戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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幕間 当たり前な日常の光景

行動制限が解除され、体調不良で痩せていた未来も元の健康な身体を取り戻し、装者とその周りの人々に日常が戻ってきた。

 

その前に、装者としての律たちの姿を見られてしまったため、(つるぎ)を含めた芡咲家族の説明が行われた。 父母揃っていい顔はしなかったが、律本人が決めた事であるならと反対はしなかった。

 

だが劔は弦十郎と友人であったからかクリスの保護者は譲ってもらうと言い出したようで、お互いに大人気なく親権を譲らなかったが……最終的に静香の一声でクリスが芡咲家を選んだ。

 

街も徐々に元に戻って行き、各々がアーティストとしてや学生として、そして新たな道を歩いて行くため日常に戻って行き。 律もアイオニア音楽専門学校に復学していた。

 

「緒川さん、持ってきました」

 

「お忙しい中、ありがとうございます」

 

だが、その前に装者として二課と協力するための契約等があり、律はそれを提出しに二課にいる緒川の元を訪れていた。

 

何でも申請が遅れたらしく、行動制限中に用意出来なかったららしい。 なので律は送られた翌日に提出しにきていた。 受け取った緒川はパラパラとめくりながら流し見し「確かに」と受け取った。

 

それで確認できているのかと問いたいが、緒川さんなので納得した。

 

「お疲れ様でした。 律くんも復学したばかりなのにお手を煩わせて申し訳ありませんでした。 学校の方はどうしでしたか?」

 

「先の事件についてあれこれ質問されましたよ。 触りない程度で受け答えしましたが、中々大変でした。 そう言えば、ほぼ全壊したリディアンは? 確か別の校舎に移るとかどうとか」

 

「実は新しく設立されるリディアンは共学になるのです。 表向きは少しでも退学者の補填と言う名目ですが……」

 

「——はっきり言えば、律くんがリディアンにいてもおかしく無いようにする……という意味合いが強いかもしれないな」

 

「弦十郎さん」

 

そこへ、コーヒーを両手に歩いてきた弦十郎が隠し事もせずそう答え、コーヒーの紙カップを律の前に置いた。

 

現状、律は貴重な男性装者として弦十郎の元で保護……というより監視下にある。 そのため弦十郎個人としては今の学院に在籍しても問題はないようだが、政府側としては是が非でも手の届く場所に置いておきたいようだった。

 

「ですが、いくら人数が激減したとはいえリディアンは女子校です。 共学化するにしても無理があるのでは?」

 

「ああ、それなんだが——」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

律たちの行動制限はようやく解除され……多少ゴタついたが無事に復学、こうして日常の中に戻ることができた。

 

どうやらクラスメイト中で律は先の事件で天に召されていたことになっていたらしい。 あれだけの大きな規模の事件が起こった後なので仕方ないかもしれないが……縁起でもないことを言われ、律は少し不機嫌になってしまう。

 

昼時……律はいつものメンバー、アルフと錦と一緒に中庭で昼食を食べていた。 和気藹々と雑談を交わしながら食を進めていると、律の何気ない一言で会話が止まった。

 

「——はあっ!? 近々リディアンに転校する!?」

 

「ああ」

 

軽く返事をしながらサンドイッチを咥える律。 流石にアルフも驚き、どうしてそうなったか説明してほしいと聞かれたため律は昨日、弦十郎から提案された内容を説明した。

 

知っての通り、先の事件でリディアンは壊滅状態……というか更地になって壊滅した。加えて《カ・ディンギル》の残骸である根元がまだ残っているため、厳重な立ち入り禁止にせざる得なかった。

 

という理由で現在、リディアンは政府から用意された昔廃校になったミッションスクールを改装したものを使われている。しかし、ノイズの襲撃や校舎が古いのに変わった事から生徒達の何人かはリディアンを去ってしまった。

 

それを少しでも減らすために取られた対策が……

 

「はあっ!? リディアンに交換編入ぅ!?」

 

今日2度目の驚愕。 錦は血気迫る勢いで律に詰め寄る。

 

「そっ。 新しく新設されるリディアンに交換編入として来てくれないかって打診があったんだ。 あの事件でリディアンの生徒数は6割まで減少。 そこで交換編入の話が入ってきて、何人かはリディアンに在籍しまま他の学校に編入できると言うことから……何とか7割までに抑えることができたんだ」

 

「それで、その話が律にも?」

 

「このアイオニア音楽専門学校にも何件か来ていてな。 人選は俺に任せるからっていくつかの編入権が与えられている。 ——とりあえず、2人とも乗るか?」

 

「心の友よぉぉ!!」

 

「やかましい!!」

 

「ぶへっ!」

 

感激のあまり抱きしめようと飛びかかって来た錦を鳩尾に1発入れて沈める。

 

「受験当初はリディアンも候補に入ってたんだけど、ヴァイオリン……というかピアノ以外の楽器等にはあまり力を入れてなかったし、受験から外したのよねぇ。 でも、女の私でもいいのかしら」

