戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
月の欠片落下から2週間——
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
装者たちが集まって室内で寛いでいると……その中の響がいきなり発狂したように叫び出した。
「今日も今日とて、立花の様子がおかしいのは相変わらずだな」
「分かっているのなら無視無視。 響の脳のキャパは少な過ぎなのもあるだろうし。 oh
「——クシュッ!」
のたうち回る響、本を読んでいた翼が手を止め。 律の寒いギャグに反応したのか、眠っていたリューツはクシャミをする。
「だって! だって! だってぇ!! 翼さんと律さんは何ともないんですか!? こんなところに閉じ込められてもうずっとお日様を拝んでいないんですよ!!」
「そうは言ってもだな……月の損壊、及びそれらにまつわる一連の処理や調整が済むまでは行方不明としていた方が何かと都合がいいというのが指令たちの判断だ」
「ギャーギャー言う暇あったら勉強をしろ、 勉強を。 海に沈んでいるからといって疎かにしていい理由はないぞー」
律は全員のために用意していた課題のプリントの束を見せると……スンっと、響は大口を開けてわめいていた口を閉じ、流れるように倒した椅子を元に戻しそのまま席に着いた。
予測通りの結果に律は“やれやれ”と首を振り、自分の前に置かれている課題に向き直る。
「まあでも確かに、死んでいた事になっていたのにいざ“無事でしたー”って出て行くのはかなり気を使うな。ドッキリにしてもたちが悪い」
「ふむ……菓子折でも用意した方が良いのだろうか?」
「そう言う問題じゃないと思いますよ〜……」
どちらにせよ、どうしても気が咎められる気持ちになってしまい、無為にも頭を悩ませてしまう。
「会うときに言葉が詰まらないように考える必要があるかも……」
「気楽にトラックに轢かれそうになりながら“私は死んでません!”でいいんじゃないですか?」
「気楽過ぎるわ」
「司令が言うには形だけの墓を設けているらしい。皆で“千の風”を歌えばよいのではないか?」
「……なんか色んな意味で却下っ!!」
確かに曲の通り“その墓には誰もいなく眠っていない”が、それを歌うのは逆効果だと思われる。
そこでふと、部屋の隅で深刻そうな顔をしながらテーブルに片肘をついて座っているクリスが目に入る。とても思い詰めているようで、仕切り溜息を吐いていた。
「——どうしたのクリスちゃん?さっきから黙ってて?」
「…………………」
「分かった!お腹空いたんだよね!!分っかるよぉ、分かる!マジでガチでハンパなくお腹空くと、おしゃべりするのも億劫だものね」
「…………………………」
「どうする?あ、ピザでも頼む?さっき新聞の折り込みチラシを見たんだけどね、カロリーに比例して美味さが天上——」
「——ってか……」
「ガブッ!!」
「ギャアアアアア!!」
あまりにもしつこさにクリスは声を荒げようとしたが……その前にリューツがクリスの周囲をうろちょろしていた響に背後から飛びかかり、その頭に齧り付いた。
「ホント、なんで響には懐かないんだろうなー?」
翼やクリスはもちろん、司令を含めた二課の面々も拒絶される事なく難なく触れ合えていた。未だにリューツが響を嫌う理由に頭を悩ませてしまう律たち。他の人たちには普通に接するため余計に疑問が増えてしまう。
なお、ピザのデリバリーを頼んだとしてもここには届かないだろう。仮に弦十郎に頼んだとしても陽射しも届かない深海の温度では確実に冷めている。
「ハァ……」
痛みに喚く響を一瞥しながらクリスは溜息を吐く。
クリスは思い悩んでいた。今はこうして収まっているが、自分が犯した罪のせいで負い目を感じ……ここに、律たちの元にいていいのかと。
そんな気落ちしているクリスの元に、一仕事を終え満足げな表情をしているリューツが歩み寄り、腕にモフモフな身体を擦り付けて励まそうとする。
「……サンキューな……」
「ガウ!」
お礼にクリスはリューツの頭を撫でる。そこで、諦めきれない響はソーッとリューツに近寄り、
「ほ、ほーらリューツーー……お、お手……」
「——ギャウ!!」
「あべしっ!?」
響がお手をしようと手を出し身を屈めた瞬間……リューツはジャンプすると同時に右前脚の肉球を振り上げ、響の顔面に猫パンチが炸裂した。
「な、なんだ私だけ〜……?」
「…………(プイ)」
殴られた頰を抑える涙目の響。リューツは素っ気なくソッポを向く。そこでふと、クリスは自身に向けられている視線に気がつく。視線を探ると……翼が無言でジーっとクリスのことを見つめていた。
(じー……)
(……何であいつは逆に黙り決め込んでやがるんだよ!?)
