戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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23話 《光剣》

世界中で人気沸騰中であった“QUEENS of MUSIC”。 その開催中でトップアーティストのマリアからの突然の宣戦布告。 それが世界に拡散されてしまった。

 

普通なら荒唐無稽、だと一蹴されてしまうが。 会場内にいるノイズと彼女がいましがた世界に見せた“力”が人々の口を詰むがせる。

 

(とにかく、今ノイズに対して動けるのは俺だけ。 なんとかしないと……だけど!)

 

その中で走るのは、動けない翼に変わりノイズに対抗できるのは律。 マリアはシンフォギアを使ったが翼は使うことができない。 この会場内で動けるのは律のみ。 しかし、

 

(1体ならまだしもこんなに……! これじゃあ確実に犠牲が出てしまう……!!)

 

目の前のノイズを倒したとしても、残りのノイズが確実に観客を襲いかかるだろう。 この広いドーム内全てをカバーするのはとてもではないが無茶であった。

 

「全く……穏やかじゃないな!」

 

とにかく行動あるのみ。 中継でニュースから流れる会場の様子を走りながら確認すると、

 

「会場のオーディエンス諸君を解放する!ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!」

 

静寂が続いていた会場よりマリアから人質の解放が告げられた。 どう言うことなのかと、翼や大勢の観客から動揺が広がっていく。

 

「何が狙いなの?」

 

「ふ……」

 

目を細めながら疑問を答える翼に、マリアは不敵に笑みを浮かべる。

 

マリアが告げた通り、ノイズが襲い掛かるような素振りを見せること無く。 人質となっていた観客はゆっくりとライブ会場から次々と解放されていく。

 

「緒川さん!!」

 

「律くん!」

 

律は何とか緒川と合流し、今後の行動を検討し合う。

 

「緒川さん。 俺はノイズに扮して何とか会場内に入り込もうと思います。 緒川さんは……」

 

「——テレビ中継の回線切断、ですね? お任せください、律くんは翼さんを!」

 

「分かりました!」

 

役割を確認し、すぐにお互い背を向けて走り出す。 律は上層から会場内に向かおうとすると、視界に手を繋ぎながら走る2人の少女の姿が映った。

 

「今のは……」

 

時間は惜しいが、人質解放完了の時間を考えればまだ猶予があるだろう。 そう考えた律は確認しに人影が消えた方向に向かう。

 

その姿を、物陰で隠れて見ていた金髪の少女は慌てふためくようにしきりに左右を見回す。

 

「ヤッベー、あいつこっちに来るデスよ」

 

「大丈夫だよ、切ちゃん」

 

慌てる切ちゃんと呼ばれた金髪の少女を安心させるように黒髪の少女は胸元に下げていたペンダントを見せる。

 

「いざとなったら……」

 

それは、翼やクリスのようなシンフォギア装者たちが常に身に付けているペンダントと同じ形状をしていた。

 

「わわっ!? 調ってば穏やかに考えられないタイプデスか? そういうところ、本当に“お兄”そっくりデスね!」

 

金髪の少女は平然とする調と呼ばれた黒髪の少女の手に持っているペンダントを慌てて彼女の服の内に忍ばせた。

 

「君たち!」

 

「わっ!?」

 

それと同時に律が2人に追いつき、金髪の少女が慌てながら振り返ると……律の顔を見た2人は目を見開かせた。

 

「「!!」」

 

「道に迷ったの? 案内するからここから離れよう」

 

「「………………」」

 

膝をついて視線を合わせながらそう言うが、2人の少女はジーッと律の顔を見て何も喋らなかった。

 

「え、ええっと……君たち?」

 

「あ! な、何でもないデス!」

 

「デス?」

 

その特徴的な語尾の口調にどこか覚えがある律は思い出そうと頭をひねる。 だがそんな事よりも、と思考を振り払い、

 

「ここは危険だ。 早く避難しよう」

 

「え、ええっと……」

 

「どうしんだい? もしかして、何かあったのかな?」

 

「——大丈夫です」

 

なぜ避難しないのかと聞き出そうとすると、金髪の少女の後ろに隠れていた黒髪の少女が律の前に出てそう答えた。

 

「調?」

 

「……大丈夫だから……私たち、大丈夫だから……」

 

真っ直ぐ、少女は律を見る。 必死に語りかけるその目に負けたのか、律はゆっくりと立ち上がり、出口の方角を指さした。

 

「…………分かった。 出口はあっちだから。 落ち着いて、慌てずに行くんだよ」

 

