフォニックゲインの高鳴りを感じながら頭上に剣を構える。

 

()()む 心見えなり!!」

 

憐惜の拝(サバ・ラファー)

 

刀身に蒼い焔が纏われ、落下の勢いと同時に蒼炎の剣を振り下ろし、ツノが生えた芋虫のようなノイズ左右真っ二つに斬り裂いた。

 

地に足つけ、続けて一回転しながら左手の銃を振り抜き、周辺にいた小型ノイズの撃ち抜く。

 

その時ふと、校舎内にガラス越しに見覚えの3人の少女を見つける。

 

「あの子たちは……確か響と未来の……」

 

お好み焼き屋“ふらわー”で会った3人の少女。 どうやら自衛隊の誘導でシェルターに避難をしているようだ。

 

大丈夫そうだと、律は踵を返し奏を探そうとすると……校舎上空にいた飛行型ノイズが身を捻っていた。 その槍先には、創世たちがいる。

 

「マズイ!」

 

律が飛び出すと同時にノイズは回転しながら落下、校舎をすり抜けて襲いかかる。 対して律は窓ガラスを突き破り、自衛隊の前に出ると、

 

「ぐうっ!」

 

「なっ!?」

 

自衛隊を庇うように、天井を透過して降ってきた鋭利で槍のようなノイズが、律の右肩に突き刺さった。

 

「イ、イヤァアアアアアア!!」

 

すると、それを見ていた弓美の悲鳴が響き渡った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

前触れもなく、突如としてノイズの襲撃を受けたリディアン。 未来は学内に逃げ遅れた生徒がいないか探し回っていると……ノイズによってリディアンが蹂躙されている光景を、未来はただ呆然と見ていた。

 

「学校が……響の帰ってくる所が……!」

 

「ガウウ……」

 

守るべき場所が破壊される光景に動揺する未来。 その時、側にあった窓ガラスが割られ……校舎内にノイズが侵入してきた。

 

「あ……」

 

目と思わしき部分が一斉に未来の方を向く。 未来は恐怖に怯え、後退りするが……未来を守っていたリューツは果敢にも前に出る。

 

「ガルルル……ガァアアア!!!」

 

威嚇するようにリューツ高らかに雄叫ぶと……その身体はみるみると膨張し、リューツの身体は廊下の通路埋めるくらいの大きさになりながらその口には野太い牙、強靭となった四肢には鋭利な爪が……リューツは化物と見間違うような大虎となった。

 

「ガオウッ!!」

 

飛来するノイズ。 それを爪を出した前脚の一振りで弾き返した。

 

ノイズを倒すとリューツはゆっくりと振り返り、未来を見つめる。

 

「あ……」

 

少しリアルさが出て怖かったが、未来はリューツに歩み寄りその首筋を撫でた。

 

「ありがとう、リューツ」

 

「グルル……」

 

「——未来さん!」

 

そこへ、緒川が走ってきた。 緒川は未来のそばにいたリューツを見つけると、懐に手をやり少し警戒してしまう。

 

「緒川さん!」

 

「こ、この大きな虎は……?」

 

「そ、それは後で説明するので……」

 

リューツについて説明しようにも「この虎はノイズです」とはこの状況で言えるはずもなく。 とにかく、危険性が無いと判断した緒川は懐から手を抜いた。

 

「……分かりました。 とにかく今は避難しましょう。 こちらへ!」

 

「あ、はい! リューツ、おいで!」

 

——クル、ポン!

