戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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第3話 紅き剣

2年後、某所——

 

『——《変異体》を発見! 追跡を開始してください!』

 

「了解——待てっ!!」

 

「いいぃぃーーっやあぁぁぁーーーっ!!」

 

ノイズが発生し避難警告が出されたこの地区では、1人の防人と1体のノイズに入り込んで涙目で絶叫を上げている1人の少年が走っていた。

 

「全くなんで毎度毎度親の仇のような顔をしながら走ってくるの!? 正直もう飽きたぞっ!」

 

「逃すかっ!」

 

冗談を言いながら少年は大通りに飛び出し、それを追いかけて防人も路地裏を出ると……そこには無数のノイズが蔓延っていた。

 

「くっ! 他のノイズの群れに紛れたか。 だが……」

 

全く怯むことなく、むしろ前へと進み刀を正眼に構え、

 

「全て切り倒すのみ!」

 

ノイズの群れに向かって飛び込んでいく。 振られる刀から蒼い軌跡が走りバッタバッタとノイズ切っては捨て、切っては捨てていく光景を……少し離れた場所から人型のノイズが顔だけを出して覗き見ていた。

 

「ったく、相変わらず容赦ないんだから。 あんなの喰らったら今日の天気は血の雨が降るっての」

 

少年は大通りに出てノイズの群れに入ったと同時にナメクジのようなノイズを脱ぎ捨てると、群れの中にいた適当な人型のノイズに入り込み、再び路地裏に逃げ込んでいた。

 

防人の狙いがナメクジ型に定められている内にさっさとこの場を離脱し。 人目を盗みながらノイズ発生地区から遠く離れた埠頭にたどり着いた。

 

「よいっ……しょ」

 

ニョキッとノイズの足からさらに人間の足が生え、そのまま持ち上げられると、中から背中まである髪を一纏めにしたアッシュブロンドの少年が出てきた。

 

少年は頭上に持ち上げたノイズを……そのまま海にポイ捨て、ノイズは炭となって文字通り海の藻屑となった。

 

「あーー、疲れたぁ……」

 

背伸びしながら固まった体を解す少年の名前は芡咲(けんざき) (りつ)。 近くの音楽学校の2年生で調律師兼ピアニスト兼指揮者として勉強を励んでいる16歳。

 

律は2年前の事件後、引っ越し先の地域から出るとよくノイズと遭遇する事が増えており。 その度にノイズの中に潜り込んで色々としながらその場をしのいでいた。

 

だが、時々防人を名乗る女剣士が追いかけて来ることがあり。 ノイズ被っているとはいえ走るのは己の足……逃げる時はいつも死ぬ気の全力疾走である。

 

炭になって海に消えていくノイズを一瞥してから空を見上げ、夜空に浮かぶ月を見つめる。 そして、大きな溜息をつく。

 

「結局、俺って一体何者で……何やってるんだろうなぁ……」

 

律は自分でも何をしているのか理解できなかった。 2年もこんな事を続けており、加えて日常生活でも走り込みをしているのでスタミナは尋常じゃない程ついていた。

 

音楽や調律、加えて新たに指揮者としての勉強を始め、サボったこともなく熱心に取り組んでいる。 だが、それでも、律の胸の内にある空白は埋まらなかった。

 

「普通じゃないこと、起きないかなぁ」

 

原因はある程度分かっている。 未だに正体の分からない胸元のペンダントとノイズ、そして2年前のライブでツヴァイウィングが見せた兵器と、2人の背後にある組織……律は接触しようも思えば出来るはずなのに、どうしても肝心なところでたたらを踏み奥まで踏み込めなかった。

 

「さてと、帰るかな」

 

道の所々に点々とある()()()()()黒い炭を踏み抜かないよう注意しながら、律は夜の中に消えていった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

アイオニア音楽専門学校——

 

「………………」

 

この学校は各楽器の演奏、調律、専門の楽器職人……音楽に関して勉強がほぼ出来ると言ってもいい程、豊富な施設や音楽設備や教員が揃っており、厳しいながらも充実した音楽教育が受けることが出来る。

 

芡咲 律はここで演奏する場所は音楽室……ではなく専用に設けられているコンサートホールで行われている。

 

律は指揮台の上へと上がり、譜面台に立てかけてあった指揮棒を手に取る。 目の前には扇状に奏者たちが並んでいる。

 

編成としては木管楽器と金管楽器中心の吹奏楽。 曲目はよく練習用で使われる『大草原の歌』。

 

