戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー   作:にこにこみ

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ちょっと短めです。


33話 人形

 

仮設本部である潜水艦へと搬送された響と律。 律の調律を行なって火傷をした左手の治療はすぐに終わったが、響は依然手術室の中だった。

 

治療室から出た律は少し歩いていると……手術室からすぐ近くのベンチで懇願するように両手を握りしめながら口元に当てて俯きながら座っている未来がいた。

 

「……あ、律さん……」

 

「響はまだ?」

 

「……はい」

 

響はまだ手術中と聞き、律は未来の隣に座る。 未来は隣に座る律の左手に視線を向ける。 隙間なく白い包帯でグルグル巻きにされており見るからに痛々しかった。

 

「律さんも、左手は大丈夫でしたか?」

 

「ああ。 皮膚が少しばかり焼け爛れただけだ。 後遺症はない」

 

「それは、あまり大丈夫とは言えないような……」

 

「ウゥ……」

 

問題ないと左手を軽く振るう律。 だが未来とリューツはそれが空元気に見えた。

 

だが、それよりも律は調と切歌の方が心配だった。 なんでもLiNKERを過剰投与して適合係数を無理に上げての絶唱を試みたらしい。 LiNKERは奏を通して話しは聞いていたため、どれほど危険な行為か怒りを覚える反面、2人が無事かどうか心配で心配で仕方なかった。

 

そんな律の心労で身体が堪えたのかふらつきながら

 

「あーでもダメ。 ついでに貧血で今にも倒れそう」

 

「ええっ!? そ、そんな酷い怪我してましたっけ?」

 

「ついでに献血もされてな。 なんでも俺の血液型は140万人にいるかいないかの珍しい血液型なんだと。 だからもしもの時のために、戦いを始める前から頻繁に献血していたんだけど……戦い出してからその回数も増えたよ」

 

もしもの自体に備えてにしては大袈裟かもしれないが、絶唱や響の腕が喰われたような事態を考えると必要なのかもしれない。

 

と、そこへ駆け足で緒川が2人の元にやってきた。

 

「緒川さん。 響は……?」

 

「……当座の応急処置は、無事に終わりました」

 

「……無事……? 響は、無事なんですよね……?」

 

「……はい……」

 

こちらへと、緒川は2人を司令室まで案内する。 司令室に入ると、そこには弦十郎とクリスがいた。 2人の表情から見るに、とても深刻な状況のようだ。

 

「君たち……特に未来君には、知っておいてもらいたいことがある」

 

「——ぁ……!」

 

メインモニターに表示されたのは1枚のカルテ。 当然、響のものである。 胸を中心に赤く表示された聖遺物の侵食の状態が写し出されている。 身体に根を張るようにかなり人体に侵食していた。

 

「くそったれが……!」

 

自分がいながらこんな事になってしまった苛立ちで、クリスは悪態をつきながら近くの椅子に蹴りをいれ八つ当たりする。

 

「やれやれ。 あたしの不手際がここで巡ってくるとはな……」

 

「誰のせいでもありませんよ。 あまり自分を責めないでください」

 

故意ではないとはいえ響の胸に“ガングニール”を埋め込んでしまった奏は責任を感じてしまう。

 

「胸に埋まった聖遺物の欠片が、響君の体を蝕んでいる。 これ以上の進行は、彼女を彼女でなくしてしまうだろう……」

 

「——つまり、今後響が戦わなければ、これ以上の進行はないのですね?」

 

「響君にとって、親友の君こそが最も大切な日常……君の側で、穏やかな時間を過ごす事だけが、ガングニールの侵食を抑制できると考えている」

 

「私が……響を……」

 

「うむ……響君を……守って欲しい……」

 

「………………」

 

律も当然守ってあげたいが、既に自身は日常とは遠く離れた裏の人間……側にいてもノイズ等の事件が起こればそこに向かい、響から離れなければならない。 それでは到底、響を侵食から守る事は出来ない。

 

「それと律くん、これを」

 

話が一区切りした所で、緒川が一つの書類を渡してきた。それは、以前に律が《浜崎病院》で見つけたアンプルの調査結果だった。

 

「これは……」

 

「前に浜崎病院で律くんが見つけたアンプルを調べた結果です。 どうやら入っていた薬品は装者の聖遺物へと適合係数を下げる作用があるそうです。……いわば“アンチLiNKER”とでも言うべきものです」

 

「……これがあの時に散布されていて、それで響たちのギアの適合係数が低下していたという訳ですか」

 

「ええ、対策が必要になりますが……今、二課にそれほどの技術者は……」

 

そもそも二課でLiNKERを作ったのは櫻井 了子……つまりフィーネである。 彼女ほどの技術者がそう見つかる訳もなく、対策らしい対策は講じられないだろう。

 

「警戒する以外、対策はないと言うことですか……まあ、その時になったら俺がフォローしますよ。 どうせ効きませんし」

 

「情けない話しですが、どうかよろしくお願いします」

 

と、ふとそこで律は先の戦闘であることを思い出し、弦十郎に質問をする。

 

「……司令。 ひとつお聞きしたいことが」

 

「ん? なんだ?」

 

「——《ギャラルホルン》とは、なんですか?」

 