 

「ガウ!」

 

一回転して小気味いい音を立て、リューツは元の子虎になると未来の腕に飛び込み、近くにあった二課に続くエレベーターに飛び乗った。

 

しばらく降下した後、緒川は弦十郎と通信を取る。

 

「——はい。 リディアンの破壊は、以前拡大中です。 ですが、未来さん達のおかげで被害は最小限に抑えられています。 これから未来さんをシェルターまで案内します」

 

『分かった。 気をつけろよ』

 

「それよりも司令」

 

『ん?』

 

「《カ・ディンギル》の正体が、判明しました」

 

『何だと……!?』

 

カ・ディンギルについての情報を掴んだ緒川、弦十郎は驚きの声を上げる。

 

「物証はありません。 ですが、こちらで得られた情報と、奏さんの予知と推理によれば……《カ・ディンギル》とは恐らく——」

 

《カ・ディンギル》の正体を掴んだ緒川は弦十郎にその説明をしようとした時……エレベーターの天井が凹み、周囲のガラス張りの壁にヒビが入る。 まるで、天井に何か落ちてきたような……

 

『キャアアアアア!!』

 

「どうした!? 緒川!!」

 

通信機越しに何かを突き破ったような音と未来の悲鳴が聞こえ、その後すぐに通信は切れてしまった。

 

エレベーター内では緒川の手から通信機が離れ、エレベーターの天井を突き破って侵入してきた人物に踏む潰されてしまう。

 

「うっ、うう……!」

 

「こうも早く悟られるとは……何がきっかけだ?」

 

その人物とはネフシュタンの鎧を見に纏ったフィーネだった。 フィーネは緒川を首を絞めつけながら壁に押し付けていた。

 

「グルル……」

 

(ダメだよリューツ! 今は落ち着いて……)

 

今にも飛び出しそうなリューツを未来は強く抱きしめて抑える。 そして緒川は首を締め付けられる中、何とか口を開く。

 

「塔なんて目立つ物、にも知られず建造するには地下へと伸ばすしかありません。 そんな事が行われているとすれば……特異災害機動部二課本部、そのエレベーターシャフトこそ《カ・ディンギル》。 そして、それを可能とするのは……!」

 

「……漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思っていたのだが……」

 

「グルルル……」

 

威嚇によるリューツの唸り声に反応したフィーネは振り返り、未来の腕に抱かれているリューツを見る。

 

「その虎……ノイズか。 あのボウヤがペットにしたとは聞いていたが、まさか事実だったとはな」

 

すると、彼女は空いた左手を額にやり、口元は狂気の笑みで歪ませる。

 

「ますます面白い! やはり米国にやったのには惜しい被験体だったな!」

 

「……べ、米国……?」

 

いきなり出てきた米国という言葉、未来はなぜ律の事から米国が出てきたのか疑問に思い……それを察したのか、フィーネは視線だけ後ろを見る。

 

「約10年前……私は奴が幼少の頃、偶然見つけ攫ってきた。 そして、資金確保のため米国にある《F.I.S》という機関に売りつけた」

 

「えっ……!?」

 

フィーネが律の過去を知っていた事よりも、未来は律が人身売買をされていた事実に驚いてしまう。

 

「その後どうなったかは興味はなかった。 だが、流れてきた噂によれば6年前、実験中のシンフォギアを暴走させて施設から脱出。 海上輸送中のタンカーに乗り込むが、事実を隠蔽しようとした米国はタンカーごと奴を海に沈めた……そう聞いている」

 

「……そして、日本に流れ着き。 芡咲夫妻に拾われた」

 

以前、律本人から聞いた話と繋げ補足するが、フィーネは言った通りその後の出来事など興味がなく、未来の話など聞いてはいなかった。

 

丁度そこでエレベーターは停止し、緒川が押さえつけられていた壁……扉が左右に開き、背後に倒れるとフィーネの拘束が少し緩み……それを狙い拘束を抜け出し距離を取らせるように蹴りを繰り出しながらバク転、後退しながら懐に手を入れ、拳銃を取り出しフィーネに向け、3発発砲する。

 

3発の弾丸は鎧に守られていないフィーネの胸、素肌に着弾したが……弾丸は硬い鋼鉄にぶつかったかのようにひしゃげ、地面に落ち転がる。

 

「ネフシュタン……!」

 

余裕を見せるように微笑を浮かべるフィーネ。 彼女は右手の人差し指を緒川に向けると、鎧から垂れ下がっていた鞭が独りでに飛び出し。 緒川の拳銃を手から弾くと同時に身体にまとわりつき拘束した。