バッ! と両腕を上げ、演奏を始める合図を送り目の前に並ぶ奏者たちが楽器を構え……

 

「——ワッ、トゥッ、スリッ、フォッ!!」

 

始まる演奏。 律が振る指揮棒で音楽が奏でられる。 奏者の音に律が求める音を指揮者として振るい、更なる甘美な響き醸し出す。

 

序盤は緩やかに、中盤から徐々にテンポを上げて指揮棒を振り続け……そして、最後に左手を横に振りながら握りしめ、演奏が終わり……背後から1人の拍手が送られる。 拍手を送っていたのはこの吹奏楽部の顧問の女の先生だ。

 

「先生!」

 

「みんな、この短期間でよくここまで仕上げたわね。 次のコンクールでは入賞はほぼ間違いないわ」

 

「そ、そうですか?」

 

「え、えへへ……」

 

顧問からの太鼓判をもらい、部員たちにホッとした気持ちと笑顔、そして自信が出てくる。 律は“慢心はいけない”と言いたかったが、この空気を読めないように変えるわけにもいかず、1人軽く嘆息する。

 

「さて、と」と、呟いた律はこの後の予定があり、一足先に部活動を抜けようとする。

 

「あの、先輩」

 

譜面を見ながら後片付けをしていると、先程演奏していたトランペットの女子が、後ろに他の女子たちを引き連れて声をかけてきた。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、少し質問があって……」

 

「質問かぁ……俺に答えられるのなら」

 

遠慮がちに質問をお願いする女子。 少し悩んだ後、律は頷く。

 

「先輩は指揮をする時、何を考えて……想って指揮をしているんですか? 私、律先輩の引き込まれるような指揮を見てそう思っちゃって……」

 

「んん? そうだなあ……」

 

後輩からの質問に腕を組んで頭を捻る律。 後輩たちが見守る中、悩んだ末に出した答えは、

 

「“七色の意志を束ね 愛を奏でよう”」

 

「え……?」

 

律は何でもないと誤魔化すように首を横に振る。

 

「そうだね……指揮者は自分が求める音を奏者に出させるけど、それだけじゃダメだ。 いかに奏者が出せる最大限の音を出させる……かな?」

 

漠然とだが指揮をしている時の感覚を思い出しながら直感的にそう言う。 すると後輩たちは「お〜っ」という顔をする。

 

「ま、今のが指揮者が音楽に対して求める物だ。 俺本人、現状ではまず直すべきはペースとテンポだな。 指揮の速度が目まぐるしく変化すれば奏者は混乱し、音を引き出せなくなる」

 

「あー、確かに」

 

「指揮を見ているとそうなるよねぇ。 逆に見ないと音程がズレて周りから浮いちゃうし」

 

何とか上手くアドバイスにはなっただろう、律は少しホッとする。 そして律は自分は出来るが、それを相手に伝える事が苦手だと改めて自覚する。

 

(その内、音楽指導の勉強もしておかないとな)

 

今後の課題を見据えながら後片付けを終え、手提げリュックを持って講堂を出ようとする。

 

「あれ? 先輩、どこへ?」

 

「まだ練習はありますよ」

 

「今日はこの後、走り込みに外周に行く予定なんだ。 管楽器をやっているなら分かると思うけど、長時間楽器を持ち続けて吹き続けるのはとても体力がいる。 それが大型になれば尚更のこと……お前たちも暇があるなら両腕に重りを付けて走り込み……いや、ウォーキングをした方がいい。 健康にもいいし、ダイエットにもなる」

 

ダイエット……その単語が一番効果的だったのだろう。 ほぼ吹奏楽のほぼ全員の女子がやる気になっていた。

 

女子は体重についてだと本気になるんだな、と苦笑していると……いつの間に時間が過ぎていることに気付いて「お先失礼します」と言い、「お疲れ様でしたー!」と返されながら講堂を後にし、駆け足で学校を出た。

 

現在、律は実家を出てアイオニア音楽学校にほど近いアパートで一人暮らしをしている。 家を出る時、律の妹がとても駄々をこねていたが、シスコン……もとい妹大好きな律も心を鬼にして家を出て、防音付き2Kの結構いい部屋だ。

 

……ちなみに、結構過保護な両親はこの部屋よりも数段上のマンションを先に紹介されているが、自粛するように言い聞かせて丁重にお断りしていた。

 

律は帰宅してすぐに学校の制服から動きやすいジャージに着替え、携帯と財布と必要最低限の荷物を持ってから家から出ると、軽快な足取りで軽いランニングを始める。

 

