戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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25話 終焉の始まり

1週間後、10月中旬——

 

“QUEENS of MUSIC”から1週間……あれから武装組織《フィーネ》は何の動きもないまま鳴りを潜めていた。 逆に言えば何も出来ず何も分からない状態が続いてしまった。

 

マリアが宣言した国土割譲も、結局は言っただけで実際に国境が増えたり減ったりもせず何も変わらなかった。

 

このままでは完全に後手に回ざる得ないが、それでも律たち装者は今日も情報収集を続ける二課からの報告を待つしかなかった。そして、

 

「つまりこの数式を代入して——」

 

教卓の前で教師が授業内容を口にしながら黒板に文字を書き綴る。 律は新たな学び舎である《リディアン音楽院》の2年の教室にいた。

 

付近に街の人々の通学のために使われる路面電車が走っており。 レトロな雰囲気があるここは新設された《リディアン音楽学院》。

 

以前にも話した通り、律はリディアンの新校舎の設立と学院再開と同時に交換編入という名目でこの学院に来ることになった。 交換編入なので制服は以前の《アイオニア音楽専門学校》の制服のままになっており、周りと比較すれば浮きがちになる。

 

入学当初は在学生の女子たちと少なからず壁はあったが、授業を共にして一月も経てば立派なクラスメイトの一員になっていた。

 

(彼女たちは、一体……)

 

授業を真面目に受けながらも、先程から律はマリアたちの事で深く考え事をしていた。 脳裏に思い返されるのは調の表情。 とても悲しんでいる顔が脳裏から離れられなかった。

 

(月読……俺とあの子は、兄妹……なのか?)

 

そう言っても何故かピンとこなかった。 兄妹だとしても先ず、2人はあまり似ていなかった。 髪の色も調は黒に対して律は灰色のアッシュブロンド。

 

各部の顔のパーツを比べても差異しかなく、それぞれが母親似と父親似と言ってしまえばお終いだが、それは推測で結局は何の結論も出来なかった。 言ってしまえば家族の静香と似たような感じに思えてしまう。

 

(……ダメだ。 考えれば考えるほどドツボにハマっていく……)

 

サラッと、数式を描く途中で“家族?”と目に見えて確認するように書いてしまう。

 

「ふぅ……」

 

「…………!」

 

一度考えを捨てようと律が溜息を吐くと、その様子を見ていた同じクラスになって隣の席のクリスが見ていた。

 

(アイツ、もしかしてアイツら(マリアたち)の事で悩んでるな。 あの馬鹿もわかり合えなかったで性に合わずに悩んでいるようだし……)

 

「……——おい」

 

(だがアタシに何が出来るんだ? 言えたもんじゃねぇが撃った壊したぐらいしか出来ることねぇし……)

 

「……おい、雪音」

 

「っ〜〜! こんな事してる場合じゃねえってのに〜!?」

 

「ほお? 私の授業が“こんな事”か」

 

「……へっ?」

 

頭をワシャワシャと掻き毟ったクリスは頭上から降りかかった声を聞き、唖然としながら顔を上げると……そこにはこのクラスの担任の黒スーツを着た茶髪のポニーテールの先生が鋭い眼光で腕を組んで見下ろしていた。

 

「訳ありと聞いて目をかけていたが……雪音、私の授業がそんなに退屈か?」

 

「い、いや……そういう訳じゃ——」

 

——スパーーーッン!!!

