戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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28話 真実が謎を増やす

同日——

 

秋差し掛かる時期なので日の出は徐々に遅くなっているため、学生の律たちはろくに寝る事も出来ずリディアンに登校した。

 

「……眠い……(ジューーッ)」

 

「………………(ZZZ……)」

 

眠気に耐えながらテーブルに紙パックのカフェオレをだらしない体勢で啜っている律。 その隣では完全に落ちたクリスが爆睡していた。

 

別の教室で、恐らく翼は背筋を張りながら黙祷風に寝ているだろう。 響は……言わずもがな。

 

「全く。 そんなに大変なら私たちも頼ればいいでしょう」

 

「あ、あはは………何とかなると思ったんだけどねぇ……(ジューー……)」

 

「そう言って2人揃ってダウンしてんじゃねぇか。 ——! ま、まさか……本当はお前ら、夜のプロレスに興じて……!」

 

「……錦……そんなネタここでやったら今後生きていけないぞ?」

 

「——ごめんなさい」

 

馬鹿なことを考えた錦は即座に土下座した。 ここリディアンの圧倒的女子率を考えれば、悪い噂の一つでも立てば卒業まで汚物扱いにもなりかねない。

 

因みに、寝不足の理由は夜遅くまで学祭の準備をしていたから、となっている。 そのための物的証拠を二課のスタッフがものの数時間で用意してくれた。

 

受け取る際、律は死屍累々と倒れ伏しているクルーの皆さんにグッ!とサムズアップすると、彼らも倒れながら返してくれた。

 

「だったら“今日の練習”はお休みにする?」

 

「そうしてくれると助かる……(ジューーーッ)」

 

「とりあえず喋りながら飲むのやめろ」

 

実は律を含めたアイオニア音楽専門学校の学生同士、学祭で彼らとバンドを組むことになっている。 開催まで残り少ないというのに、休ませてもらう事がとても申し訳なかった。

 

と、そこで担任の女教師が教室内に入ってくると……目をかけられていると言うより目をつけられている、寝ているクリスに歩み寄ると、

 

——スパーーンッ!!……

 

「痛ってえぇぇ!!」

 

お馴染みになりつつある出席簿か脳天に振り下ろされた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

それから何とか眠気を堪え続け放課後になり、律は学祭の準備を手伝えない事をクラスメイトに謝り、昨夜……と言うより半日前に訪れていた《浜崎病院》に欠伸を噛み殺しながら再び踏み込んでいた。

 

既に二課の手によって封鎖されており、恐らく大した証拠も残っていないが調査も行われ、つい先ほど終えて撤退した後だった。

 

(やっぱり何も残ってないようだけど……)

 

スマホに送られてきた報告書に目を通しながら律が気になったのは最初のノイズに襲撃……自分を除いた装者の適合係数が下がった現象。 何故そのような事態になったのか自分なりに解明したかった。

 

まず気になったのは壁の下側に設置されているエアダクト。 通常、煙は上に上がるためエアダクトも天井に設置されるものだが、この病院は下に設置されていた。

 

(どこに繋がっているんだ……?)

 

ダクトの前で膝をついて蓋を外し、中を覗くも暗くて先が見えない。 律は肩に手を回すと、肩に乗っていたリューツを抱え床に下ろした。

 

「リューツ。 中を見て来てくれないか?」

 

「ガウ!」

 

元気よく承諾してくれ、リューツはトコトコとダクトの中に入って行った。 待つ間、律はシンフォギアとリューツとの連携について考え出す。

 

同契するためにはリューツによってのノイズを吸い出す必要があるのだが、その間リューツは外に出しておかなくてはいけない。 もしもの時、リューツに何かあれば……律は丁度いいタイミングで現れたノイズを捕食しなければ暴走してしまう危険がある。

 

(……リューツだけじゃ色々と危険も多いし……増やすか)

 

リューツというノイズの枠組みから外れたノイズがいたのだ。 もう1匹や2匹いてもおかしくないだろう。 既に新しいペットを飼う感覚でいると、

 

「あ」

 

「デス?」

 

曲がり角から切歌が現れ、バッタリと鉢合わせしてしまった。

 

「「………………」」

 

目と目が合い、無言で見つめ合う2人。 どちらも動けず声をかけられずしばらくその状態が続き、

 

「じ、実はガスの元栓を閉めたかなぁーーっと気になってデスねぇ……」

 

「あぁ! 分かる分かる。 元栓を閉めたか閉めてないか気になると確認したくなるよなぁ——って主婦かぁ!!」

 

