戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

23 / 48
幕間 特訓?

「……ん?」

 

二課の潜水艦内で着替えの途中、ジャケットのジッパーを上げようとした時……ふと奏は眉をひそめる。

 

「んんっ?」

 

ジッパーがこれ以上、上がらない。 少し力を込めても、手には強い抵抗が返ってくるばかり。

 

「あ、あれれぇ〜? おっかしいなぁ〜?」

 

しかし認められない。 認めてはならない……というよりも現実逃避気味にプルプルと手を震わせながら奮闘を続ける奏。

 

「あっれれーー! おっっかしぃーなぁーー!」

 

——ビリッ!

 

「—————」

 

絶句の一声。 無理矢理履こうとしたジャケットは無情にも音を立てて縫い目が割かれてしまった。

 

奏は両膝をつき、次いで両手をついて項垂れてしまった。

 

「な、何でだ……装者を辞めてから確かに運動量は減ったが、ここまでなるほど食ってなんか……!」

 

「——あれだけ食べていれば当然でしょう」

 

背後から声がかけられ、奏は振り返ると、そこには呆れ顔で腕を組んで立っている翼がいた。

 

「つ、翼……」

 

「仕方ないとはいえ、奏の運動量は2年前と比べ減ったわ。 それに対して食べる量は変わらず……太るというものよ」

 

仕方ないとはいえ装者を下りることになった奏は辞めなかったとはいえ日々の特訓の回数を減らしてしまっていた。 にも関わらず食べる量は変わっていなかったので、当然体重は増えてしまった。

 

「少し食べる量を減らしなさい」

 

(……片付けも出来ない汚部屋で家事全般出来ないのに食事に関しては煩い翼の癖に……)

 

「何か言った?」

 

「——いいえなにも」

 

ボソリと呟く奏を、腕を組んで見下ろす翼。 聞こえていたのかは定かではないが、薄っすらとだがこめかみに血管が浮き出ている気もする。

 

「ほら行くわよ」

 

「あーーれーー」

 

そんな翼の心境を表すように、翼は奏の首根っこを掴むとそのまま引き摺ってどこかに連れて行った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

肥えてしまった奏と、なし崩し巻き込まれてしまった律たちは模擬戦などを行なっているシミュレーションルームを訪れていた。

 

ここは密閉された新二課本部潜水艦内でも多少はドンパチが出来るよう頑丈に作られている部屋である。

 

「これより奏のダイエットも兼ねて、日頃の運動不足を解消するため特訓を始めるぞ!」

 

「なんだってアタシまで……」

 

「まあまあ、そう言わずに一緒にやろーよ!」

 

「ま、リハビリには丁度いいな」

 

クリスは文句を言いながらも、響はウキウキしながら、律は丁度いいと言いながら準備運動を進めていた。

 

「おー、これは見事に肥えてますねー」

 

「つ、突っつくなよ!」

 

「これじゃあ双翼の比翼というより、肥沃(ひよく)だな」

 

「なっ!? 何故私までそう呼ばれなければいけない!?」

 

「連帯責任だ」

 

兎にも角にも、約一名のみがダイエットと称したトレーニングが始まった。

 

「さあ走れ! 走って脂肪を火刑に処すんだ!!」

 

「言い方!!」

 

翼の言い方に少し気になったが、とにかく律たちは外回りを全速力で走る。

 

走るだけでもなく、他に趣向を凝らして出来る限りの特訓を行った。

 

「蹴れ! ボールは友達なのではない、ボールなのだ!」

 

「確かにその通りなんですけども!!」

 

と言うものの、色々とスポーツ関連をやっていたが、途中から完全にサッカー中心に奏は特訓していた。 もちろんこれもダイエットには効果的なのだが……どうにも趣旨が変わっている気がしている。

 

「うおおおおおぉ!!」

 

裂帛の気合いを叫びながら奏はボールを頭上に蹴り上げ、

 

「——フンッ!!」

 

両手を広げながら意気込むと、落下してきたボールが奏の頭上で渦巻くオレンジのエネルギーに包まれる。

 

「ふうっ!」

 

そのエネルギーの球を飛び上がると同時にオーバーヘッド気味に下に向かって撃ち落とし、

 

「せいっ!!」

 

一瞬で地上に降りて回り込み、足払いをかけるようにボールに強烈な横回転を与え宙に浮かび上がらせ、

 

「でやあああああっ!!」

 

最後に全力で、まさに自身が槍と化すような鋭いキックを放ち、ボールは勢いよく前方に飛んで行く。

 

【Last∞Resort】

 

そのボールが辿った奇跡にはオレンジ色の線が残り……しかし、途中でボールはブレ、軌道がズレると縦横無尽に室内を飛び交った。 どうやらまだ未完成のようだった。

 

「ふむ……まだまだ未完成であるが、まさに御業(みわざ)ね」

 

「御業っていうか人様の技だよね!? 英語表記にして単語の間に無限の記号入れてるけどパクリだよね!?」

 

「というかなんで打てんだよ」

 

「……奏さんもOTONAなんですね……」

 

呆れ半分で関心する。 と、そこで思い出す……あのシュートが未だに止まらず、部屋を飛び交っていることを。

 

「って、誰がアレ止めんだよ!!」

 

『あ……』

 

すると、ボールは一直線に出入り口に向かって飛んでいき……丁度そこへ、扉が開き運悪く弦十郎が入ってきた。

 

「むっ!?」

 

「危ない!!」

 

流石と言うべきか、警告する前にいち早くボールの接近に気付いた弦十郎は即座に拳を握り、構えを取ると、

 

「はああっ!!」

 

【政府の鉄拳】

 

捻りを効かせうねりあげる拳が奏のシュートと激突し……その衝撃に耐えられなかったボールは見事に破裂し四散した。

 

