戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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幕間 事件後

 

事件より2日後——

 

「………………ん…………」

 

曇天とした意識の中、律はゆっくりと目を覚ました。 目を開けるとまず見えるのは白い天井、少し目を動かすと点滴が下げられており、自身を取り囲むようにカーテンが仕切られていた。

 

(……なんか見たことあるような光景……)

 

この光景は2年前と、つい最近入院した景色によく似ていた。 それで律はどこかの病院のベットの中にいると判断できた。

 

と、そこで顔の近くにフワフワした感触があった。首を横に曲げると、

 

「……ぶっ……」

 

顔面がフワフワの毛に埋もれた。少し体をずらしてみると……そこには身体を丸めて寝ているリューツの姿があった。

 

「……ッ……!」

 

なるべくリューツを起こさないように少し鈍った身体を起こし、息を整える。 そしてガートル台を杖代わりに掴みベットから出て、カーテンを開ける。

 

至って普通の病室のようで、隣のベットには誰もいなかったが、畳まれた布団を見るからに以前まで誰かが使用していた形跡があった。

 

誰でもいいので話を聞こうと律は病室から出ると、

 

「は?」

 

目の前にはガラス張りの窓があったが、問題はそこに映る景色。 先も見えない暗闇だった。 それだけなら今の時間が夜だと判断するが、どうにも“質感”が違う感じがした。

 

「これって……海の中?」

 

窓に近寄り手を添える。 そこはどこかの海底……海の中だった。

 

「ここって……」

 

「——律さん!」

 

自分が今いる場所について何となく予想していると……通路の先からリディアンの制服姿の響が出てきた。

 

「ひび——ヘブッ!!」

 

律は無事を示すように片手を上げて呼ぼうとすると、響は一目散に駆け出し

 

「良かったよー、目を覚ましてー!」

 

「このバカ! はやく律から離れろ!」

 

「病み上がりなのだ、いきなり抱きついては……」

 

律から離れて響は身を起こすと、

 

「………………(チーン……)」

 

「り、律さーーーん!!」

 

そこには生気を無くして気絶している律がいた。

 

その後、息を吹き返した律は精密検査を受け。 しばらくは絶対安静という事になり再びベットに横たわっていた。

 

律は上半身だけ起き上がるとスマホを操作し、現在までのニュースや新聞の記事に目を通していた。

 

〈政府が非公式に保有していた兵器に関し、野党からは『戦後最大の憲法違反だ』との声が相次ぎ、補正予算の審議が中断する一幕も見られました。 この問題に対しアメリカ政府は、日米の安全保障上、きわめて憂慮すべき事態であると、異例の大統領声明を発表し、すべての秘匿事項を開示するように要求。 外務省はその対応に追われ——〉

 

そこまで見てスマホを持っていた手をベットに落とし、背もたれに寄りかかって天井を見上げる。

 

フィーネが行おうとした地球に向けて月の欠片の落下事件は《ルナアタック》と呼称された。 だが、この名前は世間には伝わってなく、事情を知る一部の者にし伝わっていなかった。

 

そして、あの激戦が嘘みたいに静かである。 律は逆に落ち着かなかった。 すると、そこで病室のドアが開き……弦十郎が入ってきた。

 

「よっ、養生しているか?」

 

「見ての通りです」

 

「ガウ」

 

弦十郎は「差し入れだ」とビニール袋を律に手渡した。 中身を見ると……アンパンと牛乳だった。 ネタにするなら時と場所が違う気もするが、それよりも気になることが。

 

「……ここに購買ってあるんですか?」

 

「潜水は得意だ」

 

「ここをどこだと思っているんですか!?」

 

海底なのは間違いない。 だが行き帰りを息継ぎなしで行くとなると……想像はつかなかった。 というより想像出来なかった。

 

「はぁ……そういえば、響たちは今どういう状態なのですか?」

 

「……表向きはMIA(作戦行動中行方不明)となっているが……近々KAI(戦死)に変わるだろう。 仕方ないとはいえ、申し訳なく思っている」

 

「生きているとはいえ、少々申し訳ないですね。 それで生きている事はある程度分かっている自分については?」

 

「君については完全に面会謝絶となっている。 申し訳ないがな……」

 

「……両親には、なんと?」

 

「情報漏洩を防ぐため、同様の内容を説明している」

 

「……そうですか……」

 

