戦姫絶唱シンフォギア ーNoisy Glowー 作:にこにこみ
「《神獣鏡》をギアとして人の身に纏わせたのですね」
「マム! まだ寝てなきゃ……!」
「あれは封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力……! あなたの差金ですね、ドクター……!」
「ふん、使い時に使ったまでの事ですよ」
ナスターシャは一言も相談もなく勝手に《神獣鏡》のギアを使用したウェルを睨む。
ウェルは《神獣鏡》のギアペンダントを差し出した時、手に取ろうとした時の未来の決心した眼を思い出していた。
「マリアが連れてきたあの娘は融合症例第一号の級友らしいじゃないですか」
「リディアンに通う生徒はシンフォギアへの適合力が見込まれた装者候補たち……つまり、あなたのLiNKERによってあの子は何も判らぬまま無理やりに——」
「ん・ん・ん~、ちぉょっと違うかな」
ウェルは小馬鹿にするようにナスターシャの言葉を否定する。
「LiNKER使ってほいほいシンフォギアに適合出来れば誰も苦労はしませんよ。 装者量産し放題です」
「なら……どうやってあの子を!」
「——“愛”、ですよ」
「何故そこで“愛”!?」
とても科学者としても今までの奇行を繰り返して来た彼自身としても、そのような非科学的な回答にさしもナスターシャも思わず動揺してしまう。
「LiNKERがこれ以上、級友を戦わせたくないと願う思いを《神獣鏡》に繋げてくれたのですよ! やばい位に麗しいじゃありませんか!」
不確かであろうともこうして証明し、“愛”という感情が未来をあそこに立たせた。 ウェルにとってはそれで十分なのだろう。
「ま。 どうやら、それだけでも無かった様ですがね」
「それは一体……」
「見ていれば分かりますよ」
「ウオオオオオオオオオオォォォーーーッ!」
論より証拠というように、ウェルはモニターを差し出し。 そして、未来は獣のように咆哮する。
「くっ! 未来……!」
「小日向がっ!」
「何で……そんな格好してるんだよ……」
「あの装者はLiNKERで無理やりに仕立てられた消耗品……私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい……」
「チッ! あの博士に最悪な形で利用されてしまったか!」
未来の変わり果てた姿、調の説明を聞いて律は思わず悪態を吐く。
「行方不明となっていた小日向未来の無事を確認……ですが——」
「無事だとッ!! あれを見て無事だと言うのか!? だったらあたしたちはあのバカに何て説明すればいいんだよ!」
通信で本部に報告する翼。 その内容を思わずクリスは異議を唱える。
「《神獣鏡》……!! まさかこんな所で会うことになるとはな……」
「奏……」
肩を振るわせながら奏は怒りを抑えようとしていた。 5年前、奏の両親が死ぬきっかけになったのはあの《神獣鏡》を探索していたから。 後の調査でフィーネによるものと判断されあの聖遺物は狙われただけであるが……それで納得できるほど奏は落ち着いていられなかった。
律は溜息をつきながらも周囲を、翼からクリス、切歌から未来、そして腕の中にいる調を今一度確認する。
(くっ! もう完全に流れが滅茶苦茶だ! 未来を助けたい……だが、本質を見誤ればまた……!)