騒ぐ響とは違い無言な翼に逆に戸惑ってしまうクリス。お互いに無言で見つめ合い、この空気に耐えられなくなったクリスが静寂を破る。
「な、なんだよ!?黙って見てないで何か喋ったらどうだ?!」
慌てているクリスの表情を見て、翼はゆっくりと口を開くと、
「……常在戦場」
結構物騒な言葉を呟いた。意味も分からず意図も読めない涙目になりクリスは恐れ慄く。
「
「いないな」
「ガウ」
その発言が思っきりブーメランだということは、律自身は知るよしもなかった。
◆ ◆ ◆
その後、律たちは唐突に弦十郎に召集をかけられ、潜水艦内にあるブリーフィングルームへと足を運んだ。
そこでは……弦十郎を始めとした二課に所属しているクルーのほとんどが集まっており、可愛らしく飾り付けがされ、机に上には多種多様な料理とお菓子やドリンクが置かれいた。
極みつけは部屋の中央にどデカく“熱烈歓迎! 芡咲 律♡ 雪音 クリス様♡”と書かれた大きな横断幕が張られていたことだ。
「「……………………」」
「なんか見たことあるー……」
「……えぇ……」
この突飛な光景に律とクリスは横断幕を茫然と見上げ、既視感を覚える響の呟きに翼が頷いた。
律とクリスは弦十郎に肩を掴まれ横断幕前、パーティ会場の前に連れられ、響と翼もジュースが注がれた紙コップを藤尭と友里に手渡された。
「皆も既に知ってると思うが、改めての紹介だ! 芡咲律君と、雪音クリス君! クリス君は第2号聖遺物《イチイバル》の装者。 律君の聖遺物は未だ不明だが、それでも……2人は心強い仲間だぁ!」
「ど、どうも……。改めて、よ、宜しく……」
「——ちょっと待ってください!」
そこでいきなり、不満そうな律が横槍を入れる。 何が不満なのかと全員が思っていると……律は足元にいたリューツを抱える。
「リューツを忘れてます!」
「ギャーウ!」
「おお!これはすまない!」
胸元まで抱えられたリューツは不満そうに鳴きながらシュッシュッと前脚を振り抜く。 理由が分かり、すぐに友里が横断幕の右下に“+リューツ♡”と書かれた紙がペタリと貼られた。
それで律も納得し。気を取り直し、弦十郎は咳払いをする。
「2人が正式な二課の装者となったことで、二課の装者の数も4人となり、装者の数も最大記録を更新した! 二課としてもめでたい日だ! 皆、記念すべき今日というこの日を存分に楽しもう! では、乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
「かんぱ〜い」
「か、乾杯……」
弦十郎が祝辞を述べてジュースの入ったグラスを掲げると、この場の全員がノリ良くグラスを掲げた。
2人の歓迎会が始まり、二課の面々は時に律とクリスに話し掛けたりしながら各々歓迎会を盛り上げ、律は和気藹々と会話を楽しみ、クリスは次々と来る話題や質問に振り回されていた。
「ガブガブ!」
「「「きゃーー! 可愛いーー♡!!」」」
その中で、美味しそうに料理を頬張るリューツの愛くるしさに、二課の女性クルーからは絶大な人気を誇っていた。
「すっかり人気者だな。 あの愛くるしさなら当然かもしれないが」
「なんだ〜? 二課内のアイドル的立場を奪われてしまうと危ぶんでんのか?」
「そ、そんな訳ないわよ! それに、リューツはアイドルというよりマスコット的立場でしょう!」
リューツを囲む人混みを見ながら翼に、奏はニヤつきながら冗談を呟くと翼は口調を崩して慌てふためく。
「ふぅ……」
「やっと抜け出せた……」
ようやく質問攻めも落ち着き、抜け出してきた律とクリスは人心地つくように大きく息を吐く。 響はそんな2人のためにジュースボトルを持っていく。
「2人とも、お疲れ様」
「ったく、私はこういうのは慣れてねぇってのによ……」
「ま、慣れるしかないさ。 全部ノイズだと思えばいいんじゃないか?」
「それやっちゃダメなやつです」
響からジュースを注がれながら悪態をつくクリスにそういう律。 と、そこへリューツも人混みから抜け出し、律たちの側にあったテーブルに飛び乗った。