 

「教師には敬語を使え、馬鹿者」

 

「………………(シュー……)」

 

先生からの出席簿アタックが繰り出され、クリスは脳天から煙を上げて机に突っ伏した。

 

「お前のせいだぞ!」

 

授業終了後、すぐにクリスは開口一番に先程叱られて事で律を非難する。

 

「いや、どう考えたってクリスが勝手に自爆しただけだろう」

 

「そ、そりゃそうだが……」

 

しどろもどろになるクリス。 そんな彼女を見て律はフッと笑った。

 

「ありがとな。 俺のことを心配してくれたんだろう? 俺は大丈夫だから」

 

「!! う、自惚れんな馬鹿! 誰もお前の事なんか心配してねぇよ!!」

 

お礼を言われたクリスは腕を組み顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 

「とはいえ、もう1週間……彼女たち《フィーネ》はなんの活動もせずに篭っているだけ……」

 

「なんの尻尾も出さねぇし、雲を掴むような状況だ……」

 

「マリアたちの目的はなんだ? それが見えてくるまでは待機するしかないだろう」

 

「ああ。 しかし、世界に宣戦布告たぁとんでもねぇ奴だな。 あれが世に聞く悪女ってやつか?」

 

「うーん、そんな人には見えなかったけどなぁ」

 

遠目で見た事しかないが、実はライブ開始前に腹ごしらえとして関係者全員のためにケータリングが用意されていたのだ。

 

その一角で、ステージ衣装を着ていたマリアがタッパー片手に忙しなく、料理を人目を気にしてタッパーの中と自分の口の中に詰め込んでいたのだ。 その表情はタッパーに入れている間は母親で、自分の口に入れている間はまるで子どものような表情にコロコロ変わっていたので……クリスの言う悪女やステージ上で立つ歌うマリア・カデンツァヴナ・イヴとはまた別の一面が見られたようだった。

 

(でも、不思議と唖然はしなかった。 まるで“相変わらずだなぁ”って思って……)

 

「——何話してんだ、律?」

 

「ご一緒させていいかしら?」

 

そこに、一緒に交換留学する事になりリディアンでも同じクラスとなった打鐘 錦とアルフ・ライフォジオが2人の元にやってきた。

 

「他愛のない雑談でいいなら」

 

「よ、よぉ……」

 

まだ人見知りであるクリスは愛想悪く、小さな声で返事をする。

 

「さっきは自分の過失だったとはいえ、ご愁傷様だったわねクリス」

 

「……フン……」

 

「それで何話してたんだ?」

 

「この前の事件についてな」

 

そう言われて「ああ」と2人は納得する。 周知の通りライブ時の状況は世界に中継されていたため、先の事件を知らない人はいない。

 

錦はスマホを取り出すと今日のニュースにもなっているニュース番組の映像を映し出して見せた。 ちょうどもう1人の装者……律と戦っている最中の映像だ。

 

「また律はノイズ絡みの事件に巻き込まれて……もうそういう星の元に生まれてきたのかしら?」

 

「俺だって毎度毎度巻き込まれるの嫌だよ」

 

「もう1週間だってのに、まだニュースになってるよな」

 

「彼女の宣戦布告にも驚いたけど……結局、この似たような人も誰なのかしら?」

 

「……………………」

 

そう言ってアルフは動画に映っているマリアと斬り合っているもう1人の人物……シンフォギアを纏っている律を指差す。 引き合いに出された当の律は無言になる。

 

「SNSだとマリアと同じ兵装って話が多いな。 それに中身の方も風鳴 翼と普通に喋っていたことから、知り合いって話もあるな」

 

「へぇ…………あら、軽く炎上してるわね」

 

(え、炎上……)

 

他人事ではない律は当然この話のど真ん中にいるため、バレてないとは言え気が気ではなくとどめなく冷や汗をかいてしまう。 炎上した内容は翼がノイズに落下しかけたところを助けた場面の事を指している。

 

その軽い救出劇は当然世界に中継されていたため、様々な憶測が飛び交ってしまった。 せめてもの救いは顔出しして無かった事や、二課の真骨頂である情報規制のお陰で律個人の特定は避けられていたことである。

 

「ま、まあそれはともかく……世間は騒がしいけど、それよりもこっちにもやる事は多いんだ。 そっちにも目を向けないと」

 

「あー、そうだったなー」

 

「そっちはそっちで面倒だなぁ……」

 

「ええ、急ピッチで《学祭》の準備もしなくちゃいけないし……流石に疲れてきたわね」

 