「デェーーース!?」

 

テロリストの構成員《暁 切歌》確保。 何故か落ちていた縄で簀巻きにして目の前に正座させた。

 

「犯人は現場に戻るって言うけど……そんな理由で戻ってきた人は前代未聞だろ」

 

「デェーース……」

 

「困った時は「デェース」で済ませるな」

 

先程からとにかく「デェース。 デェース」しか言わない切歌。 黙っているのならまだしも、誤魔化そうとしてこればかりだと流石に律もイライラしてくる。

 

「さて。 俺は君に聞きたいことがあるんだけど……」

 

「……………………」

 

話を切り出そうとすると途端口を紡ぐ。 まずは自己紹介からと律は地べたに座り目線を合わせる。

 

「改めて、俺は《芡咲 律》。 君の名前は?」

 

「……《暁 切歌》デス。 切歌でいいデス」

 

「よし切歌、ならこうしよう。 俺の質問に答えてくれたら解放する。 それでいいか?」

 

「え……いいんデスか?」

 

「ああ、約束する。 それじゃあ早速……切歌は俺と調の両親について何か知っているか?」

 

「——デス? 調はお兄ぃの親なんて知らないと思うデスよ?」

 

「……はい?」

 

予想外の回答に、律は呆けた声を出してからもう一度聞き返す。

 

「いやだって、俺と調は兄妹……なんだろう?」

 

「違うデース。 調はあたしみたいに“お兄ぃ”って呼んでるのと同じデス」

 

「……………………」

 

何を言っている風に話す切歌。 律は額に手を当て、もう一度考え直す。

 

「ちょっと待ってくれ……だったら俺の“月読”って言う苗字は……」

 

「それは最初、お兄ぃに名前が無いからって“セレナ”が《律》って名前をつけて。 そしたら「苗字はどうする?」ってなって……ジャンケンで決めたら調が勝ったからお兄ぃは《月読 律》になったんデス」

 

「——————」

 

衝撃の事実に絶句する律。 自分の苗字がただジャンケンの勝ち負けによって決められた事より、本当は調とは実の兄妹でもなんでもなかった事に驚いた。

 

(そう言えばライブの時に思い出した? ような記憶だと俺は名付けられていた……調と俺が本当の兄妹だったのなら名付けられる必要無かっただろう!)

 

よく考えたらすぐに分かる事だったが、今の今まで失念していた律はガックシと、床に両手両膝をついて項垂れる。

 

「……お兄ぃ?」

 

「……大丈夫。 大丈夫だから……」

 

つまり、結果によっては“暁 律”や“リツ・カデンツァヴナ・イヴ”になっていた可能性が大いにあったわけだ。

 

「……ふぅ。 ありがとう、切歌。 色々と気になるけど、少しスッキリした」

 

「ええっと……よく分からないけど、良かったデス!」

 

律は納得しないながらも、スッキリはした。 約束通り縄を解き、切歌を解放した。

 

「いいんデスか? 言っておいてあれデスけど、このまま見逃して?」

 

「本当ならダメだけど……見逃すって約束したからな。 知りたい事は知れたし、無理に捕まえる理由もないし」

 

「——ガウ」

 

そこへ、探索を終えたリューツが戻ってきた。 再び膝をつくと、リューツが何かを咥えていた。 一言「ありがとう」と頭を撫でお礼を言いながら受け取ると、それは試験管の容器のような空のアンプルだった。

 

(これから何か出てくるといいんだけど……)

 

立ち上がりながら淡い希望を抱いていると、切歌がキラキラした目でリューツの事を見ていた。

 

「そ、その猫……なんデスか?」

 

「ああ。 俺が飼っているリューツだ。 触るか?」

 

「いいんデスか!?」

 

言うや否や地面に膝をつき、両手を気持ち弱めほどに広げて待つ体勢を取る。 律はリューツに呼びかけ切歌の方に向かわせ、寄って行ったリューツが切歌の膝の上に前脚を乗せると

 

「キャーーー!! カワイイデーース!!」

 

「ギュウゥ……」

 

一瞬でリューツを抱きしめ頬擦りをする。 顔が押し潰されたリューツは苦しそうな声を漏らす。

 

「さて……それじゃあ行くか」

 

「? どこに行くんデスか?」

 

「ガスの元栓の確認」

 

「…………冗談だったんデスけど………」

 

「ムキュウ……」

 

ガスの元栓は閉めてありました。 そもそも廃棄された病院なのでガス事態通っていなかったが。

 

