戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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第2話 人たる業

「こ、これは……」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

ツヴァイウィングのライブ会場下にあった実験施設、爆発の原因となったと思われる場所に数人の大人たちがいた。

 

「司令。 ライブ会場にて未確認の巨大エネルギー反応が!」

 

「何っ!?」

 

爆発で観測、測定等の機材は使用不能になったものの、検出された巨大な反応は携帯端末でも探知できた。

 

「データ照合……該当データなし。 しかしアウフヴァッヘン波形を検出——シンフォギアです!」

 

「同時に巨大なノイズ反応も検出! ノイズ率急上昇! 150%……180——200%を突破!!」

 

「シンフォギアとノイズが同時に……? 何が起こっているって言うの……」

 

次々と襲いかかる事態に、誰もが戸惑いを隠せず、自分たちも避難しなくてはならずただ成り行きを見守るしか出来なかった。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!」

 

変貌した芡咲(けんざき) (りつ)が咆哮とともに彼の周囲に黒い結晶が無数に現れ、律の身体に纏わりつき形を変えていく。

 

全身が張り付くような薄い灰色の服に覆われ。 両腕、両足、腰、胸に鎧が形成されて装着される。 背からは鋭い2つの突起物が出ると縦に開かれて翼となり、血のように紅い光が放出される。 そして頭部にヘッドギアが取り付けられ、目元に紅いバイザーが下される。

 

「きゃっ!」

 

「な、何が起こ——なっ!?」

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」

 

変身を終えると、ノイズだらけの歌を叫びながら両翼を大きく広げ赤い波動をライブ会場全体に放つ。 すると、ライブ会場を蹂躙していたノイズの侵攻がピタリと止まり……ノイズの軍団が炭化せずにバラバラになり、会場全体を覆うような無数のノイズの欠片が律の翼に吸い込まれるように入っていく。

 

「ノイズを……吸収してやがるのか!?」

 

恐らくは先の赤い波動でノイズを分解し、翼からノイズを吸収しているのだろう。 しばらくして会場にいたノイズが全て黒いシンフォギアに吸い込まれていった。

 

「ノ、ノイズが……一瞬で」

 

「構えろ、翼!」

 

敵ではないかもしれないが、味方とも限らない。 赤いバイザー越しでも分かるくらい赤い目がそれを物語る。

 

「あの胸の黒いコア……シンフォギア、なのか?」

 

奏は胸に手を当てる。そこにはシンフォギアのコアがあり、桃色のコアと違い律のは黒いコアだ。

 

「だとしても、普通じゃなさそう。 完全に暴走していると思う」

 

「敵か……それとも……」

 

槍と刀を構え警戒を続ける奏と翼。 すると、黒いシンフォギアはゆっくりと、足元から地面に吸い込まれていき、その場から消えてしまった。

 

「き、消えた……」

 

「まるでノイズのような物質の透過……一体、アレは何だったんだ……」

 

突然の出来事に頭が回らないが、黒いシンフォギアが消えたことにより、隠れていた血塗れで倒れている響が目に入る。

 

「っ! それよりもあの子だ! 今すぐ手当すれば助かるかもしれない!」

 

「あ、うん!」

 

2人はどこかに連絡を取り、響に駆け寄りがら救援を待った。

 

こうして、ノイズのツヴァイウィングのライブ襲撃事件は終わりを迎えた。 しかし、事件はまだ、始まったばかりだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「…………ん…………」

 

深い微睡みの中、律は全身が包まれる感覚と断続して微かに感じる振動によって目を覚ました。

 

「こ、ここは……」

 

ゆっくりと目を開けると……そこは一寸先も見えない茶色い景色。 身体は自由に動き回るのに、前後左右上下どこを見ても同じ色の景色しか目には写ってはこない。

 

「……どこもかしこもまっ茶色……本当にここどこ? っていうか、この格好は何っ!?」

 

周囲を見回すと自分の身体も視界に入ってくる。 その時に自分が意識を失う前に着ていた格好とは違う事に当然気付く。

 