溜息をつきながらアルフは壁に寄りかかる。 3日後に開催を控えている学祭《秋桜祭》。 出来たばかりのリディアンで急遽決定したのには理由があった。 それは共同作業による連帯感や、共通の想い出を作り上げる事で、 生徒たちが懐く新生活の戸惑いや不安を解消することをという名目で企画されている。

 

加えてこのリディアンには律たちの《アイオニア音楽専門学校》の他にも交換留学を行なっている学校が合計して4校あり。 これから学び舎を共にする他校の生徒たちとの交流を深める意味合いも含まれている。

 

だが、実のところこの学院で律はかなり肩身の狭い思いをしている。 それは、

 

「しっかし、ホント少ないよなぁ……男」

 

「少ないというかこのクラスには2人しかいないからな」

 

錦と律の言う通り、このクラスには律と錦の他に男子生徒はいない。 大半が女子だ。

 

リディアンが元々女子校という事もあるが、この学院と交換留学をした4校中2校は女子校。 つまり圧倒的に男子の数が少ないのだ。 両手で数えれば足りる程の人数しかこのリディアンにはいないのだ。

 

“音楽”という共通する話題があるため孤立する事はないが、それでも日々向けられる視線には耐え難かった。

 

「歓迎されているだけマシだろう。 これで敵意を向けれてたらやってられないわ」

 

「俺はむしろそれが……」

 

「それ以上言ったら軽蔑しますよ」

 

「うぇ……」

 

ゾクゾクっと身体を震え上がらせる錦にアルフは冷めた目を向け、クリスは少し顔を青ざめながら身を引いた。

 

学院の現状やマリアたち、色んな事に頭を悩ませても時間は過ぎお昼休み……律は学院の購買で昼食を買い中庭に向かっていた。

 

「リューツ? リューーツーー? ルールルルーー」

 

キョロキョロと中庭を見回しては“ルルル”とリューツを呼ぶ。

 

律は毎日リューツをリディアンに連れてきており、この辺りで離している。 本当は家で大人しくさせておきたいが万が一、暴れでもしたら溜まったものではないので、こうして連れてきている。

 

二課を通じて学院にも許可は取ってあるが、あまり教師陣にいい顔はされなかった。

 

「全く。 お昼には顔を出せって言っているのに……」

 

ここの中庭はそれなりに広いため探すのに一苦労する。 そこで律の耳に女子たちの和気藹々とした声が聞こえてきた。恐らくは、

 

「ガウ」

 

「「「キャーーー!!!」」」

 

「……………………」

 

……律は予想はしていた。 響たちや二課の女性陣がああだったので、リディアンもその例に漏れなかったと。

 

ちょこんと座るリューツの周囲にはリディアンの女子生徒たちが取り囲んでおり、黄色い声を上げてリューツの事を撫でたりめでたりしている。

 

「リューツ!」

 

「! ガゥウ!!」

 

名前を呼ぶとリューツは律に気が付き、女子たちの間を擦り抜けて駆け寄り。 ジャンプして腕を駆け上り、定位置である肩の上に乗った。

 

律はリューツと戯れていた女子たちに「ごめんな」と一言謝ってから、リューツを名残惜しそうに見つめる目を背けてその場を離れた。

 

その後律は同じ中庭……小さな林に移動すると、その木陰にクリスたちと、1学年下にいる響たちが先に昼食を食べていた。

 

「お待たせ」

 

「あ、サキさん。 リューツは見つかりましたか?」

 

「ガウ」

 

今日は天気も良いという事です中庭で食べるか事になり、1年生の響たちも交えての昼食となった。

 

創世の質問に答えたのはリューツ自身で。 リューツは律の肩から飛び降りるとクリスの側により、丸くなって寝そべった。

 

「皆さんはもうリディアンには慣れましたか?」

 

「それはお互い様でしょう。 まあ、少し好奇な目にさらされているようでまだ気が休まりませんが……」

 