お互いの身の安全のためとはいえ、嘘をつくのは心が痛む。 加えて無事を知らないあちら側の方が心労は計り知れないだろう。

 

(帰ったら謝らないとなぁ……)

 

「ヤッホー律さん! 元気ですか!」

 

「病人に何言ってるのよ」

 

と、そこへ病室に入ってきたのは響、翼、クリスの3人。響の手には見舞いの品であろう、果物の詰め合わせが入った籠を持っていた。

 

クリスは律が寝るベットに腰掛ける。

 

「しっかし、お互いに絶唱したのにも関わらず、えらい差だな」

 

「それについては詳しいことはまだ不明だが……響くんのおかげだろう。 響くんがいたおかげで3人が受けるはずだった絶唱による反動を無効化した……とだけは分かっている」

 

「このバカがねぇ……」

 

クリスは律から視線を外すと、ウキウキ顔でリンゴと果物ナイフを持つ響に視線を向ける。

 

「では律さん、私リンゴ剥きますので食べてください!」

 

「立花、お前はそそっかしい。 ここは刃物の扱いに慣れている私が切ろう」

 

「家事全般が絶望的なヤツがなに抜かしてやがる。 ここはお、幼馴染である私が……」

 

「あー! クリスちゃん、ズルい!!」

 

ギャイギャイと騒ぐ響たちを余所に、律は籠の中にあったバナナを取り食べ始める。

 

「誰が切っても同じでしょうに」

 

「そう単純な物じゃないのさ。 彼女たちにとっては」

 

「そうなんですか? よく分かりません」

 

「はっはっはっ!! 頑張りたまえよ、律くん」

 

「(どうでもいい……)……ふああ〜……」

 

睡魔に襲われ思考が定まらずに大きな欠伸をし、律はベットに潜り込み、姦しい騒音をスルーして眠りについた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ルナアタックから1週間——

 

ある程度動けるようになった律は、響たちと共にこの潜水艦の前部にある管制司令室を訪れていた。

 

「色々と手を尽くして解析しましたが、やはりノイズに侵食されている原因はおろか、聖遺物すら特定出来ていません」

 

「ま、当然の結果だろう」

 

メインモニターに表示されているのは黒いギアペンダントの映像……律が使うシンフォギアについての解析結果が表示されていた。

 

この解析については本人が寝込んでいる間に勝手に行われたそうだが……律も実際に知りたかった内容なのでスルーする事にしていた。 もっとも、結果は思わしくないようだが。

 

「ただ、フィーネ……了子さんが言った内容の断片から、律くんのシンフォギアに組み込まれている第二の聖遺物についてはある程度目星をつけました」

 

「確証はありませんが」と補足を付ける。 フィーネが話した内容……“人喰らいが魔喰らいに変質”、“妖刀”。 キーワードはこの2つだけだが、藤尭は何とか見つけ出したらしい。

 

藤尭はコンソールを操作し、メインモニターにある情報を映し出した。

 

「“人喰らいの妖刀”……このキーワードに当てはまる物が一つだけありました。 《アイヌ神話》に登場する刀……《イペタム》です」

 

「イペ……タム……」

 

「ガーー」

 

ゆっくりと呟きながら、手元にある黒いギアペンダントに視線を落とす。 確かに何度かアームドギアで刀状に変形させた時、どこか禍々しい感じを醸し出していた気もする……

 

「主な能力としては人喰らいと、人の血を求めるために自立して動くと言った所でしょうか」

 

「お、恐っそろしぃ……」

 

「……魔喰らいに変質して良かった……」

 

「ふむ、そういえば先の暴走の時に無数の剣を浮かしていたな……あれがそうか」

 

人喰らいだったら目も当てられない結末を迎えていたと思うと、ゾッとしてしまう。

 

翼は律が暴走時に見せた紅い“千ノ落涙”とも言うべき技を思い出し納得していた。

 

「ただ、その恩恵もタダじゃないそうだ。 そうだな、律くん?」

 

「ええ。 リューツにノイズを取ってもらった後、しばらくして酷い空腹感を覚えました。 “ノイズが欲しい”、“ノイズを喰らいたい”……そんな欲求が出てきたんです。 だがらあの時、慌てて《ソロモンの杖》からノイズを摂取したんです」

 

「恐らく、人の血を求めて自立して動く《イペタム》の所以(ゆえん)でしょう。 味方に被害が及ばないとはいえ……使い所を誤れば、かなり危険な力ですね」

 