未来を救出すれば、律と響は安堵するだろう。 しかし、この状況を引き起こしたウェルの思惑を読めなければ……またスカイタワーの二の前になるのは必至だった。 ゆえに律は未来を助けようと行動に移せず手をこまねいていた。
そんな律の葛藤を無視するように鰐口のようなバイザーが閉まり、剣先が扇状の形をしている剣……斬首刀、いわゆる“エクセキューショナーズ”のような剣を構えながら未来が襲いかかってきた。
「「!!」」
「こういうのはあたしの仕事だ!」
先に走り出したのはクリス。 歌い出しながら両腕にボウガンを展開、未来は剣から紫色の光弾を発射し、クリスは跳躍して避けながらボウガンを構える。
「うおおおおっ!!」
【QUEEN’s INFERNO】
扇状に広がったエネルギー状の矢を撃ちまくる。 ひらりと軽やかに矢弾の雨を避けた未来は海に降り、海面をホバリングしながら移動する。
追撃するため未来を追うクリスが一度翼の背後に降り立ち、翼の視線が背後に向いた。
「隙あ——」
その一瞬を見逃さなかった切歌は踵を返して走り出そうとし、
「……りじゃないデスね」
一瞬で回り込んだ翼の刀によって止められた。
(すまない雪音……)
切歌を抑えながら翼は心の中で汚れ役を買って出ったクリスに謝罪する。
クリスはこの海域内にある艦艇を足場にして移動しながら未来に攻撃を続ける。 しかし、移動速度や方法の違い、距離もあり全く当たらなかった。
「イ・イ・子・は・ネンネしていなッ!!」
【BILLION MAIDEN】
効果が薄いと判断しボウガンから二門のガトリンに換装、先程の矢弾以上の弾数と弾速で未来に襲い掛かる。
急に変わった弾の速度に対応しきれないのか、光弾で反撃しながらも徐々に被弾していく。
「脳へのダイレクトフィードバックによって己が意思とは関係なくプログラムされたバトルパターンを実行! さすがは《神獣鏡》のシンフォギア! それを纏わせる僕のLiNKERも最高だ!」
「それでも偽りの意思ではあの装者たちには届かない……」
「ふん……」
否定されて頭に来たのか、ウェルは狂気の表情でナスターシャを見下ろす。
「……くっ……!」
「お兄ちゃん……」
仕方ないとはいえ、未来が攻撃を受け傷ついていくのを見ている事しかできない律。 何もできない自分に嫌気が刺し自然と腕に力が入り、その腕の中にいる調は心配そうに律を見上げる。
そして、再び律たちの乗る艦艇に戻ってきた2人。 クリスはミサイルポッドを展開させる。
【MEGA DEATH PARTY】
大量のミサイルを発射、さらにガトリングによる攻撃も行い。 飛び込んできた未来にガトリングで体勢を崩したところでミサイルが未来に降り注いだ。
倒したというのにクリスの気は晴れなかった。 未来を確保しようと手を伸ばし、
『女の子は優しく扱って下さいね。 乱暴にギアを引き剥がせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ』
「んな……!?」
未来のシンフォギアからウェルの声が聞こえてきた。 真偽は分からないが、クリスはこれ以上手が出せなくなってしまった。
迷っている隙に未来は起き上がると同時に剣を降り、クリスが離れたと同時に剣が広がった。
「避けろ、雪音!」
【閃光】
どうやら剣は扇子だったようで、1回転して展開した扇子から無数の光線を拡散させクリスはギリギリのところで避ける。
「まだそんやちょせぇのを!?」
驚く間も無く未来は脚部から鏡のようなものを円状に展開させる。
「と、不味い……」
「あ……」
律と調、クリスは未来の真正面に立っていた。 律は不味いと思い調を抱えて上空に退避しようとし……いつの間にかウィングが被弾していているのに気がつく。
「これはっ!?」
「チッ!」
律はウィングを確認する。 ウィングが高熱に晒されたように膨張していた。 どうやら最初の時の光弾が飛散して当たったようだが……それだけにしては大きな被害を受けていることに不審に思う。
その間に未来は歌い始めると、同時にエネルギーを鏡に収束していく。
「だったらぁぁぁぁ!!!」
クリスは未来の攻撃を受け切る構えをとり、未来は扇子をしまうと腰部のリボン状の装甲が展開、光り輝く菱型のリフレクターを展開させる。
「やめろクリス! まともに受けるな!!」
「リフレクターでぇーー!!」
【流星】
嫌な予感がしたが、止める暇もなく巨大な紫色の光線が発射された。 紫色の光線がリフレクターと衝突、拡散した光線は後方の艦艇に流れ爆発する。