「ほっ、ほっ、ほっ」

 

規則的な呼吸で走りながら音楽学校付近にある住宅街から大通りを通り、海沿いの道を走る。

 

律の両手両足には10キロ程度の軽い重りがついており、それをつけたまま2、3時間同じペースで走り続け……日が暮れ夜になる頃、近くを通りかかった鳥居の前で足を止めた。

 

「お。 こんなところに神社が…………行ってみるか」

 

興味本位で神社に行くことにし、クールダウンのため走らずゆっくりと歩いて階段を登り……数分して神社の境内に足を踏み入れる。

 

神社はどこにでもありそうな神社だが、左右一対の像が狛犬ではなく狐である点が珍しかった。

 

「ふぅん……ま、普通だな」

 

高い位置にある割に普通だと内心ガッカリし、加えて御賽銭箱も無かったので社の周りを散策する。 律は社の裏側まで回ると、

 

「————!」

 

驚きで言葉を失いかける。 社の裏側には、社に寄りかかる様に人が倒れていた。 その人物は小柄で、フード付きのパーカーで顔を隠している。 だが女子であるのは律にも分かる。 ……かなり大きな胸の膨らみがあるので。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……っ。 だ、誰だ……?」

 

彼女はフードの中から律を見ると……驚愕したように目を見開かせる。

 

「テ、テメェは……!!」

 

「意識はあるか。 どこか体に違和感はないか? 何でもいい」

 

医療の知識はないが一応、聞けるだけ聞いてみる。 しかしパーカー女子は律の問いには答えず、無理に立ち上がろうとする。

 

「うるせぇ……! オメエには関係ないだろ、う……」

 

「おっと……」

 

正面に立つ律を退かそうとするが、ろくに押し返せず前のめりに倒れる所を、寸でのところで律が抱きとめる。

 

…………グウゥゥゥッ…………

 

かなり大きな虫の音が、パーカー女子の腹から轟く。 どうやらただの行き倒れのようだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ハグハグハグ、モグモグモグ」

 

近くの海辺の公園の休憩場で一心不乱にコンビニのおにぎりやパンを貪るパーカー女子と律の姿があった。

 

あの後、見過ごせなかった律は彼女を担いで神社を出て。 担いだままコンビニで適当な食べ物を購入した後ここで餌付け……もとい振舞っていた。

 

「どうだ? 少しは腹は膨れたか?」

 

「(ズーッ!)……まだ足んねぇよ」

 

「さようで……」

 

牛乳を飲みながら図々しくもお代わりを要求するパーカー女子。 律はコンビニを往復し、追加で買った食べ物も半分を切った所で律は話を切り出す。

 

「それで、何であんな所で行き倒れていたんだ?」

 

「……………………」

 

質問されて当然の言葉を投げかけるが、パーカー女子はアンパンを咥えて黙秘する。

 

「家出か?」

 

「……似たようなもんだ」

 

「成る程ねぇ。 察するに母親と喧嘩でもしたのか?」

 

「アイツは本当の母親じゃねえ。 育ての親ではあるかも知れねぇが、少なくとも喧嘩して出てきた訳じゃねえ。 ……自分に嫌気がさしただけだ」

 

「ふぅん、複雑なんだな」

 

律は話を切り出し、事情を聞きながら彼女を落ち着かせようとする。 だが聞いていくうちに自分との共通点がある、少し親近感が湧いてくる。

 

「いいよなぁ、喧嘩とかできて」

 

「はぁ? 喧嘩のどこがいいんだよ」

 

「俺の両親も本物じゃなくてさ。 俺はほとんど意見や反論を言った事がなくて、率先して両親のためになる様な事をやっていた。 その時に感謝された笑顔が見たくて……だから言い合いや喧嘩なんてのは1回もしたことがない」

 

「そうなのか……」

 

「遠慮するな、と言ってはくるけどそんなのは無理。 せいぜい白紙の譜面を買ってもらう、くらいしかない」

 

「そうか。 ……譜面って言ったが、音楽をやっているのか?」

 

フード女子は律の話を聞き、音楽の部分に興味を持ってきた。

 

「ああ。 すぐ近くの音楽学校に通っている。 俺は調律師がメインなんだが、指揮者もやっていてピアノもそこそこ弾ける。 もしかしてお前も何かやっているのか?」

 

「……昔、ヴァイオリンをな。 今はもう弾いてない……」

 

「ヴァイオリンかあ。 でもどうして……」

 

