戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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19話 運命の同契(リアクト)

クリスの絶唱による奮闘により、月の破壊は一部だけの崩壊となった。 しかし、その代償は大きかった。 数字だけで見ればたった1つだが、その1は何物にも変えることは出来ない1つ……それが、律の目の前で失われてしまった。

 

変形し、変異してしまったシンフォギアを身に纏い、定まらぬ思考が律の頭を巡らせる。

 

「———————」

 

探す。 クリスを消した人物は誰なのか、本能でしか動くことのできない思考を巡らせる。 そして地表を見下ろす……そこには点にすら見える《カ・ディンギル》があった。

 

アレを作ったのは誰だ、撃ったのは……? その答えがフィーネにたどり着くと、

 

「◼️◼️◼️◼️◼️!!!!」

 

咆哮と共に音を置き去りにして超速で急降下。 地表に向け、数秒もしないうちに律の視界にフィーネが入る。

 

「ッ!!」

 

「◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

異変に気付いたフィーネが頭上を見上げると……眼前には既に紅い眼光を走らせる律の姿が。 その右手は手刀の形で振りかぶっていた。

 

「なっ!?」

 

「うっ……!」

 

次の瞬間、フィーネを中心に衝撃と土煙が吹き飛んできた。 失意に放心していた響と翼は両腕で顔を覆いながら衝撃に耐え、すぐに土煙が晴れていくと、

 

「ウゥゥゥ!!!」

 

「ぐううっ!」

 

フィーネを押し倒し、その右の手刀で彼女を貫こうとしている律の姿があった。 フィーネは今にも自身を貫こうとする右手首を両手で掴み押し留めている。

 

「退け!!」

 

「グアッ! グルアアアア!!!」

 

覆いかぶさる律を蹴り上げて脱し、受け身をとって着地した律は血走る目でフィーネを睨みつける。

 

「あ、あれって……」

 

「律……なのか?」

 

シンフォギアが変化しているが、かろうじて分かってしまう。 目の前で紅く血走る眼光をフィーネにだけ向け、化け物じみた唸り声を上げているのが律なのだと。 その姿は今のシンフォギアと相まって鬼のようだと……

 

その様子を、地下シェルターで見ていた未来たちは律の変貌に言葉を失っていた。

 

「律、さん……」

 

「アレ……本当にサキさんなの……?」

 

面影は確かにあるとはいえ、誰もモニターに映る獣のような人物を、あの優しい律だとは思いたくなかった。

 

「ゥゥ……!!」

 

「恐らく、雪音を目の前で失った失意に呑まれているのだろう」

 

「……もしかしたら、私もああなってたかもしれません……」

 

だが、絶望しかけた響は気を確かに持ち直した。 自分よりも遥かに仲が良かった律が打ち拉がれている中で、自分まで落ち込んでいる暇はないのだと。

 

「律さん……!! 目を覚ましてください、律さん!!」

 

「律! 気をしっかり持つんだ!」

 

呼びもどそうと2人は律を呼びかけるが、律の視界と思考はフィーネ、その一点に集中されておりその他の声や情報はまるで受け付けていなかった。

 

「普通、融合症例である立花 響にしか暴走の傾向は見られなかったのだが……芡咲 律の体質故か、それとも特異な聖遺物故か……中々どうして、意欲を掻き立ててくれる」

 

「……何か、知っているんですか?」

 

響は震える声で、フィーネに質問する。 フィーネは律に一瞥し、今は暴走する力を制御している最中だと判断しその質問に答えた。

 

「そいつが使う聖遺物はお前たちと比べ少し特異でな。 表に出している聖遺物を起点に、別の聖遺物が混ぜ込まれている」

 

「なんだと!?」

 

聖遺物の中にさらに別の聖遺物が……その事実に翼は驚愕し。 そんな翼を小馬鹿にするように、フィーネは苦笑する。

 

「可笑しいとは思わなかったのか? 芡咲 律は確かにノイズに触れても炭化しない特異な存在だ。 だが、それだけだ……それだけでバグを起こしたシンフォギアがノイズを吸収し、エネルギーに変換する機構が取り付けられるはずがない!」

 