 

「ぐああああ!!」

 

「緒川さん!」

 

軽々と緒川は持ち上げられ、強く締め付けられているのか苦悶の声を上げる。

 

「未来……さん……! 逃げて……!」

 

せめて未来だけでもと、緒川は逃げるように言う。 未来も逃げようとするが……意を決し、フィーネに体当たりをする。

 

が、彼女が非力なのか、それとも聖遺物のせいなのか、ピクリともしなかった。 フィーネは振り返り、冷たい目で未来を睨む。

 

「ヒッ……!」

 

「——ガオオオオオッ!!」

 

すると未来の腕からリューツが飛び出し、巨大化すると同時にその牙で噛み付こうとし、

 

「ガッ!!」

 

「リューツ!!」

 

無造作に振るわれた裏拳がリューツの顔面に直撃し、数度バウンドして通路に横たわった。

 

「力は数段に増しているな。 だがそれだけ……道具からただの(けだもの)に成り下がったに過ぎん」

 

再び小さくなるリューツを一瞥し、再び未来の方を向きながら捕まえていた緒川を無造作に捨てた。

 

フィーネは未来に手を伸ばし、顎に触れるとよく見るように上に上げた。

 

「麗しいなぁ……お前たちを利用してきた者を守ろうと言うのか?」

 

「利用……!?」

 

「何故二課本部がリディアンの地下にあるのか。 聖遺物に関する歌やデータを、お前たち被験者から集めていたのだ」

 

顎を撫でられるも動くことも出来ず。 未来はただ、フィーネの話に耳を傾けることしか出来なかった。

 

「その点、風鳴 翼という偶像は、生徒を集めるのによく役立ったよ。 フフフ……フハハハハハッ……!」

 

「——嘘をついても!」

 

騙されているとも知らず助けようとする未来を嘲笑うかのように、フィーネは踵を返し歩き出した。 その時、未来はキッとフィーネを見つめ、叫びながら一歩前に出た。

 

「本当のことが言えなくても! 誰かの命を守るために、自分の命を危険に晒している人がいます! 私は……そんな人を、そんな人たちを信じてる!」

 

「……チッ!」

 

怒りの形相で振り返ると、未来の頰に張り手し。 さらに胸倉を掴んで持ち上げ、もう一度同じ場所に張り手した。

 

加減し、張り手とはいえ聖遺物を使ってでの、床に落とされた未来は倒れ伏し、気絶してしまった。

 

そんな彼女を、フィーネは再び冷めたような目で見下すように見下ろす。

 

「……まるで興が冷める……!!」

 

予期せぬ苛立ちを覚えながらも彼女は踵を返し、二課内を歩き出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

時間は少し遡り……リディアンの校舎内で弓美の悲鳴が届いてくるが、そもそもシンフォギアを纏っているため炭化する事はない。 素でももちろん、だが痛いものは痛い。

 

「ったく……」

 

痛みで軽く悪態をつきながら肩に刺さったノイズを引き抜き、握り潰す。 炭となったノイズ床に落ち、手の中に入った炭も放って捨てると……驚いた表情で彼女たちが律を見ていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……それより君は平気なのか? 普通にノイズに触れていたが……」

 

「うーん、まあノイズに対抗できる武器って思ってください」

 

一応、シンフォギアは国家機密に指定されている。 どこにも属していない律にそんなのは関係なさそうだが、説明も難しいので曖昧に誤魔化した。

 

「君たちも大丈夫か?」

 

「は、はい……」

 

「何とか……」

 

「え、えぇ……!?」

 

1人は軽くパニック状態だが、残りの2人は落ち着いているようなので避難する上では大丈夫だろう。

 

「彼女たちの避難誘導を。 俺はこのままノイズを討伐します」

 

「ご、ご武運を!」

 

「——律!」

 

敬礼をする自衛隊に首肯で返すと、廊下の先から律を呼ぶ声が。 視線を向けると、そこには奏がいた。

 