「……………………」

 

どうして辞めてしまったのか、律は聞こうとしたが……彼女から感じられる雰囲気でとても聞ける状況ではないと察する。

 

「……そっちにも事情がありそうだしな、深入りはしない」

 

「……すまねぇな」

 

パーカー女子はここまでしてくれた相手に事情も聞かない律に感謝し、律は「さて」と言ってから立ち上がる。

 

「それじゃあ俺はもう行くよ。 育ての親とはいえ、仲良くな」

 

「ああ、ありがとう——なっ!?」

 

すると突然、パーカー女子が驚いたような声を漏らす。 どうやら律の後ろを見ているようで、振り返ると……1体の卵の形で逆さに浮いているノイズがいた。

 

「お、ノイズ」

 

「チッ! もう追手が……!!」

 

反応が薄い律に対し、パーカー女子は乱暴に立ち上がり……ノイズが一瞬て2人の前に出てきた。

 

「ッッ!!」

 

驚く間も無くノイズの体から複数の筒状の何かが飛び出し……折れ曲りながら全ての筒が2人に向けられた。

 

(砲身付きのノイズ!?)

 

「(やるしかねぇ!)Killter——」

 

流石に律もようやく立ち上がり、突然パーカー女子が歌の一節を歌おうとする。 だが、パーカー女子はどこか歌に躊躇している節があり……その隙が命取り、もう砲弾が発射されてしまう。

 

(間に合わねぇ!)

 

「危ない!」

 

——ドドドドドドンッ!!!

 

律がパーカー女子を引き寄せ……それとほぼ同時に、ノイズの砲身全てから砲弾が発射された。

 

「ぐぎぎ……っ!」

 

パーカー女子をかばいながら撃たれた砲弾の最初の1発を空いた手で掴んで受け止め、その反動で吹き飛びながら他の砲弾を回避する。

 

そして2人はどこかの建物を突き破ってようやく勢いが止まった。

 

「つ……大丈夫? 怪我はしてない?」

 

「あ、あぁ……ここは……?」

 

「すぐ近くあった廃園……吹っ飛ばされたな」

 

もう使われなくなった幼稚園……どうやらそこに突っ込んできたようだ。 パーカー女子は砂埃を払いながら立ち上がると、律の左手に掴んでいた砲弾を見て目を見開く。

 

「お、おいそれって……!」

 

「触らないで。 これはノイズが発射した砲弾、触ると消し炭になるよ」

 

砲弾を離しながら彼女の手を伸ばそうとした手を制するが、同時にパーカー女子は律に詰め寄る。

 

「だ、だったらなんで……何でお前は()()しないんだよ!?」

 

「………………」

 

今度は逆に問い詰められてしまう。 返答も同じ沈黙……と、そこへ再び2人を追ってノイズが現れる。

 

「お前は逃げろ。 あいつは俺が相手をする」

 

「はぁっ!? 何言ってんだよ!」

 

「これ見て分かるだろう? どういう訳か俺はノイズに触れても炭化しない体質なんだ」

 

時間経過で黒く炭化していく砲弾を握り潰し、パーカー女子を下がらせてノイズの前に出る。

 

「あの事件から2年……俺が変態行為でただノイズの中に潜り込んでいたと思うなよ」

 

懐に手を入れ黒いペンダントを取り出す。 それを見たパーカー女子は再び目を見開いて律の持つペンダントを見る。

 

「それは……!」

 

「ツヴァイウィングの2人が音楽活動をしながらノイズと戦うには必ず大人のバックアップが必要だ。 すると俺がこの結晶を使えばすぐに居場所が割れてしまう……ならどうすればいいか。 答えは簡単——ノイズの中で練習すりゃあいいだけのこと!」

 

「……はああぁっ!?」

 

理解不能、言っている意味が分からずパーカー女子は声を上げる。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️」

 

律の口から詩が、歌が……聖詠が唱えなれる。 しかし、その聖詠はノイズがかかって読み取る事は出来なかった。

 

ペンダントが強く光り出し、光が律を覆う。黒いノイズが周囲に漂いながら両腕両足、腰と胸に装甲が装置され、そこから滲み広がるように全身を黒いアンダースーツで覆われる。 背からは赤い閃光を放つ一対二翼の翼が、頭部にくの字の(つの)があるヘッドギアが装着され、目元に赤いバイザーが下される。

 

そして、左腰に長剣の黒い鞘が現れる。 次いでその右手には赤い閃光の刀身で構成された黒い剣が握られ、剣は鞘に納められる。

 