「あー、分かります。 私も結構みんなに色んな視線を向けられます」

 

「それは響が遅刻したり寝てたり話を聞いてなかったりしてるからでしょ」

 

「女子はいいが、俺ら男子には結構苦痛だぜ」

 

「そうなの?」

 

「落ち着かないのは確かだな。 とはいえ、学祭も近いしそうとは言ってられない」

 

このリディアンが新設してまだそんなに経ってない状況での学祭、かなり急であるため悠長な事は言っていられない。

 

「そう言うそっちはどうなんだ? リディアンが共学化して、他校の生徒が入ってきて?」

 

「うーん、あんまり変わらないですね。 うちのクラスに入ってきた子とも仲良くしていますし」

 

「それに私たちのクラスに男性の方はいませんし……1学年に片手で数えるくらいの人数しかいないのでしょうか?」

 

「1学年で3人いるかいないかくらいだったと思うよ。 アニメみたいなハーレム状態だねー」

 

「……実際にそうなったら気が気じゃないがな。 ま、慣れるしかない」

 

昼食を食べながら新しい学院での生活を伝える律たち。

 

「放課後からまた学祭の準備に追われる。 とりあえず自分たちのクラスの出し物をやりつつ、学院全体を手伝うとしよう」

 

「んー、そんな感じでいいんですかねぇ?」

 

「あまり肩筋張っては疲れるわ。 成功を考えるより止まらず完走する気構えの方が気が楽になるわよ」

 

「確かに。 その方が楽しくなりそうです!」

 

「サボらない程度に、反感を買わない程度にやりゃあいいか」

 

「特にクリス。 ちゃんとクラスメイトのみんなと仲良く……とは言わないけど、なるべく協力するんだぞ」

 

「そうですよ——キネクリ先輩」

 

「誰がキネクリだ!!」

 

注意を促すようにそう言うが、クリスは創世の独特な渾名に反感を買う。 因みに錦は“ネシキ先輩”、アルフは“フォジ先輩”と呼ばれている。

 

錦はともかく、アルフはこの渾名はクリス同様に不評である。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

放課後——

 

日は沈み出し夕方になる頃、学院内にはまだ生徒たちが残っていて学祭の準備を進めていた。

 

新校舎から移転して初めての学祭……生徒たちの気合いの入りようが違く、夜が来ても準備を続けるような勢いである。

 

かく言う律も大いに準備に追われていた。 というのもクラスの出し物以外にやる事が多いのだ。 特にここは音楽学校……その学際ともなれば当然音楽に関する出し物が多くなり、そのための楽器等の調律を任されてしまった。

 

(ピアノ類ならまだしも管とか弦楽器とかは自分でやって欲しいな……)

 

学院中にある楽器の調律をお願いされ量が量になってしまい、流石に律も疲弊してしまった。

 

なおクリスは先程クラスメイトの女子たちに呼ばれており、律は最後の調律を終え自分のクラスに帰る途中廊下を歩いていると、

 

「律」

 

「ん?」

 

そこには様々な小道具が入った紙袋を抱える翼が立っていた。 彼女も学祭のための準備に追われているようだ。

 

「翼か。 そっちも学祭の準備か?」

 

「ああ。 こう言う祭事は不参加が多かったが……今回は何とか参加できそうだ。 今はまだ準備の最中だが、まるで舞台裏の方々の仕事を体験できているようで……たまにはこういうのも悪くない」

 

「そうだな……先の事件が無ければ、後腐れなく楽しめるんだが」

 

武装組織《フィーネ》が野放しになっている以上、心ゆくまで学際を楽しめる訳もない。 そのまま2人は揃って歩いていると、

 

「ッ!」

 

「って!!」

 

「おっと……!」

 

曲がり角から飛び出し、正面から勢いよく走ってきた人物とぶつかってしまい、両者は弾かれるように尻餅をつく。

 

