戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
フィーネを野望を打ち砕き、止めるため律は司令部を飛び出し走っていたの……だが、
「ふぅ……美味しい」
今はゆっくりと腰を下ろし、お茶を飲んで和んでいた。 どうやら自販機の電源も生きていたようで、今日もらったばかりの通信機のキャッシュ機能を使って購入した。
そんな呑気に休んでいる律の足を“何休んでいるんだ!”とでも言っている風にリューツがペシペシと叩く。
「ガーウ!!」
「ん? いや、仕方ないだろう。 行っても行っても先は見えないし、上に上がる階段すら見つからない。 なら、ここで体力を回復して、シンフォギアを使って行った方が建設的だよ……決戦に備えても、な」
つい先ほど、広大かつ複雑過ぎる二課本部内で迷ってしまい。 無闇に歩いて体力を消耗するわけにもいかず、こうして休むしか選択肢は無かった。
「おう?」
その時、大きな地揺れが起こった。 恐らくはエレベーターシャフトであった《カ・ディンギル》に何かあったのだろう。
「さて……ブレイクタイムは終了かな」
腰を上げ、首から黒いペンダントを取り外すとチェーンを握り、ペンダントをぶら下げながら聖詠を紡いだ。
「◼️◼️◼️◼️◼️」
ペンダントが強く光り出し、光が律を覆う。黒いノイズが周囲に漂いながら両腕両足、腰と胸に装甲が装置され、そこから滲み広がるように全身を黒いアンダースーツで覆われる。 背からは赤い閃光を放つ一対二翼の翼が、頭部にはくの字の
そして左腰に長剣の黒い鞘が現れ、次いでその右手には赤い閃光の刀身で構成された黒い剣が握られ、剣を鞘に納められる。
「行くぞ……!」
「ガウ!」
肩にリューツを乗せ紅い閃光を放つと両翼を広げフワリと浮き上がり。 天井、床、壁を全てすり抜けながら飛翔し、先ずエレベーターシャフトに出ると、
「これは……!」
つい先ほどまであった壁画の塔が影も形もなかった。 残されているのは外壁が上に向けて削られた後と、大きな縦穴のみだ。
「《カ・ディンギル》が地上に出たのか!」
急いで上昇し、天井を突き抜けて地上に出ると……リディアンの校舎を貫くように、天高くそびえ立つ塔が目の前に鎮座していた。
「これが……《カ・ディンギル》!!」
「——律!!」
「律さん!!」
《カ・ディンギル》の全貌を見上げていると、地上からシンフォギアを纏っている響たちの呼び掛けが聞こえ、律は彼女たちの元に降り立った。
「無事でよかった。 いきなりいなくなるから心配したぞ」
「奏の要請でな。 それより、アレが……」
「ああ、《カ・ディンギル》だ。 ……アレは塔の形をした荷電粒子砲だとよ」
「はあ? 形が塔なんだから砲身が上にしか向かないだろう。 宇宙しか狙えないだろ」
「……月を壊すつもりみたいです」
響がフィーネの目的が月の破壊と答えた。 流石に冗談だろうと思ったが、崩れた校舎の屋上に立つフィーネを見て、嘘ではないと悟ってしまう。
どうやら既に稼働を開始しているようで、ぐずぐずしていたら彼女の目論見通りに月が破壊されてしまうだろう。
「何にせよ、月を破壊させる訳にはいかない。 月見が出来なくなるからな!」
「そんな理由かよ!?」
「重要だ! 月光浴しながらのカフェオレは俺の唯一の楽しみなんだからな!」
「眠れなくなりますよー」
「そんなにカフェイン効かない体質だから問題ない」
(……緊張感のない子たちね……)
「ガウ」
翼は少し呆れながらも、苦笑する。 そして、リューツが律の肩から離れ、4人はフィーネと正面から対面する。
「さて……アンタの野望、止めさせてもらうよ!」
「やれるものならやってみろ!」
先手必勝とばかりクリスがボウガンの矢を放ち、それを皮切りに律たちは一斉にフィーネに向かって飛びかかって行った。
◆ ◆ ◆
場所は変わりリディアンの地下シェルター……《カ・ディンギル》の隆起により崩落しかけたシェルターの一つ、瓦礫で塞がれた入り口を緒川が力強くで押し開けると、
「小日向さん!」
「よかった! 皆、よかったぁ!」
そこには先に避難していた安藤 創世、寺島 詩織、板場 弓美の3人がいた。
詩織が未来に気付き、嬉しそうに駆け寄る。 そこで、未来と同行していた二課の面々に視線を向ける。
「この区画の電力は生きているようです!」
「他を調べてきます!」