「シンフォギアを使っている時のみなので、普段は平気ですよ」

 

「ガウス」

 

それがせめてもの幸いである。 常時、ノイズ枯渇による餓鬼に苛まれるのはとてもじゃないが正気を保てなくなってしまう。

 

ある意味、依存性の高い“薬”と同じくらいタチが悪い。

 

「でも、律さんがいつも使っている聖遺物については……?」

 

「これ以上の解析は、私たちだけでは……」

 

「それに、これまでの情報もただの証言による推測……確証はありません。 了子さんがいれば……」

 

その一言で、この場は静まり返ってしまう。 確かに聖遺物の権威であった櫻井 了子ならば解析は可能だっただろう。 だが、仲間だった彼女はもういない。

 

結局の所、二課によるアプローチでは何も分からなかった……そんな結果となった。 その中で一番堪えている弦十郎は腕を組み少しの間佇んだ後、口を開いた。

 

「分からないのは分からない。 無い物をねだっても仕方ない……この件はこれで一時保留とし、この場で解散とする」

 

「承知しました」

 

「ま、しゃーねーか」

 

報告は以上となり、各々が司令室を後にする中、律は手の中にある黒いギアペンダントをジッと見続けていた。

 

「………….……」

 

「やっぱり気になりますか?」

 

「……気にならないと言ったら嘘になるけど、とりあえず試してみるさ」

 

「試す?」

 

踵を返し律も司令室を後にし、その後に響も付いていて行く。

 

しばらくしてこの潜水艦内でそれなりの広いスペースが使われている部屋……シュミレーションルームに到着し。 律はそこでペンダントを掲げた。

 

「Feliear ◼️◼️◼️ tron」

 

中途半端な聖詠を紡ぎ、その身に黒いシンフォギアを纏う。

 

「よっと……」

 

シンフォギアを纏った状態で準備運動を行い、ギアと身体の調子を確かめる。

 

「身体は大丈夫ですか?」

 

「問題なさそうだな」

 

「ガウ」

 

「さて……ふうっ!!」

 

問題ないことを確認すると、左腕のパーツを変形させ……紅い片刃の刀身と鍔から柄頭まで黒塗りにされた一振りの刀が握られていた。

 

「おおっ……! これが……妖刀《イペタム》のアームドギア……」

 

嬉しそうな表情を見せながら剣先から柄頭までじっくりと見つめ。 具合を確かめるため、試しに素振りを始める。

 

動きやすいようウィングは折りたたみ、左手で握った柄に右手を添え上段に構える。

 

「せいっ!」

 

「わっ!」

 

刀を振り下ろすと、剣圧により風が巻き起こる。 律は続けて自分が知る限りの剣道の型を出し……一通り振った所で刀を下ろした。

 

「ふう……問題はなさそうだけど、実戦で出すにはまだまだダメだな」

 

「そ、そうなんですか? とても凄かったですけど……」

 

「ああ。 そのうち翼に指南してもらわないと……」

 

今までは我流だったが、手本になる方がいるなら教わるに越したことはない。

 

「う、浮いた……!?」

 

「言ってただろう? 《イペタム》は独りでに動き出して人斬りをしていたって。 ……俺の意志でちゃんと動くみたいだな。 っと、鞘は……」

 

刀を納めようと考えだすと……自動で律の右腰に鞘が現れた。 律は少し驚きながらも、刀を鞘に納める。

 

そして何故が鞘には留め金があった。 不思議に思ったが、《イペタム》の性質を考えた律は留め金を入れ刀が鞘から抜けないように固定した。

 

「それにしても、長剣と刀の二刀流ってかなり変ですねぇ」

 

「聖遺物がふたつ何だから、まあそうなるだろう」

 

現実ではもちろん、ゲームや漫画等の創造物の中でも大剣と刀の二刀流などほとんど見たことはない。

 

だが、それも面白いと律は口元を少しだけ吊り上げニヤついてしまう。

 

「さて……とりあえず部屋に戻って刀を使う良さげなゲームでも探すか」

 

「あ! それならいいのを知ってますよ! サイボーグのミスターライトニングボルトが戦う——」

 

和気藹々と、2人は雑談を交えながら部屋を後にし。 その後は、翼とクリスも巻き込んでゲームをしたようだった。

 

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