「奏!」

 

「……えっ!?」

 

「来い! フィーネが現れた!」

 

「了解!」

 

奏の名に、創世たちは一瞬驚いてしまう。 律は奏の元に駆け寄ると、そのまま走り去ってしまった。

 

「今、奏って……もしかして、天羽 奏さん?」

 

「それに、律って……」

 

「……え、え? え、えっ?」

 

軽くパニック状態な弓美は、口から“え”しか出てこなかった。

 

そして律は、奏と走りながら立ち塞がるノイズを銃で倒して先を進んでいた。

 

「透過能力があるんだったな? アタシごとリディアンの地下に向かってくれ」

 

「あまり分厚い地面の透過はやりたく無いんだけど、地下空間があるなら……」

 

離れないように奏を横抱きに抱え、沈むように地面に透過し侵入して行く。 一寸先まで埋め尽くされた景色は一瞬、降り続けていると、

 

「これは……!」

 

一度地面を抜け見える景色が一変した。目の前には天井から床まで古代の遺跡のような壁画があり、目が眩みそうなくらいの幾何学模様が無数に刻まれていた。

 

その外壁には複数のエレベーターシャフトがあり、どうやらあのエレベーターでリディアンと二課を行き来しているようだ。

 

「高さはおよそ東京スカイタワー2、3個分……これが《カ・ディンギル》だ」

 

「なんだって!? じゃあ、フィーネは二課の本拠地で堂々とこんなものを造ってたって言うのか!?」

 

「灯台下暗しとよく言ったもんだ」

 

それにしても一体いつからこんな巨大な建造物を1人作っていたのだろう。 途方も無い時間と労力、そして執念を感じさせる。

 

「フィーネは……これで一体何をする気だ?」

 

「さあな。 何にせよ、ロクなもんじゃないだろう」

 

ネフシュタンの鎧、ノイズを自在に操る杖……既に国すら脅かすような聖遺物を使っているフィーネ。 そんな彼女が作ろうとしているものなど確かに普通では無いのだろう。

 

「…………! あれは……」

 

ふと、複数あるエレベーターシャフトの一つ、そのエレベーターだけ破損しているのが目に付いた。

 

気になって近づくと、エレベーター側面のガラスはヒビ割れ、天井には大きな穴が開いていた。

 

「……間違いない、フィーネだ」

 

「急ぐぞ!」

 

エレベーターをすり抜けて二課本部に侵入する。 通路は戦闘があったのか、所々銃痕や砕けている場所があった。

 

そして、そこには倒れ伏す未来がいた。 慎重に身体を起こすと、ちょうどそこで意識が戻った。

 

「この子は……」

 

「大丈夫か、未来?!」

 

「……そ、それよりも……リューツが……」

 

よく見ると片方の頰が赤く腫れていた。 未来を奏に預け、辺りを見回すと……通路の先にグッタリと横たわるリューツがいた。

 

「リューツ!」

 

「……私を助けようとして、フィーネって人に殴られるて……」

 

「リューツは通常のノイズより防御力を高めてあるが、それでも完全聖遺物相手には無理があったか……」

 

リューツを拾い上げ優しく抱きしめる。 そこから貯蓄していたノイズのエネルギーをゆっくりとリューツに送り込むと、

 

「……ルゥゥ……」

 

「リューツ!」

 

弱々しくだが、目を覚ましたリューツは無事を示すように静かに鳴いた。 律はリューツを未来に預けると、未来は嬉し涙を浮かべながら抱きしめる。

 

「良かった、リューツ……!」

 

「グゥ……ルル!!」

 

「こら未来、抱きしめ過ぎてリューツが苦しそうだぞ」

 

締め付けが徐々に強くなり始める前に未来を止め。 落ち着かせた後、ここにいる経緯と状況を説明してもらった。

 

「なるほど……よく頑張ったな未来、リューツも」

 

「ガウ!」

 

「で、でも……私、何も出来なくて……あの人に言いたいようにされて……けど! 律さんや響、奏さんや二課の皆さんを貶すような事を……ゴホゴホッ!!」

 