「……うん」

 

「……デス」

 

「いい子だ」

 

「「あ……」」

 

律は優しく2人の頭を撫でた後、すぐさま走り出し2人の前から消えて行った。 後に残された2人の少女は、お互いの顔を見合わせる。

 

「調、今の人って……」

 

「……分からない……」

 

とある人物に似ているが、確証がなかった。

 

「と、とにかく行くデスよ………!」

 

「……うん」

 

2人は手を繋ぐと律が指差した方向とは逆の方へと走っていく。

 

(お兄、ちゃん……)

 

手を引かれながら黒髪の少女は走りながら後ろを振り返り、律が消えた先を見つめるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

刻一刻と時が進んでいき……会場の外周、その屋上に辿り着いた律はそこから会場内を見下ろす。

 

(……よし、これなら!)

 

マリアの言う通り観客は全て避難されており、これなら問題なく動けると確認できた。

 

「やるよ……リューツ!」

 

「ガウ!」

 

「Feliear ◼️◼️◼️ tron」

 

服の内の中に入れていたペンダントを取り出し、ギア内に入っていたリューツを出しながら律は聖詠を紡ぐ。

 

すると、律の周りを黒いノイズが周囲に漂いながら両腕両足、腰と胸に装甲が装置され、そこから滲み広がるように全身を黒いアンダースーツで覆われる。 背からは黒い突起物が生えると縦に裂かれ赤い閃光を放つ一対二翼のウィングが、頭部にくの字型の(つの)があるヘッドギアが装着され、目元に赤いバイザーが下される。

 

大まかな変化はないが細部は変わっており、片側のウィング内に3本のニードルのような針が両翼合わせて6本あり、放出される閃光の形を整えウィングの形成を手助けする役割を担っており。

 

さらに腰部の装甲パーツが増え鞘の懸架が楽になった上、羞恥が僅かばかり減った。 以前はタイツ1枚だけを着ているようで恥ずかしくて仕方なかった。

 

ともかく、律のシンフォギア……名称は不明だがノイズを操る力がある。 律はウィングを折りたたみ身をかがめ、1体のノイズに狙いを定め、

 

「——フッ!」

 

音もなく黒いなめくじ型のノイズに飛び降り、手刀で背中を突き刺した。 手はノイズの芯まで届きノイズの“核”を握り潰すと即座に律のシンフォギアに吸収され、その直後に頭上にリューツが飛び降り、先程の黒いなめくじ型のノイズの姿を真似ると律に覆いかぶさった。

 

この間、ものの数秒で行われた。

 

(さて、ここからどうするか……)

 

気付かれないよう1番遠くのノイズを狙ったため、このままでは翼は助けられない。

 

『——マリア』

 

「はいマム」

 

『先程、微弱ですが正体不明のアウフヴァッヘン反応を検出しました。 恐らく例の“4人目”の可能性があります。 十分に警戒なさい』

 

「……分かったわ」

 

シンフォギアのヘッドギアから聞こえてきたのは老齢の女性の声。 マリアはその警告を聞くとグルっと、次第に観客が消えゆく会場を見回す。

 

そして律はどうやって近づこうか考えていると……マリアはノイズしか残っていない静けさに包まれたライブ会場を見渡した。

 

「帰るところがあるというのが、羨ましいものだな」

 

「マリア、あなたは一体……?」

 

不意に呟かれた寂しい雰囲気を持ったマリアの言葉を聞き、翼は思わずその言葉の是非を問うように言葉を投げ掛けた。

 

「観客はみんな退去した。もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないと言うのであれば、それはあなたの保身のため」

 

笑みを浮かべるマリアが翼に向けてマイクを突き出すと、今まで静観していたノイズの群れが一斉にステージの方に向き、そちらに向かって歩き出し始めた。

 

(よいしょっと……)

 

その進行するノイズに紛れた律も、堂々と一緒にステージ前へと移動する。

 

ステージ上ではこれ以上の問答は無用とばかりに両者が持っていたレイピアの形を模したマイクスタンドで斬り合っていた。

 

当然、シンフォギアを使えない翼の方が部が悪いが。 翼は回避と防御に集中することで何とかマリアの攻撃を耐えていた。

 

「いつまで耐えられるかしらね!」

 

マリアは身をひねり回転させながら背から伸びるマントを翻し、ノコのように攻撃を繰り出す。

 

翼は迫るマントをマイクで防ごうとすると、マイクは一瞬で斬られてしまい、マントはそのまま翼に迫り来る。

 

