戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
数日後——
響が二課の部隊から外されてから何事もなく、今日も学校が終わり放課後……律とクリスは揃って下校していた。 その間、あまり口数も少なく、横に並びながらとぼとぼと歩いていた。
「あいつはどうした?」
「今日は未来たちと“ふらわー”に行くらしい。 心配ならついて行けばいいんじゃないかな?」
「べ、別にそんなんじゃ……」
「ガゥゥ……」
響は以前と同じように一時ではあるが平穏な生活に戻っている。 とはいえ、マリアたちの事が気になって心からは楽しめないだろう。
それは律たちも同じ気持ちであった。 その気持ちを汲み取ったようにリューツも悲しそうに鳴く。
「気になるのか?」
「まあ……いくばくばかりは……」
「響がいない分、俺たちが頑張らないといけない。 今は情報が入ってくるのを待つしかない」
「分ぁってるよ。 けどなぁ……」
理解はしているが納得は出来ないクリス。 マリアたちに向ける響の思いは2人も理解している。 しかしこのまま戦い続ければ命を落としかねない……この2つが板挟みになり、常に顰めっ面になってしまう。
(何だかここ最近、悩んでばかりな気がするなぁ……)
マリアたちとの関係で悩み、《フィーネ》の目的が何なのかと悩み、そして今は響のことで悩んでいる……ある意味、煩悩塗れである。
「だぁぁ!! もう! なんかムカムカしてきたあ!」
「はいはい落ち着く」
クリスは悩み過ぎて逆にキレてしまい、律はそんな彼女を見て逆に冷静になりながら宥める。苛立つ気持ちは分からなくもないが……と、その時、
——ピリリリリッ!
悩める2人の下に、二課からの緊急通信が届いて来た。
『付近でノイズ反応を確認! 装者全員は現場へ急行して下さい!』
「了解しました!」
出動を了承し、2人はすぐ様ノイズ出現地点に向かおうとした。
『ノイズとは異なる高質料のエネルギーを検知!』
『波形を照合——ッ…まさかこれって……』
『……ガン……グニール、だと』
「「!!」」
その言葉を聞き、2人は目的地を確認するやいなや一目散に駆け出す。 その反応が出ているのはつまり、響が戦ってしまったということ。
「たっく! 響も何で行く先々でトラブルに巻き込まれるのかなぁ!?」
「オメェも似たようなもんだろう!」
よくノイズ発生地点に出くわす律もだが、響も似たようなものでどっちもどっちだった。 ともかく急いで事件現場である都市部まで行こうとすると、
「——ッ!?」
「ぶっ!?」
突然、律は足を止めた。 急には止まれなかったクリスは律の背に顔を突っ込ませながら止まる事が出来た。
「い、いきなり止まるんじゃねえよ!」
「………………」
赤くなった鼻頭を押さえながら怒鳴るクリスを無視して律は真っ直ぐ、険しい目で前を向いている。 「何だってんだよ」と愚痴を零しながらクリスも横を抜けて同じ方向を向くと……そこには全身をローブで覆い隠している道の真ん中に人物が立っていた。
顔はフードを目深く被って見えず、身体も足首まであるマントで覆っており人物像は見えなかった。 だが身長は幾分小柄である事から、おおよそ10代前後だというのが分かる。
『……………………』
(……なんだ……この感じ……?)