その直後、未来は大きく咳き込んでしまった。 息を整えたらまた喋り出しそうだったので、それを奏が赤くなった頰に手を添えて止める。

 

「いいんだ。 何と言おうとも、アタシらが未来を……リディアンの全校生徒を騙していたことには変わりない」

 

「……奏……さん……」

 

「ありがとう。 なんか救われたって感じがした」

 

何と弁明しようと、二課がリディアンの生徒を騙していたのに変わりはない。 だが未来はそれを知りながらも許し、奏は未来に感謝する。

 

その後、密閉空間と言うこともあり律はシンフォギアの両翼を収納し、その空いた背に未来を乗せ抱え、リューツは奏が抱きかかえた。

 

「辛いと思うが、我慢してくれ。 このまま置いていくわけにも行かないからな」

 

「あ、あの……! さっきまで緒川さんがここにいたのですが……あの人にやられていて……」

 

「……もしかして……!」

 

「急ぐぞ!」

 

どうやら緒川は傷付いたままフィーネを追ったようだ。 このままでは緒川が危ない……律たちは走り出す。

 

「フィーネは一体どこに向かってるんだ?」

 

「恐らく《デュランダル》が保管されている場所……最下層区域《アビス》だ!」

 

奏の道案内で律は広い二課本部内を走り周り、最下層に到着すると、そこには、

 

「見つけたぞフィーネ……いや《櫻井 了子》!」

 

通路の先にネフシュタンの鎧を身に纏う女性……フィーネがいた。 その他にも緒川と、拳を握り構えフィーネと対面する弦十郎もいた。

 

「来たか……」

 

「奏さん! それに、貴方は……!」

 

「身構えなくていい、こいつはアタシたちの味方だ」

 

警戒する緒川を奏が事情を説明し、律は弦十郎の頭上に空く大穴に目を向ける。

 

「うわぁ、綺麗に穴空いてるなぁ」

 

「言っておくが、コレやったの旦那だからな」

 

今更驚くまい。 弦十郎がOTONAという事なので、という理由で律は納得する。 OTONA最強。 ノイズに対して以外は……

 

「天羽 奏……お前もとっく私の正体に気付いていたんだな」

 

「ああ、信じたくはなかったがな。 だが、調べれば調べるほど、あんたの行動は不審な点が多かった。 そして律と響が現れてから、アンタの行動は目に見えて疑わしくなった!」

 

「戦えなくなったばかりに、小細工ばかりが達者になったものだ。 妙な能力に目覚め厄介ばかりだったが……お前の絶唱によりこのネフシュタンの鎧は起動に至った、その点だけは感謝しておこう」

 

「んだとっ!」

 

「言わせておけば……!!」

 

「——2人とも、下がっていろ。 ここは俺がやる」

 

挑発するフィーネに頭にきた律と奏。 律は剣を抜く勢いで身を乗り出そうとする勢いだったが、横に出された弦十郎の手が2人を制した。

 

「さて、お互い策に乗せられたとはいえ……この程度で私を止められるとでも思っているのか!?」

 

「応とも!! 一汗かいた後で、たっぷりと話を聞かせてもらおうか!」

 

床を蹴り、尋常じゃない速度で走り出す弦十郎。 フィーネは鞭を槍のように振るうが、弦十郎は紙一重で避け。 もう一つの鞭を跳躍して避け……天井にあった僅かな出っ張りを砕きながら掴んで身体を固定、そして天井を蹴ってフィーネに飛びかかる。

 

「はあああぁっ!!」

 

落下と同時に振り下ろされた拳。 その拳フィーネは避け、拳は鉄製の床を岩のように砕いた。

 

と、その時……ネフシュタンの鎧にヒビが走る。どうやら拳は避けられたが、衝撃は避けきれなかったようだ。

 

「何っ……!?」

 

