戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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SG G編
22話 ガングニールの乙女


——返さん◼️◼️◼️ 砂時計を

 

いつかの、どこかの大きな船の上……そこには複数の武装した兵士と、その背後で捕らえられているであろう少女たちがいた。

 

——時は溢れん Lulala lila

 

夜遅く、雨が降りしきり風が荒れ狂う陸も月も見えない嵐の中……兵隊が構える銃口は1人にだけ向けられていた。

 

その銃口と敵意と対面しているのは、漆黒の装いに身を包んでいるこの夜が保護色となっており、輪郭しか捉えられないがまだ幼い子どもである事がわかる。

 

——幾億数多の命の炎 するりと堕ちては星に

 

歌が紡がれているが、その歌は途絶え途絶えになりかけており。 酷く疲労しているが、決して諦めようとはせず兵隊を睨みつける。

 

——流れ流れては美しく / ()がれ()がれ慈しむ

 

その時……兵隊の背後に捕らえられていた少女の1人が歌い出し。 2人の歌が重なり、旋律が奏でられる。 しかし、片方はゆらりとふらつき、ゆっくりと端へと歩いていき、

 

——また生死の揺りかごで(やわ)く 泡立つ

 

その隙に1人はゆっくりと後退し。 歌を途中で、その詩を最後に……1人は海の中に堕ち、消えていった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ルナアタック事件から3ヶ月後——

 

現在、本日の夜に行われるドーム型のライブ会場では設営準備に追われていた。

 

「フーーン、フフフーーン、フーフーーン♪」

 

ステージの足場や背景モニターの映像確認が行われる中、今回のライブの音響機器の調整は律が行なっていた。

 

その最中、観客席に座っている人物が目に入ってくる。 猫耳と見えるような形に見える桃色の特徴的な髪型をした綺麗な女性は、静かに自分が立つ予定のステージを見つめていた。

 

(彼女がマリア・カデンツァヴナ・イヴ……)

 

デビューからわずか2か月で米国チャートの頂点まで昇りつめた新進気鋭の歌姫。 そのミステリアスながらも力強い歌声で瞬く間に世界に知れ渡った彼女だが、

 

(……早すぎないか?)

 

確かに容姿実力共に文句がつけようがない。 だが“ツヴァイウィング”とて引けは取らない。 この両者を比較してもどちらに軍配が上がるかは誰にも分からない。 故にデビューからここまで辿り着くのが早過ぎる気がしてならず、どこか作為めいた感覚を覚えてしまう。

 

と、その時、二課直通の通信端末に着信が届いてきた。 律は人気がない場所に移動し、通信に応答した。

 

「はい、芡咲 律です」

 

『律、今大丈夫か?』

 

「はい、大丈夫です。 それでどうかしましたか?」

 

弦十郎が言うには、響とクリスがソロモンの杖を岩国の米軍基地に輸送中にノイズによる出撃にあい。 結果的に輸送は完了したが、その直後に再び襲撃にあいソロモンの杖を何者かに奪取されてしまったらしい。

 

『すぐに響くんとクリスを帰投させている。 それまでは君だけが頼りだ』

 

「了解。 待機行動に移ります」

 

通信を終え、律は再び音響調整をしに会場に向かいながら考え事をする。

 

(ノイズは組織的な行動をとっていた。 ソロモンの杖以外で。 ……逆に言えば、ノイズを操れるのはソロモンの杖のみだと仮定すれば……)

 

ステージに出て、吹き抜けになっている空を見上げ、

 

(怪しいのは死亡が確認されておらず、行方不明になっているウェル博士その人)

 

夕月で空に映る土星のような月を見上げた後、再び作業に戻った。

 

「!!」

 

その後ろ姿を、ほんの少しだが観客席から見ていたマリアが視界に映し、マリアは勢いよく立ち上がった。

 

(今のは、まさか……!)

 

頭を動かし、その姿を再び探そうとすると……律は舞台裏に入って行ったため、その姿を彼女が見つける事はなかった。

 

しばらくして諦めがつき、マリアは再び腰を下ろすと顔を俯かせる。

 

(そんなはず、無いわよね……あの子はもう……)

 

頭を振り払いながらポケットに手を入れ、その中にある物を握りしめた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ライブ開始前には準備が完了し、空は赤みだし時刻は夕方……来場客が次々と押し寄せ会場は大いに盛り上がっていた。

 

『この盛り上がりは皆さんに届いていますでしょうか? 世界の主要都市に生中継されているトップアーティスト2人による夢の祭典! 今も世界の歌姫マリアによるスペシャルステージにオーディエンスの盛り上がりも最高潮です!』

 

直接会場から生中継でアナウンスしているアナウンサーの言う通り、このライブ世界各国に中継されている。 それほどまでに《風鳴翼》と《マリア・カデンツァヴナ・イヴ》という2人の歌手の夢の共演という大きさを物語っているようだ。