「くっ!」
受けている隙に律は調を連れて跳び上がって横に退避する。 歌い続け出力が増しながら光線を放射し続ける。
「《イチイバル》のリフレクターは月をも穿つ一撃すらも偏光できる! そいつがどんな聖遺物から造られたシンフォギアか知らないが、今更どんなのぶっこまれたところで——って何で押されてんだ!?」
かの《カ・ディンギル》の荷電粒子砲の一撃を耐えた《イチイバル》のリフレクター……だが、クリスの自信に反して周囲のリフレクターは徐々に欠け、崩れ出している。
「クゥ……ッ! グッ!」
「無垢にして苛烈……魔を退ける輝く力の奔流……これが《神獣鏡》のシンフォギア」
「……退魔の閃光か……《イペタム》の魔喰らいと似かよった力か。 つまり、あの閃光は……!」
あの紫の光線が強力と言うわけではない、あの光は概念的にシンフォギアを無力化している。
「…………!? リフレクターが分解されていく……?!」
「逃げろクリス!!」
次々とリフレクターの数が減り、交差した両腕の装甲が膨張を始める。 このままでは直撃する……そう思った瞬間、クリスの目の前に壁が降りてきた。
「ぁっ!?」
「——ッ! 呆けないっ!」
間一髪の所で翼が救出し、上空から降り注ぐ剣の壁を下ろしながら逃げるが……退魔の光線の前には防ぐことは出来ず直撃を遅らせることしか出来ない。
光線は光としてならばかなり遅いが、それでも《アマノハバキリ》の移動速度を超えていた。
(横にかわせば減速は免れない……! その瞬間に巻き込まれる!)
防御不能の攻撃。 避けるしかないが左右に避ければ直撃してしまう……
(助けに……!)
調を置いて2人を助けに行こうとするが、まだその時なのかと迷ってしまいますたたらを踏んでしまう。
(ならっ!!)
律はこの場から動かずに2人を援護しようと決め、調を背後に移動させ剣を光線銃に換装する。
「
心を落ち着かせながら謳を歌い出し、徐々に出力を上げながら狙いを定め、
「
【
引き金を引き、赤い光線が放たれた。 赤い光線は紫の光線の横を直撃し、相殺とまでは行かずも減衰させる事ができた。
「今だ!」
「助太刀感謝!」
左右に避けられる速度になり、急いで翼は左に避け……数秒遅れて紫の光線が2人の側を通過した。
「あ、危っねえー……ギリギリじゃねえか」
「これが《神獣鏡》のシンフォギア……なんて厄介な」
(それにしても、今の歌……)
シンフォギアの歌は装者個人の心象に作られる。 未来の歌からは自分の非力さと、そして響への想いが込められていた。
操られているのかもしれない、けど……シンフォギアを求めたのは紛れもなく未来の意志だろう。
そして翼たちは逃げるためにかなり走らされ、艦艇の端まで来てしまった。
そして、未来は鏡を収納すると顔を横に向け……律に、調に視線を向けた。 未来はもう一度扇子を取り出すと調に突きつける。
「…………」
「未来……!」
「やめるデス! 調は仲間! あたしたちの大切な——」
『仲間と言いきれますか? 僕たちを裏切り、敵に利する彼女を……』
「この声は……!」
『——月読 調を仲間と言いきれるのですか!?』
「っ!!」
(切歌……)
どうやら調は彼らの作戦から外れて動いていたようで、切歌は組織の仲間か親友か……どちらを優先するか迷っていた。
「耳を貸すな切歌!」
「違う……あたしが調にちゃんと打ち明けられなかったんデス……! あたしが調を裏切ってしまったんデス……」
「キリちゃん!」
迷う切歌を前に、調は律の腕から出て一歩前に出る。
「ドクターのやり方では弱い人達を救えない!」
「…………」
『そうかも知れません。 何せ我々はかかる災厄に対してあまりにも無力ですからね』
「「ッ!」」
「…………」
否定したり、肯定したり……相変わらず人を見下すような物言いに律は苛立ちを覚える。
「シンフォギアと聖遺物に関する研究データはこちらだけの占有物ではありませんから……アドバンテージがあるとすればせいぜいこの《ソロモンの杖》……!」
すると、開かれたエアキャリアのドアの前にいたウェルは手にもつ《ソロモンの杖》を構え、放たれた緑色の光線を艦艇全体に薙ぎ払いノイズが再投入される。
再びパニックに陥り、阿鼻叫喚の悲鳴と爆音が飛び交っていく。
「ノイズを放ったか!」
「くそったれがぁぁ!」
悪態吐きながらクリスは走り出しノイズの殲滅に入る。
(《ソロモンの杖》がある限りは……《バビロニアの宝物庫》は開きっぱなしってことか……!)
