戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
「——Imyuteus amenohabakiri tron」
緒川が中継を遮断に成功し、籠から解き放たれた翼は空に舞い上がる。
上昇しながら聖詠を歌い、シンフォギア《アメノハバキリ》が起動する。 翼は起動したシンフォギアをその身に纏うが、その姿は以前のものとは少しばかり差異があった。
ギアの色合いが以前は青と黒に対して今は青と白。 まるで不純な物が取り除かれ鮮明になっている。 両脚部に装備されていた脚部ブレードも刀身の長さが自在になっているのか、以前は膝まであった刀身が小太刀程度の大きさになっている。
これは装者にかかる負荷軽減の為にシンフォギアにかけられた3億近くあるロックのうち幾つかが系統的、段階的に限定解除されたことにより起きた変化であった。
響、翼、クリスの3人は今までの戦闘経験の蓄積によりギアとの適合率や親和性が高まり、こうして成長の形はシンフォギアにも現れた。
ただし律の場合、通常のシンフォギアとは大きな相違があるため響たちと比べロックは僅かにした解除できておらず、目に見えるシンフォギアの変化は起きていない。
「リューツ!」
「ガウッ!」
先にノイズの群れの中にいたリューツを回収した直後、ギアを纏った翼がノイズの中を真っ直ぐ切り進み。 跳び上がると同時に手に持つアームドギアの形状を刀から蒼い刃の大剣へと変化させ振りかぶる。
【蒼ノ一閃】
振り下ろされた大剣から放たれた斬撃はノイズを切り捨てながら突き進み、衝撃でノイズが左右に吹き飛ぶとその空いた間に翼は両手で着地し、
【逆羅刹】
両脚を広げると同時に脚部ブレードが展開し回転、群がるノイズを一掃する。
「せいやっ!!」
律も見てばかりはいられない。 せっかくのシンフォギアを動かすエネルギーとリューツの餌……長剣で斬ってはその残滓を吸い取り糧とした。
ノイズの相手を律に任せ、翼は再びステージに戻り剣先をマリアに向け青眼の構えを取る。
「いざ、推して参る!」
先に出たのは翼、一気に駆け斬りかかる。 それに対しマリアは繰り出された剣戟を踊るように、マントを翻しながら避け続ける。
「はっ!」
横薙ぎに振られた刀を跳躍して避け、身を翻しながらマントで攻撃を繰り出す。 翼は迫るマントを切り払おうとするが、それは舞う布を切るような事……伸縮自在なマントを捉えられる事は出来ず、刀を擦り抜けて行く。
防御を越えられた事に目を見開くも咄嗟に空いた左腕を眼前に出し、弾かれ後退する。
「このガングニールは本物!?」
感覚的なものだろうが、奏と響の《ガングニール》を通してマリアの使うシンフォギアが《ガングニール》だと確信してしまう。
「漸くお墨を付けてもらった。 そうよ、これが私のガングニール——何者もを貫き通す無双の一振り!!」
会場からノイズを一掃した律がステージに降りてきた。
「翼!!」
「——助太刀無用! これは、私の戦だ!!」
共闘しようとしたところを翼の一喝で止められた。 律はどうしようかと考え、長剣を鞘に納め一歩下がった位置で静かに佇んだ。
「……槍を使わずして戦うとは……私を舐めているのか!?」
「必要がない、それだけよ!」
そう答えながら槍を使わないという体を表すように槍を右腕の装甲に戻し納めた。
マリアは飛び上がりながマントを剣のように扱い斬り下げ、そして着地からの斬り上げを繰り出し。 続けて自身の身体を包むようにマントを巻き付かせて回転を開始、コマのようになりながら突撃する。
翼は2段攻撃を防ぐと足を広げ腰を落とし刀を両手で握りしめ、それを受け止める体勢を取り。 マントと刀が接触すると火花を散らし稀有な鍔迫り合いとなった。
「だからとて! 私が引き下がる通りなど……ありえはしない!!」
たとえガングニールが相手だろうと、翼がたじろぐ事はない。
すると、その最中にマリアのギアに通信が入る。
『マリア、お聞きなさい。フォニックゲインは現在22%付近をマークしています』
(なっ!? まだ78%も足りてない!?)