「一般人、じゃあなさそうだな」
このタイミングで現れる事から、味方ではない事は確かである。 その問いに答えるようにフードの人物は男かも女かもわからない、ノイズがかった声で答える。
『これより先は既に舞台の公演中……ここで引き返してもらおうか?』
「テメェ……お前もアイツらの、フィーネの仲間か!?」
『——否』
クリスの問いにボソリと返しながら僅かな、しかし剣のような鋭利な殺気が律とクリスに向かって放ってくる。
「手加減できる相手じゃなさそうだ……リューツは離れてろ。 やるよ、クリス!」
「ガウゥン……」
「ああ!」
殺気に当てられ身を竦めるように身構え、寂しそうな声を漏らすリューツは渋々と律から降りて離れた。 2人は服の内からギアペンダントを取り出して掲げる。
「Feliear claiomhsolais tron」
「Killiter Ichaival tron」
聖詠を歌い、その身にシンフォギアを身に纏う。 ギアを纏いアームドギアを展開し律は長剣を、クリスはボウガンを構える。
『フン』
2人の武器を確認したフードの人物はマントから左手を出すと……その手には金色の片手剣が握られていた。
(あの剣は……)
「先手必勝ッ!!」
律はフードの人物が持つ剣が気になり、注意深く見ていると……先にクリスが飛び出す。
「その面拝ませてもらうぜ!」
『不敬な』
クリスはボウガンを連射しながら接近する。 フードの人物はクリスの物言いに無礼と一蹴し、剣を持ち上げ……飛来して来た矢を全て斬り落とした。
「んな馬鹿な——」
『破ッ!!』
「ぐわぁ!!」
驚く間も無く続けて接近してきたクリスを斬り払い、そのまま律に向かって襲いかかる。
「でやっ!」
『フッ……』
お互いに横薙ぎに剣を振り抜き、刃が激突すると火花を散らしながら鍔迫り合いになる。
「一体何が目的だ!?」
『足止め、とでも言っておこう』
「ふざけるな!!」
奴は律の怒号を受けながらもビクともせす、律も負けじと押し込もうとするが……一向に押し返す事が出来ず。 ウィングの推進力を加えても押し返す事が困難だった。
(ッ……!! こんな細腕で……なんてパワーだ……!)
このままではまずいと刃の上で奴の刀身を走らせて受け流し、金色の剣が地面を斬り裂くと同時に律は距離を取り、
「吹っ飛びやがれッ!!」
【MEGA DETH PARTY】
間髪入れずクリスが無数のミサイルを発射して来た。
いくら飛来する無数の矢を斬れる敵だとしても、斬った瞬間に爆発するミサイルは避けるか防御する以外に防ぐ方法はないだろう。
嘲笑うかのようにフッと軽く口元を吊り上げると、
『軽い』
剣を円を描くように振るうと迫って来ていたミサイルの軌道は外側に向き、奴には当たらず素通りし。 背後にあった建物を爆破解体した。
「クリス! 街中でそれはやり過ぎ!」
「当たっていれば問題なかったんだよ!」
「もう少し被害とか考えろよ!?」
戦っている以上、街への被害は当然出るが。 特にクリスのシンフォギアではどうしても周囲への被害が出やすい。 クリスが仲間になってから二課の修繕費が割増になっていた。
『こんな時に痴話喧嘩か?』
「ち、痴話ッ!?」
クリスが狼狽し……その隙を狙われ、一瞬でクリスとの距離を詰めて剣を振り下ろした。 咄嗟に律が間に割って入り、振り下ろされた剣を受け止めた。
「グッ!」
『随分と余裕なのだな? そちらが不利だというのに?』
「それは……失礼しまし、た!」
こちらに非があるので素直に謝罪をしながら左手に構えた光線銃を突き出し、奴の腹部に当て至近距離で撃つ。
奴は撃たれた瞬間にバク転して後退、身を捻り光線の合間を抜ける。
「クリス!」
「これならどうだ!!」
【BILLION MAIDEN】
遮蔽物のない空中に向けてなら気兼ねなく撃てる。 ガトリング4門による弾幕を張り、逃げ場をなくす。
『チッ』
避けられないと踏んだ奴は舌打ちをしながら剣を前に突き出すと、
——ドォンッ!!