歯を食いしばりながらも飛び上がり、回転しながらガトリンとミサイルを全方位に発射、領域内のノイズを殲滅していく。
「やっぱり、ウェル博士が原因……《ソロモンの杖》や《ネフィリム》が彼の絶対的な自身の源か……なら!!」
《ソロモンの杖》の執着。《ネフィリム》が討伐された時の異様な狼狽ぶりを見てようやく心が決まった律。 頭上を見上げるとエアキャリアが上空にある事を確認し、ウィングを広げ一気に急上昇する。
「おっと……」
飛んできた律の目的が今いるエアキャリアと気付いたウェルはコンソールを操作し……律の行手を未来が塞いだ。
「…………」
「未来……!」
既にバイザーは降り表情が見えない。 未来とはいえど顔が見えない方が幾分やりやすい……訳もなかった。 どれだけ自分を正当化しても罪悪感が止めなく出てくる。
だが、それでもやるしかなく律は剣を構える。
「《クラウソラス》なら喰らって機能を停止させる事ができる。 少々荒療治になるけど容赦はしないから——悪く思え!!」
「……………」
お互いに守りたい者、救いたい者は同じはずにも関わらず相いれず、対立する2人……望まれない戦いが始まった。
「未来ちゃん。 律くんと接触……交戦を開始しました!」
「律さん、未来……」
「ノイズの殲滅はクリスくんに任せろ! 翼は《イガリマ》の装者を制圧次第救護活動に参加! 俺たちは人命の救助にまわるんだ!」
響はギュッと手を握り締め任せる事しかできなかった。 弦十郎は潜水艦を浮上させ、今できる最善の指示を出し続ける事しか出来なかった。
(《神獣鏡》は鏡を利用した中遠距離の武装……泣き所は——接近戦!)
光線の網目をかいくぐり、罪悪感を残しながらも一太刀で決めようと一気に懐に飛び込み、
——ガキンッ!!
「!?」
その一太刀は、いつの間にか両手に展開されていた2つの扇子によって防がれた。
「くっ!?」
驚く間も無く背後から鏡から反射した光線が襲い掛かる。 すぐ様落ちる様に離れると光線は未来に迫ったが……扇子もまた鏡であったためさらに反射され、再び襲って来た光線は右肩の装甲を掠めた。
それだけで装甲は崩壊し、他の部位に侵食する前に装甲をパージして被害を最小限まで抑えた。
「そういや……未来も家に来たらバトル物のゲームやら漫画やら見せてやってたっけなぁ〜……」
未来はもちろん、響とも色々遊んだ結果が目の前にいる未来となると複雑な気分になる。
(どうすれば……いや、そうだ!)