予定よりもはるかに少ない数値にマリアは驚きを隠せなかった。 通信先にいる妙齢の女性が報告を続ける。
『加えて《クラウソラス》の装者が放つノイズがフォニックゲインの上昇を阻害しています。 かの装者からノイズ率が300%以上を叩き出しています』
(ッ……! 個人でそれだけ高いノイズが!?)
視線を佇む律に向ける。 彼女たち武装組織《フィーネ》の目的遂行のためには律の存在そのものは邪魔でしかならなかった。
「…………(ギリッ)」
今は彼女たちの目的が第一優先。 だが律が使うシンフォギアについて知りたい。 この2つのどちらかの選択に迫られマリアは歯軋りをしてしまう。
「マム! あの装者は……!」
『私にも分かりません。 それに、今はそれを確認している暇はありません』
「………!」
鍔迫り合いの最中、マリアの意識が自分から離れたと察した翼は鍔迫り合いをやめ後ろに向かって飛び上がる。
気が動転してしまったマリアは急に攻撃による支えが消えてしまった事で前のめりにつんのめってしまう。
空中で柄を収納している太ももの部位にある装甲から2振りの柄が射出され、展開され両刃の直剣のアームドギアを逆手で掴み取る。
「私を相手に気を取られるとは!!」
翼は持っていた2本のアームドギアの柄頭を連結させて一振りの双刃剣とし、連結部位を中心に両手の中で回転を始めると刀身に燃え盛る炎を纏った。
着地と同時に脚部ブレードを展開し加速、滑空しながらマリアとの離れた距離を一気に肉薄する。 体勢を崩しているマリアは回避も間に合わず、
【風輪火斬】
風の如き勢いで業火を纏った剣の袈裟薙ぎが炸裂した。
「ぐぅ……!」
咄嗟にマントで防御し直撃は避けたが大きな手傷は負ってしまい苦悶の表情を見せる。
「話はベットで聞かせてもらおう!!」
身を翻し再び業火を纏った双刃剣を手の中で回転、文字通りその炎で
「ッ……!?」
突如、翼の背後から甲高い音を立てながら無数の飛来物が迫ってきた。 翼はトドメを中断し振り返りながら回転させていた双刃剣を盾にして防ぐ。
「丸鋸……!?」
傍観していた律も他者からの乱入に驚き、飛来してきた方向を確認すると……そこにはピンクと黒のシンフォギアを身に纏っている黒髪の少女がいた。
(さっきの……!)
その少女は律が先程移動中に出会った2人の少女のうちの1人だった。
少女は歌を歌いながらステージに降り、両側頭部に装着されているツインテールのようなアームドギアを展開し、無数の円盤……先程の丸鋸を翼に向かって射出する。
【α式 百輪廻】
その直後、背後からもう1人……片割れのもう1人の金髪の少女が緑と黒のシンフォギアに身を包み、巨大な大鎌を振りかぶると鎌の刃が3枚刃に分裂する。
「行くデス!!」
金髪の少女は空中で一転し、その勢いで大鎌を振り抜いた。
【切・呪リeッTぉ】
振り抜かれた大鎌から上下2刃が投擲され、回転しながら翼の左右から弧を描きながら飛来してくる。
翼は絶え間なく飛んでくる丸鋸の防御に追われてしまい、身動きが取れなかった。
「せいっ!」
しかし傍観していた律は即座に動き出し、翼の背後に回ると左右から飛来して来た鎌を斬り落とし翼の腰に手を回すとその場から飛び退き、遅れて無数の丸鋸がステージを刻みながら次々と刺さって行く。
「危機一髪……」
「まさに間一髪だったデスよ」
マリアを守るように現れたのはさらに2人の装者だった。
「装者が……3人!?」
「君たちは、さっきの……!」
装者は貴重で、1人を見つけるのにも多大な時間がかかるというのにも関わらず。 立て続けに3人、敵として現れた事に驚きを隠せない。
「調と切歌に救われなくても、あなた程度に遅れを取る私ではないんだけどね」
「通信に気を取られていてよく言うよ」
形勢逆転とばかりに笑みを浮かべ歩いてくるマリアに、律は先程の隙ができた原因を指摘する。
その間、2人の少女は律のシンフォギアを驚きを隠せない表情で見つめていた。
「……マリア。 あのシンフォギアって……」
「分かってる。 でも今はそれどころではないの」
「で、でも! あれは間違いなく《クラウソラス》デス!!」