「シ……シンフォギア……黒い、シンフォギア」

 

変身した律にパーカー女子が震えながら驚愕し。 律は両手を開いたり腕を回したりしてシンフォギアの具合を確かめ、確認してから空を見上げる。

 

「ノイズジャミングってやつだな。 理屈は知らんけど。 けど、今はノイズの外だから……感知されているかもな」

 

自分に向けられているカメラを見るように、律は自身が観測されているのシンフォギアを通して肌で感じられている。

 

律の予想通り、どこかの指令室ではアラートが鳴り響き。 複数のオペレーターが慌ただしく、かつ冷静に動いていた。

 

「——横浜、西区の廃園に高エネルギー反応を検出!」

 

「エネルギー波形を特定……該当あり! 2年前、突如として現れたシンフォギアです!」

 

「同時にノイズ率が急上昇! 既に200%を超えています!」

 

「現れたというのか……ノイズを喰らう黒きシンフォギア……」

 

モニターに映し出されている観測データを見ながら、赤のカッターシャツとピンクのネクタイを着た筋肉隆々の男は腕を組み目をつぶって黙祷をするように考え込む。

 

そこへ、2人の女子が指令室に入ってきた。 2人はモニターに映し出された黒いシンフォギアを纏う人物を見上げる。

 

「2年ぶりか。 今から行けば間に合うんじゃねえか?」

 

「私がいく。 奏はここで待っててくれ。 もう、戦える身体ではないのだから」

 

「へいへい」

 

青髪の少女に叱られ、赤髪の少女は頭の後ろで手を組みながら生返事を返す。

 

律のシンフォギアとノイズが観測されるも映像は回っておらず、それを感覚的に理解していたから律はシンフォギアを使用した。

 

「さてと、この装備を使いこなすために格闘ゲームやファンタジー系やFPSをやりこみ、特訓に特訓を重ねてきた。 その成果を確かめるために、倒させてもらおうか!」

 

「それホントに意味あんのか!?」

 

多少突っ込まれながらも律は自然な体勢で剣を構え、背中のウィングバーニアから閃光を放出し、滑空するように移動する。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」

 

ノイズだらけの歌ともに剣を振り下ろす。 ノイズは回避行動をとるも剣は左側面の砲身を斬り落とした。

 

「……避けた……? しかも1発で決まらなかった……やっぱり普通のノイズじゃないな」

 

斬り落とされた砲身と、斬られた箇所からノイズの破片が飛び散り。 剣に集まり吸収されていた。

 

(なんだあのアームドギアは!? 斬られた箇所から、ノイズを取り込んでいる?)

 

剣がノイズを吸い込む現象を陰から見入っていたパーカー女子。 すると、ノイズが残りの砲門の口を狭め……マシンガンの如く弾丸を雨あられと撃ってきた。

 

「うわあっ!」

 

「おっと! こりゃスゲェ弾幕!」

 

軽口を叩きながらも無数の弾を避け、先にパーカー女子が隠れていた壁の後ろに飛び込む。

 

威力重視なのか、すり抜けることもできるはずの弾は壁にしっかりと着弾しており。 いつもは無意味な壁はしっかりと防弾を果たしている。

 

「おい! こんなんでノイズを倒せんのかよっ!?」

 

「うーん、いつもなら速! 瞬! 殺! なんだけど、あのノイズ、なんかおかしいね。 誰かに操られているような……」

 

「……っ……」

 

何か知っているのか、パーカー女子は唇を噛む。 その間、律は目を閉じて呼吸を整え、いつでも動ける準備を進める。

 

「ふぅ……」

 

「お、おい、行けるのかよ……?」

 

「行けるんじゃない……」

 

パーカー女子の疑問に、律は指を鳴らして手の平で掴める大きさの石を手に取り、

 

「——行くぜっ!!」

 

「え……」

 

呆けた声をする彼女を置いて、そのまま石を真上に投げる。 石に狙いが行き弾幕が上を向いたと同時に律は壁から飛び出す。

 

(そ、その癖って……それに、よく見たらその髪……ま、まさか……)

 

今までフードを深く被り、顔すらまともに見てなかったようで、パーカー女子はようやく顔を上げて律の姿を見る。

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

(……ぁ……)

 

そこには赤い剣を水平に構え、全力の突きを放つ律の姿がようやく目に映った。

 

爆走(ランページ)突撃(ストライク)

 