言われてみて、ようやくハッと気がつく。 確かに律は素でもノイズに触れられる特異な存在。 その影響でシンフォギアにバグが起きているのも事実、だが……それでノイズを吸収し力にするというのはまた別の話であった。

 

「もっとも、その表に出している聖遺物ですら、出所不明の曰く付きだがな」

 

「え……」

 

最後にフィーネは響たちに聞こえない声で呟いた後、

 

「まあ私としては、立花 響の暴走も一目見たかったがな……」

 

「!! まさか……響を使って実験を!?」

 

「ええっ!?」

 

響はフィーネが櫻井 了子だった時に彼女診察を受けていた。 その時にデータや、何らかの処置がされていてもおかしくないと翼は考える。

 

「実験を行っていたのは、芡咲や立花だけではない。 これはこれで、面白い結末が見られそうだ」

 

「お前はそのつもりで立花を——奏を!!」

 

「ゥルアッ!!」

 

フィーネが行っていた実験は律や響だけではなく、奏の時から行われていた……翼が怒りを露わにすると、同時に唸っていた律が顔を上げ、地を蹴り錐揉み回転しながらデタラメな動きでフィーネに飛びかかる。

 

「律さん!!」

 

右掌を広げ爪を立て振り下ろされる。 フィーネは自然体のまま鞭だけを操り交差させ律の手を受け止めるが、勢いまでは止められずフィーネの足元が陥没する。

 

「……ハハッ!」

 

獣のように吠える律を一笑するフィーネ。 律は空いた左手を爪を立てながら振り上げようとし……上から迫る鞭を受け弾かれてしまう。

 

しかし、律はただでは弾かれず、脚部の踵から刃を迫り出すと蹴り上げ、ネフシュタンの鎧から出ている突起物を切り落とした。

 

「……フン、理性が飛ぼうと身体に染み付いた技は忘れないか。 いや、むしろ動きが良くなっている。 どうやら私を生かそうという甘さがあったようだな」

 

切り落とされた部位を撫でながら律を科学者の視点で分析するフィーネ。 突起物はすぐに再生し、律を睨みつける。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!」

 

背中のブースターから無数の紅い結晶が放出、周囲を飛び交い……増殖し刀身だけの剣となると、フィーネを中心にドーム状に取り囲んだ。

 

「こ、この数の(つるぎ)は……!」

 

「…………! 翼さん!!」

 

次の瞬間、刃はフィーネに向かって振り下ろされた。 しかし、多闇雲に放っているようで、翼に向かって振ってきた刃を響が殴って砕いた。

 

「見境なしか!」

 

「しっかり掴まってください!」

 

すぐさま響は翼に肩を貸し、両脚のジャッキでその場から離脱した。 そして、紅い刃の雨の中心部にいるフィーネは両手の鞭を振り回して降り注ぐ刃を撃ち落としていた。

 

「……人ではなく魔を喰らう概念に変質したか。 正しく“妖刀”だな」

 

破片となり足元に転がる結晶を一瞥しながらそう呟き、全ての紅い刃の結晶を撃ち落とした。

 

鞭を振り払い最後の結晶を撃ち落とすと、息を荒げ唸り続ける律に視線を向ける。

 

「もはや、人にあらず……今や人の形をした破壊衝動。 いや、本当にバケモノか?」

 

フィーネは次第に人から堕ちていく律を蔑むように嘲笑う。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!」

 

叫んでいるんだろうが、それはノイズを口から出しているような咆哮……誰も聞き取ることは出来ず、背のブースターから紅い閃光を噴射させ一瞬でフィーネとの距離を肉薄する。

 

すると、微笑を浮かべるフィーネは頭上に鞭を幾度となく交差し編み込み始める。

 

【ASGARD】

 

そして出来たのは六角形で構成された半透明な障壁。 律は障壁に向かって飛び込み、手刀を打ち込んだ。 衝突により電撃が走り、律は吠えながらも手刀を捩じ込もうとし……障壁にヒビが走る。

 

障壁が破られそうになっているのにも関わらずフィーネはその場から動こうとはせず、笑みを浮かべながら律を見上げ……手刀が障壁を貫き、そのままフィーネに振り下ろした。

 

「くっ……!」

 

「律さん!!」

 