シェルターに入るなり携帯用のモニターを電源に接続し、電力の有無を確認する藤尭。 緒川は一言告げてから他の区画を確認するため、1人シェルターを後にした。
友人である未来が見知らぬ大人たちと同行している事を疑問に思った創世は、未来に質問を求める。
「ヒナ。 この人たちは?」
「うん、あのね……」
「——我々は、特異災害対策機動部。 一連の事態の収束に当たっている」
未来が説明する前に、自分たちのことは自分と言うように先に弦十郎が身元の紹介をした。
「それって、政府の……!」
「……モニターの再接続完了。 こちらから操作出来そうです」
思うところがある弓美が呟く。 それと同時に藤尭が二課本部と回線を繋いだ。 一斉に視線を向けられながらも藤尭が外の映像をモニターに映すと……
「……あっ! 響!! 律さん!!」
「「「え?」」」
「それに…あの時のクリスも……」
映し出されたのは交戦中のシンフォギアを纏った律たちだった。
「あ……さっきの……」
「私たちを助けてくれた黒い人……」
その次にフィーネが映し出されると、藤尭と友里が困惑の表情を見せる。 未だにフィーネと櫻井 了子が同一人物だと信じられないようだ。
「これが——」
「了子さん…?」
「どうなっているの?! こんなのまるでアニメじゃない…!」
いきなり友人が戦っている姿を見せられる弓美はいつもの口癖も本気で口にする。
「ヒナはビッキーのこと知ってたの……? それにサキさんの事も」
「…………」
未来は創世から視線を逸らし俯いてしまう。 それを肯定と受け取った創世は静かに頷く。
「前にヒナとビッキーがケンカしたのって……そっか、これに関係することなのね……」
「ごめん……」
(それに、風鳴 翼さんも……そしてサキさんと一緒にいた天羽 奏さん……そう、繋がってたんだ)
真実を知った彼女たち。 隠していたことを怒ると思いきや、未来の立場だったら……そう思うと、誰も追求することはなかった。
◆ ◆ ◆
「ハァッ!!」
急降下から振り下ろされた剣、フィーネは身を捻って避けるが……即座に斬り返した律の剣は、鎧を掠めるだけで済む。
「チッ!」
「デヤアァァァッ!!」
【MEGA DETH PARTY】
悪態つく暇もなく離脱し、クリスは雄叫びながら左右の腰部アーマーを展開し、内蔵の多連装射出器から追尾式の小型ミサイルを一斉に発射する。
ミサイルは真っ直ぐフィーネに向かって飛来、フィーネは鞭を一振りして全て撃ち落とし、爆発により黒煙が立ち込む。
すると、クリスは律たちに無言で視線を向ける。 その視線に気付いた3人は……キッと黒煙、その先を睨みつけ走り出し、黒煙を突き抜けて一気にフィーネに接近する。
「はぁ! たぁああ!!」
先に仕掛けた響は蹴撃を連続で仕掛ける。 フィーネは襲う蹴りを払い、避けて防ぎ……響はその場で飛び上がると、
「はぁあああ!!」
間髪入れずに翼が斬り込んで行く。 フィーネは鞭を真っ直ぐに固定し、振り下ろされる刀を受け止め鍔迫り合いとなる。
すると、フィーネは硬化した鞭を元に戻して刀に絡ませて 、驚く間も無く翼の手から弾き飛ばした。
鞭を振るい翼はそれをバク転して回避、そのまま逆立ちになると脚部のブレードを展開し回転を始めた。
【逆羅刹】
ノコのように襲いかかる剣。 しかし、フィーネは手に持つ鞭を回転させ逆羅刹を防ぐ。
防がれたが……動きは止まった。
「ッ!」
「——ハァアアアッ!!!」
フィーネの側面から拳を振り上げながら響が接近、振り下ろされた拳をフィーネは空いた左腕で受け止める。 直後、衝撃で3人の足元から土煙が舞い、3人は揃って後方に飛ばされる。
「
「ッ……!」
「
すると、フィーネの後ろから謳が聞こえてくる。 背後に振り返ると……そこには右手に剣、左手に銃を構えた律が立っていた。
「
「チィッ!!」
既に謳は終盤、銃口と刀身に輝く紅い閃光はその輝きを徐々に収束していく。 妨害を試みようとしたフィーネは即座に防御に変更し、二本の鞭を自身の周囲に張り巡らせ円形のバリケードを作る。
「裂きて先見えん!!」
【
それと同時に謳い切り、銃口から巨大な銃弾型のエネルギーが発射され。 続けて剣を振り下ろし紅い斬撃を放つ。 2つのエネルギーが合体しフィーネに迫って行き、大きな爆発を起こす。
「ッッッ〜〜〜〜!!!! ま、まだまだぁ!!」
苦悶の表情を見せながら律は自分の頭をガンガン殴る。 なにかを払拭し、消し去りたいように……それでも、律は叫ぶように謳う。
「