剣自体が小規模な爆発を起こし、その衝撃で銃弾を防ぐ壁を作り出し、その間に奴はその場から飛び退いて銃弾の射線上から逸れた。
「チッ」とクリスは防がれた事に舌打ちし、次第に爆煙が晴れると……地上にはクリスしかいなかった。
『ッ!』
バッと急いで振り返りなが横薙ぎに振るい……剣は背後に回っていた律の剣に直撃した。
「これでもダメか……!」
『惜しかったな』
これが通用しないとなるとこれ以上奇襲、奇策を重ねても効果はないだろう。 弦十郎なら真っ向から撃ち破るのに対し、奴は巧みな技で防ぎ掻い潜って行く……今まで相手にした事の無い敵に文字通りなす術がなかった。
(なんとか打開策を……)
歯軋りまじりに剣を握り直した、時……突然、律の脳裏に歌詞が浮かび上がり、シンフォギアから旋律が奏でられる。
(な、何だか……いきなり歌が……)
『何?』
「お、おい……まさか歌うんじゃ……」
クリスが律のみを案じて止めようとする前に、律は歌うと同時に駆け出す。
——哀しみの城に囚われ 泣いている……魂よ……
「グゥッ!!(体内にある……ノイズが……!)」
『この歌は——ッ!』
ノイズを吸い出していない状態で歌い出した事によりフォニックゲインとノイズ……相反する二つが律の身体の中で暴れ出し、苦悶の表情を見せるも律は湧き出る旋律を口にする。
対して奴は律が歌い出した歌に驚愕した。 だがその前に律が動き出し、下段から振り上げた剣で奴を後ろに弾き飛ばした。
——身を守る 茨の刺も……すべて! 受け止め、抱きしめよう
『ぐっ!』
反撃に転じた奴は目にも止まらぬ、金色の剣が光の速さの如き剣捌きで律に襲いかかるが……その人が生きられる隙間もない剣戟の中を律は掻い潜るようにいとも簡単に避け。
そしてにその合間に掌打や蹴撃によるカウンターを返していく。
『動きが、読まれているのか……』
——その瞳に映る色が 空虚なら……そう、空を描き
避けるもその先には既に律が回り込んでおり、動き続ける奴は次第に息を荒げ疲弊し動きが鈍くなっていく。
『ぐっ!』
思い切ってその場から飛び退いてビルから飛び降り、着地してから顔を上げると……目の前には刀で居合の構えをする律が。
「——暁の先へ! 羽ばたこおおぉう!!」
抜刀による横一閃。 避けようと仰け反ったため直撃はしなかったがフードの一部を切り裂いた。
『くっ……』
咄嗟に手で残りのフードを押さえた事で顔は見られなかったが、一部だけ見えたフードの中を見て……2人は目を疑った。
「こいつは……!?」
「まさか、人間じゃ……ないのか?」
『……………………』
見えたのは右側頭部のみ。 確認できたのは相手が金髪であることと……
「お前は一体何者なんだ。 何が目的——ガハッ!!」
「律!?」
再度、律は剣先を向けながら目的を問い詰めようとした時……突然、律は吐血し、その場で膝をついてしまう。
『不完全とはいえ《禁忌の歌》を口にしたのだ。 むしろその程度で済んで幸運と言うべきか』
奴は剣をマントの内にしまいながら律を一瞥し、踵を返して背を向けると、
『我らが求めるは“大いなる黄昏”を告げる時の笛——《ギャラルホルン》』
「「!?」」
『いずれこの現世に来たるだろう。 痛み、嘆き、悲しみ、怯え、恐怖……悲鳴より生まれし異形が……』
何かを示唆しているような言動で律たちに向けてそう言い、奴の身体が光るように一瞬で白くなり……シュンッ! と甲高い音を出しながら消えていった。 まるでどこかに瞬間移動したようだ。
「……な、何だったんだ?」
「ッ……どうやら、マリアたち《フィーネ》とは完全に別の目的、組織なのは確かだ。 しかし、《ギャラルホルン》か……」
口元の血を拭いながら情報をまとめる。 ここで現れた新たな敵……一体何者で、何が目的なのか定かではないが。 それよりも今は優先すべき事がある。
「お、おい! 無茶するなよ! ノイズがある状態で歌ってバックファイアを受けたんだろう!?