衝突により岩の破片が衝撃ともに周囲に飛び散る。 衝撃が収まり、土煙が晴れると……そこには両膝をつき海老反りになって空を見上げるフィーネの姿が。

 

しかも、フィーネの左の頬から腹部にかけ、右上がりの直線を描き切り裂かれていた。

 

「ひっ……」

 

思わず息を飲む響。 そんな状態にも関わらず、いくらネフシュタンの回復力があるとはいえ未だに笑みを浮かべるフィーネに翼は恐怖すら覚える。

 

その直後、攻撃の勢いで瓦礫に埋もれていた律が瓦礫を粉砕して出てきた。

 

「もうよせ、律! これ以上は、お前の身体が持たないぞ!!」

 

律の身を案じた翼は呼びかけようと声を上げる。 その声に反応したのか、律はゆっくりと振り返り翼を視界にいれると……地を蹴り、翼に向かって襲いかかった。

 

「翼さん!」

 

「ッ!」

 

止める事はおろか、ただ標的が変わっただけ……翼は斬ろうと刀を振り上げようとしたが、寸での所で迷ってしまった。 律が仲間になったからこそ、斬る事は出来ない……翼は苦悶の表情を見せながら振り抜こうとした腕を肘から突き出し、飛びかかってきた律の腹部を打ち付けた。

 

「ウゥゥゥゥッ!!」

 

「律さん……律さん!!」

 

「律ーー!!」

 

再度、襲いかかる律に、響と翼は一心の想いで呼びかけるが……暴走している律には届かず、両手の手刀を2人に向かって振り下ろした。

 

「ガウウ……」

 

その飼主の様子を、近くで見ていたリューツは悲しそうに鳴いた。

 

その後も律は執拗に響と翼を無慈悲に襲いかかり、彼を傷付ける事の出来ない2人はただ防ぐしかなく……次第に疲弊していく。

 

「くうっ……!」

 

「うぅ……」

 

既にシンフォギアも、装者も大きなダメージを置いボロボロ。 手加減するしかない2人と容赦のない律……止める術を持たない以上、耐えるしかなかった。

 

「あのシンフォギア……フィーネが言った通り異常だ! こちらのシンフォギアまで取り込もうとしている!」

 

「シンフォギアって……“魔”とかそういう分類に入ってるんですか? ノイズと一緒とかなんか嫌です……」

 

半ば折れた刀を捨て、新たな刀を手に取る翼。 折られた刀のもう半分は律の手にあり、握りつぶすと律のシンフォギアに取り込まれてしまう。

 

2人の身に纏うシンフォギアの損傷も、ほとんどが接触による吸収である。

 

「はぁはぁ……くっ!」

 

「律、さん……お願い……元に……!」

 

「——ハハッ、どうだ? 芡咲 律と刃を交えた感想は?」

 

すると、今まで動かなかったフィーネから笑い声が。 2人はフィーネの方を向くと……律に付けられた傷が生々しい音を立てながら塞がっていくフィーネの姿が。

 

「中々甘美であろう?」

 

「くっ!」

 

そこで悟る。 恐らくフィーネはワザとダメージを受けたことを。 フィーネは仲間同士で戦う構図を作るための演技だと……そして、ネフシュタンの鎧の力にしては異常な回復力を。

 

「フフ……」

 

「人の在り方すら捨て去ったか……!」

 

「律さんに言ったこと、思いっきりブーメランじゃないですか……」

 

「私と一つになったネフシュタンの再生能力だ。 面白かろう……?」

 

その時、初弾の発射以降、停止していた《カ・ディンギル》が再び起動し始めた。 塔内では雷撃が起き、電子、重イオン、陽子の動きが加速されエネルギーが収束されていく。

 

「……まさか!?」

 

「そう驚くな。 《カ・ディンギル》が如何に最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。 必要がある限り何発でも撃ち放てる……その為に、エネルギー炉心には不滅の刃(デュランダル)を取り付けてある。 それは尽きることのない無限の心臓なのだ……!」

 

「そんな……私が暴走して、起動したばかりに……」

 

故意ではないとはいえ、響が自分の手で《デュランダル》を起動させたために世界が破滅に向かおうとしている事実に……響はようやく、クリスが背負っていた自責の念を理解した。

 

「……だが……」

 

「ん?」

 