そして2人は揃って病院を後にし、付近にあったスーパーに差し掛かると、律が足を止めた。

 

「切歌。 少し待ってろ」

 

「デス?」

 

そう言い残すと律は駆け足でスーパーの中に入って行った。 茫然と残された切歌は事情が事情なので行ってしまおうかと思ったが……素直に言葉を受け止めて待つ事数分、両手にビニール袋を下げた律が戻ってきた。

 

「ほれ」

 

「これって……」

 

ビニール袋の中には大量の食料があった。 律はそれを切歌に手渡すと、

 

「デスッ!?」

 

あまりの重さに持ちきれず地面についてしまう。 「買い過ぎたかな?」と律は少し苦笑いする。

 

「調もそうだが、ちゃんと食べているのか? 初めて……というか、久しぶり? にあった時から少し窶れてるだろう。 逃亡中で料理するかよく分からないから、とりあえず日持ちするのを選んでおいた」

 

「……………………」

 

一瞬、切歌は驚いたような顔をしたが……すぐに律に向かって嬉しそうな顔を見せた。

 

「やっぱり……やっぱりお兄ぃはお兄ぃデス。 記憶がなくても、あたしと調のお兄ちゃんデス……」

 

「そうか? まあ、今お世話になっている家族に妹がいるから……あの子と接する時のようにしているのかもな」

 

「あの子?」

 

「ああ。 記憶を失った俺を向かい入れてくれた“芡咲”の事さ。 その実子の女の子が俺の義妹って事」

 

「!!」

 

それを聞くと切歌は今までで一番驚いたような顔をし、律から顔を背けて明後日の方を向く。

 

(ヤ、ヤッベーーデス! この事を調が知ったりでもしたら……)

 

「切歌?」

 

「な、なんでもないデス!!」

 

慌てて切歌は首を横にブンブン振り、何でもないように取り繕う。

 

「それじゃあ——デスッ!!」

 

両手が塞がっているためピョンと跳ね、器用にフードをかぶり顔を隠してから、切歌は力強く踏ん張りながらビニール袋を持ち上げ。 フラフラしながらも去って行こうとする。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

「だ、大丈夫デーース……」

 

手助けしたいが、一応2人は敵同士……切歌はフラフラと歩きながら行ってしまった。 後に残された律はその姿を見て軽く嘆息する。

 

「やれやれ。 俺には世話が焼ける妹が何人いるのやら」

 

「ガウゥ……」

 

切歌返してもらったリューツは、手酷くやられたようで腕の中でグッタリしていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

秋桜祭、前日——

 

この日は授業はお休み、明日に備えて学祭の準備が行なわれ今まで以上に学内は騒がしく、慌ただしくなっていた。

 

そんな中、クラスの出し物の準備を大体終えた律は学内で空いているホールに向かった。

 

「遅れましたー」

 

「遅ぇぞ」

 

「もうみんな来てるよー」

 

そこにはクラスメイトのアルフと錦の他に、同学校から来た先輩の藍川 鈴と守条 由叉がいた。

 

クラスの出し物もあるので、時間が空いた時にはこうして顔を合わせて練習を重ねていた。

 

「律くん聞いたよー? 寝不足なんだってね?」

 

「音を聞いてもらうから帰してはやれねぇが、気分が悪いのなら休んでもいいぞ?」

 

「それは昨日の話です。 ちゃんと寝たので問題ありません」

 

「……まあ、お前がそう言うのなら」

 

早速準備を始め、奏者がそれぞれの楽器を抱え。 律は指揮棒を片手にその前に立つ。

 

「——それじゃあ、本番前のセッションを始めます」

 

アルフのヴァイオリン。 錦のドラム。 由叉のギター。 鈴のトランペット。 全く統一性のない楽器の面々を、律の指揮がまとめあげ……一つの音楽として成立させる。

 

「——まただ……」

 

同時刻。 二課の潜水艦仮説本部では藤尭が先日の報告書をまとめていた時、本部の計測機がある反応をキャッチした。

 

そこへ丁度、司令室に弦十郎が入ってきて、メインモニターに表示されている数値を見た後、藤尭の方を向いた。

 

「何かあったのか?」

 

「ええ。 新設されたリディアンから僅かではありますがフォニックゲインの反応が」

 

「またか」

 

リディアンからフォニックゲインとなると、必然的に4人の装者の誰かだと思われるが……反応が検出される時は誰も授業などで歌ってはいなかったのだ。

 

そして調査の結果……学祭準備期間の最中に律を含めたある集団、バンドの演奏によるものだと判明した。

 