爆煙が晴れる間も、フィーネの姿を確認する間も無く律は一気に上空に跳び上がり、その両翼を大きく広げる。
「
すると律の両翼から紅い閃光が迸り、その紅き閃光を放出して空を舞う翼に、徐々に刃のような鋭利な紅い結晶の羽根が生え出す。
「たゆたまえ……」
羽が生えて身の丈を優に超える大きさとなった翼を動かし、羽ばたかせ、
「されば
【
羽ばたきと同時に無数の紅い羽根が紅い光線を纏いながら地上に降り注ぎ、黒煙を突き抜けてフィーネに襲いかかる。
数十秒は攻撃が続き……羽が打ち終わり荒い息をする律が地上に降り立つ。 しかし、煙が晴れ出てきたバリケードは健在、振り解かれると全くの無傷のフィーネが出てきた。
「うぐぐぐぐ……」
「ふふふ、中々のフォニックゲインね。 独学でここまでのフォニックゲインを生み出すなんて……でも、何故そこまで身悶えているのかしら?」
「う、うっさい!」
「——こっちだバカ!!」
すると、突然クリスがフィーネを呼び、フィーネはクリスに視線を向けると……クリスが律たちがフィーネの気を引いている間に背に大型射出器と、大型ミサイル2発が展開していた。
【MEGA DETH FUGA】
2発あるミサイルのうち1つはフィーネに向けられているが、もう1つは斜め上に向けられていた。
クリスは視線を向けられた瞬間にミサイルを発射した。 大型ミサイルは追尾型、避け続けるフィーネを執拗に追いかける。 しかし、フィーネは焦りも見せずミサイルを宙を舞いながら躱していく。
「ロックオンアクティブ!」
フィーネがミサイルに気を取られ徐々に《カ・ディンギル》から離れて行く頃に、もう1つのミサイルを《カ・ディンギル》に向ける。
「スナイプ!」
「チィッ!」
フィーネの余裕があった顔が一気に歪んだ。 そして1拍子起き、
「——デストロイッ!!」
もう一つのミサイルが《カ・ディンギル》に向けて発射された。
「させるかぁぁぁぁ!!!」
浮いた状態で鞭を大きく振るい《カ・ディンギル》に真っ直ぐ向かっていくミサイルを切り裂き撃墜、爆発した。 爆発により黒煙が頭上を覆う。
「くっ! もう1発は!?」
辺りを見回し、フィーネは先程まで自分を追いかけていたミサイルの行方を探す。 すると、次第に黒煙が風に流され晴れていき、フィーネは天を見上げる。
そこには急上昇していくミサイルと……ミサイルの先端に乗っているクリスの姿があった。
「クリスちゃん!?」
「何のつもりだ!」
クリスの予想外の行動に響と翼は驚愕する。 その時、稼働していた《カ・ディンギル》からさらに大きな稼働音が聞こえてくる。
(まさか……!)
「ッ……だが、足掻いたところで所詮は
何をするにせよ《カ・ディンギル》は止められない、そう確信しているフィーネは無駄な足掻きとばかりに吐き捨てる。
「——Gatrandis babel ziggurat edenal」
すると、空から歌声が降ってきた。 その歌声から聞こえる歌詞に、その場にいた全員が目を見開かせる。
「この歌……まさか!」
「絶唱……!」
「やめろ……クリスーーー!!」
律は叫びなどがら地面を砕き、両翼を広げ一気に急上昇。 クリスを止めにいく。
(もしも、もう一度、お前と歌えたら…………ハン、らしくねぇな)
その声が聞こえたのか、成層圏付近でミサイルから飛び降り、落下しながらクリスは、あり得ないと分かっていながらもそう考えざる得ない自分を鼻で笑いながらも、絶唱を歌い続ける。
「Emustolronzen fine el baral zizzl」
クリスは自分の身を犠牲にし、月の破壊を阻止しようとしていた。 それは贖罪なのか、それとも善意なのか……本人にしか分からなかった。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
すると、クリスのシンフォギアの腰部のアーマーの一部が腰を起点に上にスライドするように展開され、そこから無数の菱形の結晶……エネルギーリフレクターを周囲にばら撒いた。
広げた両手を眼前で交差しながら小型の銃を両手に握り、トリガーを引き左右にレーザーを照射。 レーザーは周囲にばら撒いていたエネルギーリフレクターに当たると反射し拡散、それが幾度と繰り返され……次第にクリスの背に増幅されたエネルギーで構成された大きな蝶の翼が形作られていった。
「Emustolronzen fine el zizzl」