「やれやれ……ビックリしたぞ」

 

「悪りぃ悪りぃ。 まさか旦那が出てくるとは思っても見なくてよぉ」

 

「しかし……見事な必殺技だった」

 

「いやあれただのパンチ!!」

 

「いえ、あれはパンチングです」

 

「どっちも同じだっての!」

 

何にせよ、普通の範疇には収まらない大人たちである。 二課の人々は……

 

「まあ何にせよ、特訓はいいことだ! 大いに励むといい!」

 

「はい、師匠!!」

 

「……そういえば弦十郎さんはどうしてここに?」

 

「なに、ちょっとした散歩さ。 こう狭っ苦しい空間に居続けると息苦しくて仕方ない」

 

(……普通に外と行き来できるくせに……)

 

見舞いの品以外にも、弦十郎は主にDVD借りに行っている度、緒川に叱られている。 総司令が自分で出した命令を守らないって……

 

「よし! サッカーで特訓ならこれだ! 少◯サッカー!! これから見に行くぞ!」

 

「おおっ!!」

 

「結局映画!?」

 

弦十郎と、乗り気な響。 2人は揃って踵を返し走り出そうとすると、

 

「行くぞ! “空太り”の奏!」

 

「“空渡り”だろ!! っていうか、アタシは太ってねえぇ!!」

 

「……もうどうにでもなれ……」

 

なし崩しに、律たちは弦十郎と一緒に映画を視聴し……特に技など何も覚えなかったのだった。

 

なお、今回のダイエットで奏の体型と体重は元に戻ったらしい。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌日——

 

「む……」

 

「………ッ………」

 

通路の曲がり角で、翼とクリスが出会い頭になり足を止める。 しばらくの間両者は無言で見つめ合う。 すると、クリスが先に引き攣った顔で片手をあげる。

 

「よ、よお……」

 

「珍しいな、こんな所で。 雪音も鍛錬に参ったのか?」

 

「違げぇよ。 律とバカが練習に行ったっきり戻ってこないから、気になって見に来たんだよ」

 

「ふむ? ではともに参ろうか」

 

せっかくなのでと、2人は揃って並んで律たちがいるであろうシミュレーションルームに向かう。

 

「「……………………」」

 

しかし、その間は完全に無言で沈黙が続き、2人が歩行する音しかこの場の音が無かった。

 

翼とクリスは目的地に到着し、中には入ると、

 

「おーい、お前ら。 いつまで——」

 

「「シンフォギア!! 少年/少女はみーんな〜!! シンフォギア!! 明日の装者ーー! Oh yeah!!」」

 

シンフォギアを纏った律と響がデュエットで歌っていた。 しかし、歌って戦うというよりただ普通に歌っている。

 

「「シンフォギア!! O・TO・NAのようにーー!」」

 

「「………………」」

 

熱唱する律と響に対し、翼とクリスは少し冷えた目で2人を見つめる。

 

「「シンフォギア!! 今こそ!!」」

 

すると、2人はいきなり走り出し、

 

「「羽ーばーたーけーーッ!!」」

 

2人は揃ってジャンプすると同時に拳を振り上げ、歌いきった。

 

「……………………」

 

「……何を、歌っているの?」

 

「あ、翼とクリス」

 

そこで、律たちは翼とクリスの存在に気がつく。

 

「シンフォギアの歌です」

 

「いや何自分で作ったような顔してんだ。 ただの替え歌だろ」

 

律と響が熱唱していたのはとある某“小宇宙を感じた事があるか?”系アニメの主題歌の替え歌。 意外にも替え歌として成立しているのが驚きであった。

 

「それよりも! 私、律さんと合体したいんです!」

 

「んなっ?!」

 

そんな事よりもと、大胆な響の発言にクリスは一瞬で赤面し、大きく狼狽する。

 

「私自身、拳でも槍でも武器になれば……何か見えてくると思うんです!!」

 

「なるほど……」

 

「な、なんだよ……そういう事か……」

 

「逆にクリスは何だと思ったんだ?」

 

「うっせえ!!」

 

気になって質問したが、逆上され一蹴されてしまった。

 

「それにしても合体か……私も数度経験したが、中々不思議な感覚だった。 この身が剣になったと思いきや、剣を通して斬った防いだの感覚はほぼ無く……まさしく律と一体化したような感覚だった」

 

「シンフォギアごと武器になるからなぁ。 あれも《イペタム》の能力なんだろう?」

 

「さあな。 こればっかりはフィーネが言っていたバグなんじゃないか?」

 

「《イペタム》の書籍にそのような記述はないからな……」

 

《イペタム》の能力には無い能力……これがフィーネが言っていたバクによるものだろうか。 考えても答えは出ない。

 

「……考えてもしかたない。 今度は立花の……絶唱に関する訓練を試みよう」

 

「響の絶唱から推測されたアレですか?」

 

「アレいちいち手を繋ぐから気に食わねぇんだが……」

 

「あれぇー? クリスちゃん恥ずかしいのー?」

 

「うるせぇこの馬鹿!」

 

「あうっ!? ひ、酷いよクリスちゃ〜〜ん……」

 

「寄るな馬鹿ーー!!」

 

煽ってきた響の脳天に手刀を入れたクリス。 響は涙目で頭を押さえながらクリスに這い寄り、それからクリスは喚きながら逃げ惑った。

 

「やれやれ……」

 

「貴女たち! いい加減にしなさい!!」

 

やれやれと律は呆れ、翼の一喝で諍いを丸く納め。 それからの4人の特訓は夜遅くまで続くのだった。

 

 




自分で替え歌作っておいてアレですが、素で笑ってしまいました。

元ネタは《聖闘士星矢Ω》より。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。