八方塞がりになりかけた時、ある事をひらめき。 律は呼吸を整え息を吸い、
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」
ノイズだらけの歌を歌い出した。 讃美歌に似た旋律が戦闘地域内に広がる。 その歌の波動が広がり、シンフォギア装者に影響が出始める。
「これは……!」
「あいつ、歌いやがったのか!」
「……デス? ギアが!?」
翼とクリスは律が歌い始めたのに気づくと戦いの手を止め、切歌はギアの適合係数が落ちている事に気がつく。
「これは……装者たちの適合係数が下がっていっているだと?」
「適合者の適合係数を下げる歌……《クラウソラス》の装者である彼だけが歌える争いを収める
シンフォギアの戦いを収めたのがノイズによるものなど……皮肉以外の何物でもなくナスターシャは無言で首を振った。
しかし、この状況を変える一手であり。 このまま行けばシンフォギアを強制解除させ無傷で未来を確保することができる。
「ですが……させませんよぉ!!」
「!? 何を!?」
ウェルは再びコンソールを操作する。 するとエアキャリアの側面が迫り出し、展開して数発のミサイルを律に向けて発射した。
「◼️◼️◼️——チッ!!」
上空から迫るミサイルに気付き、律は歌うのをやめミサイルを避ける。 すると発生していたノイズが消え、装者たちの適合係数は元に戻る。
「やはり、他の装者と違って戦いながら歌う事はできないようですね」
歌い出してから動かない律を不審に思ったウェルは科学者らしく仮定し、実証し、証明した。
未来は続けて円型の鏡を展開し光線を鏡に当てる。 すると乱反射し無数の光線が律に襲いかかる。
「ぐうっ!!」
時間が経つごとに線が増え続け、これでは近づく事もできず逃げるしかない。
そして、二課では未来の纏うシンフォギアについて解析結果が出ていた。
「未来ちゃんの纏うギアより発せられたエネルギー波は聖遺物由来の力を分解する特性が見られます!」
「それってつまり……シンフォギアでは防げないって事!?」
「この聖遺物殺しをどうやったら止められるのか……!」
相性最悪の相手にどうすればいいのか……そんな悩む暇もなく、モニターに映る律に光弾が着弾してしまう。
「律さん!」
「不味い!!」
徐々に追い込まれて行き、次第に逃げ場も狭まっていく。 そして……逃げ道を無くし行手を阻まれ足を止めてしまった。
「律!!」
「お兄ちゃん!!」
(避けられない!)
間髪入れずに未来から巨大な光線が放たれる。 どこを見ても逃げられる隙間もなく完全に包囲され、死を覚悟した時、
『——◼️◼️◼️◼️server Access?』
「———!!」
死と共に迫り来る紫色の光を前に突如として律の耳に機械音声が聞こえ……閃光が律に直撃した。
「律ーーーッ!!」
「お、お兄、ちゃん……」
「あ……あぁ………」
「お兄ぃ……くっ!」
《神獣鏡》の攻撃をまともに喰らっては生きてはいられない。 誰もが律の死を予感したその時、
——ビーーッ!! ビーーッ!!
二課艦内から激しいアラート音が鳴り響く。 オペレーターの2人はすぐさま手を動かし状況を確認する。
「な、なんだこれは……!」
「どうした? 状況報告を」
「作戦エリア内に強力なノイズ反応を検知!」
「ノイズ率急上昇! 400……450——500%突破しています! 同時にノイズが広範囲に広がっていきます!」
「な、なにこれ……《クラウソラス》のアウフヴァッヘン波形の位相が逆転——反転しています!」
「まさか……!?」
「ウゥゥ……」
(——!! この感じ、律……)
ここまでのノイズ率を叩き出せる存在は1人しかいない。 だがそれでも過去にここまで値を出した事は一度なく、加えて怯えて伏せているリューツを見て弦十郎に嫌な予感が走る。
そして、連れてこられて律の部屋にいたセレナも嫌な予感を感じ、真上を見上げる。
『———』
同時刻、ここより遥か南にある年中氷に覆われた湖の底から……何が紅く蠢いた。
「………………」
誰もが固唾を飲む中次第に煙が晴れると……そこには1人のシンフォギア装者が立っていた。