どうやらマリアだけではなく、2人の少女……調と切歌も律のシンフォギアについて知っているようだった。
「……答えてくれ。 《F.I.S》とは何なんだ?」
「ッ……先に答えるのは貴方よ! そのシンフォギアを——」
すると突然、マリアは喉に出かかった言葉を止め、上を見上げる。 そこにはプロペラ音を立ててホバリングしているヘリの姿があり……そのヘリから2つの人影が降下していた。
「土砂降りの——10億連発!!」
【BILLION MAIDEN】
1人は《イチイバル》のシンフォギアを纏った雪音 クリス。 空中で二丁の4門ガトリングを展開すると真下に向かって、まさに雨の如く銃弾を撃って行く。
調と切歌はその場から飛び退き、マリアはマントを頭上に張り硬化させ、傘のように降り注ぐ銃弾から身を守る。
「おおおっ!!」
雨の中に一つの巨大な霰が落ちてくる。 それは《ガングニール》のシンフォギアを纏った立花 響。 急降下しながら拳を振り上げ、マリアに向かって拳を振り下ろす。
だが寸前での所でマリアは身をよじり、響の拳はステージを打ち抜いた。 避けながらマリアは反撃に転じマントを振り抜き、響は身を屈めて頭上にマントが通り過ぎて行き、地を蹴りステージを降り距離を取った。
律と翼もクリスが攻撃を開始した時点でステージを降り、4人は合流するとステージ上にいる3人の装者を見上げる。
「やめようよこんな戦い! 今日出逢った私たちが争う理由なんて無いよ!」
「ッ……そんな綺麗事を……!」
「え……」
響は響らしく説得しようとするが、それが気に食わないのか調は顔を怒りに歪める。
「綺麗事で戦う奴の言う事なんか、信じられるものかデス!」
「そんな……話せばわかり合えるよ。 戦う必要なんか……」
「——偽善者」
献身的に説得を試みる響の言葉を、調は綺麗事のように吐き捨て睨みつける。
「この世界には、貴方のような偽善者が多すぎる……!!」
今度は憎悪と嫌悪が混じった歌を歌い始めるとアームドギアを持ち上げて展開し“α式 百輪廻”を響に向かって撃ってきた。
「何をしている立花!」
「……ぁ……」
響の前に割って入った翼がまだ展開していた双刃剣を回転させて先程と同じように丸鋸を防ぐ。
「クリス!」
「わぁってるよ!」
戦闘が再開し律とクリスは左右に分かれ律は光線銃、クリスは二丁のガトリングを構えると彼女たちに向かって撃ち出す。
3人は襲いかかる銃弾を別々の方向に避け、クリスは上空に跳んで攻撃を回避した切歌に狙いをつけて撃つが……切歌は大鎌のアームドギアを手の中で振り回すことで翼のように攻撃を防ぎながらクリスに接近する。
そのまま切歌の攻撃が届く位置まで肉薄され、クリスは横に振り抜かれた鎌を飛んで避けながらガトリングをボウガンに換装する。
「近過ぎんだよ!」
シンフォギアの特性上、近距離が苦手なクリスは悪態つきながら2つボウガンの矢を扇状に放つが。 切歌は迫る矢を大鎌で防ぎ、再びクリスに向かって行く。
別の場所では翼とマリアが対峙しており。 翼は襲ってきたマントを避けながら双刃剣の連結部位を外し、逆手の双剣でマリアに斬りかかる。
「はっ!」
手数を生かし何度も斬りかかるが、マントを巧みに操ることで防ぎ。 自身を中心にマントを回転させることではじき返した。
「ふっ……!」
その攻防の間に律はマリアの背後に周り、光線銃を撃つが……マントに触れると鏡で反射したようにあらぬ方向に光線が反射されてしまう。
「何それ!?」
「《クラウソラス》の特性は知っているのよ!」
疑心暗鬼だったが、ここまで特性を知っているとなると律のシンフォギアが《クラウソラス》だという真実味が増してくる。 だがそうも言ってはいられず。 マリアはマントを横に振り抜き、律と翼を薙ぎ払った。
さらに響は調の説得を続けており。 巨大鋸を装着した2本のアームから繰り出される攻撃に響は手を出さず避け続ける。
「私は困ってる皆を助けたいだけで……だから!」
「━━それこそが偽善!!」
バッサリと断言されてしまう。 どんなに差し伸べる言葉を並べようとも、その全てが調にとっては偽善にしか聞こえなかった。
「痛みを知らない貴方に“誰かの為”なんて言って欲しくない!!」
【γ式 卍火車】