絶唱を歌い切った直後、持っていた小型の銃は変形し長大なレールガンのような形状となり。 腰部のアーマーもさらに左右に展開される。
「くっ……!」
絶唱が歌われている間も上昇を続けていた律だが、歌いきってしまった時点でもう止められない……そう分かっていてもその歩みを止めることは出来なかった。
クリスは両手に構えた2つの砲身を連結させ、エネルギーを銃口に集め。 そして、それと同時に《カ・ディンギル》の発射準備が完了し……地から天に向かう1本の砲撃と、天から地に向かう無数の糸を束ね1本となった砲撃が発射された。
「くあっ!!」
その中間にいた律は、2つの砲撃の衝突による衝撃にあおられてしまう。
「一点集束!? 押し留めているだと!?」
想定外の出来事だったのか、フィーネは目の前で起こる事態に声を荒げる。 恐らくは装者が束になっても止められないと想定していたのだろう。
それが絶唱により1人の力で押しとどめられている。 だが、その想定も当たっていたのか……砲撃を放ち続けるイチイバルの砲身に、徐々にヒビが走っていく。 そしてそれを撃ち続けるクリスも絶唱によるバックファイアを受け、吐血している。
(ずっとアタシは……パパとママのことが大好きだった……! だから、2人の夢を引き継ぐんだ。 パパとママの代わりに……歌で平和を掴んでみせる。アタシの歌は、その為に……!)
走馬灯のように自身の夢を再確認する中、腰部のアーマーにもヒビが走り、出力が落ち損傷と比例するように《カ・ディンギル》の砲撃に押されていく。
(この夢は、もうアタシ独りだけのものじゃない。 手を繋いで広がった、律の夢でも……)
「——クリスーーーッ!!!」
既に押し負け、砲撃が目の前に迫る中……薄れゆく視界に、クリスの元に向かって飛びながら必死に手を伸ばす律の姿が映る。
銃のグリップも崩壊し、クリスは空いた手で差し伸ばされた手を取ろうと伸ばし、2人の手が触れようとした瞬間……《カ・ディンギル》の砲撃が、クリスを呑み込んだ。
「——————!!」
目の前で大切な人が消えていく様を、律はただその目に映し絶句により乾いた声だけが音が響きにくい成層圏で広がる。
そして、2つの砲撃のぶつかり合いを地上から見守っていた響と翼、そしてフィーネ。クリスの抵抗により威力が削がれたとはいえ、砲撃は確かに赤に怪しく輝く月に到達した。
すると、月の端から《カ・ディンギル》の一撃と同じ緑色の亀裂が走り、その部分が月本体から剥がれ落ちようとしていた。
「し損ねた……!? 僅かに逸らされたのか!!」
自身の計画を、たかだか数年しか生きていない小娘1人に防がれてしまった事実に、フィーネは怒りと屈辱と共に唇を強く噛みしめる。
そして、はるか上空で対空している律。 ただ呆然と、クリスに伸ばした右手を見つめている。 大怪我を負っているとはいえ、クリスが地上に落下しているのにも気付かないで……
(俺は……俺は……また……)
ただ救えなかった、また救えなかったと……クリスが消える光景ぎ脳裏から離れず、自分で自分を責め続ける。
「うう……ううっ!!」
その負の想いが胸を、頭を、律自身を苦しめていく。 そしてその心の想いが、シンフォギアにも反応してしまう。
「うあぁぁあああーーーーッ!!!」
すると、その叫びが律のシンフォギアにも呼応し、さらに紅く閃光を放ち始めた。 全身のアーマーの表面に紅い線が走り、紅い粒子が放出され出す。
そして、黒いシンフォギアが変化し始めた。胸部、腕部、脚部……その全てが紅い線を継ぎ目として割れ、露出した部位から紅い結晶体が現れた、さらに大きな紅い光が放たれる。
背部にある2つの翼は折りたたまれ縦に縮小し、バックパックのように背に装着、後部から紅い粒子がジェットのように放出される。
頭部のヘッドギア、ヘルメットのように顔まですっぽり覆っていたヘッドギアが変形。 今まで左右の頰と顎まで覆っていたギアの一部が頭部に移動、さらにバイザーが収容され律の素顔が空気に晒される。 頭部に屹立していたくの字の角が左右に割れ……Vの字の左右が中折れし垂直に曲がっている2本の角となった。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!」
変化が終わると……今日最初の戦闘で溜め込んできたノイズが無数の四角い黒い破片として律の周囲に飛び交い。 その口から獣のような、それでいて人間がもつ悲痛の叫びがどこまでも、この空に轟いた。