全体の色が黒から赤に。 腕部、脚部、胸部といった部位の装甲が一回り厚くなっており、特に肩部の装甲が左右に大きく飛び出ている。加えて左右の肩部に円型の装置があり、そこからほぼ無尽蔵に高濃度の黄色いノイズが放出されていた。
頭部にはヘッドギアと目元を隠す赤いバイザーに加えてU字型の角が屹立していた。 胸元のギアペンダントは、濃く赤くなっていた。
さらに背部には円錐型の装置が搭載されている。 装置の隙間からノイズが黄色い粒子として静かに放出され続けている。
「な、何だあれは……?」
「あれは、律……なのか?」
変化した姿に疑問を抱く中、律は意識を無くしたように無表情のまま、動くことも言葉を発すこともなく呆然と立ち尽くしている。
「………………」
「!! マズイ、律! 避けるんだ!!」
無慈悲にも未来から光線が放たれ、棒立ちしていた赤いシンフォギアを身に纏う律に直撃する。
もう一度誰もが息を呑む。 そして海風に流されて煙が晴れると、
「………………」
表情を一切変えず、シンフォギアも全くの無傷の律が立っていた。 その佇まいに誰もが驚愕する。
「う、嘘だろ……」
「《神獣鏡》の攻撃をノーガードで耐えただとぉ!?」
「なんて防御力……いえ、これはもはや硬さどうこうでは説明できません!!」
「これは……どうなっているんだ……」
「デ……デ、デ……」
「お、お兄、ちゃん……?」
先程まで必死になってない逃げていた紫色の光線を物ともしない律の姿に誰もが驚きを隠せず。 切歌も“デス”もまともに言えず、調も信じられない様子を見せる。
「……………」
「律? おい、律!」
「返事をしろ、律!」
様子がおかしいと感じクリスと翼は声をかけるも律は無視、いや全く声が届いていなかった。
すると突然、シンフォギアの両肩の円型の装置が分離、左右を向き両腕の装甲が変形、腕部同一型の大砲となる。 両脚部も装甲が左右に迫り出し、そこから無数の赤い結晶体を覗かせる。
「何っ?」
「まさか……!?」
その答えはすぐに出た。 敵味方関係なく律は出鱈目に砲撃を始めた。
円型の装置から黄色い極太の光線が薙ぎ払い、両腕の大砲からはエネルギー状の黄色い砲弾が放たれ、脚部の結晶体からは無数の細長い赤い光線が縦横無尽に放射される。
「んなっ!?」
「炭素も残らず一瞬で風化した!?」
「なんて破壊力!!」
主にノイズに直撃しており、ノイズは炭素の痕跡も残さず消滅している。 しかし、流れ弾が海面に直撃し海を荒らし。 少なからず艦隊にも被害が出ている。
そして、その攻撃に未来のシンフォギアにプログラムされた命令が働き……未来は攻撃を繰り出し、2人は再び戦い出す。
「律くん! 再び未来ちゃんと交戦を開始しました!」
「くっ! 連絡は取れないのか!?」
「ダメです! この高ノイズ下では律くんは愚か他の装者とも連絡は取れません!」
「一体、何が起こってる……?」
「律さん、未来……」
状況が悪化の一途を辿っている。 自分にできることは本当にないのか……考えて考えて……そして響は決心する。
「——師匠! お願いがあります!」
◆ ◆ ◆
ところ変わり、某国のホテル。 その一室に律たちの様子を見ている2人の人影があった。
「どうやらかの
「まだ“異形”が出現していないとはいえ、ハラハラさせる男よなぁ」
「私たちにできるのはこの物語を台本通りに進行させる、それだけのこと。 失敗すれば……」
「分かっておる。 しかし、数奇な運命に生きるおとこよのぉ……“芡咲 律”や」
◆ ◆ ◆
場所は戻り戦闘空域を飛ぶエアキャリア……律の無差別の攻撃を必死に避けるマリアの荒い運転の中ウェルは興味深そうに、ナスターシャは表情を変えずに律を見ていた。
「いやぁ、中々面白くなって来たじゃあーないですかぁ。 ふむ、しかし妙ですねぇ。 あれだけの好き放題ばら撒いているにも関わらずガス欠の気配もありませんねー。 となると、原因は恐らく……」
ウェルは律が映る観測結果のモニターの画像を操作し、2つの円型の装置と背部の円錐型の装置を拡大した。