刀身から赤い閃光を放ち、律と剣が一体化したように槍となりノイズを貫き、中央に大きな風穴が開く。

 

「ほい、回収っと」

 

風化するように破片となっていくノイズを剣が吸収していき、刀身が一度だけ発光する。 1分も満たないとはいえノイズとの戦闘に一息つき、剣を鞘に納める。

 

「あ。 ちなみにこの事はナイショでお願いな」

 

「……誰も信じねえだろ。 ノイズを倒したなんて」

 

「確かに」

 

廃園の割れた窓ガラスに映るシンフォギアを纏う自分を見る。 身体を捻って色んな角度で観察し、次に律は頭を捻る。

 

「うーん、それにしても結局、この装備ってホントなんだろうなぁ」

 

(何も知らずにシンフォギアを使ってたのかよ……)

 

そう小言をこぼしながらシンフォギアが光の粒子となり、律の頭上で集結。 ペンダントに戻り、重力に引かれて落ちてきたところを律の手に収まる。

 

「ま、初戦闘はこんなもんかな」

 

(初めてであれだけ動けんのかよ!? どんなゲームをやったらああなるってんだ!)

 

律がやっていたのは主にリアルタイム系のバトルゲームや、戦略ゲームである。 格ゲーは苦手なのであまりやってはいない。

 

それはともかく、この場に留まってはいずれ政府の人間が来てしまう。 そうなると色々と面倒なので2人は人目のつかないルートを通って廃園から出る。 しばらくは山道を歩き、

 

「お、展望台に出たか」

 

2人が出たのは山の上の高台。 ここから見る街の景色と夜空はとても綺麗に見える。

 

「な、なぁ……お前、幼馴染はいるか?」

 

「はい?」

 

街と空を眺めていると、彼女の唐突な質問に律は意味が分からず間抜けな声を漏らす。 だが目元は隠れているが、彼女は真面目な表情をしている。 少しだけの思考の一巡の後、律は口を開く。

 

「……いるよ、1人。 雪音 クリスっていう女の子」

 

「————!」

 

「でも昔外国でクリスの両親が死んでしまって、クリスも何とか帰国したけど突然の失踪……2年経った今でも探している」

 

「………………どんな、そのクリスって女の子はどんな子だった?」

 

まるで懇願するように、パーカー女子は律の答えを両手を握り締めながら待っている。

 

「んー、そうだなぁ……綺麗な銀髪にアメジストの目が綺麗で、笑顔が可愛くて音楽が好きな子だったな。 喧嘩も嫌いで、近所の子にイジめられた時はよく俺の背中に隠れてたっけ」

 

「………………そうか……」

 

律から背を向けた。 その背は、僅かだが震えていた。

 

「迷惑かけたな。 それじゃあ、な」

 

「え……あ、おい!」

 

走り去っていく彼女を追いかけようとするが、何故か足が前に進まず立ち尽くす。

 

ふと、律はなにかを思い出し、ポケットに手を入れスマホを取り出したが……電源が落ちていたため、公園内に取り付けられていた時計を見る。

 

「!! やっべ、もうこんな時間! “私のヒロインアカデミー”が始まっちまう!」

 

気になる点はあったが、悩んでも時間は過ぎるだけ……一度頭の隅に追いやり、脇目もせず再び全力疾走で山を駆け下りるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「あら、自分から戻って来るなんて。 もう追いかけっこはこれっきりにしてちょうだい」

 

「……わぁってるよ」

 

森の闇の中から1人の女性が腕を組みながら出てきた。 女性は金色の鎧をつけており、側から見ても普通の人には見えない。

 

「それはそうと、随分面白いものを見つけたわね。 素でノイズに触れる人間がいるなんて……興味が尽きないわ」

 

「……ああ……」

 

何やら不穏な雰囲気を感じさせる女性、彼女は走り去る律を一瞥し森の中に向かって歩き出す。 パーカー女子も俯きながらその後に続く。

 

(あれから、アタシは変わってしまった。 もう、律の側にはいられない……いちゃいけないんだ。 もう、一緒には歌えない……こんな壊すことしかできない歌じゃ)

 

一度立ち止まって振り返り、フードに手をかけ、

 

「ありがとう、アタシを信じて……想ってくれて。 さようなら、律」

 

パーカー女子の全貌が夜の月にさらされる。 銀髪の髪が月光を浴びて美しく煌めき。 目尻に涙を浮かべ悲しい目をしたアメジストの瞳が、走り去っていく律の背を見続け、再び女性の後について行った。

 

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