「何この全身真っ黒のピッチピチタイツアーマード!? スッゲェ恥ずかしい……」

 

カッコいいとは思うが、既に暗黒時代を過ぎた律には羞恥心の方が強かった。 するとふと、律が目を覚ますきっかけとなった振動が頭上から届いている事に気が付く。

 

「よっ! あれ、これどうやって移動すれば——」

 

平泳ぎのように水をかき分けて茶色い世界を進もうにも全く進んでいる気配を感じず、踠いていると……律の心を読み取ったのか、背中の翼が左右に広がり、律を上へと押し上げ、

 

「って、ここ地面の下ぁっ!?」

 

ひょっこりと、地面から生首生やした状態で叫んでしまう。

 

「よっ——っお、とおっ?」

 

地面から這い上がりようやく地に足付けると……同時に律が纏っていた鎧が光となって消え、反動で尻餅をつく。

 

「元に戻った……あれ?」

 

チャリ、っと手に固い感触を感じ目の前に手を差し出すと、そこには黒い結晶のペンダントがあった。

 

「ペンダントの色が黒く……前は赤っぽかったのに」

 

どうして変色してしまったのかは分からないが、ここにいても仕方なく。 律はペンダントを掛け直して見せないように服の中にしまい、少しよろけながら歩き出す。

 

どうやら地下だったようで、迷いながらも地上に戻り、ビルから出ると……ビルの正面は警察や自衛隊で溢れかえっていた。 昨日とは違う意味でごった返している。

 

「警察や自衛隊がこんなに……

 

「——君! そこで何をしている!」

 

無関係な人間が堂々と正面に立っていれば当然目に入る。 警察の人間が詰め寄り、何かを言おうとすると……その言葉は寸での所で、喉元で詰まった。 どうやら叱ろうとしたようだが、律のボロボロの姿を見てライブの被害者だと思ったようだ。

 

「あの……ライブは、どうなりましたか?」

 

「あ、ああ。 昨夜、ノイズの襲撃によりライブは中止された」

 

「昨日!? 丸一日気絶していたのか……」

 

多少混乱したが、律はそのまま治療を受けながら事情聴取を受けた。

 

「死者……12000!?」

 

「ええ……と言ってもほとんどの死者が逃走中に起こった将棋倒しの——」

 

「おい!」

 

女性刑事の失言をもう1人の刑事が声を上げて辞めさせる。 しかし律はそんな事より、

 

「響……響は!?」

 

「え……」

 

「響は!! 友達は無事なんですか!?」

 

大怪我をした響の事が心配で、飛びかからんばかりに律は叫んだ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

ツヴァイウィングの公演中にノイズが出現した事件……被害者は観客と関係者合わせて述べ約12000人。

 

律は検査入院ですぐに退院し、響は長いリハビリの後に退院した。 そして2人は復学し、響と律を待っていたのは……世界からの拒絶だった。

 

その内ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度で、残りの2/3以上は逃走中に起こった事故によるもの。 事故の大半が人の手によって引き起こされたものであることから、事故後……生き残った生存者に向けられた苛烈なバッシングが始まった。

 

それは事件で生き残ったことで、死者の遺族から生じた妬みや怒り、行き場のない感情が生き残ってしまった2人に向けられた。 それが大きく肥大化しながらついには社会現象となり、居宅の物的被害に及ぶほどの迫害、学校内でのいじめを受けていた。

 

律は両親ともに有名な音楽家だったこともあり、迫害自体はあったものの頻度は少なかった。 しかし響は、そうではない。 律以上のいじめや迫害を受けた。 “生き残ったから”……ただそれだけで。

 

これには律ももちろん抵抗をしつつ響を助けようとし、親友の小日向(こひなた) 未来(みく)も響を守ろうとした。

 

しかしそうすれば、その矛先は未来にも向けられてしまう。

 

律は理解していた。 例え意味がなくとも、例え関係がなくとも……人は誰かを悪にしなければならないと。 そして、等々……限界が来てしまった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ぐっ、ああぁ……! は、離せ……!」