アームに巨大鋸が装着されている状態で、アームを振り抜き鋸を投擲してきた。 ただ立ち尽くしてしまう響は避けることが出来ず、
「っ!」
「くっ!」
再び間に割って入ってきた律と翼がそれぞれ鋸を剣で受け止め、左右に弾くように跳ね返した。 そしてクリスが響の背後から歩み寄り……その後頭部にボウガンの柄頭を叩き込んだ。
「あだっ!?」
「鈍臭いことしてんじゃねえ!」
「気持ちを乱すな!」
「あまり落ち込むなよ」
「は、はい!」
調とわかり合えなかった事は悲しいが。 3人からの叱咤を受け、響は気を引き締めた。
その時……ステージ上に緑色の光が溢れ出し、そこから生々しい音を立てながら緑色の物体が膨張し、巨大な緑色のノイズが出現した。
「うわぁ……! 何あのデッカいイボイボ……!?」
「増殖分裂タイプ……」
「こんなの使うなんて、聞いてないデスよッ!」
(え……)
調と切歌も響たちと同じ表情でノイズを見上げていた。 どうやらこの規格外のノイズの出現は彼女たちにとっても予定外のようだ。
(彼女たちは……武装組織《フィーネ》はノイズを操る術《ソロモンの杖》を保有していない? 《ソロモンの杖》の所持者は仲間ではなく協力者?)
杖の所有者はおおよそ予想はついているが、協力関係ではなかった事に律は疑問を覚える。
「……マム」
『3人共、退きなさい』
「……分かったわ」
マリアは指示を仰ぐと撤退命令が出た。 マリアは両腕の装甲を合体させて射出すると、そこから槍のアームドギアが展開されマリアの手に収まった。
「ここでアームドギアを……?」
「なんで今更……」
先程は律を炙り出すために抜かれた槍がこのタイミングで再び抜いた事に疑問を覚える。
その疑問が答えられぬままマリアは槍を出現したノイズに向けると、槍の先端部から半ばまでの刀身部分が展開され砲身が形成される。
砲身部分にエネルギーが集束されたことで砲身付近に紫電が走り、砲身から高出力のビームを目の前のノイズに向けて放った。
【HORIZON†SPEAR】
「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」
砲撃を受けたノイズは破片が会場に飛び散る。 すると、彼女たちは踵を返しステージで飛び上がり、即座に会場から出て行った。
「ここで撤退だと!?」
「折角温まって来たのに尻尾を巻くのかよ!」
「…………! 待て、様子がおかしい!」
「あっ!? ノイズが!!」
ノイズから周囲に飛び散った破片が蠢きブクブクと膨張を始め、先程よりも大きくなろうとしていた。 それも一つや二つではない。
翼は排除しようと双剣を直結に繋ぎ大剣に変形し“蒼ノ一閃”を放つも、それを気にノイズはさらに大きく膨れ上がる。
「このノイズの特性は、増殖と分裂……」
「放って置いたら際限無いってことか……その内ここから溢れ出すぞ!」
「これが狙いだったのか」
自分たちが出現させたノイズを攻撃した目的が判明するもそれは今更。 その時、管制室から戦況を見守っていた緒川から通信が入る。
『皆さん聞こえますか! 会場の直ぐ外には、避難したばかりの観客達がいます! そのノイズをここから出す訳には……!』
「観客!? 皆が……!」
未来たちを含めたライブ会場を訪れていた大勢の観客たち。 そのほとんどがまだ会場外におり、このままノイズを膨張巨大化し続ければ2年前と同じ悲劇が起こってしまう。 必ずここで欠片も残さず討伐する必要がある。
「迂闊な攻撃では悪戯に増殖と分裂を促進させるだけ……律」
「無理無理。 入りきらない。 それにお餅みたいに喉つまらせそう」
「どうすりゃ良いんだよ!?」
「——絶唱……絶唱です!!」
翼が期待する目で律を見ると、律は手を横に振る。 律のシンフォギアにはノイズをエネルギーとして吸収する機構があるが、あのノイズは受け付けないようだった。
策を講じようと案を張り巡らせていると、響が“絶唱”を提案してきた。 その単語を聞き、響が何をしようとしているのか察する。
「もしかして、アレをやる気か?」
「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」