「貴様を倒せば、《カ・ディンギル》を動かす者は居なくなる……!」

 

「翼、さん……」

 

煌々と笑みを浮かべていたフィーネ。 そしてまだ諦めてはいない翼は《カ・ディンギル》を、延いてはフィーネの野望を止めるべく刀の剣先を突きつける。

 

だがその前に、立ち上がった律を先になんとかしないといけない。

 

「律……」

 

「ゥゥゥ……◼️◼️◼️◼️◼️……!」

 

「ぐっ……翼さん……逃げ、て……!」

 

大きなダメージを負い立ち上がれない響は、せめて翼だけでもと声を振り絞る。

 

翼は唸り続ける律に向けていた目を、フッと閉じる。 その状態が続く間も《カ・ディンギル》の発射時間は刻一刻と迫っている。

 

そして、ゆっくりと開かれた目は、先程のような鋭いものではなく、どこか柔らかく優しい目で律を見る。

 

「律……私は《カ・ディンギル》を止める。 だから……!」

 

「◼️◼️ッ!」

 

翼の声に反応したの、律は右手の真っ直ぐに指を揃え手刀の構えを取り、その手に紅い閃光で構成された刃が纏われる。 そして地を蹴り、翼に使って飛びかかる。

 

咆哮を上げながら右腕を振りかぶる律。 それに剣先を律に向けていた対し翼は……刀を地面に突き刺し、再び瞑目しその場に佇んだ。

 

「ぁ……?」

 

「翼さん!?」

 

傍観していたフィーネも、倒れ伏していた響もその行動に驚かせる。 再び開眼すると、翼の眼前には右腕を振り上げる律の姿が。

 

そして、律の右手は無防備な翼に向かって振り抜かれ……シンフォギアの破片と赤い血液が宙に舞った。

 

「翼さんーーー!!」

 

「翼ぁ!!」

 

響と、一連の出来事を地下シェルターで見ていた奏は思わず叫んでしまう。 誰もが悲惨な光景に目を伏せる中……翼は両腕を上げ、目の前まで来た律を抱きしめた。

 

「なっ……?!」

 

その突飛な行動に、フィーネはもちろん、地下シェルターで静観していた未来たちは驚愕で目を見開かせる。

 

翼は動きを抑えるように右手をそのまま強く律を抱きしめ、左手でその身を貫いた律の血が滴る右手を取った。

 

「これは……夢を繋げ広げる力のはずだろう? 血に汚れてしまったら、誰も掴んではくれないぞ? 夢も、勇気も、希望も……」

 

耳元て優しく問いかけながら、脚部のパーツから短刀を射出。 右手でキャッチするとすぐに投擲し、月夜の光に映る律の影に突き刺さった。

 

【影縫い】

 

その瞬間、律の身体は硬直したように動かなくなった。 まるで影と自身が地面に縫い付けられたように。

 

「……ぁ……」

 

「律……この死が蔓延る世界に、決して屈しないで。 貴方だって、歌で人を幸せに出来た……歌で笑顔になれた。 そして、戦場で歌えなかったとしても……貴方は、貴方の謳で、私たちを救ってくれた」

 

いつもの口調ではなく、女性らしい言葉使いで呼びかける。 そしてもう一度、優しく抱きしめた後、翼はゆっくりと律から身を離し、地面に刺していた刀を抜き律の横を通り抜いた。

 

「だからね、律……貴方も決して——“生きることから諦めないで”」

 

「あ……」

 

「—————」

 

翼から律に送られた言葉、それは2年前に奏から響に送られた言葉だった。

 

倒れながら翼の様子を見た響は声を漏らす。 先程までは律の身体で隠れていたが……翼の胸から血が溢れ、口からも食道からせり上がった血により吐血していた。

 

「……私は……貴方のおかげで救われた。 だから貴方たちが生きる世界は——私が守る」

 

最後の言葉を言い切ると……翼はキッと、その目は再び防人としての戦人の目となりフィーネを睨みつける。

 

「……待たせたな」

 

「その胸に燻る感情を知ってもなお、その想いに蓋をしどこまでも剣と生きるか」

 

口調は女から防人へと元に戻り、その手に握る刀を強く握りしめる。 そして、律から離れるように一歩、フィーネに向かって歩き出そうとした、その時、

 