 

「……………………」

 

放課後の正門……学校の生徒たちが下向を始める中。 正門前で律は1人の男子生徒の胸ぐらを掴み、宙に浮かす勢いで持ち上げていた。

 

その背後には顔に痣が出来ている響と、彼女に寄り添う未来の姿が。

 

「お前誰? いきなり殴り飛ばすなんて常識ないのか?」

 

「う、うるさい! お前と、そいつは殴られても当然なんだよ!!」

 

「はぁ……」

 

退院した日から始まり、徐々にエスカレートしていくイジメと暴力。

 

「なぁ……あのライブにお前の友人や家族がいたのか?」

 

「い、いねぇよ……」

 

「——!! だったら!!」

 

その答えを聞き、怒りを露わにしてさらにもう片方の手で胸倉を掴み、男子生徒をさらに宙に浮かし、両足が地から離れる。

 

「あの時! あの日! 他の10万人に俺たちも含まれれば良かったのか! それでお前たちは救われたのか!! それで納得したのかっ!! 亡くなった人の中に友達がいたのか? 親友、恋人、家族がいたのか? それに対する怒りなら、甘んじて受けよう。 その罪を、この身の血を流して償おう。 それが生き残ってしまった者の責任だ。 だが! それが無く。 ただ“他の人も言われたから、命令されたから”という理由なら……お前はただの虫だ!」

 

「な……っ!」

 

その言葉に、男子生徒はもちろん周りでヒソヒソと見ていた生徒たちも驚きを見せる。

 

「自分の意志を持たず、考える事を他人に譲り、人を辞めた虫だ! だが虫に慣れなければ、周りの虫になった集団から刺され、辛い思いに合うことになる。 それでも自分だけの心を他人に委ねた者は虫になる! 俺は人間だ!! 人間として生きていく! この罪と向き合って人として生きていく!」

 

「ぐはっ!」

 

両手を離し、男子生徒は尻餅をついて地面に落下する。 そんな彼に目もくれず律は踵を返す。

 

「だが自分の言葉を言えず、意志を他人に預けた人間にまで侮辱されるいわれはない! 何も入っていない空っぽな怒り程、虚しいものはない……意志のない、虫の言葉なんか」

 

「………っ…………」

 

もう律には周りなど眼中になく、響の前で膝をつき手を差し伸べる。

 

「立てるか、響?」

 

「う、うん……」

 

「行くぞ」

 

2人を立たせ、響に手を貸しながら学校を出て早足でその場を去った。

 

しばらくして住宅街に入ると、律は足を止めて響を未来に預けた。

 

「未来。 響を頼む。 俺は少し用事を思い出した」

 

「あ! 律さん!」

 

背を向けた律は「済まない」といい、どこかへといってしまった。 その背は酷く愁傷に見えた。

 

「……未来! 追いかけよう!」

 

「響…………うん!」

 

放っては置けなかった2人は律を追いかける。

 

「律さーん!」

 

「どこにいますか、律さーん!」

 

大声で呼びかけるも、その姿はどこにも見えない。 日も暮れかけ、2人はもう家に帰ったのだろうかと諦め掛けていた。

 

「どこ行っちゃったんだろう……」

 

——枯れ果てた空 沈黙の大地

 

「うん?」

 

すると、どこからか歌が聞こえてきた。

 

——祈り(ささ)ぐ当てさえ 見えぬまま

 

「この歌は……」

 

「あっちからだ!」

 

——手折(たお)られた野花のごとく 終わりの夢にうかされて

 

近くに小高い山があり、そこの高台から歌が聞こえてきていた。 2人は山を登り、高台前に向かうと、

 

「あ……」

 

——あー何故(なにゆえ)に 我は膝を折り喉を焼いて叫ぶのか

 

そこには腕を組んで手摺に寄りかかり、空に向かって歌を唄う律の姿が。 その歌は、律の心情を表すようにとても悲しそうに聞こえる。

 