「今回も同様か?」

 

「はい。 バンドによる演奏が開始されてから検出されています。 律くんがいるとはいえ、彼はそもそもノイズの影響で歌は……」

 

「……歌声ではなく、演奏によってフォニックゲインを生み出す、か……」

 

信じられないが、現に微弱ながらも検出されており、弦十郎はやれやれと首を横に振るう。 リディアンは元々、データ収集と装者候補を発見するための機関であった。 それが新設されてからは一時的に凍結、二課の意向により廃止の方向に進んでいる。

 

だがそうなって今、無くなってから新たな可能性が発見されるなど……もう苦笑いしか出なかった。

 

(興味があるほど遠ざかり、興味を失うほど近寄ってくる、か……全く、ままならないものだな)

 

以前なら大なり小なり喜ぶべきだったのだろうが、今となっては複雑な気持ちであった。

 

場所は戻りリディアンのホール。 バンドの通しの演奏が終わり、しばらく余韻に浸った後奏者たちは今の演奏の感想を言うため口を開く。

 

「少し緩い気がする。 もう少しテンポを上げてもいいんじゃないか?」

 

「そうなると尖った音になってしまいがちです。 とにかく今は数をこなして音を整えるべきでは?」

 

「っていうかトランペット! どんだけアクロバット演奏してんだよ!

 

「人は演奏なんかよりパフォーマンスに興味があると思うんだよね!!」

 

「あんたそれでも演奏家かよ!?」

 

演奏はちゃんとして音もバッチリなのに荒ぶりながら演奏する鈴にツッコミを入れる錦。 そんなこんなで練習は続き、

 

「そういえばさぁ……」

 

「何でしょうか?」

 

「このバンドの名前って……何?」

 

唐突に鈴がこんな事を指摘してきた。 言われて気づいたが、律たちはバンドを結成して練習を続けているだけでバンド名など決めていなかった。

 

「そういえば決まってなかったな」

 

「何かいい案がないかしら……」

 

「はいはーい! “鈴ちゃんスターズ——」

 

「却下」

 

「酷い!?」

 

センスの欠片もない命名を即座に却下し。 何かいい名前が無いかと練習の手を一時止め全員で考えを募る。

 

「普通でいいんじゃねぇか?」

 

「それが一番困ります」

 

名付けや献立と同じように、人任せや何でもいいが一番困ってしまう。

 

「じゃあ……《レゾナンス》で」

 

「レゾナンス?」

 

「まあ、いいんじゃね? 小洒落てて」

 

「私も異論はありません」

 

「それじゃあ決定!! 私たちは《レゾナンス》!!」

 

バンドの命名としては捻りもないありきたりな名前だが、悪くもなかった。 それから気持ちを新たにその後も練習は続き……陽が落ち明日に備えて早めに帰宅した。

 

「あー……疲れたぁ……」

 

「クァ〜……」

 

疲労と肩に欠伸をするリューツの重さのせいで猫背になりながらも帰路につき。 マンションに辿り着くと既にクリスは帰っているようで。 律はクリスの部屋の前を通り過ぎ隣にある自分の部屋に入ると、

 

「……………………」

 

「ガウ?」

 

玄関先にアンティークドールが置いてあった。 今朝家を出る前はこんなのは絶対に無かった。 人形は白いゴスロリチックな服を着ており、背中を中ほど覆うくらいの長さの橙色の髪に、両側頭部から後頭部にかけて蝶をあしらったような髪飾りを付けている。

 

「よっ」

 

危険な物かもしれないと律は人形を避けながら壁伝いに家の中に入り、家の中をくまなく捜索するが……侵入や荒らされた形跡、電化製品や貴重品等の無くなった物は無く。 逆にこのぬいぐるみだけが家の中に増えていた。

 

「うーん……」

 

再び玄関に戻り、ツンツンと人形を突く。 目は閉じられ顔を俯かせている所が、どこか本物の人間のような気がしとても精巧に作り込まれているのが分かる。

 

「クゥゥ……」

 

「リューツ?」

 

するとリューツが人形に歩み寄り、気持ちよさそうに頬を人形に擦り付けた。

 

「気に入ったのか?」

 

「ガウ!」

 

これが何なのか不明だが、とりあえず家に置いておく事にしてリビングのソファーまで持っていきその上に座らせておいた。

 

(それにしても、どこかで見た気が……)

 

微動だにもしない人形を見ながらそう思う律。 あのような人形など見たこと無いはずだが、律はどこか既視感を覚え首を傾げるのだった。

 

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