すると、弦十郎は驚いたように目を見開き……腕を組んで目を閉じ考え込み出した。 答えないようにも見えたため、律はさらに質問を続ける。

 

「響が襲撃にあった際、俺とクリスを足止めしたローブの人物がそう言っていました。 それが必要だと、何か知っていることがあれば教えてくれませんか?」

 

「…………今はまだ言えない」

 

「言えないと言うことは……知ってるんだな? その《ギャラルホルン》ってのがなんなのか」

 

「………………」

 

答える事は出来ない、そう沈黙で返答する弦十郎。 響がこの状態で追及しては手術の邪魔になりかねない……今は抑え、律は無理矢理にでも連れていかなければ離れようとはしないであろう未来を連れ病院を後にした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「たっだいまー」

 

「ガウー」

 

未来を寮に送りクリスと買い出しをしてから帰路についた。 クリスと別れて自宅に入り荷物を置いて一息ついていると、

 

「ふぅ………………ん?」

 

ふと視界に妙なものが映る。 居間の床にあの人形がうつ伏せで倒れていたのだ。

 

「ガウ?」

 

「あれ? ここに置いておいたのか?」

 

「………………」

 

朝出た時にはちゃんと居間のソファーの上に置いてあった。 大きな地震もなく、何かの弾みで落ちるような位置にもなかったはずなのだが。

 

「………………」

 

「………………」

 

人形を持ち上げ、顔を自分の方に向ける。 どこも変化はないがどことなく表情というか、前より生気を感じるような顔をしている。

 

(ジーーー……)

 

(……………)

 

(ジロジロ……)

 

(ダラダラ……)

 

(ジーーーーーー……)

 

(ダラダラダラダラ……)

 

目を細めたり色んな方向から見て違和感がないかジーッと見つめ続ける律。 対して人形は汗腺が無いにも関わらず表情を変えないまま汗をかいているように見えた。

 

「……ご飯にするか」

 

気のせいかと目を閉じ、人形をソファーの上に置くと夕食の支度をするため台所に向かった。

 

(ホッ………)

 

律が居なくなるのを確認すると、人形はホッと息を吐いて胸を撫で下ろした。 が、

 

(ジーーー)

 

ふと視線を感じ、横を向くと……お座りしていたリューツが獲物を睨んでいるかのような視線を人形に向けていた。

 

「…………(フイッ)」

 

「——ガブ」

 

「ギャァアアアア!!」

 

たまらず視線を逸らすとリューツが人形の頭にかぶりつき、人形は絶叫を上げてのたうち回る。

 

「わたしを食べても美味しくないよ! お腹壊すよ! 絶対お腹壊すんだからね!? どうなっても知らないよ!? お腹開いて化けて出てやるんだから!!」

 

「いや食べないから」

 

叫び声を聞きつけて戻ってきた律は人形を抱き上げ助けながらそう言った。

 

しばらくして人形は落ち着き、簡単な3分飯を用意するためケトルの電源を入れてから事情を聞くため居間で机を1人と1体と1匹で囲んだ。

 

「まさかあの人形が動き出して喋るとはな。 どうなってるんだ?」

 

「さ、さあ?」

 

「自分の事なのに分からないのか?」

 

「わたしだって目が覚めたのついさっきですし。 なんでこんな身体になっちゃったのかこっちが聞きたいくらいなんです」

 

どうやら元は人間で、どういった経緯で今のような姿になってしまったようだ。

 

「名前は分かるか? ちなみに俺は律だ、芡咲 律。 こっちはリューツ」

 

「ガウ」

 

「それなら覚えています。 わたしはセレナ、セレナ…………あれ?」

 

(セレナ?)

 

人形……セレナは自分の名前を言おうとすると途中ど言葉を詰まらせる。 律はそんなセレナを不審に思うより、その名前は以前に調と切歌に対して咄嗟に名乗った名前だった事を不思議に思う。

 

「……どうしよう……分かんない。 それに、どこかの場所で……歌って……誰かを……」

 

「無理に思い出さなくてもいい。 時間はまだある。 セレナについてはこっちのツテでそれとなく調べてみるから、今はゆっくりするといい」

 

「うーん、そうですね。 このままなんでも仕方がないですし、なんだか頭を使ったらお腹が空いてきちゃいました」

 

「えっ」

 

「え?」

 

お湯をカップ麺に注ごうとした時にセレナも食べる聞き、律は思わず聞き返してしまう。

 

「……食べれるの? その身体で?」

 

「……とりあえず食べられるのなら食べたいです」

 

とにかく食べたいという事なのでカップ麺を2つ用意しながら律はリューツとじゃれるセレナに——遊んでいると言うより虎が人を襲っている感じである——視線を向ける。

 

(セレナ……俺の失われた過去に、関係があるのか?)

 

人間の意識が入った人形がいきなり自宅に置かれるなど普通にあり得ない。 恐らくは何者かの陰謀や策略があるのだろう……だが、今はとにかくお腹を満たすためにカップ麺をセレナの元に持っていった。

 

「おおぉ……! すごいご馳走だぁ!! さては君、プロの料理人!?」

 

「いや、これただのカップ麺だから」

 

「……かぷめぇん?」

 

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