そこで2人に気づいたのか、律は歌を止め。 響と未来が律の前に向かい、少し間を置いてから振り返って背で手摺に寄りかかる。

 

「情けないだろう……」

 

「え……」

 

「あれだけ喚き散らしておいて、結局は逃げることしかできない……情けないったらありゃしない」

 

「そんな事……」

 

「あーあ、何でこうなっちゃったのかなぁ。 響の言う通り“呪われている”のかもね」

 

「今言っちゃったらシャレになりませんけどね」

 

「もう、2人の事なのにそんなあっけらかんとして」

 

再び、律は2人に背をむける。 顔をうつむかせ、重々しい雰囲気を出しながら口を開く。

 

「……近々、引っ越すことになる」

 

「えっ!?」

 

「いくら両親が音楽界の重鎮とはいえ、こうもバッシングを受け続けられるとどうしてもね。 響や未来を見捨てていくようで俺は反対したんだけど……妹もいる。 あの子も見捨ててはいけない」

 

「律さん……」

 

「本当に済まないとは思っている」

 

どんな理由であれ、律は2人を置いて逃げる事になる。 そうなれば矛先がさらに響に向けられる事になる。

 

「い、いえ! 仕方ないですよ。 友達も大事ですが、家族も……」

 

「響……」

 

家族という言葉に、言葉を詰まらせる響。 つい先日、響の父親は仕事に行ったきり戻っては来なかった。 律もまた、同じことをしようとしていると感じ心を痛めていた。

 

「もう一度、再会できる日が必ずくる。 だからその日まで、たとえ世界に拒絶されようとも、俺は歩き続ける! 立ち止まってなんかいられない!」

 

「……はい! こんなの平気、へっちゃらです!」

 

「はいっ! 絶対に、世界になんか負けるもんですか!」

 

そして、3人は顔を合わせて笑い合う。 どんな時でも笑顔を忘れず、見せ合うように……そして、律は寄りかかっていた手摺から離れる。

 

「よし、帰ろう! 今日はウチに来い! ここは思いっきりパーっとやろうぜ!」

 

「やったぁーーっ! 今日は焼肉だぁーー!」

 

「もう、落ち込んだと思ったらすぐに元気になって。 現金なんだから」

 

「素直って言って欲しいなあ」

 

「あってるかもしれないが自分で言うな」

 

空気を良くするため律が提案すると、響は嬉しそうに両手を上げ、未来は少し呆れてしまうも微笑ましそうに笑う。

 

「あ、そうだ。 未来」

 

2人の横を抜け行った律は、振り帰り際は何かを指で弾き、未来に向かって飛ばす。

 

「え? わっ!?」

 

飛んできた物を慌てながらもキャッチする。 両手を開くと、そこには直径5センチ程の丸い鏡があった。

 

「これは……」

 

「去年、中華民国に行った時に妹からプレゼントされたものだ。 それは未来が持っていてくれ」

 

「で、でも、コレは大切なものなんじゃ……!」

 

受け取れないと未来は鏡を返そうとするが、律は首を横に振って断った。

 

「大切だからこそ、だ。 俺は2人を置いていってしまう……だから俺の大切な宝物を渡すんだ。 せめてもの御守りとしてな。 それにさ、どこでそれを手に入れたと聞いたら……山で拾って来たんだとさ。 笑えるだろう?」

 

「ええっ!?」

 

「……分かりました。 大事に預からせてもらいます。 響を必ず、孤独にはさせません」

 

「ああ、よろしくな」

 

「あ! ねね、律さん! わたしには? ね、わたしには?」

 

「お前にはない」

 

「ええぇ!? そんなぁ!!」

 

目に見えてガッカリする響。 だが律が「デザートもつけてやる」というも再び元気を取り戻し、律よりも先に行く勢いで走り出す。

 

そして夜、芡咲邸の食卓ではいつもより人数が多く、その上ご馳走が並べられ、賑やかで楽しそうな声が聞こえていた。

 

その1週間後……芡咲家は遠方に引っ越し、律も学校を転校することになった。

 

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