「……◼️◼️……◼️ァァ……ア、ア……あ……」

 

「………………」

 

律の口から呻き声が聞こえてきた。 翼は一瞥することなく、そのまま向かおうとすると、

 

「——蒼き……心……」

 

「!?」

 

「風、を……鳴らし、て……!」

 

暴走していた律の口から、確かな言語が出てきた。 思わず翼は振り返ると、そこには黒く染まっていた暴走状態の律はいなかった。

 

「契り結ばん!!」

 

そして、最後の詩を紡ぐと……翼の身体が蒼く光り輝き出した。

 

「なっ!?」

 

「翼さん!」

 

突然の現象に誰もが驚く中、翼の身体は光の粒子となり、律の右腕に纏わりつくと……一振りの片刃の大剣、翼のアームドギアがその手に握られた。

 

「な、何が……」

 

「——おわっ!? なんだこれ!?」

 

変化が止まると……律が人のように顔色を変えて驚愕し、周囲や自分の身体を見回す。

 

「律さん! 元に戻ったんですか!?」

 

「ん? あれ、俺何してたんだっけ? というかこれ剣なに? 何で持ってるんだ?」

 

『それはこちらの台詞だ!!』

 

そこで、律の背後に幽霊のように翼の幻影が現れた。 髪は解かれ、服一つ着ていない状態でだ。 だが胸から下は体の線のみが朧げに見えるだけで完全に透明で、胸から上は半透明になっている。

 

『正気に戻ったことは嬉しい。 だがこれとそれとは話は別、私は一体どうなったんだ!』

 

「耳元で叫ばないでくださいよーー……」

 

原因はどうあれ、元に戻れたことに喜ぶ翼。 それでも自分の身に起きた現象について問いただしかない。

 

「フフフ……フハハハハ!! 面白い、面白いぞ芡咲 律!!」

 

すると、一部始終を見ていたフィーネが額に手を押し当て、天を見上げながら狂ったように笑い出した。

 

「お前の魔喰らいの能力は遂にその領域まで達していたか! 他の聖遺物を取り込み、拒絶することなく同化させ力とする! しかも装者ごとだと!? 面白すぎて——反吐が出そうだ!!」

 

「ッ!」

 

笑みから一転、怒気迫る勢いで変貌する。 その怒りの形相に、律は思わす怯んでしまう。

 

「それこそがバグなのだ! 貴様が天羽々斬を取り込んだからなんだ? 加えて今更、歌えもしないお前が正気に戻った所で私を止められるかぁ!!」

 

「ぐッ……!!」

 

大剣ごと蹴り飛ばされ、地面を大きく引き摺りながら後退する律。 受け身のため背中に意識を向けると……

 

「うわっ!?」

 

ブースターが点火し、妙な勢いでフワリと浮き上がるとつんのめりながら着地した。

 

「翼がない! それにこのシンフォギア、いつもと違うし……」

 

今更ながらに律は変形したシンフォギアを見下ろす。 すぐに慣れそうだが、フィーネ相手にそんな試運転や準備運動をする余裕などないだろう。

 

『くっ! この状態でどう動けばよいのだ!』

 

苦戦を強いられている状況や戦えない憤りで翼はバシバシと律の肩を叩く。 精神体というか幽霊に似た状態なので触れる訳もなく、痛くも何ともないのだが、正直鬱陶しい。

 

思い通りに動けない翼の焦りが出てきたからか、大剣の峰の部位が変形し、そこからブースターが出てきた。

 

『よし!』

 

「へ? ——どわっ!?」

 

するといきなり大剣のブースターが火を噴き、勝手に動き出し、大剣を握る律は引っ張られてしまう。

 

翼はフィーネに向かっていこうとしたが、全く違う方向を右往左往し、最後には瓦礫に突き刺さって停止した。

 

「ちょ! 翼、うわっ!」

 

『動き難い! この身は剣として生きていると言ったが、本当に剣になるとこうもやり辛いとは』

 

「……でしょうね……」

 

引きづられ身体中が土だらけとなった律は土を払いながらそうごちり、瓦礫から大剣を抜く。

 

「やれやれ……止める気はあるのか?」

 

『くっ!』

 