「ガウ」
「お。サンキュー、リューツ」
しかも丁度いいタイミングでお手拭きを持ってきてくれ、律はリューツにお礼を言う。
「ねえねえリューツ! 私にも頂戴!」
「……ガウゥ……(フルフル)」
リューツはやれやれと首を振り溜息を吐きながら、自分でやれと横向きになりながら前脚でお手拭きを響に押しやった。
(……この
この塩対応に流石の響も、怒りを覚えてしまう。 そこへ、翼と奏が3人の元に寄ってくる。
「よっ。 もう二課のメンバーと仲良くやっているようだな」
「質問攻めばかりだけどな。 俺は主にシンフォギア関連の質問ばかりだったけど」
「貴方のシンフォギアは未だ謎ばかりだからな。 3億にも及ぶロック以外にもバグが発生しているからな」
「——そこをどうにかするのも我々の役目だ」
翼の話に答えるように、弦十郎が手羽先チキン片手にやってきた。
「やあ! 楽しんでいるようだな!」
「これの何処が楽しそうに見えんだ……!」
「まあそういうな。 実はさっき言い忘れていたが……本日を以て装者達4人の行動制限も解除となる!」
「!! 師匠! それってつまり!」
「そうだ! 君達の日常に帰れるのだ!」
「いやったーー! やっと未来に会えるー!!」
晴れて自由……という訳でもないが、それでも陽の下と家族友人に会いに行ける喜びに、特に響ははしゃぎながら喜んだ。
「クリス君の住まいも手配済みだぞ。そこで暮らすといい」
「ア、アタシに!?いいのか?」
「もちろん。 勿論だ! 装者としての任務遂行時以外の自由やプライバシーは保証する。 それと律君も、念の為クリスの隣の部屋を用意した」
「え?」
タイミングよく友里から手配されたであろうマンションのパンフレットが手渡され、流し読みして行く律の目が驚愕で見開かれる。
「今までのアパートではもしもの時の召集に遅れが出てしまうからな。勝手ながら用意したのだが……」
「い、いえ。そうではなく……このマンション、以前父から勧められたマンションだったのに驚いてしまって」
「ああ、そうか。 以前、
「えっ!?」
突然弦十郎の口から父親の名前が出てきた事に、律は再び驚きを禁じ得なかった。
「弦十郎さんは父と知り合いなのですか!?」
「む? ああ、そういえば言ってなかったな。 劔は俺の学生時代の友人だ。 よく勉強をアイツに助けてもらっていた」
「な、なんて偶然……って、そうだクリス。 クリスはそれでいいのか?」
「ッ……!」
「!!」
茫然と驚く中、嬉し涙を流していたクリスは突然話しかけられた事に身を竦めながら乱雑に涙を拭って平静そうに振る舞った。
「しょ、しょうがねぇよな! 用意しちまったもんはしょうがねぇし! 別に壁と天井があればどこでもよかったし! 律が隣の部屋にいるんなら色々と便利だし! 任務を受ける時に近い方が楽だし! 仕方ねぇから妥協して納得してやるよ!」
口では不満があるが仕方ない風に言っているが、その表情は不快とは思っておらず、嬉しそうに口元を釣り上げていた。
「案ずるな、雪音。 合鍵を持っているから、何時でも遊びに行けるぞ!」
「はぁ!?」
そう言う翼の手には一つの鍵が。 翼が言うことが本当ならその鍵はクリスが住う予定の合鍵なのだろう。
「私も持ってるばかりかなーんと! 未来の分まで!」
「自由もプライバシーもどっこにもありゃしねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
勝手に合鍵を作られた事に怒ったクリスの怒号が室内に鳴り響く。 そこでふと、考え込んでいた律が顔を上げる。
「な、なあ……よく見たらその鍵束。 鍵が2本付いているけど……」
「うん。 これは律の部屋の鍵だ」
「……入口の鍵変えるか……」
「律さん酷い!?」
「酷いのはどっちだよ!」
その後も歓迎会は続いた、が……この数分後、ノイズ出現の警報が鳴り、装者が出動して律たちは待ち人と再開するのだが、それはまた別の話。