翼が抱えていた紙袋からは翼のクラスが学際で使用するであろう紙やテープ、色紙類が宙に飛び散る。 その寸前、持ち前の反射神経で律が翼が倒れる前に背中に手を回して抱き留め、続けて重力に従って落ちてきた小道具を地面に落ちる前に全て受け止めた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ああ……ありがとう……」

 

翼は少し顔を赤らめながら礼をいい、立ち直ると気恥ずかしいのか少し律から距離を置きぶつかってきた人物に目を向ける。

 

「……脇見しつつ廊下を駆け抜けるとは……あまり関心できないな」

 

「痛っつぅーっ!!」

 

「そっちも大丈夫か……って、クリス?」

 

ぶつかってきたのは痛そうにお尻をさするクリスだった。

 

「雪音? 何をそんなに慌てている?」

 

「奴らが……奴らに追われてるんだ。 もう直ぐそこにまで……」

 

「?」

 

すると、どこからか複数人が走って近付いてくる音が聞こえてきた。

 

クリスは慌てて立ち上がると校舎の影に息を潜めながら隠れ始める。

 

その直後、目の前廊下を3人の女子生徒たちが誰かを探すように律たちの側を駆け抜けていった。

 

(今のはクラスメイトの……)

 

「特に怪しい人物など見当たらないが……?」

 

「そうか……上手く撒けたようだな……」

 

想像していた怪しい人物が来なかった事に疑問を覚える翼に、クリスはホッと息を吐いた。 この一連で察した律は腕を組みジト目でクリスを見つめる。

 

「クリス。 もしかして学祭をバックれようとしてるんじゃないだろうな」

 

「……………………」

 

「もしや、奴らとは……」

 

「あぁ……何やかんやと理由を付けて、アタシを学校行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」

 

「やっぱりか……」

 

「雪音さーん!」

 

「もう、何処行っちゃったのかしら……?」

 

クラスメイトである3人の少女たちがクリスを捜す中、当の本人は言い訳じみた愚痴を零しだす。

 

「フィーネを名乗る謎の武装集団が現れたんだぞ。アタシらにそんな暇は……って、そっちこそ何やってんだ?」

 

「見ての通り、雪音が巻き込まれ掛けてる学校行事の準備だ」

 

「はい、翼」

 

そう言われて律は手に持っていた物を紙袋に入れた。 翼は「ありがとう」と一言お礼を言い、重くなった紙袋を抱え直す。

 

「それでは、雪音にも手伝ってもらおうかな?」

 

「何でだ!?」

 

「戻った所でどうせ巻き込まれるのだ。 ならば、少しぐらいは付き合ってくれても良いだろう」

 

翼の手伝いをするかクラスメイトの方に行くか……その二択を迫られたクリスは「ぐぬぬ」と嫌そうな顔をする。

 

「俺も手伝いますよ」

 

「いいのか? 律は私以上に忙しいはずだろう」

 

「その仕事もついさっきひと段落しましてね。 クラスの方の手伝いをと思ったんですけど……ここで目を離すと、ね」

 

「ああ、なるほど……手を貸してくれるのならありがたい事この上ない」

 

「おい。 言いたい事があるならはっきり言えよ」

 

「いいから行くぞ」

 

翼はクリスの腕を掴み半ば強引に連れて行き、律も苦笑しながらその後に続く。

 

そして3人は翼の教室で、仕入れてきた色紙を使った装飾や色取り取りの花紙を使った装飾を作る作業を進めていた。

 

「まだこの生活には馴染めないのか?」

 

「まるで馴染んでない奴には言われたかないね。 律とかでも見習っとけ、もうクラスメイトの女子たちと仲良いぞ」

 

「それどちらかと言えば俺の台詞じゃあ……ともかく、俺は普通通り接しているつもりなんだが……」

 

「あーあ。 いいご身分だな、チヤホヤされて」

 

(……なんだ。 すっかり馴染んでいるではないか)

 

仲良さそうに会話する2人を見て、翼は無用な心配とばかりに微笑んでいると、

 