ほくそ笑みながら愚者を見るような目でフィーネは律と翼を見下す。

 

翼は歯を食いしばり、もう一度フィーネに斬りかかろうとすると……律が踏ん張りながら柄を両手で強く握り、突っ走ろうとする翼を止めた。

 

『なにをする!!』

 

「翼、一人で突っ走ろうとはしないでくれ」

 

その一言に、翼はハッとする。 すると徐々に大剣から力が抜けていき、律はダラリと両腕を下げるとフゥ、と脱力しながら息を吐いた。

 

「何はどうあれ一緒に戦う以上、呼吸を合わせないと。 フィーネを倒すために……明日を作るためにも」

 

『律……』

 

「鳥は両翼揃ってこそ、空を飛べるんだ。 奏と比べて役不足かもしれないけど……」

 

律は大剣を両手で構え、フィーネに剣先を向けながら叫んだ。

 

「この片翼を、翼に預ける。 だから翼も俺を信じて預けてくれ!」

 

『!!』

 

大剣に向かって、翼に向かって律はそう投げかけた。 少しの間、考え込んだの後……翼は力強く頷いた。

 

『……いいだろう。 この身、この剣は其方と共にあり。 この絶刀、存分に振るうがいい!』

 

「この剣を持って、全ての道を切り開く。 覚悟しろ、フィーネ!!」

 

「舐めるなぁああ!!」

 

堂々とした発言に頭にきたのか、フィーネは狂気に満ちた顔で腕を交差するようにして2本の鞭を律に向かって投擲する。

 

かなりの速度だが……律はヒラリと跳び、余裕を見せるように危なげなく軽く躱した。

 

「凄い……身体が自由に動かせるようだ」

 

『この姿も中々悪くないな。 今の所は助言する以外は何も出来ないが』

 

「それでも十分だし、俺はなんだか安心する。 側に翼がいるだけで心強くて、どこまで一緒に飛べる気がするんだ」

 

『そ、そうか……』

 

褒め慣れていない翼は、律から顔をそらしながら照れ臭そうに赤らめた頰をポリポリとかく。

 

そんな呑気に話している間も先程避けた鞭が再び襲いかかってくる。 律は下段に構え、2回大剣を袈裟薙ぎに振るい、飛来してきた鞭を半ば斬り落とした。

 

「何っ!?」

 

今までの戦闘の中でネフシュタンの鞭が斬れた事は一度たりとも無かった。 それが今、ただシンフォギアが合体しただけの相手にこうも簡単に斬られた事実に、フィーネは激情を覚える。

 

『律、“蒼ノ一閃”だ!』

 

「出るの!?」

 

『出すんだ!』

 

半信半疑になりながらも翼を信じて大きく跳び上がり、上段に構え刃から蒼い輝きを放つ大剣を振り下ろす。

 

【蒼ノ一閃】

 

放たれた蒼い斬撃。 しかし、その大きさは翼のと比べかなり大きく。 速度、威力も段違いで地面を裂きながらフィーネに向かって飛んで行く。

 

「なっ——ぐああっ!!」

 

フィーネは斬撃をかき消すために鞭を振るうが……逆に弾かれ、驚く間も無く蒼ノ一閃が直撃し吹き飛ばされる。

 

「歌を歌っている訳でもないのに……なんだその力は!?」

 

「俺にも分からん!」

 

『だが、無限とも言えるほど溢れ出るこの力……必ずや、この刃を届かせてみせる!』

 

律は大剣を縦横無尽に振るい、フィーネを斬り続ける。 その剣は重く、しかも速い……そう、一振りの剣を振るっているのは律と翼の2人。

 

背後から翼が振るうべき太刀筋を律に見せ、その軌跡に沿って律は大剣を振るっている。

 

「チィッ!!」

 

損傷と再生を繰り返すネフシュタンに大きく悪態を吐くフィーネは、全身を取り囲むように鞭を螺旋を描くように円柱状の壁を作り、大剣からの防御と律から距離をとらせる事を同時に行なった。

 

「ふうっ!」

 

一歩後退してから一転、律は左足を軸に一回転し、そのまま横の回転切りを放とうとし、

 

『そこだ!』

 

振り抜く前の大剣の柄頭がフィーネに向いており、そこから短刀が射出された。

 