「近接格闘型の黒いシンフォギアとは打って変わっての遠距離砲撃型……それに外部のノイズを狩って行う配給ではなく、自らノイズを生み出している。 この3つの装置はノイズを発生させるジェネレーターと言った所でしょうか。 そうですねぇ……《ノイズドライヴ》——Nドライヴと命名しておきましょう」
「勝手に命名するのはさておき……それがあの無尽蔵とも言える無差別攻撃の源、ですか……」
2人の研究者は律の姿を見てそう考察し、所変わって同じように情報を集めている二課内では慌ただしく計器が鳴り響いていた。
「ノイズ率、以前500%圏内維持。 しかしノイズ発生領域は以前拡大! 既に近隣島々に通信障害の影響が! 日本列島までの到達予想時刻およそ残り40分! このままでは通信障害はもちろん、交通機関や医療機器にも甚大な被害が発生すると予想されます!!」
「律君から発せられるシンフォギアのエネルギー波形の解析しました! モニターに表示します!」
《code : Ipetam》
「《イペタム》だとぉ!?」
メインモニターに表示された単語を見て弦十郎は声を上げる。 《イペタム》は《クラウソラス》の副次的に搭載された聖遺物……それがどういう訳か《クラウソラス》を抑えて高い反応を出しながら表に顕現している。
さらに立て続けに病のように広がるノイズがタイムリミットを表しているようで、弦十郎たちはより一層焦っていた。
「この状況を打開するには、やはり……」
「——律さーーーんッ!! 未来ーーーッ!!」
「頼んだぞ、響くん……」
「響……」
浮上した二課の上に響は立っていた。 見上げる先に律と未来がいるが、2人とも響は眼中にない様子だった。
「やっぱり聞こえないか、な……でも! 届かせる! この声を、この思いを、この歌を!! 2人に!!!」
響は胸に手を当て、聖詠を口にする。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
シンフォギアを身に纏い、脚部のジャッキを利用して空中に飛び上がる。
「響ちゃん、交戦を開始!」
「カウントダウン開始します!」
残された時間は2分40秒……その間に止めることが出来なければ響の命は、いや……恐らくは高い確率で死ぬことになるだろ。
だが例え死ぬかもしれないのだとしても、響は止まらない。 響は真下から律の背後をとり、飛びかかって抱きつく。
「律——ぐううっ!!!」
抱きつくと今までも強く感じらたノイズがより強く感じられるようになり、ノイズが痛みとなってビリビリと響の身体に電撃のように流れていく。
(な、なんて強いノイズ!! でも……!)
「だああああっ!!」
抱きつきながら後頭部を殴って離脱。 それにより律の気は響に逸れ、砲撃は響に集中して向かっていく。
「ひいぃぃぃ!!!」
情け容赦のない砲撃に響も情けない声を上げながら逃げる。
(とりあえず、これで……!)
砲撃から逃げ惑いながら次は未来に向かっていく。 その最中に響の身体から尋常ではないほどの熱が放出される。
「(身体が、血が沸騰する……! でも! )未来ーーッ!!」
「……………」
未来に向かって飛んでいく響。 その背を律は光の宿らぬ視線を、同じような眼を向ける未来に向け。 右腕の装甲が変形、腕部同一型の大砲となる。
『オオオオオオッッ!!!』
雄叫びと共に右腕の大砲の砲口内に周囲に拡散していたノイズが全て収束していく。 それと同時に両肩に装着していた2つの円型の装置が分離、取り囲むように律の周りを円形に周回する。
そして2つの円型のジェネレーターと背のドライヴから大量のノイズが放出される。
「な、なんというノイズだ! ここまで離れているというのにこちらのシンフォギアが完全に抑え込まれている!!」
「ア、アレはまずいデェス!!」
「ドクター! 《神獣鏡》でなければフロンティアへの道は……!?」
「問題ありません……さあこじ開けなさい!! その一撃で、フロンティアに至る道を!!」
問題ないと豪語しながらウェルは狂乱したように声を上げる。
そして、二課では藤尭は不安そうに弦十郎に視線を向ける。
「ここまで来て今更ですが、上手くいくでしょうか?」
「……信じるしかあるまい」
腕を組みながら答え、弦十郎は響を送り出す前に交わされた会話を思い返す。