それは絶唱を使ったコンビネーション技。 絶唱の特性上とても危険が伴ってしまう。 それでもと、響の決意は固く無言で頷く、
「増殖力と上回る破壊力で一気殲滅……立花らしいが、理に叶っている」
「おいおい、本気かよ!?」
しかし、他に方法はなくこの場にあのノイズを残しておくわけにもいかない。 そうと決まればと、律は3人の方に向き直る。
「なら……俺は彼女たちを追う」
「律っ!?」
クリスが驚愕した表情で律を見るが、律は無言で首を横に振るう。
「俺のシンフォギアから放出されているノイズはフォニックゲインの上昇を阻害する効果がある。 一緒にいたらせっかくの絶唱も台無しになる」
「それはそうだが……」
「適材適所だ。 律、頼めるな?」
「諸事情優先だから保証はしない」
彼女たちを追いかける理由は捕縛ももちろんあるが、それよりも律は彼女たちが自分について知っている事を話してもらう事にあった。
「それじゃあ、行ってくる」
「ガウ!」
響たちにこの場のノイズを任せて背を向け、ウィングを広げると紅い閃光を放出して浮遊。 マリアたちが消えた方向に向かって飛翔する。
会場から離れて行くマリアたちは、真っ暗な夜空の中に紅い光があるため、背後から律が追ってくることがすぐに分かった。
「……マム。 彼が追ってきます」
『よろしい。 そのまま引きつけなさい。 絶唱によるフォニックゲイン上昇を阻害させないため、会場から引き離すのです』
そこで言葉を止め。 少し嘆息してから女性は続ける。
『……足止めをする時間が必要です。 追いつかれた際、彼の質問には答えて差し上げなさい』
「……了解。 2人とも、上がるわよ!!」
通信を切ると同時にマリアたちは地上から付近のビルを駆け上り、見つかりやすいように屋上伝いで移動を始める。
「……見つけた!」
マリアの目論見通り、律が目元にあるバイザーが3人の姿を捉えた。 彼女たちはビルの屋上を飛び移りながら移動していた。
律のシンフォギアは空を飛べるため速度は速い。 両者の距離は徐々に縮まって行く。
「追いつかれるデス!」
「飛べるなんてズルい……」
「問題ないわ。 でももう少しだけ……あの廃ビルまで頑張って」
「うん」「デース」
人気のないエリアにある廃ビルに飛び移ると反転し、反撃に出る体勢を取った。
その様子を見ていた律に、本部から通信が入ってくる。
『律くん。 相手は3人だ。 戦闘はできるだけ控えてくれ』
「分かっています。 俺は知りたい事を問いただしたいだけ……けど最悪の場合《SG-D》を使用します」
『……それは最後の手段だ。 相手の目的や背景が見てない以上、こちらとしても情報が欲しい。 なるべく対話で収めてくれ』
「誠心誠意努力はします」
《SG-D》とは“シンフォギア・デストロイヤー”の略称で、律のシンフォギアの副次的に組み込まれている聖遺物《イペタム》を前面的に起動した状態の事である。
《イペタム》の特性上、別段対シンフォギア特化だけの兵装ではないが。 それでもシンフォギアの天敵には変わりないのでこう言った名称になった。 さらに暴走の危険があるため使用限界時間が定められており、使い勝手の悪い“諸刃の剣”という扱いになっている。
その事は置いておき……律は本部からの通信を切り。 逃走する足を止めこちらを見上げる3人が立つ廃ビルの屋上に降り立つ。
「追いかけっこはもう終わりか?」
「……………………」
「デース……」
ジロリと睨み付ける律に、2人の少女は武器を構えて身構える。
「わざと陰から出て俺に視認させ、誘導したと言うことは……おそらく時間稼ぎがしたいんだろう。 なら俺の質問に答えてもらう……」
「………………」
見抜かれている事に驚愕するが、なるべく無表情を貫くマリア。
そんな彼女たちの前で律は……シンフォギアを解除し、生身の姿で向かい合った。 隠されていた素顔を見るとマリアは目を見開きながら息を飲む。
律は首に下げていたギアペンダントを手に取り彼女たちに突き付ける。
「俺の名前は芡咲 律。 約10年前にこの日本に流れ着いた。 それ以前の記憶は全くない……」
「…………え……」