鎧にヒビが入ったことに驚愕し、その場から大きく飛び退いた。 ヒビは直ぐに回復したが、ただの人間にヒビを入れられた事実にフィーネは苛立ちを覚える。

 

「肉を削いでくれる!!」

 

交差するように振るわれた二本の鞭。 弦十郎はその動きを見切り……二本とも優に掴むと全力で引っ張り、フィーネを自分の距離へと引き寄せた。

 

「はあああっ!!」

 

そして、その無防備に空いたい腹部に拳を叩き込み……空に浮き上がったフィーネは弦十郎の背後に吹き飛ばされ倒れる。

 

「ガッ! か、完全聖遺物を退ける……? どういう事だ!?」

 

「知らないのか? 飯食って映画見て寝る! 男の鍛錬は——そいつで十分よ!」

 

「へぇ、そうなんだ。 ゲームやって真似る以外にも修行の仕方ってあったんだな」

 

「ねぇよ普通!! お前ら男の頭ってどうなってんだよ!?」

 

やり方は違うとはいえほぼ同レベルの鍛錬法に、奏は思わずツッコミを入れてしまう。

 

「なれど人の身である限りはっ!!」

 

「させるか!!」

 

どんなに強かろうとノイズにとっては無力、ノイズを召喚しようと《ソロモンの杖》を抜いた瞬間……弦十郎は震脚で床を砕き、浮いた破片を蹴り飛ばしフィーネの手から杖を弾き飛ばし、杖は天井に突き刺さった。

 

「ノイズさえ出てこないのならぁっ!!」

 

ノイズを出されなければ完全聖遺物であろうと対抗できる。 弦十郎はトドメとばかりに一気に畳み掛けた、その時、

 

「——弦十郎くんっ!」

 

「っ……!?」

 

「マズイ!!」

 

冷たいフィーネの目ではなく、弦十郎の知る櫻井 了子の表情を出され、動揺により隙が出来てしまった。 フィーネはニヤリと笑みを浮かべ……鞭が弦十郎の胸を貫いた。

 

「ぁぁっ……!!」

 

「司令……!」

 

弦十郎は大量の血反吐を吐き、倒れてしまった。 射抜かれた腹部からは留めなく血が溢れ、そこから血溜まりができる。

 

「イヤァァァァァァァーーーー!!」

 

そんなスプラッターな光景に、未来が悲鳴をあげる。 血を流しながら倒れる弦十郎に、フィーネは息を荒げながら歩み寄り、ポケットを(まさぐ)り通信機を抜き取った。

 

「ハァハァ……抗うも……覆せないのが運命(さだめ)なのだ…!」

 

「——行かせるか!!」

 

するとフィーネを止めようと、律が前に出ながら両手で銃を構え、膝立ちになる。

 

直照(ひたて)真日(まひ)の 駆けし(みち)

 

その口から歌を紡ぎ、紅い光線銃の銃口をフィーネに向け狙いを定める。

 

「歌か……ノイズに(まみ)れたお前から聞けるとはな」

 

「……射向(いむ)けの(そで)と為り 天伝(あまつた)征矢(せいや)と為り……」

 

「律!!」

 

すると、奏が律を呼び、振り返ると……奏は無言で首を横に振った。 意図を察した律は下唇を強く噛み締めると、次第に銃口の先端が紅く輝き出し。 その輝きは徐々に一点に集束していき、

 

(はべ)りたすく!!」

 

射手の輝軌(ルル・アガリウス)

 

トリガーを引くと、銃口から巨大な紅い光線が放たれた。 フィーネは双鞭を操り、二重螺旋を描きながら盾を作り、紅い光線から身を守る。

 

「…………?」

 

鞭から受ける衝撃に違和感を感じ、フィーネは眉をひそめる。 謳ったにしては威力が弱過ぎる……そう思っていると徐々に光線の威力はさらに減衰して行き、最後には消滅した。

 

「………………」

 

盾を振り解くと、そこには誰もいなかった。 血溜まりの中にも弦十郎はいない……フィーネは手にもつ通信機を一瞥し、踵を返しデュランダルが保管されている扉に向かって歩き出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