「ッ……!」

 

飛来する短刀は展開中の鞭に阻まれるが、一瞬だけ目くらましにはなった。 その一瞬の間に、大剣の峰のブースターが火を噴き、

 

「でりゃあああ!!」

 

「ガッ!!」

 

腕力、回転による遠心力、そしてブースターの加速力の加わった回転斬りが防御を貫いて炸裂。 フィーネは腹部を斬り裂かれながら横へ吹き飛んでいく。

 

「貴様ら……ッ!!」

 

傷はすぐさま回復されるが、負ったダメージは精神的に残る……それがフィーネの怒りをさらに促進させる。

 

フィーネは怒りの形相で律の方を向くと……そこには先程より蒼い輝きを放つ大剣を構えている律の姿が。

 

「はあああああっ!!」

 

『これが、私と律の剣の道だ!!』

 

【十文字・蒼ノ一閃】

 

刹那の間に2度、上段からの振り下ろしと横薙ぎを繰り出し。 その軌跡に十字に蒼い斬撃残り、フィーネに向かって追撃する。

 

「ぐううっ……!」

 

フィーネは鞭を振るい瓦礫から突起している鉄柱に絡ませて自身を引き寄せる。 飛来する蒼い十字の斬撃は数秒までフィーネがいた地点に衝突する。

 

「まだまだ!」

 

『この程度で私たちは止まらないぞ!』

 

【千ノ落涙】

 

大剣を振るうごとにその太刀筋から無数のエネルギー状の剣を生み出し投擲。 フィーネは次々と迫り来る剣を避け、周囲を駆け回る。

 

「くそ!!」

 

降り注ぐ剣を避けながらフィーネは悪態を吐く。 律と翼によって地べたを這いずり回されている事が、それがたまらなく屈辱のようだ。

 

『律!』

 

「そこだ!!」

 

タイミングを見計らっていた翼が指示を出すと、律は大剣を振り下ろしてからすぐに切り上げ、縦の“蒼ノ一閃”を横に並べて並走させ、間にフィーネを挟み込むようにして飛ばし……フィーネの足を止めさせた。

 

「チィッ!」

 

『行くぞ、フィーネ』

 

「これで……最後だ!」

 

そして2人は最後の一撃を繰り出そうと大剣を頭上に掲げるように上段に構え、自然と脳裏に浮かんで来た謳を紡ぎ出す。

 

「『太秦(うずまさ)は 神とも神と 聞こえくる』」

 

2人が紡ぐ謳が揃い、重なりながらエネルギーが上昇。 大剣から蒼い光が溢れ出し、徐々に大きく膨れ上がっていく。

 

「…………! 貴様らッ!!」

 

そこでフィーネは気付く。 自分が背にしているのが《カ・ディンギル》だと……既に蒼き刀身は塔の半分の高さまで伸びている。

 

一応、律は指揮者でもある。 その気になれば相手を任意の場所へ誘導することなど造作もなかった。

 

『「常世(とこよ)の神を……」』

 

「舐めた真似をーーーっ!!」

 

避けることは絶対に出来ない。 フィーネは嵌められた怒りを露わにしながら鞭を操り、無数の六角形で形成された障壁……“ASGARD”を三重に展開した。

 

そして、律が大剣を天に掲げながらフィーネ、延いては《カ・ディンギル》を見据える。 幻影の翼も大剣をその両手に掴み、片足を一歩前に踏み出し、

 

『「撃ち(きた)ますも!!!」』

 

天羽々斬(アメノハバキリ)

 

2人は揃って大剣を振り下ろした。 《カ・ディンギル》よりは劣るがそれでも天貫くが如き巨大な剣、このまま斬り裂ければ確実に塔を破壊することが出来る。

 

「ああああああああっ!!」

 

だが、当然そうはさせまいとフィーネが飛び出す。 フィーネは大剣が振り下ろされたと同時に飛び上がり、大剣が振り下ろされる前に目の前に展開していた三層のうちの一つ、一層目の障壁と激突させた。

 

「ぐっっ!!」

 

両手で障壁を支えながらフィーネは鞭を地上に伸ばし、大剣と直角に鞭を固定し滑り止めとした。 だが、

 

「『はあああああああああっ!!』」

 