「このペンダントはその時から所持していたものだ。 これがシンフォギアと知ったのはごく最近だし《クラウソラス》だというのも今日知った」
マリアが知りたがっていた律のシンフォギアについて説明する間、彼女たちは何も言ってはこない。 律は続けて説明する。
「だが、つい最近……俺の素性を知る人物が現れた。 君たちも知ってるだろう……櫻井 了子が、フィーネが俺について知っていた」
武装組織《フィーネ》を名乗っているのなら、当の本人の正体やどのような結末を迎えた事くらいは知っているだろう。 それを前提に律は切り出す。
「まだ聞きたいことはあるが、そっちも俺から聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「……………………」
彼女たちの疑問は先程の説明で既に解決したのだろう誰も口を開かない、納得しないにせよ……ならばと律は質問を続ける。
「——なら答えてもらおう! 記憶を失う前俺は《F.I.S》という機関にいた! 《F.I.S》とはなんだ——月読とは何だ!!」
「ッ!!」
少々怒号混じりだが律は自分が知りたい真実を彼女たちに問いかける。 すると、その質問に調は泣きそうな顔になり、律に顔を見せないように俯く。
「調……」
「……大丈夫」
「こんなのって……ないデス……」
他の3人もショックを受けているようだ。 調は声を殺し堪えるように泣き出してしまい、流石に律も動揺してしまい。 声をかけようとした時……頭に軽く鈍痛が走る。
「ッ……!」
思わず膝をつきかけるが何とか堪え、脳裏に記憶にない光景が映りだす。
『名前なんていうんデス?』
『…………◼️◼️』
『変な名前……』
場所は以前にも見たことがあるような無機質な白い部屋。 そこには質素な服を着た少女たち……目の前にいるマリアたちと、マリアとよく似た少女の4人がいた。
『なら読み方を変えて……り……つぅ……“律”がいいよ』
『それがいいデス!』
『……呼びたければそれでいいよ』
『うん! よろしく、律』
マリアに似た少女が自分に向かってそう名付けると、自分は鬱陶しそうに背を向けていた。
この記憶は失われていた記憶なのだろうか? 証明する方法などありはしない……律は顔を上げ、調べの方を見て、
「しら、べ……月読……調?」
「!!」
不意に呟いた名前。 調は顔を上げゆっくりと、律に向かって歩み寄ろうと、した時、
「お、おにい——」
『行けませんよぉ〜』
そこで、奇怪な声が……通信越しでも口元が歪むように吊り上がっていると分かるような男の声が調たちのギアから通信で横槍を入れてきた。
『感動の再開ですねぇ。 ですが悲しいかな、再開した兄妹は敵同士! 分かって……いますよねぇ?』
「……ッ!」
まるで命令を強制されているようで、思い通りにできない歯痒さに調は強く拳を握りしめる。
「調、ここは耐えて……」
「…………うん…………」
彼女たちはアームドギアを抜き、対話から再び敵対姿勢を見せる。
「……何よりも優先すべきことなんだろう。 だが……」
これ以上の問答は無用と判断した律はギアペンダントを握りしめ、歌を紡ぐ。
「——Feliear
名前が判明したからか、聖詠をノイズ無く歌いきり。 律は再びシンフォギアを纏い、剣を握り締める。
「それはこちらも同じこと!」
「くっ!」
一瞬でウィングを広げる飛び上がり、彼女たちの頭上を取ることで空を制し有利な立ち位置を取る。
「早いデス!」
「調! あなたは下がってなさい!」
「……大丈夫。 私も……!」
あの中で1番律と戦いたくなかった調だが、自分を押し殺してでも成し遂げたい彼女たち目的があるのか……調は律と対面しながら身構える。
先に律が空から仕掛ける。 急降下から剣を下段から振り上げてから急上昇、相手からの攻撃が届かない空まで離脱し反撃をする機会も与えずヒット&アウェイを繰り返す。
「ダメデス! 早過ぎるしこっちの攻撃が届かないデス!」
「まともにやり合ってはくれないようね……」
「しかも簡単には逃げられない。 やっぱり……」
彼女たちの攻撃は空にいる律には届かず、かと言って逃げようとすればすぐに追いつかれ背後から狙われてしまう……マリアたちは期せずして自分たちから鳥籠に入ってしまった。