「——あっ、翼さん! いたいた!」

 

校舎側の廊下から翼を呼ぶ声に3人が振り返ると、恐らくは翼の同級生であろう3人の女子生徒たちがいた。

 

彼女たちは心配した風に、それでいて遠慮しない気さくな物言いで歩み寄ってくる。

 

「材料取りに行ったまま戻ってこないから、皆で捜してたんだよ?」

 

「でも心配して損した。 何時の間にか可愛い下級生連れ込んでるし」

 

「みんな……先に帰ったとばかり」

 

「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってそうだし」

 

「だから私達で手伝おうって!」

 

「私を……手伝って?」

 

近寄り難い雰囲気を出していると自覚している翼だが。 クラスメイトからはそんなの関係なく慕われていており……彼女たち高坂(たかさか) (あゆむ)佐部(さべ) 瞳子(とうこ)大木(おおき) 杏胡(あこ)の3人が翼に手伝いのために駆けつけたようだ。

 

その中の1人……杏胡が律とクリスを見回し、そして律に視線を止めると、

 

「もしかして、彼氏?」

 

「ち、違う! 彼は、その……」

 

ワタワタと顔を真っ赤にして慌てふためく翼。 そんな翼を見て彼女たちはニヤニヤとにやけてしまう。

 

「案外人気者じゃねえか」

 

「“のぼせ上がって”ないからじゃないか?」

 

「!? う、うっせい!!」

 

律は以前にクリスが翼に吐き捨てた台詞を言うと、クリスは顔を真っ赤にして律の事をど突いた。

 

そして翼は彼女たち3人の申し出を快く受け入れ、6人で机を囲み再び準備を進めた。

 

「でも、昔はちょっと近寄り難かったのも事実かな」

 

「そうそう。 孤高の歌姫って言えば、聞こえは良いけれどね」

 

「初めはなんか、私達の知らない世界の住人みたいだった」

 

作業の手を止めないまま3人は翼と出会った当初の印象を本人の前で口にする。 彼女たちの忌憚のない印象を聞きたかったのか、翼は口を出さず耳を傾けた。

 

「そりゃー、芸能人でトップアーティストだもん!」

 

「でもね」

 

「うん!」

 

「思い切って話し掛けてみたら、私たちと同じなんだってよく分かった」

 

「みんな……」

 

「特に最近はそう思うよ!」

 

「その子の影響かな?」

 

そう言って彼女たちは視線を律に向ける。 その視線に気付いた翼は夕陽と同じような顔色になる。

 

「だ、だから違うと言っているだろう!」

 

「あー、ムキになった」

 

「怪しいなぁ〜」

 

「か、からかうんじゃない!」

 

「………? どうかしたのか?」

 

「——律は関係ない。 大丈夫だ」

 

「お? お、おお……」

 

声を荒げていた翼を気になった律は作業の手を止め顔を上げると……真顔になった翼から関係ないと言われ、困惑しながらも頷いた。

 

「……はぁ。 ちぇ、上手くやってらぁ」

 

「……面目ない、気に障ったか?」

 

「さぁーてね」

 

翼たちの遣り取りを見てクリスは呆れるように溜め息を吐く。 先程言っていた自分のように馴染めていないという失言を思い出し、クリスは頬杖をついてそっぽ向きながらはぐらかすように言葉を返した。

 

「だけどアタシも、もうちょっとだけ頑張ってみようかな……」

 

「……そうか」

 

「???」

 

クリスも自分のクラスメイトともう少し話そうかなと聞き、翼は前向きになったクリスを見て笑みを浮かべた。

 

話についていけない律はキョロキョロと2人の顔を見回すしか出来なかった。

 

「じゃあ、もうひと頑張りといきますか!」

 

「うん!」

 

「よし! さっさと片付けちゃおう!」

 

3日後の学祭に間に合わせるため、翼たちは帰宅時間ギリギリまで作業を続けるのだった。

 

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