「何!? 律くんを利用して未来くんのギアを解除する……だと!?」
「はいッ!! 今の律さんのシンフォギアが《イペタム》なら……可能かもしれません!!」
「おい響、気持ちは分かるがあまり無茶を言うな。 大体誰がそれをやるってんだ?」
「私がやりますッ!やってみせますッ!」
「だが、君の体は……」
自分のことは、自分がよく分かっている。 だがそれでもと、響は俯きながら拳を握りしめる。
「もう、後悔したくないんです……私は昔から助けられてきました。 律さんは自分が傷つくのも恐れずに助けてくれて、未来はいつだって私を支えてくれた……私は優しく手を差し伸べる手を握ってただただ甘えていただけでした。 そんな2人を、今度は私が救いたいんです!! ですから、行かせてください!!」
「……分かった!」
「旦那!?」
「責任は俺が取る。 だから、死ぬな。 決して死ぬんじゃないぞ!」
「はいッ!! 死んでも生きて帰ってみせます!」
「響ちゃん、それ矛盾してるわよ……」
自信満々に言う響に友里は苦笑いする。
「し、しかし! 仮に成功したとしても当の律くんの方は何も解決しませんよ!?」
「その時は、その時になったら考えます!!」
「えええっ!?」
ここまで言っておいてノープランだった事に藤尭は驚く。 逆に予想通りだったのか友里はクスクスと笑う。
「そこは、たとえ微力でも私たちが響ちゃんを支えることができればきっと……」
「あー、もう! やりますよ、やってみせます!」
「しょうがねえなぁ……どこまでも付き合ってやるよ」
「よし、タイムリミットは?」
「過去のデータと現在の融合深度から計測すると、響さんの活動限界は……2分40秒になります!」
「充分です!」
「勝算はあるのか?」
「そんなもの、動いてから考えます!!」
「……むぅ……!?」
「やれやれ、無鉄砲なこった」
あまりの無鉄砲振りに弦十郎も面食らってしまい、響はニヤリと笑みを浮かべる。 放たれる光線と光弾、響は避けながら隙を伺い飛び込もうとした時、
「ぐっ……ぐぅッ!グッ!ウァァ……!」
進行が早まり響の身体のいたるところから聖遺物の結晶が隆起し始める。 それを見た未来は動揺し、脳裏にある場面が思い浮かぶ。
(正しいのか、悪いのか……けど——必要なんだ)
「——!? 違う! 私がしたいのはこんな事じゃない! こんな事じゃないのにぃぃーー!!」
(未来……!)
動揺し狼狽する未来。 その隙を狙い一気に距離を詰め、響は未来に抱きついた。 その頭上で、律が構える砲門にノイズが一点に収束していき、
「離して!」
「イヤだ!離さない!もう二度と離さない!」
『レッドガイア——』
「響ーーーッ!!」
「撃ってください——律さーーんッ!!」
【流星】
『イレイザーーーーッ!!!』
紅黒い高濃度ノイズの収束砲が発射。 さらに周回していたNドライヴから先に発射された砲撃を取り囲むように高濃度ノイズの光線が螺旋状に放射。
同時に放たれた未来の紫色の閃光と衝突し……それすらも一瞬で飲み込んで海面を貫いた。
「くっ! どうなった……響くんと未来くんは!?」
「現在確認中です!」
「………! これは……海中から高エネルギー反応を検知!」
律たちの無事を確認している最中に、砲撃が直撃した付近な突如として海中から眩い光の柱が昇る。
「当初の予定とだいぶ異なりましたが……まあ良しとしましょうか」
ウェルはそう呟き、エアキャリアは光が立ち昇る方向に向かっていく。
「封印は解除されました! さぁ、フロンティアの浮上です!」
光が終息すると……海中から石造りの遺跡のような巨大な建造物が浮上してきた。
「一体何が……」
切歌と交戦していた翼は突然の事態を把握できずにいると、意識を失った律が上空から落下しているのを発見する。
「律——」
——パァンッ!!
「なっ……!!」
いきなり背後から発砲音と共に背中を撃たれ、翼は倒れ伏す。 なんとか首だけを動かしてみると、
「ッ……!? 雪音……!?」
「——さよならだ」
そこにいたのは、銃を片手に持つクリスが翼に向かって銃口を向けおり。 クリスは無表情のまま謝罪するともう一度引き金を引き……乾いた音が鳴り響いた。