「このぉ!!」
マリアは再び攻撃を仕掛ける律の前に飛び出し、槍を横にして突撃し、屋上を引き摺って削りながらもなんとか受け止め、鍔迫り合いとなる。
「さっきから歌を歌わないなんて、私たちを舐めているのかしら!?」
「それはお互い様でしょう!!」
律が歌えないのはノイズによる影響だが、どちらにせよお互いに本気を出していないのは確かだった。
すると、言い合っている隙に律の背後から調と切歌が襲いかかってくる。
「甘い!!」
「……ッ……」
「デス!?」
【
背を向いたままウィングから無数の光線を発射させ、背後から襲いかかる2人を迎撃し、その発射の勢いで鍔迫り合いを押し返し再び空に上がろうとすると、
「逃がさないデスッ!!」
しかし、逃さないと切歌のギアの右肩部装甲が展開するとアンカーが射出され、空中で飛んでいた律の左脚に絡み付いてしまう。
「しまっ——」
斬り裂こうとする前に、アンカーが巻き取られるように急激に引っ張られてしまい、
「はあっ!」
「ぐっ!」
さらに飛び上がってきたマリアが槍を振り下ろし、防ぎはしたが律は屋上に叩き下ろされてしまった。
「そこデス!!」
頭上にあった鉄柱を足場にして蹴り上げ、大鎌をギロチンに変形させさらに肩部プロテクターから小型ブースターを点火させて加速しながら急降下して追撃を仕掛けてきた。
「ッ!!」
【
《クラウソラス》と自覚してから使えるようになった技。 長剣の刀身に紅い光を纏わらせて下段から振り上げ、落ちてきたギロチンを一刀両断した。
「デェス!?」
ギロチンが真ん中から両断され、切歌は慌てながらブースターを横向きにしバランスを崩しながら勢いよく屋上を突き破って廃ビル内に突っ込んで行った。
「今のうちに……」
「させないわ!」
足の拘束を斬ろうとすると、そうはさせまいとマリアが突撃し。 今度は動けない律に攻撃しては後退……つまり先程の律と同じことをやり返してくる。
「このっ!」
「2人とも!」
横に振られた剣を避けながらマリアが合図と共に離脱する。
「やあっ!!」
【γ式 卍火車】
「今デェースッ!!」
【揺殺・剥ンZ流】
間髪入れずに正面から走ってきた調はギアのツインテール部分から2枚の巨大鋸が装着されたアームを展開し、甲高い音を立てて回転させながら突撃してきた。
行儀良く階段から屋上に上がってきた切歌の方はどうやら設置型の技のようで。 彼女が律の頭上にあった鉄柱にアームドギアの柄を仕込んでいたようだった。
そこから三日月のような両刃の大鎌が展開され、振り子のように揺れ動きながら律に迫ってくる。
(流石にこれは……!)
すぐに動けない状態で左からは大鎌、右からは丸鋸、さらに頭上からは落下しながら槍を展開して砲身を見せているマリアの姿が……完全に詰んでしまっている。
弦十郎のようなとてつもない手練れというわけでもないが、それでも多勢に無勢……数の差に押されてしまった。
(——やるしか、ない!)
【SG-D】
苦渋の決断のように覚悟を決めると……ヘッドギアのバイザーに“SG-D”の文字が表示される。 すると律の纏うシンフォギアの装甲に紅い線が走り、同色の粒子が全身から溢れ出す。
全身まで引かれた紅い線が継ぎ目として割れ、露出した部位から紅い結晶体が現れさらに大きな紅い光が放たれ、背部にウィングは折りたたまれバックパックのように背に装着される。
そして頭部のヘッドギアが変形。 装甲が頭部に移動しながらバイザーが収容され律の素顔が空気に晒され。 頭部に屹立していた“くの字”の角が中央から左右に割れ……2本の角となった。
「変形、した!?」
「いや、変身デェス!!」
「あれはガン——」
「その先は言っちゃダメデェーースッ!?」
「——せあっ!!」
彼女たちが驚く間も無く律は全体に回転切りを放つ。 一撃目で迫る大鎌を斬り裂き、二撃目で調の丸鋸を斬り裂きながらはじき返し。 そして回転による剣圧で空中にいたマリアの体勢を崩し狙いをつかないようにさせる。
そして、一撃目と二撃目が切歌と調のアームドギアを捉えた事により、2人のアームドギアが律のアームドギアに吸収されてしまった。