 

(……なんか妙だ……)

 

だが、律にはどうにも負に落ちなかった。 確かに2人の歌手は世界的に人気があり、共演も大々的にとり行われていたが……このライブ“QUEENS of MUSIC”を世界中に生中継するほどの理由がない気がしていた。

 

律は音響機器と直結しているスマホを操作しながら会場の舞台裏を歩いていると、正面からどこか不満そうな顔をした翼が歩いてきた。

 

「翼、いまから舞台入り?」

 

「ああ……」

 

翼は律の横を抜けようとし、その直後に足を止め。 振り返らずそのまま聞いてくる。

 

「律、裏は任せてもいいか?」

 

「……もちろん」

 

「……表は私に任せろ。 私は、私を信じる者たちのために歌おう」

 

再び歩き出し翼はステージに向かって行った。 律は一度深呼吸し、

 

「……よし! やるか!!」

 

気合を入れ、先ずはライブを成功させるために自分の仕事を行った。

 

それから時が経ち……ライブ開始時刻、日は落ち夜となり。 夜空にルナアタックにより右下が欠け、その破片が土星のように輪となって浮かぶ月の下……《風鳴 翼》と《マリア・カデンツァヴナ・イヴ》によるライブが行われようとしていた。

 

「響とクリスは間に合わなかったか……」

 

ライブ当日に諸事情で来られなくなる……どこか2年前の再現に思えてならなかった。

 

(……はぁ、今日何かあったらそのうち何人かがライブ恐怖症を発症するかも……)

 

2人はノイズ襲撃により出発が遅れ、現在ヘリでこの会場に向かっているようだが……いないものはしょうがないと割り切り、見回りを再開する。

 

場所は変わりロイヤルボックス。 そこには未来と響と同じクラスメイトの弓美、詩織、創世の3人の他に、律の妹の静香が今か今かとライブ開始を待ちわびていた。

 

「おおーっ! さっすがは世界の歌姫《マリア・カデンツァヴナ・イヴ》!! やーっぱ生の迫力は違うねー!!」

 

「全米チャートに登場してまだ数ヶ月なのに、この貫禄はナイスです!!」

 

「ねぇねぇ。 マリアはまだー?」

 

「んー、まだーー」

 

弓美の袖を引きながら質問する静香に、弓美は笑顔で答え、その後に少しため息をつく。

 

「今度の学祭の参考になればと思ったけど、流石に真似出来ないわ」

 

「それは初めから無理ですよ、板場さん」

 

「うん。 無理無理」

 

「……遠慮なくそう言われるとイラッ☆て来るね」

 

静香からの容赦のない否定に弓美は震える手を何とか抑えようとする。

 

彼女たちの会話を聞きながら、未来は手首にあるピンク色の腕時計に目を落とす。 既に時計の針は5時半という時間を指し示いた。

 

「まだビッキーから連絡来ないの? メインイベントが始まっちゃうよ?」

 

「うん……」

 

「サキさんも音響スタッフとして忙しいようですし……」

 

「運が良いのか悪いのか困っちゃうよね。 舞台裏のスタッフって」

 

創世から訊ねられたことに未来は眉を八の字にしながら答え、小さく顔を俯かせる。

 

律もライブのスタッフという事で、対応に追われ観るどころでは無いだろう。

 

「折角風鳴さんが招待してくれたのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて……」

 

「本当に期待を裏切らないわね、あの子ったら!」

 

そうこうしている内に会場の照明が落ち、サイリウムの明かりだけが灯る会場でライブが始まった。

 

先に現れたのはマリア・カデンツァヴナ・イヴ。この時のためにあしらえた白色で彩られた衣装に身に着込んでおり、その手にはレイピアのような形状をした金色のマイクが握られている。

 

次に現れたのは風鳴翼。 マリアの衣装の対比になるような黒色の大きな袖が目立つ和装を彷彿とさせる衣装を纏い、マリアと同じマイクが握られている。

 

「律」

 

「奏。 そっちはいいのか?」

 

「ああ。 警備状況は問題なく、筒がなくな」

 

そこへ、会場警備の監督を請け負っていたスーツにサングラス姿の奏が歩いてきた。 奏は律の前で止まると、顔を上げライブの中継が行われているテレビ画面を見上げる。

 

「ちぇ。 アイツの隣は私だけって思ってたのによ……」

 

「まあまあ。 そう嫉妬しないで」

 

「わぁってるよ」

 

本来なら翼の隣は奏しかいないと思っていたが、今はその隣で歌うマリアに奏は少し妬いてしまう。

 

そして歌が終わり、歓声を送ってくれる観客達に向けて翼とマリアは手を振り返し、翼は2、3歩前に進み出て観客達に言葉を送る。

 