 

「人数補填のためだからな。 男女は問わないそうだ」

 

リディアンの設立目的はシンフォギア装者候補を集めるため。 今はもうその側面は無くなりつつあるため、こうして交換編入の話が出てきたのだろう。

 

……もしくは、律のような男性の装者を見つけるのが……

 

(……やめとこ)

 

そう考えて頭を左右に振り、思考を振り払う。 例え、仮にいたとしても戦わせたくはない。

 

「しっかしリディアンにかぁ……行きたいが、あそこって歌とか合唱に力入れてんじゃん。 やりたい事がない気がするな」

 

「それなら心配ない。 新しく、このアイオニアと同じくらいの規模にするそうだから」

 

「ならよし!」

 

「そういえば、この学校からの定員はどれくらいなの? 貴方を含めて3人でいいのかしら?」

 

「いや、俺を含めて5人……つまりあと2人探さないと行けないんだが……」

 

「——それならお姉さんを選んで欲しいな♡」

 

「ひゃう!?」

 

“フゥ”っと背後から優しく耳元に息を吹きかけられ、律は変な声を上げて身を震え上がらせる。

 

バッと振り返ると……そこには“してやった”と言うような顔でほくそ笑む一つ学年が上の女子生徒がいた。

 

「す、鈴先輩!?」

 

「はぁ〜いっ」

 

この薄く長いプラチナブロンドを三つ編みにしている女子生徒はアイオニア音楽学校3年生の藍川(あいかわ) (すず)。 トランペット奏者をやっている。

 

この学校は学校行事で1、2、3学年での混同によるコンクールやコンサートが多く、他の学校に比べて部活以外での縦の関係が強い。 律たちの鈴も何度か一緒に演奏して、数えるくらいだが賞も取っていた。

 

しかし、マイペースで悪戯好き、しかも天然と来ているのでよくからかわれたりする。 だがその実、ムードメーカーで全体の中心を担っており、彼女がいなくては演奏が成り立たないと言われる程である。

 

「い、いきなり何するんですか!!」

 

「いや〜、面白い話が聞こえてきたから、つい?」

 

「いやこっちに質問を振られても……」

 

「相変わらずだな、鈴先輩は」

 

唐突に現れて律たち……いや律のみをからかう鈴はにやけ顔で律にすり寄って行く。

 

「ね? ね? いいでしょう律くぅん」

 

「え、ええっと……」

 

腕は確かたが正直、この人を連れてくると後々律本人にも人選不備等の誹りを言われかねないと考えてしまい、すぐには承諾出来かねなかった。

 

それを見た鈴は目を潤めると、

 

「酷いよ律くん!! 律くんはお姉さんを搾るだけ搾ってから捨てて新しい女の子たちの所に行って——酒池肉林のハーレムを満喫しようとしているんだねーーっ!!」

 

「事実無根風評被害名誉毀損んっっっ!!」

 

態とらしくオヨヨと泣き崩れ、かなり大きめな声で鈴は根も葉もない事を口にする。 律は反論するも、中庭で同じく昼食を取っていた生徒からひそひそ声で汚物を見るような視線を向けられてしまう。

 

「ちょっと適当な事言うのやめてもらえます!?」

 

「いやぁーー。 捨てないでーー、貴方としか寝た事ないのにーー」

 

(……棒読み……)

 

「鈴先輩、あまりふざけた事は……」

 

「——おら律ぅぅ!!!」

 

「えぶしっ!?」

 

またもや当然、律の脳天に衝撃が走り。 律は頭を押さえながら振り返ると、

 

「女を捨てるたぁ、男の風上にもおけねぇなぁ!!」

 

——ジャジャンッ!!

 

「ゆ、由叉先輩!?」

 

この暑苦しくギターを弾くのは同じか3年の守条(かみじょう) 由叉(ゆざ)。 コントラバスの奏者だがそれはコンクール等の演奏会のみで、メインはギター又はエレキギターと変わり者。

 

正義感があり誰にでも優しく接する人だが、直情的なのが玉に瑕な人だ。

 

「フフッ、落ち着いて由叉くん。 冗談だから」

 

「なんだ冗談かぁ。 そりゃあ済まねえ事したな!」

 

(不幸だ……)

 

はめられた上に飛んだとばっちりである。

 

「分かりました。 分かりましたから。 鈴先輩も推薦します。 もう面倒だから由叉先輩も」

 

「やったーー♪」

 

「ん? 何の話だ?」

 

ハァっと疲れたように息を吐き、再び食を進めようとすると……鈴と由叉がそのままその場に座った。

 

「って、なんでそのまま居座っているんですか!」

 

「えぇ? いいでしょ、別にぃ」

 

「そうだそうだ。 男はもっと心が広くねぇと」

 

「ちょっ!? それ俺のパン!!」

 

「……もう滅茶苦茶ね」

 