律の攻撃によってフィーネの目をかいくぐり、その隙に緒川が気付かれないように弦十郎を救出し何とか現場から離脱した。

 

緒川と奏は弦十郎に肩を貸し、少しフラつき気味の律はシンフォギアを解除し、未来の肩を借りていた。

 

「フゥ……流石にここまで長い時間、シンフォギアを使うのは初めてだったな。 少し辛いなぁ」

 

「大丈夫ですか、律さん?」

 

「すまねえな、無理させちまって」

 

「いいってことよ。 それに今回ばかりは無茶しないと、恐らく今が佳境……何とか踏ん張って、乗り越えないと……!」

 

「……その通り、だ……」

 

律の思いに同意するように、弦十郎は脂汗を流しながら何とか喋ろうとする。

 

「旦那!」

 

「ここが正念場だ……! 必ず、彼女の野望を阻止せねば……!」

 

「力まないでください! 血が流れてしまいます!」

 

力を込め出して立ち上がろうとする弦十郎を、何とか緒川は抑えながら司令部に到着した。 オペレーターの女性……友里が振り返ると、弦十郎の状態を見て目を見開かせる。

 

「司令っ!!」

 

「応急処置をお願いします!」

 

奏と緒川は慎重に弦十郎をソファーに寝かせ、友里と女性スタッフが応急処置で止血を施す。

 

「ここが……二課……」

 

「ガウ」

 

「本当ならもっと落ち着いた状況で連れて来たかったんだがな」

 

ゲームに出てきそうだなぁと驚きながら、奏が申し訳なさそうな顔をする。 そして緒川が空いた端末前に座り、状況を説明しながら操作する。

 

「本部内に侵入者です。 狙いはデュランダル……! 敵の正体は……“櫻井 了子”……!」

 

「なっ!?」

 

「そんな……」

 

リディアン、延いては二課を襲撃したのが二課でも重要人物である櫻井 了子である事実に、オペレーター一同は呆然とすることしか出来なかった。

 

「響さんたちに回線を繋げました」

 

「響?! 学校が……リディアンがノイズに襲われているの!」

 

その直後、突然周囲の電源が落ち、重要機器以外の電源以外は落とされ辺りは一気に暗くなる。

 

「何だ?」

 

「本部内からのハッキングです!」

 

「こちらからの操作を受け付けません!」

 

「こんなこと、了子さんしか……!」

 

電源の遮断と機器の乗っ取り……それが出来るのはフィーネ、櫻井 了子しかいない。

 

その後すぐ、端末の電源も落とされた、二課本部は完全に機能を停止されてしまった。

 

「奏、俺は地上に出る。 少しとはいえ、通信が繋がったのなら異変に気付いた響たちがここに来るはずだ。 合流して、フィーネを止める!」

 

「分かった。 気を付けろよ」

 

「来い、リューツ!」

 

「ガウ!」

 

走り出した律の肩にリューツは飛び乗り、律は司令部を飛び出て行った。

 

「ぅぅ……!」

 

「司令……」

 

律が出て行ってすぐ、弦十郎は目を覚ました。 視線だけを動かし、友里に視線を向ける。

 

「状況は……?」

 

「本部機能のほとんどが制御を受け付けません。 地上および地下施設内の様子も不明です」

 

「そうか……」

 

傷が痛みながらも無理に起き上がろうとする弦十郎。 奏が支えに入り何とか起き上がり、その後司令部内に視線を巡らせる。

 

「彼は?」

 

「律なら出て行ったぞ。 了子さんを止めにな」

 

「司令、あの少年が?」

 

「……ああ。 頼もしく、心強い……新しい——仲間だ」

 

仲間として律を認めた弦十郎は、後のこと律、そして響たちに任せた。 が、

 

「………………ここ、どこ?」

 

「ガーー」

 

当然、初めて来る場所な上に電源が落とされ真っ暗なので、律は迷路のように広大な二課本部で盛大に迷っていた。

 

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