「問題ない……! 時間を取られた。 早く響の元に向かうぞ!」
「いやだから——キャッ!?」
有無を言わさずクリスを横抱きで抱え、その際に可愛らしい悲鳴が聞こえて来たが。 律は痛む身体を奮い立たせてウィングを広げると浮かび上がり、ノイズ反応がある地点に向かって飛翔した。
◆ ◆ ◆
『…………………』
3人が戦っていた地点より程近い雑木林。 そこに律達と戦っていたマントの人物がいた。 その者は顔を上げて木々の合間に見え、飛び去って行く律達の事を見つめていた。
『どうじゃった、あやつは?』
その時、背後からマントの人物と同じようなノイズが掛かった声で話しかける人物がいた。 その者も同じような格好をしており、どんな人物か認識出来なかった。
『まだまだだな。 アレでは露払いや
『ふーむ。 舞台に上がるには役者不足という事か」
結果を聞き少し嘆息してから振り返り、律達がいるであろう方角を見つめ、
『せめて“錬金術師”が出てくる前には……思い出して欲しいものじゃのぉ。 己が使命を、の』
やれやれと首を横に振り。 同じ格好をした2人組は踵を返してその場から去って行った。
◆ ◆ ◆
途中、翼と合流しながら律とクリスはようやく現場に到着する。 そこには未来と、異常な程の高温を発するシンフォギアを纏いながら茫然と両膝をついて立ち尽くしている響がいた。
「この熱気は……!」
「響!!」
「律さん! 響が……響が!」
「落ち着け! クリス、未来を!」
「あ、ああ」
必死になる未来をクリスに任せて連れて行かせ、律は真上に飛び上がると側のビルの屋上にあった給水タンクに向けて剣を向け一閃で斬り裂き。 続けて足場の留め具を切って屋上から落とし、給水タンクが響に向かって落下。
「翼!」
「はっ!」
続いて到着した翼が地上から飛び上がり、真ん中から真っ二つに斬り裂くと中から水が出てきて地上にいた響に降り注いだ。 水は見る間に蒸発して湯気となり、まさしく焼け石に水のような状態だった。
「ッ……! 熱が下がらない!」
「ダメ元で調律する! とにかくシンフォギアの機能を停止させる!」
調律を始めるため律は響の胸元に左手を当てる。 しかし、今の状態の響を触れるという事は、
「ぐあああぁぁ!!」
「律!!」
ジュウウと、肉が焼ける音が律の手の平から発せられる。 シンフォギアの装甲越しでもこの高温には耐えられるなかった。 しかし律は決して手を引こうとはせず、神経を集中させる。
すると、次第に熱は引いていき……熱が完全に引くと同時に響のシンフォギアは解除され、倒れようとした所を律が抱きとめた。
「ハァハァ……は、早く響を……」
「司令! 急いで救護班を!!」
『既に手配済みだ!』
律もシンフォギアを解除した。 響を抱きとめる律の左手は酷い火傷を負っていた。 もしシンフォギアを纏っていなかったらノイズを触れたようにこの左手は消炭になっていたかもしれない。
「全くお前はまた手を傷つけて! お前の手は歌を導き指揮する手だ、このような無茶をすればいずれ使い物にならなくなるぞ!!」
「は、はは……人の、友だちの命が救えるためならそれも本望かもしれないな」
「——ガウッ!」
「ぎゃああああぁぁ!!!」
脂汗を流しながら軽口を叩く律の左手を、出てきたリューツがペシっと前足ではたくと……律は絶叫をあげてのたうち回る。
「リューツもお怒りのようだな。 律、もっと自分を大切にするんだ。 立花もそうだが、傷ついて心配しない者はいないんだ」
「こ、この状態での肉体言語は……やめてください……」
翼はリューツを抱き抱え自分の気持ちも交えながらリューツの気持ちを代弁する。
◆ ◆ ◆
同日——
律の部屋……外では大変な事が起きている時、居間にあるソファーに置かれていたアンティークドールがパチリと、息を吹き返すように目を覚ました。
「……あ、あれ……? 私は……」
口から発せられたのは少女の声。 人形は俯いていた体勢からカタカタと人形特有の音を立てながら身体と顔を起こし、キョロキョロと部屋を見回す。
「……確か……絶唱を歌って……それから……」
額に手を当て意識が失う前の記憶を思い返しながら、人形はまるで本物の人間のようや困惑した表情で辺りを見回してから小首を傾げ、
「ここ、どこ?」