「何デスか!?」
「こんなの……《クラウソラス》には……」
「…………! まさか《イペタム》の……!!」
「シュルシャガナとイガリマ……いただき」
柄頭を掴み、ジャッキを上げるように引くと柄頭が柄の半分程度の長さが引き出された。 すると、刀身に纏わりついていたピンクと緑色のエネルギーが吸収される。
「アームドギアが……!」
「吸収されたデス!」
「倍返しだ!!」
【
律の昂る感情に反応したのか剣の柄頭のジャッキが戻り、振り抜いた剣から無数のエネルギー状のピンクの丸鋸と緑色の鎌が飛び散っていく。
「ッ……!!」
「マリア!」
マリアは律に背を向けて切歌と調を抱き寄せ、マントを広げると盾となり丸鋸と鎌から身を守る。 が、完全には防ぎきれないようでマリアは苦悶の表情を漏らす。
「行くぞ!!」
【
畳み掛ける律は分身を繰り出す。
『一気に決めさせてもらう!!』
全方位から声が振りかかりマリアたちが身構える中、律は謳を歌い始める。
「——何を
歌を歌っているのにも関わらず、マリアたちは自分たちに比べフォニックゲインの高鳴りが僅かにしか感じられなかった。
「白銀の根はその足に 黄金の茎はその腕に 白き玉はその魂に 既にその
「デス……?」
「! みんな、月を!」
不思議に思っていると調が夜空に浮かぶ月を指差す。 そこには……砕けた月を背景にウィングを広げる律の姿が。 それはまるで紅く空に輝く“暁”のようだった。
「ありぬべし!!」
【
暁月の両翼から無数の閃光が溢れ出し、その光が一点に、前に突き出した律の両手の中に収束して行き……巨大な紅い光線がマリアたちに向かって放たれた。
咄嗟にマリアはマントで自分たちを覆い球状になり……光線は彼女たちを飲み込んで廃ビルを中心から貫き、廃ビルは一気に崩落した。
大きな土煙が立ち込め、律はゆっくり降下、着地し辺りを見回すと……光線の着弾付近にはボロボロになって倒れ伏しているマリアたちの姿があった。
「ぐうっ!!」
「う……」
「デー……ス……」
これで無力化に成功した。 このまま拘束しようと手錠を作ろうとした時、
「これでチェック——」
——………カタ……
「!!」
突然、長剣からまるで柄がゆるんだような音が聞こえてきた。 それが徐々に大きく断続的に鳴り始める。
——カタカタカタカタ……!
「ッ……もう限界か……!」
この音は《SG-D》の稼働限界時間の合図。 すぐにシステムを解除しなければ暴走の危険がある。
律はすぐさまシステムを停止し、シンフォギアは再び元の形態に戻った。使用回数に応じて稼働時間は伸びるが、まだ5分と保たなかった。互いに動けない状態になってしまった、その時、
「「「「ッ!!」」」」
膨大なフォニックゲインの高鳴りを感じ全員が同じ方向……先程までいた会場の方角を向くと、轟音と共に突如として会場から虹色の竜巻が舞い上がった。
「何デスか、あのトンデモは!?」
「……綺麗」
切歌はその光景に驚愕し、調はその虹色の輝きに忌憚のない感嘆の声を漏らす。
「成功したのか……」
「……こんな化け物もまた、私たちの戦う相手……」
この光は響たち3人の絶唱によるもの。 僅かに見えるノイズの破片が消滅していくのを見るに、完全に駆逐出来たようだ。
「行くわよ」
「あ……デス」
「……………………」
「あ!」
虹色の竜巻に目を奪われている隙にマリアたちは動けるようになったようで、即座に撤退した。 その際、調は名残惜しそうに律の方を向き……最後には背を向けてマリアたちの後に続いた。
「くっ……逃げられた!」
立て続けに思いがけない出来事が起こり、彼女たちを逃してしまった。 追うことは出来るが、再び彼女たちがわざと姿を表すことはないだろう……加えてやはり《SG-D》の起動は早計だった。
律は大きな溜息をつくとシンフォギアを解除し、立ち上がるとギアペンダント内にいたリューツが出てきた。
「……恐らく、彼女たちも《F.I.S》という組織にいたはずだ。 俺と、彼女たちの関係は一体……」
「ガゥゥ……」
(それに何だ……何か不穏な存在が目覚めたような……)
きっかけは不明だが、律は自身を襲う不吉な予感を感じられずにはいられなかった。