「ッ!」

 

驚く間も無く翼は膝を曲げ体を逸らし直撃を回避。 その勢いでその場からバク転して飛び退いた。

 

立ち上がった翼は手に持っていた根元から切られたマイクを一瞥すると、そのまま放り投げた。

 

「……………………」

 

無手になりながらも諦めず構えをとる翼。 だが、そんな彼女をマリアは見ておらず……ステージ下に集まっているノイズの集団を一瞥していた。

 

(4人目のシンフォギア装者……来るなら来なさい。 あなたがいる事は分かっているわ)

 

マリアはマイクを反対の手に持ち、右腕の腕部ユニットを展開、右手に《ガングニール》の象徴たる槍のアームドギアを展開する。 居場所は分からないが、シンフォギア起動時のアウフヴァッヘン反応は彼女たちの方でもキャッチしていた。

 

ステージを照らす照明以外の場所は暗い。 暗闇から奇襲をかけられたらたまったものではない……そのために、何としても4人目を光の下に出さなければいけない。

 

「はあっ!!」

 

「ぐうっ……!」

 

槍を一振りすると衝撃が走り、翼は耐えられず吹き飛ばされてしまう。 うつ伏せに倒れ込んでしまう翼の下にマリアは歩み寄り、槍の穂先を翼の背に向ける。

 

「出て来なさい!! いるのは分かっている! 彼女がこのまま串刺しにされてもいいのなら——!」

 

「ッ……!」

 

槍を逆手で握りながら棒を握りしめ、頭上に掲げる。 そして、振り下ろされた槍が翼を貫こうとした、その時……

 

——バシュンッ!!!

 

ステージ前から赤い閃光が奔り、2人の前に割って入るように躍り出た。

 

「ッ……!!」

 

マリアの持つ槍は紅い刀身を持つ長剣の峰で止められており、その剣を持っているのは、

 

「律さん!」

 

「遅えんだよ!!」

 

シンフォギアを纏う芡咲 律であった。 ヘリから中継の映像を見ていた響とクリスも律の当時に笑顔を浮かべる。

 

ちなみ顔は隠しているため、問題なく生中継の前に出られている。 司令の確認も取り許可も出てます。

 

「無事か、風鳴 翼?」

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

無事を確認しながら槍を弾き返し、マリアが後退。 律は彼女から視線を外さずに翼に歩み寄り、小声で話しかける。

 

(緒川さんがこの状況の対処に向かっている。 もう少しの辛抱だ)

 

(承知した)

 

静かに首肯する翼に頷き返し、マリアと向かい合って剣を向ける。

 

だが、マリアの表情は今まで見たことのないような、驚愕した顔で律のことを見ていた。

 

「…………ぜ」

 

「…………?」

 

ポツリと、マリアは呟き。 次の瞬間、顔を上げると怒りの形相で律に向かって勢いよく突っ込んできた。

 

「なぜ貴様が《光剣》を持っている!?」

 

「ぐうっ!?」

 

槍を全力で振り下ろし、律はそれを受けると衝撃でステージが凹んでしまうも何とか受け止められ、そのまま鍔迫り合いになる。

 

「答えろ! そのシンフォギアはどこで手に入れた!?」

 

「な、にを……言ってる!」

 

反論するように律を膝を上げ、マリアを押し返していく。 マリアも正面から押し返しながら答える。

 

「——それは、そのシンフォギアは《クラウソラス》!! 何故貴様が使っている!?」

 

「なっ!?」

 

マリアから告げられたのは律が使うシンフォギアの名称……カチリと、律は歯車が噛み合うような感覚を覚える。

 

(このシンフォギアの名前は……クラウソラス……)

 

真偽はともかく、律には今自身が身に纏うシンフォギアが《クラウソラス》だと確証もなく、しかし確信してしまった。

 

「ッ……どういう事だ!? 貴女はこのシンフォギアの何を知っている!!」

 

「質問しているのは——私だ!!」

 

怒号の勢いでマリアは一気に押し返し、律をステージ上から押し出す。

 

「くっ!」

 

「! 舞台を降りるにはまだ早いわよ!!」

 

この場にいては邪魔になると判断したのか、翼は踵を返し走り出した。 しかしマリアはそれを許さず、まだ持っていたマイクを翼に向かって投擲した。

 

投擲されたマイクは足に当たりそうになるが、とっさに跳躍しマイクは足下を素通りしていく。

 

「——あっ!」

 