『——ありがとう、皆!』

 

翼がまず謝辞の言葉を述べると、その言葉に応えるように沢山の歓声が翼に返ってきた。

 

『私は、何時も皆から沢山の勇気を分けてもらっています。だから今日は、私の歌を聞いてくれている人達に少しでも勇気を分けてあげられたらと思っています!』

 

翼の言葉に会場内のテンションが高まり、より一層の歓声と拍手が巻き起こる。 その歓声、想いを受け翼は静かに、しかし強く手を握りしめる。

 

「翼……」

 

『私の歌を全部!!世界中にくれてあげるっ! 振り返らない。全力疾走だ━━付いてこれる奴だけ付いて来い!!』

 

「……なんだかアタシの台詞を聴いてるみたいだな」

 

「あ、あはは……まあ、似てるかも」

 

翼の隣に立っているとどうしても2年前の奏と写し合わせてしまい、似てないにしても重なってしまう。

 

翼が右手を差し出すと、マリアもそれに応じるように右手でその手を握り返した。

 

『私達が世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるってこと』

 

『それは世界を変えていける力よ』

 

2人の歌姫の言葉に再びライブ会場が歓声と拍手に包まれる。

 

すると、握手を終えたマリアはその身を反転させて再び観客達の前に歩み出た。

 

『そして、もう1つ……』

 

演出の予定に無かった言葉をマリアが口にし始め、その様子を見守っている翼は怪訝な表情を浮かべた。

 

そして、マリアがスカート状のマントをはためかせると……会場内の至る所に無数のノイズが出現し、翼は目を見開かせながらマリアを見る。

 

直後、ライブ会場には歓声から一転して阿鼻叫喚の悲鳴が鳴り響き始める。

 

「嘘だろオイ!?」

 

「会場に行く! 奏は避難誘導を!」

 

「あ! オイ!」

 

「——あの時の二の舞にはするなよ!!」

 

「!!」

 

走り出そうとする律を待てと止めようとした奏に、律はそれだけを伝え走り去った。 奏は今の言葉の意味をよく理解している。

 

それは、2年前のような惨劇を繰り返してはならないと。

 

「……わぁったよ!!」

 

奏も同じ結果、思いを防ぐべく自分が出来る事を始めるため駆け出す。

 

会場では大混乱の直前だったが、しかしその直前マリアの一喝で鎮まり返った。 だが、それでも観客の目の前には明確な“死”があり、とてもではないが気が気ではなかった。

 

そして、目の前に人間がいるというのに全く微動だにしないノイズ……明らかに何者かにより操られている。

 

「《ソロモンの杖》がこの会場内にある……!」

 

岩国から短時間でここまで来られた方法は不明だが、確実にこの会場内にある。

 

律が走っている間、ステージ上で言い合っていた翼とマリア。 マリアは潮時とばかりに左手に持っていたマイクをクルクルと回した後に持ち直し、会場内に響き渡るハウリング音が鳴り止んでから言葉を紡ぐ。

 

「私達は……ノイズを操る力を以ってしてこの星の全ての国家に要求するっ!!」

 

「世界を敵に回しての口上!? これはまるで——」

 

「宣戦、布告!」

 

ノイズを持ってしての世界への宣戦布告。 誰もが耳を疑うような内容だが、彼女の鮮烈な声は確かにその言葉を聞き届けてしまった。

 

「そして——」

 

マリアは宣戦布告を告げると前振りの左手に持っていたレイピア状のマイクを空高く放り投げ、

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

歌が紡がれた。 光がマリアを包み込むと、同時に身に纏っていた衣装も弾け飛ぶ。 そして、その彼女の首元には装者たちと同じクリスタル状のペンダントが輝いていた。

 

「まさかっ!?」

 

差異があるものの、翼はその歌に聞き覚えがあった。マリアから放たれるその歌と輝きに目を疑ってしまう。

 

「この音は……」

 

「この波形パターン、まさかこれは!?」

 

会場内を走り続ける律は感覚的に感知し。 二課の司令部で観測されたアウフヴァッヘン波形の波形パターンを見て、オペレーターの藤尭も驚きを隠せず目を見張る。

 

次いで過去の波形パターンと写し合わせて計測結果が正面ディスプレイに表示されると、

 

「ガングニールだとぉ!?」

 

マリアの装いは純白から漆黒へと変わる。 細部の形状が異なるものの奏や響のギアと似たような形状をしており。 背のマントをはためかせ、落ちてきたマイクをキャッチする。

 

「黒い、ガングニール……ッ!?」

 

「……二振り目の撃槍……」

 

「私は……私達はフィーネ。そう、終わりの名を持つ者だっ!!」

 

会場のステージ上で2度、高らかに宣言したのは黒いガングニールのシンフォギアに身を纏ったマリアだった。

 

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