律は、本当にこの2人をリディアンに入れてしまっていいのかと……どう考えても悪影響しか出かねないと本気で心配してしまった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ふぃ〜……終わったーー」

 

放課後……律は休学中に進んでしまっていた授業に追いつくため学校から課題が出ており。 それをたった今提出したため解放された気分になっていた。

 

「さてと、帰るか」

 

本当なら2週間以上触れてなかった指揮や調律の感覚を取り戻したかったが、今日はちょうど練習の休みだったため明日にすることにし、律は二課から新しく用意されたマンションに向かった。

 

もう引っ越しは済んで……というより、行動制限中に勝手にされてしまっていた。 別に見られても恥ずかしいものなどないのだが、せめて事前に連絡を入れて欲しかった。

 

このマンションはかなりの防犯対策がされており、鍵がなければまず入れない。 二課が用意した事もあり当然といえば当然なのだが。 律はマンション中層にある家に帰ると、

 

「「「きゃーーーっ! 可愛いーーっ♡」」」

 

「ギャーーウッ!!」

 

自分の部屋には響と未来の他に創世、詩織、弓美の3人がおり。 ほぼメロメロ状態でリューツに襲いかかり、モフモフの感触を楽しんでいた。 逆に全方向から手が伸びくすぐられているリューツは嫌そうにじたばたしていた。

 

「あ! 律さん、お帰りなさい!」

 

「今日は珍しく遅かったですね」

 

「……合鍵は不法侵入するためにあるものじゃないぞ……」

 

「はい。 不法じゃありません」

 

「だったらせめて家主に一言くらい連絡を入れろ!!」

 

隣のクリスの部屋の合鍵も持っていることから、今後クリスも同じような目に合うだろう。

 

「——バカはいるかあぁっ!!!」

 

いや、既に合っていたようだ。 ノックもチャイムもせずに入ってきたお怒りのクリスは真っ直ぐ響に詰め寄る。

 

「勝手にうちに入るなって言ってんだろ!」

 

「な、なんのことぉ?」

 

「仏壇の前に線香焚いていたら誰でも分かるわ!」

 

「いやぁー、クリスちゃんのご両親にも挨拶しなきゃと思ったし。 カッコいい仏壇があったから、つい」

 

「わ、分かってんじゃねえか……」

 

仏壇とはクリスが装者としての初めて給料で買った両親が帰るべき場所を作ってあげるため、この前の休みで律と同伴で購入したものだ。

 

どういう感性か1番カッコいい仏壇を買ったため、少し装飾が多く派手な仏壇が隣の部屋に鎮座している。

 

「って、不法侵入したこと有耶無耶にしようとしてんじゃねぇええーーーっ!!」

 

「ぎゃあああああぁーーーーっ!!」

 

煽てて誤魔化そうとしたが、気付かれたためクリスは両拳を響のこめかみに当て加減なくグリグリする。

 

「ガゥゥ!!」

 

「おっと! リューツ、大丈夫か?」

 

やっとの思いで抜け出してきたリューツは律に飛びつくと胸の中に収まり動かなくなってしまった。

 

リューツを愛でていた3人組は心底残念そう、そして羨ましそうな目で律のことを見ていた。

 

「あうぅ、いいなぁ〜」

 

「もう、みんなリューツの気持ちも考えてよね。 怒ったりしたら私たちじゃ手がつけられないんだから」

 

「そりゃ一応、ノイズだもんね……」

 

見た目は子虎で可愛くても本質はノイズ。 たとえ炭化せずとも巨大化すれば別の意味で命の危機に晒されるだろう。 もっとも、そんな事は飼い主がさせず、躾もしっかりつけている。

 

「それで、今日は何しに来たんだ?」

 

「あ! 実は最近スゴイ歌を歌う歌手がいるんですよ!」

 

「なんかサキさんにも知ってもらいたいみたいで」

 

「……そういうのはスマホとかで連絡すればいいじゃないのか……?」

 

「私もそう言ったのですが……」

 

「こうして実際に会った方がいいと私は思います!」

 

律はアプリやメール等で、弓美は実際にあって……これが男女の価値観の違いなのだろうか。

 

「あ、あはは。 歌はさっきダウンロードしたので、聴いてみますか?」

 

「ふぅ……誰の歌なんだ?」

 

「この人なんですけど……」

 

弓美がスマホを操作し、歌が流れる。英語で歌っているため歌詞はよくわからないが、力強くどこか引き込まれるような歌声に、律たちは次第にその歌を聞き惚れて行く。

 

「いい歌声だね」

 

「最近米国でデビューし始めた新人の歌姫みたいです!」

 

「へえ……」

 

興味を覚えながらアルフから手渡されたCDのパッケージを見て、

 

「マリア……カデンツァヴナ・イヴ……」

 

記載されていた歌手の名前を呟く。 律はその名前に、どこか既視感を感じる。

 

(どこかで……)

 

その疑問を答えるものはいなかった。

 




次回からG編に入ろうと思います。
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