しかしその直後、着地の際に翼の履いていた靴のヒールが折れ体勢を崩してしまった。 ライブ用の靴とはいえ、それでも今までの激しい動きには耐えることは出来ず。 とうとう限界が来てしまったようだ。

 

「翼!!」

 

「ふんっ!」

 

「あぐ……っ!!」

 

先回りしたマリアが翼の腹部に鋭い蹴りを放ち、ステージ下にいるノイズに向かって蹴り上げた。

 

「戦って歌姫と死ぬか、そのまま守人として死ぬか……選んでみなさい!!」

 

「くっ!」

 

このまま落下すればノイズの餌食になる……マリアはシンフォギアを出さぜる得ない状況を作り出した。

 

体勢を即座に立て直し律は一目散で駆け出し、必死に手を伸ばそうとするも……その行手をマリアが塞ぐ。

 

「さあ、答えてもらおう! そのシンフォギアの出所を!!」

 

「っ……!」

 

それほどまでに律のシンフォギアが気になるのか、歌姫か守人かの生死を問われている翼に目も向けなかった。

 

(流石にリューツを中継させるわけには……!)

 

最悪の事態に備え、リューツで受け止める策はあったが……それではリューツという個体名ならまだしも“人が触れても問題ないノイズがいる”という事実が世界に周知されてしまう。

 

それによる影響はまだ分からないが、それでも軽く見せてはいいものではない事は確かである。

 

(間に合えっ!!)

 

ウィングを広げ紅い閃光を迸しらせる。 律は“漆黒(ブラック)鵬翼(ウィング)”を両翼を広げるように放射状に放ち、屈折させてマリアを越え翼の落下地点にいるノイズを倒すつもりでいた。

 

「させない!」

 

しかしそうはさせまいとマリアは一瞬で肉薄し妨害しようと槍を振り抜くと……いとも簡単に、抵抗なく律の身体を貫いた。

 

「何っ!?」

 

忍者(ニンジャ)術攻(アタック)

 

だがそれはフェイント。 槍が貫いたのは律の姿を模した分身。 本体は音を出さず影を落とさずマリアの頭上を越え、手を伸ばす。

 

「律……!」

 

「手を掴めっ!!」

 

互いに顔を合わせ、互いに届くように手を伸ばし……律はその手を掴み引き上げた。

 

「ギ、ギリギリセーフ……」

 

「……………………」

 

「翼?」

 

「い、いや……何でもない」

 

律に横抱きに……お姫様抱っこされている翼は恥ずかしいのか、落ちないよう律の肩に手を添えながら顔を合わせないよう赤らめた顔をそっぽに向けた。

 

「っていうか、いつの間に緒川さんの影分身を……」

 

「元々似たような技を覚えていたからね。 自分なりにアレンジしたんだ」

 

(……私が《影縫い》を習得するのに3年かかったのに……)

 

少し口調が砕ける翼。 自分が緒川の忍びの技を3年かかって覚えたというのに当の律はものの一月で習得したことに不満を覚えた。

 

「この私を無視するとはいい度胸ね」

 

「俺の視線は翼に釘付けだからね」

 

「!? 歯が浮くような台詞を言うな!!」

 

顔を真っ赤にした翼は押し出すように律の顎に掌底を叩き込んだ。

 

律は「いや、もしくは前のクリスみたいに“のぼせ上がるな人気もの!”って言った方がいいのかな? いやそれだと世界中に配信されちゃうし……」と顎に掌底を喰らって大きく横を向きながらズレた事を言っていた。

 

その時、ステージ上の大型スクリーンの映像が途絶えた。

 

「何が……!?」

 

「これは……」

 

「緒川さん……間に合ったんだ!」

 

世界に中継されていた映像が途切れた。 これにより世界からこの場がどのような状況になっているのか分からなくなる。

 

「中継が中断されたっ!?」

 

会場全ての画面に“NO SIGNAL”と表示がノイズ音と共に映し出されている。 中継が切られ、ドーム内が世界から切り離された証拠であった。

 

「シンフォギア装者だと世界中に知られて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて……風鳴 翼のマネージャーとして許せる筈がありません……!」

 

ドームの管制室では息を荒げながら笑みを浮かべる緒川の姿があった。

 

籠から解放された鳥は自由に羽ばたける。

 

「律!!」

 

「行け、翼!!」

 

翼は律の右腕に乗り、律は翼を上に放り上げ翼は腕を蹴り上げ大きく飛び上がった。

 

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