それだけでは2人は止められない。 障壁は斬れないながらも押していくことで鞭が地面を大きく削り、フィーネは徐々に後退……比例して《カ・ディンギル》との距離も肉薄されていく。

 

その途中で、ピシリと……一層目の障壁にヒビが走り、斬り裂き砕くと続けて二層目もその勢いで破壊、そのまま三層目で再び衝突する。

 

『行くぞ、律! 今こそ共に明日を切り開くぞ!』

 

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 

互いに対面しながら尋常ならざる力を雄叫びと共にぶつけ合い、苛烈にせめぎ合う。 そして、その拮抗は、

 

「この……ガキどもがああああ!!」

 

律と翼が最後の三層目の障壁を斬り裂く事で決着がついた。

 

「や、やった!」

 

「行けえええっ!! 翼、律!!」

 

固唾を飲んで静観していた響と奏も自然と笑みを浮かべて、その期待に応えるように律と翼はそのまま《カ・ディンギル》を斬り裂ことする。

 

「まだだああああああぁぁぁっ!!!」

 

がしかし、まだ諦めないフィーネは、両手を前に突き出し……振り下ろされる大剣をその身で受け止めた。

 

『何!?』

 

「体で受け止めた!?」

 

「この身はどんな損傷を受けたとしても幾らでも回復できる……だが! 《カ・ディンギル》には替えが効かない——ここで破壊されてなるものか!!」

 

完全な捨て身の防御。 ネフシュタンによる異常な再生能力があるからこそ、躊躇なくできる荒業。

 

その執念、そして気迫……気圧されてしまったのか、僅かだが威力が落ちてしまい、大剣を振り下ろす速度が徐々に落ちていく。

 

『気張れ、律! ここが正念場だ!!』

 

「ぐっ……お、おおーーっ!!」

 

翼の叱咤で気を取り戻す律。 翼は大剣のブースターをさらに噴射させ、負けじと律も全力で振り下ろそうとする。

 

「おおおおおおおッ!!!」

 

「うっ……ううぅ……!!」

 

『くうっ……!』

 

しかし、それ以降大剣が進むことが出来ない。このままでは律たちの消耗で技が維持できなくなり、《カ・ディンギル》を破壊する手立てとチャンスが無くなってしまう。

 

(どうすれば……!)

 

『……………………』

 

攻撃の手を緩める気は無いが、その気持ちに反して勢いは体力とともに落ちていく。 悩めども打開策は浮かばず、刻一刻と時間は過ぎて行き……柄を強く握りしめる律の両手の上に、翼の手が添えられた。

 

「翼……?」

 

『後は任せてくれ』

 

すると……律の両手から柄の感触が消えた。

 

「翼!?」

 

『律。 私の声が律の心に届いてくれて……本当に嬉しかった。 私の声でも……歌でも、人々を救えるのだと自信を持てた。 本当に——ありがとう』

 

翼は律にお礼を言いながら変身を解除して元に戻り、消えゆく蒼き大剣の中を突っ切り……刃を受け止めていたフィーネに抱きつき両足のブースターをフル点火して加速、そのまま《カ・ディンギル》に向かって飛んで行く。

 

「何!?」

 

「フィーネ。 共に黄泉路の先へ行こうぞ!」

 

どうやらこのまま《カ・ディンギル》に突っ込み、フィーネもろとも道連れにするつもりのようだ。

 

抵抗するフィーネは腹に抱きつく翼を何度も拳を振り下ろし叩くが、翼は袋叩きになろうとも決して離そうとはしなかった。

 

「翼ーーーーーッ!!」

 

「おおおおおぉぉぉぉ!!」

 

「この……! 風鳴……翼ぁああああ!!!」

 

律の叫びと、フィーネの怒号が同時に響き……2人は稼働する《カ・ディンギル》の内部へと突入。 すると《カ・ディンギル》の至る所から光と雷撃が発生し、次第にそれが爆発へと変わって行き、

 

——ドカアアアアンッッッッ!!!

 

「うっ——うわああああああっ!!」

 

閃光が夜を飲み込み、次いで地を揺るがす程の大爆発を起こした。 至近距離にいた律は耐えることも出来ず爆風に煽られ、迫り来る爆炎の中に飲み込まれていった。

 

 

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